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場に結び付けていきます 利用者のための目標設定がポイント 利用者自身がその生活課題に気付き 状況が改善されたときのイメージをもつことが必要です 利用者が主体的になれるよう支援します 非現実的な目標ではなく 実現可能で具体的な目標設定を行ない 利用者が実際に行動に移せるよう支援します 一定期間取り組ん

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統合失調症患者の状態と退院可能性 (2) 自傷他害奇妙な姿勢 0% 20% 40% 60% 80% 100% ないない 0% 20% 40% 60% 80% 100% 尐ない 中程度 高い 時々 毎日 症状なし 幻覚 0% 20% 40% 60% 80% 100% 症状

Transcription:

報告 介護予防への意識と日常生活機能に関する調査研究 Perceptions of long-term care prevention and functions of daily living 金美辰 1) 2) 堀米史一 Mijin Kim 1), Fumikazu Horigome 2) 1) 大妻女子大学 2) 上智社会福祉専門学校 1)Otsuma Women s University 2)Sophia School of Social Welfare 抄録本研究は 高齢者が日常生活機能低下を起こす要因についての基礎的データを参考に 介護予防サービス利用者の 日常生活機能 の実態調査を実施するとともに 日常生活機能低下の要因 を探求することを目的とした 東京都の介護予防プログラム実施施設において 介護予防プログラム利用者 119 名を対象に行った調査結果を分析した 結果として 運動機能向上プログラム と IADL 自主的な健康維持活動 と IADL ADL の項目で関連性がみられ IADL ADL 低下に関連する要因となる可能性が示された この IADL 低下に関連性のある 運動機能向上プログラム に関しては 利用者の介護予防への取り組みと運動機能向上へのモチベーション サービス提供者の利用者ニーズの把握が大きく関与していると考えられる また 健康維持活動 に関しては対象者の 自主性 とサービス提供者の 計画性 が大きく関係しているものであると考えられる Abstract Perceptions of long-term care prevention and functions of daily living The purpose of this research was to analyze factors in the decline of instrumental activities of daily living (IADL) and activities of daily living (ADL) in a facility with a long-term care prevention program for the elderly. The subjects were 119 users of a long-term care prevention service of Tokyo. The results showed close relationships between programs to improve exercise function and IADL, health maintenance activities and IADL, and health maintenance activities and ADL. This suggests that users needed to make efforts for long-term care prevention and motivation for programs to improve exercise function. Health maintenance activities relate to users intentions and professional staff s planning. Key word: 介護予防 ADL IADL 自主性 計画性 Key words: the long-term care prevention, ADL, IADL, intention, planning 1. 目的総務省の発表によると 2010( 平成 22) 年 10 月に行われた国勢調査の結果では高齢化率が 23.1% であり 過去最高を記録した また国立社会保障 人口問題研究所の推計では 高齢者人口は 団塊の世代 が 65 歳以上となる 2015( 平成 27) 年には 3000 万人を超え 高齢化率は 26.0% となり 団塊の世代 が 75 歳以上となる 2025( 平成 37) 年には 3500 万人に達して 高齢化がピークになると予測されている この様な背景を受け 2000( 平成 12) 年に施行された介護保険法は 2006( 平成 18) 年の改正により 高齢者が自分の住みなれた地域で安心して生活を続け - 73 -

られるように 予防を重視した地域密着型サービスの提供が強調されるようになり 要支援 1 2 の高齢者に対しは 新予防給付 特定高齢者に対しては 介護予防事業 といった形で 介護予防給付制度が開始された この介護予防給付制度では 介護保険の給付者のみならず 65 歳以上のすべての高齢者に対し 介護予防や健康づくり対策などの総合的な予防施策が推進された つまり 介護が必要になってから支援するのではなく 要支援や要介護状態になる前に予防することで 利用者が自立した日常生活を送れるように支援することである その具体的な内容をみると 介護認定審査の結果 非該当となった 65 歳以上の高齢者のうち 健康診査を実施して要支援 要介護状態になる恐れのある特定高齢者に対し 本人の同意を得て地域包括支援センターで介護予防のケアプランが作成される また 心身の状態の改善や健康で活動的な日常生活が送れるように介護予防事業 ( 地域支援事業 ) が提供される 介護予防事業は 自治体によって内容は多少異なるが 運動機能向上 栄養改善 口腔機能向上のサービスなどがある また 介護認定審査の結果 要支援 1 2と認定された場合は 本人の同意のもと地域包括支援センターで介護予防ケアプランが作成され 新予防給付サービスが提供される 新予防給付の主なサービスは 介護予防訪問介護 介護予防通所介護などがある まず 介護予防訪問介護からみると 身体介護と家事援助の区分けなく 1 か月単位の定額料金で利用できる 家事をすることが難しく 家族や地域からの支援が受けられない利用者に対し 家事援助などが受けられるサービスである 次に介護予防通所介護は デイサービス事業所で日常生活上の支援を行うサービスと 筋力向上 栄養改善 口腔機能向上 レクリエーションなどの選択サービスを組み合わせて利用できるサービスである このように 2006( 平成 18) 年の介護保険法の改正に伴い 予防を重視したサービスが展開されるようになり 利用者が自立した日常生活を送れるようなサービスを提供するためには 日常生活機能の低下 を引き起こす要因を明らかにし その要因を踏まえて援助を提供することが必要である 鄭ら (2010) は 中国の北京市と上海市の 70 歳以上の高齢者 750 人を対象にした調査の結果 日常生活 動作 (Activity of daily living ; 以下 ADL) の低下を引き起こす要因として 高い年齢層と年金が収入源ではない人を上げ 手段的日常生活動作 :(Instrumental activity of daily living ; 以下 IADL) の低下要因として 低学歴 配偶者のいない人 子どもの人数の多い人 子どもからの生活費を収入源とする人を挙げた また ADL と IADL の低下を引き起こす要因として 食生活が良くない人 交流 外出の少ない人 生きがいを持っていない人を挙げている 金ら (2011) の介護予防プログラム実施施設において高齢者 120 人を対象にした調査においても 日常生活の充実感を感じていない対象者 と 年金以外を収入源 とする対象者は ADL 低下を引き起こす可能性を示唆している 以上のことから 本研究では 高齢者が日常生活機能低下を起こす要因についての基礎的データを参考に 介護予防サービス利用者の 日常生活機能 の実態調査を実施するとともに 日常生活機能低下の要因 を探求することを目的とした そして その分析の視点として ADL IADL と調査項目との関連を併せて検討することとした 2. 方法 (1) 調査対象調査対象の選定については 調査依頼 に対して承諾をいただけた東京都の介護予防プログラム実施施設において 介護予防プログラム利用者を対象にして 2011( 平成 23) 年 2 月 1 日 ~ 2 月 28 日までに行った調査結果を分析の対象とした (2) 調査内容 1 調査方法調査用紙は隅田ら (2002) が作成した調査用紙を基本に作成し使用した 調査用紙記入に関しては施設の相談員による個別面接調査法により 得られた回答を相談員が記入することを原則とした 2 調査項目調査項目は基本属性として 性別 年齢 の他に以下の変数を用いて分析を行った 1 日常生活機能として IADL は隅田ら (2002) の調査を基に バスや電車での外出 買い物 食事の用意 金銭管理 片付けや掃除 洗濯 電話をかけること の 7 つの動作についてと ADL の項目として 歩行 食事 トイレ 入浴 身だしなみ の 5 つの動作について それぞれ できる やや時間がかかるができる 介 - 74 -

社会医学研究 第 29 巻 1 号 Bulletin of Social Medicine, Vol.29(1)2011 助を必要とする の 3 段階で質問をした その他の項 性 82 名 68.9 無回答 6 名 5.0 であった 年 目として 趣味 習い事 施設以外での 運動機能 齢内訳は最低年齢が 64 歳 最高年齢が 92 歳で 平均 向上プログラム以外のサービス希望の有無 自主的 年齢が 78.42 歳 SD ± 5.584 であった 表 1 な健康維持活動 地域活動 の 4 項目を設定した 日常生活機能の分析の結果 低下の割合は ADL ③分析方法 の 項 目 で は 歩 行 の 低 下 割 合 が も っ と も 高 く 本研究の目的である 日常生活機能低下の関連要因 33.6 身だしなみ 9.2% 食事 8.4% 入 の分析 及び構築した作業仮説の立証を行うために上 浴 6.7% トイレ 3.4% であった IADL の 記調査項目の 日常生活機能 の分析を行った 分析 項目では 片づけや掃除 の低下割合がもっとも高 時に ADL と IADL については できる を 低下 く 34.4% 食事の用意 24.0% 洗濯 20.5% なし やや時間がかかるができる と 介助を必要 2 とする が 低下あり とし 4 項目のχ 検定 χ 2 test を行った 統計分析は基本的に SPSS 17 for バス 電車での外出 17.6% 買い物 15.3% 金 銭管理 と 電話をかけること が最も低い割合となっ た 5.1% Windows を用いて行った ④倫理的配慮 2 IADL と運動機能向上プログラム 施設に対しては 施設長に研究計画書を提示し 研 IADL と 運動機能向上プログラム の項目で 究の趣旨を口頭および文章で説明した 了解が得られ は IADL の低下がなく 運動機能向上プログラム た後 相談員に研究計画書を提示し 研究以外の目的 以外のサービス提供を希望しない対象者は 5 名 7.8% でデータを使用しないこと 研究で知り得た情報は秘 であり 現在提供されている 運動機能向上プログラ 密保持すること データは研究者が管理し 研究終了 ム の他にプログラム参加を希望する対象者は 59 名 後研究者自身が責任をもって処理することを説明した 92.2% であった IADL の低下があり 運動機 また対象者に対しては 相談員から口頭と書面にて研 能向上プログラム 以外のサービス提供を希望しない 究目的 個人が特定されない旨を説明し 了解の得ら 対象者は 11 名 21.6% で 現在提供されている 運 れた方のみに調査協力をお願いした なお回収された 動機能向上プログラム の他にプログラム参加を希望 報告書は SPSS17 for Windows により 数値のみの処 する対象者は 40 名 78.4% であった 理で分析を行った 分析の結果 IADL の低下があり 運動機能向 上プログラム 以外のサービス提供を希望しない対象 3. 結果 者は IADL の低下がなく 運動機能向上プログ 1 対象者の基本属性と日常生活機能 ラム 以外のサービス提供を希望しない対象者よりも 調査の結果 特定高齢者から 41 名 34.5 要支 3 倍近く多い割合であり IADL と 運動機能向上 援 1 2 の利用者から 78 名 65.5 の回答が得られた プログラム に関して有意な差が見られた p 4.484 全対象者 n=119 の性別は男性 31 名 26.1 女 df 1 χ2 0.034 表 2 75

(3) 日常生活機能と健康維持活動 IADL と 自主的な健康維持活動 の項目では IADL の低下がなく 施設で提供されている 健康維持活動 のみの対象者は 28 名 (43.8%) であり 施設以外で 自主的な健康維持活動 を実施している対象者は 36 名 (56.2%) であった IADL の低下があり 施設で提供されている 健康維持活動 のみの対象者は 31 名 (60.8%) であり 施設以外で 自主的な健康維持活動 を実施している対象者は 20 名 (39.2%) であった (p= 3.297 df = 1 χ 2 = 0.069) ADL と 自主的な健康維持活動 の項目では ADL の低下がなく 施設で提供されている健康維持活動のみの対象者は 43 名 (56.6%) であり 施設以外で 自主的な健康維持活動 を実施している対象者は 33 名 (43.4%) であった ADL の低下があり 施設で提供されている 健康維持活動 のみの対象者は 17 名 (39.5%) であり 施設以外で 自主的な健康維持活動 を実施している対象者は 26 名 (60.5%) であった (p= 3.191 df = 1 χ 2 = 0.074) 分析の結果 IADL ADL ともに傾向差が見られた (4) その他の項目 地域での活動希望 趣味活動 の項目では ADL IADL 運動機能向上プログラム の項目では ADL との有意な差は見られなかった 4. 考察 (1) 全体的傾向以上のように全体的には日常生活機能を低下させる要因として関連性がないという結果であったが 運動機能向上プログラム の項目では IADL 低下に関連性があり 健康維持活動 の項目では IADL ADL 低下に関連性があるという数値を示した そこで本研究ではこれらの項目と IADL ADL の関連を検討してみた (2) 運動機能向上プログラム表 2 の結果が示すように 運動機能向上プログラム 以外のサービス提供希望の有無が IADL 低下に関連していることが明らかになった すなわち 施設で提供されている 運動機能向上プログラム 以外にも日常的に様々なプログラムに参加しようとする意欲を持って生活することにより IADL が低下しにくくなり 施設で提供されている 運動機能向上プログラム のみで 他のプログラムを希望しようとする意欲を持っていない方は IADL 低下を引き起こす可能性が高くなるということが明らかになった このことから施設サービスにおける 運動機能向上プログラム だけではなく 様々なプログラムへの参加意欲を高める支援が必要となり フォーマルサービスのみならず - 76 -

インフォーマルサービスと連携しながら 運動機能向上プログラム と他のプログラムが平行して日常的に行える環境を整えることが重要であると考えられる (3) 日常生活機能と健康維持活動結果に明らかのように 健康維持活動 と利用者の IADL ADL に傾向差が見られ 健康維持活動 が日常生活機能に影響を与える可能性が示唆された このことから IADL においては施設以外での自主的な 健康維持活動 に参加することによって IADL 低下防止につながるが ADL においては 施設などのサービス提供者による適切なメニュー作成や指導が計画的に実施されていることが重要になると考えられる (4) まとめ本研究の目的は 介護予防サービス利用者の日常生活機能低下の要因 を検討することであった 先行研究を踏まえ前述の作業仮説を立て 作業仮説の立証を行うために調査を行った 前述の結果及び考察から以下のようにまとめる事ができよう 1 個別の項目において ADL IADL と 地域活動 趣味 ADL と 運動機能向上プログラム の項目においてはχ 2 検定の結果 有意な差はなく ADL IADL 低下との関連性は見られなかった 2ただし IADL と 運動機能向上プログラム では有意な差がみられ IADL ADL と 健康維持活動 の項目においては傾向差がみられ IADL ADL 低下に関連する要因となる可能性が示された 3この IADL 低下に関連性がある 運動機能向上プログラム に関しては 利用者の介護予防への取り組みと運動機能向上へのモチベーション サービス提供者の利用者ニーズの把握が大きく関与していると考えられる また 健康維持活動 に関しては対象者の 自主性 とサービス提供者の 計画性 が大きく関係していると考えられる 以上のことから 利用者の IADL に関連性のある 運動機能プログラム と日常生活機能の低下に関連性のある 健康維持活動 を自主的 且つ積極的に実施できるように支援することが必要であると考えられる また 本研究は 1 施設の利用者のみを対象とした調査に基づいたものであり 本研究で実証された日常生活機能低下の要因が他の地域でも認められるかどうか 今後複数の施設や利用者を対象に継続した調査を行うことが必要であると考える 文献 1) 隈田好美黒田研二 : 高齢者における日常生活動作自立度低下の予防に関する研究 ( 第 2 報 ) 抑うつに関連する要因厚生の指標 49(8):8-13 (2002) 2) 鄭小華黒田研二 : 中国都市部高齢者の日常生活機能低下に関連する要因社会福祉学 51-2: 83-94(2010) 3) 黒田研二隈田好美 : 高齢者における日常生活活動自立度低下の予防に関する研究 ( 第 2 報 ) 抑うつに関連する要因厚生の指標 49(8): 14-19(2002) 4) 野中久美子大塚理加菊池和則 : 基本健康診査で把握した高齢者の特定高齢者施策の低利用率の要因に関する研究社会福祉学 50-3:54-64(2010) 5) 津島順子小河孝則吉田浩子津島靖子 : 虚弱高齢者の通所介護利用に関する心情介護福祉学 15-2:182-189(2008) 6) 神宮純江江上裕子絹川直子ほか : 在宅高齢者における生活機能に関する要因日本公衆衛生雑誌 50:92-105(2003) 7) 河野あけみ金川克子 : 地域虚弱高齢者の一年間自立度変化とその関連因子日本公衆衛生雑誌 50:92-105(2003) 8) 串田正代蒲原高子大井照ほか : 東京都板橋区における介護予防活動の取り組み日本在宅ケア学会誌 6:96-103(2003) 9) 介大渕修一小島基永三木明子 : 護予防対象者の運動器関連指標評価基準日本公衆衛生雑誌 57: 988-995(2010) 10) 鈴木隆雄 : 高齢者の運動機能障害評価介護予防における特定高齢者スクリーニング指標の開発臨床スポーツ医学 27-1:27-32(2010) 11) 石濱照子江戸聖人新井美奈子 : 特定高齢者候補者における運動機能と抑うつ気分の相関について社会医学研究 26-1:15-23,(2008) 12)WILLIAMS DR:Marital status and psychiatric disorders among blacks and whites J. Health. Soc. Behav. 33:140-158(1992) 13)RABHERUK:special issues in the management of depression in the old patient Can. J. Psychiatry - 77 -

49:41(2004) 14)LUOMA JB:Contact with mental health and primary care providers before suicide. A review of the evidence Am J Psychiatry 159: 909-916(2002) 15) 鈴木直子後藤あや横川博英安村誠司 : 地域在住高齢者の IADL の 実行状況 と 能力 の 1 年後の変化日本老年医学会雑誌 46-1:47-54(2009) - 78 -