2013.9がんセンター論文.indd

Similar documents
2014.9がんセンター論文.indd

2016.9がんセンター論文.indd

30(61) 新潟がんセンター病院医誌 資料 統計 2016 年病理部業務統計 Annual Report of Pathology in 2016 木下律子桜井友子鏡十代栄川口洋子豊崎勝実北澤綾弦巻順子畔上公子林真也宮内和美宮路渚神田真志齋藤美沙紀土田美紀柳原優香橋本つぶら三尾圭司西田浩彰川崎隆本

スライド 1

<4D F736F F D CB48D655F87562D31926E88E695DB8C928A E947882AA82F F4390B38CE32E646F6378>

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

5. 乳がん 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専門 乳房切除 乳房温存 乳房再建 冷凍凝固摘出術 1 乳腺 内分泌外科 ( 外科 ) 形成外科 2 2 あり あり なし あり なし なし あり なし なし あり なし なし 6. 脳腫瘍 当該疾患の診療を担当している診療科名と 専

密封小線源治療 子宮頸癌 体癌 膣癌 食道癌など 放射線治療科 放射免疫療法 ( ゼヴァリン ) 低悪性度 B 細胞リンパ腫マントル細胞リンパ腫 血液 腫瘍内科 放射線内用療法 ( ストロンチウム -89) 有痛性の転移性骨腫瘍放射線治療科 ( ヨード -131) 甲状腺がん 研究所 滋賀県立総合病

ベセスダシステム2001の報告様式 ーASC-US、ASC-Hの細胞像と臨床的意義ー

< E082AA82F1936F985E8F578C768C8B89CA816989FC92F994C5816A2E786C73>

院内がん登録における発見経緯 来院経路 発見経緯がん発見のきっかけとなったもの 例 ) ; を受けた ; 職場の健康診断または人間ドックを受けた 他疾患で経過観察中 ; 別の病気で受診中に偶然 がん を発見した ; 解剖により がん が見つかった 来院経路 がん と診断された時に その受診をするきっ

がん登録実務について

モノクローナル抗体とポリクローナル抗体の特性と

腫瘍センターの稼働実績 ( 平成 29 年 9 月 ) 最終版 H28 年 9 月 H29 年 9 月 H29 年度累 H28 年 9 月 H29 年 9 月 H29 年度累 H28 年 9 月 H98 年 9 月 H29 年度累

Microsoft PowerPoint - ASC-Hの分析について.ppt

< A815B B83578D E9197BF5F906697C38B40945C F92F18B9F91CC90A72E786C73>

腫瘍センターの稼働実績 ( 平成 29 年 8 月 ) 最終版 H28 年 8 月 H29 年 8 月 H29 年度累 H28 年 8 月 H29 年 8 月 H29 年度累 H28 年 8 月 H98 年 8 月 H29 年度累

1. 来院経路別件数 非紹介 30 他疾患経過 10 自主受診観察 紹介 20 他施設紹介 合計 患者数 割合 12.1% 15.7% 72.2% 100.0% 27.8% 72.2% 100.0% 来院経路別がん登録患者数 がん患者がどのような経路によって自施設を受診し

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

乳癌かな?!と思ったら

付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房 全体

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

調査 統計 歯科治療における細胞診の有用性 - 東京歯科大学千葉病院臨床検査部における細胞診の統計 - 1),2) 村上聡 * 松坂賢一 1),3) 監物真 3) 塚本葉月 1) 田村美智 1) 秦暢宏 川原由里香 1) 草野義久 1) 劉潁鳳 1) 杜岩 1) 辛承一 1) 井上孝 1) 東京歯科

院内がん登録集計報告

原発不明がん はじめに がんが最初に発生した場所を 原発部位 その病巣を 原発巣 と呼びます また 原発巣のがん細胞が リンパの流れや血液の流れを介して別の場所に生着した結果つくられる病巣を 転移巣 と呼びます 通常は がんがどこから発生しているのかがはっきりしている場合が多いので その原発部位によ

1. 部位別登録数年次推移 表は 部位別に登録数の推移を示しました 2015 年の登録数は 1294 件であり 2014 年と比較して 96 件増加しました 部位別の登録数は 多い順に大腸 前立腺 胃 膀胱 肺となりました また 増加件数が多い順に 皮膚で 24 件の増加 次いで膀胱 23 件の増加

2 院内処方 ( 入院外 投薬 ) 及び院外処方 ( 薬局調剤 ) における薬剤点数薬剤点数階級別件数の構成割合を入院外の投薬 ( 以下 院内処方 という ) 薬局調剤( 以下 院外処方 という ) 別にみると ともに 500 点未満 が最も多く それぞれ 67.0% 59.4% となっている また

          

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 佐藤雄哉 論文審査担当者 主査田中真二 副査三宅智 明石巧 論文題目 Relationship between expression of IGFBP7 and clinicopathological variables in gastric cancer (

1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( はい / ) 上記外来の名称 対象となるストーマの種類 7 ストーマ外来の説明が掲載されているページのと は 手入力せずにホームページからコピーしてください 他施設でがんの診療を受けている または 診療を受けていた患者さんを

8 整形外科 骨肉腫 9 脳神経外科 8 0 皮膚科 皮膚腫瘍 初発中枢神経系原発悪性リンパ腫 神経膠腫 脳腫瘍 膠芽腫 頭蓋内原発胚細胞腫 膠芽腫 小児神経膠腫 /4 別紙 5( 臨床試験 治験 )

付表 登録数 : 施設 部位別 総数 1 総数 口腔咽頭 食道 胃 結腸 直腸 ( 大腸 ) 肝臓 胆嚢胆管 膵臓 喉頭 肺 骨軟部 皮膚 乳房

質の高い病理診断のために 病理技術 診断基準の標準化を 目指した精度評価を実現します

付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 ): 施設 UICC-TNM 分類治療前ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 原発巣切除 ): 施設 UICC-TNM 分類術後病理学的ステージ別付表 食道癌登録数 ( 自施設初回治療 癌腫 UIC

2

採択演題一覧

診療科 血液内科 ( 専門医取得コース ) 到達目標 血液悪性腫瘍 出血性疾患 凝固異常症の診断から治療管理を含めた血液疾患一般臨床を豊富に経験し 血液専門医取得を目指す 研修日数 週 4 日 6 ヶ月 ~12 ヶ月 期間定員対象評価実技診療知識 1 年若干名専門医取得前の医師業務内容やサマリの確認

01.PDF

情報提供の例

<955C8E862E657073>

2. PleSSision( プレシジョン ) 検査の内容について 網羅的ながん遺伝子解析とは? 月 木新患外来診療中 現在 がん は発症臓器 ( たとえば肺 肝臓など ) 及び組織型( たとえば腺がん 扁平上皮がんなど ) に基づいて分類され 治療法の選択が行われています しかし 近年の研究により

TOHOKU UNIVERSITY HOSPITAL 今回はすこし長文です このミニコラムを読んでいただいているみなさんにとって 救命救急センターは 文字どおり 命 を救うところ という印象が強いことと思います もちろん われわれ救急医と看護師は 患者さんの救命を第一に考え どんな絶望の状況でも 他

!"#$%&'() FNAC) CNB) VAB MMT!

事業評価のためのチェックリスト ( 単位 : %) (2) 平成 27 年度の原発がんに対する早期がん割合を把握しましたか 肺がんでは臨床病期 Ⅰ 期がん割合 乳がんでは臨床病期 Ⅰ 期までのがん割合を指す (2-1)

indd

/ NILM (negative for intraepithelial lesion or malignancy) IUD!"#$% CIN SIL(TBS*) &'()* +,'()* -'()*./01!"#$!"%&'#&(%&)*+'$,)(&-'./0001 2

PowerPoint プレゼンテーション

第58回日本臨床細胞学会 Self Assessment Slide

EBウイルス関連胃癌の分子生物学的・病理学的検討



1. ストーマ外来 の問い合わせ窓口 1 ストーマ外来が設定されている ( / ) 上記外来の名称 ストマ外来 対象となるストーマの種類 コロストーマとウロストーマ 4 大腸がん 腎がん 膀胱がん ストーマ管理 ( 腎ろう, 膀胱ろう含む ) ろう孔管理 (PEG 含む ) 尿失禁の管理 ストーマ外

地域公開講演会 2007.3.24

外来在宅化学療法の実際

子宮頸部細胞診陰性症例における高度子宮頸部病変のリスクの層別化に関するHPV16/18型判定の有用性に関する研究 [全文の要約]

表 1. 罹患数, 罹患割合 (%), 粗罹患率, 年齢調整罹患率および累積罹患率 ; 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く ; 部位別, 性別 B. 上皮内がんを含む 表 2. 年齢階級別罹患数, 罹患割合 (%); 部位別, 性別 A. 上皮内がんを除く B. 上皮内がんを含む 表 3. 年齢

ンパ浮腫外来業務および乳腺外来業務で全日および半日をそれぞれ週に 2 日に変更する さくら 9 は現状の外来業務として平日の全日に 4 名を助勤しているが これに加え さらに輸血業務として 1 名を助勤し 計 5 名を助勤していきたいと考えている さくら 8 は新たに児童精神科外来業務として全日を週

日産婦誌61巻4号研修コーナー

<4D F736F F D20819B947882AA82F190568B8C91CE8FC6955C2E646F63>

高知赤十字病院医学雑誌第 2 2 巻第 1 号 年 5 原著 尿細胞診 Class Ⅲ(AUC) の臨床細胞学的検討 ~ 新報告様式パリシステムの適用 ~ 1 黒田直人 1 水野圭子 1 吾妻美子 1 賴田顕辞 2 奈路田拓史 1 和田有加里 2 宇都宮聖也 2 田村雅人

2. 転移するのですか? 悪性ですか? 移行上皮癌は 悪性の腫瘍です 通常はゆっくりと膀胱の内部で進行しますが リンパ節や肺 骨などにも転移します 特に リンパ節転移はよく見られますので 膀胱だけでなく リンパ節の検査も行うことが重要です また 移行上皮癌の細胞は尿中に浮遊していますので 診断材料や

Vol 夏号 最先端の腹腔鏡下手術を本格導入 東海中央病院では 平成25年1月から 胃癌 大腸癌に対する腹腔鏡下手術を本格導入しており 術後の合併症もなく 早期の退院が可能となっています 4月からは 内視鏡外科技術認定資格を有する 日比健志消化器外科部長が赴任し 通常の腹腔 鏡下手術に

大腸癌術前化学療法後切除標本を用いた免疫チェックポイント分子及び癌関連遺伝子異常のプロファイリングの研究 

学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 小川憲人 論文審査担当者 主査田中真二 副査北川昌伸 渡邉守 論文題目 Clinical significance of platelet derived growth factor -C and -D in gastric cancer ( 論文内容の要旨 )

<4D F736F F D208DD F E8482BD82BF82CD82B182F182C88DD F082DD82C482A282DC82B72E646F63>

一次サンプル採取マニュアル PM 共通 0001 Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital その他の検体検査 >> 8C. 遺伝子関連検査受託終了項目 23th May EGFR 遺伝子変異検

Microsoft Word - *Xpert Flu検討 患者用説明書 修正.docx

するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

PowerPoint プレゼンテーション

43048腎盂・尿管・膀胱癌取扱い規約第1版 追加資料

福島県のがん死亡の年次推移 福島県におけるがん死亡数は 女とも増加傾向にある ( 表 12) 一方 は 女とも減少傾向にあり 全国とほとんど同じ傾向にある 2012 年の全のを全国と比較すると 性では高く 女性では低くなっている 別にみると 性では膵臓 女性では大腸 膵臓 子宮でわずかな増加がみられ

Bethesda system

< 高知県立幡多けんみん病院 年院内がん登録 ( 詳細 )> 性 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 ~9 9~ 総計件数比率 口腔 咽頭食道胃結腸直腸肝臓胆嚢 胆管膵臓喉頭肺骨 軟部皮膚乳房子宮頸部子宮体部卵巣前立腺膀胱腎 他の尿路 女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男女男

博士学位申請論文内容の要旨

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

7. 脊髄腫瘍 : 専門とするがん : グループ指定により対応しているがん : 診療を実施していないがん 別紙 に入力したが反映されています 治療の実施 ( : 実施可 / : 実施不可 ) / 昨年の ( / ) 集学的治療 標準的治療の提供体制 : : グループ指定により対応 ( 地域がん診療病

B型肝炎ウイルスのキャリアで免疫抑制・化学療法を受ける患者さんへ

長野県がん診療連携拠点病院整備検討委員会機能評価 会議記録(要旨)

PowerPoint プレゼンテーション

別紙様式第1

4 受付番号 157 申請者 : リハビリテーション科 同種造血幹細胞移植患者の移植前栄養状態と移植前後の身体機能に関する後方視的検 討 平成 30 年 11 月 20 日 ~ 平成 30 年 12 月 6 日 文書審査により 承認 とした 5 受付番号 158 申請者 : 麻酔科 気管挿管刺激に対

東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

診調組 D DPC/PDPS の包括範囲について 1. 包括評価の基本的考え方 (DPC 制度 (DPC/PDPS) の概要と基本的な考え方より抜粋 ) 2 包括評価の対象とする診療報酬項目 ( 包括範囲 ) 包括評価の対象として設定されている出来高診療報酬項目は 入院基本料

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 5. 免疫学的検査 >> 5G. 自己免疫関連検査 >> 5G010. 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク

婦人科がん検診Q&A

PowerPoint プレゼンテーション

<303491E592B BC92B08AE02E786C73>

PowerPoint プレゼンテーション

針刺し切創発生時の対応

日本における子宮頸がん検診の時代的背景 1982 年老人保健法にて 20 年かけて子宮頸がんを半減させる 30 歳以上の女性を対象受診間隔は 1 年に 1 回費用は行政が全額負担 1998 年地方交付税による財源措置に変更費用の一部個人負担が必要となる 2004 年子宮頸がん検診の見直し受診対象年齢

2009年8月17日

<4D F736F F F696E74202D20322D CE899E82AA82F189BB8A7797C C A838B82CC96F08A E303

らに本検査により 術中に腹膜再発リスク患者の高感度判定が可能となったため 現在 2017 年 4 月より 大阪市立大学医学部附属病院において 胃癌手術中の判定に基づいて術中に腹膜再発予防的治療を行う臨 床試験を開始しています 図 1. 胃癌の腹膜転移経路と手術中診断法 胃粘膜上皮で発生した癌細胞が胃

H1

2018.3_がんセンター論文.indd

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

Transcription:

18(77) 新潟がんセンター病院医誌 資料 統計 2012 年病理部業務統計 Annual Report of Pathology in 2012 栗 原アツ子 桜 井友子 川崎幸子 木下律子 川 口洋子 豊 崎勝実 弦巻順子 畔上公子 神 田真志 山 田普二子 繁野美紀 柳原優香 池 田友美 林 真也 小池 敦 宇佐見公一 西田浩彰 川崎 隆 本間慶一 Atsuko KURIHARA,Tomoko SAKURAI,Sachiko KAWASAKI,Noriko KINOSHITA, Youko KAWAGUCHI,Katsumi TOYOSAKI,Jyunko TSURUMAKI,Kimiko AZEGAMI, Masashi KANDA,Fujiko YAMADA,Miki SHIGENO,Yuuka YANAHARA, Tomomi IKEDA,Shinya HAYASHI,Atsushi KOIKE,Kouichi USAMI, Hiroaki NISHIDA,Takashi KAWASAKI and Keiichi HOMMA 要 旨 2012 年 1 月 ~12 月の病理統計をまとめた 総件数は前年比 0.7% 減の 23,378 件で, 内訳は病理組織診断 11,483 件, 細胞診断 11,880 件, 病理解剖 15 件, 電子顕微鏡検索 3 件 組織診, 細胞診を合わせた迅速診断は前年比 8.7% 増の 1,552 件, 院外受託は前年比 17.4% 減の 981 件であった 業務件数については作成ブロック数が 1.6% 減の 51,889 個, 各種染色標本は 2.2% 増の 100,752 枚であった 免疫染色検索は前年比 11.6% 増の 17,729 枚, 乳癌 胃癌の HER2 タンパクの免疫組織化学的検索 HercepTest は 35.4% 増の 971 件あった FISH 法による HER2 遺伝子検索は業務整理により外注化したが,10.3% 増の 43 件であった 大腸癌の EGFR タンパクの免疫組織化学的検索は 3 件で, 効率化, 経済性を考え 2013 年より外注にした 乳癌センチネルリンパ節の癌転移を CK19 遺伝子検索により術中診断する OSNA(One Step Nucleic Acid Amplification) 法は 8.0% 増の 202 件であった 2012 年 4 月より病理部で新たに取り組み始めた遺伝子検索は依頼が 652 件あった 術中迅速細胞診は最優先で行わなければならず, 日常のルーチン業務の大きな負担となっている また, 患者負担の軽減のため, 気管支鏡検査における迅速細胞診も 2011 年より実施している 総依頼件数は減少しているが, 免疫染色 遺伝子検索による詳細な情報提供の要求は多く, 業務は多岐に亘ってきており, 診断精度を維持した効率化を臨床側と共に考えていく必要がある はじめに 近年, 医療の高度化, 分子標的薬による癌治療は目覚ましい発展を遂げている 病理部では詳細な病理学的あるいは遺伝子検索などの新しい技術の導入, 情報の提供に最大限努力をしてきた 人材育成の面においては研修医, 医学部や検査技師養成課程の学生の受け入れにも可能な限り対応してきた これらの業績を 2012 年の病理部業務統計としてまとめたので報告する 新潟県立がんセンター新潟病院研究部病理部 Key words: 病理組織診断 (Histopathological diagnosis), 細胞診 (Cytodiagnosis), 迅速診断 (Rapid diagnosis), 遺伝子検査 (Genetic test),osna 法 (One Step Nucleic Acid Amplification)

第 52 巻第 2 号 (2013 年 9 月 ) (78)19 表 1 2012 年病理部業務件数 1) 院外 8 施設 ( 県立病院 3 施設, その他病院 医院 5 施設 ) 2) 免疫染色では130 種類以上の抗体を使用 3)In situ hybridization(ish) によるEBウイルスの検索 4) 乳癌 胃癌のHER2タンパクの免疫組織化学法での半定量的検索 5)Fluorescence in situ hybridization(fish) によるHER2 遺伝子の検索 6) 大腸癌 EGFRタンパクの免疫組織化学法での検索 7)One Step Nucleic Acid Amplification:OSNA 法による乳癌センチネルリンパ節のCK19 遺伝子検索 8)CMVpp65 抗原に対するモノクローナル抗体を用いて, 末梢血中のCMV 抗原陽性細胞を検出する検査 9) 依頼件数 1.2012 年病理部業務件数 ( 表 1) 2012 年 1 月 ~12 月の総件数は前年比 0.7% 減の 23,378 件であった 組織診は 11,483 件, 細胞診は 11,880 件 業務件数では作成ブロック数が前年比 1.6% 減の 51,889 個, 各種染色標本は 2.2% 増の 100,752 枚であった 依頼件数やブロック数は減少しているが, 各種染色枚数は増加した 院外受託は 17.4% 減の 981 件, 受託施設は 8 施設で県立病院 3 施設 ( 加茂病院, 津川病院, 坂町病院 ), その他病院 医院 5 施設であった 術中迅速診断では組織診は 640 件, 細胞診は 912 件で合計 1,552 件, 前年比 8.7% 増であった 術中迅速診断は最優先で行わなければならない業務であり, 手術開始時間の関係から同一時間帯に集中して提出されることが多い 業務の特殊性から検体処理や標本作製は手作業で行う必要があり, 日常業務の大きな負担になっている また, 患者負担の軽減のために 気管支鏡室から提出された標本を迅速に染色, 鏡検 結果を採取現場である気管支鏡室に電話連絡 その結果をもとに必要であれば直ちに再度, 検体採取 という気管支鏡検査における迅速細胞診も行っている 今後, 診断精度を維持した効率化を進めつつ, 迅速診断の在り方を臨床側と検討して行く必要がある 免疫染色検索は前年比 11.6% 増の 17,729 枚 HER2 タンパクの免疫組織化学的検索 HercepTest は 35.4% 増の 971 件で, 乳癌が 844 件, 胃癌は 127 件であった 業務整理により外注化した FISH 法による HER2 遺伝子検索は前年比 10.3% 増の 43 件で, 乳癌が 31 件, 胃癌は 12 件であった 乳癌センチネルリンパ節の検索は,OSNA 法と凍結組織診併用から OSNA 法と捺印細胞診の併用になった その結果, 作業が省力化, 簡素化され, 件数も 202 件,8.0% 増であった 造血幹細胞移植後合併症の 1 つである CMV 感染症のモニタリングを行う末梢血中 CMV 検査は 10.0% 増の 542 件であった 2012 年 4 月より病理部で新たに取り組み始めた遺

20(79) 新潟がんセンター病院医誌 伝子検索は依頼が 652 件あったが, 腹腔洗浄液 ( 腹水 ) 中の CEA や脂肪腫の MDM2 CDK4 等の研究的な検索が多く, 保険請求可能なものはリンパ腫系や Kras 検索等の 96 件であった その他に検討したものは 836 件あり, 全体としては 1,488 件になった 薄切依頼件数が増加している治験 研究協力は 92 件であった これら免疫染色, 遺伝子検索の件数増加や新たな検査法の導入, 治験 研究協力に伴う薄切依頼件数の増加は, 医療の高度化, 分子標的薬による癌治療の進歩に伴い, 臨床側からより詳細な情報提供を求められている顕れである 2.2012 年病理検査科別依頼件数 ( 表 2) 組織診では 11,483 件中, がん予防センターの依頼は 3,904 件で 34.0% を占め消化器内視鏡が大半であった 本院件数では外科の件数が一番多く, 続いて婦人科, 泌尿器科, 皮膚科の順であった 院外受託組織検査は前年比 18.4% 減の 860 件であった 受託施設の内訳は県立加茂病院と県立津川病院とで 56.3%, ブレスト健診センターが 39.8% で, この 3 施設で院外受託組織検査全体の 96% であった 細胞診では婦人科が 11,880 件中 6,201 件で半数以上を占め, 続いて泌尿器科, 内科, 外科, 内視鏡の順 で依頼が多かった 院外細胞診受託は県立加茂病院の依頼で 15.2% 増の 121 件, 院外受託全体では 17.4% 減であった 電子顕微鏡については 2009 年に故障後,2011 年に更新を経ずに廃棄処分となり, 電子顕微鏡検査は外注検査となった 病理解剖依頼は 15 件で, 内科が 14 件だった 3.2012 年病理組織部位別件数 ( 表 3) 部位別件数は延べ 14,556 件で, 生検材料で消化器系が過半数を占め, 件数が圧倒的に多いことから部位別の総計でも消化器系が半数近く占めた 続いて婦人科, 乳腺, 造血器の順であった 手術材料では消化器, 婦人科, 皮膚, 乳腺, 泌尿器科の順であった 各科に共通するリンパ節の件数が多く, 総計で 1,851 件であった 迅速件数は前年比 16.6% 増の 640 件であった リンパ節の割合が最も多く 273 件, そのうち乳腺センチネルリンパ節が 214 件で 78.4% を占めた また, 乳腺センチネルリンパ節のなかでは OSNA 法によるものが 202 件で大半を占めた リンパ節以外の部位では婦人科系, 肝胆膵系, 呼吸器系, 骨軟部の順に多かった 表 2 2012 年病理検査科別依頼件数

第 52 巻第 2 号 (2013 年 9 月 ) (80)21 表 3 2012 年病理組織部位別件数 4.2012 年細胞診成績 ( 表 4 ~ 7) 細胞診の延べ件数は 12,403 件で, 婦人科系が 6,474 件と過半数を占め, 続いて尿, 体腔液 ( 洗浄液を含む ), 気管支 肺, 甲状腺, 乳腺, 脊髄液の順に多かった ( 表 4) 細胞診報告形式の異なる婦人科系, 乳腺, 甲状腺を除く成績を表 5 に示した 婦人科細胞診判定は, 子宮体部のみを Papanicolaou 分類のまま, 子宮頚部等の部位は Bethesda System 2001 による分類となったので別計上にした ( 表 6-1,6-2) 甲状腺と乳腺の細胞診も Papanicolaou 分類を廃止し判定規約に則り別計上した ( 表 7) 術中迅速細胞診は 912 件で前年より 3.8% 増加した ( 表 5) 迅速細胞診は日常業務が保険点数に反映されていなかったが, 2010 年度の診療保険点数改定より (DPC 等の包括ではあるが ), 術中迅速細胞診として 450 点認められた 細胞診陽性率 (ClassⅣ,Ⅴ, 悪性疑い, 悪性 ) は平均 11.4% であった 心嚢液が件数は少ないが 90.0% で, 次に気管支 肺 57.2%, リンパ節 50.0% の順に高かった 婦人科の陽性率が最も低く 1.2% であったが, 次の検査が必要な ASC 以上の有意所見は 13.9% であった 検体不適正は, 目的の細胞がほとんど見られないような標本の事で平均 2.5% であった 乳腺の不適正検体の割合が最も多く 385 件中 102 件の 26.5% で, 次いで甲状腺 11.4%, リンパ節 10.5%, 腫瘍 9.9% の順で多かった 乳腺の判定基準で不適正検体は 10% 以下が望ましいとされているが, 乳癌はホルモン療法やハーセプチンによる治療法の選択があるため, 悪性が強く疑われる場合は生検組織診 断が施行される 穿刺吸引細胞診が実施される症例は良性病変の経過観察や石灰化等で細胞採取が困難な症例が多くなっていると推測される 婦人科細胞診においては 2010 年より放射線治療等の細胞採取困難な症例に対して, 当院独自の不適正判定基準 ( 扁平上皮の採取量を 500 個未満 ) に変更した その結果, 検体不適正が減少した 患者負担の軽減のため, 気管支鏡検査中に迅速で気管支細胞診の結果報告をし, 有意所見がない場合はその場で直ちに再採取を行うシステムは陽性率を上げた 検体採取時に検体の適 不適を迅速に判断する病理診断システムは増加すると思われ, 迅速診断の在り方を臨床側との協力のもとで考えていく必要がある おわりに 2012 年病理部業務では総依頼件数は減少したが, 詳細な病理学的検索の必要性から染色の種類や枚数, 術中迅速検査等の業務量が増加した また,2012 年度から当病理部でも遺伝子検索が可能になった 患者負担の軽減のため導入した外来迅速検査は陽性率を上げた 今後も臨床側の要望にできる限り応えられるよう, 診断精度を維持しながら効率化と新しい検査手技の導入に努めていきたい 最後に関係者各位の日頃のご協力に感謝するとともに, 今後ともより一層のご協力をお願いしたい

22(81) 新潟がんセンター病院医誌 表 4 2012 年細胞診陽性率と検体不適正率 ( 延べ件数 ) 表 5 2012 年細胞診成績 ( 婦人科 乳腺 甲状腺を除く延べ件数 )

第 52 巻第 2 号 (2013 年 9 月 ) (82)23 表 6-1 2012 年婦人科子宮体部細胞診成績 (Papanicolaou 分類延べ件数 ) 表 6-2 2012 年婦人科子宮細胞診成績 (Bethesda System2001 延べ件数 ) 1)Atypical squamous cells of undetermined 2)Low-grade squamous intraepithelial leasion 3)Atypical squamous cells cannot exclude HSIL 4)High-grade squamous intraepithelial leasion 5)Squamous cell carcinoma 6)Atypical glandular dysplasia 7)Adenocarcinoma 表 7 2012 年乳腺 甲状腺細胞診成績 ( 延べ件数 )