2009年6月XX日

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2011 年 7 月 22 日 恐竜時代にまで遡るコイやナマズの起源! 遺伝子分析で明らかになった淡水魚の多様化と地球史の密接な関連 概要 : 現生魚類の約 4 割は淡水魚で その主要なものは骨鰾類 ( こっぴょうるい ) と呼ばれるコイやナマズのなかまです 骨鰾類は 8000 近くもの多くの種を含み 南極大陸を除く世界中の淡水域に分布しますが なぜ海を隔てて遠く離れた大陸に このように多くの骨鰾類のなかまが生息するのか大きな謎とされてきました 今回 東京大学大気海洋研究所の西田睦教授と千葉県立中央博物館の宮正樹上席研究員らの研究グループが共同で行なった詳細な遺伝子解析により 1) 骨鰾類はかつて世界の大陸が一つ ( 巨大大陸パンゲア ) だった時代 ( 約 2 億 5 千万年前 ) に海水魚として起源し その後淡水環境に適応したこと ;2) 中生代初期 (2 億 5000 万 ~2 億年前 ) に起こった大陸の分断 ( ローラシア大陸とゴンドワナ大陸への分断 ) が骨鰾類の 4 大グループ ( コイ類 カラシン類 ナマズ類 デンキウナギ類 ) の分化と一致していること ;3) 中生代の中頃 (2 億 ~1 億年前 ) にかけてのさらなる大陸分断 ( 現在見られる大陸への分断 ) と 4 大グループ内の著しい多様化が一致していることが明らかになりました 今日見られる 8000 近い種の多様性は 大陸分断に伴い湿潤な沿岸部が拡大し 気候の温暖化と相まって 4 大グループ内の多様化が促進されたと推測されます 現生骨鰾類の多様性は 恐竜時代にまで遡る地球環境の大きな変化に伴い形成されてきたことになります この結果は電子ジャーナルである BMC Evolutionary Biology に 6 月 22 日付けで暫定版が 7 月 21 日に正式版が公表されました 背景 河や湖などの淡水は 海水と比べて表面積で地球の 0.8% 体積で 0.01% を占めるにすぎません しかしながら そこにはきわめて多様な魚類が生息し 種数で魚類全体の 43% にも達します ( 図 1) 今回の研究対象となった骨鰾類 ( こっぴょうるい ) は この多様な淡水魚のほぼ三分の二 ( 計 7943 種 ) を占める大きなグループで コイ目 ( コイ フナ ドジョウ ゼブラフィッシュなど ) カラシン目 ( テトラ と総称される南米 アフリカ産の熱帯魚で ピラニアもこのなかま ) ナマズ目 ( ナマズなど長い口ひげに特徴づけられる魚類 ) デンキウナギ目 ( 発電器官をもつ南米産魚類 ) の 4 つのグループから構成されます ( 図 1) これら 4 つのグループはそれぞれに特徴的な分布をもちますが 骨鰾類全体をみてみると南極大陸を除く世界の全大陸に分布することがわかります ( 図 1) 海を渡ることのできない淡水魚であるにもかかわらず なぜこのように世界の大陸に広く分布するようになったのか大きな謎とされてきました 1

図 1. 魚類 (= 条鰭類 ) における淡水魚の割合 ( 左 ) および淡水魚内における骨鰾類の種多様性と分布 ( 右 ) 私たちはこの問いに答えるために 骨鰾類 66 種を含む全 110 種の魚類のミトコンドリアゲノム全長配列を比較分析し 最尤法とベイズ法 ( 注 1) と呼ばれる計算法で骨鰾類の進化の歴史を推定しました 研究方法と結果 東京大学大気海洋研究所の西田睦 ( にしだむつみ ) 教授と千葉県立中央博物館の宮正樹 ( みやまさき ) 上席研究員らの研究グループは 骨鰾類 51 種のミトコンドリア DNA 全塩基配列 ( 約 16 500 塩基対 ) を独自に開発した手法で決定しました これらの配列を既知の配列 59 種に加え ( 計 110 種 ) 骨鰾類がどのような道筋を経て進化してきたのかを示す系統樹を構築しました 系統樹の構築にあたっては DNA の塩基置換モデルを考慮した最新の手法を用い 推定の確からしさを数理的に分析しました さらに 得られた系統樹上に現生種の生息場所をプロットし 祖先の生息場所を最尤法と呼ばれる手法により系統樹上に再構成しました また 魚類の化石から得られる情報を利用して ベイズ法と呼ばれる手法により系統樹に時間軸を入れました 分析の結果得られた系統樹は 8000 近くもの種を含む骨鰾類が単一の祖先種から進化してきたものであることを明瞭に示しました ( 図 2) また その祖先種の生息場所を推定した結果 海水から淡水への移行が明らかになりました ( 図 2) その時期は 海洋で貧酸素層が拡大して大絶滅が起こった古生代と中生代の境界 ( ペルム紀 三畳紀境界 ) に相当することから 祖先種は新たな生息域を求めて海水から淡水に侵入することによって大絶滅を逃れられたのだと考えられました 当時 地球には巨大大陸パンゲアしかなかったので 淡水域は沿岸のごく一部に限られていましたが 中生代 (2 億 5000 万年 ~6500 万年前 ) に入り大陸の分裂が始まりました この時期に骨鰾類の 4 大グループのすべての祖先種が系統樹上に登場しているため 三畳紀 (2 億 5000 万年 ~2 億年前 ) における大陸分裂 ( ローラシア大陸とゴンドワナ大陸 ) が これら祖先種の分化の引き金になったと推定されました その後 ジュラ紀から白亜紀前期 (2 億年 ~1 億年前 ) にかけて 4 大グループ内での著しい多様化 ( 現生の科に相当する ) が進みました この時期には ローラシア大陸とゴンドワナ大陸がさらに分裂を繰り返し 現在見られる大陸が形成されました 大陸の分裂が進むと湿潤な沿岸部が拡大すること さらには気候の温暖化が始まったことから 4 大グループ内の多様化はこのような外的要因によりさらに促進されたものと推測されました 研究の意義 これまで 骨鰾類のような世界中の大陸に分布し しかも全淡水魚の三分の二を占める巨大グループの進化の歴史を包括的に推定した研究はありませんでした 骨鰾類は化石の産出も限られているため DNA データによる進化史の再構成が待ち望まれていたわけですが 8000 近くもの種を含む 2

あまりにも大きな分類群であるため 小規模な DNA データでは信頼度の高い結果は得られませんでした 今回 110 種もの魚類のミトコンドリアゲノム全長配列から得られた大量の情報を 最新の数理的手法により解析した結果 骨鰾類が恐竜時代にまで遡る長い進化の歴史をもち しかもその多様化は地球環境の変化と密接な関連をもっていることが初めて明らかになりました 彼らが単一の祖先種から進化してきたにもかかわらず全世界の淡水域に分布するのは かつて地球上の大陸が一つ ( 巨大大陸パンゲア ) であった頃の名残なのです 化石による証拠はまだ得られていませんが 私たちにもなじみ深いコイやナマズの祖先は 恐竜の闊歩する水辺にすでに出現しており 当時淡水域で繁栄していたシーラカンスのなかまと一緒に泳いでいるという情景もあったに違いありません 用語解説 ( 注 1) 最尤法とベイズ法 : どちらも DNA の塩基置換に対して統計モデルを立て 与えられたデータ ( この場合は多数の種から得られた DNA の塩基配列 ) に基づき 尤度 ( 確率 ) を最大化するようなパラメータ ( この場合は系統樹のかたちや分岐年代 ) を 点 ( 最尤法 ) や 空間 ( ベイズ法 ) で推定しようとする数理的な方法 今回の研究では系統樹のかたちを最尤法で, 分岐年代をベイズ法で推定した 参考 代表的な骨鰾類の魚たち コイ目 : コイ, フナ, ドジョウ, タナゴ, ウグイ, オイカワ, ゼブラフィッシュ, モツゴなど ナマズ目 : ナマズ, ギギ, サカサナマズ, コリドラス, デンキナマズ, ロリカリアなど カラシン目 : ネオンテトラ, ピラニア, クラウンテトラ, ハチェットフィッシュなど デンキウナギ目 : デンキウナギなど 3

図 2. ベイズ法により求めた骨鰾類の時間軸入り系統樹 祖先種の生息域は現生種の生息場所に基づき最尤法により推定した 4

問い合わせ先 東京大学大気海洋研究所 西田睦教授 千葉県立中央博物館 宮正樹上席研究員 Tel: (04) 7136-6210 Tel: (043) 265-3274 mnishida aori.u-tokyo.ac.jp miya chiba-muse.or.jp 発表論文 Nakatani M., Miya M., Mabuchi K., Saitoh K. & Nishida M. 2011. Evolutionary history of Otophysi (Teleostei), a major clade of the modern freshwater fishes: Pangaean origin and Mesozoic radiation. BMC Evolutionary Biology, 11:177 (doi:10.1186/1471-2148-11-177) ( 和訳タイトル ) 骨鰾類の進化史 : 巨大大陸パンゲア起源と中生代における多様化 中谷将典 1 宮正樹 2 馬渕浩司 1 斎藤憲治 3 1 西田睦 1 東京大学大気海洋研究所 ; 2 千葉県立中央博物館 ; 3 中央水産研究所 骨鰾類の代表的な 3 グループの写真 左上 : コイ ( 画像番号 KPM-NR0055514A) 右上 : ビワコオオナマズ ( 画像番号 KPM-NR0054389A) 下 : ピラニアの仲間 ( 画像番号 KPM-NR0047298A) 以上 瀬能宏撮影 全て神奈川県立生命の星 地球博物館の画像資料データベースより [ 新聞等で使用される場合は 博物館の瀬能宏先生 ( senou nh.kanagawa-museum.jp) までお問い合わせ下さい ] 5