都市経済学 平成 25 年 7 月 10 日 第 8 章 地価と土地政策 Copy Rights: Ryohei Nakamura
1. 地価と土地問題 1.1 地価動向とその特徴 p.122 p.124 1.2 日本の土地問題 p.125 p.126 2. 土地と土地市場 2.1 土地の特性 p.129 2.2 留保需要 p.128 3. 地価と地代の理論 3.1 ストックとフロー p.130 p.132 3.2 MF(Market Fundamentals) 4. 土地の値段とは 4.1 地価評価 4.2 土地の評価方法 5. 土地税制とその効果 p.140 5.1 固定資産税 p.141 p.143 5.2 譲渡所得税 p.143 p.145
1. 地価と土地問題 1.1 地価動向とその特徴 過去 3 度の地価高騰期 1960 年代前半 ( 昭和 35 年 ~) 高度経済成長時代 太平洋ベルト地帯における工業用地の需要により 特に工業地の地価が高騰 1970 年代前半 ( 昭和 45 年 ~) 大都市近郊の住宅地 団塊の世代の住宅需要を中心に 特に住宅地の地価が高騰 1980 年代後半 ( 昭和 60 年 ~) 東京都心部から波及 都心部のオフィス需要の増大により 特に商業地の地価が高騰
1.2 日本の土地問題 大都市圏では 戦後長い期間に渡って高い地価上昇率を持続した < 地価高騰の問題点 > 1 社会資本の整備拡充も妨げ 2 地価高騰は個人間の所得格差を拡大させる 地価変動 キャピタル ゲインを目的とした投機 リスクを伴う投機には運不運があるので所得格差を生み出す それは 投機を行わない個人の資産形成にも影響を及ぼすことにもなる < わが国の土地の価格が高いのはなぜか > 主たる原因は 土地の低度利用 であるといわれる 土地利用の効率が悪く 供給が需要に追いつかず地価が高騰するからである わが国では 大都市圏の市街化区域内に大量の農地が残存している また 法定容積率に はるかに満たない宅地も多い 1986 年における東京都区部の法定容積率が 242% であるのに対して 現実の容積率は 95% にすぎない 計算上は わが国の全都市住民 6400 万人のすべてを首都圏にらくに収容できるはずなのである
<なぜ土地は 低度利用されてしまうのか> 1 土地を利用することが目的ではなく 資産目的で保有されるから 土地資産は他の資産に比べて税制上有利であり 投機の対象にされることもある そのため 利用されずに遊休地化する 2 建物に不可逆性があるから 建物には耐久性があるが 古くなると取り壊して新たに建替えなければならない 建替えには巨額の費用がかかるので そのタイミングが大事である 長期的な効率性からは 目先の需要を満たすべく低層の建物を建てることは賢明ではない しばらく遊休地にしておいて 周辺開発が進み 機が熟したときに高層ビルを建てた方がよい このような場合の土地の価格は 遊休地にもかかわらず高い しかし 将来高層ビルが建つ潜在需要がある訳だから 高地価が効率性を減じているのではない 短期的には非効率的に見えても長期的には効率的なので この場合には低度利用が悪いとはいえない 3 借地権の保護が強いことがあげられる 近年 借地借家法が一部改正されたが 借地人の権利は依然保護されているのが現状である そこで地主は 現金の必要が生じない限り土地を売却せず賃貸しもしないので 供給は進まない
2. 土地と土地市場 2.1 土地の特性 1 生産 再生産することができない供給が固定的 2 移動することができない空間的位置が固定されている 3 減耗することがない耐久消費財に一種似ている 4 位置によって性質が異なる農業の場合は肥沃度 5 生産要素である需要は, 利用に対する派生需要 6 投機の対象となる資産価値の変動
2.2 土地の留保需要 土地保有者 ( 地主 ) による市場への土地供給 土地保有量 (L) は 土地保有者が自らが使う留保需要 (l) と市場への土地 供給量 (L-l) に分けられる z 無差別曲線 土地所有者の地代収入は r(l-l) 予算制約式は 他の所得源がないとすれば r(l-l)=p z z 効用関数は U=U(z,l) l
右上がりの土地供給曲線 ( 右下がりの留保需要曲線 ) 消費財 U A 土地価格が上昇したときどうなるか? U B r L p z 土地所有者の予算制約式 r r z l L p p z z O 留保需要の減少 L 土地供給
右下がりの土地供給曲線 ( 右上がりの留保需要曲線 ) 消費財 U A 土地価格が上昇したときどうなるか? r L p z U B 土地所有者の予算制約式 r r z l L p p z z O 留保需要の増加 r / p z L 土地供給
3. 地代と地価の理論 3.1 MF 第 n+1 期首 ( 第 n 期末 ) における土地の予想価格を p n+1 とすると 土地を所有することによって得られる総収益の現在価値 p 1 は P r r r n 1 i 1i 1i t1 t2 tn 1 2 n t1 r t n1 n t 1i 1i 地価は地代の流列の割引現在価格 p
今期 ( 時価 )R の債券は 来期には R =R(1+i) になる ということは R=R /(1+i) より R の現在価値は R /(1+i) となる 第 1 期末の地代収入 r 1 の現在価値は 第 2 期末の地代収入 r 2 の現在価値は r1 1 i r 1 1 i 2 第 n 期末の地代収入 r n の現在価値は r 1 1 i n したがって 今期首の地価は 毎期毎期の地代の割引現在価値となる たとえば将来の第 4 期において道路が整備され利便性が増すと予想されると r 4 ( の予想値 ) が大きくなることで それが現在の地価に反映される p r r r (1 i) (1 i) (1 i) 1 2 3 1 1 2 3
第 n 期首における土地の予想価格 ( 時価 ) p n rn rn 1 rn 2 ( 1 i) 1 2 3 ( 1 i) ( 1 i) p n これより
4. 土地の値段とは 4.1 地価評価 土地評価制度 公示地価 基準地価格 路線価 固定資産税 評価額 所管官庁 国土交通省 ( 旧 : 国土庁 ) 都道府県国税庁市町村 基準日 1 月 1 日 ( 毎年 ) 7 月 1 日 ( 毎年 ) 1 月 1 日 ( 毎年 ) 1 月 1 日 (3 年に 1 度評価替え ) 発表日 3 月下旬 9 月下旬 8 月下旬 3 月 1 日 利用方法 国土利用計画の指導価格 土地収容の価格 公示地価の補完 相続税 贈与税の基準価格 固定資産税 都市計画税の基準価格 相対価格 100 100 80 70 公示地価の評価地点は 平成 19 年で 約 3 万カ所ある
4.2 土地の評価方法 収益還元法 不動産の運用によって得られると期待される収益 = 賃料を基に価格を評価する方法 年間の賃料 ( 厳密には賃料から諸経費を控除した純収益 ) を還元利回りで割ることで収益価格を出す 還元利回りは 物件の種類や条件によって変わる 一般的住宅では 5~7% 事業用は 8~10% が目安 取引事例法 評価すべき不動産と条件の近い物件の取引事例を収集し それとの比較によって評価する方法 売り急いだ物件や投機的な物件などは事例から排除する 現在の日本の不動産業界では 中古住宅 中古マンションの評価 査定などで一般に使われている手法 これによって割り出した価格を比準価格という 属性評価法 土地の属性 ( 区画 形 地形 ) 地点の特性 ( 前面道路 アクセス 周辺状況 ) などから土地価格を評価する
5. 土地税制とその効果 5.1 固定資産税 土地保有税は 土地保有者が毎年支払わねばならない税金固定資産税 都市計画税 特別土地保有税など 土地を一期間保有して 次の固定資産税がかかるとすると 土地の収益率は αp: 課税標準 (tax base) t: 税率 (tax rate) r ( p 1 ) n n pn t pn rn ( pn 1 pn ) t p p p n n n となり このことは土地資産に代替する資産 例えば金融資産の利子率が t α だけ上昇したのと同じ意味をもつ したがって 地価は p n rt t tn ( 1 i t ) と低下することが判る
5.2 譲渡所得税 τ: 譲渡所得税率 t=0 p 0 で購入 t 期首で売却 t 期首 地価 :p t 売却益 p t -τ(p t -p 0 ) t+1 期首 地価 :p t+1 利子率高いと有利 時間 t+1 期首で売却 その後 利子率 i で運用 r の地代収入の後 売却 売却益 p t+1 - τ (p t+1 -p 0 ) 地価値上がり高いと有利