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8 一般的に天然ガスの主成分はメタンであるが, メタンはエタン プロパンなど他の炭化水素成分に比べ燃焼速度が遅く燃焼性が悪い. このため燃料中のメタン濃度が変化すると燃焼性が変化し, 図 2, 図 3のとおり燃焼振動レベルが上昇する傾向にある. 今回この天然ガスカロリー変動に対応した技術, また多種多様燃料の代表として DME 燃料及び燃料組成変化に対応した燃焼器について紹介する. 図 2 メタン濃度に対する燃焼振動レベルの変化 ( 高サイクル周波数 ) 図 3 メタン濃度に対する燃焼振動レベルの変化 ( 超高サイクル周波数 ) 2. 天然ガス焚き低 NOx 燃焼器 2.1 天然ガスの燃料組成の影響予混合燃焼は拡散燃焼に比べ火炎温度を低減できるため, 水 蒸気の噴霧なしで NOx の低減が可能であり, 現在ガスタービンに広く適用されている技術である. 図 4に天然ガス焚き予混合燃焼器を示す. 各燃焼器にはそれぞれ 1 本のパイロットノズルと8 本のメインノズルがあり, パイロットノズルにて形成される拡散火炎にてメイン予混合火炎の安定化を図っている. 尾筒には空気バイパス弁 (BV) を取り付けており, 燃焼用空気の一部を尾筒へバイパスすることにより燃焼領域の燃空比が調整可能な構造となっている. 図 5にガスタービン運転中の空気バイパス弁の動作スケジュールを示す. 燃料量の少ない着火時 無負荷時には空気バイパス弁を開けることにより燃焼領域の燃空比を上昇させ, 負荷上昇とともに空気バイパス弁を閉める運用としている. またメタン濃度により適正な設定に調整している. 燃料系統は図 6のとおりメイン系統とパイロット系統の2 系統から構成されており, 図 7に示すような配分で運用を行っている. パイロット比率 ( パイロット燃料流量 / 全体燃料流量 ) は着火時に最も多く, 負荷上昇と共に低下させ, 定格負荷ではパイロット比率を最も低くし NOx の排出量を抑えている. 燃料中のメタン濃度が変化した場合前述のとおり燃焼性が変化するため, これら空気バイパス弁及びパイロット比率を変化させ, 安定な燃焼状態に調整することが必要となる. また,IGV ではガスタービンに流入する空気量の調整を行っている. 図 4 予混合燃焼器 図 5 IGV 及び空気バイパス弁の動作スケジュール 図 6 ガスタービン制御 図 7 パイロット燃料とメイン燃料の配分

2.2 自動燃焼調整装置による燃焼振動抑制燃焼振動に対する機器保護として CPFM(Combustion Pressure Fluctuation Monitoring) を開発し, 燃焼振動に対する機器保護を行っている. この CPFM は燃焼器に取り付けたセンサにより燃焼振動を常時監視し, 燃焼振動発生時に負荷降下もしくは非常停止などの処置を行うことにより機器の損傷を避けるシステムである. さらに燃焼振動発生時の負荷降下もしくはトリップによる負荷変動を最小限に抑えるため, 自動的に運転パラメータを調整し, 燃焼振動の発生を抑えるA-CPFM(Advanced Combustion Pressure Fluctuation Monitoring) を開発した. この A-CPFM は燃焼振動がアラーム値までに達する前に自動的に空気バイパス弁とパイロット比率を調整し, 常に安定燃焼で運転するように調整するシステムである ( 図 8). この A-CPFM では, 燃料ガスカロリー範囲ごとにデータベースを蓄積し, 燃料性状が変化した場合にこれらのデータベースを切り替えることで, 燃料組成変動に追従することが可能となっている. 9 図 8 A-CPFM のシステム構成 2.3 構造的な改良による燃焼振動抑制燃料カロリー変動に関しては前述の運転パラメータ調整による対応のほかに, 構造的な改良による対応も行っている. この改良としては主として以下の2 点がある ( 図 9). 音響ライナーの採用により 500Hz~5,000Hz の燃焼振動を抑制 ( 図 9 左上参照 ). 保炎器の改良により循環流温度を上昇させ保炎性を改善 ( 図 9 右上参照 ). 図 9 構造的な改良による燃焼振動抑制

10 3. 多種燃料に対応する燃焼技術 3.1 DME 燃料に対応した燃焼器石油に代わる代替燃料の 1 つとして DME が注目されている.DME は芳香族を含まず硫黄分がほとんど無いためクリーンな燃料であり, 種々の炭化水素資源から合成が可能という特徴をもつ. 表 1に DME の燃料組成及び特性値を示す.DME をガスタービン燃料として使用する場合, 気体もしくは液体の状態で燃焼器に供給する. 特徴としては主に以下の2 点が挙げられる. 気体状態では天然ガスに比べ燃焼速度が速く, フラッシュバックが発生する懸念がある. 液体状態では飽和蒸気圧が低いため, ベーパーロックを起こす懸念がある. なお液燃時は拡散燃焼方式を, 気化燃時は予混合燃焼方式を採用している. 表 1 DME 燃料の特性値 DME(CH 3 OCH 3 ) プロパン (C 3 H 8 ) メタン (CH 4 ) 軽油 沸点 ( ) -25-42 -162 200~350 液密度 (kg/m 3 ) 667 501 831 燃料カロリー (LHV) ( 液体 )(kcal/kg) 6,870 11,050 11,940 10,220 燃料カロリー (LHV) ( 気体 )(kcal/m 3 ) 14,143 21,812 8,600 - 燃焼速度 (cm/s) 50 43 37 - 液体粘性係数 (10-3 kg/ms) 0.15 0.15-2~4 3.2 低カロリーガス燃料低カロリーガスの代表として製鉄所から発生する高炉ガス (BFG:Blast Furnace Gas), コークス炉ガス (COG:Cokes Oven Gas), 転炉ガス (LDG:Linz-Donawitz converter Gas) と呼ばれる副生ガスがある. ガスタービンの高温燃焼技術の革新によるコンバインドサイクルプラントの高効率化に伴い, これらの製鉄所副生ガスを利用したコンバインドサイクルプラントを多数納入しており, 燃料の多様化に有効である ( 図 10). 図 10 燃料ガスの実績 3.3 低カロリーガス燃料に対応した燃焼器低カロリーガスは発熱量が低く燃焼性が悪いため, 天然ガスと同構造の燃焼器では安定燃焼が困難である. 図 11に示す低カロリーガスの特徴として主に1~4の特徴があり, それぞれに対応した技術の適用を行っている. 図 11 低カロリー焚きの燃焼器技術図説明

1 燃焼範囲が狭い低カロリーガスは燃焼安定範囲が狭いために, 天然ガスと同じ燃焼器では火炎喪失が起こり, エネルギーの安定供給ができない. したがって, 燃焼領域での燃料と空気の割合 ( 燃空比 ) を適正化することが必要となる. 当社ではこれを解決するため, 図 12に示すように尾筒に空気バイパス弁機構を適用し, 燃焼領域である内筒内の燃空比を適正化している. 図 13に示すとおりバイパス弁機構無しの場合では, 燃焼領域の燃空比が低い低負荷時に燃焼効率が低下し, 燃焼性が悪化する. これに対してバイパス弁機構有りの場合では, 低負荷時に燃焼器バイパス弁を開方向に設定し, 燃焼領域である内筒内の燃空比を調整することにより, 燃焼効率の改善が可能となる. 11 図 12 マルチキャン型 BFG 燃焼器 図 13 空気バイパス弁開度と燃焼, 効率 2 燃焼速度が遅い低カロリーガスは燃焼速度が遅いため, 天然ガスと同じ燃焼器では燃焼不安定もしくは燃焼器内での燃焼未完了の状態 ( 滞留時間が不足 ) が懸念される. このため内筒空気流速を低下させて火炎の安定, 滞留時間の確保を行う必要がある. 低カロリーガス焚き内筒では内筒空気流速を低下させる方法として, 図 14のとおり内筒の内径拡大を行っている. 図 14 燃焼器内筒形状 3 多量の燃焼空気を必要とする. 低カロリーガス焚きでは天然ガス焚きに比べ燃料量が多くなるため, 空気流量が少なくなる ( 図 15). このため冷却空気量を最小限とする必要があり, 冷却構造については図 16に示すような通常燃料と同様に高効率の冷却構造を適用している.

4 多量の燃料流量を必要とする. 低カロリーガスは燃料カロリーが低いことから, 通常の天然ガスの約 10 倍もの燃料流量が必要となる. このため, 天然ガスのような単孔式のノズルではノズル部の圧力損失が大きくなりすぎるため, 図 17のようなスワラー式のノズルを適用し, ノズル圧損の低減を図っている. 12 図 15 空気配分 図 17 低カロリー用燃焼器ノズル 4. まとめ 燃料ガス熱量変動及び多種燃料に対応する燃焼技術として, ガスタービンコンバインドサイクルプラント向けの燃焼器を紹介した. 今後もエネルギー資源の有効活用及び環境負荷低減のニーズに応えるべく, より一層の技術開発に努める所存である. 執筆者紹介 田中克則高砂製作所ガスタービン技術部次長 西田幸一高砂製作所ガスタービン技術部ガスタービン燃焼器グループグループ長 秋月渉高砂製作所ガスタービン技術部ガスタービン燃焼器グループ