第58回日本臨床細胞学会総会 スキルアップ講座 呼吸器(腺系以外)

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院内がん登録について 院内がん登録とは がん ( 悪性腫瘍 ) の診断 治療 予後に関する情報を収集 整理 蓄積し 集計 解析をすることです 登録により収集された情報は 以下の目的に使用されます 診療支援 研修のための資料 がんに関する統計資料 予後調査 生存率の計測このほかにも 島根県地域がん登録

図 1 乳管上皮内癌と小葉上皮内癌 (DCIS/LCIS) の組織像 a: 乳頭状増殖を示す乳管癌 (low grade).b: 篩状 (cribriform) に増殖する DCIS は, 乳管内に血管増生を伴わない時は,comedo 壊死を形成することがあるが, 本症例のように血管の走行があると,

各部門精度管理調査結果報告 ( 細胞検査 ) はじめに 細胞検査における精度管理調査は 日々のスクリーニング作業において誤判定を起こさないよう 自施設の判定基準が他施設と十分な同一性を保持しているかを確認することを目的としている 平成 30 年度の精度管理調査はフォトサーベイ 10 問としてた 精度

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1. 肺癌の分類 ( 病理と分子 ) 表 1 IASLC ATS ERS Preinvasive lesions Atypical adenomatous hyperplasia Adenocarcinoma in situ 3 cm formerly BAC Nonmucinous Mucinou

8480/3 Colloid adeno コロイド腺癌 膠様 ( コロイド ) 腺癌 粘液嚢胞腺癌 8333/3 Fetal adeno 胎児型腺癌高分化胎児型腺癌 8144/3 Enteric adeno 腸型腺癌 Minimally invasive adeno 微少浸潤性腺癌 印環細胞癌淡明細

院内がん登録について 院内がん登録とは がん ( 悪性腫瘍 ) の診断 治療 予後に関する情報を収集 整理 蓄積し 集計 解析をすることです 登録により収集された情報は 以下の目的に使用されます 診療支援 研修のための資料 がんに関する統計資料 予後調査 生存率の計測このほかにも 島根県地域がん登録

<原著>IASLC/ATS/ERS分類に基づいた肺腺癌組織亜型の分子生物学的特徴--既知の予後予測マーカーとの関連

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( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

れない 採取後 95% エタノールによって固定し パパニコロウ染色を実施した 標本は最初に細胞検査士によってスクリーニングされ 病理医によって確定診断された 細胞診標本の再評価は 著者と他 5 名の細胞検査士が行い病理医と評価した 判定はベセスダシステム 2001 に準拠し 上皮内腺癌の感度 scr

目次 1 部位別登録件数 2 部位別 性別登録件数( 上位 10 部位 ) 3 部位別 年齢階層別登録件数( 上位 10 部位 ) 4 部位別 組織型別登録件数 5 部位別診断時ステージ分布( 主要 5 部位 ) 6 部位別 治療行為別登録件数( 上位 10 部位 行為別件数上位 5 項目 ) 7

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するものであり 分子標的治療薬の 標的 とする分子です 表 : 日本で承認されている分子標的治療薬 薬剤名 ( 商品の名称 ) 一般名 ( 国際的に用いられる名称 ) 分類 主な標的分子 対象となるがん イレッサ ゲフィニチブ 低分子 EGFR 非小細胞肺がん タルセバ エルロチニブ 低分子 EGF

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目 次 はじめに... 独立行政法人国立病院機構北海道がんセンター臨床検査科病理主任平紀代美 Ⅰ. Liquid-based cytology(lbc) とは... 1 Ⅱ. 体腔液検体処理方法... 1 Ⅲ. 固定液の違いによる標本の違い (BD サイトリッチ レッド保存液 or BD サイトリッ

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最初に事後指導項目規定をお示し致します これらは 陰性スメアに対して行っております まず 取り扱い項目は要医療 要治療の 2 項目あります 要医療扱いの細胞所見は 一つ目に 炎症を伴う強度細胞異型の見られるもの 二つ目として 萎縮像に炎症を伴った強度細胞異型の認められるもの 三つ目として 核異型の伴

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32 子宮頸癌 子宮体癌 卵巣癌での進行期分類の相違点 進行期分類の相違点 結果 考察 1 子宮頚癌ではリンパ節転移の有無を病期判定に用いない 子宮頚癌では0 期とⅠa 期では上皮内に癌がとどまっているため リンパ節転移は一般に起こらないが それ以上進行するとリンパ節転移が出現する しかし 治療方法

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9 2 安 藤 勤 他 家族歴 特記事項はない の強い神経内分泌腫瘍と診断した 腫瘍細胞は切除断端 現病歴 2 0 1X 年7月2 8日に他院で右上眼瞼部の腫瘤を に露出しており 腫瘍が残存していると考えられた 図 指摘され精査目的で当院へ紹介された 約1cm の硬い 1 腫瘍で皮膚の色調は正常であ

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能性を示した < 方法 > M-CSF RANKL VEGF-C Ds-Red それぞれの全長 cdnaを レトロウイルスを用いてHeLa 細胞に遺伝子導入した これによりM-CSFとDs-Redを発現するHeLa 細胞 (HeLa-M) RANKLと Ds-Redを発現するHeLa 細胞 (HeL

ス化した さらに 正常から上皮性異形成 上皮性異形成から浸潤癌への変化に伴い有意に発現が変化する 15 遺伝子を同定し 報告した [Int J Cancer. 132(3) (2013)] 本研究では 上記データベースから 特に異形成から浸潤癌への移行で重要な役割を果たす可能性がある

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目次 1 全部位の概要 1-1, 部位別登録数 1-2, 年齢階級 部位別登録数 6 1-3, 来院経路 部位別登録数 8 1-4, 患者住所 部位別登録数 9 1-, 症例区分 部位別登録数 1 1-6, 発見経緯 部位別登録数 11 2 部位別詳細 2-1, 胃 , 大腸 14 2-

非小細胞肺癌の治療戦略

304 東京医科大学雑誌第 74 巻第 3 号 1 CT : 大 2 : MRI : TAE CT 大 170 mm17 cm 1 : 1 科 : CT 大 MRI 2 T1 号 号 2 号 T2 号 号 号 号 T2 号 号 1 flow void SFT 科

p53 遺伝子変異からみた肺がんの組織型別、亜型別発がん原因の相違

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Transcription:

第 32 回長野県臨床細胞学会総会 学術集会 2018 年 3 月 11 日信州大学旭総合研究棟 9F 講義室 A B 改訂肺癌取り扱い規約にのっとった 肺癌の細胞診診断 信州大学医学部附属病院臨床検査部 小林幸弘

本日の内容肺癌取扱い規約 ( 第 8 版 ) 改訂内容の概要 病理組織分類 診断 ( 免疫染色 ) 診断 ( 構成成分の割合 ) 診断 ( 気管支鏡生検 細胞 ) 症例 ( 気管支鏡細胞診 )

本日の内容肺癌取扱い規約 ( 第 8 版 ) 改訂内容の概要 病理組織分類 診断 ( 免疫染色 ) 診断 ( 構成成分の割合 ) 診断 ( 気管支鏡生検 細胞 ) 症例 ( 気管支鏡細胞診 )

改訂内容の概要 肺癌取扱い規約第 8 版 (2017 年 1 月 ) WHO 組織分類第 4 版 (2015 年 ) に準拠 腺癌 扁平上皮癌 神経内分泌腫瘍 ( 第 7 版では腺癌 扁平上皮癌 小細胞癌 大細胞癌の 4 大組織型が基本であった ) おのおの浸潤の有無によって分類 ( 第 7 版では腺系 扁平上皮系 神経内分泌系を一括りとした前浸潤性病変として分類されていた ) 細気管支肺胞上皮癌 (BAC) 上皮内腺癌 ( 第 7 版では BAC は予後 100% であるにも関わらず 進行腺癌の分類に入っていた ) 細胞診を含む気管支鏡診断の検討 肺癌集団検診 肺癌検診 第 8 版の序より

本日の内容肺癌取扱い規約 ( 第 8 版 ) 改訂内容の概要 病理組織分類 診断 ( 免疫染色 ) 診断 ( 構成成分の割合 ) 診断 ( 気管支鏡生検 細胞 ) 症例 ( 気管支鏡細胞診 )

病理組織分類 規約分類 ( 上皮性腫瘍 ) 腺癌 扁平上皮癌 神経内分泌腫瘍 大細胞癌 腺扁平上皮癌 肉腫様癌 分類不能癌 唾液腺型腫瘍 乳頭腫 腺腫 4. 病理診断表 1. より抜粋

病理組織分類 腺癌 定義 腺上皮分化を示す悪性の上皮性腫瘍である 上皮内腺癌 微少浸潤性腺癌 浸潤性腺癌 特殊型腺癌に分けられる 浸潤性腺癌は乳頭状 腺管状増殖や粘液産生 または肺胞上皮細胞マーカーが陽性を示すものと定義される 形態の亜分類としては置換型 腺房型 乳頭型 微小乳頭型 充実型の 5 亜型があり 最も優位な亜分類で診断名を付ける 浸潤性粘液性腺癌 は通常の浸潤性腺癌とは別に特殊型腺癌に分類 上皮内腺癌や微少浸潤性腺癌は従来通り非粘液性と粘液性に分ける 免疫染色を加味した定義に改訂

病理組織分類 腺癌 上皮内腺癌 Adenocarcinoma in situ(ais) 微少浸潤性腺癌 Minimally invasive adenocarcinoma(mia) 浸潤性腺癌 Invasive adenocarcinoma (5% 刻みで亜分類を記載 ) 置換型 Lepidic 腺房型 Acinar 乳頭型 Papillary 悪性度 微小乳頭型 Micropapillary 充実型 Solid 特殊型腺癌 Variants of adenocarcinoma 旧分類では 90% 以上の腺癌が混合型腺癌として分類されていたが 優位型による亜分類となった

病理組織分類 腺癌 Adenocarcinoma

病理組織分類 腺癌 Adenocarcinoma Lepidic

病理組織分類 腺癌 Adenocarcinoma Acinar Lepidic

第 7 版 WHO 分類 (1999) 混合型腺癌 Adenocarcinoma, with mixed subtypes (acinar > lepidic) Acinar Lepidic ( ) 内の表記 acinar + lepidic acinar > lepidic acinar 60%, lepidic 40% Acnar 60% Lepidic 40%

第 8 版 WHO 分類 (2015) 腺房型腺癌 Acinar adenocarcinoma (acinar 60%, lepidic 40%) Acinar Lepidic Acnar 60% Lepidic 40%

病理組織分類 置換型腺癌 解説 Ⅱ 型肺胞上皮 クララ細胞類似の腫瘍細胞が肺胞壁に沿って増殖する像が優位 置換性増殖自体は微少浸潤性腺癌や上皮内腺癌にもみられる 浸潤部分が0.5cmを超えるか それ以下の場合でも腫瘍径が3cmを超えること

病理組織分類 腺房型腺癌 解説 腫瘍細胞で囲まれた円形から楕円形の腺管構造を呈する像が優位 腫瘍細胞内や腫瘍腺管内に粘液を有するものもある 診断には弾性線維染色が推奨される( 置換性増殖と腺房状増殖の鑑別 ) 篩状構造も腺房型とみなす 篩状構造に粘液貯留を伴うmucinous cribriform patternはalk 融合遺伝子を有する腺癌の典型像の1つ

病理組織分類 乳頭型腺癌 解説 腫瘍細胞が線維血管間質を取り巻くように あるいは積み重なり 腫瘍腺管内や肺胞内を乳頭状に充満するように増殖する像が優位 線維芽細胞の増生を伴う間質がなくても浸潤とみなす 置換性増殖と乳頭状増殖の鑑別には弾性線維染色を行うことが望ましい

病理組織分類 微小乳頭型腺癌 解説 腫瘍細胞が花冠状に配列し 中心に線維血管間質を欠く腫瘍細胞塊として増殖する像が優位 腫瘍細胞塊は肺胞壁から非接着 接着いずれの場合もある 小花冠様 指輪状管腔構造を有し 核が集塊の外側に偏在し 気腔内に浮遊 優位でなくてもリンパ管浸潤や間質浸潤傾向があり 存在と割合の記載が望ましい Miyoshi, et al.: AJSP 2003

病理組織分類 充実型腺癌 解説 腺上皮細胞としての極性をもたない多角形の腫瘍細胞が 乳頭状 管状構造を作らず シート状に増殖する像が優位 強拡大 2 視野各々に5 個以上の腫瘍細胞内に粘液を確認できれば腺癌の充実増殖と判定する 粘液を認めなくてもTTF-1やnapsinAが陽性になれば充実型腺癌とする 印環細胞癌もこの亜型に属することが多く ALKやROS1 融合遺伝子との関連が報告されている

病理組織分類 扁平上皮癌 定義 角化または細胞間橋を伴う悪性上皮性腫瘍 あるいは 形態学的には未分化であるが免疫組織化学的に扁平上皮癌マーカーに陽性を示す非小細胞癌である 角化型扁平上皮癌 非角化型扁平上皮癌 類基底細胞型扁平上皮癌 免疫染色を加味した定義に改訂 乳頭型 淡明細胞型 小細胞型の特殊型は分類から外れた 類基底細胞型は通常の非小細胞肺癌と比べ予後不良

病理組織分類 角化型扁平上皮癌 解説 角化型は角化 癌真珠 細胞間橋の存在が特徴である これらの所見は種々の程度にみられる 角化型の解説としての説明は単純になった

病理組織分類 非角化型扁平上皮癌 解説 非角化型では大細胞癌との鑑別に免疫組織化学が必要である 形態で扁平上皮への分化を示さなくても免疫染色で扁平上皮癌マーカー陽性のものは扁平上皮癌の亜型に分類されることになった すなわち 扁平上皮癌マーカー (p40, CK5/6) がびまん性に陽性で 腺癌マーカー (TTF-1, napsina) は陰性を示す 以下省略 免疫染色により大細胞癌と鑑別する

病理組織分類 類基底細胞型扁平上皮癌 定義 純型では小型細胞が小葉状に増殖し 胞巣周辺で核の柵状配列を示す低分化な悪性上皮性腫瘍 明らかな角化を欠くが 免疫組織化学では扁平上皮癌マーカーが陽性となる 以下省略 p40(+) 神経内分泌マーカー (-) 高悪性度神経内分泌癌と鑑別 ( 第 7 版での大細胞癌の特殊型である類基底細胞癌は扁平上皮癌への分化はない ) p40

病理組織分類 神経内分泌腫瘍 定義 神経内分泌分化を示す腫瘍である ここでは特に上皮性腫瘍を示す 小細胞癌 大細胞神経内分泌癌 定型 異型カルチノイド びまん性特発性肺神経内分泌細胞過形成 Diffuse idiopathic pulmonary neuroendocrine cell hyperplasia(dipnech)

病理組織分類 小細胞癌 定義 単調に増殖する 比較的小型で N/C 比の高い細胞からなる悪性上皮性腫瘍 腫瘍細胞は円形 卵円形 または紡錘形などの形態を示し 細胞質は乏しく 細胞境界は不明瞭である 核は微細顆粒状のクロマチンを有し 核小体はないか あっても目立たない 核の相互圧排像がみられ 核分裂像やアポトーシスが多い ( 核分裂像は少なくとも 11 個 /10HPF 以上で 平均では 60~75 個 )

病理組織分類 混合型小細胞癌 定義 腺癌 扁平上皮癌 大細胞癌 大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) 肉腫様癌 肉腫などの非小細胞癌の成分を含む小細胞癌 大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) の成分を含む場合は その成分が 10% 以上の場合に本組織型に含めることとし それ以下の場合は 純型の小細胞癌とする それ以外の非小細胞癌の成分との混合型の場合は 量に関する規程はなく すぐに見出せる程度の量がある場合に本型とする 非小細胞癌成分の内訳が示され具体的になった 非小細胞癌成分の割合に関する記載が追加された 合併した非小細胞癌の成分は その組織型を診断名の一部とする例 )combined small cell carcinoma and adenocarcinoma

病理組織分類 大細胞神経内分泌癌 定義 神経内分泌分化を示唆する組織学的特徴を示し 典型的には空胞状で核小体をもつ核と豊かな細胞質をもつ大型細胞よりなる高悪性度の上皮性腫瘍 小細胞癌とともに神経内分泌癌の 1 つであり 神経内分泌分化を 免疫組織学的染色で確認する必要がある synaptophysin chromogranin A, synaptophysin, CD56(NCAM) が推奨され 一つでも 10% 以上の領域に明瞭に染まれば 陽性 ( 核分裂像は 11 個 /10HPF 以上を基準とし平均では 75 個 30 個未満はまれである )

病理組織分類 混合型大細胞神経内分泌癌 定義 腺癌 扁平上皮癌 巨細胞癌あるいは紡錘細胞癌が混在する 大細胞神経内分泌癌 合併した腺癌などの成分は その組織型を診断名の一部とする例 )combined LCNEC and adenocarcinoma 各成分の量に関する規程はなく すぐに見出せる程度の量がある場合に本型とする ただし小細胞癌が合併する場合は混合型小細胞癌とする

病理組織分類 カルチノイド腫瘍 定義 神経内分泌分化を示唆する組織学的特徴を示し 典型的には円形 ~ 類円形の揃った核とやや好酸性の細胞質をもつ 比較的 N/C 比の低い細胞からなる 低ないし中間悪性度の上皮性神経内分泌腫瘍 核分裂の数により 定型カルチノイドと異型カルチノイドに分ける 核分裂像 定型カルチノイド異型カルチノイド小細胞癌 2 個未満 /10HPF, 壊死 (-) 2~10 個 /10HPF, あるいは壊死巣を有する 11 個以上 /10HPF

病理組織分類 大細胞癌 定義 大きな核 顕著な核小体と中等量の細胞質をもつ細胞からなり 形態および免疫組織化学などの形質として 腺癌 扁平上皮癌 神経内分泌癌への分化を欠く未分化な悪性上皮性腫瘍 生検 細胞診では診断できない ( 非小細胞癌 NOS とする ) 免疫染色による判定は 4. 病理診断表 5. 参照

病理組織分類 腺扁平上皮癌 定義 扁平上皮癌と腺癌成分の両者から構成され それぞれの成分が腫瘍全体の 10% 以上を占めている癌腫 生検 細胞診では診断できない ( 非小細胞癌 NOS とする ) 扁平上皮癌と腺癌の成分が明確に分かれているもの 両者が連続的に移行 混在しているものがある

本日の内容肺癌取扱い規約 ( 第 8 版 ) 改訂内容の概要 病理組織分類 診断 ( 免疫染色 ) 診断 ( 構成成分の割合 ) 診断 ( 気管支鏡生検 細胞 ) 症例 ( 気管支鏡細胞診 )

診断 ( 免疫染色 ) 免疫染色による組織型の決定 腺癌 vs 扁平上皮癌 腺癌マーカー TTF-1, napsin A 扁平上皮癌マーカー p40, CK5/6 大細胞神経内分泌癌 神経内分泌マーカー CGA, synaptophysin, CD56(NCAM) 転移性腫瘍 腺癌形態でTTF-1 陰性 CK7( 肺 ), CK20 CDX-2( 大腸 ), ER( 乳腺 ) 非角化型扁平上皮癌 vs GATA3 Uroplakin3( 尿路上皮癌 ) CGA : chromogranin A

診断 ( 免疫染色 ) 形態学的未分化 / 低分化なケラチン陽性非小細胞癌 (NSCLC) の免疫染色による分類 TTF-1 p40 CK 5/6 診断 ( 切除 ) 診断 ( 生検 ) (+)( 部部的 or びまん性 ) (-) (-) 腺癌非小細胞癌 腺癌を示唆 (+)( 部部的 or びまん性 ) (+) (-) 腺癌非小細胞癌 腺癌を示唆 (+)( 部部的 or びまん性 ) (-) (+) 腺癌非小細胞癌 腺癌を示唆 (-) いずれかが (+)( びまん性 ) 扁平上皮癌非小細胞癌 扁平上皮癌を示唆 (-) いずれかが (+)( 部分的 ) 大細胞癌 注 1 非小細胞癌 NOS (-) (-) (-) 大細胞癌 注 2 非小細胞癌 NOS IHC なし IHC なし IHC なし大細胞癌 IHC なし非小細胞癌 NOS (IHC なし ) 注 1) 分化形質不明瞭 unclear phenotype 部分的 : 1~10% の腫瘍細胞に陽性注 2) 無分化形質 null phenotype びまん性 : 10% よりも多い腫瘍細胞に陽性 4. 病理診断表 5. より

診断 ( 免疫染色 ) 形態学的未分化 / 低分化なケラチン陽性非小細胞癌 (NSCLC) の免疫染色による分類 TTF-1 p40 CK 5/6 診断 ( 切除 ) 診断 ( 生検 ) (+)( 部部的 or びまん性 ) (-) (-) 腺癌非小細胞癌 腺癌を示唆 (+)( 部部的 or びまん性 ) (+) (-) 腺癌非小細胞癌 腺癌を示唆 (+)( 部部的 or びまん性 ) (-) (+) 腺癌非小細胞癌 腺癌を示唆 (-) いずれかが (+)( びまん性 ) 扁平上皮癌非小細胞癌 扁平上皮癌を示唆 (-) いずれかが (+)( 部分的 ) 大細胞癌 注 1 非小細胞癌 NOS (-) (-) (-) 大細胞癌 注 2 非小細胞癌 NOS IHC なし IHC なし IHC なし大細胞癌 IHC なし非小細胞癌 NOS (IHC なし ) 注 1) 分化形質不明瞭 unclear phenotype 部分的 : 1~10% の腫瘍細胞に陽性注 2) 無分化形質 null phenotype びまん性 : 10% よりも多い腫瘍細胞に陽性 4. 病理診断表 5. より

診断 ( 免疫染色 ) 形態学的未分化 / 低分化なケラチン陽性非小細胞癌 (NSCLC) の免疫染色による分類 TTF-1 p40 CK 5/6 診断 ( 切除 ) 診断 ( 生検 ) (+)( 部部的 or びまん性 ) (-) (-) 腺癌非小細胞癌 腺癌を示唆 (+)( 部部的 or びまん性 ) (+) (-) 腺癌非小細胞癌 腺癌を示唆 (+)( 部部的 or びまん性 ) (-) (+) 腺癌非小細胞癌 腺癌を示唆 (-) いずれかが (+)( びまん性 ) 扁平上皮癌非小細胞癌 扁平上皮癌を示唆 (-) いずれかが (+)( 部分的 ) 大細胞癌 注 1 非小細胞癌 NOS (-) (-) (-) 大細胞癌 注 2 非小細胞癌 NOS IHC なし IHC なし IHC なし大細胞癌 IHC なし非小細胞癌 NOS (IHC なし ) 注 1) 分化形質不明瞭 unclear phenotype 部分的 : 1~10% の腫瘍細胞に陽性注 2) 無分化形質 null phenotype びまん性 : 10% よりも多い腫瘍細胞に陽性 4. 病理診断表 5. より

本日の内容肺癌取扱い規約 ( 第 8 版 ) 改訂内容の概要 病理組織分類 診断 ( 免疫染色 ) 診断 ( 構成成分の割合 ) 診断 ( 気管支鏡生検 細胞 ) 症例 ( 気管支鏡細胞診 )

診断 ( 構成成分の割合 ) 構成成分の割合 類基底型扁平上皮癌 神経内分泌腫瘍 腺扁平上皮癌 肉腫様癌

診断 ( 構成成分の割合 ) 類基底型扁平上皮癌 類基底型扁平上皮癌 角化あるいは非角化型扁平上皮癌の成分を伴うことがあるが 類基底細胞成分が 50% を超えるものは類基底細胞型扁平上皮癌と分類される

診断 ( 構成成分の割合 ) 神経内分泌腫瘍 混合型小細胞癌大細胞神経内分泌癌成分 10% 以上 ( それ未満は純型の小細胞癌 ) その他の非小細胞癌成分 量に関する規定なし 例 Combined small cell carcinoma and adenocarcinoma ( 混合型小細胞癌および腺癌 ) 混合型大細胞神経内分泌癌小細胞癌成分 混合型小細胞癌その他の成分 量に関する規定なし明瞭な分化を示す肉腫成分 ( 異所性成分 ) 癌肉腫 例 Combined LCNEC and adenocarcinoma ( 混合型大細胞神経内分泌癌および腺癌 ) カルチノイド / テュモ レット胞巣径 0.5cm 以上 カルチノイド ( 腫瘍 ) 胞巣径 0.5cm 未満 テュモ レット ( 過形成 )

診断 ( 構成成分の割合 ) 腺扁平上皮癌 扁平上皮癌 腺癌の成分がそれぞれ腫瘍全体の 10% 以上を占めている癌腫 第 7 版では いずれかの成分が少なくとも腫瘍全体の 10% 以上 一方の成分が 10% 未満の場合は 所見の記載にとどめる 充実性部分は免疫染色 (TTF-1, napsina, p40, CK5/6) の結果 により腺癌 ( 充実型腺癌 ) 成分 扁平上皮癌 ( 非角型扁平上皮癌 ) 成分とみなされる これにより本型は頻度が増加すると推定される 生検 細胞診では診断できない ( 非小細胞癌 NOS とする )

診断 ( 構成成分の割合 ) 肉腫様癌 ( 肉腫あるいは肉腫様成分を含む非小細胞癌 ) 多形癌紡錘細胞 巨細胞の成分は腫瘍全体の10% 以上を占めるもの扁平上皮癌 腺癌の成分をみるときは その旨記載する 紡錘細胞癌紡錘形の腫瘍細胞のみからなる癌腫 巨細胞癌巨細胞性腫瘍細胞のみからなる癌腫 癌肉腫 giant cell 非小細胞癌と異所性成分を含む肉腫との混在からなる悪性腫瘍異所性成分がない 多形癌 肺芽腫低悪性度胎児型腺癌と未熟な間葉細胞成分からなる二相性の腫瘍高悪性度胎児型腺癌が含まれる場合 癌肉腫 生検 細胞診では診断できない ( 非小細胞癌 NOS とする )

本日の内容肺癌取扱い規約 ( 第 8 版 ) 改訂内容の概要 病理組織分類 診断 ( 免疫染色 ) 診断 ( 構成成分の割合 ) 診断 ( 気管支鏡生検 細胞 ) 症例 ( 気管支鏡細胞診 )

診断 ( 気管支鏡生検 細胞 ) 気管支鏡生検 細胞診での診断 肺癌患者の半数以上が手術不能進行癌 薬物療法 放射線療法 分子標的治療 (EGFR 遺伝子変異, ALK 融合遺伝子, PD-L1 タンパク ) 非小細胞癌での組織亜型決定の重要性 扁平上皮癌 非扁平上皮癌 ( 腺癌 ) 生検 細胞診の診断 治療方針の決定 診断に関するガイドライン (WHO 第 4 版 Table1.03) 生検 細胞診が対象 ( 分類がやや複雑 ) 生検診断の用語 ( 肺癌取扱い規約第 8 版表 3) 生検のみを対象

診断 ( 気管支鏡生検 細胞 ) 呼吸器腫瘍の診断と治療 外科治療 適応 呼吸器腫瘍 放射線 薬物療法 非小細胞がん 非扁平上皮がん がん免疫療法 扁平上皮がん 薬物療法 分子標的治療薬 葉酸拮抗剤 ( 代謝拮抗薬 ) ペメトレキセド( アリムタ ) 適応なし VEGF 阻害剤 ( 血管新生阻害薬 ) ベバシズマブ ( アバスチン ) 適応なし 小細胞がん EGFR- チロシンキナーゼ阻害剤 EGFR 遺伝子変異 ゲフィチニブ ( イレッサ ) エルロチニブ ( タルセバ ) アファチニブ ( ジオトリフ ) オシメルチニブ ( タグリッソ ) T790M 変異 ALK 阻害剤 ALK 融合遺伝子 クリゾチニブ ( ザーコリ ) アレクチニブ ( アレンサ ) セリチニブ ( ジカディア ) 免疫チェックポイント阻害剤 PD-L1 タンパク ニボルマブ ( オプジーボ ) ペムブロリツマブ ( キイトルーダ ) アテゾリズマブ ( テセントリク ) 喀血

診断 ( 気管支鏡生検 細胞 ) 生検診断の用語 4. 病理診断表 3. 生検診断の用語より抜粋 Adenocarcininoma ( 腺癌 ) Squamous cell carcinoma ( 扁平上皮癌 ) Small cell carcinoma ( 小細胞癌 ) NSCC, favor adenocarcinoma ( 非小細胞癌 腺癌を示唆 ) NSCC, favor squamous cell carcinoma ( 非小細胞癌 扁平上皮癌を示唆 ) NSCC with neuroendocrine morphology and positive neuroendocrine markers,possible LCNEC (LCNEC を示唆する非小細胞癌 ) NSCC, NOS ( 非小細胞癌 NOS) NSCC : Non Small Cell Carcinoma( 非小細胞癌 )

診断 ( 気管支鏡生検 細胞 ) 生検診断の用語 4. 病理診断表 3. 生検診断の用語より抜粋 生検の用語 説 明 Adenocarcinoma 光顕で腺癌の特徴が確認できる場合 腺癌亜型に対応するパターンが観察され ( 腺癌 ) る場合はそのパターンを記載する 例えば以下のような例が挙げられる 1. adenocarcinoma with lepidic pattern 2. invasive mucinous adenocarcinoma 3. mucinous adenocarcinoma with lepidic pattern 4. adenocarcinoma with colloid features 5. adenocarcinoma with fetal features 6. adenocarcinoma with enteric features Squamous cell carcinoma 光顕で扁平上皮の特徴が確認できる場合 ( 扁平上皮癌 ) Small cell carcinoma 光顕で小細胞癌の特徴を有している場合 ( 小細胞癌 ) NSCC, favor adenocarcinoma 形態的な腺癌パターンはないが 特異性のある免疫染色 ( 例 :TTF-1 陽性 ) や ( 非小細胞癌 腺癌を示唆 ) 粘液染色によって腺癌を示唆する所見が得られた場合 NSCC, favor squamous cell carcinoma 形態的な扁平上皮癌パターンはないが 特異性のある免疫染色 ( 例 :p40 陽性 ) ( 非小細胞癌 扁平上皮癌を示唆 ) によって扁平上皮癌を示唆する所見が得られた場合 NSCC, with neuroendocrine morphology and LCNECを想定する場合 表 2(10) に記載されているように 神経内分泌形態 positive neuroendocrine markers, possible LCNEC および神経内分泌マーカー陽性であることを明瞭に記載すべきである (LCNECを示唆する非小細胞癌) 免疫染色を行わなかった場合にはNSCC, with neuroendocrine morphology, possible LCNECとなる 神経内分泌マーカー陽性の腺癌もしくは扁平上皮癌は 臨床病理学的意義がないことはコンセンサスが得られており それらの腫瘍と LCNECは明確に区別される必要がある NSCC, NOS 形態学的 特殊染色においても腺癌もしくは扁平上皮癌の特徴が得られなかっ ( 非小細胞癌 NOS) た場合 これには 腺癌 扁平上皮癌いずれの成分も存在し 腺扁平上皮癌が 疑われる場合が含まれる また 多形癌 紡錘形細胞癌 巨細胞癌の成分のみ の場合も NSCC, NOSとし 肉腫様変化を伴うと記載する

診断 ( 気管支鏡生検 細胞 ) 生検 細胞診で診断不可の組織型 腫瘍の定義上 全体を評価して診断を行う必要があり 診断の際は特徴所見を付記するにとどめる 上皮内腺癌 微小浸潤性腺癌 大細胞癌 腺扁平上皮癌 肉腫様癌 Adenocarcinoma with lepidic pattern Adenocarcinoma with lepidic pattern NSCC, NOS NSCC, NOS NSCC, NOS 上記の診断名を付けるためには切除材料で腫瘍全体を評価する必要がある

診断 ( 気管支鏡生検 細胞 ) 気管支鏡細胞診 ( 意義 ) 当院での気管支鏡検査 診断までの流れ 木曜日 PM 気管支鏡生検 細胞診検体採取 18:00~ の気管支鏡カンファレンスでの細胞診 ( 捺印 擦過 穿刺 ) 報告 金曜日生検 検体受付 VIP 細胞診 ( 器具 気管支 ) 洗浄液検鏡 診断月曜日生検 薄切 ( 肺癌疑い症例は未染含む ) 染色 中間病理診断病理医による EGFR ALK PD-L1 *1 検査用としての標本評価 および検体種別 ( 生検組織 細胞診洗浄液 cell blockなど ) 選択未染 免染用 5 枚 ( 肺癌セット *2 用 4 枚 ALK 用 1 枚 ) EGFR 用 4 枚火曜日生検 免疫染色実施 ( 肺癌セット ALK 神経内分泌マーカー など) 水曜日生検 最終病理診断遺伝子検査実施 (EGFR) AM DNA 抽出 PM RPCR 検査 ALK 免疫染色結果報告木曜日生検 EGFR 遺伝子変異結果報告 *1 : 2017 年 2 月より PD-L1 タンパク (22C3) を外注 *2 : TTF-1, napsina, p40, CK5/6

本日の内容肺癌取扱い規約 ( 第 8 版 ) 改訂内容の概要 病理組織分類 診断 ( 免疫染色 ) 診断 ( 構成成分の割合 ) 診断 ( 気管支鏡生検 細胞 ) 症例 ( 気管支鏡細胞診 )

症例 ( 気管支鏡細胞診 ) 症例 ( 気管支鏡細胞診 ) 生検診断名を適応 1: 非小細胞癌 腺癌を示唆 2: 非小細胞癌 扁平上皮癌を示唆 3: 非小細胞癌 NOS 4: 小細胞癌 NSCC, favor adenocarcinoma NSCC, favor squamous cell carcinoma NSCC, NOS Small cell carcinoma 5: 大細胞神経内分泌癌を示唆する非小細胞癌 NSCC, with neuroendocrine morphology and positive neuroendocrine markers, possible LCNEC 6: 腺扁平上皮癌が疑われる非小細胞癌 NSCC, NOS (suspicious of Adenosquamous carcinoma) 7: 肉腫様変化 ( 巨細胞 ) を伴う非小細胞癌 NSCC, NOS (with sarcomatoid change, Giant cell) 診断名は 生検での診断名を想定した名称としてあります

1: 非小細胞癌 腺癌を示唆 (60 歳代 男性 : 気管支鏡生検 捺印 ) 細胞観察のポイント 1 小細胞癌の特徴はない 2 明らかな腺 扁平上皮への分化はない 3 一部で腺 扁平上皮を思わせる所見があるか 鑑別のポイント ( 本症例 ) 1 細胞結合性が弱い 異型が強い ( 大型細胞 多核細胞 ) 2 一部で核の偏在傾向がみられる 3 一部で細胞質に空胞 ( 矢印 ) がみられる ( 明らかな粘液とはいえない ) 4 生検では明らかな粘液陽性細胞は認めない 5 腺癌マーカー (TTF-1, napsin A) 陽性 扁平上皮癌マーカー (p40, CK5/6) 陰性 関連知識 1 形態で腺への分化を示さなくても腺癌マーカーが陽性であれば ( 低分化型 ) 腺癌成分とみなす 2 手術材料では 1 免疫染色を実施できない場合 2 腺癌 扁平上皮癌マーカーがいずれも陰性の場合 3TTF-1 陰性 p40 CK5/6 のいずれかが部分的陽性の場合は大細胞癌とする TTF-1

2: 非小細胞癌 扁平上皮癌を示唆 (70 歳代 男性 : 気管支鏡生検 捺印 ) 細胞観察のポイント 1 小細胞癌の特徴はない 2 明らかな腺 扁平上皮への分化はない 3 一部で腺 扁平上皮を思わせる所見があるか 鑑別のポイント ( 本症例 ) 1 一部で集塊辺縁の毛羽立ち様や 紡錘形を呈する細胞がみられる 2 一部で層状構造様 ( 矢印 ) がみられる 3 少数の角化細胞が散見される 4 扁平上皮癌マーカー (p40, CK5/6) 陽性 腺癌マーカー (TTF-1, napsin A) 陰性 関連知識 1 形態で扁平上皮への分化を示さなくても扁平上皮癌マーカーが陽性であれば ( 非角化型 ) 扁平上皮癌成分とみなす 2 手術材料では 1 免疫染色を実施できない場合 2 腺癌 扁平上皮癌マーカーがいずれも陰性の場合 3TTF-1 陰性 p40 CK5/6 のいずれかが部分的陽性の場合は大細胞癌とする p40

3: 非小細胞癌 NOS (80 歳代 男性 : 気管支鏡生検 捺印 ) 細胞観察のポイント 1 小細胞癌の特徴はない 2 明らかな腺 扁平上皮への分化はない 3 一部で腺 扁平上皮を思わせる所見があるか 鑑別のポイント ( 本症例 ) 1 全体的に腺 扁平上皮を思わせる所見に欠ける 2 細胞境界は明瞭あるいは不明瞭 核は中心性 あるいは偏在性 3 腺癌マーカー (TTF-1, napsin A) 扁平上皮癌マーカー (p40, CK5/6) が陰性 4 生検 細胞診では除外診断である大細胞癌はせず 非小細胞癌 NOS とする 関連知識 1 手術材料では 1 免疫染色を実施できない場合 2 上記マーカーがいずれも陰性の場合 3TTF-1 陰性 p40 CK5/6 のいずれかが部分的陽性の場合は大細胞癌として その旨を記載する 2 腺癌マーカー陽性の場合は充実型腺癌 扁平上皮癌マーカーがびまん性に陽性性の場合は非角化型扁平上皮癌 神経内分泌マーカーが陽性の場合はほとんど大細胞神経内分泌癌 (LCNEC) に分類される p40

4: 小細胞癌 (50 歳代 男性 : 気管支鏡生検 捺印 ) 細胞観察のポイント 1 小細胞癌の特徴 ( 核小体不明瞭 核縁不明瞭 上皮性結合 ) がみられる 2 悪性リンパ腫の特徴 ( 核小体 核縁明瞭 散在性 ) はみられない 3 他の神経内分泌腫瘍 (LCNEC カルチノイド腫瘍 ) を否定できる 鑑別のポイント ( 本症例 ) 1 核小体の目立たない小型 裸核状異型細胞がみられる 2 核の圧排配列 鋳型配列がみられる 3 壊死物質や 核線がみられる 4 極一部で大型細胞 核小体を有する細胞もみられる (LCNEC 成分の可能性も ) NCAM 関連知識 1 神経内分泌分化の証明は必須ではなく 光顕のみで診断できる 2 chromogranin A, synaptophysin, CD56(NCAM) などの神経内分泌マーカーは生検材料ではほぼ陽性だが 手術材料の 10~20 % は陰性である 3 LCNEC 成分があっても 10 % 未満であれば 混合型小細胞癌 および LCNEC とはせずに 純型の小細胞癌とする 4 大きさは一般に成熟リンパ球 3 個程度までだが 比較的核が大きい場合もある

5: 大細胞神経内分泌癌を示唆する非小細胞癌 (70 歳代 女性 : 気管支鏡生検 捺印 ) 細胞観察のポイント 1 小細胞癌の特徴はない 2 明らかな腺 扁平上皮への分化はない 3 神経内分泌形態を示している 鑑別のポイント ( 本症例 ) 1 小細胞癌よりも大型で 比較的広い細胞質を有している 2 小型だが 1 個 ~ 複数個の核小体がみられる 3 壊死物質や 核線 一部で不明瞭ながらロゼット様構造 ( 矢印 ) がみられる 4 細胞診では形態のみから推定し LCNEC を示唆する非小細胞癌とした 5 chromogranin A( 陰性 ) synaptophysin( 一部陽性 ) NCAM( 陽性 ) 6 生検では形態と神経内分泌マーカーより LCNEC を示唆する非小細胞癌とした NCAM 関連知識 1 神経内分泌形態を有しているときのみ 神経内分泌マーカーでの確認を行う 2 神経内分泌マーカーのうち 1 つでも 10% 以上の領域に染まれば陽性と判定 3 類基底細胞型扁平上皮癌との鑑別は p40 が有用である 4 神経内分泌分化が確認できない場合は神経内分泌形態をもつ大細胞癌とする

6: 腺扁平上皮癌が疑われる非小細胞癌 (70 歳代 女性 : 気管支鏡生検 捺印 ) 細胞観察のポイント 1 小細胞癌の特徴はない 2 明らかな腺 および扁平上皮へ分化している細胞が混在している 鑑別のポイント ( 本症例 ) 1 腫瘍細胞は腺への分化 ( 小腺腔 繊細クロマチン 核縁肥厚 ) がみられる 2 腫瘍細胞は扁平上皮への分化 ( 一部には角化細胞 ) がみられる 3 生検 細胞診では腫瘍全体での割合が不明なので 非小細胞癌 NOS とし 特徴の付記 ( 腺扁平上皮癌が疑われる など ) にとどめる 関連知識 1 手術材料であっても 腺癌 扁平上皮癌の一方の成分が 10 % 未満の場合は 所見の記載にとどめる 2 充実性部分も免疫染色により ( 充実 ) 腺癌 ( 非角化型 ) 扁平上皮癌と判定できれば 腺扁平上皮癌の範疇になる 3 変性した細胞 ( 扁平上皮癌細胞の空胞変性 腺癌細胞の好酸性変化 ) の判定を誤らないこと

biopsy operation giant spindle 7: 肉腫様変化 ( 巨細胞 ) を伴う非小細胞癌 (70 歳代 男性 : 気管支鏡生検 擦過 ) 細胞観察のポイント 1 肉腫あるいは肉腫様成分を含む低分化な非小細胞癌成分がみられる 2 肉腫様形態 ( 巨細胞 紡錘形細胞 ) を示す異型細胞がみられる 鑑別のポイント ( 本症例 ) 1 結合性が低下し 多形性を示す大型異型細胞がみられる 2 異型細胞は多核巨細胞が目立つ 3 生検 細胞診では巨細胞癌成分のみがみられたが 腫瘍全体でその他の成分との関係が不明なので 非小細胞癌 NOS とし 特徴の付記にとどめる 4 手術材料では巨細胞癌 紡錘細胞癌の両成分がみられ 多形癌と診断された 関連知識 1 肉腫様癌とは多形癌 紡錘細胞癌 巨細胞癌 癌肉腫 肺芽腫の総称である 2 多形癌は紡錘細胞あるいは巨細胞を含む扁平上皮癌 腺癌 未分化小細胞癌 あるいは紡錘細胞癌と巨細胞癌のみからなる癌である 3 多形癌とするには紡錘細胞 巨細胞の成分は腫瘍全体の 10 % 以上を占めること 4 多形癌の中に扁平上皮癌 腺癌成分がみられるときは その旨記載する 5 癌肉腫の肉腫成分は異所性であり 異所性成分を認めない場合は多形癌とする

緒言より 非小細胞癌 non-small cell carcinoma(nscc) 分化が明確であれば腺癌 扁平上皮癌と推定組織型を記載 肉腫様成分がみられた場合 非小細胞癌とし 付記として紡錘細胞や巨細胞が混在すること また腺癌や扁平上皮癌が混在する場合はその旨を記載 非小細胞癌 特定不能 non-small cell carcinoma, not otherwise specified(nscc-nos) 必要最小限の使用とする 非扁平上皮癌 non-squamous cell carcinoma(non-sqcc) 使用しない 大細胞癌 腺扁平上皮癌 肉腫様癌 使用しない 上皮内腺癌 adenocarcinoma in situ(ais) 使用しない疑い所見 腺癌 置換型成分を有数する可能性あり 微少浸潤性腺癌 minimally invasive adenocarcinoma(mia) 使用しない疑い所見 腺癌 置換型成分を有数する可能性あり 診断が光顕のみによるものか特殊染色や免疫組織化学的染色の併用に基づくものかを記載

まとめ 治療方針決定に伴い 気管支鏡 ( 生検 細胞診 ) での診断が重要 ( 分子標的治療薬の選択 ) 形態的特徴に欠ける場合は免疫染色などを施行し 可能な限り推定組織型を記載する 生検 細胞診では診断してはいけない組織型について十分理解する ただし 特徴がある場合は所見にその旨を付記する 形態のみでの診断 治療を意識した診断へ 細胞診断は生検診断名の解釈 ( 表 3. 生検診断の用語 ) を参考とし 診断名や所見に反映させる

第 32 回長野県臨床細胞学会総会 学術集会 COI 開示 筆頭演者 : 小林幸弘 今回の演題に関して開示すべき COI はありません