提供 : サノフィ株式会社 座談会 心血管二次予防における LDL コレステロール管理 : Treat to Target vs. Fire and Forget 出席者 座長 木村一雄先生 伊苅裕二先生 横浜市立大学付属市民総合医療センター心臓血管センター教授 東海大学医学部内科学系循環器内科教授

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「長寿のためのコレステロール ガイドライン2010 年版」に対する声明

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座談会 Round Table Discussion 末梢動脈疾患におけるこれからの脂質低下療法を考える PAD に対しては, 脚の病変部分だけでなく, 冠動脈疾患や脳血管障害の予防を見据えた治療対策を常に考慮しておく必要があります 中村正人 ( 座長 ) 東邦大学医療センター大橋病院循環器内科教授

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ACS患者の最適な脂質低下療法を考える


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EBM と臨床 ( その 2)

( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

脂質異常症 治療の目標値は?

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10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1 10 年相対生存率に明らかな男女差は見られない わずかではあ

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

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複製 転載禁止 The Japan Diabetes Society, 2016 糖尿病診療ガイドライン 2016 CQ ステートメント 推奨グレード一覧 1. 糖尿病診断の指針 CQ なし 2. 糖尿病治療の目標と指針 CQ なし 3. 食事療法 CQ3-2 食事療法の実践にあたっての管理栄養士に

ただ太っているだけではメタボリックシンドロームとは呼びません 脂肪細胞はアディポネクチンなどの善玉因子と TNF-αや IL-6 などという悪玉因子を分泌します 内臓肥満になる と 内臓の脂肪細胞から悪玉因子がたくさんでてきてしまい インスリン抵抗性につながり高血糖をもたらします さらに脂質異常症

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Q2 はどのような構造ですか? A2 LDL の主要構造蛋白はアポ B であり LDL1 粒子につき1 分子存在します 一方 (sd LDL) の構造上の特徴はコレステロール含有量の減少です 粒子径を規定する脂質のコレステロールが少ないため小さく また1 分子のアポ B に対してコレステロールが相対

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DRAFT#9 2011

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高脂血症

要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品

目次 1. はじめに P2 2. 本剤の特徴 作用機序 P3 3. 臨床成績 P4 4. 施設について P9 5. 投与対象となる患者 P11 6. 投与に際して留意すべき事項 P13 1

Low density lipoprotein(LDL)アフェレシス

(検3)5.構成員資料1.寺本班基本資料 特定健診検討会(脂質)寺本班(案)ver2

study のデータベースを使用した このデータベースには 2010 年 1 月から 2011 年 12 月に PCI を施行された 1918 人が登録された 研究の目的から考えて PCI 中にショックとなった症例は除外した 複数回 PCI を施行された場合は初回の PCI のみをデータとして用いた

C 型慢性肝炎に対するテラプレビルを含む 3 剤併用療法 の有効性 安全性等について 肝炎治療戦略会議報告書平成 23 年 11 月 28 日

肥満者の多くが複数の危険因子を持っている 肥満のみ約 20% いずれか 1 疾患有病約 47% 肥満のみ 糖尿病 いずれか 2 疾患有病約 28% 3 疾患すべて有病約 5% 高脂血症 高血圧症 厚生労働省保健指導における学習教材集 (H14 糖尿病実態調査の再集計 ) より

標準的な健診・保健指導の在り方に関する検討会

本書の読み方 使い方 ~ 各項目の基本構成 ~ * 本書は主に外来の日常診療で頻用される治療薬を取り上げています ❶ 特徴 01 HMG-CoA 代表的薬剤ピタバスタチン同種同効薬アトルバスタチン, ロスバスタチン HMG-CoA 還元酵素阻害薬は主に高 LDL コレステロール血症の治療目的で使 用

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機能不全 HDL の機能って何? 2015/2/2 機能不全 HDL(dysfunctional HDL) という言葉を見聞きした方は多いこと だろう だが HDL の機能について明快に答えられる人は どれほどいるのだろう か 血中 HDLコレステロール値と心血管疾患のリスクが反比例することは多くの

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日経メディカルの和訳の図を見ても 以下の表を見ても CHA2DS2-VASc スコアが 2 点以上で 抗凝固療法が推奨され 1 点以上で抗凝固療法を考慮することになっている ( 参考文献 1 より引用 ) まあ 素直に CHA2DS2-VASc スコアに従ってもいいのだが 最も大事なのは脳梗塞リスク

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各位 2016 年 1 月 22 日 会社名アステラス製薬株式会社 代 表 者代表取締役社長畑中好彦 コード番号 4503 (URL 東 証 ( 第 一 部 ) 決 算 期 3 月 問合わせ先広報部長 臼井政明 Tel:(03)

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2

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1 見出し1,12ポ,日本語ゴシック,英語Arial,段落後は6ポの設定です

DRAFT#9 2011

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心房細動の機序と疫学を知が, そもそもなぜ心房細動が出るようになるかの機序はさらに知見が不足している. 心房細動の発症頻度は明らかに年齢依存性を呈している上, 多くの研究で心房線維化との関連が示唆されている 2,3). 高率に心房細動を自然発症する実験モデル, 特に人間の lone AF に相当する

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ACR RA 治療ガイドラインの主な追加 変更点 1) 予後不良因子の有無が除外された 2) 疾患活動性が 3 分割から 2 分割へ変更された 3) 初期治療が DMARD 単独療法に統一された 4) 生物学的製剤として TNF Non-TNF が併記された 5) TOF が追加され

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IMT は頸動脈の内膜中膜複合体の肥厚度を超音波断層装置で測定する方法で 1.1mm 以上を異常とする 4) 総頸動脈の IMT は 1.0mm 以下を正常とし 年齢とともに 0.01mm~0.015mm/ 年増加する 5) IMT の計測については Max-IMT CCA mean IMT mea

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日本の糖尿病患者数は増え続けています (%) 糖 尿 25 病 倍 890 万人 患者数増加率 万人 690 万人 1620 万人 880 万人 2050 万人 1100 万人 糖尿病の 可能性が 否定できない人 680 万人 740 万人

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提供 : サノフィ株式会社 座談会 心血管二次予防における LDL コレステロール管理 : Treat to Target vs. Fire and Forget 出席者 座長 木村一雄先生 伊苅裕二先生 横浜市立大学付属市民総合医療センター心臓血管センター教授 東海大学医学部内科学系循環器内科教授 安田 聡先生 国立循環器病研究センター心臓血管内科部門長 SAJP.ALI.15.11.3064 サノフィと Regeneron 社は, 脂質管理の重要性の認知向上と LDL コレステロール治療におけるアンメットメディカルニーズの研究に寄与してまいります 1

木村一雄先生 LDL は下げれば下げるほど心血管イベントは減少する 木村動脈疾患におけるスタチンの有用性については豊富なエビデンスが存在しています スタチンは急性期でも慢性期でも効果があり 脂質低下作用以外にも多面的な作用があるといわれています 最近非常にインパクトのあったことは 2013 年のACC/AHA の治療ガイドラインで リスクのある患者さんには目標値を定めず強力なスタチンを投与する Fire and Forget という概念が提唱されたことです これに対して目標値を設定して そこに向かって治療をし ていこうという従来からの Treat to Target という考え方があり この 2つの考え方をめぐって多くの議論が展開されています ただ L D L - C で 70mg あるいは 100mgといった目標値を設定してストロングスタチンを使って治療しても 目標値に到達しないことが多いのも事実です 最近の研究では LDL - Cを低下させれば一次予防 二次予防いずれも心血管イベントは減少することが証明されています ( 図 1) 今日は脂質低下療法によって心血管イベントの二次予防の可能性についてお二人の先生にお話をうかがいたいと思います まず伊苅先生からお願いします 伊苅私は Fire and Forget 派として呼ばれることが多いのですが とにかく L D L - C を下げた方がいいという Fire の考え方には大賛成です この概念は 2004 年に発表された ASCOTとWOSCOPS の論文を比較したものをきっかけとしていますが 目標値の達成率は前者では 70% で後者は 20% 程度にも関わらず 主要エンドポイントはどちらも 3 割程度下がり総死亡も減少したという結果でした 2

図 1 スタチンによる LDL-C 低下ならびに心血管イベント抑制効果 一次予防 二次予防いずれも LDL を下げれば心血管イベントは減少する 30 (%) POSCH-con 心血管イベント発生率 25 20 15 10 5 0 40 二次予防 Secondary prevention 4S-pbo POSCH-surg MIRACL-pbo A to Z-S20 CARE-pbo LIPID-pbo A to Z-S40-80 4S-Rx MIRACL-Atv80 LIPID-rx HPS-pbo ALLIANCE-pbo CARE-rx TNT-Atv10 IDEAL-Sim20-40 Primary prevention IDEAL-Atv80 HPS-rx CARDS-pbo PROVE-IT-Prv40 WOSCOPS-pbo TNT-Atv80 AFCAPS-pbo PROVE-IT-Atv80 ALLIANCE-rx CARDS-Atv10 ASCOT-pbo SHARP-pbo SHARP-S20+ez AFCAPS-rx MEGA-pbo ASCOT-rx WOSCOPS-rx JUPITER-Ros20 MEGA-prv10-20 JUPITER-pbo 一次予防 60 80 100 120 140 160 180 200 (mg/dl) スタチン内服により達成されたLDL-C 値 Olsson AG. Expanding Options with a Wider Range of Rosuvastatin Doses. Clin Ther 2006; 28: 1747-1763 3

急性冠症候群 (ACS) などのハイリスク患者ではとにかく LDL-C 値を下げる 伊苅裕二先生 伊苅脂質低下療法の目標値をLDL-Cで 100mg とした場合 本当にそれで二次予防が可能なのでしょうか 私の経験した 82 歳のACS の患者さんの場合 LDL が当初 123mg/dl あったので 61mg/dl まで下げましたが 5か月後にはまた下壁のST 上昇を認めてしまいました このようにガイドラインよりもかなり厳格な脂質低下療法を行ったにもかかわらず再発してしまったこともある ので本当に 100mg/dl という目標値でいいのかという疑問があります Fire and Forget ではなく Fire and Don t Forget です やはり患者さんに治療の効果を納得していただくためにはもっと下げる必要があるのではないかと思います ACC/AHA のガイドラインにもあるように ACS のようなハイリスク患者さんに対しては たとえば LDL-C が 78mg/dl 程度の人であってもさらに下げることによって心血管イベントを減少させることができるという考え方に私は賛成です 我々も脂質低下療法を行った自験例 1,000 例について LDL-C 値と二次予防効果の関係を検討しました 治療前のLDL-C 値は平均 116mg/dl で 全体の 3 分の2 の症例が治療により 100mg/dl 以下に下がりました 日本のガイドラインに従うと治療前の LDL-C 値が 100mg/dl 未満では脂質低下療法は行えないのですが 治療後 100mg/ dl 以下に低下しその後も治療を続けた群 治療を継続できなかった群 治療を中断してしまった群で予後を比較すると治療できなかった群と中断群の予後は同じでしたが 治療を継続してさらに LDL-C を減少させた群では心筋梗塞 脳梗塞 再治療が少ないという結果が得られました CTT Collaboration でも示されている通り 治療前のLDL- C 値に関わらず LDL-Cを減少させることによって心血管イベントは減らせると私は考えています ( 図 2) 4

図 2 治療前の LDL-C 値に関わらず LDL-C 減少による CV 減少率の効果は得られる スタチンによる LDL-C 値を 1mmol/L( 約 38.6mg/dL) 下げると 元の LDL-C 値に関係なく主要心血管イベントは抑制できる 元のLDL-C 値 <2 mmol/l 2 to <2 5 mmol/l 910 (4 1%) 1528 (3 6%) 1012 (4 6%) 1729 (4 2%) 2 5 to <3 0 mmol/l 1866 (3 3%) 2225 (4 0%) 3 to <3 5 mmol/l 3 5 mmol/l 2007 (3 2%) 4508 (3 0%) 2454 (4 0%) 5736 (3 9%) Total 10 973 (3 2%) 13350 (4 0%) 0 78 (0 61 0 99) 0 77 (0 67 0 89) 0 77 (0 70 0 85) 0 76 (0 70 0 82) 0 80 (0 76 0 83) 0 78 (0 76 0 80) χ 2 1=1 08 (p=0 3) 99% or 95% CI 0 45 0 75 1 1 3 Statin/more better Control/less better Cholesterol Treatment Trialists Collaboration. Efficacy and safety of more intensive lowering of LDL cholesterol: a meta-analysis of data from 170,000 participants in 26 randomised trials. Lancet 2010; 376: 1670-1681 5

心血管二次予防では LDL-C をどれだけ下げるかが重要 伊苅結論を言えば 心血管疾患二次予防ではスタチンを全例に処方して LDL-Cを下げることが重要だと考えています スタチンを使ってできるだけ LDL-Cを下げた群と下がらなかった群を比較すると LDL-Cの低下と心血管イベント二次予防効果は相関します スタチンを使ってより強力に下げた群において最も二次予防効果がでています やはり Bigger reduction is better だと私は考えています しかし 現行の日本のガイドラインではもともと LDL-C が 10 0mg/dl 以下の人にはスタチンが使えないことになります そうしますと医者は意図があって処方しているにも関わらず患者さんが服用を続けてくれません 私は正常値で副作用も心配だから中止してください と言われて続けられなかったことがありました こういう経験をすると LDL - C 管理目標値についてのガイドラインの見直しも必要なのではないかと感じます 6

目標値を定め それを目指すことでアドヒアランスも向上 安田 木村ありがとうございました それでは次に安田先生にお話いただきたいと思います 安田私は Treat to Target の立場から話をさせていただきます 動脈硬化の形成進展に関与する因子は喫煙 血糖値 高血圧 炎症と多岐にわたりますが その治療法として確立しているのが脂質代謝異常に対する介入であ聡先生ることはいうまでもありません 脂質と冠動脈イベントで非常に重要な情報を提供 してくれたのが冠動脈イメージングです 冠動脈イメージングによって脂質代謝改善薬の効果が目に見える形で提供されるようになりました これまで行われた数多くの介入試験によりスタチンは心血管イベントの一次 二次予防において全体として LDL-C を20 40% 低下させて心血管イベントの発生率を低下させることが報告されています とくにハイリスク例においてスタチンは二次予防に有用性があるとされてきました 例えば SATURN 研究は高用量のスタチンで LDLを70mg/dl 以下まで下げた結果 プラークの進展率を退縮させることができたという研究です Treat to Target の立場から脂質低下療法を考えたとき 伊苅先生も現況目標値の問題点を指摘されましたが 私は何らかの目標値を設定して その目標値に向かって治療していくことが患者さんのアドヒアランスにもつながりよい結果につながるのではないかと考えています 一方 二次予防ではスタチンを使用しているにも関わらず約 20% の確率で再イベントが起こります スタチンの残存リスクともいわれていますが 当然 LDL-Cの目標値をもっと下げるべきではないかという議論がおこっています 7

スタチン残存リスクのひとつとしての PCSK9 蛋白 安田 2014 年に発表された IMPROVE-IT は LDL - Cを強力に低下させることで心血管イベントの二次予防効果が高かったことを示しています この研究では LDL-Cが 50 125mg/dl の ACS 患者をスタチン使用群とスタチン+エゼチミブ使用群に分けて二次予防効果を比較しました その結果 スタチン使用群では 69.9 mg/dl スタチン + エゼチミブ群では 53.2mg/dl まで LDL-Cが下がり 心血管イベントは有意に後者の方が低かったのです この研究により 目標値を設定して治療すべきだという Treat to Target がさらにサポートされることになったわけですが 一方でスタチンによる心血管イベント抑制には限界があるともいわれており 残存リスクという言葉で表現されています スタチンでコレステロールを低下させると SREBP2 が活性化され LDL 受容体が産生されますが 同時に PCSK9という蛋白の産生を促進し それを介したフィードバック経路が動き出します PCSK9 蛋白の産生は LDL 受容体を減少させ LDL-C 値が増加するというメカニズムですが ( 図 3) このような現象を認めるケースは実臨床では決して少なくありません 8

アストロバスタチン用量アストロバスタチン用量PCSK9の増加率増加率血清 図 3 アトロバスタチン投与時の LDL 受容体と PCSK9 アトロバスタチン投与により血清 PCSK9 値は増加する (mg/day) (%) 50 80 70 40 60 50 30 40 30 20 血清PCSK9 の20 10 10 投与期間文献 6 週 Costet et al 1) 12 週 Careskey et al 2) 16 週 Welder et al 3) 1)Careskey HE, Davis RA, Alborn WE, Troutt JS, Cao G, Konrad RJ: Atorvastatin increases human serum levels of proprotein convertase subtilisin/kexin type 9. J Lipid Res 2008, 49:394-398. 2)Welder G, Zineh I, Pacanowski MA, Troutt JS, Cao G, Konrad RJ: High-dose atorvastatin causes a rapid sustained increase in human serum PCSK9 and disrupts its correlation with LDL cholesterol. J Lipid Res 2010, 51:2714-21. 3)Costet P, Hoffmann MM, Cariou B, Guyomarc h Delasalle B, Konrad T, Winkler K: Plasma PCSK9 is increased by fenofibrate and atorvastatin in a non-additive fashion in diabetic patients. Atherosclerosis 2010, 212:246-51. These results summarize the available data regarding the effect of atorvastatin on human serum PCSK9 levels in controlled clinical trials in which endpoint PCSK9 levels could be compared to baseline levels. Treatment with increasing doses of atorvastatin resulted in dose-dependent increases in the levels of circulating PCSK9 protein. Konrad RJ, et al. Effects of currently prescribed LDL-C-lowering drugs on PCSK9 and implications for the next generation of LDL-C-lowering agents. Lipids in Health and Dis 2011; 10: 38 9

Treat to Target 戦略への新たな期待 安田今 PCSK 9は新たな創薬のターゲットとして非常に注目されています 冠動脈疾患の最もハイリスクな症例は家族性高コレステロール血症 (FH) ですが FH の患者さんには20 年ほど前より LDL アフェレーシスが臨床応用されています LDLアフェレーシスを行うと FH の患者さんにおいて PCSK9の値を下げることが最近の研究により明らかにされました それによると PCSK9 機能喪失型の変異において心血管イベントが少ないことを示していますが ( 図 4) LDL アフェレーシスの1 つの側面として PCSK9を下げて LDL を低下させ 結果として心血管イベントを抑制させることが期待できるのではないかと考えています 私は Treat to Target の観点からは 特に再発を繰り返す あるいは多血管疾患の症例などのハイリスク例二次予防における脂質低下療法においては LDL 目標値を50mg/dl 程度とし スタチンはもちろん スタチン以外の脂質低下療法も選択肢に加え 積極的に管理していくべきと考えています 10

図 4 PCSK9 機能喪失型変異における心血管イベント抑制 PCSK9 の機能喪失者では LDL-C 値が低く 心血管イベント発症率も低い PCSK9の機能喪失変異ない場合のLDL-C 値 (%) (N=3278) 30 20 10 0 0 50 100 150 200 250 300 (mg/dl) PCSK9 142X あるいはPCSK9 679X の機能喪失変異ある 場合のLDL-C 値 (%) (N=85) 30 20 10 イベント発症率 (%) 12 8 4 P=0.008 0 なし あり PCSK9 142X あるいはPCSK9 679X の機能喪失 0 0 50 100 150 200 250 300 (mg/dl) Cohen JC, et al. Sequence Variations in PCSK9, Low LDL, and Protection against Coronary Heart Disease. N Engl J Med 2006; 354: 1264-1272 11

いずれのアプローチでも LDL-C を管理することが重要 木村有難うございました お二人の意見は Fire and Forget であろうが Treat to Target であろうが 心血管疾患の二次予防においてはより強力な脂質低下療法を行うということでは一致しています LDL-Cの減少率であれ絶対値であれ いずれにしても LDL-C 値をもっと下げなければならないということです 強力なスタチン療法があるにも関わらず 下げ切れていない残存リスクのある患者さんがまだまだいらっしゃるということです スタチンをもっと上手く使いこなすことによってこれをさらに下げることは可能かもしれませんが ゼロに出来るかというとそれは非常に難しい 脂質低下療法のファーストラインはスタチンというのは変わらなくても IMPROVE - IT でエビデンスの出たエゼチミブのようなスタチン以外の脂質低下療法や 今日お話しの出た PCSK9 蛋白という新たな標的も注目されてくるでしょう 伊苅単剤の増量は副作用のリスクがありますので これからはコンビネーションという時代がやってくるように思います 安田とくにハイリスク症例に関しては アンメットなニーズがまだ残されていると思いますし コンビネーション療法がもたらすかもしれない LDL-C で 50mg/dl 以下という世界がどうなるのか非常に興味があります 木村本日は有難うございました 12