15. 開放経済下の総需要 (2) 基礎マクロ経済学 1
概要 1. 今回のねらい 2. 固定為替レート制下のMFモデル 3. 利子率格差 4. 変動相場制か固定相場制か 5. 物価水準の変化を伴うMFモデル 6. 要約 基礎マクロ経済学 2
1. 今回のねらい 前回の講義では短期均衡分析を小国開放経済に拡張した マンデル = フレミング モデルについて学んだ 特に変動相場制のケースを扱った 今回の狙いは 固定相場制下のマンデル = フレミング モデルについて理解する 国際的な利子率の格差について理解する 物価水準の変化を考慮したマンデル = フレミング モデルについて理解する 基礎マクロ経済学 3
2. 固定レート制下の MF モデル マンデル = フレミング モデル 小国開放経済版 IS-LM モデル IS* 曲線 小国開放経済における財市場を均衡させる名目為替レートと所得の組み合わせの軌跡 LM* 曲線 小国開放経済における貨幣市場を均衡させる名目為替レートと所得の組み合わせの軌跡 基礎マクロ経済学 4
2-1. 固定レート制はどのように機能するか? 固定レート制下の中央銀行 あらかじめ決められた名目為替レート ( 平価 ) で外国通貨と自国通貨を交換する役割を担う 金融政策目標は 為替平価の維持 のみ 固定レート制と為替裁定の例 平価が 1 ドル =1 円 市場均衡レートが 1 ドル = 15 円だったとする 市場で 2 ドル出して 3 円で調達し 日銀にその 3 円を 3 ドルで売れば 1 ドルの儲けが出る ( 円供給の減少 ) 結果 市場均衡レートも平価に収束 基礎マクロ経済学 5
為替裁定と LM* 曲線のシフト 為替裁定と円供給の減少 Y = 1 k M P s L + lr 基礎マクロ経済学 6
為替裁定による平価への収束 ( 均衡レート > 平価の場合 ) e LM 2 M LM1 IS e = e 為替裁定に伴う LM* のシフトにより 市場均衡レートは平価水準に収束 基礎マクロ経済学 7 Y
為替裁定による平価への収束 ( 均衡レート < 平価の場合 ) e LM 1 LM 2 IS e = e M 為替裁定に伴う LM* のシフトにより 市場均衡レートは平価水準に収束 基礎マクロ経済学 8 Y
2-2. 固定レート制下の政策効果 財政拡大 IS* が右シフト 変動レート制下では自国通貨高 所得不変 金融緩和 LM* が右シフト 変動レート制下では自国通貨安 所得増大 輸入規制 IS* が右シフト 変動レート制下では自国通貨高 所得不変 基礎マクロ経済学 9
財政拡大の効果 e LM 1 LM 2 G IS 1 IS 2 e = e M 名目為替レート不変 所得増大 Y 基礎マクロ経済学 1
固定相場制下の財政拡大効果 名目為替レート不変 所得増大 変動相場制では所得が不変 この違いはなぜ生まれるか? 変動相場制における為替レートの反応 自国通貨高 純輸出減少 ( 財政拡大効果を相殺 ) 所得不変 固定相場制では為替変動を通じた相殺効果が働かない 結果として所得が増大 基礎マクロ経済学 11
金融緩和の効果 e LM 1 LM 2 IS 1 e = e M M 名目為替レート不変 所得不変 Y 基礎マクロ経済学 12
固定相場制下の金融緩和効果 名目為替レート不変 所得不変 変動相場制では所得が大きく増大 この違いはなぜ生まれるか? 変動相場制における為替レートの反応 自国通貨安 純輸出増大 ( 金融緩和効果を増幅 ) 所得が大幅に増大 固定相場制では為替裁定を通じた貨幣供給減が発生するうえ 為替変動を通じた増幅効果が働かない 結果として所得は不変 基礎マクロ経済学 13
輸入規制の効果 e LM 1 LM 2 NX IS 1 IS 2 e = e M 名目為替レート不変 所得増大 Y 基礎マクロ経済学 14
固定相場制下の輸入規制効果 名目為替レート不変 所得増大 変動相場制では所得が不変 この違いはなぜ生まれるか? 変動相場制における為替レートの反応 自国通貨高 純輸出減少 ( 輸入規制効果を相殺 ) 所得 純輸出不変 固定相場制では為替変動を通じた相殺効果が働かない 結果として所得 純輸出が増大 基礎マクロ経済学 15
固定相場制下の政策効果 財政拡大 名目為替レート不変 所得増大 閉鎖経済で所得増大 変動相場制下で所得不変 金融緩和 名目為替レート不変 所得不変 閉鎖経済で所得増大 変動相場制下で所得大幅増大 輸入規制 名目為替レート不変 所得増大 閉鎖経済 変動相場制ともに 純輸出も所得も不変 基礎マクロ経済学 16
3. 利子率格差 MF モデルにおける利子率格差 小国開放経済を仮定し 自国利子率は外国利子 率と常に一致すると考える ( r = r ) 現実には一般に利子率格差が存在している なぜか? カントリーリスクと将来の為替変化予想 カントリーリスク : 貸付の返済にリスクがある国の金利は高くなる 為替変化予想 : 将来安が予想される通貨を持つ国の金利は高くなる 基礎マクロ経済学 17
利子率格差を考慮した MF モデル 利子率格差の導入 IS* 曲線 LM* 曲線の書き換え基礎マクロ経済学 18 + = r r リスクプレミアム + + = + + + + = ) ( 1 ) ) ( ( ) (1 * * r l L P M k Y NX G r v I ct C jp P Y jp c P e s
) ) ( ( ) (1 * * NX G r v I ct C jp P Y jp c P e + + + + = リスクプレミアムの上昇 IS* 曲線のシフト LM* 曲線のシフト 19 基礎マクロ経済学 + + = ) ( 1 r l L P M k Y s
リスクプレミアム上昇の影響 e LM 1 LM 2 θ IS 2 IS 1 θ Y 名目為替レート上昇 ( 自国通貨安 ) 所得増大 基礎マクロ経済学 2
リスクプレミアム上昇の影響 自国通貨安 所得増大 リスクプレミアム上昇 自国金利上昇 投資減少 ( 所得減少要因 ) 自国通貨安と純輸出拡大 ( 所得増大要因 ) 前者 < 後者で所得増大 為替相場の将来予想と現在の為替相場 自国通貨安予想 リスクプレミアム上昇 自国通貨安 自己実現的な通貨安が発生 将来安予想の通貨が現在から売られる 基礎マクロ経済学 21
4. 変動相場制か固定相場制か? 国際金融のトリレンマ 為替安定 完全資本移動 独立的金融政策運営は同時に実現出来ない (2 つまで ) とする命題 変動相場制 : 完全資本移動と独立的金融政策運営を実現可能 固定相場制 : 完全資本移動と為替安定を実現可能 変動相場制と固定相場制のどちらが望ましい制度かはその国がどういった政策目標を持つかに依存する 基礎マクロ経済学 22
トリレンマのイメージ 完全資本移動 自由変動 ハードペッグ 金融政策独立性 為替安定 ソフトペッグ 基礎マクロ経済学 23
為替相場制度の分類 ( 前回参照 ) 自由変動 (35) ソフトペッグ (14) ハードペッグ (48) 変動相場制度通貨同盟カレンシー ボードドル ペッグバスケット ペッグ管理フロート制度 B B C ルールドル化 () 内は国の数 (http://www.imf.org/external/np/mfd/er/24/eng/124.htm を参照 ) 24 基礎マクロ経済学
5. 物価水準の変化を伴う MF モデル MF モデルでは一定の物価が想定されていた 小国開放経済版の IS-LM モデルである MF モデルは 小国開放経済版の総需要理論 IS-LM モデルから AD 曲線を導出したときと同様に ここでも物価水準の変化を考慮に入れた MF モデル ( 小国開放経済版 AD 曲線 ) を検討する 基礎マクロ経済学 25
物価変動と LM* 曲線のシフト 物価上昇 Y s 1 M = L + lr k P 基礎マクロ経済学 26
IS*-LM* モデル e LM ( P = P2) LM ( P = P1) P (P1<P2) IS Y ( P = 2) 2 P Y ( P = 1) 1 P Y 基礎マクロ経済学 27
小国開放経済版 AD 曲線の導出 P AD 曲線 P 2 P 1 Y 2 Y Y 1 基礎マクロ経済学 28
長期均衡への調整 短期 価格が硬直的 生産量は一般に完全雇用生産量と一致しない 長期 価格が伸縮的 生産量は完全雇用生産量と一致する 長期均衡への調整 価格が変化し 完全雇用生産量に収束する 基礎マクロ経済学 29
短期と長期の IS*-LM* e LM ( P = P1) LM ( P = P2) IS C K P (P1>P2) Y 1 Y Y 長期的な物価の下落に伴い LM* 曲線が右シフト 基礎マクロ経済学 3
短期と長期の AD-AS P AD LRAS P 1 K SRAS 1 P 2 C SRAS 2 Y Y 長期的な物価の下落に伴いSRASが下シフト 基礎マクロ経済学 31
6. 確認問題 固定相場制において財政拡大が所得に与える影響について MF モデルの図を用いて説明せよ 固定相場制において金融緩和が所得に与える影響について MF モデルの図を用いて説明せよ 変動相場制においてリスクプレミアム上昇が名目為替レートに与える影響について MF モデルの図を用いて説明せよ 国際金融のトリレンマとは何か 言葉で説明せよ 基礎マクロ経済学 32