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3)F77G98 F77G98-6 スピーカーユニットの特性と測定 図 3 F77G98-6 スピーカーユニットの特性 ( メーカー発表 ) 図 3 は, 今回用いた小型スピーカー F77G98-6( 口径 77 mm, 以下 F77G) のメーカー発表による特性データである 5) 特徴としては, 利得の周波数依存図は発表されているが, インピーダンスの周波数依存は発表されていない また, これに関連したスピーカーユニットの Q 値等も発表されていない さらに, 表示されている共振周波数の値 90 Hz が, 他社の 8 cm 程度のスピーカーユニットの値 (110 Hz 程度 ) に比べて低すぎると考えられる 以上の理由から, このスピーカーユニットを利用するには, インピーダンスの特性を知ることが重要であると考えられた 図 4 は, 比較のための FE 103En( 口径 100 mm, 以下 103En) スピーカーユニットのメーカー発表による特性データである F77G と異なる主な特性として, 共振周波数, 出力レベルおよび Q 値等がある 4) 測定装置と測定結果図 5 は, 今回用いたスピーカーユニットのインピーダンス測定装置のブロックダイアグラムである 測定では, スピーカーに直列接続された基準抵抗 Rs 両端 図 4 FE 103En の特性

の電圧 Vrs を一定に保ちながら ( 周波数発振器 (SG) とパワーアンプとの間に設置された可変減衰器 (Att) の減衰量で調節を行う ), 周波数を変化させてスピーカー両端電圧 Vsp を測定する すなわち,Rs と Vrs の値より電流 I を求め, スピーカーのインピーダンス Zsp = Vsp / I を計算する なお実験では, 図中 G 点は図 5 インピーダンス測定装置オッシロスコープ 2 信号の共通アース点であるため,Vrs と Vsp との観測信号は逆位相になってくる また, 実際の測定においては,G 点およびパワーアンプ出力 - 点からスピーカー部 ± 点との接続には 1 m 程度のスピーカーコードを用いた 他方, 実験では Rs と Vrs の値を 96.7 Ω( 実測値 ) および 1.2 Vpp とし, その時の I を 12.4 mapp に固定した 図 6 は, 今回測定されたスピーカーユニット F77G と 103En とのインピーダンス周波数依存性 ( それぞれ赤色および青色曲線 ) である F77G での位相変化 (±) の最大は 概ね 110 Hz で 0.22π rad,160 Hz で 0.25πrad であった 図から, ユニット単体の曲線は低周波側に 1 つのピークを持っていて, その中心周波数は F77G と 103En 図 6 スピーカーユニットのインピーダンス周波数依存性とで, それぞれ,131 Hz および 105 Hz であり, メーカー公称値に比べて高い 特に,F77G の場合, その差が 40 Hz 以上である これらの差については, インピーダンスの測定条件の違い等が考えられるが, 今後の課題である また, 波高値において 103En のそれが高いのは, 低周波帯域での音圧レベルによると思われるが, 詳細は未定である 他方, 前記した位相変化の測定値は,± の最大シフト近辺の値であるので, それらの周波数差約 50 Hz は, リアクタンスの ± 最大での周波数差となり, ある種等価回路の共振幅となる 6) 次に,Q 値を求めるために, 図 7 と図 8 に, 図 6 の共振部の拡大図を示す この図の X 軸座標は, 図 6 と異なってリニヤースケールである なお,Q 値計算に必要なユニットの直流抵抗値 Rdc は実測値で,F77G と 103En とに対して,7.9 Ωおよび 8.0 Ωであった

図 7,8 と図 2 と比較しながら, 波高値や線幅を求め, さらに Rdc を用いて Q 値を計算した Q 値は F77G と 103En とに対して,1.3 および 0.53 であった 103En のカタログ数値は 0.33 であるので, 実験値は若干高い値となっているが, この原因として, 図 7, 8 の共振曲線と図 2 の右裾上がり ( 波形の対称性 ) のそれと比較すると, 共振曲線自体が異なっているので, 考察しているモデルの差異が感じられる また, インピーダンスの測定条件の差異も考えられる 他方,LRC 直並列共振器 Q 値の一般論によると,Q 値は, ( 共振器内の電磁エネルギーの平均 )/(1 周期間のエネルギー損失の平均 ) と定義されていて 7), スピーカーの場合, 分母の損失項にはコイル抵抗による熱損失の他, ある結合定数を経て放出される音波エネルギーも該当する ここで, 損失項の前項は, スピーカー線も含めて少ない方がよいが, 後者はスピーカー音の強弱や遅延音と関連するので, メーカーの苦慮するところと思われ, 値の大小によって単純に評価できない いずれにしても,F77G スピーカーの Q 値に対しては 図 7 F77G98-6 の共振波形図 8 103En の共振波形図 9 バスレフスピーカーボックスでのインピーダンススでのインピーダンス

今後の検討が必要である 図 9 は,F77G スピーカーユニットを内容積 1.44 l のバスレフボックス 8) に装着した場合の上記測定装置で測定したインピーダンス周波数依存性 ( 赤色曲線 ) である 参考までに,FOSTEX FE 103En を同社 P1000 E( 内容積 3.6 l, ダクト共振周波数 82 Hz) スピーカーボックスに装着した場合のインピーダンス周波数依存性 ( 青色曲線 ) の測定値を示した 二曲線とも, バスレフスピーカーボックスの特徴である 2 山のピークを示しており, ダクト共振周波数と思われる中間の谷周波数は,F77G で 150 Hz, 103En で 90 Hz であった ただし,F77G においては, ユニット共振周波数よりダクト共振周波数の方が高く, さらに,2 山のピーク間の谷が浅いので, スピーカーとダクトとの共振周波数の組み合わせに若干の問題があるかも知れない いずれにしての, 図 6 の結果とあわせて考えると, 両方のスピーカーとも, ユニットの共振周波数より低周波側でインピーダンスが活性化しているので, ボックスの箱なり低音が生じていると思われる まとめ 以上まとめると,F77G と 103En とに対してインピーダンス周波数依存性を測定し, その共振曲線と Q 値を得た 共振周波数では, 両方のスピーカーユニットともメーカーカタログ値より高く, それらの変動上昇率は F77G で 46 %(103En, 26 %) であり,F77G の上昇率は多すぎると考えられる 他方,Q 値は,F77G と 103En に対して 1.31 および 0.53 であり,103En ではカタログ値 0.33 よりかなり高い 共振周波数と Q 値のカタログ値との差異の要因として,Q 値計算方法の差異 9) や測定条件の差異が考えられる 例えば, 実験で使用する Rs が変化するとスピーカーコイルに流れる電流が変化 ( コイル温度が変化 ) するので, コイル抵抗やインダクタンスが変化する 今回の Rs の設定は, 長岡氏の提案によるものであるが 3), 今後検討する必要があるかも知れない 他方, 共振ピーク周りの位相シフトの問題では, 今回の測定が精度の点で不十分だった ( 位相変化のピークがなだらかである ) ので, 今後の実験上での検討課題である 他方, 上記のユニットをバスレフスピーカーボックスに装着した場合のインピーダンス周波数依存性を測定では, 両スピーカーとも 2 山のピークがあり, それらの低周波側ピークはユニット共振周波数より低いので, バスレフによる低音増強効果があると考えられる ただし,F77G では, ダクトを含めたバスレフスピーカーボックスに改良の余地があると考えられる 参考文献 1) 立川敏明 ; 格安中華デジタルステレオアンプ PAM8610 使用記 http://www.megaegg.ne.jp/~tatutosi/newpage4.htm 37)(2016) 2) 小澤隆久 ; 作りやすい高音質スピーカー p12 (2013) 誠文堂新光社

3) 長岡鉄男 ; 長岡鉄男のオリジナルスピーカー設計術 p16, p62 音楽之友社 4) http://kanon5d.web.fc2.com/audio/note/note_005.html 5) 秋月電子通商販売カタログ 6) 霜田光一 ; エレクトロニックスの基礎 p97 (1964) 裳華房 7) 伊達宗行 ; 電子スピン共鳴 p273 (1978) 8) ステレオ編 ; スピーカー工作の基本 & 実例集特別付録 : エンクロジャーキット No6 (2012) 年版 9) http://www.geocities.jp/cxb00463/audio/spk/spk_kaiseki1.html