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45 ARマーカーを利用した3D 環境モデル構築手法の提案秋本高明 早川玲央 * A method for 3D environment model construction using the AR marker Takaaki AKIMOTO and Reo HAYAKAWA Abstract This paper proposes a method for constructing a 3D environment model using the AR marker. In this method, we assume that the 3D models of the structures such as rooms or buildings and the objects such as desks or chairs are prepared in advance. A mark called AR maker is put on the each object. The position and orientation of the AR maker are measured from the captured image by the camera using ARToolKit. Then, the position and orientation of the objects are obtained and the 3D models of the objects are placed in the 3D models of the structures. Experimental results are shown and future issues are discussed. Key words: 3D model, Augmented Reality (AR), ARToolKit, Computer Graphics (CG). はじめに 我々は車いす利用者や歩行に杖が必要な人など移動が容易でない人の移動シミュレーション システムの開発を行っている これは 道路や建物などの現実世界の 3 次元モデルをパソコン中に構築しておき その 3 次元モデルの中で車いすなどを仮想的に移動させることにより 事前に通行困難な場所や危険な場所を把握しようとするシステムである このようなシステムを実現するためには 現実世界と同じ 3 次元環境をパソコン中に容易に構築することが必要となる 例えば 建物内の 3 次元モデルを構築する場合 床 壁 ドアといった建物自体の 3 次元モデルは その建物の建築時の設計図などから容易に構築できるかもしれない さらに 改築などを行わないかぎりその建物自体の 3 次元モデルを修正する必要はない しかし 建物の中には机や椅子などの家具やその他の様々な物が置かれている それらは容易に動かせるため それらの配置を含む建物内の 3 次元モデルを構築することは容易ではない 例えば 椅子などの配置が変わる毎に 3 次元環境モデルを修正する必要がある 本研究では 建物などの構造物の 3 次元モデルはすでに構築されているものとして その中に配置されている家具などの移動可能な物体の配置を含む 3 次元環境モデルを容易に構築することを目的とする 人は視覚情報に基づき机や椅子などの物体を識別し それらの大まかな配置を理解することができる これと同様にカメラで撮影した画像から 画像の認識 理解技術により物体の形と位置 姿勢情報を取得しようとする研究が行われている [] しかし 現状の技術では 様々な色や形を持つ家具などの物体を精度良く識別することは容易ではない また 赤外線やレーザーを使ったレンジファインダー ( 距離計 ) によって距離画像を取得し 距離画像から環境の 3 次元モデルを構築しようとする研究も行われている [2][3] しかし この方法には距離画像を取得できる装置が必要となる 本文では 一般的なカメラを使って家具などの移動可能な物体の配置を含む 3 次元環境モデルを簡易に構築する一手法を提案する ここで提案する手法は 物体の検出に AR マーカー [4][5] を用いる つまり 検出対象とする物体に所定の * 和歌山大学システム工学部 AR マーカーを貼り付けておき カメラで撮影した画像よりその AR マーカーの位置 姿勢を計測することにより物体の位置 姿勢を得る 物体の 3 次元モデルは予め作成しておき 計測した位置 姿勢情報に基づいてその物体の三次元モデルを 3 次元環境モデル中に配置することにより 動かせる物体を含む 3 次元環境モデルを構築する 2. 提案手法の概要 本文で提案する手法の基本的な考え方を以下に述べる なお 前述したように 提案手法は家具などの移動可能な物体の 3 次元モデルの構築が目的であり 建物の床や壁といった構造物の 3 次元モデルは 別の方法で事前に構築されているものとする 提案手法の処理の流れ () 対象とする物体の 3 次元モデルを作成する (2)AR マーカーと呼ばれる 2 値画像を作成し その AR マーカーを対象物体の所定の位置に貼り付ける (3)AR マーカーを貼付された物体をカメラで撮影することにより AR マーカーを検出すると共にその位置 姿勢を計測する (4)AR マーカーの位置 姿勢情報に基づいて そのマーカーが貼り付けられている物体の位置 姿勢を求める (5) 物体の位置 姿勢情報に基づいて 構築物の 3 次元モデル中にその物体の 3 次元モデルを配置する 上記の説明で AR マーカーとは ARToolKit[4][5] と呼ばれる拡張現実感アプリケーションソフトを作成するためのライブラリで使用されるマーカーである 3.AR マーカーを利用した 3 次元環境モデルの構築 以下に 本文で提案する AR マーカーを利用した 3 次元環境 モデルの構築処理について詳しく述べる 3. 物体 3 次元モデルの作成 最終的に移動物体の 3 次元モデルを 3 次元環境モデル中に配 置し 移動物体を含む 3 次元環境モデルを構築したいので 移 動物体の 3 次元モデルが必要である これは 3 次元モデルを入

46 北九州工業高等専門学校研究報告第 48 号 (205 年 月 ) 力するツールなどを利用して作成する 例えば 図 は 直方 体の段ボール箱の 3 次元モデルの例である 3.3 ARToolKit による AR マーカーの位置 姿勢の計測 () カメラキャリブレーションカメラで撮影するということは カメラのレンズを通して現実世界である 3 次元の空間を 2 次元に透視投影することである カメラのレンズは多種多様であり 特に焦点距離 ( または画角 ) が異なれば 同じ 3 次元空間を同じ場所から撮影しても 異なった撮影画像が得られる そこで 実際に使用するカメラやレンズの特性を予め計測しておく必要がある これは カメラキャリブレーションと呼ばれる ここでは ARToolKit が用意している方法によってカメラキャリブレーションを行う [5] 具体的には 等間隔に数十個の点が印刷された平坦な板を実際に使うカメラで撮影し 点と点の間の実測距離や撮影画像上での点の位置などを入力することによりカメラキャリブレーションを行う 図 物体の3 次元モデルの例 3.2 AR マーカーの作成と物体への貼付次に 移動物体に貼り付ける AR マーカーを作成し それを物体の所定の位置に貼り付ける AR マーカーは文献 [5] などを参考にして 所定の規則に基づいて作成する 本手法では AR マーカーの位置に加えてその向きを計測する必要があるので その AR マーカーは点対象の図形ではなく向きが判別できるような図形にする必要がある 図 2に AR マーカーの例を 図 3にその AR マーカーを段ボール箱に貼り付けた例を示す なお AR マーカーを物体に貼り付けたとき 物体の座標系における AR マーカーの位置 姿勢を計測しておき それを変換行列などの形で記録しておく (2)AR マーカーの位置 姿勢の取得図 3に示すような AR マーカーを貼り付けた物体をその AR マーカー全体が見えるようにカメラで撮影することによって AR マーカーの位置と姿勢を計測する これには ARToolKit とよばれる拡張現実感アプリケーションを作成するためのソフトウェアライブラリーを利用する [4][5] ARToolKit を用いて AR マーカーをカメラで撮影することにより カメラを原点とした座標系での AR マーカーの位置 姿勢を変換行列の形式で得ることができる この変換行列は マーカー座標系をカメラ座標系に座標変換する変換行列である なお AR マーカーの寸法は mm( ミリメートル ) を単位として指定するため AR マーカーの位置も mm を単位とした値で得られる また ARToolKit から得られる変換行列 は () 式のように一般的な 4 4 の変換行列の 4 行目を省略した 3 4 の行列である このため に4 行目を加えて (2) 式に示すような一般的な変換行列 を作り 以降はその変換行列を使う これらの変換行列で r~r9 は回転を表し tx, ty, tz は平行移動を表す () 図 2 AR マーカーの例 0 2 ARToolKit では カメラの座標系 (xc, yc, zc) と AR マーカーの座標系 (xm, ym, zm) は図 4に示す座標系となっている [5] ここで カメラの座標系は右手座標系であるが カメラの底面が +y カメラの撮影方向の中心が +z の向きとなるような座標系となっている 3 次元の座標系は +y を上向きにすることが多い これに対し ARToolKit のカメラ座標系は カメラの上面が下向きといった普通の感覚では上下逆さまの座標系となっている 図 3 AR マーカーを貼り付けた物体

北九州工業高等専門学校研究報告第 48 号 (205 年 月 ) 47 (5) 図 4 ARToolKit におけるカメラ座標系とマーカー座標系 図 6 マーカー座標系とモデル座標系 3.4 物体の位置 姿勢の計算 図 5 補正後の座標系 一般的に人はカメラの上面が +y となるような座標系を想像し そのような座標系の方が直感的に理解しやすい そこで 図 4 で示す ARToolKit のカメラ座標系で得られる座標を図 5 のよう な一般的な右手座標系に読み替える補正を行う この補正は 図 4 と図 5 を比べれば分かるように カメラ座標系の (x, y, z) を (x, -y, -z) に変換すればよい つまり (3) 式の変換行列 で変換す ればよい なお この変換は x 軸を中心として 80 回転する ことと等価である また この補正前は AR マーカーはカメラよ り +z の方向にあるが 補正後はカメラより -z の方向に位置する ことになる 0 0 0 0 3 結局 (4) 式に示すように ARToolKit より得られた変換行列 と (3) 式の変換行列 を合成した変換行列 をマーカ ー座標系からカメラ座標系への変換行列とする 例えば マー カー座標系における座標,, は (5) 式により図 5 に示 す座標系における座標,, に変換できる なお 変換行 列が (2) 式の形の場合の変換行列の合成では 番目の座標変換の 変換行列の左側に 2 番目の座標変換の変換行列を置いて行列の 乗算を行うこととなる そのため (4) 式では最初の変換行列 に対し その次の変換行列 を左側に置いている もし 変 換行列が式 (2) の行列の転置行列の形であれば 変換行列の乗算 の順番は上記の順番の逆となる (4) 3.3 で求めた変換行列 により マーカー座標系の座標をカメラ座標系に変換できる しかし 物体の 3 次元モデルは 一般にはマーカー座標系とは別の座標系で作成されているため これだけでは 3 次元モデルをカメラ座標系に変換することはできない 3 次元モデルの座標系 ( モデル座標系と呼ぶ ) からマーカー座標系への座標変換を行う変換行列 が必要である この変換行列 とマーカー座標系からカメラ座標系への変換行列 により 3 次元モデルの各座標をカメラ座標系の座標に変換することが可能となる モデル座標系からマーカー座標系への変換行列 は その 3 次元モデルの元となった物体上での AR マーカーの貼り付け位置に基づいて求める必要がある 例えば 図 3に示すように AR マーカーを貼り付け この物体の 3 次元モデルが図 に示すような座標系で作成されているとすると マーカー座標系とモデル座標系は図 6に示すような関係となる 図 6の場合 モデル座標系からマーカー座標系への変換は 平行移動のみで実現できる 例えば 図 6でモデル座標系での 3 次元モデルの原点 (0,0,0) が 貼り付けられている AR マーカーの中心を原点とするマーカー座標系において (x0, y0, z0) に位置するならば モデル座標系からマーカー座標系への変換行列 は (6) 式となる なお 図 3 において もし AR マーカーを箱の上面に貼り付けた場合 モデル座標系からマーカー座標系への変換行列は平行移動に加えて回転も含む変換行列となる このようにしてモデル座標系からマーカー座標系への変換行列 が分かれば (7) 式により 3 次元モデルをカメラ座標系に変換できる (7) 式は まずモデル座標系をマーカー座標系に変換し 次にそれをカメラ座標系に変換すれば モデル座標系からカメラ座標系に座標変換されることを示す すなわち AR マーカーを貼り付けた物体をカメラで撮影することにより カメラを原点とする座標系におけるその物体の位置 姿勢を得ることができる ここで,, はモデル座標系における 3 次元モデルの座標であり,, はカメラ座標系での座標である

48 北九州工業高等専門学校研究報告第 48 号 (205 年 月 ) 0 = 0 0 0 (6) 0 0 = 0 0 70 0 55 (8) 230 0 = (7) 3.5 3 次元環境中での物体の配置 これまで説明した処理により カメラを原点とするカメラ座 標系における 3 次元物体の位置 姿勢が求まめられる しかし 最終的に必要な情報は 例えば 室内でのその物体の配置のよ うな 部屋や建物といった構造物の座標系における位置 姿勢 である 構造物の座標系をワールド座標系と呼ぶことにすると このためには カメラ座標系での座標をワールド座標系での座 標に変換する変換行列 があればよい 変換行列 により (8) 式で物体の 3 次元モデルをワールド座標系の空間に配置する ことができる (8) 式で (,, ) は ワールド座標系にお ける 3 次元モデルの座標である = (7) カメラ座標系をワールド座標系に変換する変換行列は ワー ルド座標系におけるカメラの位置と姿勢より求めることができ る しかし ワールド座標系でのカメラの位置 姿勢を計測す ることは容易ではないため ここでは変換行列 によるワール ド座標系への変換は行わない 4. 実験 4. 実験 図 7 AR マーカーの検出の様子この物体をそれが図 7のように見える位置からカメラで撮影し ARToolKit により AR マーカーを検出した 図 7は AR マーカーを検出した様子も示しており 検出されたことが分かるように AR マーカー上に線を描画している ARToolKit により計測された AR マーカーの位置 姿勢を表す変換行列 は (9) 式となった これを (4) 式によってカメラの上面が +y の向きとなるような座標系に変換した後の変換行列 は (0) 式となった 結局 (8) 式と (0) 式に示す変換行列を使って (7) 式に示す座標変換を行うことにより 図 に示す物体の 3 次元モデルをカメラの位置を原点とするカメラ座標系の中に配置することができる その結果を図 8に示す 図 8の右下に表示している座標系の原点がカメラの位置である なお このカメラ座標系とは ARToolkit の座標系であるカメラ下面が +y 向きとなる座標系ではなく 図 5に示すようなカメラ上面が +y 向きとなる座標系である 図 8に示すカメラ座標系の物体の 3 次元モデルを変換行列 によってカメラ座標系からワールド座標系に座標変換すれば 物体を 3 次元環境モデル中に配置することができる しかし ここでは変換行列 を求めることが容易でないため 実験はカメラ座標系への変換までとした 図 3に示す段ボール箱を対象物体として 本提案手法によって物体の位置 姿勢を計測する実験を行った AR マーカーは 図 2に示すマーカーを使用し 図 3に示すように物体に貼り付けた 物体の 3 次元モデルとして図 に示すモデルを作成した この物体の大きさは 図 3の AR マーカーが張られている面を正面として 幅 40mm 高さ 30mm 奥行き 230mm である 物体に貼り付けた AR マーカーは縦横 00mm の正方形である 使用機材は 一般的な MS-Windows のパソコンと USB で接続した横 720 画素 縦 480 画素の解像度のカメラである 図 3に示すように AR マーカーを貼り付けたため モデル座標系からマーカー座標系に座標変換するための変換行列 は (8) 式となった 0.832 0.08 = 0.23 0.868 0.53 0.49 0.832 0.08 = 0.23 0.868 0.53 0.49 0.549.250 0.45.8 (9) 0.704 608.6 0 0.549.250 0.450 0.8 (0) 0.704 608.6 0

北九州工業高等専門学校研究報告第 48 号 (205 年 月 ) 49 軸を x 軸を中心として-90 回転させた向きとなっている 従って AR マーカーの座標系をこのモデル座標系に一致させるような座標変換は まず (-65, -650, -635) 平行移動し 次に x 軸を中心として 90 回転させるような座標変換となる この座標変換がモデル座標系からマーカー座標系への座標変換となりその変換行列 は () 式となる 図 8 カメラ座標系における物体の 3 次元モデル 0 0 0 0 0 0 0 0 0 65 0 650 635 0 0 65 635 0 650 0 図 9に示すような撮影画像から ARToolKit を使って AR マーカーの位置 姿勢を表す変換行列を求め それを図 5に示すような座標系に補正した後の変換行列 は 式 (2) となった 式 (2) の変換行列によって マーカー座標系からカメラ座標系への座標変換が行える 0.994 0.0 0.005 0.454 0. 0.885 0.046 39.8 0.89 99.0 0.452 090.8 0 2 図 9 パソコン机と AR マーカー検出の様子 式 () と式 (2) の変換行列を図 0の 3 次元モデルに順に適用することによって この 3 次元モデルを図 9を撮影したときのカメラ位置を原点とするカメラ座標系に座標変換することができる カメラ座標系に座標変換した結果を図 (a)(b) に示す 図 0 パソコン机の 3 次元モデル 4.2 実験 2 (a) 図 9に示すように パソコン机の上面手前左側に AR マーカーを貼り付け 本提案手法で位置 姿勢を計測した 図 9は このパソコン机を m 程度離れた地点で机上面より上の位置からカメラで撮影し 貼り付けた AR マーカーを検出した様子である 図 0にこのパソコン机の 3 次元モデルを示す パソコン机のサイズは 幅 800mm 高さ 650mm 奥行き 700mm である 物体に貼り付けた AR マーカーは縦横 00mm の正方形である 図 0に示すように この 3 次元モデルはパソコン机背面の左下隅を原点とする座標系となっている また AR マーカーの座標系は図 4 または図 5に示す座標系と同じである AR マーカーの中心は 図 0のモデル座標系において (65, 650, 635) に位置し AR マーカーの座標系の z 軸と y 軸は モデル座標系の z 軸と y (b) 図 カメラ座標系に変換後のパソコン机の 3 次元モデル

50 北九州工業高等専門学校研究報告第 48 号 (205 年 月 ) 5. おわりに [5] 橋本直, ARToolKit 拡張現実感プログラミング入門, アス キーメディアワークス, 200. 一般的なカメラを使って家具などの移動可能な物体の配置を含む 3 次元環境モデルを簡易に構築する一手法を提案した 提案手法では 検出対象とする物体の 3 次元モデルを予め作成しておくと共に 所定の AR マーカーを貼り付けておく また AR マーカーの貼り付け位置に基づいて 3 次元モデルの座標系から AR マーカーの座標系への変換行列を求めておく 次に AR マーカーを貼り付けた物体をカメラで撮影し 撮影した画像よりその AR マーカーの位置 姿勢を計測する これにより 撮影したカメラの座標系での物体の位置 姿勢を得る さらに カメラの座標系を建物や部屋といった構築物の座標系に座標変換する変換行列により 構築物の座標系での物体の位置 姿勢を得ることができ 物体を構築物の空間中に配置することができる 実際に箱とパソコン机に AR マーカーを貼り付けて それらの位置 姿勢を計測する実験を行い 撮影したカメラの座標系におけるそれらの物体の位置 姿勢が正しく得られることを示した しかし この実験ではカメラの位置 姿勢の計測は行っていないので カメラの座標系から構築物の座標系への座標変換は行えなかった 従って 構築物の座標系の空間にそれらの物体を配置することはできていない 撮影するカメラの位置 姿勢を計測する手段を追加し 構築物の座標系の空間内に物体を配置できるようにすることが今後の課題である また 本手法による物体の位置 姿勢の計測精度は AR マーカーの位置 姿勢の計測精度に依存するので AR マーカーの撮影画像上での見え方や大きさにより精度が大きく変わる 様々な条件で物体の位置 姿勢の計測精度を評価することも今後の課題である 本手法は 物体にその位置や姿勢が容易に分かるようなマークを付けておき そのマークを手掛かりにその物体の配置を得る方法であり 目新しい技術ではない また すべての対象物体にマークを付けておくことは容易ではないという意見もあるかもしれない しかし 小売店で販売されている商品のほとんどにバーコードが付けられていたり URL などを示すための 2 次元バーコードが普及していたりするように 機械が読み取りやすいマークを対象物に付けるという手段は非現実的なことではないと考える 例えば 赤外線や紫外線をよく反射するような人間には見えにくいがカメラでは撮影可能なマークにすれば 物体のデザインなどに影響を与えずにマークを付けることもできる (204 年 月 6 日受理 ) 参考文献 [] 柳井啓司, 一般物体認識の現状と今後, 情処論, Vol.48, No.6, pp.-24, 2007. [2] 天野, 坂口, 美濃, 池田, 再帰的分割を用いた適応格子による距離画像からの 3 次元形状モデルの生成, 信学論 D-II, Vol. J78-D-2, No.2, pp.84-848, 995. [3] 横矢, 長谷川, 倉爪, 群ロボットによる未知環境三次元地図の自動作成のための動作計画手法, 信学論 D, Vol. J93-D, No.6, pp.024-035, 200. [4] 加藤博一, 拡張現実感システム構築ツール ARToolKit の開発, 信学会パターン認識 メディア理解研究会技術研究報告 (PRMU), Vol.0, No.652, pp.79-86, 2002.