大腿骨頚部骨折

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骨に関する基礎知識 総論 図 1 骨の構造骨は, 骨膜, 関節軟骨, 血管 リンパ管, 神経, 骨質, 骨質中や表面に存在する細胞, 骨髄から構成される. 骨折を理解するためには, 正常な骨構造を理解し, 骨折により骨組織がどのように破壊されているかを想像する必要がある. 1 骨膜骨膜は, 筋の付着

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はじめに 転位の大きな大腿骨頚部骨折は, 高エネルギー外傷によっておこることや, 合併症の多い人におこることが多く, 治療も難しい

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手指中節骨頚部骨折に対する治療経験 桐林俊彰 1), 下小野田一騎 1,2) 3), 大澤裕行 1) 了德寺大学 附属船堀整形外科 了德寺大学 健康科学部医学教育センター 2) 3) 了德寺大学 健康科学部整復医療 トレーナー学科 要旨今回, 我々は初回整復後に再転位を生じた右小指中節骨頚部骨折に対

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小児大腿骨骨幹部骨折

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骨・関節を“診る”サブノート

10035 I-O1-6 一般 1 体外衝撃波 2 月 8 日 ( 金 ) 09:00 ~ 09:49 第 2 会場 I-M1-7 主題 1 基礎 (fresh cadaver を用いた肘関節の教育と研究 ) 2 月 8 日 ( 金 ) 9:00 ~ 10:12 第 1 会場 10037

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情報提供の例

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

m A, m w T w m m W w m m w K w m m Ⅰはじめに 中手指節関節 以下 MP関節屈曲位でギプス固定を行い その直後から固定下で積極的に手指遠位指 節間関節 以下 DI P関節 近位指節間関節 以下 PI P関節の自動屈伸運動を行う早期運動療法 以下 ナックルキャストは

2 片脚での体重支持 ( 立脚中期, 立脚終期 ) 60 3 下肢の振り出し ( 前遊脚期, 遊脚初期, 遊脚中期, 遊脚終期 ) 64 第 3 章ケーススタディ ❶ 変形性股関節症ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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Robinson 分類 ( 鎖骨遠位端の Neer 分類も含む ) 鎖骨近位端骨折の治療 通常保存治療で成績がよい しかし 2004 Robinson 8) の報告では受傷後 24 週の時点での偽関節率は 8,3% であった 転位が高度のもの (type1b) では 14.3% 転位のないもの (t

巻 頭 言 告 機能解剖を考える上肢撮影 機能解剖を考える上肢撮影 手関節 1 機能解剖とは 1 機能解剖とは 1-1 はじめに 1-1 はじめに a b a b 2 橈骨と尺骨が重なる手関節画像 2 手関節撮影に必要な機能解剖 2 手関節撮影に必要な機能解剖 F 申 A 込 3 橈骨と尺骨の関節

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結果 上記の運動の概念を得た 2010 年 10 月以降に治療を行った PIP 背側脱臼損傷 19 指のうち 6 指に ORIF を施行した 結果 PIP 関節伸展平均 -2 度 屈曲平均 96 度であった 考察 掌側板と側方支持機構や伸筋腱は吊り輪状に連結しており リンクした運動をしている PIP

脛骨近位部骨折の治療 土田芳彦 脛骨近位部骨折についての緒言脛骨近位部骨折は骨端部から骨幹端部にかけての骨折であり 関節内外の骨折を含む 比較的低エネルギー損傷でも生じるが 高エネルギー損傷のことが多い この部位の骨折は よくある骨幹部骨折とは異なり治療が難しく 特別な注意を要する まず どのような

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復習問題

現在における AO の骨折治療原理とは 骨組織の血行を温存すること 関節面とアライメントを整復すること そして安定した固定性を得 早期に痛みのない可動を獲得するということです 過去と比較して最も変化しているのはこの血行温存の点につきます そして これらの AO 法の知識を習得し 骨折治療の技術を習得

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表面から腫れがわかりにくいため 診断がつくまでに大きくなっていたり 麻痺が出るまで気付かれなかったりすることも少なくありません したがって 痛みがずっと続く場合には要注意です 2. 診断診断にはレントゲン撮影がもっとも役立ちます 骨肉腫では 膝や肩の関節に近い部分の骨が虫に食べられたように壊されてい

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Ⅰ はじめに 柔道整復師が取り扱う骨折や脱臼などの外傷の治療の基本原則は非観血的療法である その中で通常は 観血的療法の適応となる外傷でも非観血的療法を行なう場合がある 今回は 観血的療法を選択すること が多い中手指節関節 以下 MCP関節 脱臼を伴った示指基節骨骨折に対し非観血的療法を行った症例を

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2/10 平成 23 年 12 月 31 日現在のスタッフは 常勤医 4 名 専攻医 5 名 計 9 名 名古屋大学医学部整形外科教室と連携して人事の交流を行っている 一般外来は新患 再来とも各 1 診で毎日行い 専門外来は小児整形外科 脊椎外科 関節外科 手の外科 リウマチ科 外傷科の専門医が週に

県医会報0608

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70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

選考会実施種目 強化指定標準記録 ( 女子 / 肢体不自由 視覚障がい ) 選考会実施種目 ( 選考会参加標準記録あり ) トラック 100m 200m 400m 800m 1500m T T T T33/34 24

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6 腰椎用エクササイズパッケージ a. スポーツ選手の筋々膜性腰痛症 ワイパー運動 ワイパー運動 では 股関節の内外旋を繰り返すことにより 大腿骨頭の前後方向への可動範囲を拡大します 1. 基本姿勢から両下肢を伸展します 2. 踵を支店に 両股関節の内旋 外旋を繰り返します 3. 大腿骨頭の前後の移

Ø Ø Ø


椎間板の一部が突出した状態が椎間板ヘルニアです 腰痛やあしに痛みがあります あしのしびれやまひがある場合 要注意です 対応 : 激しい運動を控えましょう 痛みが持続するようであれば 整形外科専門医を受診して 検査を受けましょう * 終板障害 成長期では ヘルニアとともに骨の一部も突出し ヘルニア同様

Ⅰ 医療扶助実施方式

かかわらず 軟骨組織や関節包が烏口突起と鎖骨の間に存在したものを烏口鎖骨関節と定義する それらの出現頻度は0.04~30.0% とされ 研究手法によりその頻度には相違がみられる しかしながら 我々は骨の肥厚や軟骨組織が存在しないにも関わらず 烏口突起と鎖骨の間に烏口鎖骨靭帯と筋膜で囲まれた小さな空隙

であった まず 全ての膝を肉眼解剖による解析を行った さらに 全ての膝の中から 6 膝を選定し 組織学的研究を行った 肉眼解剖学的研究 膝の標本は 8% のホルマリンで固定し 30% のエタノールにて保存した まず 軟部組織を残し 大腿骨遠位 1/3 脛骨近位 1/3 で切り落とした 皮膚と皮下の軟

波診断装置がデジタル化され 高周波プローブが出現したことによって CT MRIを上回る高分解能画像が容易に得られるようになり リアルタイムに運動器の損傷状態 動態 血流 組織弾性の評価が可能になった ( 図 1) また 他の診断機器と違い超音波診断装置は移動性に優れ 診察室や検査室内だけでなく病室や

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10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

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246 並川崇 DJMS 68 歳, 男性. 頚椎症性脊髄症.a, b, c: 単純 X 線正側面像で脊椎症性変化を,MRIで脊髄の圧迫を認める. d, e: 椎弓形成術を行い, 脊髄症状は改善を認めた. 間関節内側部など神経組織圧迫因子を除去する, 部分椎弓切除術 内側椎間関節切除術を行い, 罹患

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を優先する場合もあります レントゲン検査や細胞診は 麻酔をかけずに実施でき 検査結果も当日わかりますので 初診時に実施しますが 組織生検は麻酔が必要なことと 検査結果が出るまで数日を要すること 骨腫瘍の場合には正確性に欠けることなどから 治療方針の決定に必要がない場合には省略されることも多い検査です

論文内容の要旨 論文題目生体適合性ポリマーゲルを用いた新規組織癒着防止材の開発 指導教員中村耕三教授 東京大学大学院医学系研究科 平成 18 年 4 月入学 医学博士課程 外科学専攻 石山典幸 外傷や手術後の組織癒着は 体内で分離している組織が結合してしまう複合的な炎症性 障害であり この組織癒着を

Ⅰはじめに が膝関節を強く内旋したときに 近位脛骨の前外側部に剥離骨折が常在すること 年 P S またこの部位に真珠のような光沢を持つ線維束が付着していることを報告したそれ以来 この線維束は m m m m と様々な名称でよばれてきた しかしながら この線維束が恒常的な構造であるかどうかについて長い

CONTENTS はじめに 3 必修問題 7 第 14 回 8 第 15 回 12 第 16 回 19 第 17 回 25 第 18 回 31 第 19 回 37 第 20 回 43 解剖学 49 第 8 回 50 第 9 回 54 第 10 回 60 第 11 回 65 第 12 回 70 第 1

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日関病誌,35(2):169~173, 症例報告 多発性外骨腫による両側変形性股関節症と下肢外反による変形性膝関節症に対して人工股関節置換術と大腿骨遠位内反骨切り術を行った 1 例 君津中央病院 整形外科 大塚誠, 蓮江文男, 藤由崇之, 竹下宗徳, 神谷光史郎, 山崎厚郎 Bil

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原因は不明ですが 女性に多く 手首の骨折後や重労働を行う人に多く見られます 治療は安静や飲み薬で経過を見ますが しびれが良くならない場合 当科では 小さな傷で神 経の圧迫をとる手術を行っており 傷は 3 ヶ月ぐらい経過するとほとんど目立ちません 手術 時間は約 30 分程度ですが 抜糸するのに約 1

第 126 回北海道整形外科外傷研究会 一般演題 (1) 大腿骨頚部骨折に対する仰臥位前方進入法の有用性市立札幌病院後山恒範 (2) 大腿骨転子下骨折への CITS 固定後角度可変機構破綻を生じた一例森山病院仲俊之 (3) 大腿骨近位部 近位骨幹部骨折に対する大腿骨遠位部用ロッキングプレートによる骨

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手首が痛い! 使いすぎなのか!? 仕事でパソコンを頻繁に使う 美容師や理容師ではさみを頻繁に使う 料理で包丁を頻繁に使う 演奏 裁縫 趣味など 手先を使う仕事やスポーツを行い 手首が痛い と訴えるほとんどの患者さんは 普通の人より手先を使うこが多いため 腱鞘炎は 使いすぎ によるといわれています 確

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最近のおむつ諸問題 最近ではほとんど布おむつが使われなくなり 紙おむつとなりました しかし決しておむつの問題がなくなったわけではありません 最近の紙おむつをみると両サイドのテープで止める部分の幅が広いものがかなりあります このテープで股関節の両サイドをきつく止めると股関節の屈曲 ( 曲げる事 ) が

一般問題 4,800 問の科目ごとの出題数 ( 第 1 回 第 24 回国家試験 ) 2 複合問題の実例 2 1 第 18 回 第 24 回国家試験において出題された一般問題のうち, 専門分野に該当する 315 問から臨床実地問題 ( 症例文章および画像などの資料から総合的に判断する

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数多く存在するボーンスクリューの中にはキャニュレイティッドスクリュー ヘッドレススクリュー コンプレッションスクリューなどがありますが アキュトラックはそれらの利点をすべて兼ね備えた理想的なボーンスクリューです スタンダードアキュトラック ミニアキュトラック アキュトラック / アキュトラックプラス

解剖学 1

Transcription:

大腿骨頚部骨折 指扂病院石川直哉

大腿骨頚部骨折とは? 交通事故や骨粗鬆症による骨強度低下した高齢者などに多く大腿骨の頚部がなんらかの理由で骨折した状態をいいます 骨折の部位によって大腿骨頚部骨折と転子部 / 転子下骨折に分けられ それぞれ治療法が異なります

大腿骨頚部の撮影 体位仰臥位 両下肢は伸展させ 膝蓋骨が上を向くように内旋させる 股関節正面 中心線正中矢状面上で 恥骨結合上縁から頭側約 3 cmの点に向けてカセッテに垂直に入射 股関節軸位 仰臥位で検側下肢は伸展させ 膝蓋骨が上を向くように内旋させる 非検側下肢は股関節 膝関節を 90 屈曲させる カセッテを鼠径線に対して直角になるよう設置する 中心線検側大腿骨頚部に向けて カセッテに対して垂直に入射

軸位とラウエンシュタイン Ⅰ 法 軸位 ラウエンシュタイン 頚部は水平に長く投影される 大転子は骨頭に重複しない 頚部は短縮し投影される 大転子は骨頭に一部重複する

骨折部位 骨折の特徴 手術の選択

骨折部位

大腿骨頚部骨折の部位別分類 関節包の内側の骨折 関節包 関節包の外側の骨折

大腿骨頚部骨折の部位別分類 正常頚部骨折転子部骨折

骨折の特徴

大腿骨頚部骨折 転子部骨折 転子下骨折の特徴と外科手術の種類 頚部骨折 関節包の内側の骨折 解剖学的特徴から骨癒合が得られにくい 転子部 転子下骨折 関節包の外側の骨折 内側骨折に比べて血行動態も良好なため比較的骨癒合しやすい 骨癒合しにくい 骨癒合しやすい

大腿骨頚部骨折の特徴 骨癒合の悪い理由 関節包内骨折なので骨折部に外骨膜がない為に骨膜性仮骨が形成されず また滑液が骨折部に流入して骨癒合が障害される 大腿骨骨頭部への血行は 主として頚部側から供給されているので 骨折によりこの血行が絶たれると骨頭側は阻血状態となるので骨折治癒能は頚部側のみとなるが 成長期に末梢からの供給に依存するので 供給量は尐ない 骨折線は垂直方向に走り易いので両骨片に剪断力が作用する したがって骨片は離解して骨癒合が阻害される 高齢者に多発するので 骨再生能力が低下している ( 骨粗しょう症 骨密度の低下 ) 土台となる筋力の萎縮や持久力の低下が根底にある

骨癒合の悪い理由を理解するまでの流れ 解剖学的特徴 骨膜と骨癒合の関係 頚部の栄養血管 力学的特徴 剪断力とは

骨癒合の条件 骨癒合の条件 骨折部の接合 骨折部の固定 十分な血流 適度な圧迫刺激

解剖学的特徴 ~ 骨膜と骨癒合の関係 ~ 骨の構造 骨は骨質 骨膜 骨髄および神経 血管などから構成されている シャビー繊維 骨芽細胞ハーバス管 骨膜 破骨細胞 緻密質 海綿質

解剖学的特徴 ~ 骨膜と骨癒合の関係 ~ 骨の構造 骨は骨質 骨膜 骨髄および神経 血管などから構成されている 骨質 骨組織からなり 緻密質と海綿質に分けられる 緻密質は骨の表面にあり 海綿質は内部に見られる 管状骨では骨幹は厚い緻密質からなり 骨端は海綿質で その表層だけが薄い緻密質の層で構成されている 骨髄 海綿質の骨柱の間の小腔と管状骨の髓腔とを満たしている細網組織である 骨髓は造血作用を営んでいるものは赤い色を呈しているので赤色骨髓といい それを失ったものは黄色をしているので黄色骨髓という 長骨の骨端 短骨 扁平骨と丌規則骨の骨髓は一生涯赤色骨髓であるが 他の骨髓はおよそ 5 歳後に黄色骨髓となる

骨膜とは 解剖学的特徴 ~ 骨膜と骨癒合の関係 ~ 骨の表面を覆っている緻密な結合組織の白い層をいう 骨膜の表層は結合組織性線維が主で 骨表面に近い下層ではシャピー繊維という膞原繊維束によって 骨膜はまた筋と骨との結合の媒介をも営んでいる 豊富な血管をフォルクマン管を通じて骨質に導入する 内骨膜と外骨膜がある 骨の関節面には骨膜はない 役割 骨の保護 骨の形成と再生 成長期には 結合組織性線維は骨芽細胞に分化し 骨の太さを増す働きがある 成長が止まると骨膜は薄くなり 骨形成能は低下するが 骨折や損傷をうけると再び造骨機能を取りもどし 骨質の新生を行なう

骨折の治癒経過 炎症期 骨膜の損傷 血腫 外骨膜 血小板由来成長因子トランスフォーミング増殖因子 β 骨芽細胞の増殖 壊死した骨髄 壊死した骨組織 1 骨折部の血管が損傷し 血腫が形成される 2 骨膜の細胞層の未分化間葉系細胞 骨芽細胞の前駆細胞である骨形成細胞の増殖が起こる

骨折の治癒経過 修復期 血腫の器質化 肉芽組織 軟骨 外仮骨 : 骨膜側に形成される仮骨内仮骨 : 骨髄側に形成される仮骨 1 様々な因子により増殖した骨芽細胞が 血腫に入り込み両端を架橋するように線維性の骨を形成する 2 力学的に脆弱な初期の線維性仮骨の形成 膜性骨化 : 間葉系細胞が直接 骨芽細胞に分化して骨基質を産生する

骨折の治癒経過 再造形期 繊維性骨 1 破骨細胞により溶かし 骨芽細胞により成熟させるを繰り返し 骨を強固なものとする リモデリング 成長を終えた骨は 形態と機能を維持するために骨組織は吸収と再生を繰り返して基質の更新をおこなうこと

骨折の治癒経過 炎症期 修復期 再造形期 骨膜の損傷 血腫 外骨膜 血腫の器質化 壊死した骨髄 壊死した骨組織 肉芽組織 軟骨 繊維性骨 1 骨折部の血管が損傷し 血腫が形成される 2 骨膜の細胞層の未分化間葉系細胞 骨芽細胞の前駆細胞である骨形成細胞の増殖が起こる 3 様々な因子により増殖した骨芽細胞が 血腫に入り込み両端を架橋するように線維性の骨を形成する 脆弱な初期の線維性仮骨の形成 4 破骨細胞により溶かし 骨芽細胞により成熟させるを繰り返し 骨を強固なものとする リモデリング

頚部の栄養血管 ~ 大腿骨頚部の血管 ~ 上被膜動脈 大腿骨頭の血流の 4/5 を支配 大腿動脈 下被膜動脈 外側回旋動脈 内側回旋動脈 前面

頚部の栄養血管 ~ 頚部骨折による骨頭壊死 ~ 外側回旋動脈 内側回旋動脈

頚部の栄養血管 ~ 骨膜血管系 ~ ハーバス管を通じての皮質骨の長軸方向への血液の流入には限界があり 偽関節と骨頭壊死を生じやすい フォルクマン管 骨膜 ハーバス管 骨膜からフォルマン管を通じて皮質に血管を導入する

偽関節とは 骨折箇所の丌十分な整復や固定 骨折により血行を遮断された骨折片の壊死などにより 骨折した骨の癒合が阻害され 骨折面が分断されたままで骨癒合が停止してしまった状態 骨折箇所にあたかも関節が存在するような可動性を生じるこの状態を偽関節といいます

力学的特徴 ~ 剪断力とは?~ 物体の表面が互いに逆方向に平行移動する働きを生み出す力 適度な圧迫刺激の阻害 骨折線が垂直に近いほど剪断力大

骨癒合の目安 中手骨 2 週 肋骨 3 週 鎖骨 4 週 前腕骨 5 週 上腕骨骨幹部 6 週 脛骨, 上腕骨頚部 7 週 下腿骨 8 週 大腿骨 8 週 大腿骨頚部 12 週 小児はさらに 20~30% 早く癒合する高齢者は通常より遅れる傾向にある

大腿骨頚部骨折の特徴 骨膜が欠如し 骨膜性仮骨が起こらないために起こる骨癒合障害 大腿骨を栄養する血管が損傷されることによる骨頭壊死 偽関節の形成 骨折線が傾斜しているため剪断力が働くことによる起こる骨癒合障害

手術の種類

大腿骨頚部骨折 転子部骨折 転子下骨折の特徴と外科手術の種類 頚部骨折 関節包の内側の骨折 解剖学的特徴から骨癒合が得られにくい 転子部 転子下骨折 関節包の外側の骨折 内側骨折に比べて血行動態も良好なため比較的骨癒合しやすい

大腿骨頚部骨折の手術の選択 大きく分けて 骨接合術と人工骨頭置換術があります 術後の余命 年齢 日常生活レベル 骨折型 手術方法を決定 若い人には 人工骨頭の寿命を考慮しなるべく骨接合術を行い 自身の骨を温存する 高齢者では 術後早期に臥位から脱出するため (= 寝たきりや床ずれ 肺炎の防止 ) 人工骨頭置換術が選択

大腿骨頚部骨折の骨折型による分類 大腿骨頚部骨折の X 線上の分類は 現在 Garden 分類と Pauwels 分類が多く用いられています Garden 分類 : 骨折部における転位の程度によって分類 Pauwels 分類 : 骨折線のなす角度で分類

Garden 分類頚部骨折 ステージ Ⅰ ステージ Ⅱ ステージ Ⅲ ステージ Ⅳ 丌完全骨折 内側で骨性連続が残存しているもの 完全骨折 軟部組織の連続性は残存しているもの 完全骨折 回転転位あり 頚部被膜の連続性が残存 完全骨折 全ての軟部組織 骨接合術 骨接合術人工骨頭 人工骨頭 人工骨頭

Pauwels 分類頚部骨折 30 以下 30 ~ 70 70 以上 Pauwels1 度 Pauwels2 度 Pauwels3 度 骨折線が水平に近い例では 骨折部に作用する圧迫力で癒合が得られやすく 垂直になるほど骨折部にせんだん力が大きくなるため骨癒合に丌利で偽関節が発生しやすい

観血的整復術ハンソンピン

ハンソンピンの特徴 遠位ピンは骨頭の内反 近位ピンは後方への回旋を防止

人工骨頭置換術

Evas 分類転子部 転子下骨折 受診時 整復後 Group1 転移なし安定 Type1 Group2 Group3 転移あり 内側骨皮質は整復可能 転移あり 内側骨皮質は整復丌可能 安定 丌安定 Group4 粉砕骨折丌安定 Type2 逆斜骨折丌安定

観血的整復術ハイネイル

Wolft ヴォルフの法則 骨は 骨梁という細い繊維状の骨を力学的にうまく組み立てた構造をしています 構造をつくる過程で 45 度の角度で走る お互いに直交するように走る 力の加わる方向に対しての数を増やしたり 太くしたり 同じ骨の中でも 荷重の分布が変化すると皮質骨と海綿骨の量と構造の分布も変化することを Wolft の法則という

大腿骨頚部の骨梁構造 2 主引っぱり骨梁 3 主圧迫骨梁 1 大転子骨梁 1 主圧迫骨梁 2 副引っぱり骨梁 主圧迫骨梁 : 頚部内側から骨頭荷重面主引っぱり骨梁 : 大腿骨外側から骨頭内側

大腿骨頚部の骨梁構造 2 主引っぱり骨梁 3 主圧迫骨梁 1 大転子骨梁 1 主圧迫骨梁 2 副引っぱり骨梁 主圧迫骨梁 : 頚部内側から骨頭荷重面主引っぱり骨梁 : 大腿骨外側から骨頭内側

以上大腿骨頚部骨折について

ご清聴ありがとうございました 参考文献 : 標準整形外科学 X 線撮影技術学