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Ⅱ章 背景知識 しかし 骨転移の体動時痛を 動いても痛くないようにすることは難しい場合が ある また神経障害性疼痛の場合 症状の完全な緩和が困難な場合もある これら のことを患者に理解してもらえるように 繰り返し丁寧に説明することが重要であ る 鎮痛薬の使用法 の治療は薬物療法と非薬物療法の組み合わ

資料

終末期癌患者に対する 輸液治療の是非

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緩和ケア領域の薬剤について

スライド タイトルなし

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癌性疼痛管理の指針

2 望ましい死の達成度と満足度の評価 宮下 光令 サマリー 望ましい死の達成を評価する尺度であ 施設の 73 が そう思う と回答しま る Good Death Inventory GDI 短縮 した その他では 医師を信頼していた 版と全般満足度に関する調査を行い 遺 ご家族やご友人と十分に時間を

表 Ⅲ 46 診療記録調査 対象患者背景 n % n % 性別 1) 専門的緩和ケアの診療日数 男性 % 平均 ± 標準偏差 79.5 ± 女性 % 緩和ケア病棟入院回数 年齢 1 回 % 平均 (± 標準偏差 ) 70.4 ± 12

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【目的】

<4D F736F F F696E74202D CF68A4A A E312E31338C6F8E598FC E093A190E690B6816A2E B8CDD8AB B83685D>

SBOs- 3: がん診断期の患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 4: がん治療期 ; 化学療法を受けている患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 5: がん治療期 ; 放射線療法を受けている患者の心身の特徴について述べることができる SBOs- 6: がん治療期

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モーニングセミナー   がんの痛みの緩和        平成26年12月1日(月)

Microsoft Word 抄読会.docx

Epilepsy2015

日本内科学会雑誌第98巻第12号

資料 3 1 医療上の必要性に係る基準 への該当性に関する専門作業班 (WG) の評価 < 代謝 その他 WG> 目次 <その他分野 ( 消化器官用薬 解毒剤 その他 )> 小児分野 医療上の必要性の基準に該当すると考えられた品目 との関係本邦における適応外薬ミコフェノール酸モフェチル ( 要望番号

38 龍島靖明 西垣玲奈 赤木徹 他 1 オピオイド製剤処方量の年次推移.A: 注射製剤,B: 徐放性製剤.a: フェンタニル注射剤 : 術後疼痛 がん性疼痛への適応拡大 ( ),b: デュロテップパッチ 院内採用 ( ),c: オキシコンチン, 院内採用 ( )

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表1

タペンタ 錠 25mg タペンタ 錠 50mg タペンタ 錠 100mg に係る 販売名 タペンタ 錠 25mg タペンタ 錠 50mg 医薬品リスク管理計画書 (RMP) の概要 有効成分 タペンタ 錠 100mg 製造販売業者 ヤンセンファーマ株式会社 薬効分類 821 提出年月 平成 30 年

緩和ケアに関する医療者の知識 困難感 実践尺度 のデータを解釈するための参考データについて 緩和ケアに関する医療者の知識 困難感 実践尺度 はいくつ以上だったら 知識がある 実践が出来ている 困難感が高いなどの基準はありますか? という質問をよく受けます 残念ながら そのような明確な基準はございませ

痛みの評価と対応(上級者編)

医師のためのTUE申請ガイドブック2013_本文.indd

看護に役立つ知っておきたい オピオイドの知識

緩和ケア研修会における e-learning の導 について 市 札幌病院精神医療センター副医 上村恵 ( 特定 営利活動法 本緩和医療学会委託事業委員会委員 )

「手術看護を知り術前・術後の看護につなげる」

Ⅰ. 改訂内容 ( 部変更 ) ペルサンチン 錠 12.5 改 訂 後 改 訂 前 (1) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本剤の作用が増強され, 副作用が発現するおそれがあるので, 併用しないこと ( 過量投与 の項参照) 本剤投与中の患者に本薬の注射剤を追加投与した場合, 本

GDI(Good Death Inventory): 遺族の評価による終末期がん患者の QOL 評価尺度 宮下光令 はじめに終末期がん患者の QOL(Quality of Life) の評価は容易ではありません がん患者は終末期に近くなるに従って 身体機能 認知機能が低下し 通常の調査票への記入は極

DRAFT#9 2011

Ⅲ 章推奨 4 便秘 下剤は, がん患者の便秘を改善させるか? 関連する臨床疑問 9 1 浸透圧性下剤 ( 酸化マグネシウム, ラクツロース ) は, がん患者の便秘を改善させるか? 9 2 大腸刺激性下剤 ( センナ, ピコスルファート ) は, がん患者の便秘を改善させるか? 9 3 ルビプロス

1 共通する疼痛治療 フローチャート 痛みの包括的評価 痛みの原因の評価 痛みの評価 原因に応じた対応 軽度の痛み 腎機能障害 消化性潰瘍 出血傾向 NSAIDs NSAIDs または アセトアミノフェン では消化性潰瘍の予防薬の投与を検討する 鎮痛効果が不十分な場合に検討すること オピオイドの開始

表 Ⅲ 40 背景 (n=426) 患者性別 女性 ; 度数 (%) 178(46.1) 患者年齢 平均値 (SD), 中央値 70.5(12.2),72 遺族年齢 平均値 (SD), 中央値 58.4(13.4),59 遺族性別 女性 ; 度数 (%) 258(66.5) 遺族の患者との続柄 配偶

<4D F736F F D2089BB8A7797C C B B835888E790AC8C7689E6>

【目的】

痛み目次 1. 痛み治療の基本 3 2. 第 1 段階 (WHO 3 段階ラダー ) 4 3. 第 2 段階 (WHO 3 段階ラダー ) 5 4. 第 3 段階 (WHO 3 段階ラダー ) 6 5. 各オピオイドの特徴 9 6. 経口投与可能な場合のオピオイドの初回処方 副作用対策


未承認薬 適応外薬の要望に対する企業見解 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 会社名要望された医薬品要望内容 CSL ベーリング株式会社要望番号 Ⅱ-175 成分名 (10%) 人免疫グロブリン G ( 一般名 ) プリビジェン (Privigen) 販売名 未承認薬 適応 外薬の分類

Microsoft Word - ★9. Preop opioid treatment.Schug-EE.docx

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

のつながりは重要であると考える 最近の研究では不眠と抑うつや倦怠感などは互いに関連し, 同時に発現する症状, つまりクラスターとして捉え, 不眠のみならず抑うつや倦怠感へ総合的に介入することで不眠を軽減することが期待されている このようなことから睡眠障害と密接に関わりをもつ患者の身体的 QOL( 痛

神経障害性疼痛の特徴 神経障害性疼痛と炎症性疼痛は混同されることがあるが 特徴が異なる 神経障害性疼痛 1 神経障害性疼痛の定義には 治療反応性 ( 抵抗性 ) は関係ない 2 神経障害性疼痛の病態と炎症性疼痛の病態が混在している患者もいる 炎症性疼痛 陽性症状 / 徴候 自発痛 ある ある 熱痛覚

ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

オピオイド

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

相互作用DB

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

要望番号 ;Ⅱ 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 1) 1. 要望内容に関連する事項 要望 者 ( 該当するものにチェックする ) 優先順位 学会 ( 学会名 ; 日本ペインクリニック学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 2 位 ( 全 4 要望中 )

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

佐賀県肺がん地域連携パス様式 1 ( 臨床情報台帳 1) 患者様情報 氏名 性別 男性 女性 生年月日 住所 M T S H 西暦 電話番号 年月日 ( ) - 氏名 ( キーパーソンに ) 続柄居住地電話番号備考 ( ) - 家族構成 ( ) - ( ) - ( ) - ( ) - 担当医情報 医

(別添様式)

がんの痛みは怖くない

CQ1: 急性痛風性関節炎の発作 ( 痛風発作 ) に対して第一番目に使用されるお薬 ( 第一選択薬と言います ) としてコルヒチン ステロイド NSAIDs( 消炎鎮痛剤 ) があります しかし どれが最適かについては明らかではないので 検討することが必要と考えられます そこで 急性痛風性関節炎の

終末期の呼吸困難症状への対応*松坂最終修正

患者学講座第1講「医療と社会」

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がんの痛みのコントロール

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ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

<4D F736F F F696E74202D C189EA924A90E690B E B8CDD8AB B83685D>

未承認の医薬品又は適応の承認要望に関する意見募集について

Microsoft PowerPoint 第3講_疼痛マネジメント_配布資料 (1)

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要望番号 ;Ⅱ-286 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者 ( 該当するものにチェックする ) 学会 ( 学会名 ; 特定非営利活動法人日本臨床腫瘍学会 ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 33 位 ( 全 33 要望

新規 P2X4 受容体アンタゴニスト NCP-916 の鎮痛作用と薬物動態に関する検討 ( 分野名 : ライフイノベーション分野 ) ( 学籍番号 )3PS1333S ( 氏名 ) 小川亨 序論 神経障害性疼痛とは, 体性感覚神経系の損傷や疾患によって引き起こされる痛みと定義され, 自発痛やアロディ

(別添様式1)

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70 頭頸部放射線療法 放射線化学療法

(目的)

データの取り扱いについて (原則)

オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

10 年相対生存率 全患者 相対生存率 (%) (Period 法 ) Key Point 1

アブストラル舌下錠100µg・200µg・400µg

平成 28 年 10 月 17 日 平成 28 年度の認定看護師教育基準カリキュラムから排尿自立指導料の所定の研修として認めら れることとなりました 平成 28 年度研修生から 排泄自立指導料 算定要件 施設基準を満たすことができます 下部尿路機能障害を有する患者に対して 病棟でのケアや多職種チーム

京都府がん対策推進条例をここに公布する 平成 23 年 3 月 18 日 京都府知事山田啓二 京都府条例第 7 号 京都府がん対策推進条例 目次 第 1 章 総則 ( 第 1 条 - 第 6 条 ) 第 2 章 がん対策に関する施策 ( 第 7 条 - 第 15 条 ) 第 3 章 がん対策の推進

あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

要望番号 ;Ⅱ-183 未承認薬 適応外薬の要望 ( 別添様式 ) 1. 要望内容に関連する事項 要望者学会 ( 該当する ( 学会名 ; 日本感染症学会 ) ものにチェックする ) 患者団体 ( 患者団体名 ; ) 個人 ( 氏名 ; ) 優先順位 1 位 ( 全 8 要望中 ) 要望する医薬品

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使用上の注意 1. 慎重投与 ( 次の患者には慎重に投与すること ) 1 2X X 重要な基本的注意 1TNF 2TNF TNF 3 X - CT X 4TNFB HBsHBcHBs B B B B 5 6TNF 7 8dsDNA d

地域包括ケア病棟 緩和ケア病棟 これから迎える超高齢社会において需要が高まる 高齢者救急に重点を置き 地域包括ケア病棟と 緩和ケア病棟を開設いたしました! 社会福祉法人 恩賜財団済生会福岡県済生会八幡総合病院

為化比較試験の結果が出ています ただ この Disease management というのは その国の医療事情にかなり依存したプログラム構成をしなくてはいけないということから わが国でも独自の Disease management プログラムの開発が必要ではないかということで 今回開発を試みました

医療法人原土井病院治験審査委員会

別添 1 抗不安薬 睡眠薬の処方実態についての報告 平成 23 年 11 月 1 日厚生労働省社会 援護局障害保健福祉部精神 障害保健課 平成 22 年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 向精神薬の処方実態に関する国内外の比較研究 ( 研究代表者 : 中川敦夫国立精神 神経医療研究センタートラン

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保険薬局におけるハイリスク薬取り扱い時の注意点

DRAFT#9 2011

あなたの痛みについてお話しましょう

2. 改訂内容および改訂理由 2.1. その他の注意 [ 厚生労働省医薬食品局安全対策課事務連絡に基づく改訂 ] 改訂後 ( 下線部 : 改訂部分 ) 10. その他の注意 (1)~(3) 省略 (4) 主に 50 歳以上を対象に実施された海外の疫学調査において 選択的セロトニン再取り込み阻害剤及び

7 対 1 10 対 1 入院基本料の対応について 2(ⅲ) 7 対 1 10 対 1 入院基本料の課題 将来の入院医療ニーズは 人口構造の変化に伴う疾病構成の変化等により より高い医療資源の投入が必要となる医療ニーズは横ばいから減少 中程度の医療資源の投入が必要となる医療ニーズは増加から横ばいにな

3) 適切な薬物療法ができる 4) 支持的関係を確立し 個人精神療法を適切に用い 集団精神療法を学ぶ 5) 心理社会的療法 精神科リハビリテーションを行い 早期に地域に復帰させる方法を学ぶ 10. 気分障害 : 2) 病歴を聴取し 精神症状を把握し 病型の把握 診断 鑑別診断ができる 3) 人格特徴

Microsoft PowerPoint - å½fi报説柔ㅂㅯㅼㅚ㇤ㅳㅋ.pptx

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2 成分が同一の剤形変更 例 タケプロンOD 錠 15mg タケプロンカプセル 15mg ユリーフOD 錠 4mg ユリーフ錠 4mg コカールドライシロップ 40% カロナール細粒 20% ( 粉砕 ) レボフロキサシン錠 500mg レボフロキサシン細粒 10% 患者に説明 ( 価格 服用方法等

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Transcription:

第 35 回秋田県緩和ケア研究会 2017.04.29 不易流行のがん疼痛治療 大坂 巌 静岡県立静岡がんセンター緩和医療科

去来抄 流行を知らざれば風新たならず 不易を知らざれば基立ちがたく

日本における緩和ケアのアップデート Ver. 年 象徴的内容 提供場所 薬剤 その他 1.0 1973 エンドオブライフ ケア 終末期がん患者 病棟 オクトレオチド オランザピン 日本癌学会 日本癌治療学会 日本死の臨床研究会 日本サイコオンコロジー学会 日本がん看護学会 日本緩和医療学会 2.0 2002 緩和ケア診療加算 早期からの緩和ケア がん患者 ガイドライン がん対策推進基本計画 緩和ケア研修会 病棟 チーム 在宅 ゾレドロン酸 フェンタニル貼付剤 ミルタザピン アプレピタント 日本臨床腫瘍学会 STAS-J J-HOPE study Care Evaluation Scale Good Death Inventory OPTIM study SHARE(CST) 3.0 2010 Temel論文(NEJM2010) がん治療との統合 支持療法 緩和医療専門医 緩和ケアセンター 病棟 チーム 在宅 外来 プレガバリン デュロキセチン デノスマブ メサドン フェンタニルレスキュー薬 (アブストラル ) Advance Care Planning End-of-life discussion 日本がんサポーティブケア学会 4.0 2017 非がん患者 エンドオブライフ ケア いつでも どこでも ナルデメジン ヒドロモルフォン STAS-J: Support Team Assessment Schedule-Japan; J-HOPE: Japan HOspice and Palliative care Evaluation; OPTIM: Outreach Palliative care Trial of Integrated regional Model; CST: Communication Skill Training

がん疼痛治療の不易

全人的苦痛 (total pain) 身体的苦痛 痛み 他の身体症状 日常生活動作の支障 精神的苦痛 不安 いらだち うつ状態 社会的苦痛 全人的苦痛 total pain スピリチュアルな苦痛 生きる意味への問い 死への恐怖 自責の念 経済的な問題 仕事上の問題 家庭内の問題

WHO方式がん疼痛治療法 がんの痛みからの解放 第2版 鎮痛薬使用の原則 1 できるだけ経口で(by mouth) 2 時間通りに(by the clock) 3 痛みの強さに応じた鎮痛薬を(by the ladder) 4 患者ごとに適量を決めて(by the individual) 5 細かい配慮を(with attention to detail) 第3段階 中等度から高度の痛み 第2段階 中等度までの痛み モルヒネ フェンタニル オキシコドン コデイン トラマドール 第1段階 軽度の痛み アセトアミノフェン NSAIDs 鎮痛補助薬

がん疼痛治療の流行 オピオイド鎮痛薬

オピオイド鎮痛薬の数 45 40 35 30 ヒドロモルフォン徐放錠ヒドロモルフォン速放錠フェンタニル舌下錠フェンタニルバッカル錠オキシコドン注タペンタドール錠オキシコドン散メサドン徐放錠 25 20 15 フェンタニル貼付剤 モルヒネ徐放カプセル オキシコドン徐放錠 モルヒネ内用液 4% モルヒネ注 10 モルヒネ錠 モルヒネ徐放錠 5 モルヒネ末 フェンタニル注 モルヒネ坐剤 0 モルヒネ注 複方オキシコドン注 1950 1960 1970 1980 1990 2000 2010 年

WHO方式がん疼痛治療法 α 鎮痛薬使用の原則 1 できるだけ経口で(by mouth) 2 時間通りに(by the clock) 3 痛みの強さに応じた鎮痛薬を(by the ladder) 4 患者ごとに適量を決めて(by the individual) 5 細かい配慮を(with attention to detail) がんの痛みからの解放 第2版より一部改変 第4段階 難しい痛み StepⅢオピオイド 第3段階 中等度から高度の痛み StepⅡオピオイド 第2段階 中等度までの痛み モルヒネ フェンタニル オキシコドン コデイン トラマドール 第1段階 軽度の痛み 低用量のオキシコドン モルヒネ アセトアミノフェン NSAIDs 鎮痛補助薬 メサドン

WHO 方式がん疼痛治療法の限界 NSAIDs 長期使用の意義 StepⅡオピオイドの実用性オピオイドによる鎮痛治療の限界オピオイド スイッチング突出痛への対応臨床研究の方法論とその解釈 Natoli S, et al. Expert Opin Pharmacother 2015

StepⅡオピオイドは不要かも知れない オピオイド未使用のがん患者240例を対象とした 低用量モルヒネと弱オピオイドの無作為化比較試験 % *P<.001 レ ス ポ ン ダ ー の 割 合 レスポンダー 治療前よりも20%以上痛みが低下した患者 Bandieri E, et al. J Clin Oncol 2015

モルヒネ vs. オキシコドン オピオイド未使用のがん患者200例を対象とした モルヒネとオキシコドンの無作為化比較試験 % 100 鎮 痛 効 果 が 得 ら れ た 患 者 の 割 合 モルヒネ 90 オキシコドン 80 70 60 50 40 30 20 10 0 n=98 1回目 n=100 n=12 n=21 2回目 Riley J, et al. J Pain Symptom Manage 2015

中等度以上の痛みに対する治療 非オピオイド鎮痛薬で十分な鎮痛効果が得られない または 中等度以上の痛みのある場合 オピオイドを使用する 強い推奨 低いエビデンスレベル 患者の状態 ( 可能な投与経路 合併症 併存症状 痛みの強さなど ) から 個々の患者に合わせたオピオイドを選択する 強い推奨 低いエビデンスレベル がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2014 年版 p.137

オピオイドの鎮痛効果に差はない がん患者520例を対象としたStepⅢオピオイドによる 鎮痛効果に関する無作為化比較試験 10 9 8 平 均 の 痛 み の 強 さ 経口モルヒネ (n = 122) 経皮ブプレノルフィン (n = 127) 経口オキシコドン (n = 125) 経皮フェンタニル (n = 124) 7 6 5 4 3 2 1 0 Baseline Visit2 Visit3 Visit4 Visit5 Visit6 Corli O, et al. Ann Oncol 2016

メサドン WHO 3段階除痛ラダーの次のステップ NMDA受容体阻害作用を有する 他のオピオイド鎮痛剤との不完全な交叉耐性 重大な副作用に QT延長 呼吸抑制などがある 体内動態に個人差がある 血中濃度が定常に達するまでの期間は2 9日間 消失半減期は8 120時間以上

タペンタドール 2つの異なる薬理学的作用機序を有する μオピオイド受容体作動作用 ノルアドレナリン再取り込み阻害作用 鎮痛効果はオキシコドンと同等 消化器系副作用が他のオピオイドより少ない グルクロン酸抱合により代謝を受ける 主代謝産物は鎮痛作用なし

侵害刺激の上行路と下行性抑制系 大脳 中脳 下行性疼痛抑制系 侵害刺激の上行路 脳幹 脊髄 侵害刺激

疼痛機序の変化 侵害受容性疼痛 混合する疼痛 神経障害性疼痛 μオピオイド受容体作動 ノルアドレナリン再取り込み阻害 急性痛 慢性痛 Tzschentke TM, et al. CNS Drugs 2014

ヒドロモルフォン 高度な親水性とμ-受容体への強い親和性 鎮痛効果はモルヒネ オキシコドンと同等 経口投与では モルヒネの1/5量で換算 グルクロン酸抱合により代謝を受ける hydromorphone-3-glucuronide(h3g)は鎮痛作用なし 用量依存性に神経毒性(ミオクローヌス等)を生じうる 高度な腎障害においても使用できる可能性あり King S, et al. Palliat Med 2011

持続痛が緩和されない場合 他のオピオイドへ変更する 他のオピオイドを追加する 経口投与 注射剤を持続注射 持続皮下注へ変更する オピオイドにケタミンを併用する 特定の病態*においては 副作用に注意しながら コルチコステロイドを投与する * 脊髄圧迫症候群など神経への圧迫による痛み 炎症による痛み 頭蓋内圧亢進に伴う痛み 臓器の被膜伸展痛 骨転移に伴う痛みなど がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2014年版 p.155-168

2種類のオピオイドを併用すると 痛みは軽減する可能性がある NRS 10 8 フェンタニル(3.7mg)にモルヒネ(61mg)追加 (n=5) モルヒネ(396mg)にフェンタニル(0.96mg)追加 (n=5) 6 4 2 0 0 2 週 Mercadante S, et al. Support Care Cancer 2004より改変

オピオイドの併用 組み合わせを決めておく 1トラマドール or タペンタドール 2オキシコドン or モルヒネ 3フェンタニル 最大 3 剤まで 1+2 1+3 2+3 1+1 2+2 1+2+3 1+1+2 1+2+2 2+2+3 有効性を想定する増量による効果やレスキューの効果 最終形を考えた上で実施する併用は一時的なのか継続するのか 患者 家族と相談するアドヒアランスの確認服用しやすさ

麻薬適正使用量の国際比較 mg/人 700 600 350 実使用量 適正使用量 ACM 300 500 250 400 200 300 150 200 100 100 50 0 ACM: Adequacy of consumption measure 0 Duthey B, et al. J Pain Symptom Manage 2014

日本のオピオイド使用量が増加しない理由 耐性が少ないので高用量必要とする患者が少ない? 高用量だと精神症状など副作用が出やすい? 放射線治療 化学療法 神経ブロックにアクセスできている? 高齢がん患者が多く必要量そのものが少ない? 患者の麻薬への抵抗感がある 訴えが少ない? 医師の麻薬への抵抗感がある 治療意図が少ない? 小さい規格が多い? 弱オピオイド ( トラマドール ) で治療されている? 開始する時期が遅い? 非がん患者にオピオイドが積極的に使用されていない 不適切な使用によるものが少ない 森田達也平成 27 年度厚生労働省科学研究費補助金 がん診療拠点病院におけるがん疼痛緩和に対する取り組みの評価と改善に関する研究 班

がん疼痛治療の流行 突出痛

突出痛と薬の切れ目の痛み 痛みの強さ 突出痛 薬の切れ目の痛み 突出痛 定時投与オピオイド鎮痛薬の血中濃度 薬の切れ目の痛み 持続痛 時間 大坂巌 ; 森田達也ら編続エビデンスで解決! 緩和医療ケースファイル 2016

突出痛のある患者に何をするか オピオイドのレスキュー薬を投与する 強い推奨 低いエビデンスレベル 投与量 : 経口投与では 1 日投与量の 10~20% の速放性製剤を 持続静注 持続皮下注では 1 時間量を急速投与する 投与間隔 : 経口投与の場合は 1 時間毎 持続静注 持続皮下注の場合は 15~30 分毎とする 投与経路 : 定期投与と同じ経路を原則とする 発現から最大になるまでの時間の短い突出痛に対しては 静脈内 皮下投与 口腔粘膜吸収剤を検討する ただし 口腔粘膜吸収剤は持続痛がコントロールされている場合に限る がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン 2014 年版 p.171

国内で利用可能なレスキュー薬 一般名商品名規格タイプ コデイン コデインリン酸塩散 コデインリン酸塩錠 10mg/g(1%) 100mg/g(10%) 5mg 20mg ジヒドロコデイン ジヒドロコデインリン酸塩末 散 10mg/g(1%) 100mg/g(10%) モルヒネ塩酸塩末 - SAO モルヒネ モルヒネ塩酸塩錠 10mg オプソ 内用液 5mg 10mg アンペック 坐剤 10mg 20mg 30mg オキシコドンオキノーム 散 2.5mg 5mg 10mg 20mg フェンタニル アブストラル 舌下錠 イーフェン バッカル錠 100 μg 200 μg 400 μg 50 μg 100 μg 200 μg 400 μg 600 μg 800 μg ROO SAO: short-acting opioid ROO: rapid-onset opioid

レスキューには2つの種類がある Short-acting opioid (SAO) 短時間作用型オピオイド モルヒネ オキシコドンの速放性製剤 効果発現が遅い 作用時間が長い 突出痛 定時投与オピオイド 持続痛 (Around the clock opioid: ATC) Rapid-onset opioid (ROO) 即効性オピオイド フェンタニルのバッカル錠 舌下錠 効果発現が速い 作用時間が短い 突出痛 定時投与オピオイド 持続痛 (Around the clock opioid: ATC) 大坂 巌 日病薬誌 2014

SAO

ROO

フェンタニルレスキューは即効性 フェンタニル舌下錠およびバッカル錠における プラセボ対照の無作為化二重盲検比較試験 n=74 疼 痛 強 度 変 化 量 PID 疼 痛 強 度 変 化 量 n=73 *P < 0.05 時間(分) 時間(分) フェンタニル舌下錠 フェンタニルバッカル錠 Shimoyama N, et al. Int J Clin Oncol 2014 Kosugi T, et al. J Pain Symptom Manage 2013

フェンタニルレスキューは即効性 フェンタニル経粘膜剤およびモルヒネ速放性製剤による 無作為化二重盲検ダブルダミークロスオーバー試験 n = 75 フェンタニル経粘膜剤 疼 痛 強 度 変 化 量 モルヒネ速放性製剤 分 Coluzzi PH, et al. Pain 2001

フェンタニル舌下錠 vs モルヒネ皮下注 がんの突出痛におけるフェンタニル舌下錠(100 )のモルヒネ皮下注射(5mg)に 対する非劣性試験(無作為化二重盲検ダブルダミー比較試験) フェンタニル舌下錠 モルヒネ皮下注射 Zecca E, et al. J Clin Oncol 2017

フェンタニル舌下錠 vs モルヒネ皮下注 がんの突出痛におけるフェンタニル舌下錠(100 )のモルヒネ皮下注射(5mg)に 対する非劣性試験(無作為化二重盲検ダブルダミー比較試験) モルヒネ皮下注射が優れる フェンタニル舌下錠が優れる 95%信頼区間の下限が 0.6より大きければ フェンタニル舌下錠とモルヒネ皮下注は同じ効果(非劣性)と実証できた NIm: Non-inferiority margin 治療前後でのNRSの差2を臨床的意義のある最小変化量とし その30%である0.6をNImとして設定 Zecca E, et al. J Clin Oncol 2017

レスキューには2つの目的がある 時期 種類 投与量 目的 持続痛が コントロール されるまで 定時オピオイドと同じ (フェンタニル製剤以外) 定時オピオイド 1日量の10 20% 定時オピオイドの タイトレーション 持続痛が コントロール されてから 突出痛の性状に合うもの 有害事象が少ないもの 至適用量を調整 突出痛治療 持続痛のコントロール 例 前週を通して1日12時間以上 痛みが ない または 軽度 レスキュー ドースが1日4回以下

がん疼痛治療の流行 鎮痛補助薬

デュロキセチンは化学療法による 神経障害性疼痛を緩和する 化学療法誘発性の末梢神経障害性疼痛のあるがん患者231例を対象とした デュロキセチンの無作為化二重盲検プラセボ対照クロスオーバー試験 デュロキセチン プラセボ 痛 み の 強 さ 1.06 P=0.003 Effect Size 0.513 週 Smith EML, et al. JAMA 2013

プレガバリンは神経障害性疼痛には 効かないかも知れない 坐骨神経痛のある患者209例を対象とした プレガバリンの無作為化二重盲検プラセボ対照試験 下 肢 痛 の 強 さ 週 Mathieson S, et al. N Engl J Med 2017

不易流行の緩和ケア

緩和ケアの展開 近代医学医療における個別性の喪失患者を全人的に理解しなくなった 病を見てひとを見ず ホスピスケア患者の個別性 価値観を尊重患者の身体 心理社会 実存的側面を包括的にみる インフォームドコンセントに基づいた目標の個別化 QOL を向上させるための苦痛緩和技術 多職種チーム医療 森田達也日本緩和医療学会ニューズレター第 18 号 2003

目的と目標

緩和ケアの展開 近代医学 医療における個別性の喪失 患者を全人的に理解しなくなった 病を見てひとを見ず ホスピスケア 患者の個別性 価値観を尊重 患者の身体 心理社会 実存的側面を包括的にみる QOLを向上させるための 苦痛緩和技術 症状を見てひとを見ず Symptomatologist Kearney M. Palliat Med 1992 森田達也 日本緩和医療学会ニューズレター第18号 2003

疼痛治療の目標と目的 目標痛みなく眠れること安静時に痛くないこと動いても痛くないこと よりリアルな目標子供のお弁当を作ることができる犬の散歩に行くことができるトイレに自分で行くことができる より有意義な Life( 生活 人生 ) を送れるように

緩和ケア WHO 2002年 生命を脅かす病に関連する問題に直面している 患者と家族の痛み その他の身体的 心理社会的 スピリチュアルな問題を早期に同定し 適切に 評価し対応することを通して 苦痛を予防し 緩和することにより患者と家族のQuality of Life を改善する取り組みである http://www.who.int/cancer/palliative/definition/en/

緩和ケア 厚生労働省 2017 年 がんその他の特定の疾病に罹患した者に係る身体的 若しくは精神的な苦痛又は社会生活上の不安を緩和 することによりその療養生活の質の維持向上を図る ことを主たる目的とする治療 看護その他の行為 がん対策基本法第 15 条

ホスピス 中世の巡礼者や十字軍の兵士が 聖地エルサレムに辿り着くまでの休息の場 hospice hospes hospitium hospitality hospital 客を暖かくもてなす主 客見知らぬ人 (stranger) 客を厚遇するもてなしの心 厚遇 歓待病院

メアリー エイケンヘッド 近代ホスピスの創始者 アイルランドの修道女 尼僧修道会を設立 (28 歳 ) 貧しい 病める人々に対して 最期の時に人間らしい 温かなベッドと優しいケアを ホーム で提供 飢饉や疫病の時は路地裏に病む人を求めて歩き回った 階級 主義 国籍は問わない 岡村昭彦ホスピスへの遠い道春秋社 1999

楽 楽しい たのしみ 普通 らく つらい

抜苦与楽 悲 慈

慈悲喜捨

慈悲喜捨

慈悲喜捨

不易流行のがん疼痛治療 変わってはならないもの ( 不易 ) 全人的アプローチ QOLの改善苦痛の緩和個別性 尊厳の重視 変わらなくてはならないもの ( 流行 ) 苦痛緩和のための新たな薬剤 技術 ケア疾病の軌道 (trajectory) に沿った治療 ケア臨床研究ホスピスケアへの回帰

ご清聴ありがとうございました ご質問 お問い合わせはこちらまで 大坂巌 i.osaka@scchr.jp