3. 内歯歯車 K--V 機構の効率 3. 退行駆動前項では外歯の K--V 機構の効率について考察した ここでは内歯歯車の K--V 機構を対象とする その考え方は外歯の場合と同じであるが 一部外歯の場合とは違った現象が起こるのでその部分に焦点を当てて述べる 先に固定したラックとピニオンの例を取り上げた そこではピニオン軸心を押す場合と ピニオンにモーメントを加える方法とではラックの役割が違うことを示した ここで対象とするシステムは図 9.3- のようにラックに負荷 ( ここでは重り ) をつなぎ ピニオンにブレーキを掛けながら軸を押してラックとかみ合わせて 重りを巻き上げる機構を考える ここでブレーキによるモーメントは図のように反時計回りのモーメントとして作用するものとする このモーメントがなければピニオン軸を押しただけでは重りを巻き上げることは出来ない しかしブレーキを掛けた場合ラック ピニオンは左歯面同士が噛み合い 歯面摩擦に打ち勝ちながらラックを右方に移動させて重りを巻き上げるであろう 軸心を押す力移動方向 M 噛み合いの進行方向 W 図 9.3- ラックに負荷のあるシステム この現象は次のように考えられる まずラックが重りを巻き上げ まで移動したとし 最初の位置からこの状態に至る過程を考える ( 図 9.3-(b)) ここで最初の位置でラックのとピニオンのがかみ合っていたとする ( 同図 (a)) そしてピニオンがラックを押してラックが だけ移動し b 点まできたときのピニオンの軸心の位置は ではなくb 点よりだけ前方の の位置 点にあるはずである ( 同図 (b)) なぜならばピニオンの軸心位置が ならばピニオンは全く回転せず とが固着した状態で動かない限りこの状態は実現できないことによる 従って図 9.3- の系でピニオンが回転しながらラックを押して動かすためにはピニオンもまたラックの上を転がっていく必要がある この現象は次のように考えるとわかりやすいかもしれない まずピニオンとラックが一体となって だけ移動する ( 同図 ()) 次にラックが今動いた方向とは逆方向に 重りによってだけ動いてピニオンを回転させる ( 同図 (d)) その結果ラックは実際に重りを巻き上げた位置 に戻るので 重りに対して行われた仕事量は同図 (b) の状態と同じになる 9 章 3 v3..dox - -
(a) o o () ' (d) (b) b b 図 9.3- ラックに負荷のあるときの運動状態 一方 ピニオンが最初に だけ動いたために費やされた仕事量は ラックのほうから だけ戻されているので 最終的な仕事量としては重りの巻き上げに必要な仕事量と同じ の仕事をしたことになる したがって全体としてはエネルギバランスがとれていることになる ( 図 9.3-) これをラックとピニオンの噛み合い状態から考えると 左歯面同士の噛み合いでラックが右方向に動くので ピニオン側ではかみあいは歯先から歯元の方に進行する 通常 歯車の噛み合いは駆動歯車では歯元から歯先にかみ合いが進行し 被動歯車ではその逆に歯先から歯元に噛み合い点が移動する この噛み合い状態から見れば図 9.3- の系での噛み合い状態はピニオンはラックに対しては被動側となる ところがピニオンはラックを駆動している そこでこれを退行駆動と呼ぶことにする この現象は先の.(4) 項において述べたラック固定の場合とよく似ているが ここではラックに対して仕事をしていることが先の例と異なる この様な退行駆動現象は奇妙な状態のように見えるが 図 9.3- (d) のようにラックからの押し戻し行程があると考えると違和感が拭えるのではないだろうか この行程によりピニオンは ' まで回転させられるが この仕事はピニオンの軸心回りの仕事 つまりブレーキのために使われている そしてラックはそのための駆動源となっていると考えれば不自然な現象でもなく物理的な合理性は保たれている そしてこの噛み合い部分に摩擦損失を考えたときの効率の取り扱いは相対動力がラック側から流れ込んでくると考え その相対動力によって損失が発生するとして取り扱う このことによって今まで述べた効率の考え ピニオンが駆動していると考えると退行駆動という名称を与えなければならないが 力学的には重りの ポテンシャル エネルギによって ラックがピニオンを駆動していると考える方が素直かもしれない 9 章 3 v3..dox - -
かたはそのまま踏襲できる 3. 内歯歯車 K--V 機構の運動状態退行駆動の考えを下敷きにして図 9.3-3 (a) のような内歯歯車 K--V 型機構の効率を考 える この場合の伝達比の関係は次のようになる,,, (9.3-),, ここで遊星歯車が固定されている状態を考えれば その速度線図は図 9.3-3 (b) に示すとおりである ここでの駆動状態としてキャリア駆動の場合と内歯歯車駆動の場合の二通りが考えられるが最初にキャリア駆動の場合を考える () キャリアが入力の場合の効率この場合の遊星歯車内の力関係は図 9.3-3 () の様になる そしてキャリアを入力 内歯歯車を出力としたときの効率を E とすればこの系の中の損失 L は出力側 (Mω<) から考えると L M (9.3-) E ω ω (a) (b) () (d) v q 相対動力 キャリア : 駆動内歯歯車 : 駆動 f f 図 9.3-3 内歯歯車 K--V 機構の運動状態 ( 遊星歯車固定 ) 相対動力 一方 噛み合い点での相対動力の方向は 遊星歯車側の力 f と相対速度 vの方向が同方向である したがって出力側である内歯歯車の方向から相対動力は流れ込んでくる ( M (ω-ω)>) この相対動力によって噛み合い損失 L が発生し その大きさは次式 で表される L M (9.3-3) ここでL は全体の効率から求めた上式の損失 L と大きさは同じである この両式を結合することにより 9 章 3 v3..dox - 3 -
E したがって E (9.3-4) (9.3-5) このケースでは負荷側の内歯歯車から相対動力が流れ込んでくるとした これを図 9.3- のラック-ピニオンの例に当てはめると 負荷側の内歯歯車はラックに相当し 固定された遊星歯車がピニオンに相当している 固定された遊星歯車が回転するピニオンに相当するというのはこの遊星歯車がキャリアに対して相対的に動いているからである このことは遊星歯車が固定された状態でキャリアを 周させると 遊星歯車の全部の歯が内歯歯車と噛み合い 遊星歯車が一回転したと同じような状態を作ることができることからもわかる つまり遊星歯車を絶対座標内で固定した状態でキャリアを動かすことは 図 9.3- においてピニオンの軸を押しながらラックに対して仕事をする状態に当てはまる ここで角速度 ω は内歯歯車がした仕事である 一方 キャリアはω で移動し キャリアのピッチ点相当位置 qでの周速は内歯歯車の周速よりも大きい この分がキャリアからの入力であるが 内歯歯車との速度差 vに相当した相対動力は内歯歯車から受け取って損失に対向している ここでは摩擦損失に見合った動力が負荷側の内歯歯車から流れ込んで付け加えられていると考えられる このとき遊星歯車軸心の回りのモーメントは遊星歯車を固定するためのモーメントであり 外に対する仕事はしていない () 内歯歯車駆動の場合次に速度関係はそのままにして 入出力関係を逆にした場合 力関係は全て反転するので その力関係は図 9.3-3(d) の様になる また内歯歯車は駆動側であるのでM とω の積は正である (Mω>) そしてキャリアからの出力との間の効率を E とすれば この両要素の間で失われる損失 L は次式で与えられる L E M (9.3-6) 一方 遊星歯車内の内歯歯車との噛み合い点での力の方向 f と 遊星歯車のキャリアに対する相対速度 vの方向は逆方向であるので 相対動力は被動側の遊星歯車から駆動側の内歯歯車方向に向かう ( M(ω-ω)<) この相対動力は噛み合い点を介して基準効率で動力のやりとりが行われるので 相対動力の受け取り側である内歯歯車の相対動力 ここでも退行駆動が発生していて 先の例に合わせれば 遊星歯車がラック 内歯歯車がピニオンに相 当している 9 章 3 v3..dox - 4 -
9 章 3 v3..dox - 5 - を用いればその損失 L は次式で与えられる L M (9.3-7) ここでこの系の中の損失はこの噛み合い点以外のものは考えていないので 損失 L と先の損失 L との関係は互いに等しい そこでこの両式を結合することにより. ) ( ) ( E (9.3-8) この場合も駆動側の内歯歯車は遊星歯車を介して被動側のキャリアから相対動力の供給を受けて摩擦損に対向していることがわかる 内歯歯車 K--V 機構の他の組合せに関しては前章と同様の方法によってその効率を求めることができる それを表 9.3- に示す またモーメントの関係式は先に 節で得た (A) (B) 式と全く同じである 表 9.3- 内歯歯車 K--V 機構の効率式