要だと言える. 本研究では人同士のコミュニケーションと同様に, 人と対話エージェントのコミュニケーションにおいても話し手となる人に文化適応した頻度とタイミングで話の聞き手となるエージェントがあいづちを打つことが重要であるとし, 言語表現を伴わないうなずきのみに着目して実験を行うことで検証をした. 実

Similar documents
ニケーションにおいても話し手となる人に文化適応した頻度とタイミングで話の聞き手となるエージェントがあいづちを打つことが重要であると仮定し, それを日本の頻度とタイミングでうなずくエージェントとアメリカの頻度とタイミングでうなずくエージェントを用いて 2 つの実験を行うことで検証した. 実験 1 では

PowerPoint プレゼンテーション

238 古川智樹 機能を持っていると思われる そして 3のように単独で発話される場合もあ れば 5の あ なるほどね のように あ の後続に他の形式がつく場合も あり あ は様々な位置 形式で会話の中に現れることがわかる では 話し手の発話を受けて聞き手が発する あ はどのような機能を持つ のであろ

Microsoft Word - 博士論文概要.docx


人間とエージェント間における性差の身体操作の比較検証

早稲田大学大学院日本語教育研究科 修士論文概要書 論文題目 ネパール人日本語学習者による日本語のリズム生成 大熊伊宗 2018 年 3 月

IPSJ SIG Technical Report Vol.2014-HCI-160 No.8 Vol.2014-UBI-44 No /10/14 1,a) 1,b) 1,c) 1,d) 1. [1] HMD 1 Kyoto Institute of Technology a) kyok

卒業研究発表会  メタバースアバタの属性が パーソナルスペースの形状に及ぼす効果分析

PowerPoint プレゼンテーション

研究計画書

第 1 問 B 身の回りの事柄に関して平易な英語で話される短い発話を聞き, それに対応するイラストを選ぶことを通じて, 発話内容の概要や要点を把握する力を問う 問 1 5 英語の特徴やきまりに関する知識 技 能 ( 音声, 語, 友人や家族, 学校生活など, 身近な話題に関する平易で短い説明を聞き取

大阪工業大学 情報科学部 情報メディア学科 ヒューマンインタフェース研究室

IPSJ SIG Technical Report Vol.2010-GN-75 No /3/19 1. Proposal and Evaluation of Laboratory Experiments for understanding Offshore Software Deve

Water Sunshine

1 高等学校学習指導要領との整合性 高等学校学習指導要領との整合性 ( 試験名 : 実用英語技能検定 ( 英検 )2 級 ) ⅰ) 試験の目的 出題方針について < 目的 > 英検 2 級は 4 技能における英語運用能力 (CEFR の B1 レベル ) を測定するテストである テスト課題においては

博士論文概要 タイトル : 物語談話における文法と談話構造 氏名 : 奥川育子 本論文の目的は自然な日本語の物語談話 (Narrative) とはどのようなものなのかを明らかにすること また 日本語学習者の誤用 中間言語分析を通じて 日本語上級者であっても習得が難しい 一つの構造体としてのまとまりを

Exploring the Art of Vocabulary Learning Strategies: A Closer Look at Japanese EFL University Students A Dissertation Submitted t

T_BJPG_ _Chapter3


IPSJ SIG Technical Report Vol.2014-NL-216 No.6 Vol.2014-SLP-101 No /5/ MMDAgent 1. [1] Wikipedia[2] YouTube[3] [4] [5] [6] [7] 1 Graduate

IPSJ SIG Technical Report Vol.2016-ICS-183 No /3/16 1,a) 2,b) 2,c) 1,d) e- Maeda Kaoru 1,a) Yoshida Naoto 2,b) Fujiwara Kunihiko 2,c) Yonezawa T

自主演習履修の手引き 自主演習とは 履修手引きには 個々の演習の内容は, 学生自らがその目標, 計画を設定する. とあります. 学生自身が学習内容を決める科目です. 自主演習の履修手順 1. 演習内容の企画 どのような演習を行いたいのか企画してください. 演習のテーマを決定してください. 必要に応じ

C Approach to attention using Reverse Perspective illusion by Agent projecting three-d face picture into the Hemisphere Model Hikaru Komori Na

H30全国HP

メタバースアバタとの パーソナルスペースの 適応行動に関する研究

Microsoft Word - 214J3903.docx

平成 26 年 8 月 21 日 チンパンジーもヒトも瞳の変化に敏感 -ヒトとチンパンジーに共通の情動認知過程を非侵襲の視線追従装置で解明- 概要マリスカ クレット (Mariska Kret) アムステルダム大学心理学部研究員( 元日本学術振興会外国人特別研究員 ) 友永雅己( ともながまさき )

第 9 章 外国語 第 1 教科目標, 評価の観点及びその趣旨等 1 教科目標外国語を通じて, 言語や文化に対する理解を深め, 積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度の育成を図り, 聞くこと, 話すこと, 読むこと, 書くことなどのコミュニケーション能力の基礎を養う 2 評価の観点及びその趣旨

相互行為における不同意の会話分析研究 ―マルチモダリティの視点から―

Microsoft Word - youshi1113

Présentation PowerPoint

た 観衆効果は技能レベルによって作用が異なっ 計測をした た 平均レベル以下の選手は観衆がいると成績が 下がったが, 平均以上の選手は観衆に見られると成績が上がった 興味深いことに, 観衆効果は観衆の数に比例してその効果を増すようである ネビルとキャン (Nevill and Cann, 1998)

データ概要調査対象 : 留学ジャーナルから 7 月 ~9 月に短期留学 (1 週間 ~4 週間の留学を指す ) した大学生に任意で実施したアンケート調査の結果調査人数 :64 名調査期間 :2016 年 9 月 26 日 ~10 月 16 日 留学期間 1 週間以内 2 週間 3 週間 4 週間 合

[3][4] [5] ) 2) c2012 Information Processing Society of Jap

スマートフォン利用が 自動車運転に与える影響について

6 年 No.22 my summer vacation. 1/8 単元の目標 主な言語材料 過去の表し方に気付く 夏休みの思い出について, 楽しかったことなどを伝え合う 夏休みの思い出について, 音声で十分に慣れ親しんだ簡単な語句や基本的な表現で書かれたものの意味が分かり, 他者に伝えるなどの目的

00hyoshi

文字コード略歴 よこやままさふみ社内勉強会 2012/05/18 文字コード略歴 Powered by Rabbit 2.0.6

Microsoft Word - 04章 テレビ視聴.doc

上智短大紀要表紙29号

【NEM】発表資料(web掲載用).pptx

< 評価表案 > 1. 日本人 ( ロールプレイ当事者 ) 向け問 1. 学習者の言っていることは分かりましたか? 全然分からなかった もう一息 なんとか分かった 問 2 へ問 2. 学習者は, あなたの言っていることを理解し, 適切に反応していましたか? 適切とは言えない もう一息 おおむね適切

クチコミ発信と消費に関する調査

4. 聴き取り調査の基礎技能聴き取り調査では面接の基礎技能である かかわり技能 と 傾聴技能 を主に用いることになります かかわり技能は 面接者が協力者との信頼関係を構築するために 観察を基礎とする身体的 心理的に関わる方法のこと 例えば 面接者が視線をあわせる行為 面接者が興味をもって聴いているこ

<4D F736F F D AA90CD E7792E88D5A82CC8FF38BB5816A819A819B2E646F63>

情報処理学会研究報告 IPSJ SIG Technical Report Vol.2018-CE-143 No /2/17 1,a) % [1] [2] (Tokyo Women s College of Physical Educati

超域研究グループワーク資料 月 4 日のグループワーク 各グループに分かれて, 以下のことをしてもらいます 1. 役割を決める ( 進行係 記録係 発表係 ) 2. グループワークのテーマを決める ( 参考 : 超域研究テーマ一覧 ) 3. 宿題, 課題 1(10/18 までに, グルー

Microsoft Word - ORF docx

[8] Inoue[9] Web [10] [11] [12] [1] c 2014 Information Processing Society of Japan 2

(fnirs: Functional Near-Infrared Spectroscopy) [3] fnirs (oxyhb) Bulling [4] Kunze [5] [6] 2. 2 [7] [8] fnirs 3. 1 fnirs fnirs fnirs 1

ⅱ カフェイン カテキン混合溶液投与実験方法 1 マウスを茶抽出液 2g 3g 4g 相当分の3つの実験群と対照群にわける 各群のマウスは 6 匹ずつとし 合計 24 匹を使用 2 実験前 8 時間絶食させる 3 各マウスの血糖値の初期値を計測する 4 それぞれ茶抽出液 2g 3g 4g 分のカフェ

2 教科に関する調査の結果 ( 各教科での % ) (1) 小学校 国語 4 年生 5 年生 6 年生 狭山市埼玉県狭山市埼玉県狭山市埼玉県 平領均域正等答別率 話すこと 聞くこと 書くこと

2. 先行研究及び本研究の課題 2.1 日本語の敬語について敬語は敬意表現の一種である 文化庁 (2000) によれば敬意表現とは次のようなものである 敬意表現とは, コミュニケーションにおいて, 相互尊重の精神に基づき, 相手や場面に配慮して使い分けている言葉遣いを意味する それらは話し手が相手の

表紙

平成 30 年 6 月 8 日 ( 金 ) 第 5 校時 尾道市立日比崎小学校第 4 学年 2 組外国語活動 指導者 HRT 東森 千晶 JTE 片山 奈弥津 単元名 好きな曜日は何かな? ~I like Mondays.~ 本単元で育成する資質 能力 コミュニケーション能力 主体性 本時のポイント

自己紹介をしよう

コミュニケーションを意識した授業を考えるーJF日本語教育スタンダードを利用してー

JUSE-StatWorks/V5 活用ガイドブック

どのような生活を送る人が インターネット通販を高頻度で利用しているか? 2013 年 7 月 公益財団法人流通経済研究所主任研究員鈴木雄高 はじめにもはやそれなしでの生活は考えられない このように インターネット通販を生活に不可欠な存在と位置付ける人も多いであろう 実際 リアル店舗で買えて ネットで

東邦大学理学部情報科学科 2014 年度 卒業研究論文 コラッツ予想の変形について 提出日 2015 年 1 月 30 日 ( 金 ) 指導教員白柳潔 提出者 山中陽子

表 6.1 横浜市民の横浜ベイスターズに対する関心 (2011 年 ) % 特に何もしていない スポーツニュースで見る テレビで観戦する 新聞で結果を確認する 野球場に観戦に行く インターネットで結果を確認する 4.

2017 : M ,,,,.,..,.,,,,,,, ,,,.. 2.,,.

UNIQLO の販売活動についての一考察 前田ひばり 高知工科大学マネジメント学部 1. 概要現在日本のほとんどの人がUNIQLOという日本企業のブランドを知っているだろう さらに UNIQL Oは着る人を選ばないインナーで圧倒的な知名度がある 日本だけではなく 世界でも多数の店舗を

<4D F736F F D E382E32372E979B82D982A98C7697CA8D918CEA8A77975C8D658F575F93FC8D6594C52E646F6378>

演習:キャップハンディ ~言葉のわからない人の疑似体験~

研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

1 Hiroki Minato 1 Abstract Keywords : [1] 59cm 35cm 24cm [2] 10 [3] [4] 23 1 *1 *1 Yonezawa laboratory Faculty of Informatics Kansai Uni

演習:キャップハンディ ~言葉のわからない人の疑似体験~

博士論文 考え続ける義務感と反復思考の役割に注目した 診断横断的なメタ認知モデルの構築 ( 要約 ) 平成 30 年 3 月 広島大学大学院総合科学研究科 向井秀文

甲37号

表紙.indd

平成 29 年度全国学力 学習状況調査の結果の概要 ( 和歌山県海草地方 ) 1 調査の概要 (1) 調査日平成 29 年 4 月 18 日 ( 火 ) (2) 調査の目的義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から 全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握 分析し 教育施策の成果と課題を検証し

平成 17 年度岐阜県生活技術研究所研究報告 No.8 人間工学的手法による木製椅子の快適性評価と機能設計に関する研究 ( 第 8 報 ) 背もたれの最適な支持位置に関する検討 藤巻吾朗 *1 安藤敏弘 *1 成瀬哲哉 *1 坂東直行 *1 堀部哲 *2 Research on comfort ev

Drive-by Download 攻撃に おけるRIG Exploit Kitの 解析回避手法の調査

Microsoft Word - Malleable Attentional Resources Theory.doc

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

Microsoft Word - 【確認】アンケート結果HP.docx

教科 : 外国語科目 : コミュニケーション英語 Ⅰ 別紙 1 話すこと 学習指導要領ウ聞いたり読んだりしたこと 学んだことや経験したことに基づき 情報や考えなどについて 話し合ったり意見の交換をしたりする 都立工芸高校学力スタンダード 300~600 語程度の教科書の文章の内容を理解した後に 英語

スライド 1

Microsoft Word - takenaka_report.doc

<4D F736F F D FCD81408FEE95F197CC88E682C68FEE95F18CB92E646F63>

MA3-1 30th Fuzzy System Symposium (Kochi, September 1-3, 2014) Analysis of Comfort Given to Human by Using Sound Generation System Based on Netowork o

実験題吊  「加速度センサーを作ってみよう《

大域照明計算手法開発のためのレンダリングフレームワーク Lightmetrica: 拡張 検証に特化した研究開発のためレンダラ 図 1: Lightmetrica を用いてレンダリングした画像例 シーンは拡散反射面 光沢面を含み 複数の面光 源を用いて ピンホールカメラを用いてレンダリングを行った

夫婦間でスケジューラーを利用した男性は 家事 育児に取り組む意識 家事 育児を分担する意識 などに対し 利用前から変化が起こることがわかりました 夫婦間でスケジューラーを利用すると 夫婦間のコミュニケーション が改善され 幸福度も向上する 夫婦間でスケジューラーを利用している男女は 非利用と比較して


Microsoft Word - meti-report

news a

いろいろな衣装を知ろう

1. はじめに 2

ホームページ掲載資料 平成 30 年度 全国学力 学習状況調査結果 ( 上尾市立小 中学校概要 ) 平成 30 年 4 月 17 日実施 上尾市教育委員会

[7] 2 [7] 2.1 Rudlf von Laban Weight Effort Space Effort Time Effort 3 1 Door Plane Shape Wheel Plane Shape Table Plane Shape

2016 年度 アメリカ留学報告書 実習先 : ノースウエストミズーリ州立大学 実習期間 :8 月 24 日 ~12 月 18 日 新潟国際情報大学国際文化学科学籍番号 : 樋浦優里

過去の習慣が現在の習慣に与える影響 インターネットの利用習慣の持ち越し 松岡大暉 ( 東北大学教育学部 ) 1 問題関心本研究の目的は, インターネットの利用の習慣について, 過去のインターネットの利用習慣が現在のインターネットの利用の習慣に影響を与えるかを検証することである. まず, 本研究の中心

ダンゴムシの 交替性転向反応に 関する研究 3A15 今野直輝

IP 電話の品質に関するアンケート及び MOS 評価実験について 総務省総合通信基盤局 電気通信技術システム課

<4D F736F F D208EC08F4B8CA48B86838C837C815B83678D9191F22E646F63>

Microsoft Word - 6年国語「パネルディスカッションをしよう」


Transcription:

対話エージェントのうなずきタイミングが 発話長に及ぼす影響分析 Cultural Study on Speech Duration and Perception of Virtual Agent's Nodding 貴志悠神田智子 Haruka Kishi,and Tomoko Koda 阪工業学情報科学部 Department of Information Science and Technology, Osaka Institute of Technology Abstract:Nodding plays an important role in HAI as well as human-human communication. We compare speech durations and perceptions in cross-cultural human-agent interactions. The results indicates the importance of cultural adaptation of timing and frequency of virtual agent's nodding.. はじめに 近年,HAI(Human-Agent Interaction) 研究の発展により, 人とコンピュータエージェントとのコミュニケーションが注目を集めている []. 特に, 人同士の対話と同様にユーザと対面コミュニケーションを行えるコンピュータエージェントを対話エージェントと呼ぶ. 対話エージェントが人とより自然なコミュニケーションを成立させる要素として, 身振りやうなずき等の身体表現によるノンバーバルコミュニケーション能力を兼ね備えることが挙げられる. ノンバーバルコミュニケーションの中でもうなずきという動作は, 話の聞き手から話し手に対する視覚的フィードバックとしてコミュニケーションを円滑に進める上で非常に重要な役割を果たしている. うなずきはあいづちの一つの形態であり, 非言語表現としてのあいづちに属する []. あいづちとは話し手が発話権を行使している間に聞き手が送る短い表現のことを指し, うん ふうん 等の言語表現とうなずき等の非言語表現に分類される. あいづちの言語表現と非言語表現は伴って使われることもある. また, あいづちには文化差があるとされており, 特 に日本とアメリカではあいづちの文化差が頻度とタイミングに顕著に表れ, 日本人はアメリカ人の 倍も多くあいづちを打つとされている. タイミングに関しても日本人は文節や文末などにあいづちを打つのに対して, アメリカ人は文末のみに集中するとされている []. コミュニケーションにおけるあいづちの頻度とタイミングの重要性について, 例えば日本人とアメリカ人があいづちの文化差を考慮せずにコミュニケーションを行った場合, 聞き手の日本人による日本の頻度とタイミングでのあいづちは, 頻繁にあいづちを打たれることに慣れていない話し手のアメリカ人にとっては話の邪魔をされていると感じるなど, 誤解を招く可能性も考えられる []. 一方で, 聞き手のアメリカ人によるアメリカの頻度とタイミングでのあいづちは, 頻繁にあいづちを打たれることに慣れている話し手の日本人にとっては話を聞いていない, または理解していないと感じるなど, あいづちの文化差によって結果的に良好な人間関係の構築が困難になる可能性も考えられる. そこで, 人同士が円滑なコミュニケーションを成立するためには, 話し手となる人に文化適応した頻度とタイミングで話の聞き手となる人があいづちを打つことが重

要だと言える. 本研究では人同士のコミュニケーションと同様に, 人と対話エージェントのコミュニケーションにおいても話し手となる人に文化適応した頻度とタイミングで話の聞き手となるエージェントがあいづちを打つことが重要であるとし, 言語表現を伴わないうなずきのみに着目して実験を行うことで検証をした. 実験では, 日本人実験参加者は, 日本の頻度とタイミングでうなずくエージェントとの対話の方が, アメリカの頻度とタイミングでうなずくエージェントよりも発話長が長くなり, よりリラックスできる と仮説を立て, 日本の頻度とタイミングでうなずくエージェント ( 以下,JA), アメリカの頻度とタイミングでうなずくエージェント ( 以下,AA), および, うなずかないエージェント ( 以下,NA) を用いて発話長の比較を行った.. 関連研究 本章では, あいづちの定義 日米文化差について述べる.. あいづちとうなずきの定義 あいづち とは話し手が発話権を行使している間に聞き手が送る短い表現のことを指し, 短い表現のうち話し手が発話権を譲ったとみなされる反応を示したものはあいづちとしない. つまり, 聞き役中 の聞き手の反応に焦点をあてたものをあいづちと定義する []. あいづちは, 言語表現と非言語表現に分類される. 言語表現として, うん ふうん 等の短い表現がある. また, 会話の中で話者が交わす笑いや笑いに似た発声も, 会話の進行上重要な役目を果たすと考えられ, 会話という相互作用の中で一定の機能を果たしていることからあいづちの一つの形態とされている. 非言語表現としては, うなずき ( 頭の縦ふり動作 ) が主に上げられる. 非言語表現は言語表現を伴って使われることもある. 非言語表現のみで使われるうなずきは 身振りのあいづち として言語表現のあいづちと同じ機能を持ちうるとされている []. よって, 本研究では言語表現を伴わないう なずきのみでのあいづちに着目する.. あいづちの文化差 本研究では泉子 K メイナードの会話分析 [] を 基にあいづちの文化差が頻度とタイミングに顕著に 表れている日本とアメリカに着目した.[] より, 日 本とアメリカのあいづちの頻度を表 に, あいづち のタイミングを表 に示す. なお, 日本とアメリカ のあいづちデータの収集方法には, 日本人同士とア メリカ人同士それぞれ二人一組各 0 組の日常会話 を録画した計 0 分間のビデオデータが使用されて いる. 表 から日本人とアメリカ人では日本人の方があ いづちを打つ回数が 倍以上多いことがわかる. ま た表 からあいづちを打つタイミングに関しても, 日本人は文末のポーズ付近や, 終助詞 間投助詞付 近などいたるところであいづちを打っていることが 分かる. 言語体系の違いにもよるが, 特に日本人は, 話し手の頭の動きに聞き手もつられてあいづちを打 つことが多い. これに対してアメリカ人のあいづち はあいづち総数のうち 80% 以上を文末のポーズ付近 で占めており, 日本人のようにいたるところであい づちを打たないのは明確である. 本研究では, このあいづちの頻度とタイミングの 違いを日本とアメリカのあいづちの文化差とし実験 を行なった. 表. 日米のあいづちの頻度 [] 日米 各 0 組計 0 分の日常会話データ 日本語 英語 合計 98 回 回. 実験 表. 日米のあいづちのタイミング [] 日米 各 0 組計 0 分の日常会話データ 日本語 英語 文末のポーズ付近 回 09 回 終助詞 間投助詞付近 8 回 付加疑問付近 回 回 話し手の頭の動き付近 回 9 回 本章では, JA,AA,NA との対話における発話 長の比較実験についての詳細を記述する.. 関連研究 本実験は Matarazzo らによる面接官のうなずきと

被面接者の発話長の関係を調べた実験 [] を参考にして行った. これは面接場面における面接官のうなずきを統制し, それによって被面接者の発話長がどのように影響されるのか検討したものである. 具体的には, 警察官と消防士の採用試験の場で,0 人の男性志願者に 人 テーマ ( 職歴, 教育歴, 家族歴 ) について テーマ 分を目安に話してもらう面接を行った. 実験条件として通常グループ (0 人 ) では面接官は テーマとも自然に応答するが, 実験グループ, 実験グループ ( 各 0 人 ) では, 面接官が テーマ目のみ被面接者が話している間は継続的にうなずき, 話し終えるまで繰り返す. グループとも面接官の発言は統制され, 回あたりの発言は 秒以内と決められている. さらに微笑などの承認的な行動は極力避けるように配慮された. 面接官の見かけの効果を考慮して, 実験グループ, 実験グループ はそれぞれ別の人物が面接官の役割を担当した. 図 は各グループの被面接者の一文あたりの平均の発話長である. 実験グループ, 実験グループ ともにほとんどの被面接者がテーマ からテーマ にかけて発話長が増加し, テーマ からテーマ にかけて発話長が減少した. 通常グループでは発話長にこのような変化はなかった. この結果から, 面接官のうなずきによって被面接者の発話長が増加したと言える. 図. 被面接者の平均発話長の推移 []. 使用エージェント本実験で使用する対話エージェントには, 先行研究 [] で開発された聞き手としての傾聴感が最も高いと思われる回数往復 回, 角度垂直方向に 0 速度往復 0. 秒 / 回でうなずき動作を行なう動物型の対 話エージェントを用いた. 対話エージェントの開発環境には Microsoft Visual C++ [7] および DirectX SDK[8], モデリングには MetasequoiaLE[9] が使用されている. エージェントのうなずき動作の例を図 に示す. 図. エージェントによるうなずき動作の例. 実験手順本実験では対話エージェントのうなずき動作を制御するのに実験参加者にはシステムが存在しているかのように見せかけ, 実際は実験者がシステムを操作する Wizard of Oz 法を用いた. 音声は, ビデオ撮影をすることで収録した. 実験参加者に実験手順について説明した後, テーマ 分を目安に均等に話せる テーマを選択してもらった. テーマとして 芸能人, ペット, 食べ物, 本 漫画, 映画, バイト, ファッション, 音楽, スポーツ, 勉強, ニュース,TV 番組, 旅行, ギャンブル, ゲーム, 車 バイク, 料理, その他 の計 8 項目を用意し, その他のみ重複を許した. その場合, 話す内容は違う内容に限った. 実験参加者には テーマ毎に話し終えた時点で 以上です と言ってもらい, その後アンケートに回答してもらう ( 以上です は発話長の対象にしない ). テーマ終えた時点で実験は終了する. 尚, エージェントの提示順およびテーマの提示順はランダムとした. 実験参加者は阪工業学の学生 9 名 ( 男性 7 名, 女性 名 ) である.. 主観評価アンケート実験参加者には, 各テーマ終了後に, アンケートに回答してもらった. アンケートの内容は, 対話そのものに対するストレス (0 項目 ), 対話のスムーズさ ( 項目 ),

7 7 エージェントの積極性 ( 項目 ), エージェント に対する好感度 ( 項目 ), エージェントの見かけ の親身度 ( 項目 ) に関する質問で計 項目,7 段 階 (7: 非常にそう思う : まったくそう思わない ) で ある.. 結果 本章では,JA,AA,NA との対話における発話長 の比較実験の結果を示す.. 発話長の比較実験の結果.. 発話長の計測結果 録画したビデオデータの音声部分を Any Audio Converter(http://www.any-audio-converter.com/jp/) で波 形として抽出し, 無音区間を除去することで発話長を 計測した. その際, 雑音が発話長に含まれないように した. 実験参加者ごとの発話長の計測結果を表 に示 す. 尚, 実験参加者には 分を目安として話をしても らっていたため, 無音区間を除去して 分 (00 秒 ) を超えるデータは省いた. その結果, 被験者は 0 名 ( 男性 名, 女性 9 名 ) となった. 表. 実験参加者ごとの発話長 実験参加者 実験参加者の発話時間 ( 秒 ) 77(0) () 8 8() 8(8) 7(7) 07(0) 0() 9(7) 8 97() 80(0) 77 () () 78 7 () () 8 9(7) 8() 9 08() 80() 8 0 (7) (0) () 7() 99() 9() 8(7) () 7 0() 9(8) 0 7(7) 8(9) 8 0() 90(7) 7 0(0) () 7 8 7() () 0 9 0() (8) 8 0 8(0) 9() 平均 0.(0.8) 8.(0.) 79. あった... 発話長の多重比較結果 実験参加者の発話長を JA AA NA 間で多重比 較を行った結果を図 に示す. 図. 実験参加者の平均発話長の比較 図 より,JA NA 間で有意差 (p 0.0) が見られ た.JA AA 間,AA NA 間では有意差は見られな かった. 0 00 平 80 均発 0 話長 ( 0 秒 ) 0 0. 主観評価に関する分析結果.. 対話そのものの主観評価の分析結果 対話そのものに対する主観評価として, 対話その ものに対するストレス (0 項目 ) 及び対話のスムーズ さ ( 項目 ) について, それぞれ 水準の一元配置分 散分析を行った結果を図 に示す. 尚, 対話そのも のに対するストレスは, ストレスが低い方が評価が 高くなるように, 回答を反転している. 対話そのものに対するストレス :P 0.0 図. 対話そのものに対するストレス ( 左 ), 対話のスムーズさ ( 右 ) の分析結果 対話のスムー ズさ * :P 0.0 :P 0.0 * :P 0.0 () 内はエージェントのうなずき回数 表 より,0 名の実験参加者のうち 名 ( 表 の実験参加者 ~) において,JA の場合が最も発話長が長いことが分かる. さらに,8 名 ( 表 の実験参加者 ~8) において,JA,AA,NA の順に発話長が長くなっていることが分かる. うなずき回数に関しては,JA は平均 0.8 回,AA は平均 0. 回で 図 より, 対話そのものに対するストレスについて,JA AA 間,JA NA 間で有意差 (p 0.0) が見られた. 対話のスムーズさについて,JA NA 間,AA NA 間で有意差 (p 0.0) が見られた. また,JA AA 間で有意傾向 (p 0.0) が見られた.

7 7 7.. エージェントの印象の主観評価の分析結果 エージェントの印象に対する主観評価として, エ ージェントの積極性 ( 項目 ), エージェントに対す る好感度 ( 項目 ), エージェントの見かけの親身度 ( 項目 ) について, それぞれ 水準の一元配置分 散分析を行った結果を図, 図 に示す. エー ジェントの積極性 図. エージェントの積極性 ( 左 ), エージェントに対する好感度 ( 右 ) の分析結果 図. エージェントの見かけの親身度の分析結果 図 より, エージェントの積極性について, すべ てのエージェント間で有意差 (p 0.0) が見られた. また, エージェントに対する好感度について,JA NA 間,AA NA 間で有意差 (p 0.0) が見られた. JA AA 間で有意傾向 (p 0.0) が見られた. 図 よ り, エージェントの見かけの親身度について, すべ てのエージェント間で有意差 (p 0.0) が見られた.. 考察 本章では, 実験結果の考察について述べる.. 発話長の比較実験の考察 エー ジェントのみかけの親身度 :P 0.0 表 より,0 名の実験参加者のうち 名におい て,JA の場合が最も発話長が長く, さらに 8 名の実 験参加者において,JA,AA,NA の順に発話長が長 くなっていることが分かる. うなずき回数に関して は,JA は平均 0.8 回,AA は平均 0. 回で, 日本 のうなずき頻度はアメリカのうなずき頻度の約 倍 であり, 泉子 K メイナードの会話分析の日米のあ いづちの頻度 [] と同様の結果である. 発話長の増減 エー ジェントに対する好感度 * :P 0.0 :P 0.0 * :P 0.0 とうなずきの関係について, 図 より JA NA 間で有意差 (p 0.0) が見られたことから, 対話エージェントによるうなずきが実験参加者の発話長を増加させる要因になっていたと言える. また,JA AA 間, AA NA 間では有意差は見られなかった要因として, 発話長のばらつきが挙げられる. 本実験では テーマ 分を目安としたが, 実験参加者によって, 対話の得意さや, 選んだテーマの中でも話しやすさにばらつきがあったことが原因だと考えられる.. 主観評価に関する考察.. 対話そのものに対する主観評価の考察図 より, 対話そのものに対するストレスについて,JA AA 間,JA NA 間で有意差 (p 0.0) が見られたことから, 日本人実験参加者にとって, 対話エージェントが日本の頻度とタイミングでうなずくことで, 最もストレスが軽減されることが分かる. 対話のスムーズさについては,JA NA 間,AA NA 間で有意差 (p 0.0),JA AA 間で有意傾向 (p 0.0) が見られたことから, 対話エージェントが全くうなずかない場合より, うなずき動作があることで対話がよりスムーズになることが分かる. また, 日本の頻度とタイミングでうなずきがアメリカの頻度とタイミングのうなずきよりも対話をスムーズにする傾向がある. これらから, 日本人実験参加者にとって, 聞き手が日本の頻度とタイミングでうなずくことで対話そのもののストレスが軽減され, 聞き手がうなずき動作を行うことで対話をよりスムーズに行うことができるということを示唆しており, 実験参加者の文化に合わせたうなずきが対話をする上で重要であることが分かる... エージェントの印象の主観評価の考察図 より, エージェントの積極性について, すべてのエージェント間で有意差 (p 0.0) が見られたことから, 対話エージェントが全くうなずかない場合よりもうなずき動作がある方がエージェントに積極性が感じられ, さらに, 日本の頻度とタイミングでうなずく方がアメリカの頻度とタイミングでうなず

く場合よりもエージェントに積極性が感じられることが言える. エージェントに対する好感度について,JA NA 間,AA JA 間で有意差 (p 0.0),JA AA 間で有意傾向 (p 0.0) が見られたことから, 対話エージェントが全くうなずかない場合より, うなずき動作がある方が, エージェントに好感を持てることが分かる. また, 日本の頻度とタイミングでうなずきがアメリカの頻度とタイミングのうなずきよりもエージェントに好感を持てる傾向にあることが言える. 図 より, エージェントの見かけの親身度について, すべてのエージェント間で有意差 (p<0.0) が見られたことから, 対話エージェントが全くうなずかない場合よりもうなずき動作があることで, エージェントが親身に感じられ, さらに, 日本の頻度とタイミングでうなずく方がアメリカの頻度とタイミングでうなずく場合よりもエージェントが親身に感じられる. これらから, 日本人実験参加者にとって, 聞き手が日本の頻度とタイミングでうなずくことで, エージェントの積極性, 好感度, 親身度が上がることが言え, 実験参加者の文化に合わせたうなずきをすることで, 話し手によい印象を与えられるということが言える.. おわりに 本研究では, 人と対話エージェントのコミュニケーションにおいてあいづちの文化差を考慮する重要性を検証するために, 日本語と米語それぞれの頻度とタイミングでうなずくエージェント, うなずかないエージェントを用いて発話長の比較実験を行った. その結果, 実験参加者の 7 割が日本の頻度とタイミングでうなずくエージェントとの対話で最も発話長が長くなっていた. また, アンケートの結果より, 対話エージェントが日本の頻度とタイミングでうなずくことで対話そのもののストレスが軽減され, 対話をよりスムーズに行うことができ, エージェントに対してよい印象を持つことが分かった. このこと から, 人と対話エージェントのコミュニケーションにおいて, 話し手となる人に文化適応した頻度とタイミングで話の聞き手となる対話エージェントがうなずくことの重要さが示唆された. 本実験では, 実験参加者は日本人のみだったため, 今後の展望として, 同様の実験をアメリカ人など異文化の参加者で行うことで, より各文化に適応したノンバーバルコミュニケーション能力を備えた対話エージェント開発の足がかりになると期待している. また, ストレスは主観的なアンケートのみであったが, 皮膚電気反射 (GSR) 等の生理指標を用いることで, ストレスを客観的に捉えることができると考えている. 謝辞 本研究の一部は科学研究費補助金 ( 基盤研究 0-0 年 ) によるものである. 参考文献 [] 山田誠二,007, 人とロボットの< 間 >をデザインする, 東京電機学出版局,pp- [] 泉子 K メイナード,99, 会話分析, くろしお出版 []Lebra,T.S,97,Japanese patterns of behavior, Honolulu: University of Hawaii Press [] 杉戸清樹,989, ことばのあいづちと身ぶりのあいづち- 言語行動における非言語的表現 -, 日本語教育 7, pp.8-9 []Matarazzo,JD,Saslow,G,Wiens,AN,Weitman,M,Allen,BV,9,Interviewer head nodding and interviewee speech duratio ns,psychotherapy,theory, Research and Practice,,pp.- [] 脇坂昌志, 会話エージェントの自然なうなずきの頻度, 角度, 速度に関する分析, 阪工業学情報科学部 009 年度卒業論文 [7]Visual C++ デベロッパーセンター,http://msdn.microsoft.c om/ja-jp/visual/default.aspx [8] DirectX デベロッパーセンター,http://msdn.microsoft.co m/ja-jp/direct/default.aspx [9] metaseq.net,http://www.metaseq.net/