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様式 C-19 F-19 Z-19( 共通 ) 1. 研究開始当初の背景現在 切削加工用工具として主に使用されているのは 超硬工具 もしくはこれらに TiN (Ti,Al)N や Ti-Si-N などのセラミックスコーティングを施したコーテッド超硬工具であり 超硬合金 ( 主として WC-Co) は産業界に欠かせない材料となっている しかし近年 レアメタル問題の浮上により 超硬工具に使用されるタングステン (W) 使用量削減に関する新たな技術開発が求められており 超硬工具に替わる新たな硬質セラミックス材料の研究開発もその一環としてなされてきている 一方 研究代表者はこれまでに 中に Mg と O を置換型に固溶させた (Cr,Mg)(N,O) 薄膜 ( と の固溶体薄膜 ) の作製を試み 40 GPa 以上の高硬度と優れた耐酸化性を有する薄膜材料の作製に成功した また 同材料においては酸素の固溶によりイオン性が増加するにも関わらず 同時に組織変化などに依らずに硬度が向上するという特異な性質を示すことを明らかにした 本研究では この のイオン結合性が増加するにも関わらず高硬度化するという特異な性質を利用を新たな焼結体材料開発に繋げることを考えた 具体的には 酸素固溶によるイオン結合性の増加を焼結性の改善として活かし なおかつそれに伴う高硬度化により cbn 焼結体などに匹敵する高硬度なセラミックス材料の創製を試みることとした 2. 研究の目的本研究では 単相焼結可能であり なおかつ高硬度な (Cr,Mg)(N,O) 焼結体の作製方法の確立し 新たなるセラミックス材料の開発指針の提示を最終目標として 以下の 2 点を主目的として研究を進めた (1) (Cr,Mg)(N,O) を薄膜以外で合成した報告例はこれまでにない そこで まずこの粉末の合成方法を確立することを目的とした 液相法 気相法により と の固溶体である (Cr,Mg)(N,O) を合成するのは難しいと思われたため 本研究では固相法によりその合成を行う事とした より具体的には 粉末を機械的にナノサイズレベルまでミリングし合金化させるメカニカルアロイング法 (MA 法 ) による (Cr,Mg)(N,O) 粉末合成方法の確立を目指した (2) 次に 合成した粉末を用いて 放電プラズマ焼結法 (SPS 法 ) により焼結体の作製を試み その作製方法を確立すると共に および機械的特性の検証によりその有用性を実証することを目的として 研究を行った 3. 研究の方法 (1) 粉末の合成では 市販の Cr 2 N 粉末と 粉末 または 粉末と 粉末を用いた これらを超硬合金製のポッドミル中にボー ルと共に入れ 雰囲気制御容器内に収め 真空引きした後 窒素ガスを加圧封入した その後 遊星型ボールミル装置により MA を行うことで粉末を合成した 合成した粉末については XRD 装置および透過型電子顕微鏡 (TEM) による結晶相の調査 走査型電子顕微鏡 (SEM) と TEM による粒径観察 エネルギー分散型 X 線分光 (EDX) による組成分析をに行った これにより MA 時間 雰囲気ガス圧 雰囲気ガス種 粉末とボールの重量比等の粉末合成条件の最適化 および組成制御を含めた合成プロセスの確立を図った (2) SPS 法による焼結体の作製には ( 株 ) シンターランド所の ( 株 ) 住友石炭鉱業製 SPS-515S を用いた 図 1 に SPS 装置の概略図を示す 黒鉛型 ( 直径 30 mm 内径 10.4 mm) 中に試料粉末を 2.5g 充填し 焼結時は 上下のラムにより黒鉛パンチを通して粉末に圧縮応力を加えてから チャンバー内を 4 Pa まで排気した この後 所定の圧縮応力となるように負荷を調整し 直流パルス電流を印加して焼結温度まで加熱し保持することで焼結を行った 作製した焼結体についても XRD による結晶相調査 SEM による破断面観察 波長分散型蛍光 X 線分光による組成分析を行った また ビッカース試験機およびナノインデンテーション試験機により 硬度 弾性率について評価した 黒鉛フェルト ( 保温用 ) 黒鉛シート ( 離型用 ) 電極 (-) 黒鉛スペーサー 黒鉛スペーサー 電極 (+) 黒鉛シート 黒鉛パンチ 試料粉末 パルス通電 加圧 図 1 SPS 焼結機の概略図 4. 研究成果 (1) まず Cr 2 N 粉末と 粉末を用い MA 法により (Cr,Mg)(N,O) 粉末の合成を試みた 合成する際 粉末の総重量は 5 g として 金属元素中における Mg の割合を金属元素比 x(x = Mg/(Cr+Mg)) と定義し, x = 0~0.8 となるよう変化させた MA 時における公転回転数を 400 rpm 窒素雰囲気圧力 0.7 MPa MA 時間 60 h として実験を行った 図 2 に (1) TEM により観察した x=0.33 の Cr-Mg-N-O 粉末の像および (2)Cr Mg N O の EDX マッピングを示す 図 1(1) より 粉末の粒径は 1 μm 以下になっている事が分かった また図 1(2) より 各元素がほぼ偏りなく分布している事が明らかになった なお

(A) Cr Mg A 2 μm 図2 N O (1) TEM により観察した x=0.33 の Cr-Mg-N-O 粉末の明視野像および (2)Cr Mg N O の EDX マッピング 20 nm x=0.8 x=0.5 x=0.33 x=0.2 Intensity / a.u. Intensity / arb. unit x=0.67 Cu (B) Cr O N Mg x=0.1 x=0 Cr2N MgCr2O4 10 20 30 40 50 60 70 80 90 Diffraction angle, 2θ /deg. 図 3 MA 法により作製した Cr-Mg-N-O 粉末 の XRD 図形 SEM-EDX 組成分析の結果より 合成した粉末 の金属元素比は ほぼ x の値と同じ比率であ ることが確認された 加えて TEM-EELS によ る組成分析の結果より x の変化により系統 的に産窒素比も変化していた このことより 粉末分量の調整により ほぼ狙い通りの組成 を持った粉末が作製可能であると考えられ る 図 3 に MA 法により合成した Cr-Mg-N-O 粉 末の XRD 図形を示す 図 2 より 全ての粉末 の XRD 図形において もしくは の NaCl 型構造に起因したピークのみが観察された x = 0 においても 原料粉末である Cr2N 相に 起因するピークは観察されないことより 窒 素雰囲気下で MA することにより Cr2N から を合成できる事が確認された また (200) のピーク位置から Bragg の式により算出した 格子状数は a = 0.407 0.4422 nm と大きく なり B1- から B1- の格子定数に近い 値へと変化していくことが確認された 図 4 に (1)TEM により観察した x = 0.2 の Cr-Mg-N-O 粉末の明視野像および制限視野回 折図形 (2)TEM-EDX による組成分析結果を示 す 図 2(1)に示した SEM 像では 粉末の粒径 は 1 μm 以下になっていることを示したが 図 4(1)より 1 次粒子径は 10 nm 程度まで微細 化されていると考えられる また A の位置 0 図4 2 6 4 Energy, E /kev 8 10 (1)TEM により観察した x = 0.2 の Cr-Mg-N-O 粉末の明視野像および 制限視野回折図形 (2)TEM-EDX に よる組成分析結果 において観察した制限視野回折(SAD)図形に は fcc 格子に起因した回折図形のみが得ら れた 図 3 の結果と合わせて この結晶粒が B1-NaCl 型構造のみを有することが確認され た 図 4(2)に示した EDX スペクトルは 位置 A にて EDX 分析を行った結果であるが この 結晶粒中に Cr Mg N O が存在することが 確認された なお 図中において Cu は試料 固定のグリッドからのピークである 以上の結果より 本研究の目的の一つであ った(Cr,Mg)(N,O)粉末合成方法の確立を達 成したものと考える なお 前述したように 同材料を粉末として合成した報告例はなく 本研究が初めての報告例になる (2) 次に x = 0.3 の(Cr,Mg)(N,O)粉末を SPS 焼結により焼結した 焼結条件については SPS 法により 焼結体を作製した研究報告 例を元に 焼結時圧力 P = 70 MPa 保持温度 までの昇温速度 50 /min 保持時間 t = 5 min として 保持温度 T を T = 1100 1300 と変化させて実験を行った 図 5 に SPS 法により作製した焼結体の XRD 図形とビッカース硬度を示す 図 5 より ど の温度で作製した焼結他の XRD 図形中にも Cr2N 相に起因するピークが確認された また ピーク強度比から考えると焼結温度の上昇 に伴い Cr2N 相の割合は増加していると考え られる この結果から 焼結における加熱時 に 相の一部が Cr2N と N2 に分解している ことが予測される また 微小ながら に

Intensity / arb. unit T = 1300 (HV 1520) T = 1200 (HV 1490) T = 1100 (HV 1350) 樹脂のみ 30 40 50 60 70 80 Diffraction angle, 2θ /deg. 図 5 Cr 2 N MgCr 2 O 4 SPS 法により作製した焼結体の XRD 図形とビッカース硬度 起因するピークが観察されている この結果から, 結晶粒内に固溶していた一部の Mg および O が焼結時に分解していると考えられる これらの原因として MA で作製した (Cr,Mg)(N,O) 相が格子中における窒素抜けなどが多く不安定であることや 残留応力が焼結時の加熱により緩和され一部の固溶相が分解してしまうことが考えられる また ビッカース硬さ試験の結果 ( 加重 4.9 N) ビッカース硬さは HV1500 程度であり 一般に知られる Cr 2 N 焼結体と同程度であった (3) 本研究では この問題点の確認と解決を図るために市販の 粉末 ( 三津和化学 ( 株 ) 製 窒素 18%) と 粉末から (Cr,Mg)(N,O) 粉末の合成を行い SPS 法により焼結体の作製を行った 粉末の合成は (1) で示した条件と同様に行った 図 6 に 粉末から合成した Intensity / arb.unit x = 0.5 x = 0.4 x = 0.2 x = 0.1 x = 0 Cr 2 N WC 30 40 50 60 70 80 90 Diffraction angle, 2θ / deg. 図 6 粉末から合成した (Cr,Mg)(N,O) 粉末の XRD 図形 (Cr,Mg)(N,O) 粉末の XRD 図形を示す 原料粉末である 粉末の XRD 図形中には Cr2N 相が存在するのが確認されていたが 図 6 より 合成した粉末中に Cr2N 相に起因するピークは確認されず もしくは の NaCl 型構造に起因したピークのみが観察された また (200) のピーク位置から Bragg の式により算出した格子状数も a = 0.412~0.419 nm と比例的に増加することが確認された なお 粉末中にはボールもしくはポッドからの混入物と考えられる WC 相が存在していた この粉末の焼結を SPS 法により行った 今回の焼結では 焼結時圧力 P = 70 MPa 保持温度までの昇温速度を 100 /min 保持時間 t = 5 min 保持温度 T = 1200 と変化させて実験を行った 図 7 に SPS 法により作製した Cr-Mg-N-O 焼結体の XRD 図形を示す 図 7 より 全ての焼結体の XRD 図形中に に起因するピークが確認された また x = 0.2 以上の XRD 図形中には に起因するピークが観察され x の増加に伴いピーク強度比が増加する傾向が見られた このことより x = 0.2 以上においては格子中の Mg と O が 相として焼結時に分離してしまっていると考えられる 一方 Cr 2 N に起因したピークも XRD 図形中に確認されたが (2) の結果と比較するとその量はわずかであった このことから Cr 2 N 粉末から合成した (Cr,Mg)(N,O) 相が格子中の窒素抜けなどにより 熱的に不安定であった事が推察される 図 8 に (200) 面より算出した粉末と焼結体の格子定数を示す 図中で が粉末の格子状数を は焼結体の格子状数を示す 図 8 より x = 0.2 以上の焼結体の格子状数が 粉末の格子状数に対して大きく低下していることが分かる これは の析出に伴い格子状数が の値に近づいたためと考えられる 一方 x =0.1 では格 Intensity / arb.unit x = 0.5 x = 0.4 x = 0.2 x = 0.1 x = 0 Cr 2 N WC 30 40 50 60 70 80 90 Diffraction angle, 2θ / deg. 図 7 SPS 法により作製した Cr-Mg-N-O 焼結体の XRD 図形

Lattce constant, a/nm 0.425 0.42 0.415 : Bulk : Powder ICDD-(0.421 nm) ICDD- (0.414 nm) 0.41 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 Molar ratio of Mg in raw powders, x 図 8 (200) 面より算出した粉末と焼結体の格子定数 (1) (2) 図 9 5 μm 5 μm (1)x = 0 (2)x = 0.1 の Cr-Mg-N-O 焼結体の破断面の SEM 像 子状数にほぼ変化が見られなかった 図 7 の結果と合わせて考えると ほぼ単相の (Cr,Mg)(N,O) 焼結体の作製に成功したのではないかと考えられる 粉末と同様に これまでに (Cr,Mg)(N,O) 相を主相とする焼結体を作製した報告例はなく 本研究が初めての研究報告例になる なお x = 0 の焼結体で粉末に対して格子状数が増加しているのは Cr 2 N 相の析出に伴うものと思われる 図 9 に (1)x = 0 (2 )x = 0.1 の Cr-Mg-N-O 焼結体の破断面の SEM 像を示す 図 9(1) に示した x = 0 の焼結体破断面中には 多数の空隙が存在しているのが観察された これに対して図 9(2) に示した x = 0.1 では 空隙の数 大きさが減少しているのが確認された このことより 本研究の狙い通りに焼結性の改善がなされたものと考えられる 図 10 に SPS 法により作製した Cr-Mg-N-O 焼結体の密度とビッカース硬度を示す 焼結体の密度はアルキメデス法により測定したものであり ビッカース硬さ試験は加重 1.96 N で行った結果を示す 図 10 より 密度は x の増加に従い d = 6.33 g/cm 3 ~ 4.68 g/cm 3 と比例的に減少している事が確認された 一方 ビッカース硬さは x = 0.1 で最大値 HV2070 を示し x = 0.2 以上では減少傾向を示した 個の硬さの減少は 図 7 に示した の析出によるものであると考えられる 図 11 に Cr-Mg-N-O 焼結体 (x = 0 0.1) のナノインデンテーション試験による加重 - 押し込み深さ線図例と硬度 弾性率を示す ナノインデ Vickers hardness, HV (1.9 6 N) 2500 2000 1500 1000 図 10 Load, P / mn 6 5 4 3 2 1 500 0 0 : Vickers hardness : Density 0 0 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 Molar ratio of Mg in raw powders, x ンテーション試験では 各試料につき測定を 50 回行い 各測定で得られた平均の値を硬度 弾性率とした この試験の結果 x = 0 の試料に対して 5 GPa の硬さ向上を見せた また 弾性率についても同様に増加している事が確認された 今回の試験結果より 少なくとも硬さという点においては既存の構造用セラミックス材料 ( 例えば SiAlON など ) と比較して十分に高い特性を有していることが分かった 今後 さらに靭性についての検討が必要であるが それにより工具材料としての実用性がより明らかになると思われる (4) 本研究の最終的な統括として 当初の研究目的であった (Cr,Mg)(N,O) 粉末の合成方法の確立については達成した 一方 焼結体の作製方法の確立という点については不足が残った しかし (Cr,Mg)(N,O) 相を主相とする焼結体の作製が可能であり 酸素固溶により焼結性が改善されること 硬度 弾性率という面においては十分に実用可能な特性 10 SPS 法により作製した Cr-Mg-N-O 焼結体の密度とビッカース硬度 : x = 0 (H = 19 GPa, E = 398 GPa) : x = 0.1 (H = 24 GPa, E = 418 GPa) 8 6 4 2 Density, d / g cm -3 20 40 60 80 100 120 Displacement, h / nm 図 11 Cr-Mg-N-O 焼結体 (x = 0, 0.1) のナノインデンテーション試験による加重 - 押し込み深さ線図例と硬度 弾性率

を示すことを明らかにした 今後 より細かな焼結条件について研究を行う事により ( 特に焼結温度 保持時間について ) 中への Mg および O の固溶量を増やせるものと思われる また それにより更なる高硬度化 高弾性率化させることが可能であると考えられる また 系のような高硬度化 高弾性率化は望めないと考えられるが これまでバルク体として実用化が無い他の硬質窒化物 ( 例えば TiN や ZrN など ) においても 酸素固溶によるイオン結合性増加を利用することで 焼結性を改善させることが可能であると予測される また それらの材料へ酸素を固溶させた粉末の合成は 本研究と同様に 同じ結晶構造を有する酸化物粉末との MA により可能であると思われる このような酸窒化物系硬質セラミックス材料の開発により 炭化物系では靭性の問題により解決が難しい超硬合金の代替材料開発という課題も 解決が可能になるのではないかと考える 5. 主な発表論文等 ( 研究代表者 研究分担者及び連携研究者には下線 ) 雑誌論文 ( 計 0 件 ) 学会発表 ( 計 0 件 ) その他 ホームページ等 6. 研究組織 (1) 研究代表者浅見廣樹 (ASAMI, Hiroki) 独立行政法人国立高等専門学校機構苫小牧工業高等専門学校機械工学科 助教研究者番号 :00547961