2011年 国立天文台プラズマセミナー 2011/12/02 球対称定常銀河風の遷音速解 銀河の質量密度分布との関係 筑波大学 教育研究科 教科教育専攻 つちや まさみ 理科教育コース 2年 土屋 聖海 共同研究者 森正夫 筑波大学 新田伸也 筑波技術大学
発表の流れ はじめに 銀河風とは 流出過程 エネルギー源 周囲に及ぼす影響 研究内容 問題の所在 研究の目的 方法 理論 銀河の質量密度分布 研究成果 まとめ 時間があれば現在進行中の解析も 2
はじめに 3
銀河の構造 ダークマターハロー ( 銀河質量の約 90%) バルジ ( 恒星 星間ガス ) ディスク ( 星 星間ガス ) 銀河中心ブラックホール M104( ソンブレロ銀河 ) (http://homepage3.nifty.com/rickyscafe/rst/ep04/m104.html) 4
銀河風 エネルギー源は? 次のスライドで 1 銀河中心付近でエネルギー発生 2 周囲に熱 運動エネルギーの供給 星間ガスの流出 3 銀河の重力ポテンシャルに打ち勝てば銀河間空間に到達重力源 : 主にダークマターハロー広範囲の強い重力場を越えるためのエネルギーが必要! M82 Hα 線及び可視光の合成写真 (http://www.astrophoto.com/m82.htm) 5
銀河風のエネルギー源 とにかく 次の条件を満たすエネルギー供給があれば 銀河風は吹く可能性がある 1 銀河の中心付近で発生する 2 銀河の重力ポテンシャルに打ち勝つことができる 現在 2 種類のエネルギー供給過程で吹く銀河風が 考えられている タイプ別に考えてみましょう 6
銀河風のエネルギー源 タイプ 1: スターバースト銀河から吹く銀河風 期間 シリーズ現代の天文学第 4 巻より M82 は典型的なスターバースト銀河 7
銀河風のエネルギー源 タイプ 2: 活動銀河核 (AGN) から吹く銀河風 銀河中心ブラックホールの周囲に降着円盤が形成 円盤内側のガスが摩擦により加熱 高温 エネルギー放出 ただし AGN は 風 ではなく ジェット を起こすという 認識が一般的 ところが AGN 起源と思われる銀河風も観測されている ( 理由や流出過程はまだ謎 ) AGNの概念図 JAXA 提供 (http://wwwj.vsop.isas.jaxa.j NGC1052 の銀河風 p/vsop2/science/agn.html) 京都大学理学研究科宇宙物理学教室提供 (http://www.astroarts.jp/news/2005/08/15galactic wind/gas flow.jpg) 8
銀河風のエネルギー源 エネルギー源は スターバースト銀河では 1 恒星風 2 超新星爆発 主にこちらを 考慮します 強力な活動銀河核を持つ銀河では 3 活動銀河核 9
銀河風が周囲に及ぼす影響 銀河に及ぼす影響 銀河の質量が大きいほど重元素量が大きく 銀河の色が赤く見える 10
銀河風が周囲に及ぼす影響 銀河間空間に及ぼす影響 11
銀河風の速度について 観測的には 超音速 12
銀河風の速度について ただし 1 速度の詳細なマップ ( 加速の様子 ) を得るのは困難 2 銀河風の加速のメカニズムは未だに詳しく理解されていない 理論的に示唆できないのだろうか 13
研究内容 14
研究の動機 目的 目標 銀河風の加速のメカニズムに関する理論的示唆を見い出す 球対称定常恒星風理論 (Parker 1958の太陽風理論 ) に着目 研究の方法 手法 仮定 銀河風の速度の空間分布を分析する シミュレーション 数値計算が一般的だが できるだけ解析的手法を用いる 銀河風は球対称定常流であると仮定 とにかく第 0 近似的な解析を行い 全体的な原理をおさえる 15
球対称定常流の理論 仮定 ガスは等温で流出 ( 音速が一定 ) 銀河の重力と熱膨張の効果のみ考える 重力 熱膨張 風 が吹くためには 高気圧 低気圧となる分布 つまり圧力勾配が必要! 圧力勾配に寄与しているものは? 次へ 16
球対称定常流の理論 圧力勾配に寄与するもの 速度勾配の式からわかる 圧力勾配に寄与するもの 1 熱膨張 ( 膨張の効果 ) 2 重力 ( 重力の効果 ) 式の形から 速度は 亜音速 減少 超音速 増加 亜音速 増加 超音速 減少 17
球対称定常流の理論 圧力勾配に寄与するもの 1 熱膨張 ( 膨張の効果 ) 2 重力 ( 重力の効果 ) 速度 ; 効果の強い方が反映される 亜音速 減少 超音速 増加 亜音速 増加 超音速 減少 超音速 亜音速 膨張 重力 球対称定常流の遷音速解 エントロピーの極大値 太陽風でも遷音速流が発生 銀河風も遷音速解を満たす可能性を示唆 超音速 亜音速 臨界点 重力 膨張 2 つの効果の大小関係は 銀河の質量密度分布に依存する 18
球対称定常流の理論 遷音速解を求める意義 最近ではいたるところで銀河風が数多く観測されている 銀河風は起こりやすい現象であることを示唆 多様な吹き方がある可能性がある 遷音速解が見つかれば その起こりやすさを説明 考察できる? 将来 遷音速流が生じるものと 別の吹き方をするものと分類が可能に? 本研究では遷音速解と銀河の質量密度分布との関係を分析しました まず提唱されている密度分布モデルの代表例を見ていきましょう 19
ダークマターハローの質量密度分布 ここで取りあげるのはすべて 分布は球対称であるという 前提に基づいて提唱されたものです 20
ダークマターハローの質量密度分布 NFW モデル 21
ダークマターハローの質量密度分布 ダークマターハローの中心ベキ指数 van Eymerenet al. (2009) この値は現在も議論が盛ん!! 22
研究成果 23
ダークマターハローの中心ベキ指数 24
解く式の導出 積分定数 : 初期条件 ( 銀河風の初期位置と初速度を決定 ) に相当 では 何に着目して速度の空間分布を求めればよいでしょうか? 25
本解析において重要なポイント 重力の効果と膨張の効果の大小関係 を実際に分布で求めることで 臨界 点が存在するか確かめる 超音速 亜音速 臨界点 重力強 膨張強 臨界点が存在するためには重力の効果と膨張の効果の大小関係が図のように 切り替わる場所が必要である 26
α=1(nfw model) の場合の臨界点の存在条件 赤い枠が正ならば膨張の効果が強い 負ならば重力の効果が強い 膨張強 重力強 27
α=1(nfw model) の場合の解曲線 臨界点 ある曲線上の点の位置 速度で吹き始めた銀河風は その曲線に沿って速度が変化していく 同じ密度分布の中でも吹き 始める位置と初速度の違いに よって 様々な流れ方をする α=1 では中心付近の重力ポテンシャルが浅く 膨張の効果が支配的 ある半径より内側から始まるものは臨界点を通れない 中心から始まる遷音速解を起こすためには α がより大きい ( 中心付近の 重力がより強い ) 必要がある どれだけ大きければ良いのか? 28
中心から始まる遷音速解のための α の条件 中心付近の重力が膨張の効果より強くなるためには なべ底のような平坦な分布ではなく 鉛筆の先のように鋭い分布になっている必要がある 29
様々な解曲線 ( 提唱されている代表的な α の値 ) α=1 α=0 α=1.5 どの値でも 先行研究で得られなかった 亜音速から始まる解を発見 しかし 中心から始まるものではない 30
α=2 α=2.5 中心から始まる遷音速解を得ることに成功!! 31
まとめと議論 32
銀河風の遷音速解を求めることに成功した ただし 銀河中心付近から始まる遷音速銀河風を起こすための決定的な役割は ダークマターハローではなく 中心付近のガスや星 銀河中心ブラックホールなどによる重力が担うと考えられる 33
今後の計画 星やブラックホールの重力場を考慮に入れた解析の続き ポリトロープ解 ( 非等温 ) への拡張 高赤方偏移 ( 遠方 ) で観測されている銀河風との比較 34
現在進行中の解析 ~ バルジによる重力を考慮に 加えた解析 ~ 35
バルジの質量密度分布 36
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解く式の導出および重力 vs 膨張 38
解く式の導出および重力 vs 膨張 内側にバルジ起因の臨界点ができるためには バルジのサイズが CDM に比べて十分小さい必要がある 39
解く式の導出および重力 vs 膨張 40
バルジの分布を考慮に加えた場合の解曲線
バルジの分布を考慮に加えた場合の解曲線
結果からわかること 内側にバルジ起因の臨界点ができるためにはバルジのサイズが小さい必要がある バルジとCDMの質量比のみ変えていく ( 他のパラメータは一定 ) と 比を大きくして いくにつれ 次のように解の振る舞いが変わる 1. 外側の臨界点を通る遷音速解のみ 2. 内側にも臨界点ができ ( 合計 2つ ) どちらを通っても遠方まで到達 3. さらに大きくすると パターンは同じだが 初速度が小さくても遷音速解となれる 4. 外側の臨界点を通る解が遠方に到達できるようになる まだ臨界点は2つ 5. 内側の臨界点が消え 外側の臨界点を通る解のみとなる まだ議論の余地あり 今回用いたパラメータの現実性 銀河中心ブラックホールなども考慮に加えた場合どうなるか 吹き始めや臨界点の現実的な位置 解の物理的な説明 Etc 43
発表は以上です ご清聴ありがとうございました 44