要 旨 トランスポーターは 基質となる内因性 外因性物質の細胞膜を介した取り込みや排出を司ることにより それらの細胞内外での濃度比を規定する そのため 疾患部位に発現するトランスポーターやその基質を利用して 当該部位を標的とした疾患治療や 病態の変化を追跡するバイオマーカーに応用できる可能性がある

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日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

報道関係者各位 平成 26 年 1 月 20 日 国立大学法人筑波大学 動脈硬化の進行を促進するたんぱく質を発見 研究成果のポイント 1. 日本人の死因の第 2 位と第 4 位である心疾患 脳血管疾患のほとんどの原因は動脈硬化である 2. 酸化されたコレステロールを取り込んだマクロファージが大量に血

2006 PKDFCJ

られる 糖尿病を合併した高血圧の治療の薬物治療の第一選択薬はアンジオテンシン変換酵素 (ACE) 阻害薬とアンジオテンシン II 受容体拮抗薬 (ARB) である このクラスの薬剤は単なる降圧効果のみならず 様々な臓器保護作用を有しているが ACE 阻害薬や ARB のプラセボ比較試験で糖尿病の新規

ヒト脂肪組織由来幹細胞における外因性脂肪酸結合タンパク (FABP)4 FABP 5 の影響 糖尿病 肥満の病態解明と脂肪幹細胞再生治療への可能性 ポイント 脂肪幹細胞の脂肪分化誘導に伴い FABP4( 脂肪細胞型 ) FABP5( 表皮型 ) が発現亢進し 分泌されることを確認しました トランスク

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論文題目  腸管分化に関わるmiRNAの探索とその発現制御解析

11 月 16 日午前 9 時 ( 米国東部時間 ) にオンライン版で発表されます なお 本研究開発領域は 平成 27 年 4 月の日本医療研究開発機構の発足に伴い 国立研究開発法人科学 技術振興機構 (JST) より移管されたものです 研究の背景 近年 わが国においても NASH が急増しています

別紙 自閉症の発症メカニズムを解明 - 治療への応用を期待 < 研究の背景と経緯 > 近年 自閉症や注意欠陥 多動性障害 学習障害等の精神疾患である 発達障害 が大きな社会問題となっています 自閉症は他人の気持ちが理解できない等といった社会的相互作用 ( コミュニケーション ) の障害や 決まった手

( 続紙 1 ) 京都大学 博士 ( 薬学 ) 氏名 大西正俊 論文題目 出血性脳障害におけるミクログリアおよびMAPキナーゼ経路の役割に関する研究 ( 論文内容の要旨 ) 脳内出血は 高血圧などの原因により脳血管が破綻し 脳実質へ出血した病態をいう 漏出する血液中の種々の因子の中でも 血液凝固に関

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報道発表資料 2006 年 4 月 13 日 独立行政法人理化学研究所 抗ウイルス免疫発動機構の解明 - 免疫 アレルギー制御のための新たな標的分子を発見 - ポイント 異物センサー TLR のシグナル伝達機構を解析 インターフェロン産生に必須な分子 IKK アルファ を発見 免疫 アレルギーの有効

生活習慣病の増加が懸念される日本において 疾病の一次予防はますます重要性を増し 生理機能調節作用を有する食品への期待や関心が高まっている 日常の食生活を通して 健康の維持および生活習慣病予防に努めることは 医療費抑制の観点からも重要である 種々の食品機能成分の効果について数多くの先行研究がおこなわれ

糖鎖の新しい機能を発見:補体系をコントロールして健康な脳神経を維持する

脳組織傷害時におけるミクログリア形態変化および機能 Title変化に関する培養脳組織切片を用いた研究 ( Abstract_ 要旨 ) Author(s) 岡村, 敏行 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL http

るマウスを解析したところ XCR1 陽性樹状細胞欠失マウスと同様に 腸管 T 細胞の減少が認められました さらに XCL1 の発現が 脾臓やリンパ節の T 細胞に比較して 腸管組織の T 細胞において高いこと そして 腸管内で T 細胞と XCR1 陽性樹状細胞が密に相互作用していることも明らかにな

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学位論文の内容の要旨 論文提出者氏名 松尾祐介 論文審査担当者 主査淺原弘嗣 副査関矢一郎 金井正美 論文題目 Local fibroblast proliferation but not influx is responsible for synovial hyperplasia in a mur

抑制することが知られている 今回はヒト子宮内膜におけるコレステロール硫酸のプロテ アーゼ活性に対する効果を検討することとした コレステロール硫酸の着床期特異的な発現の機序を解明するために 合成酵素であるコ レステロール硫酸基転移酵素 (SULT2B1b) に着目した ヒト子宮内膜は排卵後 脱落膜 化

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 森脇真一 井上善博 副査副査 教授教授 東 治 人 上 田 晃 一 副査 教授 朝日通雄 主論文題名 Transgene number-dependent, gene expression rate-independe

研究成果の概要ビタミンCを体内で合成できない遺伝子破壊マウス (SMP30/GNL 遺伝子破壊マウス ) に1 水素 (H2) ガスを飽和状態 (0.6 mm) まで溶かした水素水 ( 高濃度水素溶解精製水 ) を与えた群 2 充分なビタミンCを与えた群 3 水のみを与えた群の 3 群に分け 1 ヶ

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脂肪滴周囲蛋白Perilipin 1の機能解析 [全文の要約]

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ルグリセロールと脂肪酸に分解され吸収される それらは腸上皮細胞に吸収されたのちに再び中性脂肪へと生合成されカイロミクロンとなる DGAT1 は腸管で脂質の再合成 吸収に関与していることから DGAT1 KO マウスで認められているフェノタイプが腸 DGAT1 欠如に由来していることが考えられる 実際

現し Gasc1 発現低下は多動 固執傾向 様々な学習 記憶障害などの行動異常や 樹状突起スパイン密度の増加と長期増強の亢進というシナプスの異常を引き起こすことを発見し これらの表現型がヒト自閉スペクトラム症 (ASD) など神経発達症の病態と一部類することを見出した しかしながら Gasc1 発現

スライド 1

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血漿エクソソーム由来microRNAを用いたグリオブラストーマ診断バイオマーカーの探索 [全文の要約]

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

研究成果報告書

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Microsoft Word CREST中山(確定版)

かし この技術に必要となる遺伝子改変技術は ヒトの組織細胞ではこれまで実現できず ヒトがん組織の細胞系譜解析は困難でした 正常の大腸上皮の組織には幹細胞が存在し 自分自身と同じ幹細胞を永続的に産み出す ( 自己複製 ) とともに 寿命が短く自己複製できない分化した細胞を次々と産み出すことで組織構造を

新規 P2X4 受容体アンタゴニスト NCP-916 の鎮痛作用と薬物動態に関する検討 ( 分野名 : ライフイノベーション分野 ) ( 学籍番号 )3PS1333S ( 氏名 ) 小川亨 序論 神経障害性疼痛とは, 体性感覚神経系の損傷や疾患によって引き起こされる痛みと定義され, 自発痛やアロディ

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 10 月 22 日 独立行政法人理化学研究所 脳内のグリア細胞が分泌する S100B タンパク質が神経活動を調節 - グリア細胞からニューロンへの分泌タンパク質を介したシグナル経路が活躍 - 記憶や学習などわたしたち高等生物に必要不可欠な高次機能は脳によ

2017 年 12 月 15 日 報道機関各位 国立大学法人東北大学大学院医学系研究科国立大学法人九州大学生体防御医学研究所国立研究開発法人日本医療研究開発機構 ヒト胎盤幹細胞の樹立に世界で初めて成功 - 生殖医療 再生医療への貢献が期待 - 研究のポイント 注 胎盤幹細胞 (TS 細胞 ) 1 は

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 花房俊昭 宮村昌利 副査副査 教授教授 朝 日 通 雄 勝 間 田 敬 弘 副査 教授 森田大 主論文題名 Effects of Acarbose on the Acceleration of Postprandial

第6号-2/8)最前線(大矢)

汎発性膿疱性乾癬のうちインターロイキン 36 受容体拮抗因子欠損症の病態の解明と治療法の開発について ポイント 厚生労働省の難治性疾患克服事業における臨床調査研究対象疾患 指定難病の 1 つである汎発性膿疱性乾癬のうち 尋常性乾癬を併発しないものはインターロイキン 36 1 受容体拮抗因子欠損症 (

前立腺癌は男性特有の癌で 米国においては癌死亡者数の第 2 位 ( 約 20%) を占めてい ます 日本でも前立腺癌の罹患率 死亡者数は急激に上昇しており 現在は重篤な男性悪性腫瘍疾患の1つとなって図 1 います 図 1 初期段階の前立腺癌は男性ホルモン ( アンドロゲン ) に反応し増殖します そ

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論文の内容の要旨

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東邦大学学術リポジトリ タイトル別タイトル作成者 ( 著者 ) 公開者 Epstein Barr virus infection and var 1 in synovial tissues of rheumatoid 関節リウマチ滑膜組織における Epstein Barr ウイルス感染症と Epst

Title 揮発性肺がんマーカーの探索 ( Digest_ 要約 ) Author(s) 花井, 陽介 Citation Kyoto University ( 京都大学 ) Issue Date URL R

解禁日時 :2019 年 2 月 4 日 ( 月 ) 午後 7 時 ( 日本時間 ) プレス通知資料 ( 研究成果 ) 報道関係各位 2019 年 2 月 1 日 国立大学法人東京医科歯科大学 国立研究開発法人日本医療研究開発機構 IL13Rα2 が血管新生を介して悪性黒色腫 ( メラノーマ ) を

今後の展開現在でも 自己免疫疾患の発症機構については不明な点が多くあります 今回の発見により 今後自己免疫疾患の発症機構の理解が大きく前進すると共に 今まで見過ごされてきたイントロン残存の重要性が 生体反応の様々な局面で明らかにされることが期待されます 図 1 Jmjd6 欠損型の胸腺をヌードマウス

犬の糖尿病は治療に一生涯のインスリン投与を必要とする ヒトでは 1 型に分類されている糖尿病である しかし ヒトでは肥満が原因となり 相対的にインスリン作用が不足する 2 型糖尿病が主体であり 犬とヒトとでは糖尿病発症メカニズムが大きく異なっていると考えられている そこで 本研究ではインスリン抵抗性

別紙 < 研究の背景と経緯 > 自閉症は 全人口の約 2% が罹患する非常に頻度の高い神経発達障害です 近年 クロマチンリモデ リング因子 ( 5) である CHD8 が自閉症の原因遺伝子として同定され 大変注目を集めています ( 図 1) 本研究グループは これまでに CHD8 遺伝子変異を持つ

ASC は 8 週齢 ICR メスマウスの皮下脂肪組織をコラゲナーゼ処理後 遠心分離で得たペレットとして単離し BMSC は同じマウスの大腿骨からフラッシュアウトにより獲得した 10%FBS 1% 抗生剤を含む DMEM にて それぞれ培養を行った FACS Passage 2 (P2) の ASC

< 研究の背景 > 運動に疲労はつきもので その原因や予防策は多くの研究者や競技者 そしてスポーツ愛好者の興味を引く古くて新しいテーマです 運動時の疲労は 必要な力を発揮できなくなった状態 と定義され 疲労の原因が起こる身体部位によって末梢性疲労と中枢性疲労に分けることができます 末梢性疲労の原因の

平成 28 年 12 月 12 日 癌の転移の一種である胃癌腹膜播種 ( ふくまくはしゅ ) に特異的な新しい標的分子 synaptotagmin 8 の発見 ~ 革新的な分子標的治療薬とそのコンパニオン診断薬開発へ ~ 名古屋大学大学院医学系研究科 ( 研究科長 髙橋雅英 ) 消化器外科学の小寺泰

2019 年 3 月 28 日放送 第 67 回日本アレルギー学会 6 シンポジウム 17-3 かゆみのメカニズムと最近のかゆみ研究の進歩 九州大学大学院皮膚科 診療講師中原真希子 はじめにかゆみは かきたいとの衝動を起こす不快な感覚と定義されます 皮膚疾患の多くはかゆみを伴い アトピー性皮膚炎にお

糸球体で濾過されたブドウ糖の約 90% を再吸収するトランスポータである SGLT2 阻害薬は 尿糖排泄を促進し インスリン作用とは独立した血糖降下及び体重減少作用を有する これまでに ストレプトゾトシンによりインスリン分泌能を低下させた糖尿病モデルマウスで SGLT2 阻害薬の脂肪肝改善効果が報告

報道発表資料 2007 年 11 月 16 日 独立行政法人理化学研究所 過剰にリン酸化したタウタンパク質が脳老化の記憶障害に関与 - モデルマウスと機能的マンガン増強 MRI 法を使って世界に先駆けて実証 - ポイント モデルマウスを使い ヒト老化に伴う学習記憶機能の低下を解明 過剰リン酸化タウタ

サカナに逃げろ!と指令する神経細胞の分子メカニズムを解明 -個性的な神経細胞のでき方の理解につながり,難聴治療の創薬標的への応用に期待-

研究成果報告書

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八村敏志 TCR が発現しない. 抗原の経口投与 DO11.1 TCR トランスジェニックマウスに経口免疫寛容を誘導するために 粗精製 OVA を mg/ml の濃度で溶解した水溶液を作製し 7 日間自由摂取させた また Foxp3 の発現を検討する実験では RAG / OVA3 3 マウスおよび

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上原記念生命科学財団研究報告集, 30 (2016)

を行った 2.iPS 細胞の由来の探索 3.MEF および TTF 以外の細胞からの ips 細胞誘導 4.Fbx15 以外の遺伝子発現を指標とした ips 細胞の樹立 ips 細胞はこれまでのところレトロウイルスを用いた場合しか樹立できていない また 4 因子を導入した線維芽細胞の中で ips 細

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研究目的 1. 電波ばく露による免疫細胞への影響に関する研究 我々の体には 恒常性を保つために 生体内に侵入した異物を生体外に排除する 免疫と呼ばれる防御システムが存在する 免疫力の低下は感染を引き起こしやすくなり 健康を損ないやすくなる そこで 2 10W/kgのSARで電波ばく露を行い 免疫細胞

リーなどアブラナ科野菜の摂取と癌発症率は逆相関し さらに癌病巣の拡大をも抑制する という報告がみられる ブロッコリー発芽早期のスプラウトから抽出されたスルフォラフ ァン (sulforaphane, 1-isothiocyanato-4-methylsulfinylbutane) は強力な抗酸化作用

結果 この CRE サイトには転写因子 c-jun, ATF2 が結合することが明らかになった また これら の転写因子は炎症性サイトカイン TNFα で刺激したヒト正常肝細胞でも活性化し YTHDC2 の転写 に寄与していることが示唆された ( 参考論文 (A), 1; Tanabe et al.

Microsoft Word - 運動が自閉症様行動とシナプス変性を改善する

生理学 1章 生理学の基礎 1-1. 細胞の主要な構成成分はどれか 1 タンパク質 2 ビタミン 3 無機塩類 4 ATP 第5回 按マ指 (1279) 1-2. 細胞膜の構成成分はどれか 1 無機りん酸 2 リボ核酸 3 りん脂質 4 乳酸 第6回 鍼灸 (1734) E L 1-3. 細胞膜につ

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

Wnt3 positively and negatively regu Title differentiation of human periodonta Author(s) 吉澤, 佑世 Journal, (): - URL Rig

33 NCCN Guidelines Version NCCN Clinical Practice Guidelines in Oncology (NCCN Guidelines ) (NCCN 腫瘍学臨床診療ガイドライン ) 非ホジキンリンパ腫 2015 年第 2 版 NCCN.or

60 秒でわかるプレスリリース 2008 年 2 月 4 日 独立行政法人理化学研究所 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) の進行に二つのグリア細胞が関与することを発見 - 神経難病の一つである ALS の治療法の開発につながる新知見 - 原因不明の神経難病 筋萎縮性側索硬化症 (ALS) は 全身の筋

ランゲルハンス細胞の過去まず LC の過去についてお話しします LC は 1868 年に 当時ドイツのベルリン大学の医学生であった Paul Langerhans により発見されました しかしながら 当初は 細胞の形状から神経のように見えたため 神経細胞と勘違いされていました その後 約 100 年

統合失調症発症に強い影響を及ぼす遺伝子変異を,神経発達関連遺伝子のNDE1内に同定した

背景 歯はエナメル質 象牙質 セメント質の3つの硬い組織から構成されます この中でエナメル質は 生体内で最も硬い組織であり 人が食生活を営む上できわめて重要な役割を持ちます これまでエナメル質は 一旦齲蝕 ( むし歯 ) などで破壊されると 再生させることは不可能であり 人工物による修復しかできませ

新技術説明会 様式例

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 P EDTA-2Na( 薄紫 ) 血液 7 ml RNA 検体ラベル ( 単項目オーダー時 ) ホンハ ンテスト 注 外 N60 氷 MINテイリョウ. 採取容器について 0

1. 背景 NAFLD は非飲酒者 ( エタノール換算で男性一日 30g 女性で 20g 以下 ) で肝炎ウイルス感染など他の要因がなく 肝臓に脂肪が蓄積する病気の総称であり 国内に約 1,000~1,500 万人の患者が存在すると推定されています NAFLD には良性の経過をたどる単純性脂肪肝と

( 様式甲 5) 学位論文内容の要旨 論文提出者氏名 論文審査担当者 主査 教授 大道正英 髙橋優子 副査副査 教授教授 岡 田 仁 克 辻 求 副査 教授 瀧内比呂也 主論文題名 Versican G1 and G3 domains are upregulated and latent trans

第2章マウスを用いた動物モデルに関する研究

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平成14年度研究報告

るが AML 細胞における Notch シグナルの正確な役割はまだわかっていない mtor シグナル伝達系も白血病細胞の増殖に関与しており Palomero らのグループが Notch と mtor のクロストークについて報告している その報告によると 活性型 Notch が HES1 の発現を誘導

報道関係者各位

研究の背景 ヒトは他の動物に比べて脳が発達していることが特徴であり, 脳の発達のおかげでヒトは特有の能力の獲得が可能になったと考えられています この脳の発達に大きく関わりがあると考えられているのが, 本研究で扱っている大脳皮質の表面に存在するシワ = 脳回 です 大脳皮質は脳の中でも高次脳機能に関わ

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子として同定され 前立腺癌をはじめとした癌細胞や不死化細胞で著しい発現低下が認められ 癌抑制遺伝子として発見された Dkk-3 は前立腺癌以外にも膵臓癌 乳癌 子宮内膜癌 大腸癌 脳腫瘍 子宮頸癌など様々な癌で発現が低下し 癌抑制遺伝子としてアポトーシス促進的に働くと考えられている 先行研究では ヒ

研究成果報告書

( 様式甲 5) 氏 名 忌部 尚 ( ふりがな ) ( いんべひさし ) 学 位 の 種 類 博士 ( 医学 ) 学位授与番号 甲第 号 学位審査年月日 平成 29 年 1 月 11 日 学位授与の要件 学位規則第 4 条第 1 項該当 Benifuuki green tea, containin

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

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要 旨 トランスポーターは 基質となる内因性 外因性物質の細胞膜を介した取り込みや排出を司ることにより それらの細胞内外での濃度比を規定する そのため 疾患部位に発現するトランスポーターやその基質を利用して 当該部位を標的とした疾患治療や 病態の変化を追跡するバイオマーカーに応用できる可能性がある 演者らは solute carrier (SLC) の一つ organic cation/carnitine transporter 1 (OCTN1/SLC22A4) に着目し 当該トランスポーターが種々の病態変化ないし健康の維持に関与することを示唆するデータを得た 1.OCTN1 欠損マウスを用いたメタボローム解析 OCTN1 は幅広い有機カチオン性化合物を細胞内に取り込み ほとんどの臓器に発現する しかし生体内で輸送する基質は不明であったため 遺伝子欠損マウス (octn1-/-) を作製したが 野生型 (WT) と比べ明確な phenotype が見出せなかった そこで トランスポーターが細胞内外の基質濃度比を規定することを考慮し 血液と臓器に含まれる生体内物質の一斉定量を行った 結果 食物由来の抗酸化物質 ergothioneine (ERGO) が WT に存在し octn1-/-には存在しないことを突き止めた ERGO はあらゆる臓器に数 µm から数百 µm 存在し ( 図 1) このことは OCTN1 が ubiquitous に発現することと対応した 一方で octn1-/-ではいずれの臓器にも検出されなかった ( 図 1) この原因は腎での再吸収の欠損であった ERGO は OCTN1 の良好な生体内基質であることがわかった 1)

2-4) 2. 腸肝炎症時の OCTN1 の役割 哺乳類体内では ERGO は生合成されず食物から摂取される 一方 OCTN1 遺 伝子は魚類 両生類 鳥類など ERGO を生合成しない種でよく保存されている 従って OCTN1 は ERGO を体内に取り込むトランスポーターと考えられる そこ で ERGO が抗酸化物質であることに着目し酸化ストレスと関連する病態との関 連について検討した 食物由来 ERGO が高濃度で曝露される消化器に着目し 種々の病態モデルを作製した 小腸虚血再灌流モデルでは WT に比べ octn1-/- は脆弱であった デキストラン硫酸誘発腸炎モデルでも octn1-/- の方が体重減少 等が顕著であった ジメチルニトロサミンやコンカナバリン A 誘発肝線維化モデ ルでも WT に比べ octn1-/- では肝臓での線維化 ( 図 2) や酸化ストレス ( 図 3) が顕著 であった

さらに WT においてこれら病態モデル臓器中 ERGO 濃度や OCTN1 発現量は正常時より増加していた 以上の結果は OCTN1 がこれら臓器の炎症に対する防御に働くことを示唆し その働きの一部に ERGO が関与する可能性を示す OCTN1 の発現上昇はクローン病患者回腸や NASH 患者肝臓でも観察され OCTN1 の役割を支持した 病態時に役割を果たすと考えれば 通常の飼育環境下で octn1-/-が明確な phenotype を示さないことも説明できる クローン病患者や腸炎モデルマウス血液中の食物由来 ERGO 濃度は 健常人や非炎症マウスに比べ顕著に低下した この原因の一つに ERGO が小腸細胞間液に集積する炎症細胞に取り込まれることが示唆された 一方 肝では線維化で活性化した星細胞に OCTN1 が強く発現した OCTN1 による ERGO の取り込みと抗酸化作用は 炎症や線維化に働くこれら細胞で見られるものと考えられる 3. 中枢神経系における OCTN1 の役割 2,5-7) [3H]ERGO を静注後の脳 / 血漿中濃度比は WT octn1-/-ともに 0.4~0.5 である この値は脳の capillary space より大きく ERGO が脳内へ分布することを示す一方 両マウスで差がないので OCTN1 以外のメカニズムで血液脳関門を通過すると考えられる 一方で 食物由来 ERGO は WT の脳全体で 10 µm 程度含まれる一方 octn1-/-には検出されない ( 図 1) このことから ERGO は脳に到達後 実質細胞内に取り込まれると考えた 実際 OCTN1 はヒトおよびマウス神経細胞に発現し マウス培養神経細胞での ERGO の取り込みが確認された グリアには明確な発現は認められなかった 神経細胞の容積が脳全体の 10% 以下と考えれば 食物由来 ERGO は神経細胞内に数百 µm の高いレベルで存在すると考えられる OCTN1 の機能的発現は多分化能を有する神経幹細胞 (NSC) にも観察された マウス大脳皮質由来 NSC に ERGO を添加すると 神経細胞マーカー陽性細胞の割合を増加させ アストロサイトマーカー陽性細胞の割合を減少させた ( 図 4) 他の抗酸化物質ではそのような作用が見られなかったことから ERGO の作用は抗酸化作用とは異なる可能性がある ERGO による神経新生は ERGO を多く含む食物であるタモギタケのエキス末を摂取させたマウス in vivo でも確認された ERGO やタモギタケエキス末をマウスに摂取させたところ 自発運動量に変化がない一方 強制水泳試験や尾懸垂試験における無動時間が対照群と比較し有意に短縮された 不安の指標に変化がなかったことから 抗不安作用とは異なる機序で抗うつ作用が発揮されるものと考えられる

4. まとめ OCTN1 は食物由来の抗酸化物質を取り込むため生体に備わっていると仮定すると そこに何らかの生理的意義が考えられる 抗酸化物質は体内に多種類存在しており その意義は限定的とも考えられたが 少なくとも病態時には ERGO の抗酸化作用が重要である可能性 さらには抗酸化以外の作用を示す可能性もある ERGO はヒトが日常摂取し体内に高濃度存在することから その役割の解明は病態の治療 健康増進の両面で重要と考えられる 一方 OCTN1 はこれまで クローン病 リウマチ 無症候性聴覚障害との関係が報告されており 病気と関連する disease transporter とも考えられる 基質等を使った病気の診断法 治療法の開発も期待される 参考文献 1. Kato Y, Kubo Y, Iwata D, Kato S, Sudo T, Sugiura T, Kagaya T, Wakayama T, Hirayama A, Sugimoto M, Sugihara K, Kaneko S, Soga T, Asano M, Tomita M, Matsui T, Wada M, Tsuji A. Gene knockout and metabolome analysis of carnitine/organic cation transporter OCTN1. Pharm Res. 2010, 27: 832-40. 2. Sugiura T, Kato S, Shimizu T, Wakayama T, Nakamichi N, Kubo Y, Iwata D, Suzuki K, Soga T, Asano M, Iseki S, Tamai I, Tsuji A, Kato Y. Functional expression of carnitine/organic cation transporter OCTN1/SLC22A4 in mouse small intestine and liver. Drug Metab Dispos. 2010, 38: 1665-72. 3. Shimizu T, Masuo Y, Takahashi S, Nakamichi N, Kato Y. Organic cation transporter

Octn1-mediated uptake of food-derived antioxidant ergothioneine into infiltrating macrophages during intestinal inflammation in mice. Drug Metab Pharmacokinet. 2015, 30: 231-9. 4. Tang Y, Masuo Y, Sakai Y, Wakayama T, Sugiura T, Harada R, Futatsugi A, Komura T, Nakamichi N, Sekiguchi H, Sutoh K, Usumi K, Iseki S, Kaneko S, Kato Y. Localizatoin of Xenobiotic Transporter OCTN1/SLC22A4 in Hepatic Stellate Cells and Its Protective Role in Liver Fibrosis. J Pharm Sci. 2016, 105: 1779-89. 5. Nakamichi N, Taguchi T, Hosotani H, Wakayama T, Shimizu T, Sugiura T, Iseki S, Kato Y. Functional expression of carnitine/organic cation transporter OCTN1 in mouse brain neurons: possible involvement in neuronal differentiation. Neurochem Int. 2012, 61: 1121-32. 6. Ishimoto T, Nakamichi N, Hosotani H, Masuo Y, Sugiura T, Kato Y. Organic cation transporter-mediated ergothioneine uptake in mouse neural progenitor cells suppresses proliferation and promotes differentiation into neurons. PLoS One. 2014, 9:e89434. 7. Nakamichi N, Nakayama K, Ishimoto T, Masuo Y, Wakayama T, Sekiguchi H, Sutoh K, Usumi K, Iseki S, Kato Y. Food-derived hydrophilic antioxidant ergothioneine is distributed to the brain and exerts antidepressant effect in mice. Brain Behav. 2016 Apr 22:e00477. [Epub ahead of print].