1788 日本消化器内視鏡学会雑誌 Figure 1 Vol. 55 6, Jun. 2013 主な大腸癌発生経路 ma sequence を提唱して以来 大腸腺腫は大腸癌 Figure 2 17) の前病変であることは良く知られている 我が国 の大腸癌取扱い規約14) では 大腸腺腫は病理組織 2 鋸歯状病変 学的に管状腺腫 tubular adenoma 管状絨毛腺 大腸鋸歯状病変は 国際的には Torlakovic18) や 腫 tubullo-villous adenoma 絨毛腺腫 villous Jass ら2) の分類が提唱されてきたが 2010 年の tumor 鋸歯状腺腫 serrated adenoma の 4 つ WHO 分 類 で は 大 き く 1 hyperplastic polyp に分類されている 鋸歯状腺腫については次の項 HP 2 traditional serrated adenoma TSA で述べる 大腸腺腫の大部分は管状腺腫であり 3 sessile serrated adenoma/polyp SSA/P の 管状腺腫の約 10 に癌を合併することが報告さ 3 つに分類されている19) れている 典型的な管状腺腫の内視鏡所見として a Hyperplastic polyp HP は 色素散布によりⅢL 型 pit しばしばⅠ型 pit HP は 病理組織学的に① goblet-cell type HP を混在 を呈するものが多い NBI では meshed GCHP ② microvesicular type HP MVHP brown capillary vessel MC vessel を認める ③ mucin poor type HP MPHP に分類されてい 15) Figure 2 一方 絨毛腺腫は 大腸腺腫全体 るが ほとんどは MVHP である18) HP のほとん の 1.3 5.6 欧米では 8.2 9.0 を占め 好発 どは左側結腸や直腸に認められ 大きさは 10mm 部位は直腸 S 状結腸であり 担癌率は 58 89 以下 特に 5 mm 以下の病変が多い 発癌ポテン 16) と高い 絨毛腺腫は 内視鏡的には大きな無茎 シャルは低く 少なくとも 5 mm 以下の病変では 性隆起を呈することが多く 発赤調で絨毛状の表 癌化の危険性は極めて低い HP は 病理組織学 面模様をとり 粘液が付着する場合が多い 粘液 的には非腫瘍であるが K-RAS 変異 13 57 を洗浄してインジゴカルミンを散布すると ほと B-RAF 変異 11-36 p53 変異 0 15 と癌遺 んどがⅣ型 pit を呈する NBI では 絨毛状に発 伝子の変異を認める 内視鏡的には 無茎性隆起 育した房状腺管の内部に直線状の血管が認めら 型 Ⅰs または表面隆起型 Ⅱa 色調は褪色ま れ その辺縁には白色の明瞭な white zone がある たは同色調を呈する 色素内視鏡ではⅡ型 pit を
Vol. 55 6, Jun. 2013 総説 大腸癌の前癌病変 1789 a b c d e f Figure 2 管状腺腫及び絨毛腺腫の内視鏡所見 a 管状腺腫の通常観察 b クリスタルバイオレット染色 c NBI d 絨毛腺腫の通常観察 e インジゴカルミン染色 f NBI 呈するものが多い NBI では腺腫で認められる MC vessel は認められず 病変自体が brownish area と し て 認 識 で き な い こ と が 多 い Figure 20) 3 一な brownish area として認識されることが多い Figure 3 20) 21) c Sessile serrated adenoma/polyp SSA/P SSA/P は右側結腸や盲腸に多く認められ 病理 b Traditional serrated adenoma TSA 組織学的に HP と類似することから 従来は HP TSA は 従来より serrated adenoma と呼ばれ と診断されてきた病変である 2003 年に Torlakovic て来た病変であり 左側結腸や直腸に多く認めら 18) として らにより SSA sessile serrated adenoma れる 大きさは 5 mm 未満から 10mm 以上までさ 提唱され 最近の WHO 分類では SSA/P と記載 まざまであるが 10mm 以下のものが多い TSA されている19) 我が国では 大腸癌研究会のプロ の担癌率は約 10 と報告されており 通常の腺腫 ジェクト研究において八尾を中心に SSA/P の病 と同等の発癌ポテンシャルを有する 内視鏡的に 理組織学的診断基準 明らかな腫瘍とは判定でき は Ⅰsp 型やⅠp 型などの隆起型または有茎性の ない鋸歯状陰窩からなる病変で ①陰窩の拡張 形態をとり 色調は発赤調であるものが多い し ②陰窩の不規則分岐 ③陰窩底部の水平方向への ばしば松毬様または枝サンゴ様の所見を呈し 二 変形 逆 T 字/L 字型 のうち 2 因 子以上を 病 段隆起を伴うものも少なくない 表面は絨毛状を 変の 10 以上の領域に認めるものを SSA/P とす 呈し 絨毛腺腫と鑑別を要するものもある 色素 る を提案した22) 最近の報告では SSA/P の担 内視鏡ではⅣ型 pit を呈するものが多く シダの 癌率も TSA と同様に約 10 と報告されており 葉様の特徴的な所見を呈するものもある NBI で 重要な前癌病変の一つと考えられる21) SSA/P で は HP や SSA/P とは異なり 間質内が全体的に均 は B-RAF 変異が高率に認められ p16 などのメ
1790 日本消化器内視鏡学会雑誌 Vol. 55 6, Jun. 2013 a b c d e f g h i Figure 3 大腸鋸歯状病変の内視鏡所見 a c 過形成性ポリープ HP d f 古典的鋸歯状腺腫 TSA g i Sessile serrated adenoma/polyp SSA/P a d g 通常観察 b e h クリスタルバイオレット染色 c f i NBI チル化も高率に認められることから 右側の MSI られる大腸ポリープは 病理組織学的には過誤腫 陽性癌の前病変と考えられている SSA/P は 内 であり 非腫瘍に分類される しかし LKB1 の 視鏡的には文字通り平坦型が多く 褪色調を呈す 遺伝子異常を有し 発癌ポテンシャルを有する るものが多い また ほとんどの SSA/P では粘 孤発性の Peutz-Jeghers 型ポリープも少なからず 液を付着している 色素内視鏡では 開大したⅡ 報告されており 同様に発癌ポテンシャルを有す 型 pit またはⅢH 型 pit を呈するものが多い ると考えられている 内視鏡的には 一般的に白 NBI では brownish area を呈さず 小樹枝状血管 色調を呈し 大きくなると有茎性となり 分葉状 を伴うものが多い Figure 3 21) となる5) 拡大観察ではⅣ型 またはⅡ型の混在 pit を呈することが多い Figure 4 19) 3 Peutz-Jeghers 型ポリープ Peutz-Jeghers 症候群では 全消化管にポリポ ージスを呈する先天性疾患であり 12.9 27.8 に 4) 大腸癌を合併する Peutz-Jeghers 症候群に認め 4 若年性ポリープ 若年性ポリポージス症候群 juvenile polyposis syndrome JPS は 若年期に直腸や S 状結腸を
Vol. 55 6, Jun. 2013 総説 大腸癌の前癌病変 1791 a b c d e f Figure 4 Peutz-Jeghers 型ポリープ及び若年性ポリープの内視鏡所見 a Peutz-Jeghers 型ポリープの通常内視鏡所見 b インジゴカルミン染色 c NBI d 若年性ポリープの通常内視鏡所見 e f インジゴカルミン染色 中心にポリポージスを呈する遺伝性の症候群であ Warren23) が UC 患者においては dysplasia と呼ば る6) JPS は SMAD4 や BMPR1A 遺伝子の異常 れる異型腺管が発生して癌に進展するという仮説 による遺伝性疾患であり 病理組織学的には過誤 を提唱して以来 dysplasia-carcinoma sequence 腫性ポリープを形成する JPS では 17.3 37.9 に が広く受け入れられている Dysplasia は異型度に 大腸癌を合併し 発癌リスクが高い 一方 孤発 より low-grade dysplasia LGD high-grade dys- 性の若年性ポリープは 2 4 歳をピークに発症す plasia HGD に分類される HGD 症例の 42 に るが 成人にも発症しうる 孤発性の若年性ポリ 大腸癌を合併する LGD 症例ではわずか 16 に ープの癌化ポテンシャルは低いとされているが 癌を合併するのみであるが 5 年間で半数以上に 成人例では癌化例も報告されている7) 若年性ポ 発癌する24) また Dysplasia には隆起を形成する リープは 内視鏡的には大型 球状の形態をとり ものと平坦なものがあり 前者は DALM dyspla- 有茎性または亜有茎性である 表面は発赤調 浮 sia-associated lesion or mass とも呼ばれてい 19) 腫状であり 白苔やびらんを伴うことが多い る25) DALM は ポリープ状 平型 絨毛状な 拡大観察では Ⅰ型 pit を呈するものが多い Fig- どさまざまな形態をとるが 内視鏡的には比較的 ure 4 診断しやすい 境界明瞭な 平隆起型の DALM は 周囲粘膜に比べて褪色調を呈することが多 5 潰瘍性大腸炎における dysplasia い 一方 dysplasia 全体の約半数は平坦型であ 潰瘍性大腸炎 ulcerative colitis UC の患者 り 内視鏡的に診断することが困難な病変もあ では 慢性炎症を有する大腸粘膜を発生母地とし る 平坦型 dysplasia を検出するためには 周囲 て高率に癌 colitic cancer を発生する 1949 年 粘膜と色調の異なる発赤または褪色領域の領域を
Aberrant crypt foci (ACF)
総説 大腸癌の前癌病変 Vol. 55 6, Jun. 2013 1793 a b c d Figure 6 ACF の拡大内視鏡所見と病理組織所見 a b メチレンブルー染色による拡大内視鏡所見 c d H&E 染色 a c dysplastic ACF TSA 類似の ACF b d non-dysplastic ACF 2 ACF に関する議論 1 前癌病変としての ACF 最近の WHO 分類では ACF は大腸切除標本に 大腸癌や腺腫患者における ACF を拡大内視鏡 観察されるメチレンブルーに濃染する異常腺管の を用いて観察し これらの患者では健常人に比べ 集簇 または拡大色素内視鏡で観察される異常腺 て ACF 数が増加していることが報告されてい 19) 管の集簇 と記載されている ACF は細胞増殖 る10) しかし 癌患者においても健常人に比べて 活性が亢進しており 高率に K-RAS 変異が認め ACF 数が増加していないとする報告もあ る29) られる また APC 変異 β-catenin の蓄積 マ また ACF 数の評価することが大腸発癌予防の臨 イクロサテライト不安定性なども一定の頻度で認 床試験の標的 エンドポイント として有用であ められ クロナリティーが示されている28) ACF ることが報告されている30) しかし ACF 数を評 の大部分は hyperplastic ACF であるが 一部は腺 価しても必ずしもポリープ 腺腫 の発生率と合 腫に類似の dysplatic ACF である11) また TSA 致しなかったとする報告もある 但し ACF を評 に類似の ACF も存在する Figure 6 価した検査者間の一致率 κ値 が低く 必ずし も ACF を正確に観察できていない報告も含まれ ている
PRECURSOR LESIONS OF COLORECTAL CANCERS