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ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

マクロ インサイト FRB FRB 長期金利 FRB bp 図表 1 FRB と市場の金利予測の乖離 FOMC 予測 vs 市場予測 年末 年末 2.0 市場が

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平成23年11月1日

1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

各資産のリスク 相関の検証 分析に使用した期間 現行のポートフォリオ策定時 :1973 年 ~2003 年 (31 年間 ) 今回 :1973 年 ~2006 年 (34 年間 ) 使用データ 短期資産 : コールレート ( 有担保翌日 ) 年次リターン 国内債券 : NOMURA-BPI 総合指数

1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長

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FOMC 2018年のドットはわずかに上方修正

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日本経済の現状と見通し ( インフレーションを中心に ) 2017 年 2 月 17 日 関根敏隆日本銀行調査統計局

第1章

実際 ドル円相場と日米金利差の推移をみると概ね相関していると言え その相関係数は振れを伴いながらもとりわけ高い相関を示している時期もあることが確認できる ( 前頁図表 1 2) 一方 最近みられる傾向として注目されるのがドル円相場と日本株の相関の高さである 2. ドル円相場と日本株の関係 (1) 高

第 79 回 2017 年 5 月投資家アンケート調査結果 アンケート調査にご協力下さりました皆様 今年 5 月に実施致しましたアンケート調査にご回答下さり誠にありがとうございます このたび調査結果をまとめましたのでお送りさせていただきます ご笑覧賜れましたら幸 いです 今後もアンケート調査にご協力

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定期調査の質問のうち 代表的なものの結果 1. 日本の株価を 企業のファンダメンタルズと比較してどう評価するか 問 1. 日本の株価は企業の実力( ファンダメンタルズ ) あるいは合理的な投資価値にくらべて 1. 低すぎる 2. 高すぎる 3. ほぼ正しく評価されている 4. わからないという質問で

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平成 21 年 9 月 5 日 角山智 投資環境レポート (2009 年 9 月 ) 1. 主な株価指数 8 月は 中国株が大幅に値下がりしました 反面 出遅れていた英国株が好調です 市場 日本株 日本新興市場 J-REIT 米国株 英国株 中国株 ( 指数 ) (TOPIX) (JASDAQ) (

マクロ インサイト ボラティリティ上昇が株価下落を増幅 VIX 7 VIX VIX VIX Euro Stoxx 5 VSTOXX VIX 6 VIX 5. VSTOXX VIX VIX VIX VIX 図表 株式市場はロケットのような軌道を描いて急騰後 利益確定売りに押された S&P5 指数 8

米労働市場は直近の回復基調に変化なし ~FRB出口政策への影響は限定的~

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第 1 四半期運用実績 ( 概要 ) 運用利回り +1.54% 収益率 ( ) ( 第 1 四半期 ) (+1.02% 実現収益率 ( )) 運用収益額 +3,222 億円 総合収益額 ( ) ( 第 1 四半期 ) (+1,862 億円 実現収益額 ( )) 運用資産残高 ( 第 1 四半期末 )

(2) 資産構成割合の推移 ( 給付確保事業 ) 1 資産配分実績の基本ポートフォリオからの乖離の推移 2 実践ポートフォリオと資産配分実績の推移 3. 運用受託機関 平成 29 年 3 月末現在 2

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2018 年度第 3 四半期運用状況 ( 速報 ) 年金積立金は長期的な運用を行うものであり その運用状況も長期的に判断することが必要ですが 国民の皆様に対して適時適切な情報提供を行う観点から 作成 公表が義務付けられている事業年度ごとの業務概況書のほか 四半期ごとに運用状況の速報として公表を行うも

ファンダの鬼・柳澤 浩と小杉 篤諭の「ファンダメンタルズの学び方、活かし方セミナー!」

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< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

定期調査の質問のうち 代表的なものの結果 1. 日本の株価を 企業のファンダメンタルズと比較してどう評価するか 問 1. 日本の株価は企業の実力( ファンダメンタルズ ) あるいは合理的な投資価値にくらべて 1. 低すぎる 2. 高すぎる 3. ほぼ正しく評価されている 4. わからないという質問で

サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

当ページは 各種の信頼できると考えられる情報源から取得した情報に基づき アクサ生命保険株式会社が作成し提供するものです 情報の内容に関しては万全を期しておりますが その正確性 完全性については これを保証するものではありません 日本株式市場 運用環境 [ 2015 年 4 月 ~2016 年 3 月

米国株 投資家心理が落ち着けば 上昇基調に回帰と想定 株式市場 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 長期金利の上昇を契機に急落米国株式市場は下落しました 月初に発表された1 月の雇用統計において 時間当たり賃金が市場予想を上回る伸び率となったことを受けて 長期金利が約 4 年ぶ

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2 / 4 < 足元の米国リート市場について > 月初来 四半期来 (2018 年 10 月以降 ) 米国リート 11.9% 10.4% 米国株式 14.7% 18.9% 2018 年 12 月 24 時点 ( 出所 ) ブルームバーグ米国株式 :S&P500 種株価指数 ( 米ドルベース トータル

国家公務員共済組合連合会 厚生年金保険給付積立金の令和元年度第 1 四半期運用状況 第 1 四半期末の運用資産額は 6 兆 7,376 億円となりました 第 1 四半期の収益額は 実現収益額が 512 億円 総合収益額が 128 億円となりました 第 1 四半期の収益率は 実現収益率 ( 期間率 )

平成 28 年度第 3 四半期退職等年金給付組合積立金運用状況 警察共済組合

第 2 四半期運用実績 ( 概要 ) 運用利回り +0.09% 実現収益率 ( ) ( 第 2 四半期 ) 運用収益額 億円 実現収益額 ( ) ( 第 2 四半期 ) 運用資産残高 ( 第 2 四半期末 ) 357 億円 年金積立金は長期的な運用を行うものであり その運用状況も長期的に

[ 掲載番号 1] ( 銘柄コード :2031) NEXT NOTES 香港ハンセン ダブル ブル ETN に関する日々の開示事項 260,000 口 4,164,680,000 円 16,018 円 4. ETN の一証券あたりの償還価額と円換算したハンセン指数 レバレッジインデックスの終値の変動

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フ ァ ン ド の 特 色 ハイグレード ハイグレード オセアニア オセアニ ニア ボンド マザーファンド マザーファンド を通じて オーストラリア ドル建ておよびニュージーラ ドル建ておよびニュージーランド ドル 建ての 債券等 に投資します 債券等 には コマーシャル ペーパー等の短期金融商品を


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目 次 1. 平成 27 年度 ( 平成 27 年 4 月 ~ 平成 28 年 3 月 ) における運用環境について 2. 平成 27 年度 ( 平成 27 年 4 月 ~ 平成 28 年 3 月 ) のポートフォリオ別の運用状況 3. ベンチマーク インデックスの推移 ( 参考 ) 被保険者ポート

株式市場 米国株 トランプ氏の政策への期待感後退で調整も MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は上昇しました 11 月 8 日 ( 現地 ) に行われた大統領選挙でトランプ氏が当選し 減税やインフラ投資の拡大などの同氏の政策に注目が集まりました 債券市場では金利が上

一部新興国市場が動揺 アルゼンチンは前四半期から経済危機に陥っていましたが トルコでは 6 月に再選された大統領が米国と対立したこと等を契機に 8 月に通貨が急落しました ブラジルや南アフリカ インドの通貨も下落が加速する局面が見られ 中国元も緩やかに値を下げました これまでのところ個別国の問題とい

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株式市場 米国株 国内の政策動向や海外の政治動向などに注目 MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場はほぼ変わらずとなりました 月初には 2 月末のトランプ大統領の議会演説を好感して 株価は大幅上昇となりました しかし その後は 新政権の経済政策に対する期待が徐々に後退

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目次 平成 29 年度 第 2 四半期運用実績 ( 概要 ) P 2 平成 29 年度 市場環境 ( 第 2 四半期 ) 1 P 3 平成 29 年度 市場環境 ( 第 2 四半期 ) 2 P 4 平成 29 年度 退職等年金給付組合積立金の資産構成割合 P 5 平成 29 年度 退職等年金給付組合

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スワップ金利の予想とフォワード スワップ金利の乖離は小さく, 期待仮説に近いものとなっていること,3 フォワード スワップ金利の予想はその水準と変化幅, リスク プレミアムが金利変動のボラティリティとそれぞれ相関を持っていることを明らかにした. さらに, 円金利市場における投資家の選好とイールド カ

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目次 1. 平成 29 年度第 1 四半期 ( 平成 29 年 4 月 ~6 月 ) における運用環境について 2. 平成 29 年度第 1 四半期 ( 平成 29 年 4 月 ~6 月 ) におけるポートフォリオ別の運用状況 3. ベンチマーク インデックスの推移 ( 参考 ) 用語の説明 頁 1

Transcription:

円安持続性と円高反転リスクを予測する < 要旨 > ドル円レートは ひとたび円高 円安に振れるとしばらくそのトレンドが続く特徴がある そこで円高 円安という2 局面を遷移するモデルを作り 為替レートの水準ではなく局面転換の契機となる要因を考察した 分析によれば 日米金利差に米国債ボラティリティという金利リスク環境を加えると 円高と円安双方の局面シフトが 7 割の確度で予測できる 円安が続き易いのは金利変動が少なく日米金利差が開いているときである一方 円高シフトには 金利差縮小よりも米国債市場のボラティリティ上昇が契機となりやすい 米国では年内利上げが視野に入り 日米の金融緩和スタンスの違いが日米金利差拡大として表れるため 円安が続く見方が優勢だが 利上げ開始後のペースは不確実で金融市場のボラティリティ上昇をもたらす材料は多い 市場期待を上回る利上げでも 市場とのコミュニケーション不足により 金利急騰とその後の低下など 米国債の金利変動リスクが大きくなる場合には むしろ円高リスクが高まることに留意が必要だろう. ドル円レートの振る舞い ドル円レートは ひとたび円高もしくは円安に振れると暫くそのトレンドが続く特徴がある ドル円レートの振る舞いそのものから 計量的手法を用いて2つの局面を特定すると 0 年以降の 5 年間に顕著なは 8 回ほどみられ 小さな変動を除くと 202 年から現在までほぼ4 年にわたる円安局面が続いている ( 図表 ) 長きにわたる円安局面がいつ円高に反転するのかは 投資家のみならず企業経営者にとっても大きな関心事項である そこで本稿では 為替レート水準そのものよりも円安の持続性や円高への局面シフトの契機となる要因を考察してみたい 図表 ドル円レートと円高 円安局面の特定 円安局面 網掛け期 円安局面 ( 注 ) 円安 円高の特定はマルコフ レジーム スウィッチングモデルを用いたもの ( 資料 )Bloomberg と三井住友信託銀行調査部の推計結果より作成

計量的な手法を用いて特定された円高と円安局面に基づくと それぞれの局面が続く期間や変動規模は同じではない データによれば の平均期間は 4.7 ヶ月に対して 円安期間は 3.2 ヶ月と長い傾向にある ただし 四半期ベースの変化率でみると は 5.3% 円安は 2.3% であり は期間が短いものの円安のほぼ倍の変動規模である ( 図表 2) 図表 2 円高と円安局面の平均期間と変化率 (0 年 月 ~205 年 0 月 ) 局面 平均期間 ( 月 ) 四半期変化率 (%) 円高 4.7-5.3 円安 3.2 2.3 ( 資料 ) 推計結果から三井住友信託銀行調査部作成 期間と規模が非対象であることも反映し ドル円レートが株価に及ぼす影響も大きくなっている 0 年から 4 年の時期は 必ずしもドル円レートと株価との間の相関は高くなかったが 金融危機を挟む 7 年以降は顕著に高まっている ( 図表 3) 背景のひとつには 生産指数が示す経済活動が伸び悩むなか 企業収益の期待変化を通じた影響が大きくなっていることもあろう 生産指数の振れは 金融危機前までは小さく増加トレンドにあったが 8 年以降は振れが大きいばかりか増加トレンドも消失している 国内生産活動が停滞するなかで 海外収益の為替差益 差損が収益や収益期待の振れを大きくしていることが容易に想像される ( 図表 4) 50 図表 3 ドル円レートと日経平均株価 ( 株価 円 ) 22,000 ドル円レート ( 左軸 ) 日経平均株価 ( 右軸 ) 20,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0,000 8,000 6,000 50 図表 4 ドル円レートと生産指数 ( 生産指数 ) ドル円レート ( 左軸 ) 生産指数 ( 右軸 ) ( 資料 ) いずれも Bloomberg より三井住友信託銀行調査部作成 60 2

2. 円高 円安の局面シフトをもたらす要因 このように 円高 円安の振れそのものが 収益や株価などに大きく影響することから 為替レート水準そのものよりも 円安持続性や円高シフトの契機となる要因について詳しく考察してみたい 下図 5は ドル円レートの振る舞いから円高 円安を特定したグラフに 判定に用いた計量モデルが示す円高への転換確率 ( 円高確率 ) を加えている 図の網掛けが示すの特定は 円高確率が 0.5(50%) を超えるか否かで判定している ( 図表 5) これとは別に観察される小さなは 円高確率が 0.5 に満たなくとも上昇している局面であることが読み取れる こうした円高確率の上昇をもたらす要因が特定できれば 円高反転リスクをある程度予測することができる ( 円高確率 ) 図表 5 ドル円レートと円高確率の推移 ドル円レート ( 右軸 ) 円高確率 ( 左軸 ) ( 注 ) 円高確率はマルコフ レジーム スウィッチングモデルを用いた推計値 ( 資料 )Bloomberg と推計結果から三井住友信託銀行調査部作成 まず ドル円レートの予測によく用いられる日米金利差と円高確率の推移を比較すると 日米金利差が縮小する局面では円高確率も上昇していることがわかる ( 図表 6) 金利差は日米 2 年債レートの格差を用いており 目先 2 年間の日米それぞれの政策金利の予想変化がドル円レートの方向性に影響を及ぼしていると解釈できる 一方で 詳しくみると 金利差が変化しなくとも円高確率が急騰している時期も見られる 図表 6 円高確率と日米 2 年債レート格差 ( 円高確率 ) ( 日米金利差 bp) 0 日米 2 年債レート格差 ( 右軸 ) 円高確率 ( 左軸 ) 600 500 0 300 ( 資料 )Bloomberg と図表 5 の円高確率から三井住友信託銀行調査部作成 0 3

金利差が明確に縮小しないなかで円高となる局面として最も考えうるのは 金融市場全体のリスクに何らかの変化が生じた場合が考えられよう 予想しうる結果は 将来の金融政策や経済の不確実性が高まる局面では円高が進みやすいという特徴である そこで 金融市場のリスク指標として 米国債の先行き変動リスクを示すMOVE 指数 S&P500 でみた米国株価市場の先行き変動リスクを示すVIX 指数を取りあげ 円高確率との推移を比較してみた これら株式や債券市場の変動リスクが高まる局面では 円高確率も上昇していることが読み取れる ( 図表 7) 図表 7 円高確率と金融市場のリスク指標 ( 円高確率 ) (MOVE VIX 指数 ) 300 MOVE( 右軸 ) 円高確率 ( 左軸 ) VIX( 右軸 ) 60 50 30 20 0 ( 資料 )Bloomberg と図表 5 の円高確率から三井住友信託銀行調査部作成 米国の債券市場の価格変動リスクが高まる局面は 日米金利差が縮小する時期とは限らない 日米 2 年債レート差を横軸に 債券市場のリスクを示す MOVE 指数を楯軸にプロットすると 両者には 必ずしも明確なプラスもしくはマイナスの相関はみられない 債券市場のリスク指標 (MOVE 指数 ) が高まる時は 株式市場のリスク (VIX 指数 ) も高まる傾向にあり むしろ金融市場に参加する投資家のリスク環境が変化し 金融市場全体で不確実性が上昇しているときである ( 図表 8) 図表 8 米債券市場リスクと日米金利差並びに株式市場リスクとの相関 2 (MOVE 指数 ) (MOVE 指数 ) 2 60 60 0 300 0 500 600 0 0 20 30 50 60 ( 日米 2 年債レート差 bp) (VIX 指数 ) ( 資料 ) いずれも Bloomberg より三井住友信託銀行調査部作成 4

3. 円高 円安の局面転換の予測モデル 以上の考察も踏まえて 日米 2 年債レートと MOVE 指数を説明要因に ヶ月先の円高 円安を 判定予測する月次ベースのモデルを作成してみた 図表 9 は 各要因が円高確率に及ぼす影響 を示す回帰式の結果である 係数が正であれば円高が進みやすく 負であれば円安に進みやす いことを意味するので 米 2 年債レートが上昇する局面では円高確率が低下し 日本の 2 年国債 レートが上昇する局面や米債券市場のリスクが高まる時期には円高になり易いことが確認できる モデルで得られた円高確率が 0.3(30%) を超える時期をとして的中率を計算すると 0 年 月以降の月次データ 89 個のサンプルのうち 円安 26 サンプルと円高 63 サンプルを 正しく判定した割合は 7 割であった ( 図表 9 下段 ) 予測が外れた残り 3 割のは 8 年 や 202 年であり 円安局面にあって円高と誤って判定した時期も見られる ( 図表 0) 図表 9 円高確率を説明する回帰式の結果と的中率 説明要因係数係数の標準誤差 z- 統計量 米 2 年債レート -49 0.3-2.094 日 2 年債レート.84 0.783 2.37 MOVE 指数 25 06 4.008 モデルによる局面予測 ( 注 ) 係数は円高確率に及ぼす影響を示す z- 統計量の絶対値が 2 超の場合は統計的に有意 ( 資料 ) 三井住友信託銀行調査部作成 観測数 円高円安合計 42 2 63 円安局面 35 9 26 ( 的中率 %) 66.7 72.2 7 図表 0 円高 円安局面のモデル判定と ( モデル判定 円高 = 円安 =0) モデル判定 ( 左軸 ) ドル円レート ( 右軸 ) 網掛け期 0 ( 注 ) 網掛けは円高確率が 0.3 以上の 太線はモデルによる円高判定 ( 円高 =) ( 資料 ) 三井住友信託銀行調査部作成 では 日米金利差と債券市場のリスクいずれが円安の持続や円高シフトへの契機となるのか そこで円高と円安間の局面移行の4つの組み合わせそれぞれの移行確率に 金利差と債券変動リスクがどう影響するのかを比較してみた 4つの組み合わせとは 円安から円安継続 2 円安から円高シフト 3 円高から円安シフト 4 円高から円高継続 という4つの移行確率である 5

円安からへのシフトを示すグラフに着目すると 金利差だけのモデル ( モデル) の移行確率は変化が少なく滑らかである一方 MOVE 指数だけのモデル ( モデル2) は変化が大きく 円安からへのシフトをうまく捉えている ( 図表 ) また 円安から円安局面の継続 円高から円安局面へのシフトを示すグラフに着目すれば 円安局面が続く可能性が高いのは 債券市場の変動が少なく日米金利差が開いているときであることがわかる 図表 円高 円安の 2 局面間の移行確率 ( 移行確率 ) ( モデル は金利差のみのモデル は米債券変動リスクのみのモデル ) 円安 円安継続 ( 移行確率 ) 円安 円高シフト モデル 網掛け期 モデル ( 移行確率 ) 円高 円安シフト ( 移行確率 ) 円高 円高継続モデル モデル ( モデルの説明要因 : 日米金利差 ) (bp) ( モデル2の説明要因 : 米債券変動リスク ) 網掛け期日米 2 年債レート格差 ( 右軸 ) 0 600 500 0 網掛け期 MOVE 指数 ( 右軸 ) ( 指数 ) 2 60 300 0 0 0 ( 注 ) 各局面の移行確率は 現在の局面を与件として次の局面への移行を示す条件付き確率を示す ( 資料 ) いずれもマルコフ レジーム スウィッチング ( 可変確率 ) モデルより三井住友信託銀行調査部作成 6

4. 円安の持続性と円高リスクをどう見るか へのシフトは 日米金利差よりも米国債市場のボラティリティ上昇が契機となりやすいという分析結果を現在の状況に当てはめると いかなる示唆が得られるだろうか いまのところ 米国の年内利上げが確実視され 日米の金融緩和スタンスの違いが日米金利差に表れることで円安が続く見方が優勢だが 米国の利上げペースは不確実であり 債券市場のボラティリティ上昇リスクを考慮すると 必ずしも単純ではない 日米金利差のみに着目すれば 利上げペース鈍化は円高要因に 利上げペース加速は円安要因という整理が成り立つ しかし 利上げペースの加速により長期金利の急騰とその後の下落 あるいは市場心理への影響から株式市場の下落を伴う場合には むしろ一時的な円高シフトが生じる可能性が高まろう 過去のデータが示す通り は円安局面に比べ 期間は短いが変動幅が大きい このような事態が生じる最も考えうるケースは 金融政策を主導する米連邦準備理事会 (FRB) と市場との間で 政策変更に関するコミュニケーション不足が生じる場合である 9 月の公開市場委員会 (FOMC) で公表された FOMC 参加者による 206 年の利上げペースの予想中央値は 205 年末 0.375% から 206 年末.375% であり 年 8 回ある FOMC のうち4 回 25bp 毎の年間 bp(% ポイント ) の利上げを想定している ( 図表 2) 対して 市場期待はこれよりも低く 概ね年 2 回の 50bpが中心であり 利上げペース予想に開きがある 市場の利上げ予想が低いのは 将来のインフレ推移を低く慎重に見ていることが大きな理由とみられる この乖離が埋まらない間は 金融市場が変動し易い状況が続くため 結果として円高に振れるリスクが高まることになる 円ドルレートの予想には日米金利差のみならず 金融市場全体の不確実性や変動リスクにも目を配ることが重要だろう 図表 2 FOMC 参加者の利上げ予想と市場期待 (OIS) の乖離 4.00 3.00 (FF レート予想値 %) 3 月 FOMC 参加者予想 ( 中央値 ) 6 月 FOMC 参加者予想 9 月 FOMC 参加者予想市場期待 (OIS) 2.625 3.375 3.500 2.00 0 0 0.375 7.375.30.608 205 年末 206 年末 207 年末 208 年末中長期 ( 資料 )Bloomberg より三井住友信託銀行調査部作成 ( 木村俊夫 :Kimura_Toshio@smtb.jp) 本資料は作成時点で入手可能なデータに基づき経済 金融情報を提供するものであり 投資勧誘を目的としたものではありません 7