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148 國田祥子 う しかし, 携帯電話の表示領域は一般的に紙媒体で読まれる文章の表示領域よりも明らかに小さい また, 國田 中條 (2010) は紙媒体としてA4に印刷したものを用いている これは, 一般的な書籍と比較すると明らかに大きい こうした表示領域の違いが, 文章の読みやすさや印象に影響を

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大森一伸 Ⅰ. 緒言運動習慣を獲得すると生活習慣病への罹患リスクが低下する それに加えて最近の研究では, 運動によってうつの予防などのように精神的な効果もあることが分かっている 青木 (2002 年 ) は, 運動の不安軽減効果およびうつ軽減効果について, 先行研究を精査して再検討した結果, 低から中程度の強度での運動によるうつ軽減効果を報告している また, 寺谷と青木 (2008 年 ) は, 運動療法の効果として, 運動機能の向上に加えて, 知的機能, 感情機能などの日常生活行動全般の改善, 社会性, 社交性の向上を報告している このような効果が得られるのは, 運動により脳内の血流が上がることが主な理由だと考えられえいる 仁木と春日 (2012) らによると,10 分間のジョギング運動を実施したところ, 運動中の脳血流量の増加は50%VO₂max 付近の運動強度が最大となる可能性が示唆され, 低から中強度の運動により前頭前野の血流量は増加することを報告している さらにベソンリュウ (2015) によると, 若年者を対象とした一過性運動では,30 分間の中等度強度 (70%HRmax) での有酸素運動は, 実行機能の下位機能の一つである認知的柔軟性を向上させることを報告している 以上のように, 運動を行うと脳内の血流量が上昇し, 精神的機能を改善させると考えられる 近年, 脳科学が発展するなかで, 脳の実行機能を簡易に計測するストループテストが開発されている カラーストループテストは, 遂行機能の中でも習慣的行為の制御をみる検査で, 日常的に学習した自動的な文字の読みに対して, 色命名を読むということで, 習慣化した行動の制御機能に反 映した指標であるストループ現象をみる ( 細田ら, 2009) 特に, 認知的葛藤を利用し, その葛藤に生じる時差を比較し認知的機能を簡易的に測定するものである 近年このカラーストループテストを用いて, 運動が脳の認知機能に及ぼす影響について検討した研究が多く報告されている 山本ら (2007) は15 分間の歩行の前後でストループテストを行い, それぞれの得点を比較した その結果, ストループテストの成績が運動後に改善したことを認めている また, 征矢 (2014) は 10 分間の軽強度運動 ( 自転車ペダリング運動 ) でも, 注意 集中, 判断, 計画 行動能力などの認知機能 ( 実行機能 ) を支配する脳の部位の活動が高まり, 実行機能が向上することを報告している このように軽強度運動をするとストループテストの成績が改善することが報告されている このことから, 近年では, ジョギングやウォーキングなどの軽強度運動が精神的機能にも好ましい効果をもたらすことが期待されている 2016 年スポーツマーケティング基礎調査 ~リオオリンピックで日本人選手が活躍するも, スポーツ関連の消費拡大につながらず~ によると, 愛好しているスポーツでの回答が1 位ウォーキング,2 位ジョギング ランニングなどが挙げられている 一方で, テニス, フットサルなどのようにジョギングや自転車以外の運動も多く愛好されている これらの運動の特懲は, 低強度であっても, 強度が間欠的に変化し, 一定の動作をくり返すわけではないことである したがって, ジョギングや自転車以外の運動であっても, 認知機能が改善されるのかについて検討することは, 意義深いと思われる 筆者の知る限り, フットサルやテニスのように間欠的な運動様式での低強度運動が, 1

駿河台大学論叢第 54 号 (2017) 認知機能の改善するのかについて検討したものは見当たらない そこで, 本研究では, 間欠的な運動様式のバドミントンがストループテストの成績に及ぼす影響をジョギングと比較検討した Ⅱ. 方法 1) 対象者対象者は, 駿河台大学 20 代の健常な男子学生 10 名であった 彼らの平均の年齢, 身長, 体重は 21.6±0.5 歳,173.9±7.0cm,65.3±3.2kgであった 彼らは, 本研究の内容ならびに起こりうる危険などについて, 十分に説明を受け理解したうえで, 自由意志にて同意書に署名して, 実験に参加した 2) 実験の概要とプロトコール本研究では, 一過性での短時間軽強度運動がストループテストに及ぼす影響について検討した 実験では, まず, 安静前にストループテストを5 回計測し, その後,20 分間の安静状態を取った後に再びストループテストを5 回計測した その後引き続いて, 低強度運動を20 分間行った 運動はバトミントンまたはジョギングであり, 運動時心拍数は毎分 120 拍に保つように行った 20 分間の運動終了後はすみやかに安静状態を保ち, 心拍数が毎分 90 拍以下に低下した時点で, ストループテストを5 回計測した 各被験者はこれら一連の測 定を, 運動でジョギングを行う場合と, バドミントンを行う場合の合計 2 回実施した 3) 測定方法実験運動は体育館で20 分間のバトミントンを2 人 1 組のペアになり, シングルスの形式で実施した また, トレランニングマシン (Senoh ラボードLX2200) で20 分間のジョギンングを行った ストループテストは, ColorTapper を用いた テストでは RED BLUE YELLOW GREEN BLACK の文字が異なる文字色でランダムに1つ出題され, それを文字の下に表示されている, 赤, 青, 黄, 緑, 黒の色のついた四角がランダムに5つ整列しており, その中から正しい文字色をタップするものであった 10 問連続正解するとクリア時間が表示される また, 実験の前に10 回以上実施し, 学習による効果を無くしクリア時間の向上がなくなったことを確認した 計測場所は静かで安静にできる場所で計測した 心拍数は腕時計型の計測装置 (POLAR RS400) で計測した 4) 統計処理得られた心拍数とストループテストの成績は平均値と標準誤差で示した 運動中の心拍数の平均の差の検定には対応のあるt 検定を用いた ストループテストの成績の差の検討には, 一元配置の分散分析を用いた 有意水準は5% 未満とした 2

Ⅲ. 結果図 1にはジョギングとバドミントン中の10 名の心拍数の平均値を示した ジョギングは運動開始 3 分で, また, バドミントンは4 分で目標心拍数の 120 拍 / 分に達した 両者ともその後は120~130 拍 / 分の間を推移した 両者の20 分間の平均心拍数は, ジョギングが121.07±2.52 拍 / 分とバドミントンが120.52±1.13 拍 / 分で統計的な違いはなかった 表 1には, ストループテストの結果を示した バトミントンではコントロール, 安静後, 運動後で変化は見られなかった しかし, ジョギングではコントロールと安静後と比べると, 運動後の成績が有意に向上した Ⅳ. 考察本研究では, 間欠的な低強度運動で行われたバトミントンがストループテストの成績に及ぼす影響を, ジョギングの場合と比較検討した その結果, 安静状態と比べてジョギング後ではストロープテストの成績は有意に改善したが, バドミントン後のストループテストの結果は安静状態と変わらなかった 低強度の一過性運動を行うことによる脳機能の改善の主な要因として, 脳血流量の増加が挙げられている 織田 (2012) らによると, 自転車エルゴメーターでの一過性運動後に, 前頭前野の血流の増加がしていたことを認めている さらに, 深尾 (2008) らは, 他動揺動運動によって脳内の血行動態が変化を起こし, その後のストループテストが良くなったことを報告している これらの先行研究を考え合わせると, 本実験では, 一過性の ジョギングにより脳内の血流が増加し, そのことがストループテストの成績を改善させた可能性が考えられる また別の要因として, 運動をすることによって, 脳内の神経伝達物質の分泌が亢進することも関連しているかもしれない すなわち, アドレナリン, ノルアドレナリン, ドパミン, セロトニンなどの脳内の神経伝達物質の分泌亢進がストループテストの成績に影響しているかもしれない 佐野ら (2002) によるとリズミカルに気分よく昇降運動した結果, 運動後に脳内のセロトニン神経系を増加させることを報告しいている セロトニンには精神機能と関連することが多くの研究で認められている ( 佐野ら,2002) したがって, 本実験でのジョギングはリズミカルな運動形式なので, ジョギングをすることによってセロトニン神経伝達物質の分泌を促進させ, そのことがストループテストの成績を改善刺せた可能性が考えられる 以上のように, 先行研究で報告されているのと同様に, 本研究においても20 分間のジョギングによってストロープテストの成績が向上することが明らかとなった 一方で, 本研究の20 分間のバドミントンでは, 平均心拍数がジョギングと同じであったにもかかわらず, ストループテストの成績に変化は認められなかった バドミントンでは, シャトルが小さいこと, どこに飛んでくるかわからないので, ラリーを続けるためには, シャトルや相手の位置などの動きを把握する必要があるために集中力が求められる また, ジョギングなどの一定運動とは異なり, 急激な動きと短い静止状態を繰り返す間欠的な運動 表 1. ストループテストの成積 ( 秒 ) 平均値 + 標準誤差 コントロール 安静後 運動後 バドミントン 7.86±0.23 7.76±0.20 7.63±0.30 ジョギング 7.81±0.21 7.80±0.19 7.44±0.24# # はコントロールと安静後よりも有意に低いことを示す (P<0.05) 3

駿河台大学論叢第 54 号 (2017) である さらに, 動作も一定の動きをリズムよく繰り返すものではない これらのことがストループテストの成績に影響していたのかもしれない 石垣ら (1977) は,2 点間を反復移動する動体視標を目で追った場合の, 動体視力に及ぼす影響について検討した その結果, 対象者に2 点間を反復移動する動体視標を10 分間にわたり目で追従するテストを行うと, 動体視力が一過性に低下したことが報告している バドミントンは往復するシャトルを追従しなければならない したがって, 低強度運動であっても,20 分間のバドミントン後は視力を低下させていた可能性がある この視力低下がストループテストに影響を及ぼしたのかもしれない 先述したように, 運動すると前頭葉の血流が高まり ( 織田 2012), このことが運動によるストループテスト向上効果をもたらしていることが考えられている 一方で, 小山ら (2010) は, うつ病に罹患した労働者 25 名と健康対照者 20 名を加えた45 名を対象に, 労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリストを用いて, 疲労感, 疲労蓄積度, 睡眠障害の程度と脳血流との関連について検討した その結果, 疲労感の高さは背側前頭葉の血流低下に関連があったことを報告している すなわち, 疲労感を感じると脳の血流量が低下する可能性がある 本実験でのバトミントンではシャトルを目で追う動作で集中力を要したために, 運動中の心拍数は同等であっても, ジョギング時よりも疲労感を感じていたのかもしれない そのため, 前頭葉の血流量がジョギングをした時よりも低下しており, ストループテストの成績が改善されなかったか可能性が考えられる しかし本研究では運動中の脳血流量は計測していないので, このことについては今後の検討課題である 佐野ら (2002) は, リズミカルに気分よく昇降運動した結果, 運動後に脳内のセロトニン神経系を増加させることを報告しいている セロトニンには精神機能と関連することが多くの研究で認められていることから, リズミカル運動による精神機能改善の要因の一つである これらのことから, 本実験でのバトミントンではリズミカルな運動ではなかったため, セロトニン神経系が増加されず, ストループテストの成績が改善されなかった可能性が考えられる 一方で, 石原ら (2015) は, 中高齢者を対象に, ボウリングとランニングの習慣化がストループテストに及ぼす効果を検討している その結果, 非運動習慣群と比較して, ボウリングを習慣的に行っている者は, ランニング愛好者と同等に, ストループテストの成績が高い水準であることを認めている したがって, 運動形式がランニングと異なっても習慣化することによって, ストループテストの成績が改善するのかもしれない 本研究のバトミントンは一過性の運動でありストリープテストの成績は改善しなかったが, バトミントンを習慣化すれば, ストループテストの成績は改善するのかもしれない Ⅴ. まとめ本研究では,20 分間の低強度がストループテストに及ぼす影響を検討した その結果 20 分のジョギングを行うとストループテストの成績は安静状態での成績よりも有意に改善された しかしながらジョギングと同じ心拍数にもあったにも関わらず,20 分間のバトミントン後の成績は安静状態の成績と変わらなかった 以上のことから低強度運動であっても, 運動の形態が異なると必ずしもストループテストの成績が改善されない可能性が示唆された 低強度運動が脳の機能を改善することは多くの研究結果から明らかになっているが, それらの研究で用いた運動のほとんどがジョギング, 自転車エルゴメーターといった同じ動作をリズムよく繰り返す運動である しかしながら本研究の結果から, 低強度の運動であっても運動の形式が間欠的でリズムが一定でない運動やスポーツは必ずしも脳機能を改善しない可能性が考えられた 4

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