7. 薬と栄養 食事の相互作用 A. 栄養 食物が医薬品に及ぼす影響 a. 薬理効果に対する栄養 食物の作用 薬物の代謝 薬物は 体内への吸収 分布 代謝 排泄という 4 段階の体内動態を経て最終的に体外へ排泄される 肝臓では酸化 還元 加水分解 抱合反応により薬物を分解する 代表的な薬物代謝酵素としてチトクローム P450(CYP) がある 栄養 食物が薬物に及ぼす影響 栄養 食物が薬物の吸収に影響し 吸収を阻害または促進する場合がある 栄養 食物が薬物の代謝 作用および排泄に影響し 薬理効果を増強または減弱させる場合がある 栄養 食物の相互作用により副作用を生じる場合がある 薬物が食物摂取や栄養素の吸収 代謝に影響する場合がある 薬剤の吸収による効果と副作用の発現は 食事との時間的関係や内容により影響を受ける 食事によって胃内容物の排泄される時間が遅くなり 食後の服用は胃に薬剤が長く停滞する 一般的には 胃に薬剤が長く停滞すると 小腸での吸収率は低下または遅延する 食事により吸収が十分に行われない薬剤は 原則として食前または食間の服用とするが 一般的には食後の服用が多い 薬剤を服用するタイミングは 薬剤の効果や副作用を考慮して決める 薬剤は 吸収率のみでなく 望ましい効果の発現のしかた 副作用の軽減などを考慮する なお 薬剤の服用はジュースやお茶をさけ 水または白湯でおこなう 食物と医薬品の相互作用 食品成分や食事が薬剤の吸収に影響するもの タンニンを多く含む食品 お茶やコーヒーなどに含まれるタンニンは鉄剤と結合して不溶性の沈殿物を作るため お茶と鉄剤の併用により吸収が阻害される可能性がある しかし 臨床上 鉄徐放剤ではあまり効果に影響はない ( 鉄剤 ) 鉄を多く含む食品 食品中の鉄と薬剤が難溶性のキレートを形成し 薬剤の吸収が阻害される可能性
がある ( 甲状腺ホルモン剤 抗生物質 止痢剤 ウィルソン病治療薬 ニューキノロン系抗菌薬 骨粗鬆症治療薬 抗リウマチ薬 パーキンソン治療薬 ) 牛乳 乳製品やミネラル分を多く含む食品 食品中のカルシウム マグネシウム アルミニウムなどの金属イオンと難溶性のキレートを形成し 薬剤の吸収が阻害される可能性がある お茶 牛乳 ジュース ミネラルウォーターなどのカルシウム マグネシウム 鉄 アルミニウムなどを含むものは吸収を阻害する可能性があるため 水または白湯で服用する ( テトラサイクリン系抗生物質 ニューキノロン系抗菌薬 骨粗鬆症治療薬 抗リウマチ薬 前立腺癌治療薬 ) 高脂質食 脂溶性が高い薬剤では 高脂質食や牛乳との服用により血中濃度が上昇し 過剰症の症状を発現する可能性がある ビタミン A 類似体では ビタミン A 過剰症の類似症状がある ( 角化症治療薬 脂質異常症 ( 高脂血症 ) 治療薬 ) 食事摂取 胃内容物の残留により吸収率が向上するため 食直前後の服用で血中濃度が高くなり 副作用が起こりやすくなる ( 抗不安薬 ) 食事中のたんぱく質などと薬剤が結合し作用が減弱する ( 胃粘膜保護薬 ウィルソン病治療薬 ) 酸味が強い飲み物などと同時に服用すると不安定となるため ジュースなどで服用しない ( 抗生物質 ) 胃内 ph が上昇すると溶解率が低下するため 重層などの併用を避ける ( 抗生物質 ) 食物の成分が 薬剤の作用を増強あるいは減弱させるもの グレープフルーツ グレープフルーツ スウィーティ 文旦などの成分が薬剤代謝にかかわる CYP 活性を阻害することにより 薬剤の血中濃度が上がるため効果が増強される とくにカルシウム拮抗薬は高血圧 狭心症 不整脈などの治療に広く使われているが 服用中にはグレープフルーツなどの摂取は避けるべきである ( カルシウム拮抗薬 抗血栓薬 脂質異常症 ( 高脂血症 ) 治療薬 抗癌薬 片頭痛治療薬 抗てんかん薬 HIV 治療薬 免疫抑制薬 抗精神病薬 マラリア治療薬 ) ビタミン K を含む食品 抗凝固薬の一種であるワルファリンカリウムはビタミン K と拮抗して作用を発現するため ビタミン K を多く含む食品 ( 納豆 ブロッコリー クロレラ 青汁など ) を食べるとその作用が減弱する ワルファリン使用時にはビタミン K 含有食品に注意する ( 抗凝固薬 )
セイヨウオトギリソウを含む食品 セイヨウオトギリソウは肝臓における薬物代謝酵素の CYP を誘導するため これらの酵素で代謝をうける薬剤の血中濃度を低下させたり 作用を減弱させたりする可能性がある 薬物排出に関わる P 糖たんぱくを誘導する作用もある (HIV 治療薬 免疫抑制薬 抗凝固薬 強心薬 気管支拡張薬 抗不整脈薬 抗てんかん薬 経口避妊薬 抗癌薬 片頭痛治療薬 ) カルシウムを含む食品 血中カルシウム濃度の上昇によりジギタリス製剤の中毒症状が現れる可能性がある ( 強心薬 ) カルシウム マグネシウムの吸収が増加する可能性があり 腎機能低下時には注意する ( ビタミン D 製剤 ) 高たんぱく食 高たんぱく食やアミノ酸 プロテインのサプリメントなどにより作用が増強する可能性がある (β 遮断薬 ) 高たんぱく食により作用が減弱する可能性がある ( パーキンソン治療薬 ) 食物の成分が薬剤の排泄影響するもの 重層など尿 ph をアルカリにする食品 アルカリ化食品などによる尿 ph の変化により 薬剤の腎尿細管での再吸収が影響を受けることがある 尿 ph の上昇により尿細管での再吸収が増加し 尿中排泄が低下するため効果が増強する ( 抗不整脈薬 ) 食物と薬物の相互作用による副作用 甘草 グリチルリチン類を含む食品 甘草やグリチルリチンは漢方などの医薬品だけでなく 甘味料や多くの食品に使用されている 降圧効果の減弱や浮腫 低カリウム血症 血圧上昇などを起こす可能性がある ( 高血圧治療薬 :β 遮断薬 ACE 阻害薬 カルシウム拮抗薬 利尿薬など ) カフェインを含む食品 カフェインとの相互作用で頭痛 動機 不整脈 胃痛などが起こる可能性がある ( 気管支拡張薬 交感神経刺激薬 胃潰瘍治療薬 片頭痛治療薬 血小板凝固抑制薬 抗うつ薬 ) ビタミン C を含む食品 大量のビタミン C 摂取により シュウ酸の尿中排泄が増加し 尿路結石を起こしやすくなる ( 緑内障治療薬 ) 酸性飲料 ( オレンジジュース スポーツドリンク 乳酸菌飲料 コーヒー コーラ
など ) 酸性飲料との併用で小児用細粒で苦味が発現することがある ( 抗生物質 ) クエン酸 ( 酢 かんきつ類 梅など ) アルミニウムとクエン酸が易陽性のキレートを形成し アルミニウムの吸収が増加し血中アルミニウム濃度が増加する可能性がある ( アルミニウム含有製剤 ) チラミンやヒスチジンを多く含む食品 チラミンは チーズやワイン ニシン レバー サラミ バナナ そら豆 ビールなどに多く含まれる MAO 阻害薬がチラミンの代謝を阻害してアドレナリン作動神経終末に蓄積され カテコールアミンの遊離を促進する その結果 血圧上昇 動機 ほてり 頭痛などの症状が出現する ヒスチジンはマグロ ブリ ハマチ サバ サンマ イワシなどに多く含まれる MAO 阻害薬がヒスタミンの分解を抑制するため ヒスタミン中毒症状が出現することがある B. 医薬品が栄養 食事に及ぼす影響 a. 味覚 食欲 栄養素の消化 吸収 代謝 排泄に及ぼす薬物の作用 食欲や味覚への影響 食欲亢進作用を有する薬剤: 抗ヒスタミン薬 ステロイド製剤 向精神薬など 食欲を低下させる薬剤: 抗生物質 抗がん剤 アンフェタミン 抗うつ薬など 味覚異常:D-ペニシラミン 抗生物質 降圧薬など 栄養素の吸収や代謝に影響を与える薬剤 メトトレキサート( 葉酸に拮抗 ) コルヒチン( ビタミン B12 欠乏 ) 硫酸フラジオマイシン ( 脂肪吸収障害 ) 利尿薬( カリウム喪失 ) D-ペニシラミン ( 亜鉛 銅の欠乏 ) ワルファリンカリウム( ビタミン K に拮抗 ) 経口避妊薬( 低ビタミン ) などがある 食物と薬剤の相互作用については未解明の部分も多いが 薬剤の吸収 作用 代謝 排泄などを 栄養の視点からも総合的に考えることが重要である b. 水 電解質に及ぼす薬物の作用 水 電解質に及ぼす薬物の影響各種薬剤の作用や不適切な輸液によって 水や電解質の異常を起こす可能性がある ループ系利尿薬 サイアザイド系利尿薬による脱水 低 K 血症 低 Na 血症 甘草を含む薬剤による低 K 血症
インスリンによる低 K 血症 副腎皮質ステロイド薬による浮腫 高血圧 低 K 血症 K 保持性利尿薬 ( スピロノラクトン ) による高 K 血症 ACE 阻害薬 /ARB による高 K 血症 ( 特に腎不全 ) 下剤の大量投与による脱水 高 Na 血症 低 K 血症 抗利尿ホルモン (ADH) 作用を低下させる薬剤による高 Na 血症 ADH 作用を増強する薬剤による低 Na 血症 活性型ビタミン D3 やビタミン A による高 Ca 血症 アルミゲルによる低 P 血症 問題 食物と医薬品の関係に関する記述である か か 1.α-グルコシダーゼ阻害薬は 食後に服用する 2. グレープフルーツジュースの摂取は 薬物代謝酵素に影響を与える 3. ビタミン K はワルファリンと拮抗する作用を持つ 4. カルシウム拮抗薬を服用中にグレープフルーツジュースを飲んでもよい 5. 食品中のカルシウムと薬物が結合したキレートは 溶解性である 薬剤の作用と適応に関する記述である か か 1. ビグアナイド薬は インスリンの分泌を促進する作用がある 2. ステロイド薬は 血糖上昇作用がある 3.HMG-CoA 還元酵素阻害薬は V 型高脂血症に適応がある 4.α-グルコシダーゼ阻害薬は 食後血糖値の上昇を促進する 5. カルシウム拮抗薬は 狭心症に適応がある 医薬品とその作用の組み合わせである か か 1. ラクツロース 腸内アンモニア産生抑制作用 2. マジンドール 食欲抑制作用 3. エリスロポエチン インスリン分泌促進作用 4. ステロイド薬 ( グルココルチコイド ) 血糖低下作用 5. スルホニル尿素薬 抗炎症作用