IMF世界経済見透し改訂見通し: 急激な減速の見通しを受け、新たな刺激策が必要とされる; 2008年11月6日

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平成24年度の経済見通しと経済財政運営の基本的態度(閣議了解)

IMF世界経済見通し 2015 年 4月 第 章 要旨

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WEO guidline Japanese OAP

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今回の金融政策報告書では 米国内の投資活動が弱いために輸出が想定ほど伸びていないとしながらも 金融業などサービス関連の好調さを示す分析や 商品価格下落がカナダ企業の投資活動を抑制する動きは底打ちしたとの指摘など カナダ景気に前向きな材料も散見されます 当面は 政策金利の据え置きを続けると見通します

ロシア 3節 第 第3節 ロシア 1 マクロ経済動向 ロシア経済は 緩やかな回復基調にある 2014 年 7 以下 輸出 個人消費 消費者物価 金融市場の動 月以降のウクライナ危機発生及びクリミア併合に伴う 向を中心に概観する 欧米からの経済制裁に加え 2015 年以降 原油価格 の下落を主因として

現代資本主義論

金融政策決定会合における主な意見

1. 30 第 1 運用環境 各市場の動き ( 4 月 ~ 6 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは狭いレンジでの取引が続きました 海外金利の上昇により 国内金利が若干上昇する場面もありましたが 日銀による緩和的な金融政策の継続により 上昇幅は限定的となりました : 東証株価指数 (TOPIX)

○ユーロ

経済学でわかる金融・証券市場の話③

経済・物価情勢の展望(2016年10月)

< 豪州債券市場の市況および今後の見通し > 2016 年の豪州債券市場では 金利が低下しました 年初から 2 月にかけては 中国株をはじめ世界の株式市場が下落するなど市場のリスク回避姿勢が強まる中 金利低下が進みました 1 月末に日銀のマイナス金利導入発表を受け 欧州など他国でもさらなる金融緩和期

日産自動車株式会社 日産リバイバル プラン進捗報告 2000 年度上期 2000 年 10 月 30 日

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エコノミスト便り【欧州経済】ユーロ圏はどのように財政を再建したか

2017年上半期の為替相場展望

[ 参考 ] 先月からの主要変更点 基調判断 3 月月例 4 月月例 景気は 急速な悪化が続いており 厳しい状況にある 輸出 生産は 極めて大幅に減少している 企業収益は 極めて大幅に減少している 設備投資は 減少している 雇用情勢は 急速に悪化しつつある 個人消費は 緩やかに減少している 景気は

平成28年度国民経済計算 年次推計 (支出側系列等)

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1. 30 第 2 運用環境 各市場の動き ( 7 月 ~ 9 月 ) 国内債券 :10 年国債利回りは上昇しました 7 月末の日銀金融政策決定会合のなかで 長期金利の変動幅を経済 物価情勢などに応じて上下にある程度変動するものとしたことが 金利の上昇要因となりました 一方で 当分の間 極めて低い長

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サマリー 1 市場の関心は米大統領選の行方に集まっています 世論調査においてドナルド トランプ氏の優勢が報じられると 市場の更なる丌確実性が懸念され リスク資産からの資金流出が記録されました 10 月の MSCI 世界株価指数はマイナス 2.01% MSCI 新興国株価指数は 0.18% と新興国が

GDPギャップと潜在成長率

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2018年4-6月期2次速報値 時系列表1

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経済・物価情勢の展望(2017年7月)

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2018 年度第 3 四半期運用状況 ( 速報 ) 年金積立金は長期的な運用を行うものであり その運用状況も長期的に判断することが必要ですが 国民の皆様に対して適時適切な情報提供を行う観点から 作成 公表が義務付けられている事業年度ごとの業務概況書のほか 四半期ごとに運用状況の速報として公表を行うも

受益者の皆様へ 平成 28 年 2 月 15 日 弊社投資信託の基準価額の下落について 平素より弊社投資信託をご愛顧賜り 厚くお礼申しあげます さて 先週末 2 月 12 日 ( 金 ) 以下のファンドの基準価額が 前営業日の基準価額に対して 5% 以上下落しており その要因につきましてご報告いたし

ファンダの鬼・柳澤 浩と小杉 篤諭の「ファンダメンタルズの学び方、活かし方セミナー!」

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タイトル

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28 GCC UAE GCC (2) 大きく上昇した食料価格と住居費 GCC GCC GCC 図表 2 湾岸協力会議 (GCC) 諸国の消費者物価上昇率 (28 年 ) 図表 3 湾岸協力会議 (GCC) 諸国の消費者物価指数に占める食料品と住居費の割合


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- March SCB -, -, -, -, -, -, -, -, -, -,,,,,, -, -, -, -,, -,,,, -,,,,,, - -,, -,, Survey of Current Business, July, Table (p. ), Oct, Table (p. ) S.

Ⅱ 外国為替市場と為替レート

経済・物価情勢の展望(2017年10月)

当面の金融政策運営について(貸出増加支援資金供給の延長等、12時29分公表)

つのシナリオにおける社会保障給付費の超長期見通し ( マクロ ) (GDP 比 %) 年金 医療 介護の社会保障給付費合計 現行制度に即して社会保障給付の将来を推計 生産性 ( 実質賃金 ) 人口の規模や構成によって将来像 (1 人当たりや GDP 比 ) が違ってくる

ヘッジ付き米国債利回りが一時マイナスに-為替変動リスクのヘッジコスト上昇とその理由

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平成 21 年 9 月 5 日 角山智 投資環境レポート (2009 年 9 月 ) 1. 主な株価指数 8 月は 中国株が大幅に値下がりしました 反面 出遅れていた英国株が好調です 市場 日本株 日本新興市場 J-REIT 米国株 英国株 中国株 ( 指数 ) (TOPIX) (JASDAQ) (

74-2 岩間

2018 年は激動の年 年初来 トルコ株式指数はトルコリラベースで最大で約 24% 下落し トルコリラは日本円に対して最大で約 45% 下落しました トルコ株式 * の推移 ( トルコリラベース ) /12 18/03 18/06 18

第45回中期経済予測 要旨

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結果の概要1

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仮訳 日本と ASEAN 各国との二国間金融協力について 2013 年 5 月 3 日 ( 於 : インド デリー ) 日本は ASEAN+3 財務大臣 中央銀行総裁プロセスの下 チェンマイ イニシアティブやアジア債券市場育成イニシアティブ等の地域金融協力を推進してきました また 日本は中国や韓国を

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資金循環の日米欧比較

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平成23年11月1日

( 本資料は ロンドンにて 2017 年 2 月 24 日付で発表された資料の日本語参考訳 ( 抜粋 ) で すべてにおいて英語版が優先します ) 2017 年 2 月 24 日 スタンダードチャータード PLC 2016 年度業績ハイライト ハイライトスタンダードチャータード PLC ( 以下 当

エコノミスト便り

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「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」の導入

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株式市場 米国株 トランプ氏の政策への期待感後退で調整も MSCI 米国 2, % 先月の回顧 米国株式市場は上昇しました 11 月 8 日 ( 現地 ) に行われた大統領選挙でトランプ氏が当選し 減税やインフラ投資の拡大などの同氏の政策に注目が集まりました 債券市場では金利が上

低インフレ 乏しい利上げ観測労働市場に目を向けると 8 月の失業率は約 年ぶりの低水準となる5.3% に低下した 雇用者数も伸びており 一部では技術者不足の声も聞かれる RBAは今後数年 失業率は自然失業率とされる5.% を目指して低下が続くとの見方を示している ただ 賃金の上昇率は ~ 月期が前年

Invesco Premia Plus Fund

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( 参考 ) と直近四半期末の資産構成割合について 乖離許容幅 資産構成割合 ( 平成 27(2015) 年 12 月末 ) 国内債券 35% ±10% 37.76% 国内株式 25% ±9% 23.35% 外国債券 15% ±4% 13.50% 外国株式 25% ±8% 22.82% 短期資産 -

1. 2. (Rowthorn, 2014) / 39 1

2013 年 8 月 19 日号

国際金融安定性報告書(GFSR)市場アップデート: 金融システムは安定化するも、出口戦略、金融改革、財政面の課題が待ち受ける; 2010年1月26日

FOMC 2018年のドットはわずかに上方修正

グローバル株式市場を俯瞰する~2015年8月末データで見る市場動向~

Transcription:

FOR RELEASE: 8 年 11 月 6 日 急激な減速の見通しを受け 新たな刺激策が必要とされる 国際通貨基金 (IMF) Washington, D.C. ここ一ヶ月で金融セクターのレバレッジ解消が進み 生産者 消費者マインド双方が冷え込む中 世界経済成長率に関する今後の展望は悪化した これを受け 9 年の世界の GDP 成長率は 1 月の WEO 予測より.75% ポイント低い.% となる見通しである 先進国 地域の 9 年の成長率は通年でマイナスと予測されるが このような落ち込みは戦後初である 新興及び発展途上国 地域においては 9 年の成長率は明らかに鈍化するものの 5% に達すると予測される しかしながら これらの見通しは 現行の政策を基にしたものである 世界規模での金融市場支援及び更なる財政刺激策と金融緩和の実施により 世界成長率の減速を抑えることが可能であろう 急激に減速する世界経済 世界経済成長率は 先進国 地域の経済停滞に伴い 7 年の 5% から鈍化し 8 年は 3.75% そして 9 年にはわずか % 強にとどまる見通しである ( 表 1) 先進国 地域経済は 9 年には年率で.5% のマイナス成長となる見通しであるが これは 8 年 1 月の WEO 見通しを.75% ポイント下方修正したものとなっている 減速の規模は 1975 年及び 8 年に見られたものと同程度ではあるが 成長率がマイナスとなるのは戦後初となろう ( 図 1-) 回復は 9 年末ごろから始まると予測される Figure 1. Real GDP Growth and Trend (Percent change) - 198 85 9 95 5 9 Source: IMF staff estimates. Emerging and developing Advanced 米国経済は 家計部門が 実物資産や金融資 1 8 6 産の価格下落 また金融市場のタイト化に対処するのに伴い 打撃を受けよう ユーロ圏の成長は 金融市場のタイト化と信頼感の低下の影響を強く受けよう 日本は 純輸出による成長への下支えが減退すると予測される Figure. Real GDP Growth Deviation from Trend Advanced Source: IMF staff estimates. Emerging and developing 198 85 9 95 5 9 9 年の実質 GDP 成長率の下方修正は 新興及び途上国 地域においては若干大きく 平均 1% 引き下げられた これを受けて当該地域の成長率は 5% とされたが 過去のビジネスサイクルの低調期 (199 1998 1 年など ) に比べると高い水準となっている しかし高い成長率トレンドを考慮すると 新興国 地域における景気後退の規模は先進国におけるそれと同程度であり また過 3 1-1 - -3 -

去のサイクルで見られたのとも同様である 下方修正の程度は 地域によってかなり異なる もっとも影響を受けたのは 商品価格の急激な下落をうけた第一次産品輸出国と 国際市場での資金調達や流動性に大きな問題を抱えている国々である 中国を含む東アジア諸国については下方修正幅が比較的小さい この背景として 金融情勢が相対的に堅調であること 商品価格の下落による交易条件の改善 また 既にマクロ経済緩和政策への移行を実施している という 3 点が挙げられる 見通しが弱まるにつれ 商品価格は低下 世界的な需要の低迷を受け商品価格は下落している 石油輸出国機構 (OPEC) の原油生産削減決定にもかかわらず 世界的な経済低迷と米ドル高 また金融危機の影響により 原油価格はピーク時より 5% 以上下がり 7 年初期以来の水準に戻っている 市場における展開を鑑み IMF による 9 年の原油価格のベースライン見通しは 1 月の WEO の 1 バレル 1 米ドルから 68 米ドルへと下方修正された 同様に 金属及び食糧価格も 最近記録したピークから下落している これにより先進国 地域並びにヨーロッパとアジアの新興国 地域における家計負担が軽減される一方 その他多くの新興国 地域の成長見通しを押し下げる結果となっている 金融危機回復の兆し見えず 市場は資産のレバレッジ解消 価格下落 投資家による償還といった 負のサイクルに突入している ( 図 3) 信用スプレッドは困難なレベルまで拡大し 主な株式市場の株価指標は 1 月に約 5% 下落した 新興市場はさらに厳しいプレッシャーにさらされた 1 月初旬以来 公的債務のスプレッドが 倍に拡大して 年の水準まで戻り ベンチマークとなる EMBIG インデックスに含まれる国の 3 分の 1 以上でスプレッドが 1, ベーシスポイント以上となっている 新興株式市場は その価値が現地通貨建てで約 3 分の 1 減少 さらに 広範な通貨の減価により米国ドル換算では % 以上下落した 金融ストレスの根本的要因の解決と需要の下支えのために 包括的な政策的措置が実施されているが 成果が完全に得られるまでには時間がかかる これら政策には ディストレス資産の買い上げや 銀行の資本強化のための公的資金の投入 包括的な保証の提供 そして 主な中央銀行による政策金利の協調利下げといったものが含まれる 商品価格の安定化と景気後退の加速は インフレ圧力の抑制に寄与するとみられる 先進国 地域では 消費者物価指数が 9 年末までに 1.5% 以下に低下すると予測される 新興国 地域においても より緩やかなペースではあるが インフレは緩和される見込みである しかし これらの国の多くでは 高い商品価格と現地の供給に対する引き続いての圧力が 賃金及びインフレ期待に影響していることから インフレ リスクは 依然として大きいものがある

3 Figure 3. Advanced and Emerging Markets: Sovereign 1 and Corporate Bond Spreads, 1998 8 (In basis points) ( 図 ) その結果 特に耐久消費財や投資に対する支出を減らしている Advanced market corporate bonds (high-grade) Advanced market corporate bonds (low-grade) Emerging market sovereign bonds 18 16 1 1 1 8 6 Figure. Business Confidence Indicators Manufacturing PMIs (values greater than 5 indicate expansion) 6 Euro area 5 Emerging United States 1985 9 95 5 35 Oct. 8 65 55 5 1998 6 - Nov. 8 Sources: Bloomberg Financial Markets; Datastream; JP Morgan; Moody s KMV; Thomson Reuters; and IMF staff calculations. 1 The corporate bond spreads are derived as the difference between the asset swap spread and the commensurate London interbank offered rate. 市場はこれらの政策的措置に反応を示し始めてはいるが 迅速な政策実行にもかかわらず 金融ストレスは 8 年 1 月の WEO で予測された以上に深く長引く様相を呈している 金融 経済双方の情勢が悪化するにともない 市場は 企業債務不履行率及び債券や融資の損失が当初の予想より遥かに高いものになると見越した値動きを見せている これは 混乱が途上国にまで広がりを見せ 資本増強ニーズが高まっていることが一因と考えられる したがって 金融情勢は当初の予想以上に長期に渡って厳しい状況が続くとみられ 政策措置への反応も鈍いと考えられる 消費者と企業は収入 収益見通しを見直し 金融危機の直接的影響の他に 経済活動は 低迷する信頼感からもますます圧力を受けている 金融危機がより深まりを見せるにつれ 家計及び企業の双方が今後の雇用と収益について予想以上に長期にわたり厳しいものになると予測 Sources: Haver Analytics; and IMF staff estimates. マクロ経済政策の緩和は限定的このところのインフレリスクの軽減により 主だった中央銀行による政策金利の利下げの環境が整ったといえる 昨今の政策金利引下げを踏まえ 9 年の金利は WEO1 月予測比で米国とユーロ圏では 1% 低く また日本では.5% 低いものと予測しているが これは市場の期待に沿ったものである 他の先進国 地域も利下げを実施している 一方 新興国 地域においては政策はまちまちであり 資本流出対策として利上げを実施した中央銀行がある一方 経済活動の下支えのため金利引下げに踏み切ったところもある 需要下支えのための財政政策を発表した政府もある しかしながらこういった政策は 総じて限定的なものであり 今現在まだ検討中で実施に移されていない景気刺激策は見通しに反映されていない その結果 9 年の財政政策スタンスは概してニュートラルなものになると見込まれる 特に 景気サイクルの変動を調整したベースでは 9 年の先進国 地域の一般政府財政赤字は 新たな施策が導入されない限り 8 年と大きな違いはないと予測される

非常に不透明な経済見通し金融情勢は 引き続き深刻な下振れリスクにさらされている 多くの国で実施されている強力な政策対応により金融システム崩壊のリスクは回避した とはいえ 経済活動に対する金融危機の潜在的影響に関しては 多くの理由から 引き続き警戒が必要とされる その理由のひとつとして レバレッジ解消プロセスが当初の見込みより深刻化し かつ長引く可能性があげられる また 集中的なレバレッジ解消により 多くの新興国 地域において 大規模な資本流出と為替相場の無秩序な下落が引き起こされるリスクが拡大するおそれがある さらに先進国 地域でデフレのリスクが高まっていることも懸念材料である ただし インフレ期待が安定的であることを考えると その危険はまだ小さいといえる 現状においては上振れリスクは限定的なものであるといえよう しかしながら 金融セクターに関する政策の内容が明らかになり 実施に移されれば 金融情況が予想以上の速さで改善される可能性もある 当面は 非金融企業のバランスシートが比較的健全であることから 投資の大幅な削減を防ぐのに役立つものと考えられる こうした状況のもとでは 信頼は迅速に回復し 家計 企業各部門の消費の急速な回復も可能となるであろう 最も重要なことは WEO 見通しは上振れおよび下振れシナリオも含め 政策が目下の世界成長見通しの悪化に対応していないということを前提としていることであるといえる ダメージを食い止めるには より強力なマクロ経済対策が不可欠成長を支え 金融セクターの健全性を回復させるためには これまで発表された政策に加えて更なるマクロ経済刺激策が必要なことは明白である 金融政策の緩和余地は 特にインフレ懸念が抑制されていることから 有効に活用されるべきである しかしながら 困難な金融情況とレバレッジ解消を考えると 金融緩和の効果は相対的に小さい可能性もあることから 金融政策のみでは十分でない可能性がある また 政策金利が既にゼロに近い国では 更なる金融緩和の実施余地は限られている これらのことから より広範にわたる財政刺激策が求められよう 財政刺激策は 十分にターゲットを絞り 緩和的な金融政策の下 財政的余地のある国々で実施することにより 初めて効果を発揮するのである 金融セクター政策には 更なる強化と協調の余地これまで金融セクター政策は 強力な対応を見せてきている しかし これら政策を更に強化 明確化し 一層の協調を図ることにより 融資と需要のより早い回復の機運を高めることができる 今後の見通しにもよるが 現在の資本増強に向けた努力を拡大する必要がある可能性があるだろう それに加えて 様々な保証や資産買上げプログラムについて その範囲と法的根拠が明確に特定されるべきであり 一方で 中央銀行による流動性供給は継続して 十分に実施されるべきである また 企業 家計両部門での山積する債権問題について 効果的かつ予測可能な解決策構築に向けたニーズがある国もあるだろうが こうした対策は債権者である銀行にとって価値を維持するのに資することとなろう 重要なことは 国境を越えて一貫した対応策が必要だということである 国境をまたぐ大規模な組織については 現在協力的な措置が存在していないが 個々の国の枠組みには限度があることから こうした取り決めの整備が重要な課題であるといえる さらに金融支援と保証の拡充にあっては 新興国 地域を含め国境を越えた効果が潜在的にあるということに留意すべきである 最後に 金融システムのオーナーシップに関して 公的部門の出口戦略が構築される必要がある

5 Table 1.1. Overview of the World Economic Outlook Projections (Percent change, unless otherwise noted) Year over Year Q over Q Difference from October Projections 8 WEO Projections Estimates Projections 6 7 8 9 8 9 7 8 9 World output 1 5.1 5. 3.7. -. -.8.8.5. Advanced 3..6 1. -.3 -.1 -.8.6.3.3 United States.8. 1. -.7 -.1 -.8.3. -.5 Euro area.8.6 1. -.5 -.1 -.7.1.1 -- Germany 3..5 1.7 -.8 -. -.8 1.7.3 -.3 France...8 -.5 -.1 -.6. -.. Italy 1.8 1.5 -. -.6 -.1 -..1 -. -.1 Spain 3.9 3.7 1. -.7 -- -.5 3.. -.6 Japan..1.5 -. -. -.7 1. -.3. United Kingdom.8 3..8-1.3 -. -1..9 -.9 -.5 Canada 3.1.7.6.3 -.1 -.9.8 -- 1. Other advanced.5.7.9 1.5 -. -1. 5. 1.8 3. Newly industrialized Asian 5.6 5.6 3.9.1 -.1-1.1 6.1.. Emerging and developing 7.9 8. 6.6 5.1 -.3-1. 8.5 5.9 5.7 Africa 6.1 6.1 5..7 -.7-1.3 Sub-Sahara 6.6 6.8 5.5 5.1 -.6-1. Central and eastern Europe 6.7 5.7..5 -.3 -.9 Commonwealth of Independent States 8. 8.6 6.9 3. -.3 -.5 Russia 7. 8.1 6.8 3.5 -. -. 9.5 5.9 5.8 Excluding Russia 1. 9.8 6.9 1.6 -.7 -.6 Developing Asia 9.8 1. 8.3 7.1 -.1 -.6 China 11.6 11.9 9.7 8.5 -.1 -.8 11.3 9. 8.3 India 9.8 9.3 7.8 6.3 -.1 -.6 8.9 6.6 6. ASEAN-5 5.7 6.3 5.. -.1 -.7 6.6. 5. Middle East 5.7 6. 6.1 5.3 -.3 -.6 Western Hemisphere 5.5 5.6.5.5 -.1 -.7 Brazil 3.8 5. 5. 3. -- -.5 6. 3.9 3. Mexico.9 3. 1.9.9 -.1 -.9..6 1.5 Memorandum European Union 3.3 3.1 1.5 -. -. -.8 World growth based on market exchange rates 3.9 3.7.6 1.1 -.1 -.8 World trade volume (goods and services) 9. 7..6.1 -.3 - Imports Advanced Emerging and developing 7.5 1.9.5 1. 1.8 1.9 -.1 5. -.1 -.8-1. -5.3 Exports Advanced 8. 5.9.1 1. -. -1.3 Emerging and developing 11. 9.6 5.6 5.3 -.7 -.1 Commodity prices (U.S. dollars) Oil 3.5 1.7. -31.8-1.6-5.5 Nonfuel (average based on world commodity export weights) 3. 1.1 9. -18.7-3.9-1.5 Consumer prices Advanced.. 3.6 1. -- -.6 3..9 1. Emerging and developing 5. 6. 9. 7.1 -. -.7 6.7 7. 5.9 London interbank offered rate (percent) On U.S. dollar deposits 5.3 5.3 3.. -. -1.1 On euro deposits 3.1.3.5 3. -.3-1. On Japanese yen deposits..9 1. 1. -- -. Note: Real effective exchange rates are assumed to remain constant at the levels prevailing during September 6 October, 8. 1 The quarterly estimates and projections account for 9 percent of the world PPP weights. The quarterly estimates and projections account for approximately 76 percent of the emerging and developing. 3 Simple average of prices of U.K. Brent, Dubai, and West Texas Intermediate crude oil. The average price of oil in U.S. dollars a barrel was $71.13 in 7; the assumed price based on future markets is $99.75 in 8 and $68. in 9. Six-month rate for the United States and Japan. Three-month rate for the euro area.