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目 次 第 1 章独立企業原則... 7 A 序... 7 B 独立企業原則に関する記述... 8 B.1 OECD モデル租税条約第 9 条... 8 B.2 国際的合意としての独立企業原則の維持 C 独立企業原則によらないアプローチ : 全世界的定式配分 C.1 背景及び

Transcription:

前回(第3回)は 3417(平成28 年7月18 日号)に掲載いたしました 22 転載禁止 : 株式会社税務研究会の許可を得て掲載しています Q1 行動 8( 無形資産取引に係る移転価格ルール ) において, 評価困難な無形資産 という新たな概念が示されたと聞いています 通常の無形資産と区別された背景やその内容について, 実務上のポイントと併せて教えてください 行動 8( 無形資産取引に係る移転価格ルール ) は, 企業の収益の源泉として無形資産の重徴課税の対象になることとなります 要性が認識されていく中で, 優遇税制のある国や低税率国に無形資産及びそこから生じる所得 を移転する, 巧妙な課税逃れが横行したことを とが可能となり, その結果, 納税者としては追 例えば,10 億円で譲渡された無形資産につい て,5 年間経過した後の財務実績に基づいてそ の無形資産に帰属する所得を再計算した際に, 受けて策定されました その無形資産を譲り受けた法人が結果的に当該 評価困難な無形資産 (Hard-To-Value 無形資産から100 億円の所得を得ていたような Intangibles 以下, HTVI ) は, そのよう場合には, 税務当局はその無形資産を譲渡したな行動 8の取組みの過程で,OECD 移転価格法人に対し, 本来 10 億円ではなく100 億円の譲ガイドラインの改訂案 ( 以下, 改訂案 ) の第渡対価を得るべきであったとして,90 億円分の 6 章に盛り込まれた概念です 事前に評価する譲渡対価, ひいては所得の増額調整を求めるこことが難しい HTVI に係る取引について, 一ととなります 定の条件の下, 所得相応性基準 の適用, す 所得相応性基準 は, 巧妙化する納税者のなわち, 税務当局が取引後の財務実績に基づき課税逃れに対抗する課税手段として期待されて事後的に取引対価を調整する仕組みの適用を許いますが, 一方で, 納税者の予測可能性を損ね容する指針が示されています ることにもなりかねません このため OECD 簡単にいうと, 取引時点において決定 合意では,BEPS プロジェクト最終報告書の公表後された無形資産の譲渡価格が, 取引後の収益実も議論を継続しており,2016 年中に実施パッ績と見比べたときに高すぎる又は低すぎると判ケージを策定する予定です 断された場合等, 一定の要件に該当するときに < HTVI の概要 > は, 税務当局は 所得相応性基準 を適用する改訂案において,HTVI は, 無形資産又はことによって, 取引時点で設定された取引の対無形資産に対する権利であり, それらが関連者価について事後的に納税者に見直しを求めるこ間で移転される時点において,1 信頼性の高い

平成 28 年 9 月 5 日週刊税務通信 ( 第三種郵便物認可 ) No. 3423 比較対象取引が存在せず, かつ,2 移転される無形資産から生じることが見込まれる将来のキャッシュフロー若しくは所得, 又は当該無形資産の評価において用いられる仮定が極めて不確実であるために, その移転時において無形資産から得られる最終的な成果のレベル (the level of ultimate success) の予測が困難であるもの と定義され 1, 例えば次のような特徴を有する無形資産であるとされています 2 1 移転の時点において部分的にしか開発されていない無形資産 2 取引後の数年間, 商業的に利用されることが見込まれない無形資産 3 それ自体は HTVI の定義に当てはまるものではないが,HTVI の定義を満たす他の無形資産の開発や改良に不可欠である無形資産 4 移転の時点で前例のない方法で利用されることが予想されており, 同様の無形資産の開発や改良の実績がないことから, 予測が極めて困難な無形資産 5 HTVI の定義を満たし, 一括払いで関連者に移転される無形資産 6 費用分担取極め (Cost Contribution Arrangement 以下, CCA ) 若しくは類似の契約に関連して使用され, 又はこれらの契約に基づいて開発された無形資産このように,HTVI の特徴は広範に捉えられています また,HTVI に係る取引については, 所得相応性基準 の適用が検討されることとなりま すが, 改訂案では, 以下の除外規定を一つでも満たせば, その適用が免除されるとしています 3 1 納税者が次の情報を提供 HTVI の移転時に移転価格の算定に用いた事前予測に関する詳細 ( 価格算定時のリスク評価, 合理的に予測可能な事象 リスクの検討やそれらの発生確率が見積もられているか等 ), 及び 事前予測と実績との著しいかい離について, HTVI の取引時には予測不能であった, 価格設定後に生じた展開 事象によるものであること, 又は そのかい離が取引時において予見された結果の発生確率の見積もりに起因するもので, その発生確率が著しく過大 過小に評価されていなかったことを示す, 信頼性の高い証拠資料 2 HTVI の移転が二国間又は多国間事前確認の対象である 3 事前予測と実績との著しいかい離によって, 取引時に設定された対価に20% 超の影響を与えない ( すなわち HTVI の取引時の対価を20% 超増加 減少させない ) 4 HTVI の譲受人となった法人において,5 年間の使用期間にわたって非関連者からの収入が発生しており, 当該期間における予測と実績のかい離が20% 以下である 1 改訂案パラグラフ 6.189 2 改訂案パラグラフ 6.190 3 改訂案パラグラフ 6.193 23

< 我が国の実務への影響 > 行動 8は,OECD 移転価格ガイドラインの基準の見直しと位置づけられており, 行動 13 ( 移転価格関連の文書化に関するルール ) のようにミニマムスタンダードを勧告するものではありません しかし, これまで米国やドイツにおける導入に留まっていた 所得相応性基準 は, 今般の改訂案に盛り込まれたことにより, 既存の国際課税スタンダードの見直し事項として広く認知されていくことが想定されます とはいえ, 取引後の結果に基づいて対価の修正を求める 所得相応性基準 については, その後知恵的性格からくる独立企業原則との不整合に対する疑念がそもそもありました 今後, 実施パッケージの中でどのように織り込まれていくかについては注目されるポイントの一つです なお, 現行の移転価格事務運営要領 1-2⑶ は, 調査又は事前確認審査に当たっては, 必要に応じ OECD 移転価格ガイドラインを参考にし, 適切な執行に努める としていることから, 一般的に,OECD の考え方は我が国の税務執行において尊重されることとなります 他方, 所得相応性基準 の導入に当たっては法令上の手当てが必要と解され, この際には, 本年中の策定が予定されている実施パッケージも参酌しながら, 導入の是非や適用除外基準などの詳細をも含め, 検討が行われることが想定されます 仮に, 我が国でも 所得相応性基準 が導入された場合, 税務当局は新たな課税手段を得ることとなります 同基準を既に導入している米国やドイツでは 所得相応性基準 が適用された課税事案がほぼ発生していないという情報もありますが, そうはいっても, 企業が法令を遵守していることを説明できるように予め準備しておき, 追徴課税のリスクを低減しておくことが望ましいと考えられます したがって, 今後の HTVI が絡む取引に当たっては, その構築に関与した各社 各部門の機能 リスク分析, 将来予測の妥当性を含め, 対価の算定根拠について十分に検討を行うとともに, その内容を文書化しておくことが不可欠となります また, そのような多角的な検討のプロセスにあっては, もはや税務部門の観点のみならず, 知財部門などをも巻き込みながら, 多国籍企業グループとしてのポジションを事前に明確にしておく必要が出てくるものと考えられます Q2 行動 8では CCA についても新たなガイダンスが示されているとのことですが, そもそも CCA とはどのようなものでしょうか これまでの考え方と異なる部分や実務上の活用余地などと併せて教えてください CCA(Cost Contribution Arrangement) は, 日本語で 費用分担取極め と訳されるものです 具体的には, 無形資産, 有形資産又はサービス の共同開発, 生産や取得に関する貢献や リスクを参加者が分担するための, 企業間における契約上の取極めであり, そのような 無形資産, 有形資産又はサービス が, 各参加者の事業に係る便益を生み出すと期待されるものを言います 4 共通の目的を持つ CCA 参加者は, 4 改訂案パラグラフ 8.3 24

平成 28 年 9 月 5 日週刊税務通信 ( 第三種郵便物認可 ) No. 3423 その活動に係る費用を分担するとともに, その成果として生じた収入や利益について, 各々の貢献や負担したリスクに応じた分配を受けることができます 例えば,CCA の対象となる開発活動に係る費用としてA 社が8 億円,B 社が2 億円それぞれ負担 (2 社合計で10 億円負担 ) していたとします 大まかに言えば, このときA 社,B 社が CCA に対して同等の貢献を果たし, 将来的に CCA から各々 25 億円の利益を得ることを期待するならば,A 社とB 社はそれぞれ5 億円ずつの費用を負担 (2 社合計の負担額 10 億円に変わりはないが,2 社が期待する便益に基づき各社に費用を分担 ) することとなります そして CCA から実際に得られた利益が80 億円となった場合には,A 社とB 社は, 各社の貢献 負担したリスク ( 費用 ) に応じて40 億円ずつその利益を分け合うことになります CCA は, 独立企業間でも共同開発などを実施する際に見られる契約形態の一つですが, 欧米系の多国籍企業を中心に, グループ企業間でも無形資産の開発に当たって CCA を締結するケースが見られます グループ企業間の CCA は移転価格税制の対象となりますが,CCA に対する貢献やそこから得られる便益が適切に評価されなければ, 実際に価値が創造された場所から他の場所に利益が移転されてしまうことになります このため, 今般, 行動 8の文脈で,CCA を利用した無形資産の移転による BEPS を防止するための新ガイダンスが定められました これにより, 実態のないグループ企業を CCA の参加者にしたり,CCA 参加者の貢献や無形資産の評価を歪めるなどして所得を意図的 に低税率国等に移転したりするような行為に対し, 一定の歯止めがかけられることになります その一方で,CCA に関する取扱いがより明確になり,CCA の検討がしやすくなったと見ることもできます < 新ガイダンスの概要 > CCA に関する新ガイダンスは,OECD 移転価格ガイドライン第 8 章の改訂を勧告するものとして定められています 同章では,CCA の各参加者の貢献と予測便益 5 が整合的であることや, 全ての CCA 参加者が CCA から得られる便益を享受することについて合理的な期待を有していることを求めていますが, このような CCA に関する基本的な考え方は改訂前と変わっていません また, 新ガイダンスは, あくまで CCA に関する 補助的な指針, あるいは CCA に関する取引条件が独立企業原則を満たすものになっているかどうかを決定するための 一般的な指針 を示すものとされています 従って, CCA については, 例えば,OECD 移転価格ガイドラインの第 1 章 D 節 ( 契約, リスク ) や第 5 章 ( 文書化 ), 第 6 章 ( 無形資産 ), 第 7 章 ( グループ内役務提供 ) など, 他のあらゆる章が適用されることとなります このような第 8 章の位置付けは改訂前後で変わらないものの, 今般 OECD 移転価格ガイドライン自体が一部改訂されていますので, 今後は CCA についても, 改訂後の考え方に基づいて検討していくこととなります 具体的な税務執行については, 当然, 各国における法令等の整備を待つことになりますが, 実務上特に影響があると考えられる第 8 章の変更点としては以下の内容が挙げられます 5 CCA への参加によって得ることができると合理的に期待される便益 25

項目内容改訂前から求められていた, CCA 活動の目的となるものから利益を得るであろうという合理的な期待を有している という要件の他,CCA 参加者に CCA 参加者はその取極めに付随するリスクをコントロールし, かつ, そのようなリスクを引き受ける財務能力を有することが新たに求められる 6 無形資産又は有形資産を共同開発, 生産又は獲得するための CCA 7 につい貢献の価値の測定ては, 基本的に各参加者の貢献の価値を費用で測定することは不適切であるとされている 8 CCA から得られる予測便益 予測便益に関するガイダンスとして, 独立した項目が新設されている 9 ガイダンスには,CCA の対象となる無形資産についても HTVI に関するガイダンスが適用されることや, 予測便益との整合性が求められる貢献については CCA の中で定期的に再評価が行われるべきであるといった内容が含まれている < 今後の CCA の活用について> これまで, 多くの日系多国籍企業は, 日本で集中的に研究開発活動を行い, 海外からロイヤルティを徴収して研究開発活動の費用ないしはその成果に対する対価を得てきましたが, 常に適切な額を回収できていたわけではありません 一方,CCA を導入した場合には, 各参加者が共同で無形資産等を開発し, 当該無形資産等をいわば経済的に共有することとなります このため, 参加者間で研究開発等に要した費用を分担することができ, 参加者間でロイヤルティ取引が発生しないといったメリットがあります さらに, 地域本社体制を採っているような場合には, 地域本社を CCA の参加者とすることで, 域内の損益 管理責任の明確化や, 意思 決定の迅速化につなげることも検討できるかもしれません 我が国における CCA の導入事例は限られていましたが, 日系多国籍企業による海外企業や海外企業が有する知的財産の買収等も増え, 企業活動や知財の開発 管理戦略のグローバル化が進む中で,CCA は我が国の企業にとっても, 実務上の有効な枠組みになる場面が増えてきていると考えられます また, 上記の通り, CCA に関する新たなガイダンスは,BEPS 対応の流れを受けて一部厳格化されている反面, 従来よりも CCA の取扱いを明確化することで安定性を増したと見ることもできます このように考えると,CCA の導入を検討する価値は, 我が国においてもこれまで以上に大きくなるものと考えられます 6 改訂案第 8 章 C.2. 7 CCA は,1 無形資産又は有形資産を共同開発, 生産又は獲得するための CCA と2サービスを獲得するための CCA に大別されており, 後者については, 一定の場合, 貢献の価値を費用で評価することが可能とされている 8 改訂案パラグラフ8.28 9 改訂案第 8 章 C.3. 26