実践のまとめ ( 第 1 学年国語科 ) 胎内市立中条中学校教諭佐久間朋子 1 研究テーマ ひとり学び 共学び によって 表現力を高める指導 ~ 故事成語を使った体験文を書く活動を通して~ 2 研究テーマについて (1) テーマ設定の意図当校では ひとり学び 共学び を研究テーマとし 各教科で授業実践をしている 国語科では 教材を扱う際に ひとり学び 共学び を手立てとして さまざまな文章を幅広く読んだり深めたりする力 他の表現方法や構成を参考に自分の考えを適切に書く力 相手を意識して話したり聞いたりする力の育成に努めている 他者との意見交流は 自分の考えと他を比較したり 重ねたりすることで 自分の考えに広がりをもたせるための有効な手立てになる 多様な考え方や表現方法に触れることで豊かな表現力を身に付けさせたいと考え 本研究テーマを設定した (2) 研究テーマに迫るために 1 基礎 基本的な言語事項は ひとり学び で定着させる生徒はいくつかの故事成語を知っているが 多くの故事成語やその由来について触れる機会がこれまでは少なかったようである そこで この単元を通して 多くの故事成語に触れ その由来を調べることで 故事成語に対する興味を高めたいと考えた また 単に故事成語の意味を知るにとどまらず 体験文に故事成語を用いることで 故事成語を身近に感じ 自分の文章の表現に広がりをもたせていきたい 2 共学び によって 表現の仕方を広げる様々な故事成語と身近な体験を話し合い活動を通して結び付けさせたい 自分の経験が乏しい生徒 故事成語と体験がうまく結び付けられない生徒もいると考えられる そのため 体験文を書かせる前に グループの中で自由に話し合いをすることで 具体的な場面が浮かんだり どのようなことと故事成語を結び付けたらよいのかを考えたりするヒントとさせたい また 作文途中にもお互いに聞き合える雰囲気を作り 作文を苦手とする生徒への意欲を高めたい 3 故事成語を取り入れ 体験文を書くことで 故事成語の意味を確実にとらえさせ わかる 段階から 使える 段階へ高める体験文を書くことで 共学び から得たことを自分の文章表現に生かすことができる 故事成語の意味と自分の体験がつながった時 体験文を書くことにおもしろさが加わっていくことを期待したい また 今回選んだ故事成語が自分の体験に使えることを経験し 生徒にとって学んだ故事成語がより身近なものに感じられる 1
機会としたい (3) 研究テーマ達成にかかわる評価 故事成語の意味を理解し 体験作文に用いることができる 振り返りシートで肯定的な評価をする生徒が 80% 以上で達成されたと判断する 教師が体験文を読み 適切に故事成語が用いられた作文かを判断する 体験作文を書くために 話し合い活動で体験談を述べることができる ワークシートの記述から判断する 3 単元と指導計画 (1) 単元名 4 いにしえの心にふれる 今に生きる言葉 (1 年光村図書 ) (2) 単元の目標 故事成語 とは何かを理解し どのような言葉があるか興味や関心をもつ ( 国語への関心 意欲 態度 ) 矛盾 を読み 故事の内容を理解する ( 言語についての知識 理解 技能 ) 故事成語の表す意味を理解し 自分の体験と結び付けて体験文を書く ( 書く ) (3) 単元の評価規準関心 意欲 態度 読む 書く 故事成語が中国の歴史的な事実やエピソードを背景にした言葉であることを理解し 調べてみたい言葉を挙げている 様々な故事成語に関連して 体験談を述べている 現代語訳を参考にしながら 矛盾 の内容を理解することができる 故事成語を正しく用いて体験文を書いている 言語事項 矛盾 以外の故事成語について 言葉の由来や意味を理解する (4) 単元の指導計画と評価計画 ( 全 6 時間本時 4/6 時間 ) 次時学習内容学習活動主な評価規準と方法 故事成語を理解し 故事成語とは何かを確認 興味関心をもち音読す故事と語の意味の関する ることができる 連を確認する 矛盾 を音読する 音読カード 1 矛盾 以外の故事成語 知っている故事成語を一について知っているもの挙げることができる を挙げる 観察 矛盾 の原文と口語 矛盾 を音読する 歴史的仮名遣いを現代 2 訳を読み 故事の内 原文と口語訳を照らし合仮名遣いに直し音読 2
3 容を理解する 矛盾 以外の言葉の由来や意味を調べる 班ごとに故事成語を割り振る わせ 矛盾 の意味を とらえる 矛盾 以外の故事成語について辞書や書籍等で調べ 言葉の由来や意味をまとめる 3 できる 音読カート 矛盾 の意味と故事 について理解するこ とができる ワークシート 資料をもとに 故事成語の言葉の由来や意味を調べ ワークシートにまとめることができる ワークシート 4つの故事成語の中 1 人ずつ どんな場面か 自分の体験や考えられ で1つの故事に結び を考え 場面 の形で る場面を詳しく説明 4 つく体験や場面を話 付箋に書く している 観察 スト NRT し合う 具体的な話を出し合い 体験文と故事成語を結 体験作文を書く 体験作文のヒントを得さ び付けて 体験文を書 せる いている 原稿用紙 二 4つの中から1つ故事成 語を選び 体験文を 100 字から 200 字で書く 別の班の体験文を班 回し読みをして 体験文 他の体験文を読み 観 ごとに回し読みをす の自他評価をし 感想を 点に沿って評価する 5 の結果からも 言語事項 書く力を身に付けさせることが今後の課題とな(る 書く ことができる プリント問題をする 様々な故事成語の意味 故事成語の練習問題 を理解している を解く 評価用紙 漢文の決まりを説明 漢文の決まりを知る 漢文を訓読し 書き下 6 する 練習問題によって 確認 し文を理解すること する ができる ワークシート 4 単元と生徒 (1) 単元について 故事成語の多くは 今も日常生活の中で使われる言葉としてしっかり根付いている 教材文では 矛盾 を取り上げているが その他の故事成語についても生徒は聞いたり 使ったりした経験があると思われる しかし それらの言葉がどのようにして生まれた のかを知る学習は初めてであり 言葉の背景に豊かな世界があることに大いに興味や関 心を抱くと考えられる その感動を大切にしながら 生徒が自らたくさんの故事成語に ついて知りたいという雰囲気を高めていきたい また 知り得た故事成語を自分の体験と結び付ける学習を通して 今に生きる言葉 としての故事成語のすばらしさを実感させたい (2) 生徒の実態 本学級は男子 15 人 女子 14 人 計 29 名である 国語の学習に対して前向きに取 り組むが 基礎 基本の定着は十分とは言えない 当校の基礎学力向上テストや定期テ 本時)
っている 男女で話し合い活動をすることはできるが 積極的に意見を述べる男子に対し 女子は消極的で 考えにも深まりが見られない 1 学期の 共学び の学習場面では 自分の意見をもてない生徒や他の考えをそのまま自分の考えにしてしまう生徒が多く 共学び に深まりが見られなかった また リーダー的な存在が男子に多く 小集団の役割分担にも工夫が必要である 5 本時の展開 (1) ねらい 様々な故事成語の意味を知り 故事成語と結びつく場面や体験を述べることができる ( 言語についての知識 理解 技能 ) 自分の体験と同じ意味をもつ故事成語を使って体験文を書くことができる ( 書く ) (2) 展開の構想本時は 矛盾 以外の故事成語について 意味 用法 由来を知り それに結びつく場面や体験を話し合うことを通して体験文を書く時間である 前時は一人一つずつ故事成語を調べ 全員で本時の資料を作成した 興味をもつ故事成語を調べることで 故事成語に対する関心や学習意欲を高めることにした また 班内 (4 人班 ) で故事成語について話し合う場面を設定し 意味の理解が深まるようにする 故事成語を用いる場面を具体的に想像しやすくして 全くイメージできない生徒の考える手がかりにさせていく 各自が調べる故事成語についても 班員の学力を考慮し 教師が割り振ることで 全員が故事成語を用いて体験文を書くことができる授業を目指す (3) 展開 時間学習活動教師の働きかけ 評価 留意点 導入 (5 分 ) 展開 1 (20 分 ) 本時のねらいを知る 自分達に割り振られた資料を読み 本時の活動を知る 割り振られた4 つの故事成語に結びつく体験や場面を挙げ 具体的に話し合う 何を学ぶのかを明確にするため 本時のねらいを板書する 本時の流れについて説明する 〇話し合い例を示す 拡大した用紙を黒板に貼り 例を示す ( 教師の体験談 ) 付箋を配布する 場面 ( 時 ) と簡潔に記入させる 一斉に付箋を貼り 一人ずつ場面説明をする なるべく いつ どこで 何を どうした を意識して説明させる 4
展開 2 (20 分 ) まとめ (5 分 ) 学び合いによって 体験文を書く手がかりを得るよう働きかける 例をうまく挙げた生徒を全体に紹介する 4つの中から 選んだ故事成語を取り入れ 体験文に用いる 100 字 ~200 字で作文するよ故事成語を決定う指示する する 他の体験話を参考にしたり 新たな故事成語に挑戦させたりする 故事成語を用い 用例や話し合いで出た体験談て 体験作文をなどを参考に作文させる 書く 本時を振り返る 故事成語の理解 作文 話し合い活動について振り返りをさせる 故事成語の意味が わかり 体験作文を 書いている (4) 評価 様々な故事成語の意味を知り 故事成語と結びつく場面や体験を述べることができる ( 言語についての知識 理解 技能 ) 自分の体験と同じ意味をもつ故事成語を使って体験文を書くことができる ( 書く ) 6 実践を振り返って (1) 授業の実際故事成語の単元を扱うにあたり 矛盾 を音読する前に 矛盾 蛇足 四面楚歌 蛍雪の功 について知っているか尋ね 挙手させた 矛盾 については以前に聞いたことがある 知っていると答えた生徒が多かったが 他の故事成語について知っている生徒はごく少数であった そこで 覚えてほしい故事成語や 単元名にもなっている 今に生きる言葉 として生徒が使いやすい故事成語を教師が30 語選び 生徒一人一人に希望を聞き取って故事成語の意味 由来 用例を辞書や書籍を使って調べさせた 自分の選んだ故事成語であり 一人一人違う故事成語を調べるため 生徒は興味をもって短時間で調べ学習を終えた 調べた故事成語をランダムに班に4つずつ配布した どの班にも使いやすい故事成語が必ず1つは入るようにし 全員がいずれかの故事成語を使って体験文を書けるように配慮した 教師の例示でも生徒が親しみやすい故事成語を用い 体験文を書くことへの抵抗感を減らす工夫をした 付箋を用いて 簡潔に自分の体験を記入させてから班内での話し合いを行った この段階を取り入れたことで どのような体験をどのように話したらよいか一人一人に考えさせることができた また 他の体験談は付箋だけでは明確でないため 真剣に 5
他の話に耳を傾ける雰囲気を作ることができた 同じ故事成語を班員全員が選ぶ班もあったが それぞれの体験を興味深く聞いたり 共感しながら聞いたりする姿が見られた 自信のない生徒も他と似たような話をすることで 体験文を書くための準備ができた 体験談の話し合いの時間が十分にとれたところで 体験文を書かせた 中には班内に配られた故事成語では書きづらいため 教師の例示したものや 矛盾 を用いて書きたいと申し出る生徒もいた どの故事成語を選ぶか どのように書き進めるかなど 時間がかかると予想していたが どの生徒も字数制限を守り スムーズに書くことができた 授業の最後に 3つの項目で振り返りをさせ 授業の感想を自由記述で書かせる時間を設けた 結果は以下のとおりである 振り返りアンケート (%) 1 四人班での話し合い活動の中で 故事成語につながる体験談を話すことができた 2 四人班での話し合い活動は 故事成語を選んだり 自分の体験談を書いたりする時の参考になった 3 自分の体験と同じ意味をもつ故事成語を使って 体験文を書くことができた A B C D できたできない 77.8 18.5 3.7 0 81.5 18.5 0 0 92.6 7.4 0 0 授業の感想 故事成語の中には 自分の体験と同じようなものがたくさんあっておもしろかった 難しいと思ったけれど 故事成語を使った文を書くのは楽しかった 日常生活でも使えそうだなと思った 昔の言葉だけど 今でも由来と同じような体験を自分がしていることがわかって びっくりした 知らなかった故事成語も多かったけれど みんなが調べた故事成語がわかりやすくて覚えられたし 自分で使ってみたら身近に感じた 生徒にとって 故事成語の意味はわかっても実際に使うとなるとハードルが高くなる しかし 振り返りの記述を見ると 体験文を書くことを通して 故事成語への興味も高まり 意味の理解も深まり 故事成語を自 6
分で使えることを実感できていることが分かった また 本授業後の生徒の会話に 給食の残量を比較して 五十歩百歩だ そんなことは 蛇足だ など 故事成語を使 用する場面が見られ 生徒の中に故事成語が生きている姿が見られた (2) 研究テーマについての考察まず 生徒が新たに出会う故事成語とじっくり向き合うことができるようにするために ひとり学び の時間を設定した 教材文である 矛盾 を全体で学習し 故事成語の由来や言葉の意味を知り 矛盾 を使って短文を作った 矛盾 の意味を何となく知っていた生徒も含め 由来を知った時には言葉の意味とのつながりに感動を得ることができた 同じ流れで個々に調べ学習を行ったため 生徒は自分の調べた故事成語の背景に どのような話があるのか興味をもって取り組んだ 同様に他の生徒がどんな故事成語を調べているのか気になる様子が見られ どんなことがわかったのか互いに見せ合う雰囲気が自然にできていた 単元の後半では 個々に調べた故事成語を全員分配布し 読む時間を設定した お互いに仕上げた作品であるため 丁寧に目を通す姿が見られた このようなことから じっくり調べたり 新しい故事成語を覚えたりするために ひとり学び の時間設定は有効であった 次に 共学び によって表現の仕方を広げる活動についてである 授業の前日まで個々に調べた故事成語のシートを配布するかどうか迷いがあった シートを配布することで 話し合う必要性がなくなるのではないかとの懸念があったためである 学力差のある班員同士でどのような話し合いが行われれば 全員体験文を書くことができるか何度も検討した 体験文が書けない理由として 故事成語の意味がわからない 由来と故事成語の意味が結びつかない 体験していることがあってもうまく故事成語の由来と重ねられないなどを予想した それらを解消するためにも 同じような場面に出くわしている生徒の体験を聞くことに意味があると考え 当日の授業では資料を全員分配らず 1 枚につき故事成語が1つ書かれている資料のみ配布した 付箋を用いて話し合わせることにより より具体的な体験が出された 振り返りでも 自分の体験はうまく言えなかったけど 班の人の体験を聞いて自分も似たような体験があったから体験文を書くことができた などの記述が見られた また 体験文の書き始めで手が止まる生徒もなく スムーズに書き出せていた 付箋を貼りながら体験を話し合わせる活動は体験文を書くために有効な活動であった 最後に体験文を書くことで 故事成語の意味と自分の体験とを確認する場面が多くあった 表面的な意味の理解では体験文を書くことが困難である 体験文を書く際にも 話し合いの隊形を崩さなかったことで互いに読み合い 確認し合う姿が見られた 故事成語の意味を大幅に取り違えることなく 全員が時間内に体験文を書き終えることができた ひとり学び 共学び の時間を目的と活動内容によって両方取り入れることで 故事成語に対する興味関心を生徒がもつようになった 故事成語の意味を理解したり 体験文を書くことで表現力を高めたりすることにつなげることができたと考える 7
(3) 今後の課題本単元の授業を振り返り 課題として挙げられるのは次の二つである 一つ目は 自分の調べた故事成語について 確実に意味を理解し 使えるまでになっていたかという点である 一度自分で体験文に用いた故事成語については十分理解できたと考えられるが その他の故事成語については不十分なものもある 単に故事成語の意味を問う問題を解かせ 繰り返し覚えさせるだけでなく 日々の授業で短文作りなどをさせ 使える故事成語としてその数を増やしていく必要がある 二つ目は 体験文の書き方である 今回は 故事成語の意味を正しく理解し 自分の体験文に取り入れることをねらいとしていたため 文章の構成にはきまりを作らなかった しかし 書かれた体験文を読むと 段落の付け方や文のねじれなど推敲が必要な文章が多く見られた 書かれた体験文を自分で読み直す機会を設けたり 互いに体験文を読み合わせて評価し合ったりする時間を設定することで さらに体験文の表現方法を豊かにさせていく必要がある また 本時の授業を参観してくださった先生方から次のようなご指導を頂いたので 今後の授業に生かし 生徒が主体的に学ぶ授業をさらに目指していきたい 付箋使用は書くことへの準備として有効だと思う 書くことへの抵抗感を減らす試みであり 意欲が高まると感じた 和やかな雰囲気で 共学び がされており 故事成語とそれぞれの身近な体験が素直に話し合われていた 具体的な場面を語らせることが体験文を書く活動につながっていた 故事成語の意味を正しく把握していない生徒もいたので 体験文の添削時に確認して 今後の授業で補充することが必要だと思う 8