養成技術者の研究 研修成果等 1. 養成技術者氏名 : 清野晃之 2. 養成カリキュラム名 : 生分解性ポリマーの環境適合性評価法の開発 3. 養成カリキュラムの達成状況 平成 16 年度は 昨年度に引き続き 前半に有機アルカリ試薬共存下での 反応熱分解法 を用いた熱分解ガスクロマトグラフィー (Py-GC) を用いて 生分解性ポリエステルの構造解析に関する技術習得を行った その成果は 論文にまとめ 国際専門誌 (J. Anal. Appl. Pyrolysis) に受理された また 新しいソフトレーザー脱離イオン化 質量分析 (SLD-MS) 法である ナノメートルレベルに制御させた多孔質シリコン基板を用いた DIOS-MS により ポリマーおよび添加剤の構造解析も行った その過程で 多孔質シリコン基板以外にも優れた性能を発揮するイオン化基板を見出し 予想以上の成果を得た DIOS-MS に関する成果については 国際専門誌 (Anal. Sci.) に受理され また 国内専門誌 (1 報 ) にも投稿し さらに 新規イオン化基板の開発について 特許出願 (1 件 ) を行った 平成 16 年度後半からは 酵素分解試験法 の実習を中心に行い 酵素分解過程でのポリマーの構造解析を Py-GC およびサイズ排除クロマトグラフィー (SEC)/SLD-MS により解析し その酵素分解機構を解明した この内容について 第 9 回高分子分析討論会で発表し 現在 論文作成に取り組んでいる 平成 17 年度は 前半のうちに 依頼講演 学会発表 (2 件 ) 特許出願 (1 件 ) と国際専門誌への論文発表 (2 報 ) を予定している 以上のように 順調にカリキュラムを進めている 4. 成果 4.1. はじめに 3R システム ( 減量 再利用 リサイクル ) を含む循環型社会の構築が昨今の重要な課題となっている 特に ポリマー材料の使用は年々増加していることから 地球上の物質循環システムに組み込まれる生分解性ポリマーの開発が精力的に進められている しかしながら 生分解性ポリマーそのものの材料特性が使用目的に適していることはまれであり 多くの場合 材料特性を改良するために 化学修飾が施されたり添加剤が加えられるなどの加工処理がなされている 生分解性ポリマーが環境適合性材料として高い信頼性を得て その応用範囲を拡大するためには 生分解性ポリマーの化学構造を正確に評価し その化学構造が生分解過程で変化する機構を分子レベルで解析する手法の開発が必要である 本カリキュラムでは ポリマー分子の平均的な化学構造を高感度に解析することができる 熱分解ガスクロマトグラフィー (Py-GC) と 個々のポリマー分子材料の分子量および化学構造を解析することができる ソフトレーザー脱離イオン化質量分析法 (SLD-MS) を相補的に用いて 生分解性ポリマーの構造解析を行う分析技術の開発を目的としている 平成 16 年度は 化学反応を加味した試料の熱分解を行う 反応熱分解法 を用いた熱分解ガスクロマトグラフィー (Py-GC) 測定および新しいソフトレーザー脱離イオン化 質量分析法 (SLD-MS) である DIOS-MS 測定の実習を行い ポリマーの平均分子量および分子量分布を正確に解析する技術とポリマー添加剤の構造解析の習得を行った また 酵素分解試験法 の実習を行い
酵素分解過程でのポリマーの構造解析を Py-GC およびサイズ排除クロマトグラフィー (SEC) /SLD-MS により解析し その酵素分解機構の解明に取り組んだ その成果を説明する 4.2. 平成 16 年度研究内容および成果 4.2.1. 共重合型ポリヒドロキシアルカン酸の反応熱分解ガスクロマトグラフィー 3- ヒドロキシブタン酸 (3HB) と 3- ヒドロキシ吉草酸 (3HV) の共重合体である P(3HB-co-3HV) は 微生物が産生する脂肪族ポリエステルであり 生分解性や生体適合性を有する高分子素材として近年注目されている このポリエステルの諸物性や生分解性は共重合組成と密接な関係があり その正確かつ高感度な測定がしばしば求められる 一般に P(3HB-co-3HV) の共重合組成は溶液法の NMR 測定により行われる しかしながら 3HV の成分組成が低い場合にはポリマーの結晶性が高くなり クロロホルム等の溶媒に溶解することは容易ではなく 長時間の還流加熱などの煩雑な前処理がしばしば必要となる そこで本研究では 有機アルカリ共存下の反応熱分解ガスクロマトグラフィー (Py-GC) を用いて 試料の前処理を行うことなく迅速かつ高感度に P(3HB-co-3HV) の共重合組成を分析することを試みた 反応 Py-GC によって得られた P(3HB-co-3HV) のパイログラム上には エステル結合の選択的な加水分解とメチル誘導体化により生じた成分 およびエステル結合の熱的な解裂と反応試薬 TMAH による加水分解とメチル誘導体化の組み合わせにより生じた 二重結合を有するメチルエステルなどが それぞれの共重合成分について特徴的に観測された そこで 組成比の異なる数種類の試料について これらのピーク強度を基に推算した共重合組成と 1 HNMR 測定により求めた共重合組成との関係を調べたところ 両者の値は相関係数 0.984 でよく一致した また市販されている PHB について反応 Py-GC 測定を行ったところ 3HV 成分由来の微小ピークがパイログラム上に観測された これは市販の PHB にもわずかに 3HV 成分が含まれていることを示唆している 以上のように本法は 30μg 程度の極微量の試料で P(3HB-co-3HV) の共重合組成を迅速に分析できることから それらの生分解過程での組成変化を反応 Py-GC により追跡して 生分解メカニズムを解明することを現在試みている この成果は 国際専門誌 Journal of Analytical and Applied Pyrolysis に受理された 4.2.2. DIOS-MS によるオリゴマーの分析生分解性ポリマーが分解されると分子量が数百程度のオリゴマーに低分子量化される これらをマトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析法 (MALDI-MS) で分析すると 試料に添加されるイオン化試薬 ( マトリックス剤 ) に由来する高強度のピークによって 目的試料のピークが妨害される 最近 多孔質シリコンを試料基板に用いることで マトリックス剤を使用せずにレーザー脱離イオン化を達成する新しい質量分析法が報告された これは Desorption/Ionization on Porous Silicon-Mass Spectrometry(DIOS-MS) と呼ばれ ナノメートルレベルの細孔をもつ多孔質シリコン表面に試料分子を塗布し 紫外レーザー光を照射することによって 高分子量化合物の分子量関連ピークを観測することができる 現在まで 生体関連物質のみならず 生分解性ポリマーなどの合成高分子の分析への応用も報告されている そこで 本研究では DIOS-MS を導入して生分解性ポリマーの分解中間物であるオリゴマーの分析を行うことを目的として 多孔質シリコン基板の作成を行った ここでは オリゴマー成分の正確な分子量分布を観測できる多孔質シリコン基板の作成条件を最適化するために 平均分子量および分子量分布の値が認証されている標準ポリスチレンの DIOS-MS 測定を行った その結果 多孔質シリコン基板の調製条件を最適化すれば 認証された平均分子量と分子量分布を正確に反映したマススペクトルを観測することが可能であることがわかった この成果については 国際専門誌 Analytical Science に受理された さらに本研究では 最適化した多孔質シリコン基板を用いて 種々の化学構造をもつポリマー用添加剤の DIOS-MS 測定を行い 観測される生成イオン種と化学構造との関係について検討した
化学構造中に酸素や窒素などのヘテロ原子を含む添加剤試料は ヨウ化ナトリウム (NaI) をカチオン化剤として添加することにより [M+Na] + イオンを生成させることが有効であった. これらの化合物はエーテル結合あるいはエステル結合を有しており 部分的には生分解性ポリマーと類似の構造をもっているものである 従って ポリエーテル系およびポリエステル系の生分解性ポリマーの分解中間物の構造解析には ヨウ化ナトリウムを添加することが有効であることが示唆された 以上のように オリゴマー成分の正確な分子量分布を測定するイオン化基板の開発を行い さらに測定対象試料の分子構造に応じた測定条件を確立することができた 以上の成果は 第 65 回分析化学討論会 ( 沖縄 ) と第 9 回高分子分析討論会 ( 名古屋 ) で発表し 現在 国内専門誌に投稿中である 4.2.3. SEC/MALDI-MS によるポリコハク酸ブチルの生分解挙動の解析生分解性脂肪族ポリエステルであるポリコハク酸ブチル (PBS) は 環境調和型ポリマーとして工業的にも生産され始めている 一般に 脂肪族ポリエステルには 末端化学構造の異なる鎖状ポリマーや環状ポリマーが混在しており こうした化学構造の違いおよびその分布は ポリマーの生分解特性に大きく影響することが予想される 最近 マトリックス支援レーザー脱離イオン化 質量分析法 (MALDI-MS) を用いて 生分解性ポリマーの微細化学構造と生分解性の関係を解析できることが報告されている しかしながら 現状の MALDI-MS では 質量スペクトル上に観測される試料成分のピークの強度分布と真の分子量分布との間にかなり大きな差異を生じる マスディスクリミネーション効果 と呼ばれる現象が 回避できないと考えられている これは イオン化の効率や検出器の感度が試料成分の分子量に依存してかなり大きく変化するためであると考えられており 一般に多分散度が 1.1 を越える試料では その影響が無視しえなくなることが知られている そこで こうした試料の解析には サイズ排除クロマトグラフィー (SEC) によって多分散度が 1.1 以下になるように試料を細かく分画して分取し 各フラクションを MALDI-MS により測定する SEC/MALDI-MS 法を用いることがしばしば有効である この方法により PBS についても 試料中に混在する末端基などの微細化学構造が異なる成分ごとの分子量分布を解析することができると考えられる そこで本研究では SEC/MALDI-MS 法により PBS 試料の詳細な構造キャラクタリゼーションを行い さらに酵素分解過程における微細化学構造が異なる分子種の組成変化から酵素分解機構を解析することを試みた SEC/MALDI-MS 法による測定結果から この PBS 試料には 環状ポリマーおよび末端構造が異なる 2 種類の直鎖状のポリマーが存在していることがわかった 次に これらの各ポリマー成分について 酵素分解試験前後での組成分布の変化を解析したところ 酵素分解試験を受けた PBS 試料では 酵素分解試験前の試料と比較して 直鎖状ポリマーの組成が相対的に増加していくことがわかった これは より高分子量の直鎖状ポリマーが酵素分解により低分子量化したためであると考えられる SEC で観測された大まかな分子量分布はほとんど変化していないこと および環状ポリマーの減少が観測されていなかったことから 本実験条件下では ポリマー鎖の末端側から逐次分解が進行する exo 型 の酵素分解により分解が起こったことが示唆された この成果は第 9 回高分子分析討論会 ( 名古屋 ) で発表した 4.3. 今後の展開今後は 新規イオン化基板を用いて 酵素分解試験前後の試料ポリマーの経時的な構造変化を詳細に解析する技術習得を予定している この技術開発により 生分解性ポリマーの化学構造と生分解特性の相関を明らかにし 高品質な生分解性ポリマーの分子設計にフィードバックすることが可能となり 生分解性ポリマーの用途が拡大することによって ポリマーの製造および廃棄において省エネルギーが達成される上 ポリマー材料の原料を化石燃料から天然資源へ変換することにつな
がり 省資源化にも大きく貢献するものと考えられる 5. 成果の対外的発表等 (1) 論文発表 ( 論文掲載済 または査読済を対象 論文のコピーを添付 ) H. Sato, M. Hoshino, H. Aoi, T. Seino, Y. Ishida, H. Ohtani, K. Aoi Compositional analysis of P(3-hydroxybutylate-co-3-hydroxyvalerate) by pyrolysis-gas chromatography in the presence of organic alkali J. Anal. Appl. Pyrolysis 印刷中 T. Seino, H. Sato, M. Torimura, K. Shimada, A. Yamamoto, H. Tao Laser desorption/ionization on porous silicon mass spectrometry for accuratly determining the molecular weight distribution of polymers evaluated using a certified polystyrene standard Anal. Sci. 印刷中 発表件数 :2 件 (2) 口頭発表 ( 発表済を対象 予稿集等のコピーを添付 ) DIOS-MS によるポリマー添加剤の分析 清野晃之 佐藤浩昭 鳥村政基 島田和江 山本淳 田尾博明第 9 回高分子分析討論会 (2004 年 11 月 25 26 日 名古屋市工業研究所 ) SEC/MALDI-MS によるポリコハク酸ブチルの生分解挙動の解析 武居尚英 西脇哲津夫 清野晃之 佐藤浩昭第 9 回高分子分析討論会 (2004 年 11 月 25 26 日 名古屋市工業研究所 ) FT-Raman 分光法によるポリスチレン粒子直径 分子量および多分散度の迅速な定量評価と SEC MALDI-MS および LS との比較 小名俊博 村上修一 清野晃之 佐藤浩昭 田尾博明第 9 回高分子分析討論会 (2004 年 11 月 25 26 日 名古屋市工業研究所 ) DIOS-MS 法による合成高分子の分子量分布解析 清野晃之 佐藤浩昭 鳥村政基 島田和江 山本淳 田尾博明第 52 回質量分析総合討論会 (2004 年 6 月 2~4 日 名古屋市工業研究所 ) 多孔質シリコンを用いるソフトレーザー脱離イオン化 - 質量分析法による合成高分子の分子量分布解析 清野晃之 佐藤浩昭 鳥村政基 島田和江 山本淳 田尾博明第 65 回分析化学討論会 (2004 年 5 月 15 16 日 琉球大学 ) 多孔質シリコンを用いるソフトレーザー脱離イオン化 - 質量分析法によるポリマー添加剤の分析 佐藤浩昭 清野晃之 鳥村政基 島田和江 山本淳 田尾博明第 65 回分析化学討論会 (2004 年 5 月 15 16 日 琉球大学 ) 発表件数 :6 件 (3) 特許等 ( 出願件数を記載 ) 特許等 :1 件出願番号特願 2005-13433 [ 発明の名称 ] 質量分析用イオン化基板及び質量分析装置
[ 発明者 ] 佐藤浩昭 山本淳 清野晃之 鳥村政基 田尾博明