第 6 回糖新生とグリコーゲン分解 日紫喜光良 基礎生化学講義 2018.5.15 1
主な項目 I. 糖新生と解糖系とで異なる酵素 II. 糖新生とグリコーゲン分解の調節 III. アミノ酸代謝と糖新生の関係 IV. 乳酸 脂質代謝と糖新生の関係 2
糖新生とは グルコースを新たに作るプロセス グルコースが栄養源として必要な臓器にグルコースを供給するため 脳 赤血球 腎髄質 レンズ 角膜 精巣 運動時の筋肉 グルコースは肝臓にグリコーゲンとして貯蔵されるが 炭水化物を摂取しないと 10-18 時間後には 不足するようになる 糖新生をおこなう臓器 : 肝臓 腎臓 3
食後時間と血糖源 摂取したグルコース 100g のグルコースを摂取した後 血糖がどこから来たかを調べた結果 グリコゲン 糖新生 グリコゲンはおよそ 24 時間で枯渇する イラストレーテッド生化学図 24.10 4
糖新生の原料 グリセロール 脂肪組織でトリアシルグリセロールが分解されてできる 肝臓に運ばれて糖新生の原料になる 乳酸 運動時の筋肉 赤血球など 肝臓に運ばれて糖新生の原料になる (Cori サイクル ) アミノ酸 体の組織をつくるタンパク質が分解されてできる 分解されてオキサロ酢酸あるいは α- ケトグルタル酸になる一部の種類のアミノ酸から糖新生が可能 5
I. 糖新生と解糖系とで異なる酵素 だいたい解糖系と同じ酵素の逆反応 専用の酵素 : ピルビン酸カルボキシラーゼ ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ フルクトース1,6-ビスホスファターゼ グルコース6-フォスファターゼ ( 肝臓と腎臓 ) 6
糖新生の中間代謝物 グルコース 6- リン酸 4 グルコース フルクトース 6- リン酸 3 フルクトース 1,6- ビスリン酸 グリセルアルデヒド 3- リン酸 デヒドロキシアセトンリン酸 1,3- ビスホスホグリセリン酸 3-ホスホグリセリン酸 2-ホスホグリセリン酸 1~4 は解糖系になく 糖新生に特有 2 ホスホエノールピルビン酸 CO2 ピルビン酸 1 オキサロ酢酸 乳酸 7
1 ピルビン酸のカルボキシル化 ピルビン酸 CO 2 ミトコンドリア内膜 ピルビン酸カルボキシラーゼ オキサロ酢酸 NADH + H + リンゴ酸デヒドロゲナーゼ NAD + リンゴ酸ミトコンドリア内 NADH + H + NAD + オキサロ酢酸 細胞質 リンゴ酸デヒドロゲナーゼ ( 細胞質 ) リンゴ酸 8
2 ホスホエノールピルビン酸の生成 オキサロ酢酸 ミトコンドリア GTP ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ GDP CO 2 ホスホエノールピルビン酸 (PEP) 細胞質 細胞質 9
1 2 ピルビン酸 PEP CO 2 の活性化と転移 CO 2 の転移 1 の反応 ピルビン酸 オキサロ酢酸 ビオチン リンゴ酸の生成 細胞質へ ホスホエノールピルビン酸 図 10.3 2 の反応 10
3 フルクトース 1,6- ビスリン酸の脱リン酸化 図 10.4 フルクトース 1,6- ビスリン酸 フルクトース 1,6- ビスフォスファターゼ フルクトース 6- リン酸 11
4 グルコース 6- リン酸の脱リン酸化 グルコース 図 10.6 グルコース 6- ホスファターゼ 肝臓と腎臓だけ 12
糖新生に必要なエネルギー グルコース 6- リン酸 グルコース 2NADH + 2H + 2 x 2 x フルクトース6-リン酸フルクトース1,6-ビスリン酸グリセルアルデヒド3-リン酸 1,3-ビスホスホグリセリン酸 3-ホスホグリセリン酸 2 ATP デヒドロキシアセトンリン酸 2 x 2-ホスホグリセリン酸 2 x ホスホエノールピルビン酸 図 10.7 2 GTP 2 x CO2 ピルビン酸 2 xオキサロ酢酸 2 ATP 13
II. 糖新生とグリコーゲン分解の調節 14
糖新生の中間代謝物 ( 再掲 ) グルコース 6- リン酸 4 グルコース フルクトース 6- リン酸 3 フルクトース 1,6- ビスリン酸 グリセルアルデヒド 3- リン酸 デヒドロキシアセトンリン酸 1,3- ビスホスホグリセリン酸 3-ホスホグリセリン酸 2-ホスホグリセリン酸 1~4 は解糖系になく 糖新生に特有 2 ホスホエノールピルビン酸 CO2 ピルビン酸 1 オキサロ酢酸 乳酸 15
3 フルクトース 1,6- ビスフォスファターゼ を調節する要因 エネルギーレベルの高低 AMP 増加 エネルギーレベル低 フルクトース 1,6 ビスリン酸を阻害 糖新生を阻害 フルクトース 2,6- ビスリン酸 解糖系の副産物 ( フルクトース 6- リン酸から ) フルクトース 2,6- ビスリン酸増加 フルクトース 1,6 ビスフォスファターゼを阻害 糖新生を阻害 逆に 濃度が減ると糖新生を促進 グルカゴン刺激により濃度低下 16
3 フルクトース 2,6- ビスリン酸による調節 ( 図 10.5 から作成 ) 解糖 フルクトース 6- リン酸 糖新生 ホスホフルクトキナーゼ -1 (PFK-1) 促進 PFK-2/FBP-2 複合体 フルクトース 2,6- ビスリン酸 抑制 フルクトース 1,6- ビスリン酸 フルクトースビスホスファターゼ -1 (FBP-1) フルクトースビスホスファターゼ-2 (FBP-2) の活性低下 フルクトース2,6-ビスリン酸の濃度低下 フルクトースビスホスファターゼ-1(FBP-1) の活性上昇 フルクトース1,6ビスリン酸からフルクトース6-リン酸への反応がすすむ 糖新生が亢進する 17
糖新生のホルモンによる調節 (1) インスリンレセプター グルカゴン / インスリン比の上昇 グルカゴンレセプター 糖新生 ATP アデニル酸シクラーゼ camp フルクトースビスホスファターゼ -1 の活性上昇 フルクトース 2,6- ビスリン酸の濃度低下 プロテインキナーゼ A を活性化 PFK-2/FBP-2 複合体をリン酸化 ( 不活性化 ) ( 図 10.5 から作成 ) 18
2ホスホエノールピルビン酸カルボキシラーゼの活性化 オキサロ酢酸の濃度が増加 ピルビン酸カルボキシラーゼの活性化 GTP の濃度が増加 クエン酸回路の活動 19
アセチル CoA による糖新生の促進 絶食時 過剰な脂肪分解 肝臓で脂肪酸の β 酸化亢進 -ピルビン酸カルボキシラーゼの活性化 -ピルビン酸デヒドロゲナーゼの抑制 ホスホエノールピルビン酸 (PEP) PEP カルボキシキナーゼ ピルビン酸キナーゼ オキサロ酢酸 ピルビン酸カルボキシラーゼ ピルビン酸 ピルビン酸デヒドロゲナーゼアセチルCoA 20
糖新生のホルモンによる調節 (2) ー 2 ピルビン酸からホスホエノールピルビン酸へ 解糖での ホスホエノールピルビン酸からピルビン酸への反応を阻害する必要がある ホスホエノールピルビン酸 (PEP) PEP カルボキシキナーゼ ピルビン酸キナーゼ オキサロ酢酸 ピルビン酸カルボキシラーゼ ピルビン酸 図 10.8 から作成 21
糖新生のホルモンによる調節 (2) ー 2 ピルビン酸からホスホエノールピルビン酸へ グルカゴン値の上昇 グルカゴンレセプター アデニル酸シクラーゼ ATP camp 糖新生 プロテインキナーゼ A を活性化 PEP の濃度増加 ピルビン酸キナーゼをリン酸化 ( 不活性化 ) 22
グリコーゲン代謝 血糖値の維持 : グリコーゲンをグルコースに分解して血中に放出 グリコーゲン貯蔵場所 : 肝と筋 肝 : およそ 100g 含有 血糖になる 筋 : およそ 400g 含有 エネルギー源 イラストレーテッド生化学図 11.2 23
グリコーゲン代謝パスウェイの概要 グリコーゲン UDP- グルコース グルコース 1- リン酸 グルコース 6- リン酸 グルコース 図 11.1 より作成 24
グリコーゲンの構造 分岐部 α(1 6) グリコシド結合 直線部 α(1 4) グリコシド結合 図 11.3 25
グリコーゲンの合成 1. UDP- グルコースの合成 グルコース 6- リン酸 グルコース 1,6- ビスリン酸 グルコース 1- リン酸 図 11.6 ホスホグルコムターゼによるグルコース 6- リン酸からグルコース 1- リン酸の生成 グルコースウリジン二リン酸図 11.4 グルコース1-リン酸とUTPから UDP-グルコースピロフォスファターゼによって UDP-グルコースを生成 26
図 11.5 2 1 3 4 5 5 4 1UDP- グルコース生成 2UDP- グルコースからグルコースを受け取るためのプライマーとして 既存のグリコーゲンまたはグリコゲニンタンパクを利用 3グリコゲニン自身によって最初の数分子のグルコース鎖延長がおこなわれる 4グリコーゲンシンターゼによるα(1 4) グリコシド結合による鎖の延長 5 分岐酵素 (4:6 トランスフェラーゼ ) によって鎖の末端が鎖の途中に α(1 6) 結合される 27
グリコーゲンの分解 グリコーゲン鎖 グリコーゲンフォスフォリラーゼ グルコース 1- リン酸 分岐部は分岐切断酵素 (debranching enzyme) によって切断され グルコースを生じる グルコース 1- リン酸はフォスフォグルコムターゼでグルコース 6- リン酸になる α(1 4) 結合の切断とグルコース1-リン酸の生成図 11.7 残りのグリコーゲン鎖 肝臓では グルコース6- リン酸はグルコース6-フォスファターゼによってグルコースになり 血中に放出される 28
グリコーゲン代謝パスウェイの酵素 グリコーゲングリコーゲンシンターゼなどグリコーゲンホスホ UDP-グルコースリラーゼ ホスホグルコムターゼ グルコース 1- リン酸 グルコース 6- リン酸 UDP- グルコースピロホスホリラーゼ グルコース 6- ホスファターゼ グルコース ヘキソキナーゼ / グルコキナーゼ 図 11.1 より作成 29
図 11.9 グリコーゲンの生成 分解の調節 (1) 肝臓筋 グリコーゲンフォスフォリラーゼ ( 分解酵素 ) を抑制 : グルコース ATP グルコース 6- リン酸 グリコーゲンシンターゼ ( 合成酵素 ) を促進 : グルコース 6- リン酸 グリコーゲンフォスフォリラーゼ ( 分解酵素 ) を抑制 :ATP グルコース 6- リン酸 グリコーゲンシンターゼ ( 合成酵素 ) を促進 : グルコース 6- リン酸 グリコーゲンフォスフォリラーゼ ( 分解酵素 ) を促進 : カルシウムイオン AMP 30
グリコーゲンの生成 分解の調節 (2) 筋肉でのカルシウムによるグリコーゲン分解の活性化 小胞体からカルシウムイオンが放出 カルモジュリンに結合 カルモジュリン -Ca 2+ 複合体 酵素に結合して活性化 ( 例 ) ホスホリラーゼキナーゼ 図 11.10 も参照 31
グリコーゲンの生成 分解の調節 (3) camp 依存性経路によるグリコーゲン分解の活性化 グルカゴンやアドレナリンが細胞膜のレセプターに結合 camp 依存性プロテインキナーゼの活性化 ホスホリラーゼキナーゼの活性化 グリコーゲンホスホリラーゼのリン酸化 活性化 グリコーゲンの分解 図 11.11 も参照 32
グリコーゲンの生成 分解の調節 (4) camp 依存性経路によるグリコーゲン合成の抑制 ( 途中まで前スライドと同じ ) グリコーゲンシンターゼのリン酸化 不活性化 グリコーゲン合成の抑制 図 11.12 も参照 33
III. アミノ酸代謝と糖新生 アミノ酸 アンモニアと炭素骨格 アンモニアは尿素回路で尿素になる 炭素骨格 あるものはクエン酸回路の中間代謝物に あるものはアセチル CoA になる 前者を糖原性 後者をケト原性という クエン酸回路に投入されたものは糖新生に利用できる アセチル CoA は糖新生に利用できない 34
アミノ酸代謝 : 代謝系の中での位置 図 20.1 35
アミノ酸の代謝 : クエン酸回路との関係 アミノ酸の炭素骨格はクエン酸回路で処理される 図 20.1 拡大 36
アミノ酸の分類 炭素骨格の処理のされかたからの分類 非必須アミノ酸 Glucogenic ( 糖原性 ): 糖新生の原料になるアミノ酸 必須アミノ酸 Ketogenic ( ケト原性 ): アセト酢酸またはアセチル CoA の原料になるアミノ酸 図 20.2 37
アミノ酸の分類 糖原性 糖原性かつ ケト原性 ケト原性 非必須 アラニン アルギニン チロシン アスパラギン アスパラギン酸 システイン グルタミン酸 グルタミン グリシン セリン 必須 ヒスチジン イソロイシン ロイシン メチオニン フェニルアラニン リシン トレオニン トリプトファン バリン 図 20.2 38
IV. 乳酸 脂質代謝と糖新生の関係 筋で乳酸発生 肝臓に運ばれる 糖新生 (Cori サイクル ) 脂肪組織にて脂肪 脂肪酸とグリセロール 肝臓に運ばれる グリセロールは糖新生の原料になる 脂肪酸はアセチル CoA になる 糖新生を促進する アセチル CoA そのものは糖新生に利用できない 39
Cori サイクル 肝臓 血液 乳酸 グルコース 筋肉 図 10.2 40
乳酸 ピルビン酸 ピルビン酸 NADH + H + NADH + H + 乳酸デヒドロゲナーゼ NAD + 乳酸 NAD + NADH/NAD + 比によって反応方向が変わる 活動中の筋肉 : 高い肝臓 : 低い 41