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2 / 8 ていた母親は 42.1% であるが 実際はそれを上回る 46.6% が仕事を辞めている それまでも働いておらず その後も仕事をしない という選択肢についても現実が希望を上回っており これは出産 子育ての前段階で不本意ながら離職してしまった人が含まれているものと考えられる 図表 1 第一子

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タイトル

Transcription:

日本 2018 年 7 月 24 日全 6 頁 あえて年収を抑える 559 万人 就業を阻む 壁 の取り壊しと年金制度改革が必要 経済調査部研究員山口茜 [ 要約 ] 平成 29 年就業構造基本調査のデータを基に 就業調整 ( 収入を一定の金額以下に抑えるために就業時間 日数を調整すること ) の実態についてまとめた 就業調整を行って いる人は 559 万人存在し 非正規雇用者全体の 26% に相当する 就業調整を行ってい るのは 1 既婚女性 2 高齢者 3 若年層である 既婚女性 (15~59 歳 ) では 330 万人が就業調整を行っており これは 同区分の非正 規雇用者の約半数に相当する 就業調整を行っている人の 92% が 50~99 万円 100 ~149 万円 に属しており 103 万円の壁 や 130 万円の壁 といった就業の壁をかなり意識していることが示唆される 60 歳以上では 112 万人が就業調整を行っている そのうち 60~64 歳は 50 万人であ る 特に 60~64 歳は 在職老齢年金制度により 一定の金額を超えると年金額が減額されることが就業を阻害している可能性が高い 15~24 歳 ( 男性 + 未婚女性 ) では 70 万人が就業調整を行っている 親の扶養に入る かどうかの 103 万円の壁 を意識している人が多いことが示唆される 人手不足が深刻な日本では 労働供給の伸びしろも限られてきている 限りある労働力 を最大限活用するためにも 社会保険加入の 130 万円の壁 や 在職老齢年金制度 などの 就業を阻害する各種制度の見直しを早急に行うことが求められる 株式会社大和総研丸の内オフィス 100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号グラントウキョウノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが その正確性 完全性を保証するものではありません また 記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります 大和総研の親会社である 大和総研ホールディングスと大和証券 は 大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です 内容に関する一切の権利は 大和総研にあります 無断での複製 転載 転送等はご遠慮ください

2 / 6 はじめに 5 年おきに行われる大規模調査である 平成 29 年就業構造基本調査が公表された 今回の調査から 収入を一定の金額以下に抑えるために就業時間や日数を調整しているかどうか ( 就業調整の有無 ) についての質問が新たに設けられた これまでも 各種制度などを背景に就業調整が行われている可能性が指摘されてきたが 実際に就業調整はどのくらい行われているのか 本稿では最新のデータを基に 就業調整の実態についてまとめた 時給が増えれば労働時間を減らす 現在 労働者の約 3 割がパートタイム労働者である パートタイム労働者の働き方を見てみると 特徴的な現象が起きていることが分かる 図表 1 は パートタイム労働者の時給と労働時間 そして 年収の推移を示したものであるが これを見ると パートタイム労働者の時給は上昇している一方 労働時間は減少している そして 年収は横ばい圏で推移している 人手不足が深刻な中 短い時間でも働けるようになっていることが一因として考えられる一方で 労働時間を調整することによって 年収を抑えているという可能性も考えられる この背景には 配偶者手当に関連する 103 万円の壁 や社会保険加入の基準額である 130 万円 の壁 (106 万円の壁 ) が存在する ( 図表 2 Appendix 参照 ) また 高齢者に関しては 年金制度が 就業調整の一因になっているだろう 現行の年金制度 ( 在職老齢年金制度 ) では 基本月額と総報酬 月額 ( つまり 年金 + 給料 ) がある一定の金額を超えると 年金の一部または全額が支給されなくな る ( 図表 3) 基準額は 60 歳 ~64 歳の場合は 28 万円 65 歳以上の場合は 46 万円である 1 こうした制度などを背景に 就業調整を行っている人はどれくらいいるのだろうか 図表 1: パートタイム労働者の時給 労働時間 年収 125 120 115 110 105 100 95 90 85 (1994 年 1 月 =100) 年収 労働時間 時給 1,151 円 / 時 119 万円 / 年 86 時間 / 月 80 94 96 98 00 02 04 06 08 10 12 14 16 18 ( 年 ) ( 注 )12ヶ月移動平均 ( 出所 ) 厚生労働省より大和総研作成 1 詳しくは 日本年金機構のウェブサイト参照 http://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/roureinenkin/zaishoku/20140421.html

3 / 6 図表 2: 就業を阻む 万円の壁 所得控除額 ( 万円 ) 多くの企業の配偶者手当支給基準額の壁 社会保険 加入の壁 残り続ける壁 38 0 配偶者控除 配偶者特別控除 拡 大 103 130 141 150 201 配偶者の給与収入 ( 万円 ) これまでの満額控除上限収入 引き上げ 2018 年からの満額控除上限収入 税制上の壁は緩和 ( 注 1) ここでは 夫婦のうち年収が高い方の年収による配偶者控除 配偶者特別控除の所得制限は考慮していない ( 注 2) 社会保険料加入の壁は 大企業 ( 従業員数 501 人以上 ) に勤め 一定の条件を満たす場合 105.6 万円となる ( 出所 ) 法令等より大和総研作成 図表 3: 在職老齢年金による調整後の厚生年金支給額 ( 万円 ) 給料 ( 総報酬月額ベース 万円 ) 給料 ( 総報酬月額ベース 万円 ) < 上段 : 月収 下段 : 年収 > < 上段 : 月収 下段 : 年収 > 65 歳未満 65 歳以上 5 10 20 30 40 50 5 10 20 30 40 50 60 120 240 360 480 600 60 120 240 360 480 600 支本給来月の額厚 ( 生万年円 ) 金 5 5 5 5 1.5 0 0 支本 5 5 5 5 5 5 0.5 10 10 10 9 4 0 0 給来月の 10 10 10 10 10 8 3 15 15 15 11.5 6.5 1.5 0 額厚 15 15 15 15 15 10.5 5.5 ( 生 20 20 19 14 9 4 0 万年 20 20 20 20 18 13 8 円金 25 24 21.5 16.5 11.5 6.5 0 ) 25 25 25 25 20.5 15.5 10.5 ( 注 ) 基礎年金部分は支給停止の対象とならない ( 出所 ) 日本年金機構より大和総研作成

4 / 6 就業調整を行っているのは 1 既婚女性 2 高齢者 3 若年層 平成 29 年就業構造基本調査によると 就業時間または就業日数の調整を行っている人は 559 万人存在する これは 非正規雇用者全体の 26% に相当する 就業調整を行っている人の属性を確認すると ( 図表 4) 最も多いのは 既婚女性(15~59 歳 ) である 330 万人が就業調整を行っており これは 同区分の非正規雇用者の約半数に相当する ( 図表 5) 前述した 103 万円の壁 や 130 万円の壁 といった就業の壁がダイレクトに影響する既婚女性で 就業調整が多く行われている 次に多いのは 60 歳以上の高齢者であり 112 万人が就業調整を行っている そのうち 60~ 64 歳は 50 万人である 特に 60~64 歳に関しては 前述したように在職老齢年金制度の基準額が低いことから この制度が原因で就業調整を行っている人が多いと考えられる 内閣府 (2018) 2 でも 60 代前半では 在職老齢年金制度によりフルタイム就業意欲が一定程度阻害され 代わりにパートタイム就業や非就業が選択されていることが指摘されている 高齢者の次に就業調整をしている人が多いのは 若年層である 15~24 歳 ( 男性 + 未婚女性 ) では 70 万人が就業調整を行っている 学生を中心に 親の扶養に入るかといった点が 就業調整の一因となっている可能性が考えられる 図表 4: 就業調整をしている非正規雇用者 (2017 年 ) 図表 5: 非正規雇用者のうち 就業調整を行っている人の割合 (2017 年 ) 112 万人 (20%) 559 万人 (100%) 70 万人 (13%) 19 万人 (3%) 27 万人 (5%) 60 歳以上 ( 男女計 ) 15~59 歳 ( 既婚女性 ) ( 未婚女性 ) 330 万人 (59%) ( 男性 ) 15~24 歳 ( 男性 + 未婚女性 ) ( 男性 ) ( 未婚女性 ) 15~59 歳 ( 既婚女性 ) 60 歳以上 ( 男女計 ) ( 出所 ) 総務省より大和総研作成 15~24 歳 ( 男性 + 未婚女性 ) ( 出所 ) 総務省より大和総研作成 0% 10% 20% 30% 40% 50% 2 内閣府 (2018) 60 代の労働需給はどのように決まるのか?- 公的年金 継続雇用制度等の影響を中心に - ( 政策課題分析シリーズ 16 2018 年 7 月 5 日 )

5 / 6 年収分布について 就業調整を行っている人とそうでない人を比べてみると ( 図表 6) 就業調整を行っている人では 50~99 万円 100~149 万円 といった 103 万円の壁 や 130 万円の壁 付近の年収割合が大きいことが分かる 特に 既婚女性 (15~59 歳 ) では 就業調整を行っている人の 92% が 50~99 万円 100~149 万円 に属する いかに就業の壁の影響が大きいかが分かる また 若年層に関しては 親の扶養に入るかどうかの 103 万円の壁 を意識している人が多いことが示唆される 図表 6: 非正規雇用者の年収分布 (2017 年 ) 就業調整を行っている人 就業調整を行っていない人 60 歳以上 ( 男女計 ) 15~59 歳 ( 既婚女性 ) ( 未婚女性 ) ( 男性 ) 15~24 歳 ( 男性 + 未婚女性 ) 15~24 歳 60 歳以上 ( 男女計 ) 15~59 歳 ( 既婚女性 ) ( 未婚女性 ) ( 男性 ) 15~24 歳 ( 男性 + 未婚女性 ) 0% 20% 40% 60% 80% 100% 0% 20% 40% 60% 80% 100% 50 万円未満 50~99 万円 100~149 万円 150~199 万円 200~249 万円 250~299 万円 300~399 万円 400~499 万円 500 万円以上 ( 出所 ) 総務省より大和総研作成 おわりに 現在 日本は深刻な人手不足に直面している また 6 月に成立した残業規制により 企業の人手不足感は一層強まるだろう 日本では これまで盛んに女性活躍が推進され 出産 育児期に女性の労働参加が落ち込むM 字カーブはなだらかになってきている しかし 同時に 労働供給の伸びしろを女性だけに求めることには限界が近づいている そうした状況下で 現在既に働いている人を最大限活用するという視点は非常に重要だ 今回公表された平成 29 年就業構造基本調査では 103 万円の壁 130 万円の壁 在職老齢年金制度 などの制度が 就業調整を行う人を多く生み出す要因となっていることが改めて確認された 就業の壁に関しては 税制上の配偶者控除の壁は 2018 年から緩和されるものの 企業の配偶者手当支給の壁や社会保険加入の壁などは依然として残り続ける こうした壁の問題にも 取り組んでいく必要がある また 在職老齢年金制度をはじめとする年金制度については 現在 見直しの議論が進んでいるが 高齢者の就業意欲を阻害しない制度設計が期待される 人手不足が深刻な中 制度により就業が阻害されてしまうのは非常にもったいないことだ 限りある労働力を最大限活用するためにも 就業を阻害する各種制度の見直しを早急に行うことが求められる

6 / 6 <Appendix> 就業を阻む 万円の壁 とは何か? 3 万円の壁 と言った時に よく耳にするのは 配偶者控除の壁 である 配偶者控除とは 配偶者の所得が一定の金額以下の場合 その配偶者を扶養する納税者の所得税や住民税の所得控除が受けられるというものである 配偶者控除はこれまでも 女性を中心としたパートタイム労働者が労働時間を抑制する要因になると問題視されてきており 実際に 2017 年度の税制改正において見直しの動きが見られた 具体的には 配偶者特別控除を拡充することで 満額の控除が適用される上限の年収が 150 万円に引き上げられることとなった ( 適用は 2018 年から ) これにより税制上の壁は引き上げられたが 課題は依然として存在する 一つ目は 企業の配偶者手当の壁の問題だ 日本では 多くの企業で 配偶者控除 の適用を条件に企業独自の配偶者手当 ( 家族手当 ) を支給している 4 しかし 2017 年度の税制改正で拡大されたのは 配偶者控除 ではなく 配偶者特別控除 であるため 企業の配偶者手当の支給基準が自動的に引き上げられることにはならない したがって 多くの企業の配偶者手当支給基準額である 103 万円の壁 は依然として残ることになる この壁を取り除くには 企業が自ら基準の見直しをするしかない 実際に 経団連は会員企業に配偶者手当を見直すよう呼びかけており 配偶者手当の見直しは大企業を中心に進んでいく動きも見られる しかしながら 見直しが広く行われるまでには相当な時間がかかると考えられ しばらくの間は 103 万円の壁 は残り続けると考えられる また 企業の配偶者手当の支給基準が見直された場合も 他の壁が立ちはだかる それは 二つ目の課題である 社会保険加入の壁だ 現行の制度では 配偶者の年収が 130 万円以上 ( 大企業勤務で一定の条件を満たす場合は 105.6 万円以上 5 ) になると 主たる生計者の社会保険の扶養扱いとなることができず 健康保険と年金の自身の分を支払わなくてはならなくなる これが いわゆる 130 万円の壁 (106 万円の壁 ) である もちろん 社会保険に加入するメリットもあるものの 配偶者の年収が 130 万円になった途端に 年間約 18.3 万円の社会保険料を支払う義務が生じる 6 となると やはり それは就業調整を行うのに十分な要因となり得るだろう 以上 3 詳しくは 是枝俊悟 (2016) 配偶者特別控除の拡大では就労促進効果は乏しい 改正案には比較的所得の高い高齢者に減税の恩恵が及ぶ面も ( 大和総研レポート 2016 年 12 月 2 日 ) 4 人事院 平成 29 年職種別民間給与実態調査の結果 によると 78.1% の企業で配偶者手当 ( 家族手当 ) を設けている そのうち 85.4% の企業で配偶者の年収による支給制限があり さらに支給制限がある企業のうち基準額を 103 万円としている企業は 63.2% である 次に 基準額とする企業が多いのは 130 万円であり 29.0% の企業がこの基準を採用している なお この調査の対象は 企業規模 50 人以上 かつ 事業所規模 50 人以上の全国の民間事業所 5 正確には 週所定労働時間が 20 時間以上で 1 年以上の継続勤務見込みがあり 学生等でなく 従業員数 501 人以上の企業に勤めている 月額で 88,000 円 ( 年収 105.6 万円 ) 以上の収入がある人 なお 労働日数および労働時間が通常の労働者の 3/4 以上の短時間労働者は収入にかかわらず社会保険に加入する必要がある 6 協会けんぽ 厚生年金に加入する場合 ( 介護保険第 2 号被保険者 (40~64 歳 ) でない場合 平成 30 年度 ( 平 成 30 年 4 月 ~ 平成 31 年 3 月 ))