114 頭頸部 Ⅹ. 舌癌 1. 放射線療法の目的 意義舌癌は口腔領域 ( 舌, 口腔底, 頬粘膜, 歯肉 歯槽, 硬口蓋 ) に発生する癌のうち 約 50% を占める 舌は構音 摂食 嚥下と深く関わる臓器であり, 機能 形態の温存に優れる放射線治療のよい適応領域である 幸い舌組織は粘膜下が筋組織で

Similar documents
70 頭頸部放射線療法 放射線化学療法

頭頚部がん1部[ ].indd

本文

268 皮膚癌 手術では大きな欠損を生じる腫瘤径の大きな悪性黒子型黒色腫に対して放射線治療が行われることがある 1) リンパ節に対する予防照射や術後照射は適応に関して議論のあるところであるが,MDACCでは病期 Ⅱ,Ⅲ に対して施行している 2) 骨転移や脳転移に対しては姑息的照射が一般的に行われて

Microsoft PowerPoint - 印刷用 DR.松浦寛 K-net配布資料.ppt [互換モード]

1)表紙14年v0

外来在宅化学療法の実際

Microsoft Word - 学位論文の要約(最終版)Table修正後.docx

スライド 1

原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

頭頸部 95 原発部および画像的リンパ節転移陽性部には根治線量を加えるCTV1とする 術後照射では組織学的残存部 GTVが頭蓋底や上縦隔リンパ節領域に進展している場合には, 緩和医療としての照射になるので, 患者状態ごとに患者負担が大きくなり過ぎないように症状に合わせてCTVを設定する PTV: 上

が 6 例 頸部後発転移を認めたものが 1 例であった (Table 2) 60 分値の DUR 値から同様に治療後の経過をみると 腫瘍消失と判定した症例の再発 転移ともに認めないものの DUR 値は 2.86 原発巣再発を認めたものは 3.00 頸部後発転移を認めたものは 3.48 であった 腫瘍

がん登録実務について

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

PowerPoint プレゼンテーション

前立腺癌に対する放射線治療

<303491E592B BC92B08AE02E786C73>

158 消化器 タにて呼吸性移動を確認することが望ましい PETCTもGTV 決定に有用であり, 可能であれば併用する GTV 原発巣 : 食道バリウム造影,CT, 食道表在癌の場合には色素内視鏡によりGTVを決定する 多発病変あるいはスキップ病変のある場合はこれもGTVに含める 画像的に病変を描出

<4D F736F F F696E74202D2093AAE8F295948AE082CC494482C B8CDD8AB B83685D>

スライド 1

口腔がん はじめに 口腔がんとは 口の中とくちびるにできる がん のことです 口腔がんには舌や歯肉や頬のように口の中の表面を覆っている粘膜に発生するものと口の中に唾液を分泌している唾液腺 ( 耳下腺を除く ) に発生するものが含まれます いずれの場合でも口の中に できもの や しばらく治らない傷や荒

H + e - X (

9 2 安 藤 勤 他 家族歴 特記事項はない の強い神経内分泌腫瘍と診断した 腫瘍細胞は切除断端 現病歴 2 0 1X 年7月2 8日に他院で右上眼瞼部の腫瘤を に露出しており 腫瘍が残存していると考えられた 図 指摘され精査目的で当院へ紹介された 約1cm の硬い 1 腫瘍で皮膚の色調は正常であ

婦人科 217 婦人科 Ⅰ. 子宮頸癌 1. 放射線療法の目的 意義放射線治療は手術と並ぶ根治的治療法である 従来本邦では手術が優先されてきたが, 欧米から放射線治療の有効性を示す質の高いエビデンスが続々発信され, 本邦の婦人科腫瘍医の意識は変化しつつある それを受けて, 現在日本婦人科腫瘍学会で作

限局性前立腺がんとは がんが前立腺内にのみ存在するものをいい 周辺組織やリンパ節への局所進展あるいは骨や肺などに遠隔転移があるものは当てはまりません がんの治療において 放射線療法は治療選択肢の1つですが 従来から行われてきた放射線外部照射では周辺臓器への障害を考えると がんを根治する ( 手術と同

<4D F736F F F696E74202D2088F38DFC B2D6E FA8ECB90FC8EA197C C93E0292E B8CDD8AB B83685D>

196 泌尿器 Ⅱ. 前立腺癌 外部照射 1. 放射線療法の目的 意義前立腺癌の放射線治療は大きな進歩をとげ, 前立腺に線量を集中し, その周囲への被曝を低減する種々の技術が開発された 我が国でも三次元原体放射線治療, 強度変調放射線治療, 小線源療法などが用いられるようになり, 副作用を少なく,

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 の相対生存率は 1998 年以降やや向上した 日本で

130724放射線治療説明書.pptx

肺癌の放射線治療

170 消 化 器 2. 病 期 分 類 による 放 射 線 療 法 の 適 応 2 cm 以 下 でリンパ 節 転 移 や 遠 隔 転 移 のない 腫 瘍 (T1N0M0)は 放 射 線 治 療 単 独 で 治 療 する 2 cmを 超 える 腫 瘍 については5 FUとマイトマイシンCの 化 学

Microsoft Word - 頭頸部.docx

スライド 1

70% の患者は 20 歳未満で 30 歳以上の患者はまれです 症状は 病巣部位の間欠的な痛みや腫れが特徴です 間欠的な痛みの場合や 骨盤などに発症し かなり大きくならないと触れにくい場合は 診断が遅れることがあります 時に発熱を伴うこともあります 胸部に発症するとがん性胸水を伴う胸膜浸潤を合併する

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

☆☆学位論文内容の要約(図表入り) (日本語版)

頭頸部.indd

教育講演 放射線治療における位置的不確かさの影響 ずれるとどうなる 都島放射線科クリニック / 大阪大学塩見浩也 放射線治療を確実に施行するためには, 安全なマージンの設定が不可欠である. ターゲットの設定は,ICRU report 50, 62 3) で規定されている肉眼的腫瘍体積 (GTV; g

32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

胸部 131 対側肺門および転移のない鎖骨上リンパ節はCTVには含まない PTV X 線透視などで症例ごとに呼吸性移動を観察し CTVからITVを設定し さら に0.5 程度のセットアップマージンをつける 2 放射線治療計画 かつてLD SCLCには 原発腫瘍から 2 のマージンをとり 両側肺門 気

< A815B B83578D E9197BF5F906697C38B40945C F92F18B9F91CC90A72E786C73>

untitled

NCCN2010.xls

094 小細胞肺がんとはどのような肺がんですか んの 1 つです 小細胞肺がんは, 肺がんの約 15% を占めていて, 肺がんの組 織型のなかでは 3 番目に多いものです たばことの関係が強いが 小細胞肺がんは, ほかの組織型と比べて進行が速く転移しやすいため, 手術 可能な時期に発見されることは少

がんの診療の流れ この図は がんの 受診 から 経過観察 への流れです 大まかでも 流れがみえると心にゆとりが生まれます ゆとりは 医師とのコミュニケーションを後押ししてくれるでしょう あなたらしく過ごすためにお役立てください

口腔がん登録 Q&A Ver /11/21 用語 定義に関する Q&A Q1.本調査に関する各用語の定義を教えてください 下記の図表を参照してください 各用語の定義等について 口腔内 口唇 口腔 顎骨中心性 UICCの Lip & Oral cavity 顎骨中心性) 舌 可動部 上顎

Microsoft Word HP口腔癌Au【編集用】

81 画像で詳細に検討した結果の T1,T2 病変では下垂体を遮蔽した照射野でも腫瘍制御の差は認めず, また神経内分泌障害を認めなかったとして, 縮小照射野を推奨しているランダム化比較試験の報告もある 3) 40 50Gy 以降原発腫瘍と腫大リンパ節を含んで皮膚面上で重ねる GTV(=CTV) とす

頭頸部扁平上皮がん術後再発高危険症例における術後化学放射線同時併用療法の検討

北海道医療大学歯学部シラバス

1_2.eps

180204がん撲滅VER2資料用

はじめに 前立腺癌に対する永久留置法による小線源療法は一口で言うと 弱い放射線を出す小さな線源を前立腺内に埋め込み 前立腺内部から癌の治療を行うものです ただし すべての前立腺癌に適応できるものではありません この説明書は小線源療法についての概説です よくお読みになった上で ご不明の点があれば担当医

を優先する場合もあります レントゲン検査や細胞診は 麻酔をかけずに実施でき 検査結果も当日わかりますので 初診時に実施しますが 組織生検は麻酔が必要なことと 検査結果が出るまで数日を要すること 骨腫瘍の場合には正確性に欠けることなどから 治療方針の決定に必要がない場合には省略されることも多い検査です

untitled

第03章-放射線治療計画ガイドライン.indd

「             」  説明および同意書

長谷川 泰久著『愛知県がんセンター 頸部郭清術』サンプルpdf

Microsoft Word - 肺癌【編集用】


PowerPoint プレゼンテーション

1. はじめに ステージティーエスワンこの文書は Stage Ⅲ 治癒切除胃癌症例における TS-1 術後補助化学療法の予後 予測因子および副作用発現の危険因子についての探索的研究 (JACCRO GC-07AR) という臨床研究について説明したものです この文書と私の説明のな かで わかりにくいと

294 小児 図1 stepped field ヘルメット型 Yoshio Arai, MD University of Pittsburgh Physicians 提供 図2 矩形照射野 両目尻にマーキングし 同部で水平ビームになることを確認 蓋内くも膜下腔 尾側は第 2 頚椎下縁までを含む範囲と

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

1. 来院経路別件数 非紹介 30 他疾患経過 10 自主受診観察 紹介 20 他施設紹介 合計 患者数 割合 12.1% 15.7% 72.2% 100.0% 27.8% 72.2% 100.0% 来院経路別がん登録患者数 がん患者がどのような経路によって自施設を受診し

監修 作成作成ご協力者 氏名 佐々木朗 所属 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科腫瘍制御学講座口腔顎顔面外科学分野教授

膵臓癌について

大腸ESD/EMRガイドライン 第56巻04号1598頁

学位論文の要約 Efficacy of fluoro-2-deoxy-d-glucose positron emission tomography to evaluate response to concurrent chemoradiotherapy for head and neck squam

Microsoft Word - 01_巻頭言.docx

表 1. 罹患数, 罹患割合 (%), 粗罹患率, 年齢調整罹患率および累積罹患率 ; 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く ; 部位別, 性別 B. 上皮内がんを含む 表 2. 年齢階級別罹患数, 罹患割合 (%); 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く B. 上皮内がんを含む 表 3. 年齢

6 月 25 日胸腺腫 胸腺がん患者の情報交換会 & 勉強会質疑 応答 奥村教授にお聞きしたいこと 奥村教授の話 1 特徴 (1) 胸腺腫 胸腺がん カルチノイドの違いについて 胸腺腫はがんの種類か 病理学的には胸腺腫はがんではなくて正常と区別つかず機能を残したまま腫瘍化したもの 一部 転移するもの

喉頭がん(治療研究会

性黒色腫は本邦に比べてかなり高く たとえばオーストラリアでは悪性黒色腫の発生率は日本の 100 倍といわれており 親戚に一人は悪性黒色腫がいるくらい身近な癌といわれています このあと皮膚癌の中でも比較的発生頻度の高い基底細胞癌 有棘細胞癌 ボーエン病 悪性黒色腫について本邦の統計データを詳しく紹介し

7. 脊髄腫瘍 : 専門とするがん : グループ指定により対応しているがん : 診療を実施していないがん 別紙 に入力したが反映されています 治療の実施 ( : 実施可 / : 実施不可 ) / 昨年の ( / ) 集学的治療 標準的治療の提供体制 : : グループ指定により対応 ( 地域がん診療病

59 2. 病期分類による放射線療法の適応腫瘍の切除範囲を定義した Simpson grade 分類とその再発率を表 2 に示す 1) 術後照 射では, 残存腫瘍や未処置におわった硬膜付着部に対しての照射が考慮される 通常分割外照射による術後照射は, 腫瘍増殖の抑制に有効であり, 生存期間の延長をも

Microsoft Word - 眼部腫瘍.doc

咽 AE 頭 AE A がん 各種がん でんし冊子 ちゅう いん とう 中 E E E 受診から診断 治療 経過観察への流れ 患者さんとご家族の明日のために 目次 基礎知識 1. 中咽頭について 中咽頭がんとは 症状 患者数 ( がん統計

untitled

2012.9がんセンター論文.indd

核医学画像診断 第36号

( 症例数 / 年 ) 300 高リスク 1031(51%) 中リスク 629(31%) 250 低リスク 351(17%) 200 合計 2011 スキャニング法 12 回照射への移行 Medical Science Review 回から 16 回へ全面移行

遠隔転移 M0: 領域リンパ節以外の転移を認めない M1: 領域リンパ節以外の転移を認める 病期 (Stage) 胃がんの治療について胃がんの治療は 病期によって異なります 胃癌治療ガイドラインによる日常診療で推奨される治療選択アルゴリズム (2014 年日本胃癌学会編 : 胃癌治療ガイドライン第

8. 本カリキュラムに基づいて 一年毎に研修者による研修成果の自己評価 指導体制の 評価 および指導医から見た研修者の評価を行うことが求められる 別途に定めた評 価用紙を使用することを推奨する 頭頸部がん専門医研修カリキュラム 1. 頭頸部がんの診断と進行期の決定一般目標頭頸部がんの診断と病期につい

Microsoft PowerPoint - 【資料3】届出マニュアル改訂について

278 小児 小 児 Ⅰ. ウイルムス腫瘍 1. 放射線療法の目的 意義ウイルムス腫瘍は, 年間約 50 例が小児がん全国登録に報告されている この腫瘍は National Wilms Tumor Study Group(NWTSG) のランダム化比較試験により, 現在では治癒可能な疾患となった 化

第07章-放射線治療計画ガイドライン.indd

<4D F736F F D2089BB8A7797C C B B835888E790AC8C7689E6>

PowerPoint Presentation

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

IARC/IACRにおける多重がんの判定規則改訂版のお知らせ

原 著 放射線皮膚炎に対する保湿クリームの効果 耳鼻科領域の頭頸部照射の患者に保湿クリームを使用して * 要旨 Gy Key words はじめに 1 70Gy 2 2 QOL

5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

3. バイナリーコリメータを用いた方法 4. ロボット型治療装置を用いた方法 IMRT 施行に際する施設 人的要件 IMRT の施行に際しては 厚生労働省保険局医療課長通知 ( 保医発第 号平成 20 年 3 月 5 日 ) に記載の施設基準を満たすことが必要である また 上記に加え

PowerPoint プレゼンテーション

Microsoft Word - 02細野.doc

がん患者会・がん患者サポートグループ共催 がん医療セミナー

Transcription:

114 頭頸部 Ⅹ. 舌癌 1. 放射線療法の目的 意義舌癌は口腔領域 ( 舌, 口腔底, 頬粘膜, 歯肉 歯槽, 硬口蓋 ) に発生する癌のうち 約 50% を占める 舌は構音 摂食 嚥下と深く関わる臓器であり, 機能 形態の温存に優れる放射線治療のよい適応領域である 幸い舌組織は粘膜下が筋組織であり, 他の口腔癌と比較して耐容線量が高く, 小線源治療で根治線量を投与することにより, 局所制御は可能である 病理組織は大半 (80%) が扁平上皮癌である 2. 病期分類による放射線療法の適応原発腫瘍の部位および範囲ならびにリンパ節所見によって, 舌癌の治療は手術単独, 放射線療法単独またはこの両者の併用になる 頸部リンパ節転移の治療は通常, リンパ節郭清術が行われる I 期 (T1N0),Ⅱ 期 (T2N0) においては放射線治療単独にて比較的高い局所制御が期待でき, 根治的放射線治療の対象となる 1 4) しかしT3 以上の大きな腫瘍や深い潰瘍を伴う腫瘍や, 厚みのある内向発育型の腫瘍では局所制御率が低くなる また舌根方向や口腔底や口蓋弓に浸潤が高度なものは晩期有害事象の発生リスクが高く, 高度な治療技術を必要とする T3 T4 の局所進行癌に対しては手術療法が優先される しかし何らかの理由で手術できない場合は,T3 例でも小線源治療が適応される T4 例は外部照射または化学放射線療法が行われる なお舌癌に対する化学放射線療法の有用性については, まだ評価が定まっていない 初診時に頸部リンパ節転移を認める場合は原発巣を含めた外科切除が標準治療であるが, 原発巣が放射線治療単独で制御できると判断された症例では原発巣は放射線治療, 頸部リンパ節転移は郭清手術が行われることがある なお腫瘍サイズが大きい場合は術前照射が先行され, 切除治療が行われることもある また術後所見で深部浸潤が強い場合や, 頸部リンパ節転移が多数の場合は術後照射を併用することがある 5) また進行した根治治療が困難な患者には, 症状緩和のための放射線療法が施行される 3. 放射線治療 1) 標的体積 GTV: 視診および触診で腫瘍の進展範囲を詳細に確認するとともに, 深部方向へ浸潤の状態についてはCTやMRI,PET 等の画像診断を行い把握する 頸部リンパ節への転移についても同様に把握する CTV( 外部照射の場合 ):GTVとその周囲の腫瘍の進展が予想される領域とする 初

頭頸部 115 診時 N0 症例においても30~50% に後発転移を認めるとされ, 頸部予防照射の範囲として所属リンパ節である頤下, 顎下, 上内深頸節領域, 中頸部までを含む範囲もCTVに含めるとする報告もある しかしこの領域を含めるべきか否かについてはまだ結論がないが, 原発巣のT 因子を考慮して個別に判断すべきである ただし頸部予防照射を行う場合でも下頸部はCTVに含める必要はないとされる CTV( 小線源照射の場合 ):GTVとその外側周囲 5 mmまでをctvとして小線源留置を行う PTV( 外部照射の場合 ): 舌を含めた口腔領域を標的として,CTVに0.5~ 1 cmのセットアップマージンを付与する範囲をptvとする シェルで固定する場合は0.5 cm程度でよい PTV( 小線源照射の場合 ): 線源を留置した範囲より外側周囲 5 mmを線量評価点として計算する 外部照射の場合,40~50Gy 照射後に舌原発巣に追加照射する場合は, 多門照射で原発巣に限局して照射し, 総線量は60~70Gyを目標とする 外部照射と小線源治療を組み合わせて治療する場合は, 外部照射 20~40Gy, 小線源照射 50~60Gyとし, 合計した総投与線量は腫瘍の性状, 大きさ, 外照射線量の多寡により調整するが, 合計線量は80~90Gyとする 2) 放射線治療計画外部照射二次元治療計画において最低限押さえておく必要がある点は,1. 標的体積の正確な把握と充分な腫瘍制御線量の投与,2. リスク臓器の把握と安全線量内での治療計画,3.PTV 内での線量均等性は ± 5 % 以内, 以上の 3 点である 患者の体位は仰臥位にて適切な枕を使用し, 頸部の状態の再現性を確保するために, 基本的にはシェルで固定する なお口腔内にマウスピース等を挿入させて, 舌を固定し, シェルを装着させることが望ましい 外部照射はT3 T4 例,N(+) 例が主な放射線治療の対象となるため, これら進行例の照射野, 照射法を示す 基本的な照射方法は左右対向二門照射法である 照射野の前縁は下顎骨前内側, 上縁は胸鎖乳突筋上縁, 後縁は下縁は胸鎖乳突筋上端後縁, 下縁は頸部リンパ節転移を含めた範囲またはN0 例では中頸部領域 (Thyroid notch) とする なお健側の頸部リンパ節は転移が無いと判断される場合は特に追加照射はしない なお三次元治療計画を用いることで腫瘍周辺の正常組織, 特に唾液腺, 顎骨, 脊髄, 甲状腺等への線量の確認, 軽減が可能となる 小線源治療組織内照射では使用する線源の特殊性を考慮して線量計算を行う 低線量率 Cs

116 頭頸部 137針 に よ る 場 合 は Paterson Parker の 原 則6 に よ る 線 源 配 置 で60 65Gy 5 7 日の連続照射を行う 低線量率Ir 192線源 シングルピン ヘアピン では 50 70Gy 4 8日の照射が行われる 高線量率のIr 192線源またはCo 60線源の場 合は 60Gy 10分割 5 日を原則として 1 日 2 回の分割照射を行う7 表在性の小病 変の場合はAu 198粒子線源を永久刺入する方法も行われるが この場合は累積線量 として85 90Gy照射する なお線源挿入中は スペーサーを使用して 歯肉の線量を減少させるように工夫す る 図1 3に代表的な線源による組織内照射を示す 図1 低線量率Cs-137針 manual 60 70Gy 5 7日 図2 低線量率Ir-192ピン線源 図3 高線量率Ir-192 RALS manual after-loading remote after-loading 60 70Gy 4 8日 60Gy 10分割 5日 3 照射法 エネルギー 外部照射は 4 6 MVのX線を用いる 小線源治療ではCs 137 Ir 192 Co 60 Au 198 などの線源が用いられる 4 線量分割 外部照射は通常分割照射 conventional fractionation CF が標準的である 1 回線 量は1.8 2.0Gyで40 45Gyで縮小し 総線量は66 70Gyが標準である 小線源治療 では 低線量率連続照射は60 65Gy 5 7 日を原則とし 高線量率分割照射は 60Gy 10分割 5 日を原則とする 5 併用療法 外科的治療 症例により術前 術後照射が行われる 術前照射では腫瘍の縮小による根治度の向 上を目的にし 術後照射では原発巣の断端陽性例 頸部リンパ節の被膜外進展例や複 数のリンパ節転移を認めた例に行われる 断端陽性例では60Gyの照射が必要である が 予防照射例では50 56Gy前後の照射が行われる

頭頸部 117 化学療法進行癌に対する化学療法との併用療法は局所制御率, 生存率の改善が期待されるが, この領域での有効性についてはまだ不明である 4. 標準的な治療成績舌癌 T1 T2の局所制御率はT1は90%,T2も80% 前後と高く生存率も良好である ただ初診時よりリンパ節転移を有する症例の場合は生存率は低くなる T3 以上の症例は手術療法が行われることが多いが,Ⅲ 期でも60~70% 前後の 5 年生存率である 5. 合併症外部照射治療では, 急性期の有害反応として口腔 咽頭の粘膜炎, 唾液分泌障害, 味覚障害等がみられる 口腔内をつねに清潔に保ち, 消炎鎮痛剤や表面麻酔薬の投与を行う 小線源治療では線源を留置した範囲の周辺のみに粘膜炎が生じる 晩期有害事象としては, 難治性粘膜潰瘍, 下顎骨の骨髄炎や壊死などが生じる事がある 小線源治療では明らかにこれらの有害事象や唾液腺分泌障害が少ない なお下顎骨のトラブルは不用意な歯科治療 ( 抜歯等 ) により誘発されることがあり注意を要する また骨壊死のしきい線量は60~65Gyであるが, 無歯牙の状態に較べ有歯牙の場合はリスクが高い 口腔乾燥は唾液腺の外部照射の線量が30Gy 未満であれば軽度であるが, 健側の唾液腺の保護が重要となる また放射線治療期間中にタバコを吸う患者は, タバコを吸わない患者より治療の奏効率が低く, 生存期聞も短かい 8) 放射線治療の開始を契機に禁煙を促し, また有害事象の発生を防ぐために, 治療に先立ち歯科的状況をチェックする必要がある 6. 参考文献 1)Bachaud JM, Delannes M, Allouache N, et al. Radiotherapy of stage I and Ⅱ carcinomas of the mobile tongue and/or floor of the mouth. Radiother Oncol 31 : 199-206, 1994. 2)Pernot M, Malissard L, Aletti P, et al. Iridium-192 brachytherapy in the management of 147 T2N0 oral tongue carcinomas treated with irradiation alone : comparison of two treatment techniques. Radiother Oncol 23 : 223-228, 1992 3)Shibuya H, Hoshina M, Takeda M, et al : Brachytherapy for stage Ⅰ& Ⅱ oral tongue cancer : an analysis of past cases focusing on control and complications. Int J Radiat Oncol Biol Phys 26 : 51-58, 1993. 4) 西尾正道, 明神美弥子, 川島和之, 他 : 舌癌頸部リンパ節転移の問題. 頭頸部腫瘍 24 : 304-310, 1998. 5)Franceschi D, Gupta R, Spiro RH, et al. : Improved survival in the treatment of

118 頭頸部 squamous carcinoma of the oral tongue. Am J Surg 166 : 360-365, 1993. 6)Paterson R, Parker HM : Interstitial treatment. In Radium Dosage : The Manchester system, Meredith WJ ed, 2nd edition. Edinbergh and London, E & S Livingstone LTD, 1967, p31-41. 7)Inoue T, Yoshida K, Yoshioka Y, et al : Phase Ⅲ trial of high-vs.low-dose-rate interstitial radiotherapy for early mobile tongue cancer. Int.J Radiat Oncol Biol Phys 51 : 171-175, 2001. 8)Browman GP, Wong G, Hodson I, et al. Influence of cigarette smoking on the efficacy of radiation therapy in head and neck cancer. N Engl J Med 328 : 159-163, 1993. ( 国立病院機構北海道がんセンター放射線科西尾正道 )