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ミリモル毎リットル mmol/l マイクロジーメンス毎センチメートル µs/cm 度 ( 角度 ) 5. 質量百分率を示すには % の記号を用いる 液体又は気体 100mL 中の物質量 (g) を示すには w/v% の記号を用いる 物質 100g 中の物質量 (ml) を示すには v/w% の記号を

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分析化学講義資料 ( 容量分析 ) 林譲 (Lin, Rang) 容量分析概要容量分析法 (volumetric analysis) は滴定分析法 (titrimetric analysis) とも呼ばれている この方法は, フラスコ中の試料液の成分とビュレットに入れた濃度既知の標準液 (standard solution) を反応させ, 適当な方法によって終点 (end point) を検出し, 消費した標準液の量から試料中の目的成分の量を知る方法である 次のような利点と欠点があるが, 日本薬局方でも 450 以上の医薬品がこの方法で定量されるほど普及している 利点 : 簡単な器具で行える ; 標準試料を要しない 欠点 : 手間がかかる ; 感度が低い ; 比較的大量の試料を必要とする 試料成分と標準液の反応により, 滴定分析法は次のように分類される : 酸塩基反応 : 酸塩基滴定 (acid-base titration)( 中和滴定 (neutralimetry)) 非水滴定 (nonaqueous titration) キレート生成反応 : キレート滴定 (chelatometric titration), 陽イオンの定量 沈澱反応 : 沈澱滴定 (precipitation titration), 陰イオンの定量 酸化還元反応 : 酸化還元滴定 (oxidation reduction titration) 滴定の操作は次のパータンである : 直接滴定 : 試料約 X グラムを精密に量り, 溶媒に溶かし, 指示薬 I を数滴加え, 標準液 Y で滴定する 逆滴定 : 試料約 X グラムを精密に量り, 試薬 Z ミリリットルを正確に加え, 指示薬 I を数滴加え, 過量の Z を標準液 Y で滴定する キーワード 精密 : 量るべき最小単位を考慮し,0.1mg,0.01mg,0.001mg まで量る 正確 : 規定された数値の質量をその桁まで量る 約 : 記載された量の ±10% の範囲 標準液 : 濃度が正確に求められている溶液で, 試料溶液に加えて, 分析を行う 標定 と 標準試薬 : ファクター f は, 標準液の表示濃度に乗じると, その正確な濃度を表わす f を求める操作を標定といい, 標準試薬を対象にした滴定によって評定する 対応量 :f ( 対応量 ) ( 滴定値 (ml))= 目的物質の量 (mg); 対応量は, 標準液 1mL に対応する質量 (mg) 1

中和滴定の原理, 操作法および応用例を説明できる 強酸または強塩基を滴定の標準液として用い, 試料中の酸または塩基の量を求める 炭酸水素ナトリウムの定量炭酸ナトリウムを乾燥し, その約 1.2g を精密に量り, 水 25mL に溶かし,0.5mol/L 硫酸で滴定し, 液の青色が黄緑色に変わったとき, 注意して煮沸し, 冷後, 帯緑黄色を呈するまで滴定する ( ブロモクレゾールグリン試液 2 滴 ) アスピリンの定量 アスピリンの定量は, 逆滴定に用いた硫酸について計算する そのため, 水酸化ナトリ ウムの量は計算には必要なく, 操作中に溶け込んだ二酸化炭素は計算から除外される CO2 アスピリン 1.5000g 0.5mol/L 水酸化ナトリウム液 50.00mL 0.25mol/L 硫酸 17.00mL CO2 0.5mol/L 水酸化ナトリウム液 50.00mL 0.25mol/L 硫酸 49.70mL 非水滴定の原理, 操作法および応用例を説明できる滴定反応の種類は酸塩基反応である ( カールフィッシャー法は除く ) 弱酸, 弱塩基で K <10 7 10 8 のものは, 水の解離を無視できなくなるため, 水溶液中では滴定できない そこで水の代わりに非水溶媒を使うと, 水に溶けにくい弱酸や弱塩基の定量が可能になる 非水溶媒中の酸塩基反応水よりプロトンを供与する力の強い溶媒中では, 弱塩基性物質の塩基性は強くなり, 水よりプロトンを受け取る力の強い溶媒中では, 弱酸性物質の酸性は強くなる 水より誘電率の低い非水溶媒では酸や塩基の解離は大きく低下する そのため, 強酸の酸の強さを比較できる : 過塩素酸 > 臭化水素酸 > 硫酸 > 塩酸 > 硝酸 弱酸の定量半プロトン性溶媒 N,N-ジメチルホルムアミド中, テトラメチルアンモニウムヒドロキシド液 ((CH 3 ) 4 NOH) またはナトリウムメトキシド液 (CH 3 ONa) で試料を滴定する 塩基性医薬品の塩酸塩の滴定塩基性医薬品をB とすると, その塩酸塩はBH + Cl - となる これを過塩素酸と混ぜると, 2

BH + Cl - + HClO4 BH + ClO4 - + HCl の平衡に達する 水溶液中では, 塩酸と過塩素酸の酸としての強さは同じである ( 水平効果 ) が, 酢酸溶液中では, 塩酸は過塩素酸に比べはるかに弱い酸であるので, この平衡は右に偏る B の定量は, 当量点を過ぎて生じるプロトンを指示薬クリスタルバイオレットで検出する キレート滴定の原理, 操作法および応用例を説明できる 金属イオンの定量分析法であり, エチレンジアミン四酢酸 (EDTA) を標準液として用 いる 陽イオンの定量法 金属イオンと EDTA は必ずモル比 1:1 で反応する 滴定終点の検出酸塩基滴定では当量点付近ではpH が急激に変化するのと同様に, キレート滴定では被滴定物質である金属イオンの濃度が急激に変化する. そこで, 金属イオンと結合 解離で色が変わる化合物 ( 金属指示薬 ) を指示薬とする. ただし, 指示薬とイオンの安定度定数より, 金属イオンと滴定試薬 (EDTA) の安定度定数が大きいことが条件である. 沈殿滴定の原理, 操作法および応用例を説明できる銀イオンを含む溶液を標準液として用い, 銀イオンと容易に難溶性の塩を生成するイオン ( ハロゲン化物イオン, シアン化物イオン, チオシアン酸イオン ) を定量する 陰イオンの定量法 滴定終点の検出測定対象は銀などと沈殿をつくるものに限定されていて, 反応終点を見極めるための方法が工夫されている.Mohr 法,Fajans 法と Liebig-Deniges 法では滴定終点を示す色は Ag + が関与しているが,Volhard 法でAg + は関与していない. Mohr 法 Ag + で滴定 過剰なAg + Ag2CrO4 ( 赤色沈殿 ) Fajans 法 Ag + で滴定 過剰なAg + Ag + がAgCl に吸着 これにフルオレセインが吸着 ( 紅色 ) Volhard 法 ( チオシアン酸塩滴定 ) SCN - で過剰なAg + を逆滴定 過剰なSCN - [FeSCN] 2+ ( 赤色錯イオン ) 3

指示薬として硫酸アンモニウム鉄 (III) 試液を使う. Liebig-Deniges 法 (HCN の定量 )Ag + で沈殿を生じない滴定 Ag + で滴定 Ag[Ag(CN)2 - ] 過剰なAg + Ag I ( 黄色沈殿 ) Liebig 法で生じる白色沈殿 Ag[Ag(CN)2 - ] はアンモニアにより溶解させる. 酸化還元電位の原理, 操作法および応用例を説明できる強い酸化剤あるいは還元剤を標準液として用い, これらと定量的に酸化還元反応を行う被酸化物質や被還元物質を測定対象とする 酸化剤で滴定 :( 酸化還元電位の低い ) 相手を酸化し, 自分は還元される 還元剤で滴定 :( 酸化還元電位の高い ) 相手を還元し, 自分は酸化される 滴定終点の検出ヨウ素滴定はどちらも, I2 の量を測定する ヨウ素酸化滴定 ( ヨージメトリー,iodimetry) I2 を酸化剤として使用する滴定方法 ヨウ素液による直接滴定還元剤 ( 被滴定物質 ) I2 の消費 (I2 + 2e - 2I - ) 過量の I2 をデンプン試液の 濃青色の出現で検出 例 : アスコルビン酸の定量過量のヨウ素の逆滴定一定過量のヨウ素液により試料を酸化し, 残存するヨウ素をチオ硫酸ナトリウム液で逆滴定する I2 + 2 Na2S2O3 2NaI + Na2S4O6 還元剤 ( 被滴定物質 ) I2 の消費 (I2 + 2e - 2I - ) I2( 過量 ) 還元剤 ( 滴定標準液 ) 過量の滴定標準液をデンプン試液の濃青色の消失で検出例 : ホルマリンの定量 ( 滴定標準液はチオ硫酸ナトリウム液 ) ヨウ素還元滴定 ( ヨードメトリー,iodometry) I - を還元剤として使用する滴定方法 酸化剤を含む試料に一定過量のヨウ素化物イオンを加え, その酸化剤に対応する当量分 4

だけ I2 が生成する この I2 をチオ硫酸ナトリウムで滴定すれば, 初めに存在した酸化剤を定量することができる 酸化剤 ( 被滴定物質 ) I2 の生成 (I2 + 2e - 2I - ) I - ( 過量 ) 還元剤 ( 滴定標準液 ) 過量の滴定標準液をデンプン 酸化剤を含む試料に 試液の濃青色の消失で検出 酸化剤の例 : Cl2 サラシ粉 Cl2 + 2KI I2 + 2KCl Br2 フェノール Br2 + 2KI I2 + 2KBr KIO3( 酸性 ) Na2S2O3 の標定 KIO3 + 5KI + 3H2SO4 3I2 + 3K2SO4 + 3H2O KIO3 + KIO4( 酸性 ) ソルビトール KIO4 + 7KI + 4H2SO4 4I2 + 4K2SO4 + 4H2O その他 : KIO3( 強塩酸酸性 ) ヨードチンキ I - I + 酸化還元滴定過マンガン酸塩滴定酸化剤, 過剰の標準液による反応液の呈色 ( 赤紫色 ) 還元剤 (analyte): オキシドールヨウ素酸化滴定 iodimetric titration 酸化剤還元剤 (analyte): アスコルビン酸, ホルマリンヨウ素還元滴定 iodometric titration 還元剤酸化剤 (analyte): サラシ粉 (Cl2), フェノール (Br2) 過ヨウ素酸塩を用いる滴定酸化剤還元剤 (analyte): ソルビトールヨウ素酸塩を用いる滴定強塩酸酸性の条件で酸化剤還元剤 (analyte): ヨードチンキ 5