日本静脈経腸栄養学会雑誌 3 1( 2 ): 681-686:2016 特集 口から食べる を支援する栄養管理 高齢者の口腔機能が, 栄養摂取に与える影響 Impact of oral function on nutritional intake in the elderly people 池邉一典 Kazunori Ikebe 大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座有床義歯補綴学高齢者歯科学分野 Department of Prosthodontics, Gerodontology and Oral Rehabilitation, Osaka University Graduate School of Dentistry 要旨 : 高齢者では, 健康を維持し, 食生活を楽しむためには, 咀嚼機能がきわめて重要である. 本論文では, 高齢者の口のはたらき, すなわち口腔機能が, 栄養摂取, さらに健康に与える影響について, これまでのエビデンスを中心に紹介した. まとめると以下の様になる. 1. 加齢とともに歯数は減少し, 個人差も大きくなる. また, 咬合力, 味覚などの口腔機能が低下する. 2. 歯の数は, 寿命に関係する様々な因子の影響を調整した上でも, 長寿と関係がある. その歯と生存期間を結ぶ経路として, 口腔機能低下による栄養摂取の変化が考えられる. 3. 歯を失うと野菜類の摂取量が減少し, 抗酸化ビタミンや食物繊維などが不足し易い. また, タンパク質の摂取も減少する. 4. 要介護高齢者では, 咀嚼や嚥下機能は低栄養と関連がある. 5. 我々の研究より, 歯数より咬合力の方が栄養摂取 ( ビタミン, 食物繊維, タンパク質 ) や運動機能に関連することが示された. 索引用語 : 歯, 咀嚼, 栄養摂取 はじめに 食べる, 話す, 表情をつくる, というのが口のはたらきの主なものである ( 図 1). すべての動物は, 食べることによって, 栄養を摂取し, 生命を維持する. また, 話す, 表情 ( 笑顔や怒った顔 ) によってコミュニケーションをとり, 社会とつながる, というのも口の大きな役割である. そして, 特に高齢者では, 自分の歯であ れ義歯であれ, 咀嚼が最も重要であり, 健康を維持し, 食べる楽しみを与え, 長寿につながるとされている. 本稿では, 高齢者の口のはたらき, すなわち口腔機能が, 栄養摂取, ひいては健康に与える影響について, これまでのエビデンスを中心に紹介する. したがって, 私のテーマは, 特集のテーマとは若干異なり, 栄養を支援する口の機能ということになる. 1. 歯数の変化 図 1 口のはたらき 齢 ( よわい ) とは, 生まれてから経過した年数を示す言葉であるが, 歯 偏に令と書く. 古来より, 歯の数は, 分かりやすい老化の指標とされてきた. 永久歯は, 前歯が3 種類, 臼歯が4 種類, 計 7 種類あり, それが左右, 上下同数あるので 7 4 の28 本あるのはご存知のとおりで, 智歯は8 番目の歯になる. 厚生労働省の全国調査のデータ ( 図 2) に示す様に, いずれの年の調査 ( 横断調査 ) でも, 高齢の人の方が残存歯数 ( 永久歯 ) は少ない. 特に50 歳代以降, 歯数は急激に減少する. その一方で, 近年は, 同年齢の人の歯数は著しく増加している. 例えば,70 歳の平均残存歯数は, 1987 年では, 約 9 本であったが, わずか24 年後の2011 年には, 約 18 本と倍増している. これは, 学校での予防についての啓発活動, 国民の健康意識の高まり, それに歯科医師, 歯科衛生士の増加と歯科医療の普及が主な原因と考えられる. また, 日本静脈経腸栄養学会雑誌 Vol.31 No.2 2016 (681)
他の疾患や機能障害と同様に, 年齢が高くなるほど歯数も個人差が大きくなる. 例えば我々の調査でも,80 歳で20 本自分の歯が残っている人は 43% いたが, その一方で全く歯がない人 ( 無歯顎者 ) も16% いた ( 図 3). 2. 口腔機能の変化 我々の調査結果を用いて, 高齢者の口腔機能の変化を説明する. 歯はどの部位から抜けるのであろうか?80 歳時の永久歯の残存率は, 上顎に比べて下顎の方が高く, 歯種では犬歯が最も残存率が高く, 一般に大臼歯の方から歯が欠損して いくことが分かる ( 図 4). 前歯は主に噛み切るときに使われ, 奥歯 ( 臼歯 ) は, 噛み砕き, すりつぶすことが役割で, 咀嚼の中心となる. したがって, 老化とともに臼歯がなくなると, たとえ義歯を使用したとしても, 硬いものや繊維質のものを食べることが困難になる. 咬合力については, 我々は厚さ 0.1mm 未満の薄いポリエチレンフィルム (( 株 ) ジーシー, 東京 ) を噛むことによって測定している. このフィルムに上下の歯からの咬合圧が加わると, フィルム内に含まれている微小なカプセルが壊れて発色し, その濃淡と面積を専用の機器で読み取り, 咬合接触状態や咬合力を算出する. 図 2 調査年ごとの年齢と残存歯数との関係 (2011 年厚生労働省歯科疾患実態調査報告より ) 図 3 年齢群による現在歯数の違い (SONIC 研究より ) (682) 高齢者の口腔機能が, 栄養摂取に与える影響
咬合力は,70 歳,80 歳,90 歳と年齢が上がるにつれ, 急激に減少する ( 図 5). 咬合力の低下には, 歯数の減少の影響が最も大きいが, 咬筋を中心とした閉口筋群の筋力低下も, 咬合力の低下に拍車をかける. この咬合力の低下が, 食品の選択と回避を左右し, 栄養摂取に影響を及ぼす. 味覚については, 若年成人と比較して,70 歳,80 歳では,4 基本味のうち塩味, 酸味や苦味では閾値が高く, 有意差がみられたが, 甘味については, 有意差がみられなかった 1). また, 性差についても, 高齢者では, 塩味, 酸味や苦味では, 女性に比べて男性の味覚閾値が高いが, 甘味については有意差がみられなかった. この結果から, 他の味覚は老化とともに低下するが, 甘味のみは比較的維持されることが示唆された. 味覚の低下は, 食事の楽しみを奪い, 食欲不振, ひいては低栄養につながると考えられる. 年齢が上がると, 味の濃いものを好み, 味付けが濃くなると言われることがある. 塩味に対図 4 永久歯の歯種別残存率 (80 歳, 966 人,SONIC 研究より ) 図 5 年齢群による咬合力の違い (SONIC 研究より ) する味覚低下は, 高血圧と関連することも指摘されている. 歯数, 咬合力, 味覚はいずれも個人差が大きいが, 個人の口腔機能を評価し, それに応じた食事の提供が可能であれば理想的である. 3. 歯と生存年数との関係 歯数と死亡率との関係を取り上げた研究は比較的多い. ここでは, 対象者数が多く, しかも死亡率に関係する他の因子, すなわち年齢や社会経済的状況, 喫煙などの影響をできる限り統計学的に調整した多変量解析を用いた長期縦断研究を紹介する. 歯の疾患が直接死因になることはまずないにもかかわらず, 歯が少ないと短命なのはなぜか? 厚生労働省によれば, 平成 25 年度の日本人の死因は, 悪性新生物が28.5%, 心疾患が 15.5%, 肺炎が9.7%, 脳血管疾患が9.3% となっている. 死因に占める心疾患, 脳血管疾患, 肺炎の割合が, 年齢が高くなるとともに高くなっている. 歯が寿命に関係するとすれば, まずはこれらの疾患と関連があるということが考えられる. NIH(National Institutes of Health; アメリカ国立衛生研究所 ) のAbnetらは 2), 中国で40 代から 60 代の健康な約 3 万人を10~15 年追跡した. 対象者を各年代毎に, 歯数の中央値で多い群と少ない群に2 分し, その両群の死亡率を比較した. その結果, 歯の少ない群の方が, 全体としては 13%, 上部消化器がん ( 咽頭がんから胃がん ) は35%, 心疾患は28% も死亡率が高かった. Tuらは 3), イギリスの大学生約 12,600 人 ( 年齢中央値 19 歳, 男性が78%) を検診し, その57 年後, 生死と, 亡くなられた場合の死因を調べた. 学生当時, 欠損歯数が4 本以下の者 ( 智歯が4 本なかった場合も含める ) に比べて,9 本以上の者は, 循環器系疾患による死亡率が35% 高くなった. アメリカ CDC(Centers for Disease Control) のBrownは 4),18 歳以上の約 4 万人を,16 年間追跡した. その結果, ベースライン時 64 歳以下の人のうち, 無歯顎者の死亡率は19% であったのに対し, それ以外の人は10% であった. 他の社会経済的因子や生活習慣病などの影響を調整した上でも,65 歳までに無歯顎者になると, 死亡率は,1.5 倍となり, 循環器系疾患による死亡率も 1.4 倍となった. 我が国では, 九州歯科大のAnsaiらが 5), 福岡県の80 歳の地域住民約 700 人を5.5 年間追跡し, 歯数が少ないほど死亡率は高く, 特に女性でこの傾向が強かったと報告している. 日本静脈経腸栄養学会雑誌 Vol.31 No.2 2016 (683)
4. 咀嚼能力と死亡率との関係 1990 年代より, 歯周病と循環器系疾患や糖尿病との関連について多くの論文が報告されている. しかし, 咀嚼と嚥下機能が, 摂取食物や栄養を介し, 循環器系疾患に影響することは, より直接的であると考えられる. 九州歯科大のAnsaiらは 6)7),80 歳の地域住民の4 年後の死亡率について, 摂取可能食品が最も少ない群 (15のうち 4 個以下 ) は,15 食品すべて食べられると回答した群に比べ, 全死亡率は2.4 倍 6), 心血管系疾患の死亡率は4.6 倍 7) になったと報告している. 東北大のAidaらは 8), 愛知県で65 歳以上の約 4,400 人を約 4 年間追跡調査し, 残存歯が20 本以上の者に比べ,19 本以下で, しかも食べにくい食品のある者は, 心血管系疾患による死亡率が1.8 倍, 呼吸器系疾患による死亡率が1.9 倍であったと報告した. さらに,20 本以上の者と 19 本以下でも食べにくい食品のない者では, 死亡率に有意差はみられなかった. これは, 歯数より咀嚼能力 ( 自己評価 ) の方がより重要であることを示唆している. 注目すべきは, 咀嚼と死亡率との関係についての論文は, 日本の研究者によるものが大半を占めることである. ただし, 咀嚼の評価法が, いずれも被験者の自己評価であることが惜しまれる. 我々は, 咀嚼の主観的評価が, 実際に測定した客観的評価値と必ずしも一致しないことを報告している 9). 5. 義歯は健康長寿に役立つか? ドイツの Schwahnらは 10), 残存歯数が20 歯未満の約 1,800 人に対して, 約 10 年間追跡調査を行った. その結果,9 歯以上の欠損に対して, 義歯を装着せずに放置していた人は, 年齢, 性別, 教育, 収入, 夫 / 妻の有無, 口腔保健行動, 喫煙, 飲酒, 身体活動, 肥満, 高血圧, 糖尿病, 脂質異常症などの循環器系疾患に関するあらゆるリスクファクターを調整した上でも, 全死亡率は1.4 倍, 循環器系疾患による死亡率は1.9 倍になったと報告した. 6. 歯と栄養との関係 上記の様に, 咀嚼や義歯の健康長寿に対する役割は明らかである. 次に, その両者をつなぐものとして, 栄養摂取を考えてみる. 各栄養摂取量を比較するには, 年齢, 生活活動強度, BMI, 喫煙や人種 - 民族, 社会経済的状況などで調整している論文を紹介する. Hungらは 11), アメリカの 30~55 歳の8 万人以上の女性看護師を調査し, 無歯顎者 ( 全体の5.6%) は,25 歯以上の者 (61.9%) に比べて, 野菜や果物など循環器系疾患の予防に有効な食品の摂取が少なく, その一方で, 飽和脂肪酸やコレ ステロールの摂取が多く, 逆に多価不飽和脂肪酸, 食物繊維, カロテン, ビタミン Cなどが少ないとした. Nowjack-Raymerらも 12), 同じくアメリカの全国調査 (NHANES III, 約 7,000 名, 平均年齢 37.4 歳 ) の結果, 残存歯数が28 歯の群に対して, 歯の欠損のある人は, 野菜の摂取量が少なく, その結果, 食物繊維の摂取が少なく, 血清中のβ カロテン, ビタミン C 等の濃度が低いことを示した. 名古屋大のWakaiらは 13), 歯科医師 2 万人 ( 平均年齢 52 歳, 男性 92%) を調査し, 歯数の減少とともに, 野菜類, カロテン, ビタミン A,C, 乳製品の摂取が少なく, 逆に, 総摂取エネルギー, 炭水化物, 米, 菓子類は多いと報告した. この様に, 歯が少ないと野菜の摂取量が少なく, それに伴って抗酸化ビタミンや食物繊維のように, 循環器系疾患の予防に重要な栄養素の摂取が少なくなるという問題が指摘されている. 1990 年代までは, 歯の状態が悪いと, 摂取エネルギーが不足するという結果が多かった. しかし最近では, 歯の状態が悪いと, むしろ食事が高エネルギー高脂肪になり, 肥満になるという結果が多くなってきている.Osterbergらは 14), スウェーデンで, ベースライン時 55 84 歳の約 16,000 人を最長 22 年間追跡した結果, 無歯顎であった女性は, 肥満になる割合が3 倍以上になったと報告した. Zhu, Y. らは 15), アメリカの全国調査 (NHANES 2005-2008) のデータ約 9,000 人 (20~44 歳 :41%,45~64 歳 :34%, 65 歳以上 :25%) を分析し, 歯数が20 本以下の人は,28 本以上の人に比べて, 年齢や性別, 人種, 収入など社会経済的要因, 身体活動, 喫煙などを調整した上でも 食事の質 (diet quality) が低く, 果実類, 野菜類の摂取が少なく, その結果, 慢性疾患に関連するタンパク質やほとんどのビタミン類, 食物繊維, ミネラルの摂取が少なかったことを示した. Zhu, Y. らはまた 16), 同じ調査から約 5,500 人分のデータを用いて, 歯の数は, メタボリックシンドロームと関連することを示した. さらに歯の数は,BMI, 腹囲, 血圧, 空腹時血糖値と負の関係があり,H D Lコレステロールと正の関係があることを明らかにした. ただし, この関係は,64 歳以下ではみられたが,65 歳以上ではみられなかった. 上記の報告では, 歯数を対象とし, 口腔機能のみならず, 義歯使用についてのデータを分析に含めていない. 高齢者群では,20 歯以下の人が過半数を占めているので, 義歯使用の有無, さらにはそれによる咀嚼機能を評価しなければ, 口腔機能と栄養との関係は, 明らかにならない. 7. 要介護高齢者の歯と低栄養 ハワイ大学の Tamuraらは 17), 施設に入居している要介護高齢者を対象に, 低栄養に関連する要因についてシステマティックレビューを行った. その結果, 咀嚼や嚥下障害は, 年齢 (684) 高齢者の口腔機能が, 栄養摂取に与える影響
や性別 ( 女性 ), うつ傾向や認知症などとともに, 体重減少や低体重, 栄養不良などと関連があることを示した. しかし, 咀嚼や嚥下機能の評価は, いずれも客観性がなく, 妥当性が低い. 考察では, 問題点に応じた個別の対応が必要であるとし, 年齢や性別, 認知症とともに, 咀嚼機能は改善できない問題として取り上げられているが, それは, 歯科治療や口腔ケアの介入があってもはたして不可能であろうか? 8. 我々の研究結果より ここで我々の現在の取り組みを紹介させていただく. 我々は2010 年度より,70 歳 1,000 名, 80 歳 1,000 名,90 歳 300 名の地域住民を対象に, 健康長寿の要因を探索する長期縦断研究を進めている ( 図 6). この研究は, 老年心理学 ( 大阪大学人間科学研究科, 東京都健康長寿医療センター ), 老年内科学 ( 大阪大学医学系研究科, 慶応大学医学部, 東京都健康長寿医療センター ) と我々歯科補綴学 歯周病学 ( 大阪大学歯学研究科 ) との文理融合型研究である ( 図 7). 各コホートは,3 年ごとに調査を行い, 心身の健康状態の変化や死亡について情報を収集している ( 図 2). 健康長寿に関連する要因は数多く, それらは相互に複雑に影響し合っていると考えられる. それぞれの専門家が収集したデータを結合し, 交絡因子を考慮した上で, 疾患や機能障害, 長寿に何がどの程度重要なのかについて, 多角的な分析を進めている. 図 6 図 7 健康長寿の要因を探索する長期縦断研究 健康長寿についての文理融合型研究の研究組織 1) 咬合力と栄養我々の研究は 18),70 歳の人では, 社会経済的な要因を調整した上でも, 咬合力の低い人は緑黄色野菜, 魚介類の摂取が少なく, その結果, 抗酸化ビタミン, 食物繊維などの摂取が少なくなることを明らかにした. これらの栄養素が動脈硬化の予防に効果があることは, 既に多くのエビデンスが示されている. 我々の研究がこれまでの研究と異なるのは, 咬合力に注目した点で, 歯数に比べ咬合力の方が, 上記の栄養素の摂取に対して, より関連が強いことを示した. 高齢者は, 一般に残存歯が減少するが, 単に歯があること, 歯を残すことより, 義歯も含めた口腔機能維持の方がより重要であることを明らかにした点に意義がある. 2) 咬合力と運動機能咬合力と歩行速度との関連について, サルコペニアのひとつの指標である 毎秒 0.8m 以下 を指標にして分析した 19). Logistic 回帰分析の結果, 歩行速度の低下は, 女性に少なく, 年齢が高いほどで多く, 脳卒中の既往, 肥満とともに, 全身の筋力の指標とされる握力の低下, またタンパク質摂取低下と関連がみられた. また, そのような, 有意な危険因子を調整した上でも, 咬合力の低下は, 歩行速度の低下と有意な関連がみられた. さらに共分散構造分析を用いて握力を調整した上でも, 咬合力の弱い人は, タンパク質摂取の低下を介して歩行速度が遅くなることを示した. 以上のことから, 咬合力の低下が, 全身の筋力とは独立して, 下肢の運動機能低下や転倒の要因になることが示唆された. 日本静脈経腸栄養学会雑誌 Vol.31 No.2 2016 (685)
まとめ 今回の内容をまとめると以下の様になる. 1. 加齢とともに歯数は減少し, 個人差も大きくなる. その一方で, 近年高齢者の一人当たりの歯数は増加し続けている. 2. 高齢者は, 咬合力, 味覚などの口腔機能が低下している. 3. 歯の数は, 寿命に関係する様々な因子の影響を調整した上でも, 長寿と関係がある. 4. 歯と長寿を結ぶ経路として, 口腔機能低下による栄養摂取の変化が考えられる. 5. 歯を失うと野菜類の摂取量が減少し, 抗酸化ビタミンや食物繊維などが不足し易い. タンパク質の摂取も減少する. 6. 要介護高齢者では, 咀嚼や嚥下機能は低栄養と関連がある. 7. 我々の研究より, 歯数より咬合力の方が栄養摂取 ( ビタミン, 食物繊維, タンパク質 ) や運動機能に関連することが示された. 謝辞 本稿を作成するにあたり, ご指導, ご協力いただいた以下の先生方に, 心よりお礼を申し上げます ( 敬称略 ). 大阪大学大学院歯学研究科顎口腔機能再建学講座有床義歯補綴学 高齢者歯科学分野松田謙一, 香川良介, 多田紗弥夏, 榎木香織, 岡田匡史, 猪俣千里, 武下肇, 三原佑介, 魚田真弘, 小川泰治, 石田健, 宮下祐治, 村井俊介, 久留島悠子, 本多真理子, 浦上信太郎, 八田昂大, 久木田亮, 枦山智博, 前田芳信 大阪大学大学院歯学研究科口腔分子免疫制御学講座村上伸也, 北村正博 大阪大学大学院人間科学研究科権藤恭之, 中川威, 小園麻里菜 老年心理学 大阪大学大学院医学系研究科老年内科樂木宏実, 杉本研, 小黒亮輔, 中間千香子 大阪大学大学院医学系研究科神出計, 樺山舞, 龍野洋慶 保健学専攻 慶応大学医学部老年内科広瀬信義, 新井康通 東京都健康長寿医療センター高橋龍太郎, 石崎達郎, 増井幸恵, 稲垣宏樹 東京大学医学系研究科社会予防疫学大久保公美, 佐々木敏 北海道大学工学研究科小川まどか他多数 本論文に関する著者の利益相反なし 引用文献 1)Yoshinaka M, Ikebe K, Uota M, et al. Age and sex differences in the taste sensitivity of young adult, young-old and old-old Japanese. Geriatr Gerontol Int. 2015 Oct 23. doi: 10.1111/ggi. 12638. 2)Abnet CC, Qiao YL, Dawsey SM, et al. Tooth loss is associated with increased risk of total death and death from upper gastrointestinal cancer, heart disease, and stroke in a Chinese population-based cohort. Int J Epidemiol 34: 467-474, 2005. 3)Tu YK, Galobardes B, Smith GD, et al. Associations between tooth loss and mortality patterns in the Glasgow Alumni Cohort. Heart 93: 1098-1103, 2007. 4)Brown DW. Complete edentulism prior to the age of 65 years is associated with all-cause mortality. J Public Health Dent 69: 260-266, 2009. 5)Ansai T, Takata Y, Soh I, et al. Relationship between tooth loss and mortality in 80-year-old Japanese communitydwelling subjects. BMC Public Health 10: 386, 2010. 6)Ansai T, Takata Y, Soh I, et al. Relationship between chewing ability and 4-year mortality in a cohort of 80-yearold Japanese people. Oral Dis 13: 214-219, 2007. 7)Ansai T, Takata Y, Soh I, et al. Association of chewing ability with cardiovascular disease mortality in the 80-yearold Japanese population. Eur J Cardiovasc Prev Rehabil 15: 104-106, 2008. 8)Aida J, Kondo K, Yamamoto T, et al. Oral health and cancer, cardiovascular, and respiratory mortality of Japanese. J Dent Res 90: 1129-1135, 2011. 9)Ikebe K, Morii K, Matsuda K, et al. Discrepancy between satisfaction with mastication, food acceptability, and masticatory performance in older adults. Int J Prosthodont 20: 161-167, 2007. 10)Schwahn C, Polzer I, Haring R, et al. Missing, unreplaced teeth and risk of all-cause and cardiovascular mortality. Int J Cardiol 167: 1430-1437, 2013. 11)Hung HC, Colditz G, Joshipura KJ. The association between tooth loss and the self-reported intake of selected CVDrelated nutrients and foods among US women. Community Dent Oral Epidemiol 33: 167-173, 2005. 12)Nowjack-Raymer RE, Sheiham A. Numbers of natural teeth, diet, and nutritional status in US adults. J Dent Res 86: 1171-1175, 2007. 13)Wakai K, Naito M, Naito T, et al. Tooth loss and intakes of nutrients and foods: a nationwide survey of Japanese dentists. Community Dent Oral Epidemiol 38: 43-49, 2010. 1 4 )Osterberg T, Dey DK, Sundh V, et al. Edentulism associated with obesity: a study of four national surveys of 16 416 Swedes aged - 84 years. Acta Odontol Scand 68: 360-367, 2010. 15)Zhu Y, Hollis JH. Tooth loss and its association with dietary intake and diet quality in American adults. J Dent 42: 1428-1435, 2014. 16)Zhu Y, Hollis JH. Associations between the number of natural teeth and metabolic syndrome in adults. J Clin Periodontol 42: 113-120, 2015. 17)Tamura BK, Bell CL, Masaki KH, et al. Factors associated with weight loss, low BMI, and malnutrition among nursing home patients: a systematic review of the literature. J Am Med Dir Assoc 14: 649-655, 2013. 18)Inomata C, Ikebe K, Kagawa R, et al. Significance of occlusal force for dietary fibre and vitamin intakes in independently living 70-year-old Japanese: from SONIC Study. J Dent 42: 556-564, 2014. 19)Okada T, Ikebe K, Kagawa R, et al. Lower Protein Intake Mediates Association Between Lower Occlusal Force and Slower Walking Speed: From the Septuagenarians, Octogenarians, Nonagenarians Investigation with Centenarians Study. J Am Geriatr Soc 63: 2382-2387, 2015. (686) 高齢者の口腔機能が, 栄養摂取に与える影響