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のつながりは重要であると考える 最近の研究では不眠と抑うつや倦怠感などは互いに関連し, 同時に発現する症状, つまりクラスターとして捉え, 不眠のみならず抑うつや倦怠感へ総合的に介入することで不眠を軽減することが期待されている このようなことから睡眠障害と密接に関わりをもつ患者の身体的 QOL( 痛

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第 3 部食生活の状況 1 食塩食塩摂取量については 成人男性では平均 11.6g 成人女性では平均 10.1gとなっており 全国と比較すると大きな差は見られない状況にあります 図 15 食塩摂取量 ( 成人 1 日当たり ) g 男性

静岡県自殺対策行動計画

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[ 原著論文 ] メタボリックシンドローム該当者の年齢別要因比較 5 年間の健康診断結果より A cross primary factors comparative study of metabolic syndrome among the age. from health checkup resu

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宗像市国保医療課 御中

評価項目 A Bともすべての項目に を入れてください 評価項目 A 宣言内容 ( 共通項目 ) チェック項目 取り組み結果 出来た概ね出来た出来なかった 1 経営者が率先し 健康づくりに取り組みます 健康宣言証の社内掲示など 健康づくりに関する企業方針について 従業員へ周知していますか? 経営者自身

概要 特別養護老人ホーム大原ホーム 社会福祉法人行風会 平成 9 年開設 長期入所 :100 床 短期入所 : 20 床 併設大原ホーム老人デイサービスセンター大原地域包括支援センター 隣接京都大原記念病院

協会けんぽ加入者における ICT を用いた特定保健指導による体重減少に及ぼす効果に関する研究広島支部保健グループ山田啓介保健グループ大和昌代企画総務グループ今井信孝 会津宏幸広島大学大学院医歯薬保健学研究院疫学 疾病制御学教授田中純子 概要 背景 目的 全国健康保険協会広島支部 ( 以下 広島支部

8 A B B B B B B B B B 175

スライド 1


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スライド 1

地域包括支援センターにおける運営形態による労働職場ストレス度等の調査 2015年6月

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「不眠に関する意識と実態調査」調査結果概要

精神障害者支援機関での自殺に関する支援者ニーズの調査 中間報告

新潟県の自殺の現状 平成 27 年の本県の自殺者数は厚生労働省の人口動態統計によると 504 人です 自殺者数の推移を見ると 平成 10 年に国と同様 中高年男性を中心とした自殺者の急増があり 当時は県内で 800 人を超える方が毎年自ら死を選択されるという状況でした 以後漸減し 平成 27 年の

< アンケート結果 > 健康経営等に関する設問 Q. 貴社において 改善 解決したい課題はありますか Q. 貴社において 従業員が健康的に働けるよう独自に取り組んでいること ( または今後 取り組んでみたいことは何ですか Q. ご自身の健康のために独自に取り組んでいること ( または今後取り組んでみ

調書のの見方 新規 新規事業の実施 現行どおり 事業をする 充実 事業の充実 強化を図る 改善 事業の見直し 改善を図る 縮小 事業規模を縮小する 廃止 事業を廃止する 2

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様式 3 論文内容の要旨 氏名 ( 神﨑光子 ) 論文題名 周産期における家族機能が母親の抑うつ 育児自己効力感 育児関連のストレス反応に及ぼす影響 論文内容の要旨 緒言 女性にとって周産期は 妊娠 分娩 産褥各期の身体的変化だけでなく 心理的 社会的にも変化が著しいため うつ病を中心とした気分障害

高齢者におけるサルコペニアの実態について みやぐち医院 宮口信吾 我が国では 高齢化社会が進行し 脳血管疾患 悪性腫瘍の増加ばかりでなく 骨 筋肉を中心とした運動器疾患と加齢との関係が注目されている 要介護になる疾患の原因として 第 1 位は脳卒中 第 2 位は認知症 第 3 位が老衰 第 4 位に

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特定健診の受診率は毎年上昇しており 平成 28 年度は県平均よりも 7% 高い状況 となっていますが 国が示す目標値 60% を達成するには更なる工夫や PR が必要とな っています 長与町国保の医療費は平成 25 年度から上昇していましたが 平成 28 年度は前年度より約 3 億円減少し 1 人当

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

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ピッツバーグ睡眠質問票日本語版

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論文内容の要旨

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長期失業者の求職活動と就業意識

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調査の概要 本調査は 788 組合を対象に平成 24 年度の特定健診の 問診回答 (22 項目 ) の状況について前年度の比較から調査したものです 対象データの概要 ( 全体 ) 年度 被保険区分 加入者 ( 人 ) 健診対象者数 ( 人 ) 健診受診者数 ( 人 ) 健診受診率 (%) 評価対象者

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Ⅰ. 調査の概要. 調査目的日本の全国民を対象に健康日本 2( 第二次 ) に関連する健康意識 認知度調査を評価することで 健康意識における重点課題を把握すること 2 経年的な健康意識の推移を把握することを目的とする これにより 今後の情報発信のあり方を検討する 本年調査は昨年調査に続いて2 回目の

歯や口腔の健康について

当し 図 6. のように 2 分類 ( 疾患の有無 ) のデータを直線の代わりにシグモイド曲線 (S 字状曲線 ) で回帰する手法である ちなみに 直線で回帰する手法はコクラン アーミテージの傾向検定 疾患の確率 x : リスクファクター 図 6. ロジスティック曲線と回帰直線 疾患が発

資料 3 全国精神保健福祉センター長会による自殺予防総合対策センターの業務のあり方に関するアンケート調査の結果全国精神保健福祉センター長会会長田邊等 全国精神保健福祉センター長会は 自殺予防総合対策センターの業務の在り方に関する検討チームにて 参考資料として使用されることを目的として 研修 講演 講

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論文題目 大学生のお金に対する信念が家計管理と社会参加に果たす役割 氏名 渡辺伸子 論文概要本論文では, お金に対する態度の中でも認知的な面での個人差を お金に対する信念 と呼び, お金に対する信念が家計管理および社会参加の領域でどのような役割を果たしているか明らかにすることを目指した つまり, お

第3章「疾病の発症予防及び重症化予防 1がん」

 

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QOL) を向上させる支援に目を向けることが必要になると考えられる それには統合失調症患者の生活の質に対する思いや考えを理解し, その意向を汲みながら, 具体的な支援を考えなければならない また, そのような背景のもと, 精神医療や精神保健福祉の領域において統合失調症患者の QOL 向上を目的とした

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2016 年 03 月 01 日 サンプル株式会社本社事業場エイギョウブ ジョウホウタロウ様 _SPL ltpaper ストレスチェックキット個人用レポート 裏面のストレスレーダーもお読み下さい ストレスチェック総合 あなたのストレスの状況は

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< 評価結果 ( 点数 ) について > 項目評価点 ( 合計 ) ストレスの要因に関する項目心身のストレス反応に関する項目周囲のサポートに関する項目合計 <あなたのストレスの程度について> あなたはストレスが高い状態です ( 高ストレス者に該当します ) セルフケアのためのアドバイス < 面接指導

Ⅰ 緒言 睡眠呼吸障害 (sleep-disordered breathing: 以下,SDB) は高血圧, 虚血性心疾患をはじめとする循環器系疾患の危険因子であるばかりでなく, 睡眠の量 質の低下による日中の眠気 居眠り等により, 交通事故をはじめとする産業災害や集中力低下による業務中のケアレスミ

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ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

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経済学コース論文要約

表 5-1 機器 設備 説明変数のカテゴリースコア, 偏相関係数, 判別的中率 属性 カテゴリー カテゴリースコア レンジ 偏相関係数 性別 女性 男性 ~20 歳台 歳台 年齢 40 歳台

地域産業保健センターの医師による面接指導の手順と進め方 面接指導の手順と進め方の概略を示したものです 具体的な手順はチェックリストの各項目毎に記載されています また 詳しくはマニュアルを参照してください 必要により 面接指導の目的である 5( 評価と判定 ) 6( 保健 生活 医療指導 ) 7( 事

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多くの大学においては 新入生のオリエンテーション時やサークルの代表者に 未成年者の飲酒の防止と イッキ飲み 等過剰飲酒の禁止に関する指導や啓発が行われています また 平成 27 年度からは 県保健所 精神保健福祉センター等が中心となり 大学生向けのアルコール健康障害や適正飲酒の知識に関する出前講座を

内閣府自殺対策推進室提出資料 平成 23 年 6 月 15 日内閣府自殺対策推進室内閣府経済社会総合研究所自殺分析班警察庁厚生労働省 東日本大震災に関連する自殺の実態把握について 平成 23 年 3 月 11 日に発災した東日本大震災に関連する自殺の実態把握について 以下 のとおり実施する 1. 定

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自殺意識調査(結果概要)

問 3 問 2 で と回答した方は 上記対策で何を見て知ったか ( 複数回答可 ) % 問 4 問 2で と回答した方は 下記対策で利用したいまたは既に利用しているものは 問 4 何か ( 複数回答可 ) 特定健診 特定保健指導対策 10 (41.9%) がん ( 婦人

Q1.65 歳での健康寿命に 65 を足せば 0 歳での健康寿命になりますか A1. なりません 別途 健康寿命の算定プログラム 等を用いて 0 歳での健康寿命を算定する必要があります 例えば 健康寿命の算定方法の指針 の図 4-3 の男の算定結果を見ると 健康な期間の平均が 65 歳時点では 17

助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

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図 4 心配事や悩み事を聞いてくれる人の有無の割合 十和田市 いない 160% 市内事業所勤務者 いない 182% いる 840% いる 818% 図 5 あなたに気を配ったり 思いやってくれる人の有無の割合 出典 : 平成 23 年度健診受診 未受診者と事業所アンケート 悩み事を聞いてくれる人がい

,995,972 6,992,875 1,158 4,383,372 4,380,511 2,612,600 2,612, ,433,188 3,330, ,880,573 2,779, , ,

女子高校生の生活習慣や健康に対する意識調査と発育状況 10 年前との比較検討 cm 160 a) 身長当校 全国平均 cm +1.5cm kg 54 b) 体重 当校 全国平均 kg -1.3kg 51

Transcription:

職場におけるメンタルヘルス対策とし ての睡眠保健指導の評価に関する研究 静岡産業保健推進連絡事務所 巽あさみ 鎌田隆 住吉健一 内野文吾 荒井方代 佐野雪子他 1

研究の背景 自殺者の約 3 割弱が被雇用労働者 勤め人であること 自殺の原因の半数が健康問題であり そのうち 43.3% がうつ病等である うつ病患者の 90% 以上に不眠症状があることや不眠とうつ病には両方向の関連性があると報告されている (Kaneita et al,2006) 睡眠障害 特に不眠をスクリーニングし 睡眠障害の高リスク者に対し保健指導を行うことによって改善を促すシステムを構築した (Tatsumi et al,2012) これらにより早期のメンタルヘルス不調の予防及びうつ病等を早期に発見 し早期治療に結びつけるための質の高い保健指導を担保することが期待で きると考える 今回は本システムによる調査を実施したので報告する 研究目的 1. 睡眠状況 生活習慣 生活状況について 事業場における 睡眠の実態 を把握し 睡眠障害の影響因子を明らかにする 2. 睡眠ハイリスク者で睡眠保健指導を実施した介入群と介入をしない対照群について K6 ピッツバーグ睡眠質問票の得点等について前後比較を行い 睡眠保健指導を評価し その効果を明らかにする 2

研究方法 1) 対象者と調査方法 : 事業場における 20 歳 ~64 歳の労働者に対して Web による睡眠調査を行い 1 その実態を把握するという量的記述的研究 2 睡眠の高リスク者に睡眠保健指導を実施し 実施前 ( 初回調査 ) と 3 ヶ月後に睡眠調査を行うという介入研究である 今回は 1 初回回答者 904 人と 2 睡眠高リスク者で初回と 3 か月後の両方に回答が得られた 220 人を分析対象とした 2) 調査項目 : (1) 睡眠状況 :PSQI(Pittsburgh Sleep Quality Index) の各項目および 実睡眠時間 熟眠感がない 疲れていても眠れない 眠っても疲れがとれない おっくう感がある イライラ感がある等の症状 (2) K6 調査票 : うつ病等の評価として使用 (Furukawa らにより 信頼性 妥当性が確認されている ) (3) 生活習慣に関する調査項目 3

睡眠保健指導支援システム 振り返り 保健行動 ( 生活習慣改善 受診行動 ) 変容 うつ病 自殺予防 受診者の流れ 対象者健康診断を受診する住民 または労働者 ( 毎年 1 回 ) 睡眠に関する調査票 * 早朝覚醒等 *2 週間以上続く不眠 *K6 調査票など 睡眠に関する調査で 低リスク者 今後の健康維持増進リーフレットの配布のみ睡眠に関する調査で ハイリス高ク者 健康指導健康維持 増進 不眠がうつ病等の症状であることがわかるうつ病借金 雇用問題 人間関係など要因別に相談機関紹介生活習慣カフェイン アルコール ニコチンへの対応指導生活スケジュール交代勤務者 仕事 介護 育児 概日リズ 31 か月後の評価 1 年後の評価 保健指導 睡眠保健指導を実施 ムへの対応指導受診勧奨うつ病その他病気の疑い医療機関紹介 者 の流れ 事前に 睡眠保健指導 者養成研修 を受講し 睡眠の理解を深める 要睡眠保健指導者の選定 - 選定基準による- 結果のお知らせ 活用 保健指導マニュアル に沿って 保健指導 相談 医療機関紹介等を実施 保健指導の評価 改善 継続 ( 個人 集団 ) 4

分析方法 事業場労働者の睡眠状況の実態を知るために男女別に若年 (20 30 歳代 ) 中年群(40 50 歳以上 ) に分けて睡眠と生活習慣及びうつ 不安障害 (K6) との関連について t 検定またはχ 二乗検定を実施した PSQIと生活習慣との関連について 重回帰分析 ( 強制投入法 ) を行った 保健指導の効果を測定するために PSQI 及びK6 得点について対応のあるt 検定で前後比較を実施した 倫理的配慮 研究への参加は任意であること等を説明し 同意書面にて同意が得られた者を対象にした 本研究は浜松医科大学 医の倫理委員会 の承認を得て実施した 5

結果 表 1 対象者の睡眠状況 (n=904) 男性 (n=734 人 ) 女性 (n=170 人 ) 20.30 歳代 40.50 歳以上 p-value 20.30 歳代 40.50 歳以上 p-value n=274 n=460 n=70 n=100 睡眠習慣睡眠時間 ( 時間 / 日 ) 6.33±0.88 6.31±0.92 0.699 6.337±0.9 5.94±0.9 0.002 PSQI 得点 4.83± 2.05 4.85± 2.14 0.869 4.92± 1.93 5.23± 2.15 0.351 睡眠の質評価 良い 185(67.5%) 350(76.1%) 55(78.6%) 70(70.0%) 悪い 89(32.5%) 110(23.9%) 0.031 15(21.4%) 30(30.0%) 0.223 日中の眠気 なし 153(55.8%) 262(56.9%) 41(58.6%) 59(59.0%) 1 回未満 ~1 2 回 / 週 106(38.7%) 179(38.9%) 26(37.1%) 34(34.0%) 3 回以上 - 週 15(5.5%) 19(4.1%) 0.701 3(4.3%) 7(7.0%) 0.729 夜間早朝覚醒なし 164(59.8%) 204(44.3%) 28(40.0%) 45(45.0%) 1 回未満 ~1 2 回 / 週 85(31.0%) 196(42.6%) 31(44.3%) 40(40.0%) 3 回以上 - 週 25(9.1%) 60(13.0%) <0.001 11(15.7%) 15(15.0%) 0.805 n= 数 ( %) PSQI(Pittburgh PSQI(PittsburghSleep SleepQuality QualityIndex) Index) 年代別の差 :χ2 検定 t 検定 年代別の差 :x2 検定または t 検定 6

結果 表 2 対象者の生活習慣等 (n=904) 男性 女性 20.30 歳代 40.50 歳以上 p-value 20.30 歳代 40.50 歳以上 p-value n=274 n=460 n=70 n=100 K6 得点 3.52±4.0 3.08±3.75 0.137 4.03±3.51 3.61±3.81 0.468 BMI 22.4±3.1 23.4±2.8 <0.001 19.9±2.0 21.5±3.0 0.001 喫煙習慣 毎日喫煙 53(19.4%) 111(24.1%) 1(1.4%) 6(6.0%) 過去喫煙者 68(24.0%) 192(42.0%) 7(10.0%) 10(10.0%) 非喫煙者 152(55.8%) 156(33.5%) 62(88.6%) 84(84.0%) 0.335 不明 1(0.7%) 1(0.4%) <0.001 0 0 飲酒習慣 現在飲酒者 146(52.3%) 296(64.5%) 26(37.1%) 32(32.0%) 非飲酒者 125(46.3%) 156(34.3%) 43(61.4%) 66(66.0%) 不明 4(1.4%) 6(1.2%) 0.004 1(1.4%) 2(2.0%) 0.514 運動習慣 週 2-3 回 75(27.4%) 155(33.7%) 7(10.0%) 31(31.0%) 週 1 回 49(17.9%) 81(17.6%) 12(17.1%) 10(10.0%) 月 1-2 回またはしない 148(54.0%) 224(48.7%) 51(72.9%) 59(59.0%) 0.004 不明 2(0.7%) 0 0.207 n= 数 ( %) 年代別の差 :χ2 検定 t 検定 7

結果 睡眠障害と生活習慣の関連 1 表 3 若年 (20.30 歳代 ) 男性の睡眠障害と生活習慣の関連 (n=274) 偏回帰係数 標準偏回帰係数 有意確率 95% 信頼区間 p 下限上限 ( 定数 ) 4.70 0.99 0.00 2.75 6.66 喫煙習慣 -0.16 0.14 0.25-0.44 0.12 飲酒習慣 -0.23 0.22 0.31-0.66 0.21 運動習慣 0.17 0.12 0.16-0.07 0.42 B M I -0.03 0.04 0.43-0.10 0.04 K6 合計点 0.29 0.03 < 0.001 0.24 0.34 R 2 = 0.351 ANOVA p< 0.05 強制投入法 表 4 中年 (40.50 歳代 ) 男性の睡眠障害と生活習慣の関連 (n=460) 偏回帰係数 標準偏回帰係数 有意確率 95% 信頼区間 p 下限上限 ( 定数 ) 2.21 0.85 0.01 0.54 3.88 喫煙習慣 0.31 0.12 0.007 0.08 0.54 飲酒習慣 0.13 0.18 0.47-0.23 0.50 運動習慣 0.05 0.10 0.58-0.14 0.25 B M I 0.04 0.03 0.27-0.03 0.10 K6 合計点 0.28 0.02 < 0.001 0.23 0.33 R 2 = 0.265 ANOVA p< 0.05 強制投入法 8

結果 睡眠障害と生活習慣の関連 2 表 5 若年 (20.30 歳代 ) 女性の睡眠障害と生活習慣の関連 (n=70) 偏回帰係数 標準偏回帰係数 有意確率 95% 信頼区間 p 下限上限 ( 定数 ) 0.85 3.64 0.82-6.51 8.20 喫煙習慣 -0.01 0.79 0.99-1.61 1.59 飲酒習慣 -0.36 0.50 0.48-1.36 0.65 運動習慣 0.53 0.39 0.18-0.26 1.33 B M I 0.12 0.13 0.39-0.15 0.39 K6 合計点 0.25 0.07 < 0.001 0.12 0.39 R2 = 0.313 ANOVA p< 0.05 強制投入法 表 6 中年 (40.50 歳代 ) 女性の睡眠障害と生活習慣の関連 (n=100) 偏回帰係数 標準偏回帰係数 有意確率 95% 信頼区間 p 下限上限 ( 定数 ) 2.11 2.06 0.31-1.99 6.22 喫煙習慣 -0.85 0.38 0.028-1.61-0.10 飲酒習慣 0.74 0.44 0.10-0.14 1.61 運動習慣 0.44 0.22 0.06-0.01 0.88 B M I 0.12 0.07 0.08-0.01 0.25 K6 合計点 0.23 0.06 < 0.001 0.10 0.35 R2 = 0.306 ANOVA p< 0.05 強制投入法 9

結果 男性労働者の保健指導介入群と対照群の前後比較 n=175 ベースライン 3か月後 変化の平均値 群平均値の変化 群 N 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差 (p 値 ) K6 合計点 介入群 87 5.62 4.71 4.37 4.44 1.25 2.67 < 0.001 対照群 88 5.56 5.10 5.57 5.00-0.01 3.30 0.974 C1 睡眠の質 介入群 87 1.53 0.59 1.40 0.66 0.13 0.63 0.063 対照群 88 1.57 0.52 1.57 0.62 0.00 0.57 1.000 C2 入眠時間 介入群 87 0.92 0.72 0.84 0.76 0.08 0.65 0.252 対照群 88 0.81 0.72 0.84 0.87-0.03 0.61 0.604 C3 睡眠時間 介入群 87 1.82 0.54 1.60 0.75 0.22 0.72 0.006 対照群 88 1.78 0.58 1.60 0.72 0.18 0.62 0.007 C4 睡眠効率 介入群 87 0.11 0.32 0.17 0.55-0.06 0.56 0.339 対照群 88 0.20 0.57 0.17 0.55 0.03 0.60 0.593 C5 睡眠困難 介入群 87 0.92 0.44 0.90 0.37 0.02 0.46 0.640 対照群 88 0.93 0.47 0.86 0.48 0.07 0.52 0.223 C6 眠剤使用 介入群 87 0.29 0.87 0.25 0.82 0.03 0.36 0.369 対照群 88 0.13 0.52 0.14 0.59-0.01 0.39 0.783 C7 日中覚醒困難 介入群 87 1.30 0.79 0.97 0.84 0.33 0.68 < 0.001 対照群 88 1.31 0.75 1.26 0.90 0.05 0.83 0.608 C8 合計得点 介入群 87 6.89 1.49 6.13 2.29 0.76 1.93 < 0.001 対照群 88 6.73 1.52 6.44 2.47 0.28 1.94 0.173 熟眠感がない 介入群 87 3.01 1.02 3.09 1.10-0.08 0.78 0.339 対照群 88 2.92 1.01 2.99 0.99-0.07 0.89 0.476 疲れているが不眠 介入群 87 3.70 0.88 3.87 0.96-0.17 0.75 0.035 対照群 88 3.73 0.92 3.74 0.88-0.01 0.78 0.892 眠っても疲れが取れな 介入群 87 3.08 1.01 3.21 1.09-0.13 0.82 0.153 対照群 88 2.89 0.96 3.10 1.09-0.22 0.99 0.043 おっくう感がある 介入群 87 3.40 0.97 3.55 1.00-0.15 0.80 0.085 対照群 88 3.47 1.07 3.47 1.04 0.00 0.77 1.000 イライラ感がある 介入群 87 3.54 0.94 3.69 0.93-0.15 0.74 0.063 対照群 88 3.44 1.04 3.60 0.99-0.16 0.88 0.094 実睡眠時間介入群 87 5.86 0.79 5.95 0.94-0.09 0.78 0.292 対照群 88 5.93 0.79 5.97 1.01-0.42 0.77 0.618 t 検定 10

結果 女性労働者の保健指導介入群と対照群の前後比較 n=45 ベースライン 3か月後 変化の平均値 群平均値の変化 群 N 平均値 標準偏差 平均値 標準偏差平均値 標準偏差 (p 値 ) K6 合計点 介入群 24 6.25 4.39 4.67 4.29 1.58 3.56 0.040 対照群 21 4.19 3.84 5.00 4.32-0.81 2.96 0.225 C1 睡眠の質 介入群 24 1.54 0.59 1.25 0.53 0.29 0.69 0.050 対照群 21 1.62 0.67 1.71 0.64-0.10 0.44 0.329 C2 入眠時間 介入群 24 1.38 0.82 0.79 0.78 0.58 0.83 0.002 対照群 21 0.95 0.80 0.86 0.73 0.10 0.89 0.629 C3 睡眠時間 介入群 24 1.63 0.71 1.58 0.78 0.04 0.62 0.747 対照群 21 1.76 0.54 1.67 0.58 0.10 0.44 0.329 C4 睡眠効率 介入群 24 0.08 0.28 0.00 0.00 0.08 0.28 0.162 対照群 21 0.19 0.60 0.05 0.22 0.14 0.48 0.186 C5 睡眠困難 介入群 24 1.04 0.36 0.83 0.38 0.21 0.51 0.057 対照群 21 0.95 0.38 0.95 0.59 0.00 0.55 1.000 C6 眠剤使用 介入群 24 0.17 0.64 0.21 0.72-0.04 0.46 0.664 対照群 21 0.29 0.90 0.33 0.91-0.05 0.22 0.329 C7 日中覚醒困難 介入群 24 1.29 0.91 0.92 0.88 0.38 0.97 0.071 対照群 21 1.05 0.86 1.05 0.86 0.00 0.63 1.000 C8 合計得点 介入群 24 7.13 1.90 5.58 2.06 1.54 2.17 0.002 対照群 21 6.81 1.54 6.62 2.22 0.19 1.57 0.584 熟眠感がない 介入群 24 3.00 1.02 3.42 1.21-0.42 1.14 0.086 対照群 21 3.05 1.02 2.67 0.91 0.38 0.80 0.042 疲れているが不眠 介入群 24 3.46 0.83 3.71 0.91-0.25 0.85 0.162 対照群 21 3.71 0.85 3.86 1.01-0.14 0.91 0.480 眠っても疲れが取れな 介入群 24 2.71 1.08 3.38 1.06-0.67 1.01 0.004 対照群 21 2.67 1.02 2.95 1.16-0.29 1.10 0.249 おっくう感がある 介入群 24 2.96 1.00 3.50 1.06-0.54 1.10 0.025 対照群 21 3.43 0.75 3.62 0.59-0.19 0.51 0.104 イライラ感がある 介入群 24 3.46 0.83 3.83 0.92-0.38 0.97 0.071 対照群 21 3.43 0.75 3.62 0.86-0.19 0.60 0.162 実睡眠時間介入群 24 5.85 1.05 6.06 0.83-0.20 0.63 0.130 t 検定 対照群 21 5.74 0.82 5.95 0.79-0.21 0.58 0.107 11

考察 1 事業場における労働者の睡眠の実態 本研究におけるPSQI 総合得点は年齢階層別にみて 4.83~5.23であり 西村らの同様の調査 (2.8~3.8) と比較して高い結果であった 西村らの対象が健康推進プロジェクトのメンバーであり 健康に関心が高い集団であること 一般住民であることが異なる要因等であることが考えられる 睡眠について 男性の主観的な睡眠の質は若年群ほど良くないこと 夜間早朝覚醒は中年群ほど多いこと 女性の睡眠時間が中年群ほど短いことは生物学的要素 ( 年齢 ) が影響しているという先行文献と同様であった 生活習慣について男性は 中年群ほどBMIが高く 喫煙者や常時飲酒者が多い結果であった 女性は 中年群ほどBMIが高く中年群ほど運動をしていた このことから若年群と中年群では生活習慣が異なることが推察された PSQIに影響する因子として 若年群男女ではK6 得点 中年群男女では喫煙とK6 得点があり どの年代においても睡眠障害とうつ 不安障害がお互いに強く影響していることが推測された 12

考察 2 睡眠保健指導の効果 男性労働者においては 介入群は前後比較において K6 得点 睡眠時間 日中覚醒困難 PSQI 総合得点 疲れていても眠れない の各項目が初回調査より 3 か月後の調査において有意に改善していた 一方 対照群は睡眠時間 眠っても疲れがとれた感じがしないが有意に改善していた 女性労働者においては 介入群は前後比較において K6 得点 入眠時間 PSQI 総合得点 眠っても疲れがとれない おっくう感がある の各項目が初回調査より3か月後の調査において有意に改善していた 一方 対照群は熟眠感がないが有意に悪化していた このことにより 睡眠保健指導を実施したことで睡眠の改善が認められ 指導に一定の効果があったことが示唆された 13

結論 今回の結果により 下記のことが明らかになった 1. 主観的な睡眠の質は若年群において良くないが それ以外の睡眠状況や生活習慣は中年群で良くない結果であった 2.PSQI に影響を及ぼす要因として K6 が年代を問わず影響していた また 中年群男女は喫煙による影響が認められた 3. 事業場において 睡眠保健指導システムに沿って調査を実施し ハイリスク者に睡眠保健指導を実施することによって 3 か月後に睡眠状況が改善することが明らかになった 14

研究の限界と今後の課題 1. 今回は睡眠保健指導支援システムに対する使い易さや 保健指導内容等については評価していない 今後 保健師 被保健指導者を対象に検討する必要がある 2. 高リスク者をスクリーニングする基準について 今後検討していくために 今回のデータをより多面的な視点から解析していくことが必要である 15