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「             」  説明および同意書

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試験デザイン :n=152 試験開始前に第 VIII 因子製剤による出血時止血療法を受けていた患者群を 以下のい ずれかの群に 2:2:1 でランダム化 A 群 (n=36) (n=35) C 群 (n=18) ヘムライブラ 3 mg/kg を週 1 回 4 週間定期投与し その後 1.5 mg/k

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3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

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1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

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米国で承認された エロツズマブ という新薬について Q&A 形式でご紹介します Q&A の監修は 新潟県立がんセンター新潟病院内科臨床部長張高明先生です Q1: エロツズマブという薬が米国で承認されたと聞きましたが どのような薬ですか? エロツズマブについてエロツズマブは 患者さんで増殖しているがん細胞の骨髄腫細胞や 細菌やウイルスなどの人の体内に入ってきた異物 ( 抗原 ) を攻撃するナチュラルキラー細胞 (NK 細胞 ) の表面に発現している SLAMF7 というタンパクと結合するモノクローナル抗体医薬品です モノクローナル抗体医薬品とは 私たちの体が本来持っている 抗原抗体反応 という免疫反応を利用し 特定のタンパクに結合することで 患者さんが持っている免疫機能を活性化し がん細胞を攻撃するという新しい医薬品です このようなモノクローナル抗体医薬品は 多発性骨髄腫以外の他のがんでも数多く承認されています エロツズマブは NK 細胞の SLAMF7 に結合することで NK 細胞自体を活性化します また 骨髄腫細胞の SLAMF7 に結合し その結果 NK 細胞は骨髄腫細胞を認識しやすくなり NK 細胞による骨髄腫細胞への攻撃が加速します A. ナチュラルキラー細胞 (NK 細胞 ) に直接作用し活性化する SLAMF7 Y エロツズマブ Y NK 細胞 NK 細胞の活性化 活性型 NK 細胞 B. 骨髄腫細胞をマークする Y SLAMF7 骨髄腫細胞 エロツズマブ 攻撃 活性型 NK 細胞 細胞死誘導 ( 抗骨髄腫効果 ) 骨髄腫細胞 抗体依存性細胞傷害 米国ではどのような条件で承認されましたか? 米国では 2015 年 11 月 30 日に承認されています 承認の条件は 1 種類から 3 種類

の前治療歴を有する多発性骨髄腫患者さんへのレブラミド ( 一般名 : レナリドミド ) およ びデキサメタゾンとの併用 です 米国での承認の根拠となった試験のデータをご紹介します ( このデータは New England Journal of Medicine という雑誌に掲載されているものです ) 米国では 主に ELOQUENT-2 という試験の結果が評価され 承認が得られています この試験は 前治療として 1 種類から 3 種類までの治療歴を持った再発 難治の多発性骨髄腫患者さんを対象として エロツズマブ レブラミド とデキサメタゾン (E-Rd) 併用療法と レブラミド とデキサメタゾン (Rd) 併用療法の有効性と安全性を比較することを目的としたものです ELOQUENT-2 試験では 患者さんを E-Rd 併用療法群か Rd 併用療法群にランダム ( 無作為 ) に割り振っています 両群合わせて 646 名の多発性骨髄腫患者さんがこの試験でいずれかの併用療法に割り振られ 635 名の患者さんに投与されました この試験の結果 登録から疾患進行までの期間 ( 無増悪生存期間 :PFS) 及び奏効割合 (PR 以上 ) の有効性評価において E-Rd 併用療法は Rd 併用療法と比べ有効であることが示されました 本試験で認められた E-Rd 併用療法と Rd 併用療法の主な有害事象 ( 発現頻度が 25% 以上のもの ) を下表に示します 種類 E-Rd 併用療法 (n=318) Rd 併用療法 (n=317) リンパ球減少症 316(99) 244(77) 311(98) 154(49) 貧血 306(96) 60(19) 301(95) 67(21) 血小板減少症 266(84) 61(19) 246(78) 64(20) 好中球減少症 260(82) 107(34) 281(89) 138(44) 疲労 149(47) 27(8) 123(39) 26(8) 下痢 149(47) 16(5) 114(36) 13(4) 発熱 119(37) 8(3) 78(25) 9(3) 咳 100(31) 1(<1) 57(18) 0 筋肉のけいれん 95(30) 1(<1) 84(26) 3(1) 背部の痛み 90(28) 16(5) 89(28) 14(4) 体の末端の浮腫 82(26) 4(1) 70(22) 1(<1) 鼻咽頭炎 78(25) 0 61(19) 0 不眠 73(23) 6(2) 82(26) 8(3)

これらの有害事象のほかに 輸注反応 ( 薬を点滴中やその直後に起こる副作用 ) が E-Rd 併用療法の 33 名の患者さんに認められました グレード 4( 重篤 ) の患者さんはおられず ほとんどの患者さんがグレード 1 もしくは 2 でした (29/33 名 ) 輸注反応として認められた主な事象は 発熱 悪寒や高血圧でした Q2: エロツズマブの投与の際に起こる輸注反応について教えてください 輸注反応とはなんでしょうか? またどのように予防したり 起きた際の対応はどのようなものでしょうか? 薬の点滴が原因となって起こる反応を輸注反応といい 一種のアレルギー反応のようなものです 一般的にモノクローナル抗体医薬品ではよく認められる副作用です 輸注反応を予防または最小限にするために ステロイド ( デキサメタゾン ) 解熱鎮痛剤( アセトアミノフェン ) 抗ヒスタミン薬( ジフェンヒドラミンやラニチジン ) などをエロツズマブの投与の前に使用します 薬の点滴中は 発赤など点滴部位に変化がないか注意深く観察します もし 輸注反応が起こった時には 点滴の投与速度を遅くするか 回復するまでいったん投与を中止するなど 症状に応じて適切な処置をします Q3: 輸注反応以外の副作用についても詳しく教えてください 副作用の内容 頻度 程度について米国の添付文書 ( 薬の説明書 主に医師や薬剤師が 患者さんに薬を投与する際に必読するもの ) に記載されている有害事象の発現頻度と重症度を下表で紹介します これらは 先に紹介した ELOQUENT-2 試験で発現した有害事象ですが 同様の事象をまとめたりなど集計の方法が異なるため 医学雑誌に掲載されているものと発現頻度が異なります E-Rd 併用療法において 10% 以上の発現頻度もしくは Rd 併用療法より 5% 以上発現頻度 が高かった有害事象 E-Rd 併用療法 (n=318) Rd 併用療法 (n=317) 疲労 61.6 12.6 51.7 11.7 下痢 46.9 5.0 36.0 4.1 発熱 37.4 2.5 24.6 2.8 便秘 35.5 1.3 27.1 0.3 咳 34.3 0.3 18.9 0 末梢神経障害 26.7 3.8 20.8 2.2

鼻咽頭炎 24.5 0 19.2 0 上気道感染症 22.6 0.6 17.4 1.3 食欲減退 20.8 1.6 12.6 1.3 肺炎 20.1 14.2 14.2 9.5 四肢の痛み 16.4 0.9 10.1 0.3 頭痛 15.4 0.3 7.6 0.3 嘔吐 14.5 0.3 8.8 0.9 体重減少 13.8 1.3 6.0 0 リンパ球減少症 13.2 8.8 6.9 3.2 白内障 11.9 6.3 6.3 2.8 口腔咽頭痛 10.1 0 4.4 0 E-Rd 併用療法において投与前から 10% 以上の変動および Rd 併用療法より 5% 以上発現 頻度が高かった臨床検査値異常 血液学的検査 E-Rd 併用療法 (n=318) Rd 併用療法 (n=317) リンパ球 99.4 76.7 98.4 48.7 白血球 90.6 32.4 88.3 25.6 血小板 83.6 19.2 77.8 20.3 肝および腎機能検査 低アルブミン 73.3 3.9 65.6 2.3 アルカリホスファ 38.7 1.3 29.8 0 ターゼ増加 血液生化学的検査 高血糖 89.3 17.0 85.4 10.2 低カルシウム 78.0 11.3 76.7 4.7 重炭酸塩低値 62.9 0.4 45.1 0 高カリウム 32.1 6.6 22.2 1.6 Q4:ELOQUENT-2 試験に日本人の患者は入っていますか? エロツズマブの日本人の患者さんへの投与について ELOQUENT-2 試験には日本人の患者さんも参加されており この試験の結果をもとに日本においても 2015 年 12 月に承認申請が行われています また ELOQUENT-2 試験

以外にもいくつかのエロツズマブの試験が日本で実施されています 詳しくは Q6 と Q7 をご参照ください Q5: エロツズマブはどのように投与されるのですか? 〇注射で投与する薬 エロツズマブは 静脈内に点滴投与する注射剤です 〇他のお薬との併用で投与する薬米国での承認は レブラミド とデキサメタゾンと一緒に使用する 併用療法 です 現在 再発 難治の多発性骨髄腫患者に対して 他の多発性骨髄腫の治療薬であるポマリスト ( 一般名 : ポマリドミド ) と併用した治験も進められており 将来併用で使用される可能性もあります 詳しくは 次の Q6 Q7 をご参照ください 〇投与スケジュール米国での承認は エロツズマブ併用療法においては 1 サイクルを 28 日とし 最初の 2 サイクルは 10 mg/kg を 1 週に 1 回の頻度で投与 3 サイクル以降は 2 週に 1 回の頻度で投与を継続するという投与スケジュールとなっています 現在行われている治験では 治療スケジュールが若干異なっています Q6: 日本での治験の状況はどのようになっていますか? 〇日本での未治療の多発性骨髄腫に対する開発状況 未治療の多発性骨髄腫患者さん ( 初めて治療を受ける患者さん ) を対象とした以下の治験 が行われており 治験参加登録中です 治験の相 併用薬 対照薬 被験者募集状況 第 2 相 レブラミド デキサメタゾン レブラミド デキサメタゾン 被験者募集中 〇日本での再発 難治性の多発性骨髄腫に対する開発状況 再発 難治性の多発性骨髄腫患者さんを対象とした以下の治験が行われており 第 2 相治 験は参加登録中です 治験の相 併用薬 対照薬 被験者募集状況 第 1 相 レブラミド なし 登録終了 デキサメタゾン 第 3 相 レブラミド デキサメタゾン レブラミド デキサメタゾン 登録終了

第 2 相ポマリスト デキサメタゾン ポマリスト デキサメタゾン 被験者募集中 Q7: 日本での治験について〇日本での治験日本では Q6 のとおり 多発性骨髄腫の診断を受けた後に初めて治療を受ける患者さんを対象に レブラミド +デキサメタゾンの併用療法にエロツズマブを上乗せするかしないかを ランダム ( 無作為 ) に割付ける第 2 相試験が実施されています 現在 治験に参加される患者さんを募集しています また ベルケイド ( 一般名 : ボルテゾミブ ) のようなプロテアーム阻害剤やレブラミド の治療歴がある再発 難治の多発性骨髄腫の患者さんを対象に ポマリスト +デキサメタゾンの併用療法にエロツズマブを上乗せするかしないかを ランダム ( 無作為 ) に割付ける第 2 相試験が実施されています 現在 治験に参加される患者さんを募集しています 治験に関する詳細な情報は 財団法人日本医薬情報センター (JAPIC) の web サイト http://www.japic.or.jp/ に掲載されています JAPIC の web サイトにある 臨床試験情報 のページ http://www.clinicaltrials.jp/user/ctesearch.jsp から 疾患名の欄に 多発性骨髄腫 と入力して検索してください また 未治療の患者さんを対象とした治験に関する情報は 国立保健医療科学院の web サイト http://rctportal.niph.go.jp/detail/jp?trial_id=japiccti-152805 にも掲載されています 治験に関する問い合わせ先は JAPIC の web サイトに掲載されている問い合わせ先にご連絡ください 治験に関心がある場合は 上記の JAPIC の web サイトをご覧の上 主治医の先生とよく相談してください エロツズマブ Q & A のおわりに〇エロツズマブは 多発性骨髄腫の治療薬として開発中の抗体医薬品です 2016 年 6 月現在 日本では多発性骨髄腫の治療薬として承認されている抗体医薬品はありません

〇米国では 再発 難治の多発性骨髄腫患者さんに対する エロツズマブとレブラミド お よびデキサメタゾンとの併用療法 が既に承認されており 日本では 2015 年 12 月 24 日に承認申請されています 〇輸注反応をはじめ 注意すべき副作用があるようです 副作用がまったくない薬はなく 残念なことですが 注意深く副作用をコントロールし 効果のある治療を受け続けて病気 をおさえられるよう患者の私たちも知識をたずさえてがんばりましょう エロツズマブ治験情報〇日本における治験情報日本では 未治療 ( 診断後に初めて治療を受ける ) と再発 難治性の多発性骨髄腫患者さんを対象とする治験への参加を募集しています 〇 2016 年 4 月現在 未治療の多発性骨髄腫の患者さん ( 診断後初めて治療を受ける患者さん ) への標準的な治療は ベルケイド やレブラミド を基本とし ステロイド剤等を併用する治療です この未治療の患者さんを対象とするエロツズマブの治験では レブラミド +デキサメタゾン治療にエロツズマブを上乗せし 病気を抑えられるのかあるいは抑えられないのかを確かめるために行われています ベルケイド とレブラミド の治療歴がある再発 難治性の患者さんを対象とした治療の 1 つとして ポマリスト にステロイド剤を併用した治療があります この再発 難治性の患者さんに対するエロツズマブの治験は ポマリスト +デキサメタゾン治療にエロツズマブを上乗せした方が 病気を抑えられるのかあるいは抑えられないのかを確かめるために行われています 〇治験参加は選択肢のひとつです この Q & A や上記の Web サイトをご覧になり 興味や関心がある患者さんは 主治医の 先生とよくご相談ください 〇骨髄腫患者の会が相談に乗れることがあれば お気軽にご相談ください 初発の治験に興味があるのだけれど JAPIC の Web サイトのどこを見たらいいの? 問い合わせ先はどこ? 主治医の先生にどういう風に話せばいいのかな? 等々 一緒に考えます