2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に

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糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

別紙 1 新型インフルエンザ (1) 定義新型インフルエンザウイルスの感染による感染症である (2) 臨床的特徴咳 鼻汁又は咽頭痛等の気道の炎症に伴う症状に加えて 高熱 (38 以上 ) 熱感 全身倦怠感などがみられる また 消化器症状 ( 下痢 嘔吐 ) を伴うこともある なお 国際的連携のもとに

2017 年 8 月 9 日放送 結核診療における QFT-3G と T-SPOT 日本赤十字社長崎原爆諫早病院副院長福島喜代康はじめに 2015 年の本邦の新登録結核患者は 18,820 人で 前年より 1,335 人減少しました 新登録結核患者数も人口 10 万対 14.4 と減少傾向にあります

日産婦誌58巻9号研修コーナー

48小児感染_一般演題リスト160909

スライド 1

イルスが存在しており このウイルスの存在を確認することが診断につながります ウ イルス性発疹症 についての詳細は他稿を参照していただき 今回は 局所感染疾患 と 腫瘍性疾患 のウイルス感染検査と読み方について解説します 皮膚病変におけるウイルス感染検査 ( 図 2, 表 ) 表 皮膚病変におけるウイ

2009年8月17日

日本小児科学会が推奨する予防接種スケジュール

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

蚊を介した感染経路以外にも 性交渉によって男性から女性 男性から男性に感染したと思われる症例も報告されていますが 症例の大半は蚊の刺咬による感染例であり 性交渉による感染例は全体のうちの一部であると考えられています しかし 回復から 2 ヵ月経過した患者の精液からもジカウイルスが検出されたという報告

第51回日本小児感染症学会総会・学術集会 採択結果演題一覧

顎下腺 舌下腺 ) の腫脹と疼痛で発症し そのほか倦怠感や食欲低下などを訴えます 潜伏期間は一般的に 16~18 日で 唾液腺腫脹の 7 日前から腫脹後 8 日後まで唾液にウイルスが排泄され 分離できます これらの症状を認めない不顕性感染も約 30% に認めます 合併症は 表 1 に示すように 無菌

症化することからハイリスクとされています VZV は細胞親和性が強く cell-to-cell にウイルスが感染するため ウイルス増殖の抑制には液性免疫よりも細胞性免疫が重要であります このため 特に細胞性免疫機能の低下した宿主においては極めて重篤となり 致死的な経過をたどることが少なくありません

入した場合には 経気道的な散布巣として臓側胸膜から 2-3mm 離れた内側に小葉中心性粒状影や tree-in-bud といわれる小葉中心性病変を呈しますが この所見をみた場合には呼吸器感染症を強く疑います 汎小葉性病変は 小葉間隔壁に囲まれた ほぼ 1, 2cm 四方の小葉内が細胞浸潤や滲出物ある

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

2012 年 11 月 21 日放送 変貌する侵襲性溶血性レンサ球菌感染症 北里大学北里生命科学研究所特任教授生方公子はじめに b 溶血性レンサ球菌は 咽頭 / 扁桃炎や膿痂疹などの局所感染症から 髄膜炎や劇症型感染症などの全身性感染症まで 幅広い感染症を引き起こす細菌です わが国では 急速な少子

検査項目情報 水痘. 帯状ヘルペスウイルス抗体 IgG [EIA] [ 髄液 ] varicella-zoster virus, viral antibody IgG 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5F

70 例程度 デング熱は最近増加傾向ではあるものの 例程度で推移しています それでは実際に日本人渡航者が帰国後に診断される疾患はどのようなものが多いのでしょうか 私がこれまでに報告したデータによれば日本人渡航者 345 名のうち頻度が高かった疾患は感染性腸炎を中心とした消化器疾患が

されており これらの保菌者がリザーバーとして感染サイクルに関与している可能性も 考えられています 臨床像ニューモシスチス肺炎の 3 主徴は 発熱 乾性咳嗽 呼吸困難です その他のまれな症状として 胸痛や血痰なども知られています 身体理学所見には乏しく 呼吸音は通常正常です HIV 感染者に合併したニ

6/10~6/16 今週前週今週前週 インフルエンザ 2 10 ヘルパンギーナ RS ウイルス感染症 1 0 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 8 10 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目 )

染症であり ついで淋菌感染症となります 病状としては外尿道口からの排膿や排尿時痛を呈する尿道炎が最も多く 病名としてはクラミジア性尿道炎 淋菌性尿道炎となります また 淋菌もクラミジアも検出されない尿道炎 ( 非クラミジア性非淋菌性尿道炎とよびます ) が その次に頻度の高い疾患ということになります

も 医療関連施設という集団の中での免疫の度合いを高めることを基本的な目標として 書かれています 医療関係者に対するワクチン接種の考え方 この後は 医療関係者に対するワクチン接種の基本的な考え方について ワクチン毎 に分けて述べていこうと思います 1)B 型肝炎ワクチンまず B 型肝炎ワクチンについて

糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

す ウイルスの中で検出頻度の高いものはライノウイルス コロナウイルスが多く これに続くのが RS ウイルス インフルエンザウイルス パラインフルエンザウイルス アデノウイルスです また これらのウイルスには季節的流行の特徴があり ライノウイルスは春と秋 RS ウイルス コロナウイルス インフルエンザ

は減少しています 膠原病による肺病変のなかで 関節リウマチに合併する気道病変としての細気管支炎も DPB と類似した病像を呈するため 鑑別疾患として加えておく必要があります また稀ではありますが 造血幹細胞移植後などに併発する移植後閉塞性細気管支炎も重要な疾患として知っておくといいかと思います 慢性

なお本研究は 東京大学 米国ウィスコンシン大学 国立感染症研究所 米国スクリプス研 究所 米国農務省 ニュージーランドオークランド大学 日本中央競馬会が共同で行ったもの です 本研究成果は 日本医療研究開発機構 (AMED) 新興 再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業 文部科学省新学術領

通常の市中肺炎の原因菌である肺炎球菌やインフルエンザ菌に加えて 誤嚥を考慮して口腔内連鎖球菌 嫌気性菌や腸管内のグラム陰性桿菌を考慮する必要があります また 緑膿菌や MRSA などの耐性菌も高齢者肺炎の患者ではしばしば検出されるため これらの菌をカバーするために広域の抗菌薬による治療が選択されるこ

とが知られています 神経合併症としては水痘脳炎 (1/50,000) 急性小脳失調症 (1/4,000) などがあり さらにインフルエンザ同様 ライ症候群への関与も指摘されています さらに 母体が妊娠 20 週までの初期に水痘に罹患しますと 生まれた子供の約 2% が 皮膚瘢痕 骨と筋肉の低形成 白

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

インフルエンザ(成人)

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2)HBV の予防 (1)HBV ワクチンプログラム HBV のワクチンの接種歴がなく抗体価が低い職員は アレルギー等の接種するうえでの問題がない場合は HB ワクチンを接種することが推奨される HB ワクチンは 1 クールで 3 回 ( 初回 1 か月後 6 か月後 ) 接種する必要があり 病院の

Slide 1

ある ARS は アミノ酸を trna の 3 末端に結合させる酵素で 20 種類すべてのアミノ酸に対応する ARS が細胞質内に存在しています 抗 Jo-1 抗体は ARS に対する自己抗体の中で最初に発見された抗体で ヒスチジル trna 合成酵素が対応抗原です その後 抗スレオニル trna

あり 一人の感染者が周囲の免疫のないヒトに感染させる数である基本再生産数は 10 流行を抑制するための集団免疫率は 90% 以上です 水痘の潜伏期間は通常 14~16 日間です 水痘ワクチンの定期接種が行われている米国では 1 回定期接種を行っていた 1996 年から 2004 年までの間に 水痘患

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3-2 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値流行状況の年次推移を 全国的な状況と比較するため 全国と札幌市の定点あたり患者報告数の年平均値について解析した ( 図 2) 全国的には 調査期間の定点あたり患者報告数の年平均値は その年次推移にやや増減があるものの大きな変動は認められなかった 札

平成 28 年度感染症危機管理研修会資料 2016/10/13 平成 28 年度危機管理研修会 疫学調査の基本ステップ 国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース (FETP) 1 実地疫学調査の目的 1. 集団発生の原因究明 2. 集団発生のコントロール 3. 将来の集団発生の予防 2 1

検査項目情報 インフルエンザウイルスB 型抗体 [HI] influenza virus type B, viral antibodies 連絡先 : 3764 基本情報 ( 標準コード (JLAC10) ) 基本情報 ( 診療報酬 ) 標準コード (JLAC10) 5F410 分析物 インフルエン

1. 医薬品リスク管理計画を策定の上 適切に実施すること 2. 国内での治験症例が極めて限られていることから 製造販売後 一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は 全 症例を対象に使用成績調査を実施することにより 本剤使用患者の背景情報を把握するとともに 本剤の安全性及び有効性に関するデータを

Microsoft Word - <原文>.doc

10038 W36-1 ワークショップ 36 関節リウマチの病因 病態 2 4 月 27 日 ( 金 ) 15:10-16:10 1 第 5 会場ホール棟 5 階 ホール B5(2) P2-203 ポスタービューイング 2 多発性筋炎 皮膚筋炎 2 4 月 27 日 ( 金 ) 12:4

免疫学的検査 >> 5E. 感染症 ( 非ウイルス ) 関連検査 >> 5E106. 検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤

2014 年 10 月 30 日放送 第 30 回日本臨床皮膚科医会② My favorite signs 9 ざらざらの皮膚 全身性溶血連鎖球菌感染症の皮膚症状 たじり皮膚科医院 院長 田尻 明彦 はじめに 全身性溶血連鎖球菌感染症は A 群β溶連菌が口蓋扁桃や皮膚に感染することにより 全 身にい

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案1 SIDMR

に 真菌の菌体成分を検出する血清診断法が利用されます 血清 βグルカン検査は 真菌の細胞壁の構成成分である 1,3-β-D-グルカンを検出する検査です ( 図 1) カンジダ属やアスペルギルス属 ニューモシスチスの細胞壁にはβグルカンが豊富に含まれており 血液検査でそれらの真菌症をスクリーニングする

症候性サーベイランス実施 手順書 インフルエンザ様症候性サーベイランス 編 平成 28 年 5 月 26 日 群馬県感染症対策連絡協議会 ICN 分科会サーベイランスチーム作成

割合が10% 前後となっています 新生児期以降は 4-5ヶ月頃から頻度が増加します ( 図 1) 原因菌に関しては 本邦ではインフルエンザ菌が原因となる頻度がもっとも高く 50% 以上を占めています 次いで肺炎球菌が20~30% と多く インフルエンザ菌と肺炎球菌で 原因菌の80% 近くを占めていま

Microsoft Word - 届出基準

後などに慢性の下痢をおこしているケースでは ランブル鞭毛虫や赤痢アメーバなどの原虫が原因になっていることが多いようです 二番目に海外渡航者にリスクのある感染症は 蚊が媒介するデング熱やマラリアなどの疾患で この種の感染症は滞在する地域によりリスクが異なります たとえば デング熱は東南アジアや中南米で

(案の2)

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

検査項目情報 6475 ヒト TARC 一次サンプル採取マニュアル 5. 免疫学的検査 >> 5J. サイトカイン >> 5J228. ヒトTARC Department of Clinical Laboratory, Kyoto University Hospital Ver.6 thymus a

Microsoft Word - JAID_JSC 2014 正誤表_ 原稿

改訂後改訂前 << 効能 効果に関連する使用上の注意 >> 関節リウマチ 1. 過去の治療において 少なくとも1 剤の抗リウマチ薬 ( 生物製剤を除く ) 等による適切な治療を行っても 疾患に起因する明らかな症状が残る場合に投与すること 2. 本剤とアバタセプト ( 遺伝子組換え ) の併用は行わな

抗ヒスタミン薬の比較では 抗ヒスタミン薬は どれが優れているのでしょう? あるいはどの薬が良く効くのでしょうか? 我が国で市販されている主たる第二世代の抗ヒスタミン薬の臨床治験成績に基づき 慢性蕁麻疹に対する投与 2 週間後の効果を比較検討すると いずれの薬剤も高い効果を示し 中でもエピナスチンなら

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

インフルエンザ院内感染対策

B型肝炎ウイルス検査

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糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

今週前週今週前週 2/18~2/24 インフルエンザ ヘルパンギーナ 4 4 RS ウイルス感染症 流行性耳下腺炎 ( おたふくかぜ ) 7 4 咽頭結膜熱 急性出血性結膜炎 0 0 A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 流行性角結膜炎 ( はやり目

A 群溶血性レンサ球菌咽頭炎 第 50 週の報告数は 前週より 39 人減少して 132 人となり 定点当たりの報告数は 3.00 でした 地区別にみると 壱岐地区 上五島地区以外から報告があがっており 県南地区 (8.20) 佐世保地区 (4.67) 県央地区 (4.67) の定点当たり報告数は

インフルエンザ施設内感染予防の手引き

娠中の母親に卵や牛乳などを食べないようにする群と制限しない群とで前向きに比較するランダム化比較試験が行われました その結果 食物制限をした群としなかった群では生まれてきた児の食物アレルゲン感作もアトピー性皮膚炎の発症率にも差はないという結果でした 授乳中の母親に食物制限をした場合も同様で 制限しなか

1508目次.indd

己炎症性疾患と言います 具体的な症例それでは狭義の自己炎症性疾患の具体的な症例を 2 つほどご紹介致しましょう 症例は 12 歳の女性ですが 発熱 右下腹部痛を主訴に受診されました 理学所見で右下腹部に圧痛があり 血液検査で CRP 及び白血球上昇をみとめ 急性虫垂炎と診断 外科手術を受けました し

情報提供の例

2015 年 7 月 8 日放送 抗 MRS 薬 最近の進歩 昭和大学内科学臨床感染症学部門教授二木芳人はじめに MRSA 感染症は 今日においてももっとも頻繁に遭遇する院内感染症の一つであり また時に患者状態を反映して重症化し そのような症例では予後不良であったり 難治化するなどの可能性を含んだ感

日本内科学会雑誌第98巻第12号

3.2013/14シーズンのインフルエンザアップデート(12/25現在)

水痘(プラクティス)

耐性菌届出基準

なくて 脳以外の場所で起きている感染が 例えばサイトカインやケモカイン 酸化ストレスなどによって間接的に脳の障害を起こすもの これにはインフルエンザ脳症やH HV-6による脳症などが含まれます 三つ目には 例えば感染の後 自己免疫によって起きてくる 感染後の自己免疫性の脳症 脳炎がありますが これは

横浜市感染症発生状況 ( 平成 30 年 ) ( : 第 50 週に診断された感染症 ) 二類感染症 ( 結核を除く ) 月別届出状況 該当なし 三類感染症月別届出状況 1 月 2 月 3 月 4 月 5 月 6 月 7 月 8 月 9 月 10 月 11 月 12 月計 細菌性赤痢

肝臓の細胞が壊れるる感染があります 肝B 型慢性肝疾患とは? B 型慢性肝疾患は B 型肝炎ウイルスの感染が原因で起こる肝臓の病気です B 型肝炎ウイルスに感染すると ウイルスは肝臓の細胞で増殖します 増殖したウイルスを排除しようと体の免疫機能が働きますが ウイルスだけを狙うことができず 感染した肝

( 参考文献 2 より引用 ) 注意点であるが 参考文献 1 によると 測定の時期 マイコプラズマの既往が重要のようだ enzyme immunoassay (ELISA) tests for M. pneumoniae-specific IgM positive in up to 80% afte

始前に出生したお子さんについては できるだけ早く 1 回目の接種を開始できるように 指導をお願いします スムーズに定期接種を進めるために定期接種といっても 予防接種をスムーズに進めるためには 保護者の理解が不可欠です しかし B 型肝炎ワクチンの接種効果は一生を左右する重要なものですが 逆にすぐに効

褥瘡発生率 JA 北海道厚生連帯広厚生病院 < 項目解説 > 褥瘡 ( 床ずれ ) は患者さまのQOL( 生活の質 ) を低下させ 結果的に在院日数の長期化や医療費の増大にもつながります そのため 褥瘡予防対策は患者さんに提供されるべき医療の重要な項目の1 つとなっています 褥瘡の治療はしばしば困難

2018 年 10 月 4 日放送 第 47 回日本皮膚アレルギー 接触皮膚炎学会 / 第 41 回皮膚脈管 膠原病研究会シンポジウム2-6 蕁麻疹の病態と新規治療法 ~ 抗 IgE 抗体療法 ~ 島根大学皮膚科 講師 千貫祐子 はじめに蕁麻疹は膨疹 つまり紅斑を伴う一過性 限局性の浮腫が病的に出没

第1回肝炎診療ガイドライン作成委員会議事要旨(案)

スライド タイトルなし

緑膿菌 Pseudomonas aeruginosa グラム陰性桿菌 ブドウ糖非発酵 緑色色素産生 水まわりなど生活環境中に広く常在 腸内に常在する人も30%くらい ペニシリンやセファゾリンなどの第一世代セフェム 薬に自然耐性 テトラサイクリン系やマクロライド系抗生物質など の抗菌薬にも耐性を示す傾

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2012 年 2 月 29 日放送 CLSI ブレイクポイント改訂の方向性 東邦大学微生物 感染症学講師石井良和はじめに薬剤感受性試験成績を基に誰でも適切な抗菌薬を選択できるように考案されたのがブレイクポイントです 様々な国の機関がブレイクポイントを提唱しています この中でも 日本化学療法学会やアメ

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

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2011 年 11 月 2 日放送 NHCAP の概念 長崎大学病院院長 河野茂 はじめに NHCAP という言葉を 初めて聴いたかたもいらっしゃると思いますが これは Nursing and HealthCare Associated Pneumonia の略で 日本語では 医療 介護関連肺炎 と

Research 2 Vol.81, No.12013

検体採取 患者の検査前準備 検体採取のタイミング 記号 添加物 ( キャップ色等 ) 採取材料 採取量 測定材料 F 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 青 細 ) 血液 3 ml 血清 H 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( ピンク ) 血液 6 ml 血清 I 凝固促進剤 + 血清分離剤 ( 茶色 )

2015 年 8 月 27 日放送 第 78 回日本皮膚科学会東京支部学術大会 3 シンポジウム2 基調講演薬疹の最新動向と今後の展望 昭和大学皮膚科教授末木博彦 はじめに本日は薬疹の最新情報と今後の展望についてお話しさせていただきます 最初に薬疹の概念が変遷しボーダレス化が進んでいるというお話 続

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糖尿病診療における早期からの厳格な血糖コントロールの重要性

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2017 年 2 月 1 日放送 ウイルス性肺炎の現状と治療戦略 国立病院機構沖縄病院統括診療部長比嘉太はじめに肺炎は実地臨床でよく遭遇するコモンディジーズの一つであると同時に 死亡率も高い重要な疾患です 肺炎の原因となる病原体は数多くあり 極めて多様な病態を呈します ウイルス感染症の診断法の進歩に伴い 肺炎におけるウイルスの重要性が注目されてきました 本日のお話では 成人におけるウイルス性肺炎の疫学と診断の現状 ウイルス性肺炎の治療について最近の知見について御紹介していきたいと思います 肺炎に関与するウイルスウイルス性肺炎を病態でみると 気道に親和性を有する呼吸器系ウイルスが上気道に感染し下気道に感染が拡大していく場合と ウイルス血症を伴う全身性ウイルス感染症の肺病変としてみられる場合に分けることができます 前者には インフルエンザウイルス ヒト RS ウイルス ヒトメタニューモウイルス パラインフルエンザウイルス アデノウイルス SARS ウイルス などが挙げられます 後者には サイトメガロウイルス 水痘 帯状疱疹ウイルス 単純ヘルペスウイルス 麻疹ウイルス などがあります RNA ウイルスである麻疹ウイルスは初感染時に最も激しい症状をもたらしますが 急性期を乗り越えると終生免疫が獲得され 原則として再感染はみられません 一方 DNA ウイルスであるサイトメガロウイルス 水痘 帯状疱疹ウイルス 単純ヘルペスウイル

ス などは初感染後に体内に潜伏感染し 宿主の免疫機能の低下に伴って日和見感染症 として再燃および発症することがあります ウイルス性肺炎の画像所見ウイルス性肺炎の症状は原因ウイルスの種類によってことなります 呼吸器系ウイルス感染症では上気道炎症状が先行し 呼吸困難などの肺炎症状が引き続いてみられます 全身性ウイルス感染症では 発熱や発疹などの全身症状が主となり これに咳や呼吸困難などの症状が伴ってみられます ウイルス性肺炎の画像所見は病変の拡がり方を反映します 呼吸器系ウイルスによる肺炎の場合には 病変が経気道的に拡がり 気管支 細気管支 肺胞に病変が認められ 初期には気管支肺炎に類似した所見を呈します 一方 ウイルス血症に伴う肺炎の場合には すりガラス様陰影 網状影 小粒状陰影 などが肺野全体にびまん性に認められ 間質性肺炎との鑑別を要する所見が認められます いずれの場合にも 重症化すると急性肺障害および急性呼吸窮迫症候群 (ARDS) の所見を呈します 診断ウイルス感染症の診断は 臨床検体からのウイルスの検出 あるいはウイルスに対する血清抗体価の有意な上昇を確認することによってなされます ウイルスの検出には ウイルスの分離培養 あるいはウイルスに特異的な遺伝子の検出 ウイルス特異的抗原の検出 が含まれます 一方 血清抗体価の測定は急性期と回復期の血清を得て 抗体価の有意な上昇を確認する必要があるため 迅速診断には利用できないという欠点がありました ウイルスの検出法の中で ウイルスの分離培養は最も重要な検査ですが 煩雑な手順と日数が必要となります さらに ウイルスの種類によって用いられる培養細胞も異なるため 網羅的な検査は困難であり 検出対象ウイルスを限定して詳細に解析する場合に用いられます 近年の分子生物学的手法の進歩に伴い 統

一された手順で高感度に様々なウイルスの遺伝子を検出することが可能となり ウイルス感染症の網羅的な診断が可能になりました こうしたウイルス遺伝子の網羅的検査法を用いて 市中肺炎におけるウイルス感染症の関与が明らかにされてきています 2010 年から 2012 年にかけて米国で実施された成人における市中肺炎の疫学研究では 呼吸器系ウイルスが病原細菌よりも高頻度に検出されています 市中肺炎の 27% に呼吸器系ウイルスが検出され そのうち 3% は病原細菌とともに検出 2% は呼吸器系ウイルス同士が重複して検出されています 一方 病原細菌は 14% に検出されたに留まっています ウイルスの中では ヒトライノウイルスが 9% インフルエンザウイルスが 6% に検出され 肺炎球菌の 5% よりも多く検出されました つづいて ヒトメタニューモウイルス RS ウイルス パラインフルエンザウイルス コロナウイルス アデノウイルス が主に検出されています インフルエンザウイルスは冬季に多く検出され 季節性の流行がもっとも明らかに示されましたが その他のウイルスにも季節性の変動が認められています また 呼吸器系ウイルスの検出は全ての年齢層で認められています 近年の研究論文を対象としたシステマティックレビューでは 市中肺炎全体の 24.1% に呼吸器系ウイルスが検出され 下気道検体が得られた研究に限定すると その頻度が 44.2% にのぼるとされています 肺病変の形成にどのようにウイルス感染が関与しているのかについては今後の検討課題でありますが 従来考えていたよりも 市中肺炎におけるウイルス感染の関与は大きいということが示されてきました また 医療施設や院内における肺炎においても呼吸器系ウイルスの重要性を示唆する報告がなされています 長期療養型施設におけるヒトメタニューモウイルスによる集団感染事例や 血液疾患病棟におけるパラインフルエンザウイルスによる致死的肺炎の発生などが報告されています インフルエンザウイルス以外の呼吸器系ウイルスも院内 施設内感染対策の対象として重要であることを認識する必要があります さて近年 実地臨床におけるウイルス感染症の診断は迅速化され ウイルス感染による肺炎を臨床的にリアルタイムに捉えることが可能となってきました 多くは免疫クロマト法の原理を用いた抗原検出法が用いられています 臨床上重要な呼吸器系ウイルス感染症の抗原検出キットが臨床応用されています 日本では インフルエンザウイルス アデノウイルス ヒト RS ウイルス ヒトメタニューモウイルスの抗原検出診断キットが市販され ベッドサイドでのウイルス感染症診断が可能となっています

インフルエンザウイルス抗原検査が日常診療で不可欠の検査となり 2009 年のパンデミック対策においても 迅速な診断と介入に極めて重要な役割を果たしました 抗原検査結果を集計することにより 地域におけるインフルエンザ流行のサーベイランスにも有用なツールとなっています 治療戦略最後に ウイルス性肺炎の治療戦略について考えてみたいと思います 肺炎に関与するウイルスで最もよくその病態が理解されているのはインフルエンザウイルスです インフルエンザに伴う肺炎では ウイルス感染そのものによる純粋なウイルス性肺炎と 細菌性肺炎を合併したもの ウイルス感染が軽快した後に細菌感染を合併する場合があります 臨床的にはこれらを区別することは容易ではありません インフルエンザによる肺炎の治療にはノイラミニダーゼ阻害作用を有する抗インフルエンザ薬が適応となり できるだけ早期から抗インフルエンザ薬を投与することが推奨されます ノイラミニダーゼ阻害薬には吸入薬 経口薬 静注薬と異なる剤形があり 病状に応じて使用することができます 肺炎を合併した重症例では 静注薬であるペラミビルの投与が推奨されます また 細菌感染の合併を考慮して 市中肺炎に通常用いられる抗菌薬の併用も行われます 新型インフルエンザに備えて RNA ポリメラーゼ阻害薬のファビピラビルも準備されています 水痘 帯状疱疹ウイルス感染の臨床診断は特徴的な皮疹を確認することがまず重要となります サイトメガロウイルス感染は臨床像と血中サイトメガロウイルス抗原検出や血中ウイルス量の定量に基づいて臨床診断を行います 水痘帯状疱疹ウイルスや単純ヘルペスウイルスではアシクロビルの投与 サイトメガロウイルス感染ではガンシクロビルやフォスカルネットの投与が適応となります その他の呼吸器系ウイルス感染症に対する抗ウイルス薬による治療はいまだ確立されていませんが RS ウイルス ヒトメタニューモウイルス パラインフルエンザウイルス等に対しては リバビリンの有用性が示唆されています 抗ウイルス薬のプレコナリルはライノウイルス エンテロウイルスに対する有効性が示されていますが 日本ではまだ発売されていない薬剤です また 重症肺炎症例に対して 抗ウイルス薬と免疫グロブリン製剤との併用が有用であったとの報告があり 重症例では考慮すべき治療の一つと思われます ステロイドの投与は重症肺炎に対して用いられることがありますが 最近の研究のメ

タアナリシスによると ウイルス性肺炎において ステロイド投与群では死亡率が高い傾向にあると報告されています メタアナリシスの対象となる論文のほとんどが観察研究であり 重症例にステロイドが使われているなどのバイアスが存在する可能性がありますが ステロイド投与の有用性は担保できない結果となっています おわりにさて ウイルス感染症は予防が最も重要です 毎年の季節性インフルエンザに対するワクチン接種の重要性はいうまでもありません RS ウイルスに対する抗体製剤であるパリブズマブはハイリスクの小児における RS ウイルス感染症の予防に用いられています その他の呼吸器系ウイルスに対するワクチンなどの予防法の開発も今後重要になるものと思われます 本日は ウイルス性肺炎の現状 そして治療法の課題についてお話をしました インフルエンザの診断と治療の進歩が実地臨床を大きく変貌させました その他のウイルス感染症についても 今後の臨床に大きなインパクトを与える可能性があります 本日のお話が日々の診療の一助になれば幸いです