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はじめに 我が国においては 障害者の権利に関する条約 を踏まえ 誰もが相互に人格と個性を尊重し支え合い 人々の多様な在り方を相互に認め合える 共生社会 を目指し 障がいのある者と障がいのない者が共に学ぶ仕組みである インクルーシブ教育システム の理念のもと 特別支援教育を推進していく必要があります

(2) 国語 B 算数数学 B 知識 技能等を実生活の様々な場面に活用する力や 様々な課題解決のための構想を立て実践し 評価 改善する力などに関わる主として 活用 に関する問題です (3) 児童生徒質問紙児童生徒の生活習慣や意識等に関する調査です 3 平成 20 年度全国学力 学習状況調査の結果 (

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教員の専門性向上第 3 章 教員の専門性向上 第1 研修の充実 2 人材の有効活用 3 採用前からの人材養成 3章43

Ⅲ 目指すべき姿 特別支援教育推進の基本方針を受けて 小中学校 高等学校 特別支援学校などそれぞれの場面で 具体的な取組において目指すべき姿のイメージを示します 1 小中学校普通学級 1 小中学校普通学級の目指すべき姿 支援体制 多様な学びの場 特別支援教室の有効活用 1チームによる支援校内委員会を

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領域別正答率 Zzzzzzzzzzzzzzzzzzzzzz んんんんんんんんんんんんん 小学校 中学校ともに 国語 A B 算数( 数学 )A B のほとんどの領域において 奈良県 全国を上回っています 小学校国語 書く B において 奈良県 全国を大きく上回っています しかし 質問紙調査では 自分

第 2 部 東京都発達障害教育推進計画の 具体的な展開 第 1 章小 中学校における取組 第 2 章高等学校における取組 第 3 章教員の専門性向上 第 4 章総合支援体制の充実 13

3 昨年度の校内研究の成果を基に本校では 平成 24 年度の校内研究で 授業における 手立て と 評価 のつながりを意識した授業づくりについて 指導評価シート を基に検討した 平成 24 年度北海道鷹栖養護学校研究紀要 また 平成 25 年度から 2 カ年計画で 般化 を目的とした指導方法について研

教職研究 第 8 号, インクルーシブ教育 は 障害児のための教育か? 特別支援教育の在り方に関する特別委員会報告から学校の役割と合理的配慮を確認する 庄司和史 ( 信州大学学術研究院総合人間科学系教授 ) 1. はじめに 平成 24 年 (2012 年 )7 月 中央教育審

の間で動いています 今年度は特に中学校の数学 A 区分 ( 知識 に関する問題 ) の平均正答率が全 国の平均正答率より 2.4 ポイント上回り 高い正答率となっています <H9 年度からの平均正答率の経年変化を表すグラフ > * 平成 22 年度は抽出調査のためデータがありません 平

p.1~2◇◇Ⅰ調査の概要、Ⅱ公表について、Ⅲ_1教科に対する調査の結果_0821_2改訂

単元構造図の簡素化とその活用 ~ 九州体育 保健体育ネットワーク研究会 2016 ファイナル in 福岡 ~ 佐賀県伊万里市立伊万里中学校教頭福井宏和 1 はじめに伊万里市立伊万里中学校は, 平成 20 年度から平成 22 年度までの3 年間, 文部科学省 国立教育政策研究所 学力の把握に関する研究

2 教科に関する調査の結果 ( 各教科での % ) (1) 小学校 国語 4 年生 5 年生 6 年生 狭山市埼玉県狭山市埼玉県狭山市埼玉県 平領均域正等答別率 話すこと 聞くこと 書くこと

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フトを用いて 質問項目間の相関関係に着目し 分析することにした 2 研究目的 全国学力 学習状況調査結果の分析を通して 本県の児童生徒の国語及び算数 数学の学習 に対する関心 意欲の傾向を考察する 3 研究方法平成 25 年度全国学力 学習状況調査の児童生徒質問紙のうち 国語及び算数 数学の学習に対

H30全国HP

3 調査結果 1 平成 30 年度大分県学力定着状況調査 学年 小学校 5 年生 教科 国語 算数 理科 項目 知識 活用 知識 活用 知識 活用 大分県平均正答率 大分県偏差値

Q1 診断書等がない子どもへの合理的配慮はどう考えたらよいのか A1 診断書や障がい者手帳等の有無が 合理的配慮の提供に関する判断の基準ではありません 教育支援資料 ( 文部科学省平成 25 年 10 月 ) において 各障がいは以下のように定義されています ( 参考 ) 教育支援資料における各障が

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2 教科に関する調査の結果 (1) 平均正答率 % 小学校 中学校 4 年生 5 年生 6 年生 1 年生 2 年生 3 年生 国語算数 数学英語 狭山市 埼玉県 狭山市 61.4

平成 28 年度全国学力 学習状況調査の結果伊達市教育委員会〇平成 28 年 4 月 19 日 ( 火 ) に実施した平成 28 年度全国学力 学習状況調査の北海道における参加状況は 下記のとおりである 北海道 伊達市 ( 星の丘小 中学校を除く ) 学校数 児童生徒数 学校数 児童生徒数 小学校

解禁日時新聞平成 30 年 8 月 1 日朝刊テレビ ラジオ インターネット平成 30 年 7 月 31 日午後 5 時以降 報道資料 年月日 平成 30 年 7 月 31 日 ( 火 ) 担当課 学校教育課 担当者 義務教育係 垣内 宏志 富倉 勇 TEL 直通 内線 5

資料3-1 特別支援教育の現状について

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本日 2012 年 2 月 15 日の記者説明会でのご報告内容をお送りいたします 文部科学省記者会でも配布しております 報道関係各位 2012 年 2 月 15 日 株式会社ベネッセコーポレーション代表取締役社長福島保 新教育課程に関する校長 教員調査 新教育課程に関する保護者調査 小学校授業 国語

4 身体活動量カロリズム内に記憶されているデータを表計算ソフトに入力し, 身体活動量の分析を行った 身体活動量の測定結果から, 連続した 7 日間の平均, 学校に通っている平日平均, 学校が休みである土日平均について, 総エネルギー消費量, 活動エネルギー量, 歩数, エクササイズ量から分析を行った

市中学校の状況及び体力向上策 ( 学校数 : 校 生徒数 :13,836 名 ) を とした時の数値 (T 得点 ) をレーダーチャートで表示 [ ] [ ] ハンドボール ハンドボール投げ投げ H29 市中学校 H29 m 走 m 走 表中の 網掛け 数値は 平均と同等または上回っているもの 付き

回答結果については 回答校 36 校の過去 3 年間の卒業生に占める大学 短大進学者率 現役 浪人含む 及び就職希望者率の平均値をもとに 進学校 中堅校 就職多数校 それぞれ 12 校ずつに分類し 全体の結果とともにまとめた ここでは 生徒対象質問紙のうち 授業外の学習時間 に関連する回答結果のみ掲

西ブロック学校関係者評価委員会 Ⅰ 活動の記録 1 6 月 17 日 ( 火 ) 第 1 回学校関係者評価委員会 15:30~ 栗沢中学校 2 7 月 16 日 ( 水 ) 学校視察 上幌向中学校 授業参観日 非行防止教室 3 9 月 5 日 ( 金 ) 学校視察 豊中学校 学校祭 1 日目 4 9

国語の授業で目的に応じて資料を読み, 自分の考えを 話したり, 書いたりしている

回数テーマ学習内容学びのポイント 2 過去に行われた自閉症児の教育 2 感覚統合法によるアプローチ 認知発達を重視したアプローチ 感覚統合法における指導段階について学ぶ 自閉症児に対する感覚統合法の実際を学ぶ 感覚統合法の問題点について学ぶ 言語 認知障害説について学ぶ 自閉症児における認知障害につ

24 京都教育大学教育実践研究紀要 第17号 内容 発達段階に応じてどのように充実を図るかが重要であるとされ CAN-DOの形で指標形式が示されてい る そこでは ヨーロッパ言語共通参照枠 CEFR の日本版であるCEFR-Jを参考に 系統だった指導と学習 評価 筆記テストのみならず スピーチ イン

教育調査 ( 教職員用 ) 1 教育計画の作成にあたって 教職員でよく話し合っていますか 度数 相対度数 (%) 累積度数累積相対度数 (%) はい どちらかといえばはい どちらかといえばいいえ いいえ 0

学習意欲の向上 学習習慣の確立 改訂の趣旨 今回の学習指導要領改訂に当たって 基本的な考え方の一つに学習 意欲の向上 学習習慣の確立が明示された これは 教育基本法第 6 条第 2 項 あるいは学校教育法第 30 条第 2 項の条文にある 自ら進んで学習する意欲の重視にかかわる文言を受けるものである

1. 調査結果の概況 (1) の児童 ( 小学校 ) の状況 < 国語 A> 今年度より, ( 公立 ) と市町村立の平均正答率は整数値で表示となりました < 国語 B> 4 国語 A 平均正答率 5 国語 B 平均正答率 ( 公立 ) 74.8 ( 公立 ) 57.5 ( 公立 ) 74 ( 公立

①H28公表資料p.1~2

課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

茨城県における 通級による指導 と 特別支援学級 の現状と課題 IbarakiChristianUniversityLibrary ~ 文部科学省 特別支援教育に関する調査の結果 特別支援教育資料 に基づいて茨城キリスト教大学紀要第 52 ~号社会科学 p.145~ 茨城県における 通

目 次 1 学力調査の概要 1 2 内容別調査結果の概要 (1) 内容別正答率 2 (2) 分類 区分別正答率 小学校国語 A( 知識 ) 国語 B( 活用 ) 3 小学校算数 A( 知識 ) 算数 B( 活用 ) 5 中学校国語 A( 知識 ) 国語 B( 活用 ) 7 中学校数学 A( 知識 )

(2) 国語科 国語 A 国語 A においては 平均正答率が平均を上回っている 国語 A の正答数の分布では 平均に比べ 中位層が薄く 上位層 下位層が厚い傾向が見られる 漢字を読む 漢字を書く 設問において 平均正答率が平均を下回っている 国語 B 国語 B においては 平均正答率が平均を上回って

(1) 体育・保健体育の授業を改善するために

研究組織 研究代表者西山哲成 日本体育大学身体動作学研究室 共同研究者野村一路 日本体育大学レクリエーション学研究室 菅伸江 日本体育大学レクリエーション学研究室 佐藤孝之 日本体育大学身体動作学研究室 大石健二 日本体育大学大学院後期博士課程院生

2 各教科の領域別結果および状況 小学校 国語 A 書くこと 伝統的言語文化と国語の特質に関する事項 の2 領域は おおむね満足できると考えられる 話すこと 聞くこと 読むこと の2 領域は 一部課題がある 国語 B 書くこと 読むこと の領域は 一定身についているがさらに伸ばしたい 短答式はおおむ

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Taro-自立活動とは

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工業教育資料347号

北見市特別支援教育の指針 平成 25 年 11 月

1 国の動向 平成 17 年 1 月に中央教育審議会答申 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について が出されました この答申では 幼稚園 保育所 ( 園 ) の別なく 子どもの健やかな成長のための今後の幼児教育の在り方についての考え方がまとめられています この答申を踏まえ

教育と法Ⅰ(学習指導要領と教育課程の編成)

(6) 調査結果の取扱いに関する配慮事項調査結果については 調査の目的を達成するため 自らの教育及び教育施策の改善 各児童生徒の全般的な学習状況の改善等につなげることが重要であることに留意し 適切に取り扱うものとする 調査結果の公表に関しては 教育委員会や学校が 保護者や地域住民に対して説明責任を果

愛媛県学力向上5か年計画

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Taro-① 平成30年度全国学力・学習状況調査の結果の概要について

3-1. 新学習指導要領実施後の変化 新学習指導要領の実施により で言語活動が増加 新学習指導要領の実施によるでの教育活動の変化についてたずねた 新学習指導要領で提唱されている活動の中でも 増えた ( かなり増えた + 少し増えた ) との回答が最も多かったのは 言語活動 の 64.8% であった

平成 年度佐賀県教育センタープロジェクト研究小 中学校校内研究の在り方研究委員会 2 研究の実際 (4) 校内研究の推進 充実のための方策の実施 実践 3 教科の枠を越えた協議を目指した授業研究会 C 中学校における実践 C 中学校は 昨年度までの付箋を用いた協議の場においては 意見を出

「標準的な研修プログラム《

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特別支援教育コーディネーターが機能する中学校の特別支援教育ネットワーク構築 生徒指導体制と特別支援教育体制の融合を目指して 岩本浩輔 A Proposal of a System for Building Special Needs Education Networks to Function Sp

短 報 Nurses recognition and practice about psychological preparation for children in child health nursing in the combined child and adult ward Ta

第 5 章管理職における男女部下育成の違い - 管理職へのアンケート調査及び若手男女社員へのアンケート調査より - 管理職へのインタビュー調査 ( 第 4 章 ) では 管理職は 仕事 目標の与え方について基本は男女同じだとしながらも 仕事に関わる外的環境 ( 深夜残業 業界特性 結婚 出産 ) 若

3 学びのユニバーサルデザイン化 合理的配慮は 障がいのある生徒の能力を最大限に伸長させるとともに 障がいのない生徒と共に学ぶことができるようにするための必要な支援です また ホームルームや一斉授業において 学びのユニバーサルデザイン化 を図るなど 個別の支援 と 全体への配慮 の両面で支援を考える

教育 学びのイノベーション事業 ( 平成 23~25 年度 ) 総務省と連携し 一人一台の情報端末や電子黒板 無線 LAN 等が整備された環境の下で 教科指導や特別支援教育において ICT を効果的に活用して 子供たちが主体的に学習する 新たな学び を創造する実証研究を実施 小学校 (10 校 )

小学校の結果は 国語 B 算数 A で全国平均正答率を上回っており 改善傾向が見られる しかし 国語 A 算数 B では依然として全国平均正答率を下回っており 課題が残る 中学校の結果は 国語 B 以外の教科で全国平均正答率を上回った ア平成 26 年度全国学力 学習状況調査における宇部市の平均正答

目次 Ⅰ 福島県教育委員会経験者研修 Ⅰ 実施要項 1 Ⅱ 高等学校経験者研修 Ⅰ 研修概要 1 研修体系 2 研修の目的 研修の内容等 4 研修の計画及び実施 運営等 4 5 研修の留意点 4 表 1 高等学校経験者研修 Ⅰ の流れ 5 表 2 高等学校経験者研修 Ⅰ 提出書類一覧 5 Ⅲ 高等学

学力向上のための取り組み

家庭における教育

問 3 問 1 で複数種目を回答した場合 指導形態について該当するものを選んでください ( 問 1 で複数種目回答していない場合は回答不要 ) 1 学校が選択した複数種目をすべての生徒に履修させている 2 学校が提示した複数種目から生徒が選択して履修できるようにしている 3 その他 ( 具体的な指導

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学習指導要領の領域等の平均正答率をみると 各教科のすべての領域でほぼ同じ値か わずかに低い値を示しています 国語では A 問題のすべての領域で 全国の平均正答率をわずかながら低い値を示しています このことから 基礎知識をしっかりと定着させるための日常的な学習活動が必要です 家庭学習が形式的になってい

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今年度は 創立 125 周年 です 平成 29 年度 12 月号杉並区立杉並第三小学校 杉並区高円寺南 TEL FAX 杉三小の子

町全体の状況を把握 分析するとともに 平均正答率については 全国 全道との比較を数値以外の文言で表現します また 質問紙調査の結果や 課題解決に向けた学力向上の取組を示します (3) 学校ごとの公表小規模校において個人が特定される恐れのあることから 学校ごとの結果公表はしません (4) 北海道版結果

平成25~27年度間

2 平成 27 年度に終了した研究課題について 研究成果報告書サマリー集や研究成果 ( 別紙 1 参照 ) の内容は 例えば下記のような場面で用いられ 貴機関や学校等での課題の改善に活用できましたか? 活用の場面研修会やセミナー所管する学校 教職員への情報提供関係機関 ( 医療 保健 福祉 教育 労


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17 石川県 事業計画書

各教科 道徳科 外国語活動 総合的な学習の時間並びに特別活動によって編成するものとする 各教科 道徳科 総合的な学習の時間並びに特別活動によって編成するものとする

5 教5-1 教員の勤務時間と意識表 5 1 ( 平均時間 経年比較 教員年齢別 ) 中学校教員 調査年 25 歳以下 26 ~ 30 歳 31 ~ 40 歳 41 ~ 50 歳 51 ~ 60 歳 7:22 7:25 7:31 7:30 7:33 7:16 7:15 7:23 7:27 7:25

ホームページ掲載資料 平成 30 年度 全国学力 学習状況調査結果 ( 上尾市立小 中学校概要 ) 平成 30 年 4 月 17 日実施 上尾市教育委員会

平成27年度公立小・中学校における教育課程の編成実施状況調査結果について

P5 26 行目 なお 農村部は 地理的状況や通学時 間等の関係から なお 農村部は 地理的状況や通学時 間等から P5 27 行目 複式学級は 小規模化による学習面 生活面のデメリットがより顕著となる 複式学級は 教育上の課題が大きいことから ことが懸念されるなど 教育上の課題が大きいことから P

Ⅱ インクルーシブ教育システムをめぐる国の動向と本研究の位置づけ 1. インクルーシブ教育システム構築に向けての国の動き (1) 障害者の権利に関する条約の批准までの経緯平成 18 年 12 月に国連総会において採択された 障害者の権利に関する条約 について 我が国は平成 19 年 9 月に署名し

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平成23年度全国学力・学習状況調査問題を活用した結果の分析   資料

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平成 30 年度全国学力 学習状況調査 北見市の結果等の概要 Ⅰ 調査の概要 1 調査の目的義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から 全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握 分析するとともに教育施策の成果と課題を検証し その改善を図り 学校における児童生徒への教育指導の充実や学習状況の改善等

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教育実践学研究 22,2017 23 - 担任教師への質問紙調査を通して - Strategies of Inclusive Education in the Elementary School: Through the Questionnaire Survey of Regular Class Teachers 佐久間大志 SAKUMA Hiroshi * 吉井勘人 YOSHII Sadahito ** 要約 : 本研究では, 小学校の通常学級の担任教師によるインクルーシブ教育の取り組みを明らかにすることを目的として,X 県内の 10 校の小学校の通常学級の担任教師 105 名を対象として, 特別な支援を要する児童に対しての 配慮の実施 と配慮実施についての 効果の認識 について質問紙調査を行った. その結果, 児童の情報を学校全体で共有する, 指示理解の弱い子に対して個別に説明をする といった配慮がよく実施されており, それらの配慮の提供に対する効果の認識も高いことが示された. 一方, 特別支援学校と連絡を取り合う, 課題や宿題の量を調節する, 児童が学校生活を好きになれるものを一緒に探したりする といった配慮は十分に実施されていないことが示された. その他に, 特別支援教育コーディネーターを経験した教師は, それを経験していない教師に比べて, 特別支援学校との連絡 調整 といった関係機関の活用に関しての理解が深まることがわかった. キーワード : 小学校特別な支援を要する児童合理的配慮 Ⅰ 問題の所在 平成 24 年に文部科学省が全国の公立の小 中学校を対象に行った調査では, 知的発達では遅れが無いものの, 学習面又は行動面に関して著しい困難を示す児童生徒の割合が 6.5% であることが示されている ( 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課,2012). 文部科学省では, 障害のある者と障害のない者が共に生活する, 共生社会の形成に向けたインクルーシブ教育システム構築のための特別支援教育を推進しており, 今後, 通常教育における特別支援教育の役割はより大きくなっていくといえる. インクルーシブ教育とは, 万人のための教育 であり, 人間の多様性の尊重等の強化, 障害者が精神的及び身体的な能力等を可能な最大限度まで発達させ, 自由な社会に効果的に参加することを可能にするとの目的の下, 障害のある者と障害のない者が可能な限り共に学ぶことのできる教育である. インクルーシブ教育を具現化していくための取り組みの1つとして, 合理的配慮を提供することが挙げられる. 合理的配慮とは, 障害のある子どもが, 障害のない子どもと平等に 教育を受ける権利 を享有 行使することを確保するために, 学校の設置者及び学校が必要かつ適当な変更 調整を行うことである ( 文部科学省,2012). 例えば, 授業の中で, 音声言語の理解に困難を示す知的障害の児童に対して口頭で指示するだけでなく, 板書して視覚的情報を提供する配慮がそれに当たる. 近年, 通常学級に在籍する発達障害児に対して, 特別支援教育の専門家による個別支援の実践 * 山梨県立かえで支援学校 ** 教育支援科学講座

事例報告が多く挙げられるようになった ( 大久保 福永 井上,2007; 小林 村松,2013). しかし, 特別支援教育の専門家ではない, 通常学級の担任教師による特別な教育的支援を要する子どもへの合理的配慮 ( 以下, 配慮と記す ) の効果やその課題に関する調査は少ないといえる ( 菊池 白浜, 2014). 小学校の通常学級の担任教師が, 特別な支援を要する児童に対してどのような配慮を重点的に行っているのか, また, どのような配慮を行うことに効果や困難さを感じているのかを明らかにすることが重要であると考える. 日野 熊谷 (2014) は高等学校において, 発達障害のある ( 疑われる ) 生徒に対してどのような配慮が必要と考えているのか, また, 配慮実施の難易度をどのように捉えているのかを明らかにするため, 特別支援コーディネーター及び関連職務についている教師に対し, 質問紙による全国規模の調査を行った. その結果, 高等学校では, 巡回相談や特別支援学校など外部機関を活用する必要性への認識に課題があること, 学力が高くても配慮が必要な生徒がいるという気づきが十分でない学校や教師がいることが明らかにされた. また, 合理的配慮に対して実施の難しさを感じる教師が多くおり, 合理的配慮についての理解を促す必要性が示された. この研究は, 高等学校の教師による特別な支援を要する生徒への配慮方法とその課題を明らかにしている点で意義深い. それでは, 小学校において通常学級の担任教師は, 特別な支援を要する児童に対してどのような配慮を重視して行っているのであろうか. また, 小学校では, 担任教師が配慮についてどの程度効果を認識しているのであろうか. それらを検討することで, 小学校のインクルーシブ教育における効果的な指導方略の一端を明らかにしていくことができると考える. 以上より, 本研究では, 小学校の通常学級における担任教師は, 特別な支援を要する児童に対して学級経営や授業の中でどのような配慮を行っているのか, また, その配慮を実施することについてどの程度の効果を認識しているのかを明らかにすることを目的とする. 加えて, 特別支援学級の担任経験, 特別支援教育コーディネーター経験, 特別な支援を要する児童の担任経験といった様々な経験は, 配慮の実施 と配慮についての 効果の認識 にどのような影響を与えるのかについて検討する. Ⅱ 方法 1. 調査協力者 X 県内の公立小学校に勤務する通常学級の担任教師 111 名 ( 合計 11 校 ) を対象とした. 2. 調査方法質問紙 通常学級におけるインクルーシブ教育に関するアンケート, 調査依頼文, 返信用封筒を対象校の学校長に郵送して対象者に配布してもらい, 記入後返送してもらった. 調査期間は 20XX 年 9 月 ~ 12 月に行った. 3. 質問紙の構成質問紙 Ⅰは, 回答者に関する質問, 質問紙 Ⅱは,1 学級全体への取り組み,2 個別の支援,3 教師や保護者間での連携に関する 25 問の質問と自由記述 ( 上記の質問項目以外で行っている支援や活動について ) で構成した. 調査項目に関しては日野 熊谷 (2014) が使用した質問紙の項目, 及び, 東京日野市公立小中学校全教師 教育委員会 小貫 (2010) による 通常学級での特別支援教育のスタンダード の校内研チェックリストを参考に考案した. 表 1では質問項目の選定で参考にした項目を示した. -24-

質問項目の選定に関しては, まず, 第 1 筆者が 20 年以上の教職経験をもつ小学校教師 2 名に相談して項目を精選した. その後, 小学校教師 6 名を対象として予備調査を実施した. 予備調査の結果を基に, 特別支援教育を専門とする大学教員 1 名 ( 第 2 筆者 ) と障害児教育を専攻する大学生 5 名で再度, 質問項目と出題方法に関して修正を行い, 質問紙を作成した. 質問紙 Ⅱでは 25 問の項目に対して A 実際に取り組みをどの程度行っているか について4 件法で回答を求めた (1= よく行っている,2= 時々行っている,3=あまり行っていない,4= 行っていない ). また, 同じ 25 問の項目においてB この取り組みがどの程度効果的であると思いますか についても4 件法で回答を求めた (1=とても効果的である,2=やや効果的である,3=あまり効果的ではない,4 効果的でない ). 表 1 本調査の質問項目 -25-

4. 分析方法第 1に, 配慮の実施 と 効果の認識 について, それぞれの項目間の差異を検討するために, Aの質問 ( 配慮の実施 ) に対しては各質問の回答を, 行っていない=1 点, あまり行っていない= 2 点, 時々行っている=3 点, よく行っている=4 点とし,Bの質問( 効果の認識 ) については各質問の回答を, 効果的ではない=1 点, あまり効果的ではない=2 点, やや効果的である=3 点, とても効果的である=4 点としてそれぞれの項目ごとの平均値を算出した. そして Aの質問とB の質問について, 平均値の高い上位 3 項目と平均値の低い下位 3 項目を抽出した. 第 2に, 教師の様々な経験 と 配慮の実施並びに効果の認識 との関係を検討するために, 配慮の実施は, 行っていない と あまり行っていない の回答をまとめて 配慮の実施が少ない として, 時々行っている と よく行っている の回答をまとめて 配慮の実施が多い とした. 効果の認識 は, 効果的ではない と あまり効果的ではない の回答をまとめて 効果の認識が低い として, やや効果的である, とても効果的である の回答をまとめて 効果の認識が高い とした. そして, 質問紙 Ⅰの中から, 性別, 年齢, 教職経験年数, 特別支援学校免許状の取得, 特別支援学級勤務経験がある, 特別支援学校勤務経験がある, 特別支援教育コーディネーター経験がある, 今現在特別支援教育コーディネーターを兼任している, 今までに発達障害のある又は発達障害があると疑われる児童の担任を経験している, 現在担任している学級に発達障害のある又は発達障害があると疑われる児童が在籍している, 今までに特別支援教育に関する講習等に参加した経験がある の違いによる回答傾向 ( 配慮の実施が 少ない と 多い / 効果の認識が 低い と 高い ) について,x 2 検定と Fisher の直接確率検定を行い分析した. 第 3に, 配慮の実施 と 効果の認識 についての相関係数を算出した. これらの統計解析には SPSS Statistics 21 を使用した. -26-

Ⅲ 結果 1. 回答率と有効回答数郵送した全 11 校のうち 10 校 (90%) から回答があった. 2. 回答者の基本属性について (1) 回答者の業務割合 : 回答した小学校学級担任教師 105 名のうち, 特別支援教育コーディネーターの経験のある教師が 13 名 (12.4%), そのうち2 名 (1.9%) が現在特別支援教育コーディネーターを兼任していた. (2) 回答者による教師経験年数の状況 : 回答者の経験年数は1~4 年が5 名 (4.8%),5~9 年が6 名 (5.7%),10~14 年が 10 名 (9.5%),15~19 年が 14 名 (13.3%),20~29 年が 48 名 (45.7%),30 年以上が 22 名 (21.0%) であった. (3) 特別支援教育の担当経験 : 特別支援学校教諭免許状の取得している教師は 13 名 (12.4%), 特別支援学級の勤務経験がある教師は 32 名 (30.5%), 特別支援学校勤務経験がある教師は1 名 (1%) であった. (4) 発達障害のある又は発達障害があると疑われる児童の担任経験 : 発達障害のある又は発達障害があると疑われる児童の担任経験がある教師は 97 名 (92.4%) であった. また, 現在担任している学級に発達障害のある又は発達障害があると疑われる児童が在籍していると回答した教師は 86 名 (81.9%) であった. (5) 特別支援教育に関する講習等の参加経験 : 特別支援教育に関する講習等に参加した経験がある教師は 94 名 (89.5%) であった. 3. 配慮の実施とその効果の認識について (1) 配慮の実施 : 質問項目全体の平均値は 3.26 点,SD は 0.47 点であった. 表 2には項目ごとによる平均値,SD, 経験ごとの有意差の結果を示した. 配慮の実施が高い上位 3 項目は質問 21 (3.75 点 ), 質問 18(3.71 点 ), 質問 8(3.69 点 ) であった. 配慮の実施が低い3 項目は質問 24 (2.05 点 ), 質問 9(2.46 点 ), 質問 20(2.73 点 ) であった. 経験年数では,1~9 年の群 (11 名 ) と 10 年以上の群 (90 名 ) に分け,x 2 検定を行ったところ, 質問 15 児童の行動観察, 学力検査, 知能検査いずれかを参考にして授業づくりに役立てていますか. において5% 水準で有意差が認められた (x(1)= 2 6.436,p<.05). 経験年数が 10 年以上の群が経験年数 9 年以下の群に比べて配慮の実施が多かった. 特別支援学校免許状の取得の有無に関して,Fisher の直接確率検定を行ったところ, 質問 7 理科実験や家庭科実習などの際に補助員や支援員などを配置していますか において, 特別支援学校免許状の取得の有る教師の群 (10 名 ) がそれを取得していない群 (73 名 ) に比べて配慮の実施が多かった ( 両側検定 :p=.038). 特別支援学級の担任経験の有り (30 名 ) と無し (71 名 ) に関しては,x 2 検定を行ったところ, 質問 22 障害特性ごとに校内で行った支援 対応法などの情報を蓄積し, 教師が活用できるようにしていますか. において5% 水準で有意差が認められた (x(1)=5.549,p<.05). 2 特別支援学級の担任経験が無い群が担任経験のある群に比べて配慮の実施が多かった. 特別支援教育コーディネーター経験の有り (12 名 ) と無し (89 名 ) に関して,Fisher の直接確率検定を行ったところ, 質問 24 特別支援学校と連絡を取り合い, 助言などを受けていますか. では, 特別支援教育コーディネーター経験の有る群が, その経験のない群に比べて配慮の実施が多かった ( 両側検定 :p=.024). 今までに発達障害のある又は発達障害があると疑われる児童の担任経験の有無に関して Fisher の直接確率検定を行ったところ, 質問 8 グループ編成する際にはメンバーに留意していますか. で -27-

は 担任経験の有る群 97 名 がない群 7名 に比べて配慮の実施が多かった 両側検定 p=.035 質問 17 児童の話しやすい友人を少なくとも1名は同じクラスにしていますか では 担任経験の有る群 87 名 が担任経験のない群 6名 に比べて配慮の実施が多かった 両側検定 p=.047 2 効果の認識 質問項目全体の平均値は 3.55 点 SD は 0.18 点であった 表3には項目ご との平均値 SD 有意差の結果を示した 効果の認識が高い上位3項目は 質問 23 3.8 点 質 問 21 3.79 点 質問 18 3.75 点 であった 効果の認識の低い3項目は質問9 2.98 点 質 問 20 3.31 点 質問 24 3.33 点 であった 表2 配慮の実施に関する回答 経験年数を1 9年の群と 10 年以上の群に分け Fisher の直接確率検定を行ったところ 質問 8 グループ編成する際にはメンバーに留意することに効果があると思いますか では 10 年以 上の群 92 名 が1 9年の群 11 名 に比べて効果の認識が高かった 両側検定 p=.030 また 質問 17 児童の話しやすい友人を少なくとも1名は同じクラスにすることに効果があると 思いますか では 10 年以上の群 84 名 が1 9年の群 9名 に比べて効果の認識が高かっ た 両側検定 p=.045 今までに発達障害のある又は発達障害があると疑われる児童の担任経験 の有無に関して Fisher の直接確率検定を行ったところ 質問8 グループ編成する際にはメン バーに留意することに効果があると思いますか では担任経験の有る群 95 名 が担任経験のな い群 7名 に比べて効果の認識が高かった 両側検定 p=.012 質問9 課題や宿題の量を児 28

童に合わせて少なくすることに効果があると思いますか. では担任経験の有る群(89 名 ) が担任経験のない群 (6 名 ) に比べて効果の認識が高かった ( 両側検定 :p=.017). 質問 17 児童の話しやすい友人を少なくとも1 名は同じクラスにすることに効果があると思いますか. では担任経験の有る群 (86 名 ) が担任経験のない群 (6 名 ) に比べて効果の認識が高かった ( 両側検定 : p=.020). 表 3 効果の認識に関する回答 (3) 配慮の実施と効果の認識の相関関係 : 配慮の実施と効果の認識に相関関係があるか分析したところ質問項目 25 問中 16 問が比較的強い相関がみられた. 表 4はその結果を示したものである. -29-

表4 配慮の実施と効果の認識の相関関係 4 自由記述に関する結果 自由記述に回答した人数は 105 名中7名であった 学級全体への取り組みでは 学級生活を通し て 気持ちの高ぶり 怒りだしたり 泣き出したりするアスペルガーの男児に対して 周りの子ど もたちにその子の悲しさやうまくいかないがっかり感などを理解してもらう 児童一人ひとりの 違いを認め合える学級集団作り 個別の支援に関する記述は 教科ごとに袋を用意して 教科書 ノート等をまとめておく 鉛筆に番号をふり筆箱の入れる部分にも番号をふり しまいやすくす る クールダウンを行うために 感覚遊びができる用具 粘土 水など を用意する ICT タ ブレット端末等 の活用 座席配置の工夫 であった 教師や保護者間での連携に関する取り組み では 児童理解に合わせて 保護者との信頼関係を築くことが大切 学校にサポートルームがあり アスペルガーの児童は週に2時間自立活動を実施している サポートの先生方や家庭とよく連絡を 取り 困難なことに対してどういう手立てをするか そのことによってどんなことができたかなど も共有し 本人や家庭にフィードバックしている があった また 誰もが自分の子どものよう に思えば言葉かけや支援が変わる やった分だけ効果がでる 効果が出るようにやる という教 師の意識の持ち方に関する記述があった 30

Ⅳ 考察 本研究では, 小学校の通常学級の担任教師によるインクルーシブ教育の取り組みを明らかにすることを目的として,X 県内の 10 校の小学校の通常学級の担任教師 105 名を対象として, 配慮の実施とその効果の認識について4 件法による質問紙調査を行い, 以下の内容を検討した. 1. 配慮の実施と効果の認識における平均点の上位項目と下位項目について配慮の実施と効果の認識の点数の高い項目をそれぞれ比較すると, 配慮の実施が高い上位 3 項目は質問 21 児童の特性や配慮が必要な事項 対応についての情報を, 担任だけでなく, 学校全体で共有する., 質問 18 指示理解の弱い子に対して個別に説明をする., 質問 8 グループ編成する際にはメンバーに留意している. であった. 効果の認識が高い上位 3 項目は質問 23 障害がある児童の保護者から申し出があった場合, 面談を行い, 本人の特性や保護者の要望などを知る機会を設けることに効果があると思う., 質問 21 児童の特性や配慮が必要な事項 対応についての情報を, 担任だけでなく, 学校全体で共有することに効果があると思う., 質問 18 指示理解の弱い子に対して個別に説明を加えるようにすることに効果があると思う. であった. 配慮の実施と効果の認識上位 3 項目では2 項目が共通していた. このことから, 特別な支援を要する児童の特性や配慮を学校全体で共有すること, また, 授業で指示理解の弱い子に対して個別に説明することは, 実施しやすく, 高い効果認識を得られる取り組みであるといえる. 小学校でインクルーシブ教育を取り入れる際には, これらの取り組みを端緒として, 重点的に取り扱う必要があると考えられる. 配慮の実施が低い3 項目は質問 24 特別支援学校と連絡を取り合い, 助言などを受けている, 質問 9 課題や宿題の量を児童に合わせて少なくする., 質問 20 児童が学校生活を好きになれるものを一緒に探したり, 提示したりしている. であった. また, 効果認識が低い3 項目は, 配慮の実施で得点の低い3 項目が入っていた. 特に質問 24 に関しては, 配慮の実施が平均 2 点であり, あまり実施していない傾向がみられた. また, それに対する効果の認識も低かった. 内田 井上 (2007) は, 小中学校の教諭 常勤講師を対象に, 関係機関との連携について質問紙による調査を行ったところ, 一部の教師のみが関係機関に関する知識を持っている状況にあると述べている. その知見を踏まえると, 本研究においても, 小学校の通常学級担任教師が特別支援学校などの関係機関についての情報を十分に把握していないことや実施の乏しさから連携の意義が十分に見出せていない可能性が推察される. 質問 9では, 課題や宿題の量の調整について配慮が十分になされていないこととその効果の認識が低いことが示された. 通常学級の担任教師は, 児童に対して学年相応の一定量の課題を出す必要があると考えられる. また, 児童間の不公平感を出さないためにも課題の量を調節するといった個別配慮の実施が難しい状況にあることも考えられる. しかし,Mcnary, Glasgow, and Hicks(2005) は, 宿題を行う際の問題として, 児童一人ひとりの環境が異なるため, 児童にとって必要な支援や資源が十分得られない状態で宿題に取り組ませてしまう恐れがあることを指摘しており, そのため, 課題の量を調節することは特別な支援を要する児童にとって必要不可欠な手立てだと提唱している. このことから, 効果的なインクルーシブ教育を行っていく上で, 児童一人ひとりの実態に応じて課題量を調整するための配慮の実施を検討する必要があるであろう. 質問 20 では通常学級ということもあり, 授業以外の場で児童一人ひとりに合わせて関わるための十分な時間を割くことの難しさが考えられる. この背景の1つには教師の多忙感があることが予想される. 一人ひとりの子どもに合わせて関わる時間をどのように確保するのかは学校運営の中で検討されるべき重要な課題の1つと考えられる. -31-

2. 配慮の実施と効果の認識の相互関係について配慮の実施と効果の認識に相関関係の分析を行ったところ, 質問項目 25 問中 16 問において比較的強い相関がみられた. これは全体の 64% の項目であり, おおよそ配慮の実施を行うことが効果の認識に結びつくと考えられる. 現在, 特別な支援を要する児童に対して, 学級経営や授業の中で様々な個別配慮の手立てがとられており, そのことに担任教師が教育的効果を認識していると理解することができる. 3. 経験が配慮の実施及び効果の認識に与える影響教職経験年数による経験の違いを比較したところ, 教職経験年数が 10 年以上の教師は, 教職経験年数 10 年未満の教師に比べて, 児童の行動観察や知能検査等を参考にして授業づくりに役立てている といった配慮を多く実施していた. また, 教職経験年数が 10 年以上の教師は, 教職経験年数 10 年未満の教師に比べて, グループ編成する際にはメンバーに留意すること, 児童の話しやすい友人を少なくとも1 名は同じクラスにすること の配慮実施に対する効果の認識も高かった. 山本 都築 (2005) が行った学級の軽度発達障害に対して行う担任の対応法を年代別に比較した調査では, 40 代を中心としたベテラン教師は若手教師に比べて軽度発達障害児に対する支援をより多く実施していることが示されている. この知見を踏まえると, 教師としての教職実践経験を積むことは, 多様な子どもの実態に応じた授業づくりの技能を向上させ, そして, 多様な子どもへの教育効果の認識も深めていくのではないかと考えられる. 特別支援学級の担任経験の有無による違いを分析したところ, 特別支援学級の担任経験の無い教師は特別支援学級の担任経験の有る教師に比べて 障害特性ごとに校内で行った支援 対応法などの情報を蓄積し, 教師が活用できるようにしている ことが多かった. このような結果になった要因として, 特別支援学級の担任経験が無い教師は, 特別な支援を要する児童に関わる機会が特別支援学級の担任経験の有る教師に比べて少なく, 適切な支援方法や対応法などの情報を求めており, また, それを全体で共有していきたいと考えているのではないかと推測した. 一方, 特別支援学級の担任経験のある教師は, 特別支援学級の担任を経験することで特別支援教育の専門的知識や技能を有していると考えられる. その知識 技能を学校全体へ積極的に発信するように意識することで, インクルーシブ教育が一層推進されていくと考える. 特別支援教育コーディネーターの経験の有無による違いを分析したところ, 特別支援教育コーディネーター経験の有る教師は, そうでない教師に比べて, 特別支援学校と連絡を取り合い, 助言などを受けている ことが多かった. 文部科学省では, 特別支援教育コーディネーターは各学校における特別支援教育の推進のため, 主に, 校内委員会 校内研修の企画 運営, 関係諸機関 学校との連絡調整, 保護者からの相談窓口などの役割を担うことと述べられている. そのため, 特別支援教育コーディネーターを経験することで, その後, その経験で培った連携の意義, 知識, 技能を基に, 関連諸機関 学校との連絡を行いやすくなるのではないかと考えられる. 特別な支援を要する児童の担任経験の有る教師は, そうでない教師に比べてグループ編成をする際に, 特別な支援を必要とする児童にとって話しやすい友人を同じグループにする配慮 をしていた. また, 授業の中で 具体的な活動を取り組む時間を確保する配慮 や 児童の行動観察, 学力検査, 知能検査を参考にして授業づくりに役立てる配慮 を多く行っていた. 加えて, 特別な支援を要する児童の担任経験の有る教師は, そうでない教師に比べて, 以下の配慮への効果があると認識している者が多かった. グループ編成する際にはメンバーに留意すること, 課題や宿題の量を児童に合わせて少なくすること, 児童の話しやすい友人を少なくとも1 名は同じクラスにすること. 小 中学校の担任教師に行った特別支援教育に対する意識と評価の調査研究では, 通常学級における特別な支援を要する児童生徒の担任経験のある者は, 教師自身の特別支援教育に対する関心, -32-

理解と技能が高く, 積極的な評価を行い, 教職に関する研修の必要性を認識しているという知見が示されている ( 小島 吉利 石橋 平賀 片岡 是永 丸山 水内 2011). 先行研究を踏まえると, 特別な支援を要する児童の担任を経験することで, 教師は彼らの特性や長所に応じた授業づくりをするようになること, また, 学級内の子ども同士の人間関係にきめ細やかに配慮するようになること, そして, それらの取り組みに効果を感じられるようになることが考えられる. 本研究の課題としては, 以下の点が挙げられる. 質問項目 7 理科実験や家庭科実習などの際に補助員や支援員などを配置する. では各学校よって支援員を自由に配置する権限が無いため回答できない学校が多数あった. そのため, 今後は各市町村の実態を十分に把握したうえで質問項目を選定する必要があると思われる. また, 自由記述に関しては十分に分析と考察ができなかった. 質問項目の支援方法以外にも多くの支援方法が記入されていた. そのため, 自由記述に書かれた内容に関しても配慮の実施, 効果の認識等を調査していきたい. Ⅴ 結論 本研究を通して, 小学校の通常学級でのインクルーシブ教育を推進していく上で必要とされる取り組みを提言したい. 特別な支援を要する児童に対して配慮を実施することには効果があり, かつ, その意義を教師自身が感じることができる. 児童の情報を学校全体で共有する, 指示理解の弱い子に対して個別に説明をする の 2つの配慮は実施しやすく, それらの効果を認識しやすいため, インクルーシブ教育を推進するための端緒として位置づけられる. 特別支援教育コーディネーターを経験することで 特別支援学校との連絡 調整 といった関係機関の活用に関しての理解が深まる. 特別な支援を要する児童の担任を経験することで, グループ編成の配慮, 授業の中での具体的な活動の時間の確保, 児童の行動観察や知能検査等を参考とした授業づくり を行うことが促進される. 児童の実態に応じた課題や宿題の調整, 関係機関との連携を図ることがインクルーシブ教育のさらなる推進につながる. 謝辞調査に際し, お忙しい中, 質問紙調査に協力してくださった X 県内の小学校の担任教師の皆様, 調査研究の実施を快く引き受けて下さった校長先生方に深く感謝申し上げます. 文献日野雅子 熊谷恵子 (2014) 高等学校における発達障害のある生徒への配慮に関する調査研究.LD 研究,23,257-271. 菊池哲平 白濱由香里 (2014) 熊本市内公立小学校における特別支援教育の実態調査. 熊本大学教育学部紀要,63, 159-165. 小林裕子 村松京子 (2013) 通常学級における多動児のワーキングメモリ支援による行動改善に関する実証的研究. 教育実践学研究,14(2),13-22. 小島道生 吉利宗久 石橋由紀子 平賀健太郎 片岡美華 是永加奈子 丸山啓史 水内豊和 (2011) 通常学級での特別支援教育に対する小 中学校の担任教師の意識構造とその影響要因. 特殊教育学 -33-

研究,49(2),127-134. McNary, S., Glasgow, N., & Hicks, C.(2005)What successful teachers do in inclusive classrooms. Corwin Press. 文部科学省初等中等教育局特別支援教育課 (2012) 通常の学級に在籍する発達障害の可能性のある特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果について. 文部科学省中央教育審議会初等中等教育分科会 (2005) 特別支援教育を批准するための制度の在り方について ( 答申 ). 大久保賢一 福永顕 井上雅彦 (2007) 通常学級に在籍する発達障害児の他害行動に対する行動支援 - 対象児に対する個別支援と校内支援体制の構築に関する検討 -. 特殊教育学研究, 45,35-48. 東京日野市公立小中学校全教師 教育委員会 小貫悟 (2010) 通常学級での特別支援教育のスタンダード. 東京書籍. 内田利宏 井上篤史 (2007) 教師の生徒指導に関わる意識と実態調査 - 児童生徒の抱えている解決困難な課題をできるだけ早期に克服するために-. 京都教育大学紀要,110. 山本憲子 都築繁幸 (2006) 特別支援教育に対する小学校教師の意識に関する - 考察 (2)- 年代による比較 -. 障害児教育方法学研究,4(3),31-41. 湯浅恭正 (2008) よくわかる特別支援教育. ミネルヴァ書房. -34-