電圧制御発振器 ( VCO) について小川謙次電気工学科に入学以来半世紀を経過し これまでアナログ デジタル ファームウェア等 種々の電子回路の開発に携わり そろそろ引退を考える年齢になりました これを機会に じんろく会の HP を見てくれるかもしれないアナログ技術者の方に VCO の設計方法を実践的に 分かりやすく記述したいと思い 本原稿を投稿しました 近年 VCO も集積回路化され PLL と同一パッケージに組み込まれるのもが多く見られ 専門の知識がなくても 簡単に使用できるようになりましたが 一方 GHz 帯を利用する高速デジタル通信では 隣接信号との干渉を防ぐために位相雑音の良い VCO が必要であり 集積回路特性の優れたディスクリート型の要望が増加しております VCO の扱う発振周波数は数十 MHz から十数 GHz と広い周波数帯域をカバーし 純粋にアナログ回路であり 開発には経験と ノウハウが必要のため 専門のメーカーに依頼する場合が多いようです しかし利用する方にとっても この回路の特徴を掴んでおくことは重要です そこで本稿では VCO の特徴と 各素子の性質を中心に記述致します. VCO 発振回路の動作原理下記は VCO でよく利用されるコルピッツ発振回路とその等価回路です r CX -r r Va Vbe Vbe ) コルピッツ発振回路 B) 負性抵抗を使用して 表現した発振回路 C) 等価回路 コルピッツ発振回路 のトランジスターのベースを見た回路は B) 図のようにCXと負性抵抗 rで表すことができます 発振回路が発振を維持するには +とCXが同じリアクタンスになる周波数において r < -r である必要があります この条件をCの等価回路で調べてみます 点の電流 電圧を Va とすると Va j ω + -Vbe j ω ここで Vbe よって j ω Va + ー j ω j ω ω となります 最後の項である (/ωω ) は負性抵抗を示しています よって発振するには次の条件が必要であることが分かります r < ω - -
rrになると安定した振幅で発振が持続し このときの発振周波数は ( π f ) + + になります. 一般的な VCO 回路構成 下記に一般的な VCO の回路構成図を示します Vcc R V tune D L R G L3 C6 R4 Q C4 R3 C5 RF OUT. 各素子の機能と最適値の求め方の概要を説明します : VCO 制御電圧回路 ( V tune) のバイパスコンデンサーです VCO の発振周波数 によって 次の値を目安にします : バラクターダイオード ( D) 駆動用のチョークコイルです 抵抗器を使用する 場合もありますが VCO の位相雑音を考慮すると D 駆動インピーダンスを数 十ヘルツの低周波まで低下させる必要があり チョークコイルを使用します この値は大きい方が発振は安定しますが VCO を FM 変調器として使用する場合 V tune から信号を重畳しますので V tune 回路の周波数帯域幅に信号周波数が 制限されてしまいますので これを考慮して の値を決めます VCO の発振周波数帯域幅にもますが ω L 00Ω 以上にすると良いでし ょう D: VCO の発振周波数を可変するためのバラクターダイオードです 可変幅は と の比によって決まります なお バラクタダイオードの Q は ( セラミックコン デンサー ) に比べて低いので の値が小さいほど位相雑音は良くなります : 上記のように D と組み合わせて VCO の発振周波数帯域を決定します なお をバラクタダイオードに置き換えて 発振周波数帯域幅を拡大すること も可能です L: VCO の性能を決定する要となる共振素子 ( Resonator ) です 使用される素子は 発振周波数や VCO の性能 サイズに異なりますが GHz 以下では 空 芯コイルや巻き線型チップコイルが 500 MHz 以上 0 数 GHz まで誘電体共振 器 ( DRO) やプレーナー型コイル ( マイクロストリップライン ストリップライン 等 ) が使用されます 誘電体共振器は高い Q の共振特性 ( 通常負荷 Q で400 程度 ) を持ち 共振点よ り下限の共振特性を L として使用するので 位相雑音の優れた VCO ができます 但し 共振点に近づくほど L が増大するため 広帯域の設計が難しいという欠点 があります ストリップライン等のプレーナー型コイルは 巻き線コイルと異なり 自己共振周 波数が高く GHz 帯の使用に適しております 但し 発振周波数に合わせてプリ ント基板を設計する必要があり 少量生産にはコスト面で不利になります : このコンデンサーは共振回路 ( L// ( +D )) と Q のベース側を分離することに 共振回路の Q の低下を防ぐ為のもので VCO の位相雑音を改善できます - -
しかし の挿入はrの増加ともなるため 小さすぎると発振安定度が低下し 発振が不安定になります 従って位相雑音と発振安定度を考慮しながら値を決定する必要があります C4 C5: Q と組み合わせて 発振に必要な負性抵抗を発生させます 定数の決め方は次項で述べます L3 C6: コルピッツ発振回路は飽和型のため きれいなサイン波を出力するにはチューニングフィルターが必要です VCO ではバッファアンプの出力に並列共振回路を組み込み サイン波を取り出しています 共振回路の選択特性は共振回路の回路 Q に決定され C で表されますので 発振周波数範囲内で出力レベル偏差 高調波抑圧 Q ωl 特性を考慮しながら 最適値を算出します 3. 回路設計例下記のコルピッツ発振回路の定数を求めてみましょう 5 V R R4 C4 L 発振周波数 :000MHz 出力レベル :7dBm(5mW) 出力インピーダンス :500Ω G R Q R3 ( 定数算出に使用する各公式の根拠は紙面の都合上割愛しますので 巻末の文献を参考にしてください ) 先ず 上記の発振回路を Y Y Y3 を使用して表現する Y Y3 YG+jB j ω G0 ω LC- ω YG+jB G+j C ω LC +C - Y3G3+jωB3 G3+ j ω Veb Y Vcb + n ここで nと Gx との関係式は n (G+G3)-n(G3+Y α)+(g+g3+y)0 また G3 及び G が0の場合は n G-Yα+Y0 α n n Y G Y n- -n R p G Y G m x また 発振回路のバイポーラトランジスタは飽和領域での使用となるため 電圧と電流の関係はとなります i e (t) s e (qv(t)/kt) C +C - 3 -
q; 静電容量 k; ボルツマン定数 ( 8.67E-5) T; 絶対温度 V x qv とおくと T 300 K X qの時 V 6mVとなる kt/q kt また X はトランジスタの Drive Level である 上記 kt V x Y(large signal) Gm(x) Y(small g m q Y q dc Gm(x) ktx が得られる (x) 0(x) x g m (x) 0(x) dc signal) kt/q X 0として各定数を決定する Q エミッタ電流の決定 RL500Ω V o u t e V o u t 5 0 0 d c P o u t( m W ) R L. 3 6 5 0 0.8 9 7 R R の決定 R 3 Y の決定 V b V cc.3v R +R Y V 4.4 7 4. 4 7.8 9 7 4.47m 60mV.5mS 5 0-3 5 0 0 m.3 5 7 m ( ピーク電流 ) Vcc 5V とすると R500 Ω R4500 Ω. 3 6 V ( エミッタ電流 ) 4 次式nを算出する n(g+g3)-n(g3+yα)+(g+g3+y)0 G0 G 0.88mS G3 6.5mS R//R Re 60 Y7.mS α0. 99とする 上の式に代入して n3.06 n.07を得る n3.06を採用する C C +C n n- C (x) x 0(x) 9mS.897 0 + C R p C + + 4.50 7.E-3 6.6Ω 5 6 5 の決定次に共振回路 (L) のQを000MHzで0とすると - 4 -
Q ω0l ω R p L 6.6 L 0 ω0 + 3 9pF ω 8.4E-9 ω L 8pF 6.6 L 0 π 000E6 + C +C L 4.nH 共振回路はとで構成されるため 0pFとしての値を求める jω0 L jω - ω0 jω0 4.nH jω0 - ω0 0E- 6.6nH 6 出力回路定数の決定出力タンク回路の Q を0 R4 を880Ωとして L3 C6 を求める R Q Q0 R880Ω とすると ωl L7nH C3.60pF を得る 4. まとめ発振回路について動作概念を説明した書物は多くあるが 実際の回路定数の算出方法を記したものは見あたらないので 纏めてみました GHz 帯域の発振回路設計はベテラン技術者のノウハウに依るところが多いようですが 今回記載した回路定数算出式を基準にして設計することに 若手技術者の参考になれば幸いです 最後に参考文献を記しておきます The Design of Moden Microwave Oscillators Wiley nterscience Phase Noise and Frequency Stability in Oscillators Cambridge University Press GHz 時代の高周波回路設計 CQ 出版社 - 5 -