事務連絡

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平成21年度実績報告

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

学位論文の要約

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

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図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

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く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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平成14年度研究報告

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エネルギー代謝に関する調査研究

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

( 図 ) IP3 と IRBIT( アービット ) が IP3 受容体に競合して結合する様子

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共同研究チーム 個人情報につき 削除しております 1

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新規遺伝子ARIAによる血管新生調節機構の解明

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

1. Caov-3 細胞株 A2780 細胞株においてシスプラチン単剤 シスプラチンとトポテカン併用添加での殺細胞効果を MTS assay を用い検討した 2. Caov-3 細胞株においてシスプラチンによって誘導される Akt の活性化に対し トポテカンが影響するか否かを調べるために シスプラチ

RNA Poly IC D-IPS-1 概要 自然免疫による病原体成分の認識は炎症反応の誘導や 獲得免疫の成立に重要な役割を果たす生体防御機構です 今回 私達はウイルス RNA を模倣する合成二本鎖 RNA アナログの Poly I:C を用いて 自然免疫応答メカニズムの解析を行いました その結果

nsg01-04/ky191063169900010781

温度感受性TRPチャネルTRPM2の生理機能

博第265号

第6回 糖新生とグリコーゲン分解

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

第6号-2/8)最前線(大矢)

シトリン欠損症説明簡単患者用

第6回 糖新生とグリコーゲン分解

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小島光暁 論文審査担当者 主査森尾友宏 副査槇田浩史 清水重臣 論文題目 Novel role of group VIB Ca 2+ -independent phospholipase A 2γ in leukocyte-endothelial cell in

脂質が消化管ホルモンの分泌を促進する仕組み 1. 発表者 : 原田一貴 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻博士課程 2 年 ) 北口哲也 ( 早稲田バイオサイエンスシンガポール研究所主任研究員 ( 研究当時 )) 神谷泰智 ( 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻修士課程 2 年 (

生物時計の安定性の秘密を解明

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

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統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

生活習慣病の増加が懸念される日本において 疾病の一次予防はますます重要性を増し 生理機能調節作用を有する食品への期待や関心が高まっている 日常の食生活を通して 健康の維持および生活習慣病予防に努めることは 医療費抑制の観点からも重要である 種々の食品機能成分の効果について数多くの先行研究がおこなわれ

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のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

平成24年7月x日

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

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Peroxisome Proliferator-Activated Receptor a (PPARa)アゴニストの薬理作用メカニズムの解明

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

研究背景 糖尿病は 現在世界で4 億 2 千万人以上にものぼる患者がいますが その約 90% は 代表的な生活習慣病のひとつでもある 2 型糖尿病です 2 型糖尿病の治療薬の中でも 世界で最もよく処方されている経口投与薬メトホルミン ( 図 1) は 筋肉や脂肪組織への糖 ( グルコース ) の取り

報道発表資料 2001 年 12 月 29 日 独立行政法人理化学研究所 生きた細胞を詳細に観察できる新しい蛍光タンパク質を開発 - とらえられなかった細胞内現象を可視化 - 理化学研究所 ( 小林俊一理事長 ) は 生きた細胞内における現象を詳細に観察することができる新しい蛍光タンパク質の開発に成

作成要領・記載例

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

研究の背景と経緯 植物は 葉緑素で吸収した太陽光エネルギーを使って水から電子を奪い それを光合成に 用いている この反応の副産物として酸素が発生する しかし 光合成が地球上に誕生した 初期の段階では 水よりも電子を奪いやすい硫化水素 H2S がその電子源だったと考えられ ている 図1 現在も硫化水素

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

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Microsoft Word - プレスリリース最終版

( 平成 22 年 12 月 17 日ヒト ES 委員会説明資料 ) 幹細胞から臓器を作成する 動物性集合胚作成の必要性について 中内啓光 東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センター JST 戦略的創造研究推進事業 ERATO 型研究研究プロジェクト名 : 中内幹細胞制御プロジェクト 1

平成 29 年 6 月 9 日 ニーマンピック病 C 型タンパク質の新しい機能の解明 リソソーム膜に特殊な領域を形成し 脂肪滴の取り込み 分解を促進する 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長門松健治 ) 分子細胞学分野の辻琢磨 ( つじたくま ) 助教 藤本豊士 ( ふじもととよし ) 教授ら

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

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るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

の活性化が背景となるヒト悪性腫瘍の治療薬開発につながる 図4 研究である 研究内容 私たちは図3に示すようなyeast two hybrid 法を用いて AKT分子に結合する細胞内分子のスクリーニングを行った この結果 これまで機能の分からなかったプロトオンコジン TCL1がAKTと結合し多量体を形

ルグリセロールと脂肪酸に分解され吸収される それらは腸上皮細胞に吸収されたのちに再び中性脂肪へと生合成されカイロミクロンとなる DGAT1 は腸管で脂質の再合成 吸収に関与していることから DGAT1 KO マウスで認められているフェノタイプが腸 DGAT1 欠如に由来していることが考えられる 実際

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

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32 小野啓, 他 は変化を認めなかった (LacZ: 5.1 ± 0.1% vs. LKB1: 5.1 ± 0.1)( 図 6). また, 糖新生の律速酵素である PEPCK, G6Pase, PGC1 α の mrna 量が LKB1 群で有意に減少しており ( それぞれ 0.5 倍,0.8 倍

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Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

Microsoft Word - 【最終】Sirt7 プレス原稿

難病 です これまでの研究により この病気の原因には免疫を担当する細胞 腸内細菌などに加えて 腸上皮 が密接に関わり 腸上皮 が本来持つ機能や炎症への応答が大事な役割を担っていることが分かっています また 腸上皮 が適切な再生を全うすることが治療を行う上で極めて重要であることも分かっています しかし

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

遺伝子の近傍に別の遺伝子の発現制御領域 ( エンハンサーなど ) が移動してくることによって その遺伝子の発現様式を変化させるものです ( 図 2) 融合タンパク質は比較的容易に検出できるので 前者のような二つの遺伝子組み換えの例はこれまで数多く発見されてきたのに対して 後者の場合は 広範囲のゲノム

様式)

八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

4. 発表内容 : 1 研究の背景 先行研究における問題点 正常な脳では 神経細胞が適切な相手と適切な数と強さの結合 ( シナプス ) を作り 機能的な神経回路が作られています このような機能的神経回路は 生まれた時に完成しているので はなく 生後の発達過程において必要なシナプスが残り不要なシナプス

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

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背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませ

STAP現象の検証の実施について

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代謝調節機構解析に基づく細胞機能制御基板技術 平成 19 年度採択研究代表者 H22 年度 実績報告 清野進 神戸大学大学院医学研究科 教授 糖代謝恒常性を維持する細胞機能の制御機構 1. 研究実施の概要本研究では 様々な代謝条件下で膵島の包括的代謝物解析を行い 膵島機能制御や 膵島機能維持に極めて重要な膵島細胞の再生に関わる代謝シグナルを明らかにするとともに それらのシグナルを制御する鍵分子を同定し 種々のモデル系を利用して代謝シグナル間の相互作用と膵島機能や膵島細胞再生との関係 また 代謝シグナルによる細胞間の相互作用と膵島機能との関係を明らかにすることを目的としている これまでに 新たに樹立した膵 β 細胞株を用いたメタボローム解析から camp シグナルによるグルコース応答性インスリン分泌の増強にはリンゴ酸 -アスパラギン酸シャトルが必須であること 並びに細胞間相互作用が camp シグナルを増強することを発見した また camp センサーである Epac2 が糖尿病治療薬のスルホニル尿素薬によって直接活性化されることや Epac2 と結合する Rim2 がインスリン顆粒の開口放出において重要な役割を果たすとともに Epac2 を介したインスリン分泌の増強に必須であることを示した さらに 病態モデル動物のサンプルを用いたメタボローム解析から 膵島のリン脂質組成が他の組織とは異なること および 食餌成分によってその組成が変化することを見出した また ヒトにおける糖負荷試験後の血清サンプルのメタボローム解析によって得られたデータの主成分分析から正常 境界型 糖尿病が分離できる可能性が示された 2. 研究実施体制 (1) 清野 グループ 1 研究分担グループ長 : 清野進 ( 神戸大学大学院医学研究科 教授 ) 2 研究項目 研究の総括 メタボローム解析 膵島細胞機能の解析 膵島細胞維持機構の解析 1

(2) 溝口 グループ 1 研究分担グループ長 : 溝口明 ( 三重大学大学院医学系研究科 教授 ) 2 研究項目 膵島細胞の形態学的解析 膵島細胞機能の形態学的解析 (2) 稲垣 グループ 1 研究分担グループ長 : 稲垣暢也 ( 京都大学大学院医学研究科 教授 ) 2 研究項目 膵島の代謝測定 膵島の機能解析 3. 研究実施内容 ( 文中に番号がある場合は (4-1) に対応する ) 1. 膵島機能の制御機構の解明前年度までにインクレチン応答性の膵 β 細胞株 (K8) とインクレチン不応性の膵 β 細胞株 (K20) を樹立し 3 次元構造 ( 偽膵島 ) の形成によって K20 細胞でもインクレチンによるインスリン分泌の増強反応が認められるようになることを見出していた 1) 今年度は 単層培養と 3 次元の偽膵島の 2 つの状態における細胞内 Ca 2+ 応答性の違いを 2 光子レーザー顕微鏡を用いてリアルタイムで解析した 単層培養細胞では 高グルコース刺激前後で Ca 2+ 応答性に大きな変化が見られなかったのに対し 偽膵島では高グルコース刺激後 2 分で細胞内 Ca 2+ 濃度が上昇した細胞が増え始め 刺激後 15 分では多くの細胞で細胞内 Ca 2+ 濃度が上昇した β 細胞の 3 次元化により 高グルコース刺激に対する細胞内 Ca 2+ 応答性が格段に向上することが示唆された さらに これらの細胞株間での包括的比較メタボローム解析を CE/MS を用いて行った その結果 インクレチン (camp シグナル ) 応答性の K8 細胞株ではグルコース代謝に関わる多くの中間代謝物が増加していたが 特に NADH 産生に関わる代謝経路が亢進している可能性を見出した このうち リンゴ酸 -アスパラギン酸シャトルに着目し このシャトルの阻害薬 (aminooxiacetate: AOA) を添加すると グルコースによるインスリン分泌には全く影響しないが インクレチンによる増強反応がほぼ完全に抑制されることを発見した この現象は正常膵島を用いても同様に認められることから インクレチン (camp シグナル ) が生理的にリンゴ酸 -アスパラギン酸シャトルを介してグルコース代謝と相互作用し インスリン分泌の増強効果を発揮していることが示された また 膵 β 細胞の camp センサーとして機能する Epac2 に結合する Rim2 の機能解析を実施した Rim2 のノックアウトマウスではインスリン分泌不全に伴う耐糖能異常が認められ 2

Rim2 ノックアウトマウスから単離した膵 β 細胞ではドッキングしたインスリン顆粒数が減少していることを見出した Rim2 欠損膵 β 細胞株を作製し 各種 Rim2 変異体を用いてさらに詳細な検討を行ったところ Rim2 と Rab3 との相互作用がインスリン顆粒のドッキングに必要であることが明らかとなると同時に ドッキングはインスリン顆粒の細胞膜への膜融合を抑制するブレーキの役割を果たすと考えられた 一方 Rim2 と Munc13-1 との相互作用はインスリン顆粒のプライミングに必要であることが示された さらに Epac2 と Rim2 の相互作用は Epac2 を介したインスリン分泌の増強に必須であることも明らかとなった 3) また 膵 α 細胞において GLP-1 刺激によって産生された低濃度の camp は PKA 依存性に電位依存性 Ca 2+ チャネル活性を阻害することでグルカゴン分泌を抑制するのに対し アドレナリン刺激によって産生された高濃度の camp は Epac2 を介して電位依存性 Ca 2+ チャネルを活性化することでグルカゴン分泌を促進することが明らかになった 2) 2. 膵島細胞の再生制御機構の解明膵 β 細胞の分化 発生 再生に関わる運命を追跡するため また その過程での細胞の分取を可能にしてメタボローム解析を含む様々な解析に利用するため 膵 β 細胞を選択的に標識するシステムを 2 系統開発した ひとつは インスリンプロモーターにより緑色蛍光タンパク質 (GFP) を発現する MIP-GFP マウスと全ての細胞で赤色蛍光タンパク質 (RFP) を発現する CAG-mRFP マウスを交配した MIP-GFP/CAG-mRFP マウスであり これを用いて 成体膵 β 細胞を in vitro で胎児の膵細胞と共培養すると 一旦脱分化して増殖し 培養条件によって再びインスリンを発現する細胞 (β 細胞 ) へ再分化できることを証明した 4) 脱分化 増殖 再分化の各段階で細胞をソーティングすれば原理的にはメタボローム解析も可能である また もうひとつのシステムは任意のタイミングで膵 β 細胞を標識できる Ins2-CreER/R26R-YFP マウスである 本マウスにおいてタモキシフェン投与により約 30% の膵 β 細胞が標識され 生理的条件下で標識後 12 カ月まで観察したところ 膵 β 細胞の標識率に有意な変化は認められなかった また STZ 投与による膵 β 細胞傷害時においても標識率は変化せず これらの条件下では膵 β 細胞の維持における非 β 細胞の寄与はほとんどないものと考えられた 一方 出生直後から 2 週間では膵 β 細胞の標識率に有意な変化はなかったが 4 週目の標識率は有意に低下した 8) また このとき YFP で標識されない数個から数十個のインスリン陽性細胞のクラスターが散見された これらの結果は 出生直後のβ 細胞の増加には 既存のβ 細胞の自己複製だけでなく非 β 細胞からの新生も寄与する可能性を示している さらに ヒト膵外分泌細胞からインスリン分泌細胞が誘導できることを示した 7) 3. 代謝異常と膵島機能異常との関係の解明糖尿病状態における膵島機能障害の機序について 活性酸素種産生機構の過剰作用による代謝破綻の重要性 6) 糖尿病状態で過剰発現する核内蛋白によるミトコンドリア機能制御の破綻の重要性 5) について明らかにしてきた これらの膵 β 細胞機能障害機構は糖尿病状態に特有の代謝異常により惹起されると考えられるが 具体的にどのような代謝メディエーター 代謝経路が 3

重要であるかは明らかになっていない また糖尿病の成因としては遺伝因子のみならず環境因子が重要であり 環境因子の一つとして飽和脂肪酸の過剰摂取が糖尿病発症に重要な因子であることが疫学的にも示されている 糖尿病における膵島機能異常において重要な役割を果たす代謝異常の詳細を明らかにする目的で 糖尿病モデル動物を用いて 摂餌条件を含む様々な条件下で質量分析器を用いた脂質メタボローム解析および膵島機能解析を行った 昨年度までの解析で代謝に関与する組織におけるリン脂質組成は摂取する飼料の組成により変化することを明らかにした 今年度は各臓器レベルでその組成変化がどのような影響をもたらすのか 野生型ラットと GK ラットを用いて検討した 精製飼料投与下に EPA を 2 週間投与した後に膵島組織を単離し グルコースによる刺激に対する反応性を比較した その結果 野生型ラットでは EPA 投与群と非投与群においてインスリン分泌に明らかな差が認められなかったが GK ラットでは EPA 投与群から単離した膵島組織の方がグルコースによるインスリン分泌が増強していた これらの結果より脂肪毒性によるインスリン分泌障害に着目し 野生型ラットより単離した膵島を飽和脂肪酸であるパルミチン酸に曝露することにより インスリン分泌障害モデルを作成して 膵島における EPA のインスリン分泌に対する影響を検討した パルミチン酸を曝露しない単離膵島においては EPA 曝露により グルコースによるインスリン分泌は変化しなかった しかし パルミチン酸を曝露した膵島において著明に低下していたインスリン分泌は EPA 曝露により回復した これらの結果は インスリン分泌障害において重要な役割を果たす脂質メディエーター 脂質代謝経路のメタボロームを用いた検索の良いモデルとなりうると考え さらなる解析を予定している 4

4. 成果発表等 (4-1) 原著論文発表 論文詳細情報 1. Iwasaki M, Minami K, Shibasaki T, Miki T, Miyazaki J-I, Seino S. Establishment of new clonal pancreatic -cell lines (MIN6-K) useful for study of incretin/camp signaling. J Diabetes Invest 1:137-142, 2010. (DOI: 10.1111/j.2040-1124.2010.00026.x) 2. De Marinis YZ, Salehi A, Ward CE, Zhang Q, Abdulkader F, Bengtsson M, Braha O, Braun M, Ramracheya R, Amisten S, Habib AM, Moritoh Y, Zhang E, Reimann F, Rosengren AH, Shibasaki T, Gribble F, Renström E, Seino S, Eliasson L, Rorsman P. GLP-1 inhibits and adrenaline stimulates glucagon release by differential modulation of N- and L-type Ca 2+ channel-dependent exocytosis. Cell Metab 11:543-553, 2010. (DOI: 10.1016/j.cmet.2010.04.007) 3. Yasuda T, Shibasaki T, Minami K, Takahashi H, Mizoguchi A, Uriu Y, Mori Y, Miyazaki J-i, Miki T, Seino S. Rim2 determines docking and priming states in insulin granule exocytosis. Cell Metab 12:117-129, 2010. (DOI: 10.1016/j.cmet.2010.05.017) 4. Minami K, Miyawaki K, Hara M, Yamada S, Seino S. Tracing phenotypic reversibility of pancreatic -cells in vitro. J Diabetes Invest 1:242-251, 2010. (DOI: 10.1111/j.2040-1124.2010.0051.x) 5. Yoshihara E, Fujimoto S, Inagaki N, Okawa K, Masaki S, Yodoi J, Masutani H. Disruption of TBP-2/Txnip ameliorates insulin sensitivity and secretion without affecting obesity. Nature Communications 1:127, 2010. (DOI: 10.1038/ncomms1127) 6. Mukai E, Fujimoto S, Sato H, Oneyama C, Kominato R, Sato Y, Sasaki M, Nishi Y, Okada M, Inagaki N. Exendin-4 suppresses Src activation and reactive oxygen species production in diabetic GK rat islets in an Epac-dependent manner. Diabetes 60:218-226, 2011. (DOI: 10.2337/db10-0021) 7. Minami K, Doi R, Kawaguchi Y, Nukaya D, Hagiwara Y, Noguchi H, Matsumoto S, Seino S. In vitro generation of insulin-secreting cells from human pancreatic exocrine cells. J Diabetes Invest in press (DOI: 10.1111/j.2040-1124.2010.00095.x) 8. Nakamura K, Minami K, Tamura K, Iemoto K, Miki T, Seino S. Tracing pancreatic -cells by inducible Cre/loxP system. Biomed Res in press DOI 未定 5

(4-2) 知財出願 1 平成 22 年度特許出願件数 ( 国内 1 件 ) 2 CREST 研究期間累積件数 ( 国内 2 件 ) 6