-教職センター年報H4

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課題研究の進め方 これは,10 年経験者研修講座の各教科の課題研究の研修で使っている資料をまとめたものです 課題研究の進め方 と 課題研究報告書の書き方 について, 教科を限定せずに一般的に紹介してありますので, 校内研修などにご活用ください

愛媛県学力向上5か年計画

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平成23年度全国学力・学習状況調査問題を活用した結果の分析   資料

「主体的・対話的で深い学び」の実現に向けて

資料4-4 新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について 審議のまとめ(参考資料)

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教員の専門性向上第 3 章 教員の専門性向上 第1 研修の充実 2 人材の有効活用 3 採用前からの人材養成 3章43

(2) 国語 B 算数数学 B 知識 技能等を実生活の様々な場面に活用する力や 様々な課題解決のための構想を立て実践し 評価 改善する力などに関わる主として 活用 に関する問題です (3) 児童生徒質問紙児童生徒の生活習慣や意識等に関する調査です 3 平成 20 年度全国学力 学習状況調査の結果 (

情報コーナー用

Ⅰ 評価の基本的な考え方 1 学力のとらえ方 学力については 知識や技能だけでなく 自ら学ぶ意欲や思考力 判断力 表現力などの資質や能力などを含めて基礎 基本ととらえ その基礎 基本の確実な定着を前提に 自ら学び 自ら考える力などの 生きる力 がはぐくまれているかどうかを含めて学力ととらえる必要があ

平成 年度佐賀県教育センタープロジェクト研究小 中学校校内研究の在り方研究委員会 2 研究の実際 (4) 校内研究の推進 充実のための方策の実施 実践 3 教科の枠を越えた協議を目指した授業研究会 C 中学校における実践 C 中学校は 昨年度までの付箋を用いた協議の場においては 意見を出

①H28公表資料p.1~2

平成 28 年度全国学力 学習状況調査の結果伊達市教育委員会〇平成 28 年 4 月 19 日 ( 火 ) に実施した平成 28 年度全国学力 学習状況調査の北海道における参加状況は 下記のとおりである 北海道 伊達市 ( 星の丘小 中学校を除く ) 学校数 児童生徒数 学校数 児童生徒数 小学校

学習意欲の向上 学習習慣の確立 改訂の趣旨 今回の学習指導要領改訂に当たって 基本的な考え方の一つに学習 意欲の向上 学習習慣の確立が明示された これは 教育基本法第 6 条第 2 項 あるいは学校教育法第 30 条第 2 項の条文にある 自ら進んで学習する意欲の重視にかかわる文言を受けるものである

北九州市学力向上ステップアップ事業第Ⅱ期推進指定校 実施計画

平成25~27年度間

2 生活習慣や学習環境等に関する質問紙調査 児童生徒に対する調査 学校意欲 学習方法 学習環境 生活の諸側面等に関する調査 学校に対する調査 指導方法に関する取組や人的 物的な教育条件の整備の状況等に関する調査 2

2 教科に関する調査の結果 (1) 平均正答率 % 小学校 中学校 4 年生 5 年生 6 年生 1 年生 2 年生 3 年生 国語算数 数学英語 狭山市 埼玉県 狭山市 61.4

新学習指導要領の理念と カリキュラム マネジメント 2019( 平成 31) 年 1 月 16 日 文部科学省 3 階講堂 天笠茂 ( 千葉大学特任教授 )

大明の小中一貫校としての取り組み

p.1~2◇◇Ⅰ調査の概要、Ⅱ公表について、Ⅲ_1教科に対する調査の結果_0821_2改訂

3 調査結果 1 平成 30 年度大分県学力定着状況調査 学年 小学校 5 年生 教科 国語 算数 理科 項目 知識 活用 知識 活用 知識 活用 大分県平均正答率 大分県偏差値

2 各教科の領域別結果および状況 小学校 国語 A 書くこと 伝統的言語文化と国語の特質に関する事項 の2 領域は おおむね満足できると考えられる 話すこと 聞くこと 読むこと の2 領域は 一部課題がある 国語 B 書くこと 読むこと の領域は 一定身についているがさらに伸ばしたい 短答式はおおむ

Ⅲ 目指すべき姿 特別支援教育推進の基本方針を受けて 小中学校 高等学校 特別支援学校などそれぞれの場面で 具体的な取組において目指すべき姿のイメージを示します 1 小中学校普通学級 1 小中学校普通学級の目指すべき姿 支援体制 多様な学びの場 特別支援教室の有効活用 1チームによる支援校内委員会を

持続可能な教育の質の向上をめざして ~ 教員の多忙化解消プラン に基づく取組について ~ 平成 30 年 3 月 愛知県教育委員会

各教科 道徳科 外国語活動 総合的な学習の時間並びに特別活動によって編成するものとする 各教科 道徳科 総合的な学習の時間並びに特別活動によって編成するものとする

3. 分析と結果 公表に対する配慮事項 公表に際しては 文部科学省が定めた平成 29 年度全国学力 学習状況調査実施要領に基づき 次の点に配慮して実施します 1) 本調査は 太子町の子どもたちの学力や学習状況を把握し分析することにより 全国 大阪府の状況との関係において教育及び教育施策の成果と課題を

ICTを軸にした小中連携

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基本方針1 小・中学校で、子どもたちの学力を最大限に伸ばします

平成30年度学校組織マネジメント指導者養成研修 実施要項

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1. 研究主題 学び方を身につけ, 見通しをもって意欲的に学ぶ子どもの育成 ~ 複式学級における算数科授業づくりを通して ~ 2. 主題設定の理由 本校では, 平成 22 年度から平成 24 年度までの3 年間, 生き生きと学ぶ子どもの育成 ~ 複式学級における授業づくり通して~ を研究主題に意欲的

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教育と法Ⅰ(学習指導要領と教育課程の編成)

H30全国HP

求められる整理編

「標準的な研修プログラム《

2 教科に関する調査の結果 ( 各教科での % ) (1) 小学校 国語 4 年生 5 年生 6 年生 狭山市埼玉県狭山市埼玉県狭山市埼玉県 平領均域正等答別率 話すこと 聞くこと 書くこと

(6) 調査結果の取扱いに関する配慮事項調査結果については 調査の目的を達成するため 自らの教育及び教育施策の改善 各児童生徒の全般的な学習状況の改善等につなげることが重要であることに留意し 適切に取り扱うものとする 調査結果の公表に関しては 教育委員会や学校が 保護者や地域住民に対して説明責任を果

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(1) 体育・保健体育の授業を改善するために

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2 調査結果 (1) 教科に関する調査結果 全体の平均正答率では, 小 5, 中 2の全ての教科で 全国的期待値 ( 参考値 ) ( 以下 全国値 という ) との5ポイント以上の有意差は見られなかった 基礎 基本 については,5ポイント以上の有意差は見られなかったものの, 小 5 中 2ともに,

解禁日時新聞平成 30 年 8 月 1 日朝刊テレビ ラジオ インターネット平成 30 年 7 月 31 日午後 5 時以降 報道資料 年月日 平成 30 年 7 月 31 日 ( 火 ) 担当課 学校教育課 担当者 義務教育係 垣内 宏志 富倉 勇 TEL 直通 内線 5

平成 30 年度全国学力 学習状況調査の結果について ( 速報 ) 1. 調査の概要 実施日平成 30 年 4 月 17 日 ( 火 ) 調査内容 1 教科に関する調査 ( 国語 A 国語 B 算数 数学 A 算数 数学 B 理科 (3 年に 1 回 )) A 問題 : 主として知識に関する問題 B

小学校と中学校の連携について

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の間で動いています 今年度は特に中学校の数学 A 区分 ( 知識 に関する問題 ) の平均正答率が全 国の平均正答率より 2.4 ポイント上回り 高い正答率となっています <H9 年度からの平均正答率の経年変化を表すグラフ > * 平成 22 年度は抽出調査のためデータがありません 平

造を重ねながら取り組んでいる 人は, このような自分の役割を果たして活動すること, つまり 働くこと を通して, 人や社会にかかわることになり, そのかかわり方の違いが 自分らしい生き方 となっていくものである このように, 人が, 生涯の中で様々な役割を果たす過程で, 自らの役割の価値や自分と役割

算数でも 知識 (A) 問題 活用 (B) 問題とも 全領域で全国平均を上回りました A 問題では 14 問中 12 問が全国平均を上回り うち8 問が5ポイント以上上回りました 下回った2 問は 直径と円周の長さの関係理解 と 除法で表す2 量関係の理解 でした B 問題では 10 問中 9 問が

参考資料 校区別小中連携 一貫教育スケジュール表

総合的な学習の時間とカリキュラム・マネジメント

本年度の調査結果を更に詳しく分析するため 本道の課題となっている質問紙の項目について 継続して成果を上げている福井県 秋田県 広島県と比較した結果を示しています ( 全国を 100 とした場合の全道及び他県の状況をレーダーチャートで示したもの ) 1 福井県との比較 (~P51) 継続的に成果を上げ

組織目標シート 平成 28 年度 部局 教育委員会事務局局長吉田久芳 1. 部局の使命 児童 生徒一人ひとりを大切にし 豊かな人間性と人間関係を築く力を育むとともに 自ら学び考え行動する子どもの育成を図る学校教育を推進する 市民生活が豊かで活力のあるものになるよう 市民が生涯を通して学習し学び続ける

山梨大学教職大学院専攻長 堀哲夫教授提出資料

資料3 道徳科における「主体的・対話的で深い学び」を実現する学習・指導改善について

小中連携による豊かな人権感覚と

学力向上のための取り組み

管理職等育成プログラム(完成版8月28日)

札幌市教育研究推進事業のあらまし Ⅰ. 札教研事業とは 1. 経緯 札幌市教育研究推進事業( 札教研事業 ) は 札幌市教育研究協議会 ( 昭和 25 年 5 月創設 ) いわゆる 札教研 の研究 研修活動部分を引き継ぐ形で 平成 19 年度より新たに教育委員会の事業として推進されて今日に至る 2.

教育調査 ( 教職員用 ) 1 教育計画の作成にあたって 教職員でよく話し合っていますか 度数 相対度数 (%) 累積度数累積相対度数 (%) はい どちらかといえばはい どちらかといえばいいえ いいえ 0

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新しい時代の教育や地方創生の実現に向けた学校と地域の連携・協働の在り方と今後の推進方策について(答申のポイント等)

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平成27年度公立小・中学校における教育課程の編成実施状況調査結果について

第 1 章 解説 平成 27 年度 スクールソーシャルワーカー活用事業 の概要と成果等について紹介します

北九州市学力向上ステップアップ事業第Ⅱ期推進指定校 実施計画

県立学校職員 ( 趣旨 ) 第 1 条この要綱は 地方公務員法 ( 昭和 25 年法律第 261 号 ) 第 15 条の2 第 1 項第 5 号の規定に基づき 山形県教育委員会における職員 ( 学校教育法 ( 昭和 22 年法律第 26 号 ) 第 7 条に規定する校長及び教員等 ) の標準職務遂行

2 研究の歩みから 本校では平成 4 年度より道徳教育の研究を学校経営の基盤にすえ, 継続的に研究を進めてきた しかし, 児童を取り巻く社会状況の変化や, 規範意識の低下, 生命を尊重する心情を育てる必要 性などから, 自己の生き方を見つめ, 他者との関わりを深めながらたくましく生きる児童を育てる

教育公務員特例法等の一部を改正する法律について

今年度は 創立 125 周年 です 平成 29 年度 12 月号杉並区立杉並第三小学校 杉並区高円寺南 TEL FAX 杉三小の子

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スクールソーシャルワーカー (SSW) 活用事業 趣旨 いじめ 不登校 暴力行為 児童虐待などの背景には 児童生徒が置かれた様々な環境の問題が複雑に絡み合っています そのため 1 関係機関等と連携 調整するコーディネート 2 児童生徒が置かれた環境の問題 ( 家庭 友人関係等 ) への働きかけなどを

系統的で一貫性のあ評価指標 評価指標による達成度 総合評価 るキャリア教育の推進に向けて 小 中 1 卒業後の生活につながる客観的 < 評定 > 学部段階での客観的アセスメントに基づいた指導計画 指標に基づいた卒業を立案することができる A B C 後の生活を見据えた教育活動につながる 2 立案され

44 大分県

小中一貫教育モデル校区20のQ&A

1. 調査結果の概況 (1) の児童 ( 小学校 ) の状況 < 国語 A> 今年度より, ( 公立 ) と市町村立の平均正答率は整数値で表示となりました < 国語 B> 4 国語 A 平均正答率 5 国語 B 平均正答率 ( 公立 ) 74.8 ( 公立 ) 57.5 ( 公立 ) 74 ( 公立

1 国の動向 平成 17 年 1 月に中央教育審議会答申 子どもを取り巻く環境の変化を踏まえた今後の幼児教育の在り方について が出されました この答申では 幼稚園 保育所 ( 園 ) の別なく 子どもの健やかな成長のための今後の幼児教育の在り方についての考え方がまとめられています この答申を踏まえ

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Q1: 社会に開かれた教育課程 の実現とは, どのようなことですか? A: 教育課程を編成する際には, よりよい学校教育を通してよりよい社会を創るという理念とともに, 子どもたちにどのような資質 能力を育むのかについて学校と社会が共有することが求められています さらに, 社会と連携 協働することでそ

単元構造図の簡素化とその活用 ~ 九州体育 保健体育ネットワーク研究会 2016 ファイナル in 福岡 ~ 佐賀県伊万里市立伊万里中学校教頭福井宏和 1 はじめに伊万里市立伊万里中学校は, 平成 20 年度から平成 22 年度までの3 年間, 文部科学省 国立教育政策研究所 学力の把握に関する研究

平成28年度「英語教育実施状況調査」の結果について

45 宮崎県

市中学校の状況及び体力向上策 ( 学校数 : 校 生徒数 :13,836 名 ) を とした時の数値 (T 得点 ) をレーダーチャートで表示 [ ] [ ] ハンドボール ハンドボール投げ投げ H29 市中学校 H29 m 走 m 走 表中の 網掛け 数値は 平均と同等または上回っているもの 付き

第 2 章 知 徳 体 のバランスのとれた基礎 基本の徹底 基礎 基本 の定着 教育基本法 学校教育法の改正により, 教育の目標 義務教育の目標が定められるとともに, 学力の重要な三つの要素が規定された 本県では, 基礎 基本 定着状況調査や高等学校学力調査を実施することにより, 児童生徒の学力や学

学習指導要領の領域等の平均正答率をみると 各教科のすべての領域でほぼ同じ値か わずかに低い値を示しています 国語では A 問題のすべての領域で 全国の平均正答率をわずかながら低い値を示しています このことから 基礎知識をしっかりと定着させるための日常的な学習活動が必要です 家庭学習が形式的になってい

Taro-14工業.jtd

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目 次 1 学力調査の概要 1 2 内容別調査結果の概要 (1) 内容別正答率 2 (2) 分類 区分別正答率 小学校国語 A( 知識 ) 国語 B( 活用 ) 3 小学校算数 A( 知識 ) 算数 B( 活用 ) 5 中学校国語 A( 知識 ) 国語 B( 活用 ) 7 中学校数学 A( 知識 )

【資料2】緊急提言(委員意見反映)

Taro-自立活動とは

< 先生方へ > 長崎県学力向上推進協議会では 子どもに確かな学力をつけていくためには 何 が大切か また 学力の向上を阻害している要因は何かなどについて 検討を重ね ています その中から次のようなことが指摘されました 1 家庭で毎日決まった時間に学習をする習慣をつけることが大切である 2 食事や睡

平成 29 年度全国学力 学習状況調査の結果の概要 ( 和歌山県和歌山市 ) 1 調査の概要 (1) 調査日平成 29 年 4 月 18 日 ( 火 ) (2) 調査の目的義務教育の機会均等とその水準の維持向上の観点から 全国的な児童生徒の学力や学習状況を把握 分析し 教育施策の成果と課題を検証し

ホームページ掲載資料 平成 30 年度 全国学力 学習状況調査結果 ( 上尾市立小 中学校概要 ) 平成 30 年 4 月 17 日実施 上尾市教育委員会

Transcription:

研究論文 広島県呉市における小中一貫教育の全市展開に関する考察 ~ 組織づくりに焦点を当てて ~ 広島文教女子大学人間科学部 初等教育学科教授今崎浩 1 問題の所在 平成 26 年 12 月 22 日に示された中央教育審議会答申 子供の発達や学習者の意欲 能力等に応じた柔軟かつ効果的な教育システムの構築について では, これからの時代を生きる子どもに十分な知識や技能を身に付けさせ, 十分な思考力や判断力, 表現力を磨き, 主体性をもって多様な人々と協働することができるようにするための教育の実現に向けた選択肢の一つとして, 小中一貫教育の制度化を提言している 同答申によると, 小中一貫教育に取り組む市町村 ( 特別区を含む 以下同じ ) は211, 取組の総件数は 1130 件で, 全国的に取組が広がっており, 小中一貫教育の導入は今後も増加していくと予想している 一方で, パイロット地区で先行的に実施した取組を, 市町村の全域に展開に移行させるための手順やノウハウは必ずしも共有されていないという課題も挙げている こうした状況を踏まえ, 本稿は広島県呉市が全国的に先駆けて取り組んだ研究開発学校の小中一貫教育を全市展開に移行させる過程について, そのなかでも特に組織づくりに焦点を当てて考察することにより, 今後小中一貫教育を市町村の全域に展開することを検討している市町村への示唆を得ることを目的としている 2 パイロット校での取組の概要 広島県呉市では, 平成 12(2000) 年度から文部科学省の研究開発学校制度の指定を受け, 当時の二河小学校 五番町小学校 二河中学校の3 校 ( 現呉中央小学校 呉中央中学校 ) が小中一貫教育の取組に着手している この取組は, 学習意欲の低下, 自尊感情の低下, 生徒指導上の諸問題の増加等の現代の教育課題は現在の6 3 制に起因しているのではないかという問題意識からスタートしている 取組の詳細は, 天笠茂監修 公立小中で創る一貫教育 (2005, ぎょうせい ) に記されているところであるが, 主な取組の内容としては次のようなものが挙げられる 義務教育 9 年間を前期 (4 年 ) 中期(3 年 ) 後期(2 年 ) に区分し, 国語, 算数 数学, 中期選択教科, 英会話の時間についてのカリキュラム開発と実践 生き方学習( 異学年交流を含む ) についてのカリキュラム開発と実践 小中合同行事の実践 運営指導委員会, 研究推進委員会, 合同職員協議会等の組織づくり 一部教科担任制, 小中相互乗り入れ授業の導入これらの取組は研究開発学校制度の指定が終了する平成 17(2005) 年度まで, 実践 検証 改善を繰り返しながら行われた 呉市ではその成果を踏まえ, 小中一貫教育を全市域へ展開することとしている 教職センター年報 2015 年第 3 号 9

3 教育委員会の取組 ここでは, 教育委員会がどのような取組を行ったかについて, 天笠茂監修 呉市教育委員会編著 呉市の教育改革小中一貫教育のマネジメント, 呉市教育委員会作成資料 小中一貫教育実践事例集, 小中一貫教育実践事例集 Ⅱ~Ⅷ から考察する 3.1 教育委員会のリーダーシップの必要性資料によると, 呉市では研究開発学校の成果を踏まえ, 小中一貫教育を全市域へ展開していく取組として, 平成 16 年度から平成 18 年度にかけて, 教務主任を対象とした研修会や全教職員を対象とした研修会を行っている その主な内容は次のとおりである 教育委員会が小中一貫カリキュラム試案を提案する 教務主任が中学校区の学力調査, 体力テスト等のデータに基づいて義務教育 9 年間の指導計画を作成する 教務主任が自らの中学校区の小中一貫教育の取組について, 実践交流を行う 教務主任が小中一貫教育推進のための課題を明らかにし, 今後の小中一貫教育推進計画を作成する 研究開発学校の実践, 中学校区の取組を聞く これらの取組を通して, 教務主任の小中一貫教育についての理解が進み, 主体的に取り組んでいこうとする意欲が高まっていることがアンケート調査から見てとれる 一方で, 校長は教育委員会の聴き取り調査において, 小中一貫教育を進める上での問題点として次のようなことを挙げている 校内で役割を分担し, 組織的に進める必要がある 教務主任レベルで留まっており, 全教職員の取組になりにくい 教務主任が中心となって進めているが, 報告 連絡 相談が確実にできていない 校長の方針に基づいて進めるべきである 教育委員会は聴き取り調査の結果を踏まえ, 教育委員会の取組の問題点として 校長が小中一貫教育を進める意義を十分理解するとともに, 校長を中心とした組織的な取組にしていく教育委員会の施策が必要である と述べている この事例は今後小中一貫教育を市町村の全域に展開していくにあたって大きな示唆を与えてくれていると考える 小中一貫教育とは 教育システムづくり であり, 同答申では小中一貫教育を次のように定義している 小中一貫教育 小中連携教育のうち, 小 中学校が目指す子供像を共有し,9 年間を通じた教育課程を編成し, 系統的な教育を目指す教育この定義からも分かるように, 小中一貫教育それ自体は, 目指す子ども像, 目指す学校像といった教育目標や9 年間を通してどのような教育内容を編成し, 取り組んでいくかについては示されていない つまり, 環境教育ならば環境と社会, 経済及び文化とのつながりその他環境の保全についての理解を深めるために行われる環境の保全に関する教育, 情報教育ならば自ら考え, 主体的に判断 表現 行動するなど児童生徒が主体的に学ぶための情報活用能力を育成する教育というように教育内容がはっきりしている教育活動とは全く異なるものである したがって, 小中一貫教育を導入するにあたっては, 図 1のように中身づくり ( ソフト面 ) と組織づくり ( ハード面 ) の両面からの取組が必要になってくる そして, このことを市町村, 実際には直接学校の指導に当たる市町村教育委員会がよく理解し, リーダーシップを発揮していく必要がある 10 教職センター年報 2015 年第 3 号

呉市の場合, 教務主任を中心に義務教育 9 年間の指導計画作成といった中身づくり ( ソフト面 ) から取組を進め, 組織づくり ( ハード面 ) の取組が十分に進んでいなかったことが小中一貫教育を全市域へ展開する際のスタート時点での問題点となったと言えよう このことについて, 高橋 (2014) は 教育委員会事務局の脆弱な推進体制の下で, 小中一貫教育に取り組もうとすれば, 結局は教職員のみが過大な負担に苦しみ, その被害は最も大切な児童生徒に及ぶことになるだろう, 教職員のみで調査 研究, 企画立案, 実施のすべてを担うことなど不可能であり, 学校の設置者たる市町村教育委員会からの強力な支援が不可欠である と述べており, スタート時点での教育委員会の強力なリーダーシップは不可欠であると言えよう 3.2 運営指導委員会 ( 仮称 ) の設置ここで言う運営指導委員会 ( 仮称 ) とは, 小中一貫教育を市町村の全域に展開する際に教育委員会の基本的な方針図 1 小中一貫教育イメージや計画等を検討する組織のことをさす 呉市では3.1で述べた問題点を踏まえ, 平成 18 年に教育長の小中一貫教育推進に関わる諮問に対して意見を述べる組織として 小中一貫教育推進専門委員会 を立ち上げ, 基本的な方針や計画等の検討を行っている 検討の過程を追ってみると, まず教育委員会から次の3つの方針が示されている 学習指導要領に基づいて教育課程を編成する 4 3 2 区分 を重視した指導を行う 全中学校区で実施する 同委員会では, これらの方針に沿って組織面, 教育内容面, 指導方法等から検討を行っている 資料によると 最も議論が重ねられた ことは 中学校区の校長が自らの中学校区の課題を共有し, 共通の目標 ( 育てたい児童生徒像等 ) の設定 であり, この議論によって, 呉市で行う小中一貫教育を 共通の目標 ( 育てたい児童生徒像等 ), 指導内容及び指導方法等が義務教育 9 年間を貫いて設定され, 実施される教育 と定義され, 呉市が目指す小中一貫教育が明らかになっている そして, 教育委員会が小中一貫教育を 全中学校区で実施することの重要な支え となっている 同委員会はその後も検討を重ね, 教育長にガイドライン 小中一貫教育を進めるために を答申している その概要は次のとおりである はじめに ~ 小中一貫教育のねらい~ 1 小中一貫教育の定義 2 小中一貫教育推進の方針 3 小中一貫教育推進に係る実施内容 ⑴ 組織について ⑵ 教育内容等について ⑶ 指導方法等について ⑷ その他 4 小中一貫教育推進に係る実施期限 教職センター年報 2015 年第 3 号 11

そして, 教育委員会は同答申を受け, 全市域への展開を再スタートしている 多くの市町村において小中一貫教育の取組が進められているが, その捉え方は曖昧で 依然として施設一体型の学校を新設して行う取り組みが小中一貫教育であり, 施設分離型で進める取り組みは連携教育であるという 誤解 も存在する また, 連携教育とは一貫教育の第一段階という捉え方もある さらに, 一貫教育は6 3 制の改革を指向するものであり, 連携教育は6 3 制の枠内での取り組みであるという捉え方もある ( 西川,2011) といった状況である こうした状況の中で, 教育委員会, 校長, 教頭, 事務長等の教職員, 大学教員等の学識経験者, 地域関係者が小中一貫教育の目標や計画, 教育課程編成の基本方針等を検討していく運営指導委員会 ( 仮称 ) のような組織を設置し, 明確の方針を決定するとともに, それを学校, 保護者, 地域等に対して周知していく取組は, 呉市の事例からも極めて重要であることが分かる 3.3 教育委員会内組織の改編呉市では, 小中一貫教育の全市域への展開を進めるために,1 係の指導主事が事務分担の一つとして行っていた業務について見直しを行っている 平成 17 年度は小中一貫教育の推進を担当する指導主事 1 名, さらに平成 18 年度からは, 研究開発学校での校長経験者を小中一貫教育アドバイザー 1 名配置している その主な業務は小中一貫教育の推進に関わって, 各学校の管理職等への指導 助言を行うことである 平成 20 年度からは図 2のように教育委員会内の組織を改編している 図 2 教育委員会内の組織改編 このような新たな人員の配置, 組織改編の意図について, 教育委員会は次の4 点を挙げている 呉市における小中一貫教育は義務教育を充実させるための手段であり, 学校統合とは別物であることを組織上からも明確にする 指導主事が義務教育 9 年間を見据え, 小中一貫教育の視点から指導 助言を行う 指導主事が担当中学校区を持ち, その中学校区の管理職等と連携しながら, 推進計画の立案 実施 検証 改善についての指導 助言を行う 小中一貫教育アドバイザーが各学校の校長に対して, 中学校区の経営という視点から指導 助言を行うとともに, 各校長のサポートを行う さらに, 平成 20 年には呉市立小中学校の管理及び学校教育法の実施に関する規則に 校長は, 義務教育の9 年間で一貫した教育を推進し, 法に掲げる義務教育の目標の達成に努めなければならない という条文を加え, 校長が小中一貫教育を進める際の法的根拠を定めている 12 教職センター年報 2015 年第 3 号

3.4 校長への支援小中一貫教育を全市域に展開していくためには, 各校長には 学校をまとめる という視点から 中学校区をまとめる という視点へ転換してことが求められるようになるとともに, 中学校区をまとめる ための組織を構想し, 指導していく力が必要になってくると言える 教育委員会としては, 各校長に対して小中一貫教育の意義の理解を図るための研修会や既に小中一貫教育を実施している地域の事例を学ぶための研修会の実施, 中学校区の組織づくりを支援する体制を整備することが必要になってくると考える 4 各中学校区の取組 前述のガイドライン 小中一貫教育を進めるために には, 組織づくりに関わって次の5つの内容を示している 1 中学校区共通の経営理念等の設定 2 教育推進組織の設置 3 中学校区年間行事等計画の作成及び実施 4 中学校区週時程表の作成及び実施 5 小中一貫教育コーディネーターの指名図 3は 小中一貫教育実践事例集 の中で各中学校区が組織づくりに関わって何を課題としているのか, 叉は今後取り組んでいかなくてはならないとしていることは何かをまとめたものである 中学校区 数 12 10 8 6 4 2 0 図 3 中学校区の課題 ( 今後取り組んでいかなくてはならないこと ) これを見ると, 教育推進組織の設置について最も課題としていることが分かる 具体的には次のように記述されている 運営組織及び研究組織の機能が不十分であった これまでの取組は, 教務主任をはじめ一部の教職員が進めてきたが, 今後は全教職員の取組としていかなくてはならない 教職センター年報 2015 年第 3 号 13

これらの課題を挙げている中学校区の組織を見る 小中一貫連絡協議会小中校長会校長校長小中一貫教育推進委員会 と, 図 4のような組織となってい A 小学校 A 中学校 B 小学校 教頭教務主任 教頭教務主任 る いずれも従前企画委員会企画委員会企画委員会職員会職員会職員会の各学校の組織を 各主任 各主任 小中一貫教育に係る教育推進組織で 分掌 学年部 分掌 学年部 束ねるという組織 A 中学校区 B 中学校区 となっている 図 4 A B 中学校区の組織 こうした組織では, 課題にも挙げられているように各学校の管理職, 各主任の連携を図ることはでき るが, 小中一貫教育において, 最も重要な教職員が中学校共通の経営理念について共通理解を図った り, 児童生徒像や日々の実践を交流したりする場が設けられていないため, 小中一貫教育が全教職員 の取組とならないことが考えられる また,B 中学校区のように管理職や各主任によって教育推進組織が構成された組織では構成員の役 割が曖昧になったり, 活動時間の確保が難しかったりするといった課題も生じてくることが考えられ る したがって, 小中一貫教育を各中学校で推進していくためには, 各学校の組織 C 中学校 A 小学校 B 小学校 をどうするかという発想からの組織づく調査評価部会小中連携推進委員会りではなく, 中学校区の児童生徒の課題 ( 主幹教諭 ) ( 教務 研究 生徒指導主任 ) 教頭会 を踏まえて設定された育てたい児童生徒 全体研修会 像の実現に向けて組織をどうするかという発想からの組織づくりを進めていく必要がある 組織づくりはその中学校区の 教務部 研究部 生徒指導部 総諸条件によって, 柔軟に進めていくべきカ不合リ特登的であるが, 今後組織づくりを進めていくキ交道別校な対ュ流徳支学策際に参考になると思われるのが図 5のC ラ活習教援進ム動の育教路中学校区の組織である 参考にしたい点作時指成育導を具体的に挙げると次のとおりである 間 1 管理職が意識決定を行う会議 部門 図 5 C 中学校区の組織 が置かれている 2 小中連携推進委員会のようにミドルリーダーが中学校区の小中一貫教育推進に係る計画立案, 調 整等を行う会議 部門が置かれている ( この中に小中一貫教育コーディネーターが加わることが 望ましい ) 3 全体研修会のように教職員全員が研修や交流をする等, 創造的な活動が期待される会議 部門が 置かれている 4 研究部, 生徒指導部のように教職員全員がいずれかの部会に所属し, 中学校区の重点的な取組に ついて少人数で交流をする等, 創造的な活動が期待される会議 部門が置かれている しかし, こうした組織が実際に機能していくためには, 中学校区からの課題でも挙がっているとお り, 各組織が活動するための時間をいかに確保していくかということが課題となるであろう このこ とについて, ガイドライン 小中一貫教育を進めるために では, 小中一貫教育に係る中学校区の研 修会や行事等を各学校の研修会や行事等よりも先に位置付けるような工夫が必要であることを述べて 14 教職センター年報 2015 年第 3 号

いる そのほか 小中一貫教育実践事例集 の中に挙げられている各中学校区が組織づくりに関わっての課題や今後の見通しのうち, 小中一貫教育を市町村の全域に展開する際に留意する必要があると思われる事項を挙げておく 中学校区共通の課題を整理し, 取組の重点を決める 中学校区共通の研究主題を設定し, 研究を進めていく 学校評価において共通の評価項目を設ける 5 まとめ 呉市の取組から, 小中一貫教育を進めていくということは, 校長をはじめとする教職員, 教育委員会等の教育関係者が, 教育の在り方について 各学校単位 ではなく 各中学校区単位 で考えていくという意識改革が求められているということが見えてきた 小中一貫教育は中身づくりと組織づくりの両面からの取組が必要となってくる これまで教員はよい授業, または授業を通しての児童生徒の変容を追い求めて日々実践を積み重ねてきたことを考えると, 小中一貫教育の取組が組織づくりばかりに重点が置かれると教員の意欲は減退し, 小中一貫教育の充実も望めなくなると考える したがって, 先行事例を参考としながら組織づくりを進め, 小中一貫教育の取組をできるだけ早く中身づくりにシフトしていくことが望ましいと考える 引用 参考文献 天笠茂監修, 呉市教育委員会編著 (2011), 呉市の教育改革小中一貫教育のマネジメント, ぎょうせい. 天 笠茂監修, 五番町小学校 二河小学校 二河中学校編著 (2005), 公立小学校で創る一貫教育 4 3 2のカリキュラムが拓く新しい学び, ぎょうせい. 高橋興(2014), 小中一貫教育の新たな展開, ぎょうせい,p.207. 西川信廣, 牛瀧文宏 (2011), 小中一貫( 連携 ) 教育の理論と方法, ナカニシヤ出版 p.5. 呉市教育委員会作成資料 小中一貫教育実践事例集 小中一貫教育実践事例集 Ⅱ~Ⅷ 教職センター年報 2015 年第 3 号 15