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抗ヒスタミン薬の比較では 抗ヒスタミン薬は どれが優れているのでしょう? あるいはどの薬が良く効くのでしょうか? 我が国で市販されている主たる第二世代の抗ヒスタミン薬の臨床治験成績に基づき 慢性蕁麻疹に対する投与 2 週間後の効果を比較検討すると いずれの薬剤も高い効果を示し 中でもエピナスチンなら

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(別添様式1)


(別添様式)

(2) レパーサ皮下注 140mgシリンジ及び同 140mgペン 1 本製剤については 最適使用推進ガイドラインに従い 有効性及び安全性に関する情報が十分蓄積するまでの間 本製剤の恩恵を強く受けることが期待される患者に対して使用するとともに 副作用が発現した際に必要な対応をとることが可能な一定の要件

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より詳細な情報を望まれる場合は 担当の医師または薬剤師におたずねください また 患者向医薬品ガイド 医療専門家向けの 添付文書情報 が医薬品医療機器総合機構のホームページに掲載されています

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Transcription:

2017 年 1 月 12 日放送 第 115 回日本皮膚科学会総会 13 教育講演 37-2 男性型脱毛症治療の新しい展開 東京女子医科大学皮膚科准教授常深祐一郎男性型脱毛症男性型脱毛症 (androgenetic alopecia: AGA) は思春期以降に始まり徐々に進行する脱毛症で 額の生え際や頭頂部の頭髪が薄くなり パターン化した脱毛を生じます 1-4) その病態は成長期の短縮による 毛包のミニチュア化で 頭髪が軟毛化して細く 短くなります 家族歴を有することも多いです 一般的に男性ホルモンは髭や胸毛などの毛を濃くする方向に働きますが 前頭部や頭頂部などの毛包においては逆に軟毛化現象を引き起こします これらの毛包の毛乳頭細胞には男性ホルモン受容体が存在しますが 髭や前頭部 頭頂部の毛乳頭細胞に運ばれたテストステロンは 5α 還元酵素により さらに活性が高いジヒドロテストステロンに変換されて受容体に結合します ジヒドロテストステロンの結合した男性ホルモン受容体は 標的遺伝子の転写を促します 髭では Insulin-like Growth Factor- 1(IGF-1) などの細胞成長因子が産生され成長期が延長します 逆に前頭部や頭頂部においては ジヒドロテストス

テロンの結合した男性ホルモン受容体は Transforming Growth Factor-β(TGF-β) などを誘導し毛母細胞の増殖が抑制され成長期が短縮します ( 図 1) 5α 還元酵素にはⅠ 型とⅡ 型の 2 種類があり Ⅰ 型はほとんどの毛の毛乳頭細胞に存在しますが Ⅱ 型は男性ホルモン作用を強く受ける髭や前頭 ~ 頭頂部の毛乳頭細胞に発現しています 胎児期においては テストステロンやジヒドロテストステロンは男性としての発達に必要です 一方 成人ではテストステロンは精子形成や性欲 筋肉や骨格の発達に働きますが ジヒドロテストステロンは重要な役割がないとされています 男性型脱毛症治療ですが 日本皮膚科学会の男性型脱毛症診療ガイドラインでは ミノキシジルが男性の男性型脱毛症と女性の男性型脱毛症に推奨度 A( 行うよう強く勧められる ) フィナステリドが男性の男性型脱毛症に推奨度 A 女性の男性型脱毛症に推奨度 D( 行わないよう勧められる ) となっています 1) そのほかの各種外用薬や医薬部外品等は推奨度が C1( 行うことも考慮してよいが 十分な根拠がない ) か C2( 根拠がないので勧められない ) です 植毛術では 自毛植毛術が推奨度 B( 行うよう勧められる ) 人工植毛術が推奨度 D です ここでは推奨度 A の治療に触れたあと 最近登場したデュタステリドについて述べます デュタステリドは今後ガイドラインで推奨度 A として勧められる治療になるはずです ミノキシジルミノキシジルは外用薬で OTC 医薬品として販売されています ミノキシジルは降圧薬として開発されました ミノキシジルの代謝物であるミノキシジル硫酸抱合体は sulfonylurea receptor を作動させ ATP 感受性 K チャンネルを活性化することにより 血管平滑筋が弛緩します しかし降圧薬として使用した患者に多毛という副作用が生じたことから 男性型脱毛症治療薬へと転用されました 作用機序として 毛組織血流改善だけでなく 毛乳頭細胞からの IGF-1 や VEGF など細胞成長因子の産生促進による休止期から成長期への移行 ミトコンドリア ATP 感受性 K チャネル開放による毛母細胞アポトーシス抑制などが推測されています 成人男性または女性が 1 日 2 回 1 回 1mL を脱毛している頭皮に塗布します 効果判定には 6 ヶ月程度塗布する必要があります 多くのエビデンスを有しますが 本邦における臨床試験も実施されており 男女ともに有効性のエビデンスがあります 5,6) フィナステリドフィナステリドはⅡ 型 5α 還元酵素を阻害することでジヒドロテストステロン産生を抑えます 多数の臨床試験がなされ エビデンスが豊富です 本邦でも 1 年間の二重盲検ランダム化比較試験で プラセボと比較して有意に改善が見られています 7) また複数の長期試験も行われており 効果が持続またはさらに改善例が増えることが示されて

います フィナステリドには 0.2mg と 1mg の製剤がありますが 通常 1mg が使用されます 1 日 1 回経口投与です 女性に対しての効果はないため適応はない上 本剤のジヒドロテストステロン低下作用により 男子胎児の生殖器官等の正常発育に影響を及ぼすおそれがあるため 妊婦又は妊娠している可能性のある婦人及び授乳中の婦人は禁忌です つまり 女性には内服させてはならないわけです 小児についても男性としての発達に影響を及ぼすため投与してはいけません 効果が確認できるまで通常 6 ヵ月程度かかることや効果を持続させるためには継続的に服用する必要があることを患者に始めに十分説明しておくことが重要です 肝機能障害を来す可能性がありますが頻度は高くないため 私は半年に 1 回程度の検査を実施しています 実際には健康診断や他院の検査で代用していることが多いです 本剤を内服すると血清 PSA 濃度が約 50% 低下するため 本剤投与中に血清 PSA 濃度を測定する場合は 2 倍した値を目安として評価します 特に気になる副作用として性機能障害がありますが 臨床試験ではプラセボと比較して大きな差が見られていません 副作用全般の頻度も低いです また 実際の臨床でも問題になることは経験しません ミノキシジルとフィナステリドを比較した試験では フィナステリドの方が改善の割合が高く優れています 8) また フィナステリドとミノキシジルの併用の相乗効果も複数の試験で示されていますので 患者にアドバイスすることもあります デュタステリドデュタステリドは テストステロンをジヒドロテストステロンに変換する 5α 還元酵素を阻害してジヒドロテストステロン濃度を低下させます この作用機序はフィナステリドと同様ですが フィナステリドと異なりⅠ 型およびⅡ 型の 5α 還元酵素をともに阻害します Ⅱ 型 5α 還元酵素についてもフィナステリドと比較して阻害活性が高いです 0.1mg と 0.5mg の製剤があり 男性成人には 通常 デュタステリドとして 0.1mg を 1 日 1 回経口投与する なお 必要に応じて 0.5mg を 1 日 1 回経口投与する となっていますが 日常臨床では基本的に 0.5mg が使用されます 女性や 小児 肝機能障害 PSA の扱いなど 副作用や注意点もフィナステリドとほぼ同様です 効果発現に 6 ヶ月程度要する点も同様です 臨床試験は日本を含む国際共同臨床試験と国内長期安全性試験が行われています デュタステリドの臨床試験の特筆するべき点は 精度の高い評価です ベースライン時に頭頂脱毛部を直径 2.54cm 円形にバリカンで刈り マクロ写真を撮影し その円内の毛髪数 毛髪の太さおよび硬毛数を第 3 者機関で測定し 定量評価しています

国際共同臨床試験は プラセボとフィナステリド 1mg を対照に 24 週間実施されました 毛髪数や毛髪の太さの増加で デュタステリド 0.1mg 群とデュタステリド 0.5mg 群はプラセボより有意に優れ デュタステリド 0.1mg 群がフィナステリド 1mg 群とほぼ同様 デュタステリド 0.5mg 群はフィナステリド 1mg 群に有意に優れることが示されました ( 図 2,3) 9) 国内長期安全性試験では 日本人における 52 週間の試験が実施されました 10) 毛髪数や硬毛数は ベースラインから有意に増加し それが維持されることが示されました また 有害事象については 性機能に関連する障害はみられたものの プラセボと差がないもの 用量依存性がないもの 投与を継続しても投与中に消失するものなどがみられ また全体としてフィナステリドとも大きな差はありませんでした よってデュタステリド特有の性機能障害はなく また重篤になるわけでもないと考えられます さらに 投与終了時まで持続した一部の有害事象も投与終了後には回復しています これらのことより デュタステリドはフィナステリドと同様忍容性は高いと考えられます 投与開始の初期に性機能障害の訴えが多く 投与中に消失することや オープン試験である長期試験の方が頻度が高いことから nocebo effect が有ると考えられます つまり 性機能障害が起こるかもしれないと事前にしっかりと説明されるため 内服を開始すると心理的に障害があるように感じてしまうわけです 投与開始後しばらくたつと大きな障害がないことに気がつき安心して訴えがなくなると推測されます また 2 重盲検試験ではプラセボにあたっている可能性があり それを意識しますが オープン試験では全員実薬であることが分かっているため やはり心理的に訴えが多くなるのかもしれません 以上 男性型脱毛症の病態と主な治療法について概説しました デュタステリドが登場し選択肢が増えました ニーズの多い疾患でもありますので われわれ皮膚科医は薬剤の特性や注意点をよく理解して 有効かつ安全な治療を提供したいものです

文献 1) 坪井良治, 板見智, 乾重樹, 植木理恵, 勝岡憲生, 倉田荘太郎, 幸野健, 齊藤典充, 真鍋求, 山﨑正視 : 男性型脱毛症診療ガイドライン (2010 年版 ). 日皮会誌 120: 997-986, 2010. 2) 板見智 : 男性型脱毛症の治療戦略. 医学のあゆみ 222: 895-896, 2007. 3) 乾重樹 : 男性型脱毛症. 日皮会誌 122: 349-353,2012. 4) 乾重樹 : 男性型脱毛症治療 -フィナステリドの先にあるもの. J Visual Dermatol 14,1246-1249,2015. 5)Tsuboi R, Arano O, Nishikawa T, Yamada H, Katsuoka K: Randomized clinical trial comparing 5% and 1% topical minoxidil for the treatment of androgenetic alopecia in Japanese men. J Dermatol 36: 437-446, 2009. 6) Tsuboi R, Tanaka T, Nishikawa T, Ueki R, Yamada H, Katsuoka K, Ogawa H, Takeda K: Randomized, placebo-controlled trial of 1%topical minoxidil solution in the treatment of androgenetic alopecia in Japanese women. Eur J Dermatol 17: 37-44, 2007. 7) Kawashima M, Hayashi N, Igarashi A, Kitahara H, Maeguchi M, Mizuno A, Murata Y, Nogita T, Toda K, Tsuboi R, Ueki R, Yamada M, Yamazaki M, Matsuda T, Natsumeda Y, Takahashi K, Harada S: Finasteride in the treatment of Japanese men with male pattern hair loss. Eur J Dermatol 14: 247-254, 2004. 8)Arca E, Açikgöz G, Taştan HB, Köse O, Kurumlu Z. An open, randomized, comparative study of oral finasteride and 5% topical minoxidil in male androgenetic alopecia. Dermatology 209: 117-125, 2004. 9)Gubelin Harcha W, Barboza Martínez J, Tsai TF, Katsuoka K, Kawashima M, Tsuboi R, Barnes A, Ferron-Brady G, Chetty D. A randomized, active- and placebo-controlled study of the efficacy and safety of different doses of dutasteride versus placebo and finasteride in the treatment of male subjects with androgenetic alopecia. J Am Acad Dermatol 70: 489-498, 2014. 10)Tsunemi Y, Irisawa R, Yoshiie H, Brotherton B, Ito H, Tsuboi R, Kawashima M, Manyak M; ARI114264 Study Group. Long-term safety and efficacy of dutasteride in the treatment of male patients with androgenetic alopecia. J Dermatol 43: 1051-8, 2016. 図の説明 図 1: 男性型脱毛症の病態 ( 板見智 : 医学のあゆみ 222: 895-896, 2007 乾重樹. 日 皮会誌 122: 349-353,2012 乾重樹. J Visual Dermatol 14,1246-1249,2015 より

作成 ) 図 2: 国際共同臨床試験 :12 週目と 24 週目におけるベースラインと比較した毛髪数の変化 : *P =.009, P<.001 vs placebo; noninferior to finasteride; P =.003 vs finasteride (superiority).(j Am Acad Dermatol 70: 489-498, 2014 より引用 ) 図 3: 国際共同臨床試験 :24 週目におけるベースラインと比較した毛髪径の変化 : *P<.001 vs placebo; P =.004 vs finasteride (superiority)(j Am Acad Dermatol 70: 489-498, 2014 より引用 )