平成16年度研究報告

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兵庫大学短期大学部研究集録№49

妊婦甲状腺機能検査の実施成績 東京都予防医学協会母子保健検査部 はじめに て乾燥させたろ紙血液を検体とする 検体は本会の 妊婦の甲状腺機能異常による甲状腺ホルモンの 過不足は 妊娠の転帰に影響を与えるばかりでなく 代謝異常検査センターに郵送される 2 検査項目と検査目的および判定基準 生まれてくる子

第51回日本小児内分泌学会学術集会 Year Book * 成長

脂質異常症を診断できる 高尿酸血症を診断できる C. 症状 病態の経験 1. 頻度の高い症状 a 全身倦怠感 b 体重減少 体重増加 c 尿量異常 2. 緊急を要する病態 a 低血糖 b 糖尿性ケトアシドーシス 高浸透圧高血糖症候群 c 甲状腺クリーゼ d 副腎クリーゼ 副腎不全 e 粘液水腫性昏睡

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

汎発性膿庖性乾癬の解明

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統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異の同定と病態メカニズムの解明 ポイント 統合失調症の発症に関与するゲノムコピー数変異 (CNV) が 患者全体の約 9% で同定され 難病として医療費助成の対象になっている疾患も含まれることが分かった 発症に関連した CNV を持つ患者では その 40%

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

論文の内容の要旨

Pathological Studies on Dwarf Rats Derived from Wistar Hannover GALAS Rats, with Paticular Reference to Thyroid, Pituitary and Bone

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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の実施成績 東京都予防医学協会母子保健検査部 はじめに て乾燥させたろ紙血液を検体とする 検体は本会の 妊婦の甲状腺機能異常による甲状腺ホルモンの 代謝異常検査センターに郵送される 過不足は 妊娠の転帰に影響を与えるばかりでなく 2 検査項目と検査目的および判定基準 生まれてくる子どもに直接的 ある

日本皮膚科学会雑誌第122巻第7号

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平成14年度研究報告

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2015 年 4 月 16 日放送 第 78 回日本皮膚科学会東部支部学術大会 3 シンポジウム1-1 Netherton 症候群とその類症 旭川医科大学皮膚科教授山本明美 はじめに Netherton 症候群は魚鱗癬 竹節状の毛幹に代表される毛の異常とアトピー症状を3 主徴とする遺伝性疾患ですが

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東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

甲状腺機能が亢進して体内に甲状腺ホルモンが増えた状態になります TSH レセプター抗体は胎盤を通過して胎児の甲状腺にも影響します 母体の TSH レセプター抗体の量が多いと胎児に甲状腺機能亢進症を引き起こす可能性が高まります その場合 胎児の心拍数が上昇しひどい時には胎児が心不全となったり 胎児の成

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

検査項目情報 トータルHCG-β ( インタクトHCG+ フリー HCG-βサブユニット ) ( 緊急検査室 ) chorionic gonadotropin 連絡先 : 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10)

児に対する母体の甲状腺機能低下症の影響を小さくするためにも 甲状腺機能低下症を甲状腺ホル モン薬の補充でしっかりとコントロールしておくのが無難と考えられます 3) 胎児 新生児の甲状腺機能低下症 胎児の甲状腺が生まれながらに ( 先天的に ) 欠損してしまう病気があります 通常 妊娠 8-10 週頃

301128_課_薬生薬審発1128第1号_ニボルマブ(遺伝子組換え)製剤の最適使用推進ガイドラインの一部改正について

検査項目情報 1171 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4F. 性腺 胎盤ホルモンおよび結合蛋白 >> 4F090. トータル HCG-β ( インタクト HCG+ フリー HCG-β サブユニット ) トータル HCG-β ( インタクト HCG+ フリー HCG-β サブ

平成17年度研究報告

統合失調症モデルマウスを用いた解析で新たな統合失調症病態シグナルを同定-統合失調症における新たな予防法・治療法開発への手がかり-

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平成14年度研究報告

乳児糖尿病をきたす重症Wolfram症候群の発症機序に関する研究 [全文の要約]

医療関係者 Version 2.0 多発性内分泌腫瘍症 2 型と RET 遺伝子 Ⅰ. 臨床病変 エムイーエヌ 多発性内分泌腫瘍症 2 型 (multiple endocrine neoplasia type 2 : MEN2) は甲状腺髄様癌 褐色細胞腫 副甲状腺機能亢進症を発生する常染色体優性遺

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EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討

概要 名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教 山中宏二教授 医学系研究科の玉田宏美研究員 木山博資教授らの国際共同研究グループは 神経細胞の維持に重要な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部 (MAM) が崩壊することが神経難病 ALS( 筋萎縮性側索硬化症 ) の発症に重要であることを発見しまし

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負荷試験 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 検体ラベル ( 単項目オーダー時 )

ス化した さらに 正常から上皮性異形成 上皮性異形成から浸潤癌への変化に伴い有意に発現が変化する 15 遺伝子を同定し 報告した [Int J Cancer. 132(3) (2013)] 本研究では 上記データベースから 特に異形成から浸潤癌への移行で重要な役割を果たす可能性がある

免疫学的検査 >> 5C. 血漿蛋白 >> 5C146. 検体採取 患者の検査前準備検体採取のタイミング記号添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料採取量測定材料ネ丸底プレイン ( 白 ) 尿 9 ml 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60

オプジーボ投与患者における甲状腺機能障害について

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

診療のガイドライン産科編2014(A4)/fujgs2014‐114(大扉)

SNPs( スニップス ) について 個人差に関係があると考えられている SNPs 遺伝子に保存されている情報は A( アデニン ) T( チミン ) C( シトシン ) G( グアニン ) という 4 つの物質の並びによってつくられています この並びは人類でほとんど同じですが 個人で異なる部分もあ

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2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

疫学研究の病院HPによる情報公開 様式の作成について

論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

518 蛍光酵素免疫測定法による Thyroglobulin 測定試薬の基礎的検討 山本晶子 1) 矢野美沙紀 1) 江藤恭紀 1) 太田希美 1) 丸田淳子 1) 医療法人野口記念会野口病院 1) はじめに Thyroglobulin(Tg) は甲状腺ホルモン合成に関わ るタンパクで濾胞細胞にて合

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Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

検査項目情報 6154 一次サンプル採取マニュアル 4. 内分泌学的検査 >> 4E. 副腎髄質ホルモン >> 4E016. カテコールアミン3 分画 カテコールアミン3 分画 [ 随時尿 ] catecholamines 3 fractionation 連絡先 : 3764 基本情報 4E016

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

実地医家のための 甲状腺エコー検査マスター講座

シトリン欠損症説明簡単患者用

計画研究 年度 定量的一塩基多型解析技術の開発と医療への応用 田平 知子 1) 久木田 洋児 2) 堀内 孝彦 3) 1) 九州大学生体防御医学研究所 林 健志 1) 2) 大阪府立成人病センター研究所 研究の目的と進め方 3) 九州大学病院 研究期間の成果 ポストシークエンシン

化を明らかにすることにより 自閉症発症のリスクに関わるメカニズムを明らかにすることが期待されます 本研究成果は 本年 京都において開催される Neuro2013 において 6 月 22 日に発表されます (P ) お問い合わせ先 東北大学大学院医学系研究科 発生発達神経科学分野教授大隅典

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助成研究演題 - 平成 23 年度国内共同研究 (39 歳以下 ) 重症心不全の集学的治療確立のための QOL 研究 東京大学医学系研究科重症心不全治療開発講座客員研究員 ( 助成時 : 東京大学医学部附属病院循環器内科日本学術振興会特別研究員 PD) 加藤尚子 私は 重症心不全の集学的治療確立のた

報道発表資料 2006 年 8 月 7 日 独立行政法人理化学研究所 国立大学法人大阪大学 栄養素 亜鉛 は免疫のシグナル - 免疫系の活性化に細胞内亜鉛濃度が関与 - ポイント 亜鉛が免疫応答を制御 亜鉛がシグナル伝達分子として作用する 免疫の新領域を開拓独立行政法人理化学研究所 ( 野依良治理事

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

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2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

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スライド 1

関係があると報告もされており 卵巣明細胞腺癌において PI3K 経路は非常に重要であると考えられる PI3K 経路が活性化すると mtor ならびに HIF-1αが活性化することが知られている HIF-1αは様々な癌種における薬理学的な標的の一つであるが 卵巣癌においても同様である そこで 本研究で

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ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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小児の難治性白血病を引き起こす MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見 ポイント 小児がんのなかでも 最も頻度が高い急性リンパ性白血病を起こす新たな原因として MEF2D-BCL9 融合遺伝子を発見しました MEF2D-BCL9 融合遺伝子は 治療中に再発する難治性の白血病を引き起こしますが 新しい

甲状腺疾患一般 甲状軟骨 左葉 峡部 右葉 輪状軟骨 錐体葉 図1 甲状腺 びまん性甲状腺腫 の位置 表1 甲状腺機能異常症にみられる症状 触診時に嚥下してもらうとわかりやすい 右の写真で 左の構造 をイメージしてみてください 甲状腺中毒症 甲状腺機能低下症 頻脈 動悸 暑がり 皮膚湿潤 発汗過多

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県医師会報2017.5月号HP

記者発表資料

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

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平成24年7月x日

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

ストレスが高尿酸血症の発症に関与するメカニズムを解明 ポイント これまで マウス拘束ストレスモデルの解析で ストレスは内臓脂肪に慢性炎症を引き起こし インスリン抵抗性 血栓症の原因となることを示してきました マウス拘束ストレスモデルの解析を行ったところ ストレスは xanthine oxidored

5. 合併症突発性難聴の症状は難聴 耳鳴 耳閉塞感そして回転性または浮動性めまいである その他の神経症状を合併する場合は他の疾患を考える必要がある また 突発性難聴が特に合併しやすい全身疾患などはない 6. 治療法種々の治療が試みられているが どの治療法が有効かは判明していない 本急性高度難聴調査研

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

262 原発性高カイロミクロン血症

研究の詳細な説明 1. 背景細菌 ウイルス ワクチンなどの抗原が人の体内に入るとリンパ組織の中で胚中心が形成されます メモリー B 細胞は胚中心に存在する胚中心 B 細胞から誘導されてくること知られています しかし その誘導の仕組みについてはよくわかっておらず その仕組みの解明は重要な課題として残っ

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臨床研究に参加される研究対象者の方へ 皮膚症状を呈する膠原病における炎症性サイトカインの病態への関与について に関する研究の説明 これは臨床研究への参加についての説明文書です 本臨床研究についてわかりやすく説明しますので 内容を十分ご理解されたうえで 参加するかどうか患者さんご自身の意思でお決め下さ

本日の内容 HbA1c 測定方法別原理と特徴 HPLC 法 免疫法 酵素法 原理差による測定値の乖離要因

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平成 16 年度研究報告 研究テーマ Pendrin (PDS) 遺伝子異常症例の甲状腺機能 内耳機能とヨード摂取の関連 - PDS 遺伝子異常と甲状腺機能 内耳機能 - 名古屋大学医学部附属病院 助手三浦義孝 現所属 : みうら内科クリニック

サマリー Pendred 症候群は 1896 年 Pendred によって報告された 甲状腺腫 甲状腺機能低下症 難聴を主訴とする症候群で 1996 年に Sheffield によりその原因遺伝子 (PDS 遺伝子 ) が報告され その遺伝子産物は Pendrin と命名された 本症候群の難聴は感音性難聴で MRI または CT により内耳の前庭水管拡大を伴うのが特徴とされる 一方 難聴があり 内リンパ管 内リンパ嚢および前庭水管が拡大している症例が多く認められ前庭水管拡大症と言われているが その中には臨床上明らかな甲状腺所見の異常を認めないものの遺伝子検査で PDS 遺伝子の異常が報告されるようになり 遺伝的に Pendred 症候群と関連が深いことがわかってきた 前庭水管拡大症と Pendred 症候群は基本的に同一疾患と考えられるが 同じ遺伝子異常でありながら 甲状腺機能異常を呈する者から 明らかな甲状腺異常を認めない者まで Genotype と Phenotype に相違が認められる 本研究では Pendrin の本疾患における意義を明らかにするために 甲状腺機能 内耳機能と遺伝子異常の相関を検討し 内耳での Pendrin の役割を明らかにするために免疫組織学的に Pendrin の局在を検討した 今回の研究では前庭水管拡大症を呈し PDS 遺伝子異常を呈した患者の甲状腺機能は全て正常範囲であった 欧米での報告では私共の報告した H723R 変異をを有しながら 甲状腺機能低下を伴っており Genotype と Phenotype の相違が認められた 私共の検討ではホモ接合型ではヘテロ接合型に比べ甲状腺体積に大きな変化はないものの サイログロブリン濃度が高く パークロレイト放出試験ではより障害が大きかった しかし 臨床的には代償され甲状腺機能異常としては認められなかった ヨード摂取量と甲状腺機能障害の関係は明らかに出来なかったが 本邦では海草 魚介類より比較的多量のヨードを摂取しており ヨード摂取の少ない欧米に比べ ヨード摂取量の寡多が甲状腺機能の代償に関与していることが示唆された また 内耳機能に関してはホモ接合体の方がヘテロ接合体に比べ より眩暈の既往歴が多かった MRI での観察ではホモ接合体とヘテロ接合体の間に modiolar area, endolymphatic duct and sac 容積 信号強度に差異は認めなかった 同じ遺伝子異常を有しながらも甲状腺機能 内耳障害には差異が認められ 他の遺伝子あるいは環境要因の関与の可能性も否定はできない マウスの内耳における Pendrin 発現の免疫組織学的検討においては Pendrin は Cochlea の Hensen 細胞 Claudius 細胞 external sulcus 細胞 spiral prominence に認められた Corti 器官では内 外側有毛聴細胞に認められた また external sulcus spiral ganglion にも認められ Pendrin が内耳において重要な役割を果たしている可能性が示唆された

研究報告 Pendred 症候群は 1896 年 Pendred によって甲状腺腫 甲状腺機能低下症 難聴を合併する姉妹例として初めて報告された その後 1950 年代になって報告が散見されるようになり 甲状腺に有機化障害があることが報告された 一般に難聴の出現は甲状腺腫の出現より早く甲状腺機能異常に依るものではないと推測されていた 1996 年に Sheffield によりその原因遺伝子 (PDS 遺伝子 ) が報告され 1997 年 Everett らによりクローニングされた その遺伝子産物は Pendrin と命名された 本症候群の難聴は感音性難聴で MRI または CT により内耳の前庭水管拡大を伴うのが特徴とされる 一方 難聴があり 内リンパ管 内リンパ嚢および前庭水管が拡大している症例が多く認められ前庭水管拡大症と言われているが その中には臨床上明らかな甲状腺所見の異常を認めないものの遺伝子検査で PDS 遺伝子の異常が報告されるようになり 遺伝的に Pendred 症候群と関連が深いことがわかってきた 前庭水管拡大症と Pendred 症候群は基本的に同一疾患と考えられるが 同じ遺伝子異常でありながら 甲状腺機能異常を呈する者から 明らかな甲状腺異常を認めない者まで あるいは内耳機能も高度の難聴を呈するものから軽度の者まで Genotype と Phenotype に相違が認められる 臨床的に認められるこの相違を明らかにすること および 甲状腺機能異常と内耳機能との関係を明らかにすることは遺伝性感音性難聴でもっとも頻度の高いとされる本症候群のよりよい治療法の確立に寄与するものと考えられる 目的本研究では Pendrin の前庭水管拡大症における意義を明らかにするために 甲状腺機能 内耳機能と遺伝子異常の相関を検討し また 内耳での Pendrin の役割を明らかにするために免疫組織学的に Pendrin の局在を検討した 方法前庭水管拡大症を呈する患者の MRI 撮影 聴力測定 甲状腺機能検査 ( 遊離甲状腺ホルモン 甲状腺刺激ホルモン サイログロブリン 甲状腺自己抗体 甲状腺超音波検査 パークロレイト放出試験 ) PDS 遺伝子検査を行った 一連の研究はヘルシンキ宣言に基づき名古屋大学医学部倫理委員会の承認を得て行った 内耳における Pendrin の発現はヒト Pendrin の C 末端に対する合成ペプチドを家兎に免疫して得られたポリクローナル抗体を用いて 蝸牛が十分成熟し 加齢による変成がないと考えられる 6 週齢の C57BL/6J マウスを用いて検討した 結果および考察今回の研究では前庭水管拡大症を呈し PDS 遺伝子異常を呈した患者の甲状腺機能は全て正常範囲であった 欧米での報告では私共の報告した H723R 変異と同じ遺伝子異常を

有しながら 甲状腺機能低下を伴っており Genotype と Phenotype の相違が認められた 私共の検討ではホモ接合型ではヘテロ接合型に比べ甲状腺体積に大きな変化はないものの サイログロブリン濃度が高く パークロレイト放出試験ではより障害が大きかった ( 図 ) ヨード摂取量と甲状腺機能障害の関係は明らかには出来なかったが 本邦では海草 魚介類より比較的多量のヨードを摂取しており ヨード摂取の少ない欧米に比べ ヨード摂取量の寡多が本疾患の甲状腺機能の代償に関与していることが示唆された また 内耳機能に関してはホモ接合体の方がヘテロ接合体に比べ より眩暈の既往歴が多かった MRI での観察ではホモ接合体とヘテロ接合体の間に modiolar area, endolymphatic duct and sac 容積 信号強度に差異は認めなかった 前庭水管拡大症を呈しながら PDS 遺伝子に異常を認めない症例も存在した また 従来 Pendred 症候群は常染色体劣性遺伝形式を取るとされていたが ヘテロ接合体でも前庭水管拡大症を呈し 聴力障害を伴うことから甲状腺機能障害と内耳機能とは障害の現れ方に差があるものと考えられる しかしながら 同じ遺伝子異常を有しながらも個体間で甲状腺機能 内耳障害には大きな差異が認められ さらに 他の遺伝性難聴とは異なり内耳機能に左右差があるのも特徴であり 本症の病態形成には他の遺伝子あるいは環境要因の関与の可能性も否定はできないと考えらえた マウスの内耳における Pendrin 発現の免疫組織学的検討においては Pendrin は Cochlea の Hensen 細胞 Claudius 細胞 external sulcus 細胞 spiral prominence に認められた Corti 器官では内 外側有毛聴細胞に認められた また external sulcus spiral ganglion にも認められた Pendrin は膜タンパクでヨードとクロールイオンの輸送に関与していることが報告されているが クロールイオンの変化が内耳の形成に重要な役割を果たしているとされている 今回の免疫組織学的検討の局在の結果から Pendrin が内耳機能において重要な役割を果たしている可能性が示唆された まとめ PDS 異常による難聴 甲状腺機能障害同じ遺伝子異常を持ちながらその病態は個々で異なり 環境要因の関与が考えられた その要因を更に明らかにすることが PDS 異常症における難聴 甲状腺機能異常の進展抑制に寄与するものと考えられる 図サイログロブリン (Tg) 濃度 パークロレート放出試験 甲状腺容量 M/M:H723R ホモ接合体 M/W:H723R ヘテロ接合体 W/W: 正常

業績 E Sato, T Nakashima, Y Miura, A Furuhashi, A Nakayama, N Mori, H Murakami, S Naganawa, M Tadokoro The phenotype associated with replacement of His723 by Arg in Pendred syndrome gene Eur J Endocrinology 145:697-703, 2001 Furuhashi A, Sato E, Nakashima T, Miura Y, Nakayama A, Mori N, Takahashi H, Kobayashi S Hyperbaric oxygen therapy for the treatment of large vestibular aqueduct syndrome Undersea Hyperb Med 28:195-200, 2001 Yasuhiko Kanou, Akira Hishinuma, Katsuhiko Tsunekawa, Koji Seki, Yutaka Mizuno, Haruki Fujisawa, Tsuneo Imai, Yoshitaka Miura, Tetsuro Nagasaka, Chizumi Yamada, Tamio Ieiri, Masami Murakami, and Yoshiharu Murata Thyroglobulin Gene Mutations Producing Defective Intracellular Transport of Thyroglobulin Are Associated with Increased Thyroidal Type 2 Iodothyronine Deiodinase Activity J. Clin. Endocrinol. Metab., 92: 1451 1457, 2007