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Transcription:

共同研究組織成果報告 (2009 年度 ) 大学を拠点とした総合型地域スポーツクラブにおける会員の行動変容に関する社会的実験 Study on behavior change of University-based Community Sports Club Members 主任研究員名 : 國本明德 分担研究員名 : 正見こずえ 研究の背景 総合型地域スポーツクラブ ( 以下 総合型クラブ ) は 誰もが生涯にわたってスポーツを楽しむことができる 場 と自立 自律した経営システムを創り出す地域の組織として 文部省 ( 現文部科学省 ) が 1995 年にその育成事業をスタートさせたものである 2010 年 7 月現在 この総合型クラブは全国に 2,664 クラブが設置されている ( 文部科学省,2010) このように 近年においては総合型クラブに対する関心が高まり その設置数も増加しているものの 地域住民の総合型クラブに対する認知度や理解が低いという問題 会員募集やプログラム運営などのマネジメントに関する問題が多々生じてきており クラブの行き詰まりや破綻も見られるようになってきた そのため クラブ会員の選好を重視すること クラブのHPを立ち上げて情報発信や情報交換の場とすること GIS を用いて集客予測をすることなど クラブ運営の危機を回避する提言もなされている このことからも 今日では民間のスポーツクラブだけではなく 総合型クラブにおいてもプログラムやイベントの種類および完成度などの ソフトウエア 施設や設備に留まらずアクセスまでを考慮した ハードウエア そして指導者やスタッフといった人的資源である ヒューマンウエア に 会員や財源の確保などを加えた総合的なマネジメントが必要不可欠となってきている また 大学を拠点とした総合型クラブに着目した研究では 設立 組織づくりやクラブのあり方 地域住民へのニーズ調査 あるいはプログラムの運営や開発 成果報告などが散見される これらの報告からは 大学がもつ社会的資源を利用できることが魅力とされる一方 地域住民に総合型クラブの存在意義や必要性 民間スポーツクラブとの差別化を明確にする広報に加え 本来の教育活動や学生らのクラブ活動などとの共存という課題が指摘されている 特に総合型クラブが学生の指導者育成の場あるいは資格取得の場として活用される方向性を見出しているものの 具体的な調査研究は行われていない 加えて 総合型クラブは地域住民が週 1 回以上のスポーツ活動を実践することを行動目標にしているものの 実際に週 1 回以上参加しているクラブ会員の運動効果については 十分な検証がなされていないのが現状である このようなことからも 今日の総合型クラブにおいては 会員獲得のためのマーケティング リサーチに加え 会員のクラブに対する満足度や継続意欲を高めるための魅力あるプログラムの提供が必要である そのためには クラブ会員の運動 スポーツに対する意識や価値観などの現状を把握するだけに留まらず 縦断的に探っていくことによる健康行動の変化を基礎資料として得ることが非常に有効となる またこの基礎資料は 大学を拠点とするメリットを活かしたクラブ運営を可能にするとともに 大学が社会的資源を有効活用することによる地域貢献へと

繋いでいくことができ 引いては 地域スポーツ振興システムを確立させていくうえで非常に有意義なものとなる 研究の枠組みと目的 本課題における研究全体の枠組みは図 1のとおりである まずは基礎研究として クラブ会員の運動 スポーツに対する意識や価値観ならびに活動量などの質的データや運動効果の測定値を収集して現状を把握する この基礎データを基に GIS や SNS 学生の人的支援を活用してクラブ会員の新規獲得 現クラブ会員のクラブに対する満足度や継続意欲の向上 そしてクラブ会員の運動効果を高めていくことを試みる さらには それらを縦断的に調査 測定を実施していくことによって クラブ会員における健康行動の変化を明らかにし 大学を拠点とするメリットを活かしたクラブ運営の基礎資料として得ることを目的としている このことは 将来の地域スポーツ振興システムの基礎資料として繋がることであろう そのため本報告書では まずはその基礎的研究となる実態調査から得られた結果をまとめることとした 後の社会的実験を試みるためにもクラブの現状分析を行うことは非常に重要なことであり クラブ運営を安定かつ継続させていくためにも必至である そこで 大学を拠点とした総合型クラブに着目し クラブ会員の特性やクラブへのコミットメント クラブの選定要因 そして実際の運動効果を明らかにすることにより 今後 大学を拠点とするメリットを活かしたクラブ運営における基礎資料を得ることを目的とした 基礎研究 社会的実験 健康行動の変化 実態調査GIS を用いたマーケティング リサーチ SNS を活用したネットワークづくり 運動 スポーツに対する 意識 価値観 活動量 運動効果 地域スポーツ振興システムの基礎資料 学生の指導実習を活用したクラブ会員への人的支援 など 課題の抽出 改善 / 縦断的な調査 図 1. 研究の枠組み ( 本報告書では破線で囲んだ部分を中心に記載 ) 研究方法 本研究では 大学を拠点とするメリットを活かした今後のクラブ運営における基礎資料を得るために 次の2つの視点からの調査ならびに測定を実施した 1. 社会学的ならびに経営学的視点による調査調査対象 : いきいき大東スポーツクラブの成人会員 ( 大学生を含む ) 調査時期 :2010 年 7 月 ~9 月

調査方法 : 集団面接法ならびに留置法による質問紙調査調査内容 :1 個人的属性 2 活動志向 3クラブ満足度 4 活動成果 5 組織コミットメント (OCQ) 6クラブ選定有効回収率 :76.2%( 有効回答数 115/ 配布数 151) 2. 生理学的視点による測定および調査調査対象 : いきいき大東スポーツクラブで週 1 回以上プログラムに参加している健常高齢女性 13 名測定時期 :2010 年 3 月 ~12 月 ( クラブ利用開始時と 6 ヶ月後の 2 回測定 ) 測定方法 : 自転車エルゴメーターを用いた心肺運動負荷検査最高酸素摂取量のプロトコルは 15w/ 分のランプ負荷とし 中止基準は年齢予測心拍数の 100% を超えた時 または血圧が 200 を超えた時とした 調査内容 :1 個人的属性 2 参加教室数 3 運動時間 4 運動頻度 5 運動強度 運 研究の成果 本研究における調査 測定の結果から 研究の成果としては以下の通りに集約される < 社会学的ならびに経営学的視点による調査 > 1) 本クラブの会員は楽しさ志向の男子大学生 (27%) 健康志向の中高年専業主婦(38%) そしてそれ以外 (35%) の3 群に分類できたことが その特性としてあげられた また会員の約半数が 本クラブの設立がきっかけとなって運動 スポーツを始めていた 2) クラブ満足度については スタッフ ( 指導者や担当者 ) の対応 プログラムの指導内容 施設 設備 といった大学ならではの資源に対する評価が高く 一方 プログラムに関する項目 ( 種目数 時間帯 頻度 ) や 会員との交流 の評価が低かった また クラブ運営全体の満足度 の項目のみ 大学生を中心とした男性の若年層が 他のクラブ会員よりもその満足度が高いことが明らかとなった 3) クラブへ加入することにより ストレス解消や気晴らしができたなど 運動 スポーツ自体の効果よりもそれを介した成果が向上していた この個人的な成果に比べ 会員との交流に満足していないことから 地域 に根ざすことがその設置目的の一つである総合型クラブとして 現時

点ではその役割が果たせていないといえる また学生はクラブを通して 地域 というものに関心を持っているが それ以外の会員 については総合型クラブという観点からではなく 民間スポーツクラブに通っているという認識が強いことがうかがえた 4) 本クラブの会員はクラブに対してコミットメントしており クラブへの入会に対しても肯定的な評価が得られていた しかしながら 若年層の男性はクラブの維持や発展に対して貢献しようとする意志が見受けられる一方 それ以外の会員においては クラブへの帰属意識はあるものの クラブの発展や存続に関する意識についてはほとんどなかった 5) クラブに対する組織コミットメントを規定する要因は クラブ満足度 であり クラブへの継続意欲を規定する要因は 組織コミットメント であった このことは クラブに対する満足度が高いほどクラブへの関わりが強く クラブへの関わりが強いほどクラブに対する継続意欲が高いことを意味する 6) クラブを選定する際には 大学を拠点あるいは大学と連携することで可能となるプログラムや要因が最も重視されていた < 生理学的視点による測定および調査 > 1) 各運動習慣と酸素摂取量の増加量との関係については 参加教室数 運動時間 運動頻度は関連性を認めなかったが 運動強度においてその関連性を認めた このことは 高齢者の最高酸素摂取量を高めるには 運動時間や運動頻度よりも運動強度が重要であることを示唆している 2) 高齢者であっても運動強度の高い運動は 一回拍出量の増加を介して 最高酸素摂取量を向上できる まとめ 本クラブの会員はクラブに対して概ね一定の評価をしているが 学生以外の会員においてはクラブへの帰属意識はあるものの クラブ自体の発展や地域への関心が低いことが懸念される クラブの発展に繋がる会員の継続意欲を強めるためには 何よりも現在のクラブ満足度を高めることが先決であることに加え 会員との交流について満足度が高くなかったことから クラブスタッフが会員との日常会話の中から満足度向上に繋がるヒントを見出すとともに クラブ全体で 会員同士の交流を深める仕組みや雰囲気をつくる ことが喫緊の課題であるといえよう また大学を拠点とするクラブとしてのメリットに対する満足度は非常に高かったものの その認知度が低かったことから 大学資源を有効活用した健康プログラムの広報活動 を行うことに加え 施設を有効活用して会員の要望に応じた プログラムの時間設定 が 本クラブ運営における今後の課題としてあげられた 一方 総合型クラブ会員の高齢女性は 週 1 回以上の運動で最高酸素摂取量が増加することが明らかとなり その運動効果が認められた またその要因は トレーニング内容や運動時間よりも 主観的運動強度が高いこと であった つまり 主観的運動強度による ややきつい と感じるような運動を 週 1 回以上実践 継続することにより 持久的能力の向上が見込まれることが判明した

このようなことから 日常生活レベルを超える運動強度のプログラムを安全に提供でき かつ健康でいられるからこそ楽しく生活できるといった QOL( 生活の質 ) の向上 に貢献できるところに この総合型クラブの意義や価値があることが再確認できたと考えられる 平成 23 年 8 月にはスポーツ基本法が成立 施行されたことにより その基本理念の一つである 地域において 主体的に協働することによりスポーツを身近に親しむことができるようにするとともに スポーツを通じて 地域の全ての世代の人々の交流を促進し 交流の基盤を形成 ( 文部科学省,2011) において 今後 ますます総合型クラブへの期待が高まるとともに その存在意義や社会的責務が大きくなっていくことであろう それに応えていくためにも 大学を拠点とするメリットを活かしたクラブ運営は 大学の社会的資源を有効活用することや地域 社会貢献へと繋がるだけに極めて重要であるといえる 今後はクラブ会員の新規獲得を図ることによって より多くの地域住民に総合型クラブへの加入による心理 社会的効果や運動効果を提供していくべきであろう そのためにも GIS を用いたマーケティング リサーチや SNS を活用したネットワークづくりはその一助になると考えられ 引き続き 導入の検討を進めていく また学生の指導実習を活用したクラブ会員への人的支援を導入することにより これまで以上に現会員に対して個々に応じたサポートが充実できると考えられることから クラブ満足度が向上するだけでなく 健康行動にもより効果的な変化が認められることであろう このことは 学生にとっても指導者としての研鑽の場となり得るだけに そのシステムを構築することは非常に有意義なことである 以上のようなクラブの機能や効果は 地域住民のスポーツ活動の参加をより強く後押しすることに繋がる 加えて クラブ会員 ( 地域住民 ) クラブ そして大学の三者間において Win-Win の関係が保たれると考えられることから まさに本クラブが 地域の拠点 となるべく その運営形態を構築していく使命がより浮き彫りとなった

大学を拠点とする総合型地域スポーツクラブの会員に関する一考察 國本明德 ( 人間環境学部 ) 文部科学省によると 総合型地域スポーツクラブ ( 以下, 総合型クラブ ) は 2010 年 7 月現在 全国に 2,664 クラブが設置されており 様々な設立 運営形態がみられるようになってきた なかでも大学を 拠点 もしくは大学と 連携 している総合型クラブは 40 クラブで それに係わる大学は38 校を数えるまでになった ( 文部科学省生涯スポーツ課,2009 年 3 月現在 ) この総合型クラブの多くがヒト ( 指導者やスタッフ ) モノ( 施設 ) 情報( 専門的知識やノウハウ プログラム ) 等の社会的資源の少なさを運営課題としてあげていることから これらの資源を有している大学との連携による運営で多くの課題解決を図ることができ かつ総合型クラブとしての理想的な運営が可能となる また地域住民の立場からするとシンボル的地域財である大学との連携によるその資源の活用は ヒトやプログラムの質 経済的価値 アクセス面 安心感など様々なメリットを享受できる しかしながら 大学資源を有効活用し より質の高いクラブ運営をしていくためには まずはクラブ会員の内情を把握することが重要である この点については 大学側にとってもより積極的に地域住民やクラブ運営の支援に関わっていくための貴重な資料となることから ここではクラブ会員の特性や満足度について明らかにすることとした そのため 大学を拠点とする総合型クラブ いきいき大東スポーツクラブの成人会員 ( 大学生を含む ) を対象に 集団面接法ならびに留置法による質問紙調査( 実施時期 :2010 年 7 月 ~ 9 月 ) を実施した なお 有効回答数は 115 部 ( 有効回収率 76.2%) であった 調査項目には 個人的属性 活動志向 クラブ満足度を設定し 満足度においては5 段階評定尺度を用いて満足度の高い順に 5 点から 1 点の得点を与えて数量化した また会員特性の特徴をみるために t 検定ならびに F 検定を行った その結果 本クラブの会員特性として 楽しさ志向の男子大学生 健康志向の中高年専業主婦 そして それ以外 の 3 群に分類できることが明らかとなった また入会目的や活動志向から 8 割弱の会員が 健康 を意識してクラブ活動を行っていた さらに会員の約半数が本クラブの設立がきっかけとなって運動 スポーツを始めていたことから スポーツライフを支援できたという点における貢献度は高いといえよう クラブ満足度については スタッフ ( 指導者や担当者 ) の対応 プログラムの指導内容 施設 設備 といった大学ならではの資源に対する評価が高く 一方 プログラムに関する項目 ( 種目数 時間帯 頻度 ) や 会員との交流 の評価が低いことが明らかとなった この原因の一つには 大学の施設であるがために授業時間外での利用に限られてしまうことがあげられる また クラブ運営全体の満足度 の項目のみ 大学生を中心とした男性の若年層が 他のクラブ会員よりもその満足度が高いことが会員特性として表れた 今後は上述した結果を基にクラブ運営を改善することによって 大学を拠点とするメリットを活かしたクラブづくり をしていくべきである そのためには大学側の協力が必至であるが その関与の在り方や度合いによってクラブ運営が大きく左右されることに注視しながら お互いの協力体制を整えていくべきであろう

総合型地域スポーツクラブでの週 1 回以上の運動習慣が 高齢者の酸素摂取量に及ぼす影響 正見こずえ ( 人間環境学部 ) 総合型地域スポーツクラブ ( 以下, 総合型クラブ ) は 1) 地域住民により自主的 主体的に運営される参加者主体型 2) 多世代 3) 多種目 4) 多志向のスポーツクラブとして全国に展開中であり 様々な心理 社会的な効果が報告されている ( 佐藤,2009) またスポーツ振興基本計画では 地域住民が総合型クラブで週 1 回以上の運動実践を勧めているが 具体的な検証は行われておらず 総合型クラブの会員を対象とした生理学的な効果についても ほとんど明らかにされていない そこで本研究では 総合型クラブ会員の高齢女性 13 名 ( 平均年齢 :68.0±4.0 歳 62-75 歳 BMI:22.7±3.1) を対象として 週 1 回以上のクラブの利用が持久的能力を高めるかどうかを検証することとした 持久的能力の指標には最高酸素摂取量を用い クラブ利用開始時と 6 ヶ月後の 2 回測定した 最高酸素摂取量の測定には 自転車エルゴメーターを用い プロトコルは 15w/ 分のランプ負荷とした なお 中止基準は年齢予測心拍数の 100% を超えた時と血圧が 200 を超えた時とした また被験者には質問紙調査も実施し 1 参加教室数 2 運動強度 31 回の運動時間 4 運動頻度を明らかにした その結果 被験者の 6 ヶ月後の最高酸素摂取量は有意に増加した (16.5±1.9 17.7±3.2ml/min/kg:p=0.001) また質問紙の項目と酸素摂取量の増加との関係についてみてみると 1 参加教室数 (1 教室 vs. 2 教室以上 : 0.88 vs. 2.2 ml/min/kg;ns) 2 運動時間 (30 分未満 vs. 30 分以上 :1.74 vs. 1.53 ml/min/kg;ns) 3 運動頻度 (1 回 vs. 2 回以上 :1.15 vs. 3.13 ml/min/kg;ns) の 3 項目については関連性を認めなかったが 4 運動強度 ( 楽 vs. ややきつい以上 :1.03 vs. 2.54 ml/min/kg;p=0.074) においては関連の傾向を認めた したがって 総合型クラブに参加する高齢女性は 週 1 回以上の運動習慣でも最高酸素摂取量が増加することが示唆された また具体的な運動内容については そのトレーニング内容や時間よりも 強度が高いこと が酸素摂取量の増加に重要であると考えられた 高齢者の最高酸素摂取量維持には 時間や頻度よりも強度が重要であると論ずる先行研究は見当たらないが Kemmler ら (2010) は 高齢女性を対象にした高強度の有酸素トレーニングが低強度のトレーニングと比べて 安全に最高酸素摂取量が改善したことを報告しており 本研究と同様な結果を報告している つまり 高齢者であっても強度の高い運動は 一回拍出量の増加を介して最高酸素摂取量を向上させることが明らかとなった 以上のことから 総合型クラブに参加する高齢女性を対象とし 週 1 回以上の運動習慣がもたらす生理学的効果を検証した結果 持久的能力を高めることが示唆された このことからも 日常生活を超えた強度運動のプログラムを安全に楽しく提供できるところに 総合型地域スポーツクラブの意義があり 生理的な効果だけではなく 心理的さらには社会的効果と合わせて 総合型クラブが果たす機能を世間一般に周知させていくことが極めて重要である