要旨 文部科学省は 幼稚園や保育園に通う 3 から 5 歳児の幼児教育について 2020 年まで に無償化の実現を目指している しかし 無償化実現のために必要となる追加公費の額は 7900 億円と見積もられており 財源確保が不安視されている 15 年度には 年収が 360 万円未満の世帯の 5 歳児

Similar documents

第6回:データセットの結合

ポイント 〇等価尺度法を用いた日本の子育て費用の計測〇 1993 年 年までの期間から 2003 年 年までの期間にかけて,2 歳以下の子育て費用が大幅に上昇していることを発見〇就学前の子供を持つ世帯に対する手当てを優先的に拡充するべきであるという政策的含意 研究背景 日本に

第2回:データの加工・整理

Supplementary data


3 調査結果 1 平成 30 年度大分県学力定着状況調査 学年 小学校 5 年生 教科 国語 算数 理科 項目 知識 活用 知識 活用 知識 活用 大分県平均正答率 大分県偏差値

簿記教育における習熟度別クラス編成 簿記教育における習熟度別クラス編成 濱田峰子 要旨 近年 学生の多様化に伴い きめ細やかな個別対応や対話型授業が可能な少人数の習熟度別クラス編成の重要性が増している そのため 本学では入学時にプレイスメントテストを実施し 国語 数学 英語の 3 教科については習熟

1308

1311

日本語・日本文化研修留学生各大学コースガイド一覧

フトを用いて 質問項目間の相関関係に着目し 分析することにした 2 研究目的 全国学力 学習状況調査結果の分析を通して 本県の児童生徒の国語及び算数 数学の学習 に対する関心 意欲の傾向を考察する 3 研究方法平成 25 年度全国学力 学習状況調査の児童生徒質問紙のうち 国語及び算数 数学の学習に対

学習指導要領の領域等の平均正答率をみると 各教科のすべての領域でほぼ同じ値か わずかに低い値を示しています 国語では A 問題のすべての領域で 全国の平均正答率をわずかながら低い値を示しています このことから 基礎知識をしっかりと定着させるための日常的な学習活動が必要です 家庭学習が形式的になってい

店舗の状況 Number of stores 国内コンビニエンスストアの店舗数の推移 Number of convenience stores in Japan * 2017 年度 /FY 年度 /FY 年度 ( 計画 )/FY2019 (Forecast) 20

8 Liquor Tax (2) 製成数量の累年比較 ( 単位 :kl) Yearly comparison of volume of production 区 分 平成 23 年度 FY2011 平成 24 年度 FY2012 平成 25 年度 FY2013 平成 26 年度 FY2014 清 合

資料1-1(3)

①H28公表資料p.1~2

物価指数研究会(第2回) 2015年基準 モデル式の検討「授業料」・「保育料」

PowerPoint プレゼンテーション

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

2 調査結果 (1) 教科に関する調査結果 全体の平均正答率では, 小 5, 中 2の全ての教科で 全国的期待値 ( 参考値 ) ( 以下 全国値 という ) との5ポイント以上の有意差は見られなかった 基礎 基本 については,5ポイント以上の有意差は見られなかったものの, 小 5 中 2ともに,

領域別正答率 Zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz んんんんんんんんんんんんん 小学校 中学校ともに 国語 A B 算数( 数学 )A B のほとんどの領域において 奈良県 全国を上回っています 小学校国語 書く B において 奈良県 全国を大きく上回っています しかし 質問紙調査では 自分

100sen_Eng_h1_4

(2) 国語 B 算数数学 B 知識 技能等を実生活の様々な場面に活用する力や 様々な課題解決のための構想を立て実践し 評価 改善する力などに関わる主として 活用 に関する問題です (3) 児童生徒質問紙児童生徒の生活習慣や意識等に関する調査です 3 平成 20 年度全国学力 学習状況調査の結果 (

p.1~2◇◇Ⅰ調査の概要、Ⅱ公表について、Ⅲ_1教科に対する調査の結果_0821_2改訂

厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業)

早稲田大学大学院日本語教育研究科 修士論文概要書 論文題目 ネパール人日本語学習者による日本語のリズム生成 大熊伊宗 2018 年 3 月

Taro-① 平成30年度全国学力・学習状況調査の結果の概要について

Microsoft Word - 教育経済学:課題1.docx

The Environmental Monitoring 2017 Surface water [1] Total PCBs /surface water (pg/l) Monitored year :2017 stats Detection Frequency (site) :46/47(Miss


解禁日時新聞平成 30 年 8 月 1 日朝刊テレビ ラジオ インターネット平成 30 年 7 月 31 日午後 5 時以降 報道資料 年月日 平成 30 年 7 月 31 日 ( 火 ) 担当課 学校教育課 担当者 義務教育係 垣内 宏志 富倉 勇 TEL 直通 内線 5

今年度は 創立 125 周年 です 平成 29 年度 12 月号杉並区立杉並第三小学校 杉並区高円寺南 TEL FAX 杉三小の子

Microsoft PowerPoint - データ解析基礎4.ppt [互換モード]

JICA 事業評価ガイドライン ( 第 2 版 ) 独立行政法人国際協力機構 評価部 2014 年 5 月 1

1402

2 教科に関する調査の結果 ( 各教科での % ) (1) 小学校 国語 4 年生 5 年生 6 年生 狭山市埼玉県狭山市埼玉県狭山市埼玉県 平領均域正等答別率 話すこと 聞くこと 書くこと

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

研究内容 2016 年 9 月時点 自治体の協力を得つつ 国立教育政策研究所や外部の研究者 有識者により実証研究を実施 関連施策の費用と効果について把握 分析 研究テーマ実施主体研究内容 ( 学力 非認知能力等 ) 国立教育政策研究所 埼玉県 大阪府箕面市等 国立教育政策研究所等 都道府県 :6 程

親と同居の壮年未婚者 2014 年

H

A Comprehensive Guide to

4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students A Dissertation Submitted t

就学前教育の効果 Heckman の一連の研究 恵まれない境遇にいる子供たちへの教育投資は 公平性と効率性を同時に促進するという稀な公共政策である Heckman,SCIENCE(2006 年 6 月 ) Skill Formation and the Economics of Investing

平成 24 年度職場体験 インターンシップ実施状況等調査 ( 平成 25 年 3 月現在 ) 国立教育政策研究所生徒指導 進路指導研究センター Ⅰ 公立中学校における職場体験の実施状況等調査 ( 集計結果 ) ( ) は 23 年度の数値 1 職場体験の実施状況について ( 平成 24 年度調査時点

Microsoft PowerPoint - Sample info

表 1) また 従属人口指数 は 生産年齢 (15~64 歳 ) 人口 100 人で 年少者 (0~14 歳 ) と高齢者 (65 歳以上 ) を何名支えているのかを示す指数である 一般的に 従属人口指数 が低下する局面は 全人口に占める生産年齢人口の割合が高まり 人口構造が経済にプラスに作用すると

01_定食01 (しょうがだし)

孫のために教育資金を支援するならどの制度?

Workbook1

H30全国HP

Microsoft Word - 博士論文概要.docx

論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

ando_yama.kama

Powered by TCPDF (

2 教科に関する調査の結果 (1) 平均正答率 % 小学校 中学校 4 年生 5 年生 6 年生 1 年生 2 年生 3 年生 国語算数 数学英語 狭山市 埼玉県 狭山市 61.4

茨城県における 通級による指導 と 特別支援学級 の現状と課題 IbarakiChristianUniversityLibrary ~ 文部科学省 特別支援教育に関する調査の結果 特別支援教育資料 に基づいて茨城キリスト教大学紀要第 52 ~号社会科学 p.145~ 茨城県における 通

参考資料1 高等教育の将来構想に関する参考資料2/3

本資料は 様々な世帯類型ごとに公的サービスによる受益と一定の負担の関係について その傾向を概括的に見るために 試行的に簡易に計算した結果である 例えば 下記の通り 負担 に含まれていない税等もある こうしたことから ここでの計算結果から得られる ネット受益 ( 受益 - 負担 ) の数値については

平成28年度「英語教育実施状況調査」の結果について

資料1 世帯特性データのさらなる充実可能性の検討について

2.調査結果の概要

<4D F736F F D F81798E9197BF94D48D A95CA8E B8CA782CC8EE691678FF38BB581698B6096B18B4C8DDA92F990B38CE3816A2E646

Copyright (c) 2004,2005 Hidetoshi Shimodaira :43:33 shimo X = x x 1p x n1... x np } {{ } p n = x (1) x (n) = [x 1,..

子育てや教育にお金がかかりすぎるから自分の仕事(勤めや家業)に差し支えるから家が狭いから高年齢で生むのはいやだから欲しいけれどもできないから健康上の理由からこれ以上 育児の心理的 肉体的負担に耐えられないから夫の家事 育児への協力が得られない

小学校の結果は 国語 B 算数 A で全国平均正答率を上回っており 改善傾向が見られる しかし 国語 A 算数 B では依然として全国平均正答率を下回っており 課題が残る 中学校の結果は 国語 B 以外の教科で全国平均正答率を上回った ア平成 26 年度全国学力 学習状況調査における宇部市の平均正答

横浜市環境科学研究所

Microsoft Word - こども保険に関するFAQ.docx

共同住宅の空き家について分析-平成25年住宅・土地統計調査(速報集計結果)からの推計-

Microsoft PowerPoint - 08macro2_1.ppt

< E188CA8C9F8FD88A65955C2E786C73>

研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

(2) 国語科 国語 A 国語 A においては 平均正答率が平均を上回っている 国語 A の正答数の分布では 平均に比べ 中位層が薄く 上位層 下位層が厚い傾向が見られる 漢字を読む 漢字を書く 設問において 平均正答率が平均を下回っている 国語 B 国語 B においては 平均正答率が平均を上回って

1 国の動向 平成 17 年 1 月に中央教育審議会答申 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について が出されました この答申では 幼稚園 保育所 ( 園 ) の別なく 子どもの健やかな成長のための今後の幼児教育の在り方についての考え方がまとめられています この答申を踏まえ

平成29年3月高等学校卒業者の就職状況(平成29年3月末現在)に関する調査について

タイトル

(2) 学習指導要領の領域別の平均正答率 1 小学校国語 A (%) 学習指導要領の領域 領 域 話すこと 聞くこと 66.6(69.2) 77.0(79.2) 書くこと 61.8(60.6) 69.3(72.8) 読むこと 69.9(70.2) 77.4(78.5) 伝統的な言語文化等 78.3(

(1) 体育・保健体育の授業を改善するために

1 課題出し 瀬戸内市まちづくり会議財政健全化部会経営改善計画策定作業の概要 事務局による課題出し ( 市長 担当の意見も反映 ) 部会委員から出された課題にも対応 課題に対する問題点の整理 わかりやすい記入用シートの作成 2 委員による改革案の作成 事務局提案の課題について 部会委員による改革案の

EBNと疫学

2011 Wright 1918 per capita % 2002a, b, c per capita % C-WI C-SCICivil Society Index Y-CSISCI 07 N-SCI 2015 Ko-CHI2011S

<4D F736F F D A30318F8A93BE8A698DB782C689C692EB82CC C838B834D815B8EF997762E646F63>

6. 調査結果及び考察 (1) 児童生徒のスマホ等の所持実態 1 スマホ等の所持実態 54.3% 49.8% 41.9% 32.9% % 78.7% 73.4% 71.1% 76.9% 68.3% 61.4% 26.7% 29.9% 22.1% % 中 3 中 2 中 1

29 歳以下 3~39 歳 4~49 歳 5~59 歳 6~69 歳 7 歳以上 2 万円未満 2 万円以 22 年度 23 年度 24 年度 25 年度 26 年度 27 年度 28 年度 29 年度 21 年度 211 年度 212 年度 213 年度 214 年度 215 年度 216 年度

untitled

Discussion Paper No. 0-0 東京都内の家計向け地震保険加入率 付帯率の決定メカニズムに関するノート 齊藤誠 a 顧 濤 b 要旨 : 本研究ノートは 市区別平均所得 地震危険度 ( 建物倒壊危険度 火災危険度 ) を用いて 東京都の市区別の地震保険付帯率 地震保険加入率の決定メ

13章 回帰分析

厚生労働科学研究費補助金 (地域健康危機管理研究事業)

<89C88CA B28DB88C8B89CA955C8F4390B394C E786C73782E786C73>

Microsoft Word - 文書 1

平成19年度学校保健統計調査結果

シラバス-マクロ経済学-

私立幼稚園の新制度への円滑移行について

第 2 問問題のねらい青年期と自己の形成の課題について, アイデンティティや防衛機制に関する概念や理論等を活用して, 進路決定や日常生活の葛藤について考察する力を問うとともに, 日本及び世界の宗教や文化をとらえる上で大切な知識や考え方についての理解を問う ( 夏休みの課題として複数のテーマについて調

切片 ( 定数項 ) ダミー 以下の単回帰モデルを考えよう これは賃金と就業年数の関係を分析している : ( 賃金関数 ) ここで Y i = α + β X i + u i, i =1,, n, u i ~ i.i.d. N(0, σ 2 ) Y i : 賃金の対数値, X i : 就業年数. (

平成23年度全国学力・学習状況調査問題を活用した結果の分析   資料

70-4/表1~表4.pwd

M&A研究会報告2009

Transcription:

就学前教育投資が 子どもの学力に与える影響 ミクロ経済学事例研究 2016 教育班 前期レポート 東京大学公共政策大学院 経済政策コース 1 年 木下 みづえ 経済政策コース 1 年 久保 美雪 1

要旨 文部科学省は 幼稚園や保育園に通う 3 から 5 歳児の幼児教育について 2020 年まで に無償化の実現を目指している しかし 無償化実現のために必要となる追加公費の額は 7900 億円と見積もられており 財源確保が不安視されている 15 年度には 年収が 360 万円未満の世帯の 5 歳児教育について 無償化することが検討されたが 同じく財源確保 が難しく 年収 270 万円未満の世帯の幼稚園児に限り 保育料を一部引き下げるなど段階 的に取り組んでいる 本稿は 現行の幼児教育財政支出が就学後の子どもの学力に及ぼす 影響を分析することにより 幼児教育無償化といった早期教育促進を目的に含む政策の効 果を検証するものである 適切な政策実現のために就学前教育投資の経済的価値を計測することは重要であるが データの制約があるなど その経済的価値の計測は困難である 限られたデータの中で筆 者らが採用した計測方法として 1 文部科学省より公表されている公的幼稚園教育支出 と全国小学校学力調査結果の都道府県別の差異に着目し その相関関係を分析すること 2 その差異の要因についてパネルデータ分析によって実証分析すること である 本稿における政策分析のアプローチは 日本のこれまでの公的幼児教育投資が実際にど れくらい子どもの学力面に影響をもたらしているのかを検証する これは 今後の幼児教 育無償化の実現にとって重要な示唆を与えると考える 本稿の構成は以下のとおりである 1 節において 幼児教育政策の重要性とそれを裏付 ける先行研究を示している 2 節では 使用したデータ 分析手法 分析の結果を述べて いる 分析対象は 2007 年から 2015 年間の公立小学校の 6 年生であり 都道府県の データを用いたクロスセクション分析を行った 変数には 全国学力テストスコア 公的幼稚園教育支出 公的小学校教育支出 の 3 変数を採用した 3 節で分析の考察 と課題を示し 4 節で本稿のまとめと政策への提言 および今後の課題を述べている 分析の結果からは 公的幼稚園教育支出の小学校 6 年時の学力への影響は確認できなか った この結果を踏まえて 幼児教育投資の効果測定については 使用するデータを再検 討する必要がある また 本稿は幼児教育投資に関する指標として公的財政支出額を採用 したが その他に 家庭の資源 幼稚園 保育園の質的データ 地域による物価の影 響 地域による教育方針の違い などの様々な要因を指標に加えることでより正確な分 析ができると考えられる 後期の授業では 今回の研究をさらに発展させて多面的な分析 を行うことで 具体的な政策提言を行いたい 2

目次 1. 研究背景...4 1.1. 就学前教育の重要性...4 1.2. 先行研究...4 1.3. 就学前教育と学力に関する日本の現状...6 1.4. 本研究の目的 意義...7 2. データと分析のフレームワーク...8 2.1. 使用データと分析手法...8 2.2. 分析過程...9 2.3. 分析結果...9 2.4. 疑似相関を生む要因についての検証...10 2.5. 偏相関分析...12 3. 結果の解釈と課題...12 3.1. 本分析の問題点...12 (a) データの問題...12 (b) 分析手法の問題...13 3.2. その他の分析の紹介...14 4. 結語...15 4.1. まとめと提言...15 4.2. 分析の限界と今後の課題...16 データ出所...20 参考文献...20 付録...21 3

1. 研究背景 1.1. 就学前教育の重要性 われわれの日常生活にとって 教育は極めて身近でしかも重要な位置を占めている 教育 投資が個人の所得等に代表される私的収益率を上げ 更には私的収益率の上昇を通じて社 会全体の収益率を上げることは 経済学の基本的な理論である より具体的には 教育成果 を引き上げるために限られた資源をいつ どのように投入すべきか また 教育に対する公 的な支援のあり方をめぐる議論へと展開される このような議論において これまでの研究 によって明らかにされた一つの見解がある それは 教育を将来に向けた投資として解釈し たとき その成果をもっとも高める教育段階は 子どもが小学校に入学する前の 就学前教 育 であるということである 実際に 就学前教育に関しては近年 その重要性に関する認 識が国際的に高まってきている 日本においても 教育改革政策のひとつとして就学前の 3 歳から 5 歳児の幼児教育無償化の導入が検討されている 日本では他欧米先進諸国と比べ て公的な教育投資が過少であることが問題視されているが 就学前教育に対する投資に至 っては その重要性が認知されていないこともあって特に投資額が低いのが現状である 筆 者らは 就学前教育の重要性が認知されていない日本において 日本のデータを用いてその 効果を測定し 国内における就学前教育政策の必要性を政策立案者に認知させることを狙 いとして 本研究を発表する 1.2. 先行研究 1.1.で述べた就学前教育の重要性についての根拠となっているのは ノーベル経済学賞受 賞者のジェームズ ヘックマン教授らの研究である 彼は就学前の子供に対する教育投資効 果に着目し 人的資本投資の収益率を年齢別に推計した研究において 子供の年齢が小さい うちほど投資の収益率が高いことを明らかにした1 さらに 就学後の教育の効率性を決めるのは 就学前の教育にある とする論文を発表 した2 その中で示されたペリー就学前教育プロジェクトを簡単に紹介すると 経済的に恵 まれない 3 歳から 4 歳のアフリカ系アメリカ人の子供たちを対象に毎日平日の午前中は学 校で教育を施し 週に 1 度先生が家庭訪問をして指導にあたるというものであった この 就学前教育は 2 年ほど続けられ そして終了後 この実験の被験者となった子供たちと 就 学前教育を受けなかった同じような経済的境遇にある子供たちとの間で起こる その後の 経済状況や生活の質の違いについて 約 40 年間にわたって追跡調査が行われた この調査 によると 就学前教育の介入を受けたグループは比較対象グループと比べて 学歴 所得 雇用などの面で大きな効果を上げたことが分かった また このうち所得や雇用の向上にお 1 2 Carneiro & Heckman(2003) Heckman(2006) 4

いては 就学前教育を行ったことによる社会全体の投資収益率を調べると 15 から 17 と いう非常に高い数値が出ている これは通常の公共投資ではあり得ないほどの高い投資収 益率であり 就学前教育は社会全体でみても非常に割のよい投資であることがわかる 図 1 人的資本投資の収益率3 また 中室は著書 学力 の経済学 2015 において 子どもの学力に着目し 学力を 決めている資源や要因について述べている 学力の分析に用いるもっとも標準的な分析枠 組みは 教育生産関数 であるが その教育生産関数におけるアウトプットが学力であり インプットは 学校の資源 教員の数や質 課外活動や宿題など と 家庭の資源 親の 年収や学歴 家族構成など の大きく二つに分けられる これについて 子どもの学力を上 昇させる要因は 学校だけでなく 家庭の資源による影響が大きいことを示しており そし て 教育投資の学力に与える影響を分析する際には 公的な資源 投資だけでなく 家庭に よる私的資源 投資についても考慮される必要があると述べている 次に赤林 2016 は 学力の規定要因の分析において用いるデータについて言及してい る 家計の資源として世帯所得を採用し 学力との間に正の相関関係があることを示してい る しかしながら 世帯所得が因果的に学力に影響を与えているということではなく 観測 できない家計や個人の属性があり 学力と所得の両方に影響を与えている要素の存在があ りうることを示している それは どういう親のもとに生まれ どのように育てられたか という 遺伝的資質やしつけなどの家庭の文化的背景かもしれない それらを議論するため に 一人の個人に対して複数回の観測を持つパネルデータが必要であると述べている 上記の先行研究をふまえて 本研究では 就学前段階における教育投資の学力に及ぼす影 響を可視化することに重点を置く 3 出所 Carneiro, P., & Heckmann, J.(2003). Human capital policy National bureau of economic research. 5

1.3. 就学前教育と学力に関する日本の現状 先行研究における 就学前教育に対して もっと公的な支援をすべき というヘックマン 教授の主張に対して 日本の就学前教育に対する認識はどうだろうか 日本の子供の場合 約 95 パーセントが幼稚園や保育所に通っており すでに一定の就学前教育を受けていると いえる しかし OECD 諸国の中では日本の就学前教育に対する支出は極めて低く 高校 や大学と比較すると 就学前教育の重要性はあまり認識されていない その根拠として 文 部科学省の地方教育費調査 在学者 国民一人当たり及び一学級当たり経費 以下 公的 幼児教育支出 より 各都道府県の就学前教育に対する一人当たり財政支出が小学校 中学 校教育のそれに比べて低いことが観察できた また その財政支出の大きさは都道府県別で ばらつきがあり 地域によって方向性や認識度に差があることがうかがえる 例えば 2015 年一人当たり幼児教育財政支出において 支出額の最も大きかった県はその額が約 162 万 円であったのに対し 最も小さかった県は約 62 万円であった 両地域の間には約 100 万円 の差があり これは決して僅かな差とはいえないだろう 図 2 都道府県別一人当たり幼児教育財政支出額 2015 年 1,800,000 1,600,000 財 政 支 出 額 円 1,400,000 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0 沖福静神岡埼熊愛山愛徳福長奈兵千佐広全大大岐和三島京鹿富滋茨栃長山東宮福群香新石秋岩山宮高北鳥青 縄岡岡奈山玉本媛梨知島井崎良庫葉賀島国阪分阜歌重根都児山賀城木野形京崎島馬川潟川田手口城知海取森 県県県川県県県県県県県県県県県県県県平府県県山県県府島県県県県県県都県県県県県県県県県県県道県県 県 均 県 県 また 同じ文部科学省が 2007 年より小中学生を対象に実施している 全国学力 学習状 況調査 以下 学力テスト がある この調査は 全国小学校 6 年生から中学校 3 年生を 対象に 国語 算数 数学 理科 英語 中学生のみ の学力の把握のために国立教育政策 研究所が実施しているものである これまでの調査結果から観察されることは 学力テスト 結果において 上位グループと下位グループの顔ぶれが例年ほとんど同じであることだ 学 力上位の秋田 石川 福井 青森 富山などの北側 日本海側の各県がトップクラスを占め ており このような地域的な偏りは幼児教育財政支出においても見受けられる 6

図 3 都道府県別小学校学力調査結果 2015 年 74.0 72.0 学 力 ス コ ア 点 70.0 68.0 66.0 64.0 62.0 60.0 58.0 56.0 北島滋栃愛埼山大山宮長神岐三鹿福佐群岡宮福和徳熊全奈千長兵鳥茨沖岩大愛静高新山香東京広富青福石秋 海根賀木知玉梨阪形城崎奈阜重児島賀馬山崎岡歌島本国良葉野庫取城縄手分媛岡知潟口川京都島山森井川田 道県県県県県県府県県県川県県島県県県県県県山県県平県県県県県県県県県県県県県県県都府県県県県県県 県 県 県 均 以上の特徴から 就学前財政支出の都道府県別差異と 小学校学力テストの都道府県別差 異に何らかの関連性が見つかる可能性がある つまり 先行研究が示しているように 就学 前教育投資が個人や社会全体に大きな効果をもたらすのだとしたら 日本の就学前教育支 出やその他の投資が その後の子供の学力や成長に何らかの影響を与えていることが考え られる 上記で取り上げた公的幼児教育支出と学力テストの日本の現状のほかに 家庭による私 的幼児教育支出についても観察する必要があるだろう しかしながら 同文部科学省の統計 や総務省より公表されている家計調査年報の統計を観察したところ 2 章で詳しく述べると おり 都道府県別での収集が不可能であること 集計方法に連続性や均質性が確保されてい ない等の理由で学力調査の結果とリンクさせることが困難であった そのため本研究では まず 教育投資として日本の公的教育支出の現状を観察した 1.4. 本研究の目的 意義 1.3.で述べた現状を踏まえ 日本の就学前教育政策について 公的幼児教育投資の子ども の学力に与える影響について検証することで その政策の意義を問うことが本稿の目的で ある 経済学の知見と日本のデータに基づいた推計 分析により具体的な政策課題を明らか にし 課題解決のために何が必要かといった改善策を提起したい また 日本における幼児 教育無償化の効果を議論する前提として 財源が限られている以上 投資には選択と集中が 求められる そこで重要になってくるのは 就学前教育への支援 予算を投じることが他の 公共政策と比べて効果の大きなものであるかを説明していくことである 就学前教育の重 要性をやみくもに主張するだけでなく その投資効果についてデータからの根拠に基づい た議論を展開していくことが必要であるが その意味で ヘックマン教授らの米国研究事例 を参考にしながら 日本の就学前教育の投資効果について 日本のデータに基づいた検証は 必須である 7

2. データと分析のフレームワーク 2.1. 使用データと分析手法 本稿では 幼児教育の学力に与える影響をコーホート型相関分析で研究した 小学校 6 年 時の学力と当該児童が受けたであろう年度の公的幼稚園支出に相関があることを仮定し 全国の小学校 6 年生を対象とした学力テストのスコアと公的な幼稚園教育支出の相関分析 を行う この分析には 2007 年から 2015 年の間に文部科学省によって実施された全国学 力調査の小学校 6 年生対象の国語と算数のテストスコア 点 と 1998 年から 2006 年の 間に文部科学省によって実施された地方教育費調査の幼稚園を対象とした公的支出 円 を 用いた 尚 使用したデータについて 以下のことに注意されたい 全国学力調査について 本研究で使用した全国学力調査の結果は 国立教育政策研究所によって公表されている ものである 2011 年は東日本大震災の影響で全国学力調査は実施されなかった為 2011 年 の学力テストのスコアは分析には使用していない これに対応する 2002 年時の幼稚園教 育支出及び 2009 年時の小学校教育支出も分析から排除した また 本分析では全国学力 調査の結果を全国の公立校を対象にしたものに限定している 全国学力調査は 2007 年開始 当初から主に公立校を対象としており 私立校の参加は任意であるため 私立校の参加率は 公立校と比べて低い また 私立校に通う子どもの割合や学力テストへの参加率は都道府県 ごとにばらつきがあるため データの均質性を保つために公立校に限定した結果を用いた 尚 調査方式は以下に示す通り年度ごとに異なっている事にも注意されたい 2007 年度 2009 年度 悉皆調査 2010 年度 2012 年度 4抽出調査 2013 年度 5きめ細かい調査 2014 年度 悉皆調査 公的幼稚園教育支出について ここでいう公的幼稚園教育支出とは 都道府県及び市町村の歳出決算額として計上され た経費 公費 であり 公立幼稚園の支出経費を指す 都道府県 市町村が支出した私立学 4 抽出調査 都道府県毎に平均正答率が 95 の確率で誤差 1 以内になるよう抽出率を設定 抽出率約 30 5 きめ細かい調査では 対象学年の全児童生徒を対象とした本体調査により すべての市町村 学校等の状 況を把握するとともに 1 経年変化分析 2 経済的な面も含めた家庭状況と学力等の状況の把握 分析 3 少人数学級等の教育施策の検証 改善に資する追加調査等を新たに実施 8

校への補助に係る経費は含んでいないということに注意されたい また 6全国の幼稚園の 公立 私立比は 4 6 である一方 全国の小学校の公立 私立比は 99 1 である このこと から 本分析では全体の 6 割に及ぶ私立幼稚園を無視しており その影響がどれ程のもの かを考慮する必要がある 尚 本分析で使用した公的教育支出のデータは毎年全公立校を対 象とした全数調査の結果得られたものである また 本データには家庭による教育支出も含 まれていないため 学力の決定要因の大部分を無視しているという問題がある 2.2. 分析過程 2.3.では単純な相関分析によって 学力と幼稚園教育支出間の相関を見た 2.4.では 2.3. の分析結果を踏まえて 疑似相関の可能性について検証し その要因について規定した 2.5. では 2.4.で検証された結果を基に 疑似相関を生む要因を排除した分析 偏相関分析 を行 った 2.3. 分析結果 ここでは 学力と幼稚園教育支出間の相関分析を行った 72007 年時の学力テストスコア と 1998 年時の幼児教育支出の都道府県別のデータを用いたクロスセクション分析の結果 をプロットすると 以下の散布図 1 に見られるように両者の間に右上がりの関係が確認さ れた このとき 相関係数は 0.28 であり p 値は 0.056 であった p 値より 幼稚園教育支 出とテストスコアの間には 10%域で有意に正の相関があると言える 80 散布図 1 akita 70 75 fukui kagawa toyama aomori kyoto hiroshima tottori iwate ishikawa tokyo chiba gifushizuoka yamagata nagano niigata saitama kumamoto nara ehime fukushima hyogoaichi miyazaki gumma yamanashi shimanekanagawa kagoshima totchigi wakayama ibaraki nagasaki saga miyagi fukuoka shiga yamaguchi mie okayama tokushima ooita oosaka kouchi 65 hokkaido okinawa 600000 800000 1000000 exp1998 score2007 1200000 1400000 Fitted values しかしながら 他の年次で同様にクロスセクション分析を行った結果 6 平成 27 年度文部科学省学校基本調査結果概要より 7 ここでは 学力テストの対象である小学校 6 年生児童が幼児教育を受けた時期を 9 年前であると仮定し て 9 年間のラグを取った学力テストのスコアと幼児教育支出を用いている 9

スコア 07 相関係数 スコア 08 スコア 09 スコア 10 スコア 12 スコア 13 スコア 14 スコア 15 0.280 0.184 0.045 0.318 0.174 0.282 0.335 0.240 0.057 0.215 0.766 0.029 0.242 0.055 0.021 0.105 となり 8 期の内 4 期で有意な結果は得られなかった 尚 順位相関分析による結果は以下 の通りである 有意となったのは1期だけである スコア 07 スコア 08 スコア 09 スコア 10 スコア 12 スコア 13 スコア 14 スコア 15 相関係数 0.164 0.164 0.104 0.236 0.136 0.2 0.335 0.234 0.270 0.157 0.486 0.110 0.363 0.094 0.021 0.113 このことから 上記の相関は疑似的である可能性があるといえる 疑似相関の原因はいくつ か考えられるが 本分析では小学校教育支出が学力テストのスコアに及ぼす影響が大きい と仮定し 小学校教育支出の影響を考慮していないことが幼稚園教育支出の学力に及ぼす 影響の過大評価をもたらしている可能性があると考えた また 公的な教育支出の多寡が各 地域の財政力や政策方針等の地域性に依存している場合 幼稚園教育支出と小学校教育支 出の間に正の相関があることが想定される 以下の図 4 は このことを表わした因果図で ある 図4 幼稚園 小学校6年時 教育支出 の学力 地域性 小学校 財政力 教育支出 本研究ではこれらの可能性を確かめるために以下のような分析を行った 2.4. 疑似相関を生む要因についての検証 まず 幼稚園教育支出と小学校教育支出の相関分析を行った その結果 幼稚園教育支出 と小学校教育支出の間には正の相関があり これは 5 10 水準で有意であることが分かっ た 1998 年時の幼稚園教育支出と 2006 年時の小学校教育支出を用いた相関分析の結果は 相関係数が 0.334 p 値が 0.022 となり 以下の散布図 2 から分かるように はっきりとし た正の相関が認められる 10

1000000 1200000 1400000 散布図 2 aomori tokyo kouchi 600000 800000 hiroshima kyoto okayama aichi toyama oosaka kanagawa iwate hokkaido hyogo gumma nara ishikawa wakayama mie niigata yamaguchi kagawa ooita shiga kumamoto fukui akita miyagi tokushima saga ibaraki miyazaki shizuoka fukuoka totchigi gifunagano fukushima chiba yamagata yamanashi ehime nagasaki saitama shimane kagoshima okinawa 600000 tottori 800000 1000000 shexp2006 exp1998 1200000 1400000 Fitted values 他年度の分析結果は以下の通りである 幼児支出 98 幼児支出 99 幼児支出 00 幼児支出 01 幼児支出 03 幼児支出 04 幼児支出 05 幼児支出 06 相関係数 0.334 0.254 0.395 0.451 0.279 0.411 0.394 0.427 0.022 0.085 0.006 0.002 0.058 0.004 0.061 0.003 順位相関分析の結果は以下の通りである 幼児支出 98 幼児支出 99 幼児支出 00 幼児支出 01 幼児支出 03 幼児支出 04 幼児支出 05 幼児支出 06 順位相関 0.355 0.278 0.327 0.468 0.335 0.460 0.2 0.439 0.014 0.058 0.025 0.001 0.021 0.001 0.001 0.002 上の結果から 公的幼稚園教育支出と公的小学校教育支出の間に相関があることは疑いな い 次に 小学校教育支出と学力テストのスコアの間の相関を確かめた 結果 相関係数は 0.214 p 値は 0.1 で有意な結果は得られなかった またこの時 順位相関係数は 0.188 で p 値は 0.204 であった 以下の散布図 3 と上の散布図 1 を比較して分かるように 小学 校教育支出と学力テストのスコアの相関は 幼児教育支出と学力テストのスコアの相関よ りも弱いことが分かる 但し この相関は上で述べたように見せかけの相関である可能性が 高いことに注意が必要である 80 散布図 3 akita fukui 75 kagawa aomori toyama 70 kyoto tokyo hiroshima iwate ishikawa chiba shizuoka gifunagano yamagata niigata saitama kumamoto nara aichi ehime hyogo gumma miyazaki fukushima kanagawa yamanashi kagoshima totchigi wakayama ibaraki saganagasaki miyagi fukuoka shiga okayama yamaguchi mie tokushima ooita oosaka tottori shimane kouchi 65 hokkaido okinawa 600000 800000 score2007 1000000 shexp2006 1200000 1400000 Fitted values 他年度の結果は以下の通りである 11

小学支出 06 小学支出 07 小学支出 08 小学支出 09 小学支出 11 小学支出 12 小学支出 13 小学支出 14 相関係数 0.215 0.192 0.268 0.254 0.202 0.241 0.257 0.238 0.1 0.197 0.068 0.085 0.174 0.103 0.082 0.107 順位相関分析の結果は以下の通りである 小学支出 06 小学支出 07 小学支出 08 小学支出 09 小学支出 11 小学支出 12 小学支出 13 小学支出 14 順位相関 0.188 0.138 0.179 0.228 0.223 0.260 0.254 0.204 0.204 0.357 0.228 0.237 0.132 0.077 0.085 0.168 2.5. 偏相関分析 2.4.で見せかけの相関を生む要因について検証したが ここではそれらの要因をコントロ ールした上で分析を行った 2.4.で検証したように 見せかけの相関を生む大きな要因の一 つに 小学校教育支出の影響を考慮していないことが挙げられる よって 小学校教育支出 をコントロールするために 偏相関分析を行った ここでいう偏相関係数は幼稚園教育支出 に小学校教育支出を回帰した残差と小学校 6 年時の学力テストのスコアに小学校教育支出 を回帰した残差の相関係数のことである これによって小学校教育支出の影響を取り除く ことができる 2007 年時の学力テストのスコアと 1998 年時の幼稚園教育支出と 2006 年 時の小学校教育支出を用いた場合 偏相関係数は 0.226 p 値は 0.126 となり有意な結果は 得られなかった 以下は他年度の結果である 偏相関分析を用いた場合 全ての期において 有意な結果を得ることが出来ず 係数がマイナスになる期もあった スコア 07 スコア 08 スコア 09 スコア 10 スコア 12 スコア 13 スコア 14 スコア 15 相関係数 0.226 0.143 0.069 0.236 0.125 0.206 0.263 0.157 0.126 0.338 0.643 0.110 0.401 0.164 0.074 0.291 このことから 2.3.の学力テストのスコアと幼稚園教育支出の相関分析で見られた 10%域で 有意な相関は 小学校教育支出の影響を無視したことによる疑似的な相関であった可能性 がある 本分析では時間及び技術的な制約上 小学校教育支出のみをコントロールして偏相 関分析を行ったが 実際には小学校教育支出以外にも小学校 6 年時の学力に影響を及ぼす 要因は多数存在すると考えられる 3. 結果の解釈と課題 3.1. 本分析の問題点 (a) データの問題 上記でも述べたように 本分析で仮定した結果が得られなかった原因の一つに 使用した データに関する問題が挙げられる まず データの内的整合性が保たれていないことが問題 である 今回使用した全国学力調査の結果と公的教育支出の多寡という二種類のデータは 12

公立学校のみを対象としたデータであり 私立学校に通う園児や児童を無視している 公 立 私立比が地域ごと或いは学校種別ごとに大きく異なるため データの内的整合性が保た れているとは言えない また 今回説明変数として用いた教育支出には家庭の教育支出が全 く含まれておらず これにより大きなバイアスが生まれたと考えられる しかしながら このように不備のあるデータを用いたのには理由がある まず データ入 手の制約が理由の一つに挙げられる 筆者らは当初 説明変数として家庭の教育支出を用い ることを試みた 具体的には 現在文部科学省で公表されている子どもの学習費調査の統計 結果を使用することを考えたが この統計では都道府県別のデータが公表されておらず 目 的変数として用いる学力調査の結果とリンクさせることが出来ないことが分かった この ような理由から 本研究では説明変数に公的教育支出を用いた ここでは このようなデー タの制約を考慮した上で 既存の公開データでより正確な分析をするための方法を考察す る 例えば 説明変数として用いた教育支出に私立校の教育支出と家庭の教育支出を加える ために 既存のデータを組み合わせた合成変数を作成する方法がある まず 私立校の教育 支出を公立校のデータから推計し 都道府県別の公立 私立比と組み合わせた学校教育支出 を算出する 次に家庭の教育支出であるが 子どもの学習費調査では親の子どもの学習への 支出を私立 公立別に公表している これを 都道府県別の子どもの人数比 私立 公立 に当てはめれば都道府県別の家庭教育支出を推計できる これらの都道府県別推計学校教 育支出と推計家庭教育支出を組み合わせた変数を説明変数として用いることで 8制限され たデータでもよりバイアスの少ない結果を得られる可能性がある (b) 分析手法の問題 本分析では データの制約或いは著者らの技能的な制約上 非常にシンプルな分析を行っ た しかしながら 教育の効果を測定するためにはより多面的な分析を行う必要性があると 考える 今回目的変数として使用した学力テストのスコアは 認知的能力の一部分を測るも のに過ぎず 教育の全体的な効果を捉えているとは言い難い 9幼児教育の認知的能力への 正の影響は 8 歳前後で消滅するという先行研究もある この先行研究の結果を当てはめて 考えると 小学校 6 年生の児童を対象とした学力テストのスコアには幼児教育の効果は反 映されない可能性が高い 但し 女子児童においては幼児教育の認知的能力への影響は 8 歳 以降もある程度持続することが先行研究で明らかにされている 女児に対する幼児教育支 出と女子の小学校 6 年時のテストスコアの相関を分析することで 幼児教育と認知的能力 の間の正の相関を確認することが出来るかもしれない 本研究では 国語 算数それぞれの テストスコアと幼稚園教育支出の相関分析も行った その結果は有意では無かったが 相関 8 都道府県ごとに私立校の経費や保護者の経済力が異なることが予想されるため 全国平均を用いた推計方法には問題 があることは言うまでもない しかし 私立校と公立校の経費比や保護者の教育にかける支出比が全国的に共通してい れば この方法でより正確な結果を得られるであろう 参照 Heckman, J.J.,Pinto.,R.,& Savelyev, P.A.(2013). Understanding the mechanisms through which an influential early childhood program boosted adult outcomes. The American Economic Review, 103(6), 20522086 9 13

係数は国語のスコアを用いた時の方が概して高かった 詳細は以下 3.2.のその他の分析にま とめたので参照されたい 以上では 分析手法の問題について述べたが ここでなぜ目的変数に学力テストを用いた かを説明する 当初 目的変数として用いる予定だったのは幼児教育を受けた子どもの将来 収入であった 収入を目的変数に設定しようとした理由は 収入が認知的能力と非認知的能 力の両方を包括したより多角的な指標であり 教育の全体的な効果を反映すると考えたか らである しかしながら 再三述べているように入手可能なデータの制約上 10将来収入に 関する正確な情報が得られないため 高い学力が最終学歴を高めることで将来収入に正の 影響を及ぼすことを仮定して 学力テストのスコアを代替的に利用した 11これは小学校の 学力がその後の学力に正の相関を持つことを前提としている 3.2. その他の分析の紹介 本研究では上記の分析の他 幼稚園教育支出上位下位 5 県に限定した試料分離による分 析も行った 試料分離による分析の目的は 特徴的な都道府県を抽出することで安定した相 関を見ることである 幼稚園教育支出上位下位 5 県を用いた偏相関分析の結果は以下のよ うになった 幼児支出 98 幼児支出 99 幼児支出 00 幼児支出 01 幼児支出 03 幼児支出 04 幼児支出 05 幼児支出 06 相関係数 0.515 0.467 0.084 0.735 0.372 0.644 0.7 0.177 0.128 0.178 0.825 0.015 0.289 0.045 0.163 0.626 偏相関係数は 試料分離していない先の分析結果よりも概して高いが 有意に相関が見られ たのは 8 期の内 説明変数に 2001 年と 2004 年の幼稚園教育支出を用いた場合の 2 期のみ であった このことから 試料分離によっても安定した相関を見ることは困難であり やは り地域性等の観察できない要因をパネルデータ分析によってコントロールする必要がある ことが分かる 試料分離による分析で相関係数が高くなった理由 或いは年度ごとのばらつ きが大きくなった理由はいくつか考えられる サンプル数の少なさが大きなばらつきを生 んだ理由の一つであることは言うまでもないが 他にも公的幼稚園教育支出の多いエリア と少ないエリアの上位にランクインした都道府県が全国的な傾向とかけ離れた特徴的な地 域であることが理由に挙げられるだろう 例えば 公的幼稚園教育支出上位 5 県に常にラ ンクインしている北海道は 学力テストのスコアランキングでは常に下位 5 県にランクイ ンしている 更に北海道域内での学力テストのスコアにはかなりばらつきがあり 僻地の子 10 総務省統計局の公表している家計調査の結果からは都道府県別と勤労者年齢別の収入が同時に考慮されたデータを 得られなかった また 教育を受けた子供が当該地域にとどまる可能性は未知数であり 人口流出入の問題から分析は 不可能であると判断した 11 全国学力調査の結果から 小学校の学力と中学校の学力の間に有意な相関は見られなかった 理由としてこの調査 が公立校を対象としたものであることや 地域的な特質を反映していることが挙げられる 尚 全国の中学校数の公 立 私立比は 99 1 である また 東京 高知 京都 奈良 神奈川 広島などの地域では私立割合が高くなってお り こういった都道府県ごとの地域的性質がバイアスを生む要因となっていると考えられる 14

どもの低い学力水準が北海道全体の学力スコアの平均を押し下げていることが分かる こ のことは 北海道が何らかの地域的な理由によって全国平均から乖離している事を示唆す る良い例である 今後はこういった 特徴的な地域の影響を考慮した分析を行っていく必要 があるだろう また 3.1.で触れたように 本研究では国語と算数それぞれのスコアを用いた相関分析も 行った 上記の試料分離法も併用した 結果は以下の通りである 国語テストスコアとの相関 国スコア 07 国スコア 08 国スコア 09 国スコア 10 国スコア 12 国スコア 13 国スコア 14 国スコア 15 相関係数 0.584 0.600 0.305 0.776 0.538 0.667 0.654 0.819 0.077 0.067 0.392 0.009 0.109 0.035 0.040 0.004 算数テストスコアとの相関 算スコア 07 算スコア 08 算スコア 09 算スコア 10 算スコア 12 算スコア 13 算スコア 14 算スコア 15 相関係数 0.549 0.566 0.215 0.884 0.358 0.735 0.397 0.594 0.100 0.089 0.551 0.000 0.310 0.015 0.257 0.070 結果から分かるように 幼稚園教育支出の国語のスコアとの相関は算数のスコアとの相関 12 よりも概して高い この理由は 3.1.で述べたように男子よりも幼児教育の認知的能力への 効果が持続するとされる女子児童の影響である可能性も示唆できる 小学校において女子 は男子よりも国語の成績が高いことが先行研究で判明しているため 幼児教育支出の多寡 が学力テストの国語のスコアにより相関を持つことは不思議ではない 勿論 各都道府県の 公立小学校の男女比が大きく異なる場合にはこれは適用できない 4. 結語 4.1. まとめと提言 本研究では 就学前教育をめぐる政策について ヘックマン教授らの先行研究により示さ れた仮説をもとに 小学校学力テストスコアに対する公的幼稚園教育支出の因果的な効果 の分析結果を中心に論を進めた 本分析で行った主な分析をまとめると以下の通りである 第一に 公的幼稚園教育支出が小学校学力テストスコアに与える影響について 1998 年時 支出と 2007 年時のクロスセクションデータに基づく回帰分析では確認することができた が すべての年時で有意な結果を得ることは出来なかった 第二に 第一で確認できた相関 が疑似的なものである可能性について検証するために 小学校 6 年時の学力に影響をもた 12 これは小学校教育支出の影響を考慮していない単純な相関分析の結果である 偏相関分析の結果からは 幼稚園教 育支出が国語のスコアとより相関を持っていることは確認できない 分析結果は付録に掲載した 15

らしていると考えられる公的小学校教育支出を説明変数として 再度回帰分析を行った こ の結果 有意な相関は確認できなかったが 公的幼稚園教育支出と公的小学校教育支出の間 には何らかの要因を通じて強い相関が発生していることが 回帰分析の結果から判明した 第三に 偏相関分析を用いて公的小学校教育支出の影響を排除した 公的幼稚園教育支出の 学力スコアに与える影響を分析したが 正の相関関係は確認できたものの 有意な結果は得 られなかった 以上の分析から 第一の分析において確認できた正の影響は不安定であり そのような場合には 公的幼児教育と学力スコアとの間に因果関係が存在しているかどう かは分からない 以上からどのような含意が得られるであろうか まず 公的な幼児教育支出は 単に学力 を上げるという観点においては 費用対効果が低いか効果がない可能性があるということ である 無論 本研究においては学力に影響を与える様々な観測できない要因を 或いは観 測できる要因さえも 制御することなく分析を行っているため 本分析の結果から公的な幼 児教育投資に効果がない事を明言することはできない 子どもの学力への影響要因として 公的投資だけでなく 個人を取り巻く家庭環境や親の教育投資行動などが強く関係してい る可能性が考えられる これらの影響要因について データの制約上 本研究では検証でき なかったが 既に多くの先行研究で確認されている事実である 今回の研究において 直接就学前教育政策の提言を行うには不十分な結果であるが 限ら れた分析結果から 就学前教育の財政的支援が学力に及ぼす構造は必ずしも単純ではない ことが想像できる したがって ある時点の公的教育支出と学力だけに注目した教育政策は 学力を上げるという目的に対しては必ずしも有効性が期待できない たとえば 幼児教育無 償化は 親の経済的負担が軽くなることによる少子化対策や家計の困窮に対する措置とし て一定の意味があったとしても それにより子どもの学力向上を期待することは容易では ないことを示している このように複雑な構造を持つ教育という分野において 政策目的を 確実に実現するための効果的なアプローチを考えるには 多面的かつ動態的な分析が必要 であるといえる 4.2. 分析の限界と今後の課題 最後に 本稿の分析における限界について以下で整理しておく 本研究における分析の限 界は次の 3 点である 第一に 本分析では子どもの学力に影響を与える重要な項目である 家庭の資源を考慮で きていない 家庭資源には 親の年収や学歴 家族構成などがあげられるが これらは政策 ではコントロール不可能である また 北條 2012 は子どもの学力の 50 が家庭や本人 の要因で決定されると示しており 政策による学力への影響を検証する際には家庭の資源 を適切に取り除く必要があった 実のところ 本分析に取り掛かった当初から この問題に ついて認識しており 総務省より実施されている 全国消費実態調査 からデータの収集を 試みた しかし データを時系列で観察してみると 年度途中で集計単位や集計範囲が変わ るなど連続性が確保されていないことや 都道府県や世帯主年齢などの属性別に集計され 16

たデータを組み合わせることが困難であることがネックとなり 一貫したデータの収集が 不可能であったため家計の資源による影響を推定することができなかった 第二に 本研究では都道府県別のデータを用いて年度ごとにクロスセクション分析を行 ったが クロスセクション分析では地域性や個人の効果等の観察できない要因のコントロ ールが出来ないため パネルデータ分析が望ましいと考えられる 赤林は著書 学力 心理 家庭環境の経済分析 において 学力の規定要因についてのク 13 ロスセクション回帰分析とパネルデータ回帰分析の結果を比較している これによるとク ロスセクションデータ分析の結果からは世帯所得が学力に正の影響を及ぼすことが読み取 れるが パネルデータ分析の結果からははっきりとした因果関係は見られなかった この結 果から 赤林はより正確な分析結果を得るためには一人の個人に対して複数回の観測を持 つパネルデータが必要となると述べている 尚 この先行研究で用いられている JCPS 日 本子どもパネル調査 は 慶應義塾大学パネルデータ設計 解析センターにおいて JHPS 日本家計パネル調査 と KHPS 慶應義塾パネル調査 の付帯調査として 2010 年より 毎年実施されているものである 赤林も指摘している通り この JCPS は 2010 年から開始 された比較的新しい調査であり 観測期間が十分に足りているとは言えないため 現状では これを使った研究にはやはり限界がある 例えば この JCPS を用いた赤林らの 2011 年の 研究では 2 時点だけのパネルデータしか利用できなかったこともあり 14固定効果モデル を使わざるを得なかった また 一時的な所得ではなく恒常所得の学力に及ぼす影響を見る ためには 長期の観測が必要である しかしながら 今後 こういったパネルデータが日本 でも蓄積され 利用可能になれば エビデンスに基づいたより効率的な教育政策を立案する ことができる また パネルデータの利用により動態的な分析が可能となるので 中長期的 目標を達成するための政策を考える事も出来る 筆者らの今後の課題はこのようなパネル データを用いてより正確で動態的な分析を行い 中長期的目標を達成するための適切な政 策を考える事である 第三に 筆者らが対処できない課題として 統計があった 研究が盛んな欧米と比べて 日本のデータは研究を前提とした統計が構成されていないということを実感するとともに データは存在しても個人情報保護などの観点から利用できるデータが限られているという 問題があった それゆえ 正しく因果関係を推定することを断念せざるを得ない状況に度々 直面した 日本の政策について 優秀な研究者によって質の高い分析が行われ 客観的に評 価されるためには 統計のデザインやアクセスのしやすさは重要な要素である 統計の整備 について その重要性を認識されたい 以上で述べたように 本研究を通して筆者らは効果的な教育政策立案を目的とした統計 データの整備及び蓄積の必要性や パネルデータ分析手法を用いた より多面的で動態的な 13 14 参照 赤林英夫, 直井道生 敷島千鶴編著 学力 心理 家庭環境の経済分析 (2016) p.7481 固定効果モデルでは 時間を通じて一定である観察できない要素しか制御できない 時間を通じて変化する要素を 制御するためには変量効果モデルが必要であるが そのためには 3 時点以上のパネルデータが必要である 17

研究の必要性を実感した データの蓄積には時間と労力が要されるため 今すぐに望ましい 研究を行う事は難しい しかしながら 筆者らの研究がこうした統計データ蓄積の必要性を 政策立案者らに喚起するものとなれば幸いである 後期授業では上で紹介した JCPS 日本 子どもパネル調査 等を利用して より高度で意義のある研究を行いたい 18

謝辞 本稿を作成するにあたり 戒能一成先生及び松村敏弘教授に熱心なご指導を賜った 特に 分析手法に関して丁寧かつ示唆あるご助言を頂き 力不足ながら本稿をこのように形にす ることができたのも 両先生のお力添えあってのことである この場を借りて深く感謝の 意を表したい なお 本稿における誤りは全て筆者に起因するものである 本稿の内容や 分析結果は同じく筆者に属し ご指導いただいた先生方々の見解を示すものではない 19

データ出所 国立教育政策研究所. 文部科学省. 全国的な学力調査 全国学力 学習状況調査等, http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/gakuryokuchousa/sonota/13088.htm 参照 20160708. 文部科学省. 地方教育費調査 在学者 国民一人当たり及び一学級当たり経費, http://www.estat.go.jp/sg1/estat/list.do?bid=000001073026&cycode=0 参 照 20160708. 参考文献 北條雅一 2012 学力を決めるのは学校か家庭か アジア主要国の比較分析, グローバ ル社会の人材育成 活用 2 章. 荒井一博 1995 教育の経済学, 有斐閣. 小塩隆士 2002 教育の経済分析, 日本評論社. ジェームズ J ヘックマン 2015 幼児教育の経済学, 東洋経済新報社. 中室牧子 2015 学力 の経済学, ディスカヴァー トゥエンティワン. 赤林英夫 直井道生 敷島千鶴 2016 学力 心理 家庭環境の経済分析 全国小中学生 の追跡調査から見えてきたもの, 有斐閣. Carneiro, P., & Heckmann, J.(2003) Human capital policy, National bureau of economic research. Carneiro, P., & Heckmann, J.(2003). Human capital policy, National bureau of economic research. Heckman,J.J.(2006) Skill Formation and the Economics of Investting in Disadvantaged Children, Science, Vol.312. Heckman, J.J., Pinto, R., & Savelyev, P. A. 2013 Understanding the mechanisms through which an influential early childhood program boosted adult outcomes, The American Dconomic Review, 103(6), 20522086. 20

付録 付録 1 基本統計量 S t at ist ic Me an Me dian Mo de S t d. De v. Var ian c e Min imu m Max Sa mp le Siz e 全国学力スコア2007年 小学校6年 72.5 72.4 70.8 2.216 4.909 65.1 78.0 全国学力スコア2008年 小学校6年 60.1 60.0 60.2 2.611 6.817 53.6 69.2 全国学力スコア2009年 小学校6年 63.6 63.4 63.6 2.162 4.672 59.2 71.4 全国学力スコア2010年 小学校6年 71.4 70.9 70.7 2.041 4.165 66.9 79.1 全国学力スコア2012年 小学校6年 67.5 67.1 67.4 2.045 4.182 62.1 73.4 全国学力スコア2013年 小学校6年 62.1 61.9 61.6 2.359 5.564 57.9 70.2 全国学力スコア2014年 小学校6年 66.5 66.1 65.2 2.096 4.392 63.6 74.0 全国学力スコア2015年 小学校6年 64.4 63.8 63.4 2.117 4.482 61.5 71.3 幼児教育支出1998年 幼児一人あたり 739,727 731,951 141829.395 20115577285 530,048 1,296,889 幼児教育支出1999年 幼児一人あたり 738,060 730,042 111813.783 12502322130 529,367 1,077,289 幼児教育支出2000年 幼児一人あたり 769,097 746,066 153644.132 23606519416 574,332 1,456,329 幼児教育支出2001年 幼児一人あたり 728,201 736,837 97505.167 9507257496 544,527 989,918 幼児教育支出2003年 幼児一人あたり 761,491 767,409 140040.926 19611460931 485,208 1,220,514 幼児教育支出2004年 幼児一人あたり 729,896 709,781 112659.880 12692248521 498,845 1,085,793 幼児教育支出2005年 幼児一人あたり 748,782 717,032 142410.727 20280815305 510,345 1,203,920 幼児教育支出2006年 幼児一人あたり 742,638 722,544 132033.661 17432887700 541,869 1,094,026 小学校教育支出2006年 児童一人あたり 937,196 913,175 116219.369 13506941837 735,932 1,302,541 小学校教育支出2007年 児童一人あたり 930,949 915,341 112727.582 12707507635 737,280 1,276,757 小学校教育支出2008年 児童一人あたり 934,315 907,203 113197.877 12813759385 733,113 1,243,917 小学校教育支出2009年 児童一人あたり 924,118 904,965 106578.632 1135900 760,700 1,211,459 小学校教育支出2011年 児童一人あたり 980,890 955,630 144299.186 20822255090 754,696 1,299,748 小学校教育支出2012年 児童一人あたり 965,244 950,024 129362.779 167328623 742,684 1,274,350 小学校教育支出2013年 児童一人あたり 989,224 972,617 1990.818 21901282155 741,079 1,423,420 小学校教育支出2014年 児童一人あたり 982,751 975,490 135311.861 18309299851 744,439 1,245,659 付録 2 国語テストスコアを用いた偏相関分析結果 国スコア 07 国スコア 08 国スコア 09 国スコア 10 国スコア 12 国スコア 13 国スコア 14 国スコア 15 相関係数 0.518 0.7 0.049 0.624 0.469 0.598 0.546 0.496 0.125 0.164 0.894 0.054 0.172 0.068 0.107 0.145 付録 3 算数テストスコアを用いた偏相関分析結果 算スコア 07 算スコア 08 算スコア 09 算スコア 10 算スコア 12 算スコア 13 算スコア 14 算スコア 15 相関係数 0.488 0.439 0.122 0.805 0.304 0.676 0.359 0.576 0.153 0.204 0.736 0.005 0.394 0.032 0.308 0.082 付録 4 パネルデータ分析の結果 本研究では都道府県別のデータを用いて年度ごとにクロスセクション分析を行ったが クロスセクション分析では地域性や個人の効果等の観察できない要因のコントロールが出 来ないため パネルデータ分析が望ましいと考えられる 15学力テストのスコアを目的変数 とし 幼児教育支出と小学校教育支出を説明変数としてパネルデータ回帰分析を行った結 15 本分析では ハウスマン検定の結果に基づき固定効果モデルを用いた 21

果 以下のように係数は負になり p 値は更に上昇した 係数 幼児支出 8期のラグ 2.45 0.421 小学支出 1期のラグ 5.030 0.313 この結果から クロスセクション分析では排除できなかった地域性等の観察できない要因 をコントロールすることで大幅に結果が変わることが分かった これは言い換えると クロ スセクション分析によって得られた相関は見せかけの相関でしかないことを示唆している 22