学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of ot

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埼玉県調査研究成績報告書 ( 家畜保健衛生業績発表集録 ) 第 57 報 ( 平成 27 年度 ) 9 牛白血病ウイルス感染が生産性に及ぼす影響 中央家畜保健衛生所 畠中優唯 Ⅰ はじめに牛白血病は散発性と地方病性 ( 成牛型 ) の2つに分類される 牛白血病ウイルス (BLV) 感染を原因とする地

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東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

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第 3 節水田放牧時の牛白血病ウイルス対策 1. はじめに水田放牧のリスクの一つとして, 感染症があります 放牧場で広がりやすい牛の感染症の中でも, 牛白血病は近年わが国で非常に問題となっています この節では, 牛白血病の概要説明とともに, 水田放牧を行う際に取るべき牛白血病対策について紹介します

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

成 21~22 年にかけて農林水産省の委託事業において動物衛生研究所 ( 現農業 食品産業技術総合研究機構動物衛生研究部門 ) が中心となり, 約 30 年ぶりに BLV 浸潤状況に関する全国調査を実施した. 本調査では, 移行抗体が消失する 6ヶ月齢以上の乳用牛 11,113 頭, 肉用牛 9,7

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

ウシの免疫機能と乳腺免疫 球は.8 ~ 24.3% T 細胞は 33.5 ~ 42.7% B 細胞は 28.5 ~ 36.2% 単球は 6.9 ~ 8.9% で推移し 有意な変動は認められなかった T 細胞サブセットの割合は γδ T 細胞が最も高く 43.4 ~ 48.3% で CD4 + T 細

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

られる 3) 北海道での事例報告から 100 頭を超える搾乳規模での発生が多かった (33 例 82.5%) 冬から春にかけての発生がやや多い傾向 2006 年は 9 例 2007 年は 6 例が発生 全道的にも増加していると推察された 発生規模は 5~20% と一定で 搾乳規模に相関しなかった 発

12 牛白血病対策のため考案したアブ防除ジャケットの実用化試験 東青地域県民局地域農林水産部青森家畜保健衛生所 菅原健 田中慎一 齋藤豪 相馬亜耶 水島亮 林敏展 太田智恵子 森山泰穂 渡部巌 小笠原和弘 1 概要わが国では近年 牛白血病の発生が増加しているが その原因である牛白血病ウイルス (BL

2016 年 12 月 7 日放送 HTLV-1 母子感染予防に関する最近の話題 富山大学産科婦人科教授齋藤滋はじめにヒト T リンパ向性ウイルスⅠ 型 (Human T-lymphotropic virus type 1) いわゆる HTLV-1 は T リンパ球に感染するレトロウイルスで 感染者

Taro-H26-01○【差替】 (佐藤)

4氏 すずき 名鈴木理恵 り 学位の種類博士 ( 医学 ) 学位授与年月日平成 24 年 3 月 27 日学位授与の条件学位規則第 4 条第 1 項研究科専攻東北大学大学院医学系研究科 ( 博士課程 ) 医科学専攻 学位論文題目 esterase 染色および myxovirus A 免疫組織化学染色

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 中谷夏織 論文審査担当者 主査神奈木真理副査鍔田武志 東田修二 論文題目 Cord blood transplantation is associated with rapid B-cell neogenesis compared with BM transpl

A 農場の自家育成牛と導入牛の HI 抗体価の と抗体陽性率について 11 年の血清で比較すると 自家育成牛は 13 倍と 25% で 導入牛は 453 倍と % であった ( 図 4) A 農場の個体別に症状と保有している HI 抗体価の と抗体陽性率を 11 年の血清で比較した および流産 加療

卵管の自然免疫による感染防御機能 Toll 様受容体 (TLR) は微生物成分を認識して サイトカインを発現させて自然免疫応答を誘導し また適応免疫応答にも寄与すると考えられています ニワトリでは TLR-1(type1 と 2) -2(type1 と 2) -3~ の 10

Ⅰ 本ガイドラインの目的及び位置付け牛白血病のうち牛白血病ウイルス (bovine leukemia virus 以下 BLV という ) により引き起こされる地方病性牛白血病 ( 以下 本病 という ) は 近年 我が国での発生が増加しており 生産現場での被害も増加傾向にある このガイドラインは

免疫学的検査 >> 5F. ウイルス感染症検査 >> 5F560. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 検体ラベル ( 単項目オーダー時

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

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実践!輸血ポケットマニュアル

< HTLV 1 ウイルスについて > HTLV 1 ウイルスはヒト T 細胞白血病ウイルス 1 型と呼 ばれ 成人 T 細胞白血病などの原因であることが分かっています 日本は先進国の中でHTLV 1 抗体の陽性者が最も多く 100 万人を越えています 西日本に多くみられましたが 人口の移動とともに

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

B 農場は乳用牛 45 頭 ( 成牛 34 頭 育成牛 7 頭 子牛 4 頭 ) を飼養する酪農家で 飼養形態は対頭 対尻式ストール 例年 BCoV 病ワクチンを接種していたが 発生前年度から接種を中止していた 自家産牛の一部で育成預託を実施しており 農場全体の半数以上の牛で移動歴があった B 農場

年219 番 生体防御のしくみとその破綻 (Immunity in Host Defense and Disease) 責任者: 黒田悦史主任教授 免疫学 黒田悦史主任教授 安田好文講師 2中平雅清講師 松下一史講師 目的 (1) 病原体や異物の侵入から宿主を守る 免疫系を中心とした生体防御機構を理

犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

マイコプラズマについて

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地方病性牛白血病

10,000 L 30,000 50,000 L 30,000 50,000 L 図 1 白血球増加の主な初期対応 表 1 好中球増加 ( 好中球 >8,000/μL) の疾患 1 CML 2 / G CSF 太字は頻度の高い疾患 32

60 秒でわかるプレスリリース 2006 年 4 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 敗血症の本質にせまる 新規治療法開発 大きく前進 - 制御性樹状細胞を用い 敗血症の治療に世界で初めて成功 - 敗血症 は 細菌などの微生物による感染が全身に広がって 発熱や機能障害などの急激な炎症反応が引き起

検査の重要性 分娩前後は 乳房炎リスクが高まる時期 乾乳軟膏の効果が低下する分娩前後は 乳房炎感染のリスクが高まる時期です この時期をどう乗り越えるかが 乳房炎になるかどうか重要なポイントです 乾乳期に分娩前乳房炎検査を実施して 乳房炎の有無を確認 治療を行い泌乳期に備えます 分娩前後いかに乗り切る

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

スを保有する T リンパ球が経時的に増減しており 特異免疫応答が機能している 図 1 HTLV-1 の感染 ( 上 ) と増殖 ( 下 ) の模式図 - 2 -

能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

MTX を使用している患者に発症するリンパ増殖性疾患は WHO 分類では 移植後リンパ増殖性疾患や HIV 感染に伴うリンパ増殖性疾患と類縁の Other iatrogenic immunodeficiency associated LPD に分類されている 関節リウマチの治療は 近年激変し 早期の

であった また 当該農場においては過去に EBL 発症例はなく BLV 検査は未実施で浸潤状況は不明であった 2 発症経過と病性鑑定実施経過平成 26 年 7 月末より 6 歳齢繁殖雌牛 1 頭 ( 発症牛 ) が 2 週間に及ぶ黄色水様性下痢を呈し 食欲低下と顕著な削痩が認められた 治療の効果がみ

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

2. マイコフ ラス マ性中耳炎子牛の中耳炎原因の 70% 以上は マイコフ ラス マ ホ ヒ スである 3 から 6 週令に発症が多く 3 ヶ月令以上には少ない 中耳炎発症の疫学として 殺菌不十分な廃棄乳の利用 バケツによる がぶ飲み哺乳 による誤嚥 ( 食べ物や異物を気管内に飲み込んでしまうこと

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関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

く 細胞傷害活性の無い CD4 + ヘルパー T 細胞が必須と判明した 吉田らは 1988 年 C57BL/6 マウスが腹腔内に移植した BALB/c マウス由来の Meth A 腫瘍細胞 (CTL 耐性細胞株 ) を拒絶すること 1991 年 同種異系移植によって誘導されるマクロファージ (AIM

の感染が阻止されるという いわゆる 二度なし現象 の原理であり 予防接種 ( ワクチン ) を行う根拠でもあります 特定の抗原を認識する記憶 B 細胞は体内を循環していますがその数は非常に少なく その中で抗原に遭遇した僅かな記憶 B 細胞が著しく増殖し 効率良く形質細胞に分化することが 大量の抗体産


( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

参考1中酪(H23.11)

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

系統看護学講座 クイックリファレンス 2012年 母性看護学

されており これらの保菌者がリザーバーとして感染サイクルに関与している可能性も 考えられています 臨床像ニューモシスチス肺炎の 3 主徴は 発熱 乾性咳嗽 呼吸困難です その他のまれな症状として 胸痛や血痰なども知られています 身体理学所見には乏しく 呼吸音は通常正常です HIV 感染者に合併したニ

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

平成 28 年度感染症危機管理研修会資料 2016/10/13 平成 28 年度危機管理研修会 疫学調査の基本ステップ 国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース (FETP) 1 実地疫学調査の目的 1. 集団発生の原因究明 2. 集団発生のコントロール 3. 将来の集団発生の予防 2 1


10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

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Title 日本における牛白血病ウイルスの浸潤状況と伝播に関する疫学的研究 ( 本文 (Fulltext) ) Author(s) 小林, 創太 Report No.(Doctoral Degree) 博士 ( 獣医学 ) 乙第 139 号 Issue Date Type 博士

報道発表資料 2006 年 6 月 21 日 独立行政法人理化学研究所 アレルギー反応を制御する新たなメカニズムを発見 - 謎の免疫細胞 記憶型 T 細胞 がアレルギー反応に必須 - ポイント アレルギー発症の細胞を可視化する緑色蛍光マウスの開発により解明 分化 発生等で重要なノッチ分子への情報伝達

( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

平成14年度研究報告

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな


糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

読んで見てわかる免疫腫瘍

検査項目情報 EBウイルスVCA 抗体 IgM [EIA] Epstein-Barr virus. viral capsid antigen, viral antibody IgM 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLA

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

研究成果の概要 今回発表した研究では 独自に開発した B 細胞初代培養法 ( 誘導性胚中心様 B (igb) 細胞培養法 ; 野嶋ら, Nat. Commun. 2011) を用いて 膜型 IgE と他のクラスの抗原受容体を培養した B 細胞に発現させ それらの機能を比較しました その結果 他のクラ

2017 年 3 月臨時増刊号 [No.165] 平成 28 年のトピックス 1 新たに報告された HIV 感染者 AIDS 患者を合わせた数は 464 件で 前年から 29 件増加した HIV 感染者は前年から 3 件 AIDS 患者は前年から 26 件増加した ( 図 -1) 2 HIV 感染者

( 様式乙 8) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 米田博 藤原眞也 副査副査 教授教授 黒岩敏彦千原精志郎 副査 教授 佐浦隆一 主論文題名 Anhedonia in Japanese patients with Parkinson s disease ( 日本人パー

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研究事業 ( 平成 28 年度 ) 公募について 平成 27 年 12 月 1 日 信濃町地区研究者各位 信濃町キャンパス学術研究支援課 公募情報 平成 28 年度日本医療研究開発機構 (AMED) 成育疾患克服等総合研

( 様式甲 5) 氏 名 渡辺綾子 ( ふりがな ) ( わたなべあやこ ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲 第 号 学位審査年月日 平成 27 年 7 月 8 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 学位論文題名 Fibrates protect again

2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

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界では年間約 2700 万人が敗血症を発症し その多くを発展途上国の乳幼児が占めています 抗菌薬などの発症早期の治療法の進歩が見られるものの 先進国でも高齢者が発症後数ヶ月の 間に新たな感染症にかかって亡くなる例が多いことが知られています 発症早期には 全身に広がった感染によって炎症反応が過剰になり

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

考えられている 一部の痒疹反応は, 長時間持続する蕁麻疹様の反応から始まり, 持続性の丘疹や結節を形成するに至る マウスでは IgE 存在下に抗原を投与すると, 即時型アレルギー反応, 遅発型アレルギー反応に引き続いて, 好塩基球依存性の第 3 相反応 (IgE-CAI: IgE-dependent

検査項目情報 水痘. 帯状ヘルペスウイルス抗体 IgG [EIA] [ 髄液 ] varicella-zoster virus, viral antibody IgG 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5F

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

図 B 細胞受容体を介した NF-κB 活性化モデル

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免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

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免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

情報提供の例

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

Microsoft PowerPoint - 資料4 臓器移植後に伴うHTLV-1関連疾患発症の実態について

のと期待されます 本研究成果は 2011 年 4 月 5 日 ( 英国時間 ) に英国オンライン科学雑誌 Nature Communications で公開されます また 本研究成果は JST 戦略的創造研究推進事業チーム型研究 (CREST) の研究領域 アレルギー疾患 自己免疫疾患などの発症機構

とが知られています 神経合併症としては水痘脳炎 (1/50,000) 急性小脳失調症 (1/4,000) などがあり さらにインフルエンザ同様 ライ症候群への関与も指摘されています さらに 母体が妊娠 20 週までの初期に水痘に罹患しますと 生まれた子供の約 2% が 皮膚瘢痕 骨と筋肉の低形成 白

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方法について教えてください A 妊娠中の接種に関する有効性および安全性が確立されていないため 3 回接種を完了する前に妊娠していることがわかった場合には一旦接種を中断し 出産後に残りの接種を行うようにしてください 接種が中断しても 最初から接種し直す必要はありません 具体的には 1 回目接種後に妊娠

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

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学位論文要旨 牛白血病ウイルス感染牛における臨床免疫学的研究 - 細胞性免疫低下が及ぼす他の疾病発生について - C linical immunological studies on cows infected with bovine leukemia virus: Occurrence of other disea s e a f f e c t e d b y cellular immune depression. 柿沼 清市 K akinuma Seiichi 平成 26 年度 2014

地方病性牛白血病 ( E nzootic bovine leukosis: EBL) は 牛白血病ウイルス ( BLV) の感染が原因となる疾病で 我が国では EBL の発症報告は年々増加傾向にある BLV は ヒト免疫不全ウイルス ( HIV) やヒト T 細胞白血病ウイルス (HTLV) と同じレトロウイルス科に属し BLV 感染牛は 病態の進行とともに末梢血液中に B 細胞が増加する持続性リンパ球増多症 (P e r s i s t e n t l y m p h o c y t o s i s : PL) や 腫瘍形成して EBL を呈することが知られている 高率感染農場も存在し 免疫機能低下による疾病多発や経済的損失が危惧されている しかしながら BLV 抗体陽性牛は EBL を発症しない限り淘汰の対象にならず 深刻な病状には至らないため臨床的には軽視される傾向があり 清浄化対策は非常に困難なものとなっている 本研究は 外見上健康である BLV 感染牛の免疫状態およびウイルス動態を観察し それらと EBL 以外の疾病発生との関連性について検証することを目的とした 免疫学的検査は乳用牛の分娩前後の免疫状態を知る手段として有用であり 乳房炎多発牛群では泌乳期間において牛群全体の T 細胞や B 細胞数の減少が観察され 牛群単位での免疫機能の低下が指摘されている BLV 感染牛は 未感染牛に比べて免疫機能が低下しているため 他の感染症に罹患し易いとされていることから BLV の高率感染牛群において牛群単位での免疫機能の低下が存在する可能性も示唆されている しかし BLV 高率感染牛群において免疫状態を評価した報告はなく これらの泌乳期間による免疫状態は明らかにされていない 乳牛の感染症が周産期に発症しやすい主な要因として 周産期における生理的免疫機能の低下が挙げられる また高齢牛では感染症 1

の発症リスクが高いことが考えられる 分娩日における末梢血 T 細胞数は高齢になるほど減少することが報告されており 乳房炎などの感染症の発症に関与することが示唆されている 加えて BLV 感染牛では 病態が進行した感染期間の長い高齢牛ほど細胞性免疫が低下し 感染症などの周産期疾病を発症する可能性が高い また BLV 感染牛では 分娩時にウイルスの排出や末梢血中のウイルス量が増加し 伝播のリスクが増大する 特に EBL では生理的な周産期免疫低下による宿主免疫機能の低下がウイルス因子を助長して発症する可能性が指摘され 潜伏期間も長いため 高齢牛ほど発症する危険性が高い また 初乳を介して出生子牛に垂直感染する経路も挙げられ 末梢血だけでなく初乳中にもウイルス感染細胞が浸潤していることが予測される しかし B L V 感染牛における分娩時の血液および初乳の免疫状態は不明である BLV 感染牛では 病態が進行すると免疫反応が低下することから 真菌感染症における自然治癒が低下することが報告されている 潜在性乳房炎の牛の乳腺組織内に BLV が見出された報告や BLV 感染牛における乳汁中の高体細胞数を指摘する報告もある よって BLV 感染牛では 周産期に 乳房炎等の感染症発症の危険性が一層高まっている可能性がある しかし 臨床型乳房炎を発症する BLV 感染乳牛の周産期における末梢血中のウイルス動態と免疫状態との関係については十分に明らかにされていない 本論文は以下の 3 章構成とする 第 1 章 牛白血病ウイルス感染搾乳牛における末梢血白血球ポピ ュレ - ション BLV 感染牛群における免疫状態を明らかにするため B L V 遺伝子検 2

査 (Nested-PCR 法 ) にて牛群の 80% 以上が陽性の BLV 高率感染農場と全てが陰性の未感染農場における疾病発生を調査した それぞれの農場の BLV 感染牛 18 頭 ( 感染牛群 ) と 未感染牛 23 頭 ( 未感染牛群 ) の白血球ポピュレーションを解析した BLV 高率感染農場は 未感染農場に比べて 1 年間の消化器 代謝疾患の発生件数と 再診した個体の頭数が多かった 5 年間の追跡調査では 疾病発生牛の年齢は 高率感染農場が未感染農場に比べて有意に低かった 開腹手術を行った個体の術後 1 年以内の生存率は高率感染農場が 27 頭のうち 12 頭 (44.4% ) であったのに対し 未感染農場は 18 頭のうち 16 頭 (88.9%) であった 感染牛群の MHC class-ii + CD14 - B 細胞数 CD14 + 単球数 WC1-N1 + T 細胞数は 未感染牛群に比べて有意な高値を示した BLV 感染牛群は B 細胞数の増多を主体とした免疫異常状態を示し 疾病発生および治癒低下に対するリスクが高まる可能性がある 第 2 章 牛白血病ウイルス感染搾乳牛における分娩直後の末梢血 および初乳白血球ポピュレーションおよびサイトカイン BLV 感染牛における分娩時の血液および初乳の免疫状態を明らかにするために 臨床的に健康で寒天ゲル内拡散沈降反応 (AGID) にて陽性の 18 頭 ( 陽性群 ) と 陰性の 31 頭 ( 陰性群 ) の 末梢血および初乳中の白血球ポピュレーションとサイトカイン遺伝子発現量を解析した 末梢血および初乳中の MHC class-ii + CD14 - B 細胞数割合は 陽性群が陰性群に比べて有意に高かった 陽性群の末梢血および初乳中白血球の IL-4 および IL-10 遺伝子発現量は陰性群に比べて有意に高く I F N - /IL-4 比は陰性群に比べて有意に低かった BLV 感染牛の末梢血および初乳では細胞性免疫が低下していること 3

が示唆された 第 3 章 牛白血病ウイルス感染搾乳牛における分娩前後のウイル ス量および末梢血白血球ポピュレーションの変化と乳房炎発生との関係 BLV 感染牛における分娩後の乳房炎発症と血液中のウイルスおよび免疫状態との関係を明らかにするために BLV 感染牛群 16 頭の分娩後 3 カ月間の疾病発生状況を調査し 分娩後に乳房炎を発症した乳房炎群 5 頭と 対照群 11 頭の末梢血中のウイルス力価 ( シンシチウム数 ) 白血球ポピュレーションを解析した 乳房炎群におけるウイルス力価は 分娩前に比べて分娩後で有意に増加していた 分娩前後の乳房炎群における MHC class-ii + CD14 - B 細胞数は対照群とは有意な差が認められなかった 分娩前後の乳房炎群における CD3 + CD4 + CD8 + および C D 3 3 5 + 細胞数は対照群に比べて低値であり 特に CD335 + 細胞数は有意な低値を示した 分娩前から末梢 T 細胞を主体とする細胞数が低下した BLV 感染牛は 分娩後に乳房炎を発症し易く 血中の BLV が増し ウイルス伝播の危険性も高まっていることが示唆された 以上のことから B L V 感染搾乳牛は 外見上健康であっても 細胞性免疫が低下しているため 疾病発生および治癒低下のリスクが高まっていることが示唆された 特に分娩前から細胞性免疫が低下した個体は 乳房炎を発症し易く ウイルスの量も増加するため 伝播の危険性も高まっている これらの研究結果は 今後 BLV 感染牛の病態進行と 細胞性免疫低下が及ぼす EBL 以外の疾病発生 および伝播の解明に貢献できるものである 4