生化学平成 18 年度 (2006) 前期試験問題 2 年生本試験 + 再々試験 平成 18 年 7 月 26 日 ( 水 I 第一講義室 ) 解説 20060728 金 番号 X 氏名生化一郎点 問題 1 ( 初版 Essential 問題 7-19, 第 2 版 Essential 問題 7-17 の改変 ) 菌を数種類分離し, ある遺伝子の塩基配列を調べたところ, 次のような変異を持 った菌株 a e が得られた. これらのアミノ酸について調べたところ (1) (4) のようになった.(1) (4) は a e のどの菌株の解析結果と考えられるか. 相 当する菌株の記号を [ ] の中に記せ. なお,DNA の 5 側 ( コード領域の最初の方 ) がタンパク質に翻訳された時にアミノ基側になる.(3 点 4=12 点 ) 菌株 a. コード ( 翻訳 ) 領域の末端近くにヌクレオチドが 1 個挿入されていた. 菌株 b. コード ( 翻訳 ) 領域の最初の方にヌクレオチドを 1 個欠失していた. 菌株 c. コード ( 翻訳 ) 領域の中央付近に連続した3 個のヌクレオチドが欠失していた. 菌株 d. コード ( 翻訳 ) 領域の中央付近に連続した4 個のヌクレオチドが欠失していた. 菌株 e. コード ( 翻訳 ) 領域の中央付近で1 個のヌクレオチドが置きかわっていた. (1) 野生株 ( 変異のない元の菌群のこと ) とアミノ酸配列に違いはなかった. [ e ] 塩基が変化してもアミノ酸としては変化しないことがあることを思い出そう! (2) 野生株に比べてアミノ酸 1 個の欠失があったが, それ以外の配列は同じだった.[ c ] アミノ酸 1 個の欠失が意味するものは アミノ酸 1 個とヌクレオチド3 個が対応 (3) アミノ基側の数個のアミノ酸配列以外は野生株と全く異なっていた. [ b ] 全く異なる配列になる可能性が高いのはフレームシフト アミノ基側にそれが起こるということはコード領域の最初の方に変化が起きている可能性あり (4) 菌株 bと比べて, アミノ基側の配列とカルボキシル基側の配列が同じだったが, 中間の配列はかなり異なっていた. アミノ酸総数は菌株 bよりも1 個少なかった.[ d ] ちょっと難しかったかな と思ったけれど 予想以上にできていてうれしかった 1 個の欠失と4 個の欠失は3の倍数 +1でフレームシフトが同じようにずれる 欠失の起こった部位の違いで上のように複雑なことになるが ただ 4 個欠失では1 個のアミノ酸が少なくなるけれど 1
問題 2 エネルギー産生のための糖代謝について ( ) に適当な語を入れ説明文を完 成せよ.(2 点 x5=10 点 ) 1 余剰のグルコースは血糖値維持にすぐに利用できるように肝臓において ( グリコ ーゲン ) として貯蔵されている. およそ 1 日分の消費量がストックされている. このシステムは血糖値維持に重要な機構です 2 ( 好気的 ) 環境では1 分子のグルコースは2 分子のピルビン酸になりミトコンドリアに運ばれてアセチル CoA となる. 好気的環境でクエン酸回路およびその後の電子伝達系がスムーズに流れるとアセチル CoA ができ ミトコンドリアに移行しますが 嫌気的条件ではピルビン酸から乳酸生成に向います 乳酸は血中にでます 酸欠が続くと疲労する原因です 3 ( グルコース ) は解糖系のほか, ペントースリン酸回路でも酸化される. ペントースリン酸回路は, 核酸生合成に必要なリボース 5-リン酸の供給に重要である. グルコースの解糖系から ATP 産生に至る経路の他に もう一つ重要な役割をしている経路がペントースリン酸回路です 高分子合成に重要です 4 乳酸, ピルビン酸, アミノ酸などの糖質以外の物質から, グルコースやグリコーゲンを合成する過程を ( 糖新生 ) という. この経路の大部分は, 解糖系の逆の反応である. これも血糖値維持に重要な機構です またグルコースはエネルギー産生以外にもいろいろな生体 機能維持に重要な働きに使われます 栄養の過剰摂取や逆に飢餓状態ではこの機構が稼動します 術前に体力を検査するのもこのことを踏まえてのことです 5 クエン酸回路で生じた還元型補酵素 (NADH, FADH 2 ) は, 電子伝達系で最終的に酸素に電子を供与して水にするが, この際に (ATP) を産生する. 少し漠然とした問題でした テキストの まとめ の一文章からの引用です ここでは NADH H+( プロトン ) 勾配 ATPase( ポンプ ) ATP 産生 ( 実際, 産生とは ADP ATP のこと ) を理解していることを尋ねています 問題 3 ミトコンドリアに関する説明文の ( ) に適当な語を入れ完成させよ. (2 点 x4=8 点 ) 1 肝細胞のミトコンドリアはタンパク質由来のアミノ酸の脱アミノ反応などによ 2
ってできるアンモニアの処理機構である ( 尿素回路またはオルニチン回路 ) をもつ. アンモニアを無毒な尿素として排泄している重要な機構です 肝細胞にのみある機構でアルギニン シトルリン オルニチンのサイクルで CO2 を取り込んで尿素にします 2 ヒトの進化やルーツの解明に, ミトコンドリアの (DNA) の情報が特に有用である. 最近 ミトコンドリアゲノムがいろいろな疾患と関係していることも分かってきています 日本人のルーツ 稲 イヌ マンモスなどのデータもミトコンドリア DNA を利用して発表されています 遺伝子 のえも OK です 3 脂肪がエネルギーとして利用される場合はミトコンドリアのマトリックスで行われる ( β 酸化 ) が重要である. 脂肪のエネルギーといえば 脂肪 脂肪酸 β 酸化 アセチル CoA ATP を連想して下さい 脂肪酸の生合成では炭素 2 個づつ伸長していくことと関連して分解もまた炭素 2 個づつであること (β 酸化 ) これが多量のアセチル CoA をつくり ATP を産生します 脂肪がエネルギー価の高い理由です s 4 細菌などの ( 原核 ) 生物は, ミトコンドリアを持たない. ここでは文章的にはいろいろな語句が可能かもしれませんが ミトコンドリアを持つこと に 着目して分類して下さい 生化学を学んだ人はよくわかっているようです 問題 4 以下の設問にえよ.(3 点 x4=12 点 ) A. グルコースの血中濃度が血糖値であり基準値は 60-109 mg/dl である. 今, 血糖値を 100 mg/dl として, これをモル濃度に換算せよ.dl( デシリットル ) は 1/10l( リットル ). グルコースの分子量は 180. デシリットルは今でも臨床検査では使われるので敢えて用いた 桁間違えは 惜しいと同情するが 0 点 生命を扱う場合 桁の違いは致命的 B. 純水のモル濃度を求めよ. 水素の原子量は1. 酸素は 16. 1000/18=--- A B をあわせると 血糖グルコース分子に対して水分子 ( 血液中も純水とそんなに変らない濃度で存在する ) は 10000 倍と大量に存在することがわかる Glucose : H2O= 1 : 10000 3
C. 0.1M 酢酸,0.2M 酢酸イオンという状態の溶液がある. この溶液の ph を求めよ. 酢酸の pk は 4.8 である. 必要ならば log2=0.3 を使用せよ. (M=mol/l) ph は基本 HA H+ + A- 酢酸酢酸イオン K=[H+][A-]/[HA] 酢酸 HA より酢酸イオン A- の方が多い状態で平衡に達しているということは その 溶液は H+ が酢酸の pk 点よりも H+ 濃度が低い状態 すなわち pk よりも高い ph になっていると予想できる だから エイヤッと 4.8+0.3 という手もないではない 実際にはヘンダーソンハッセルバッハの式 ph=pk+log([a - ]/[HA]) を用いて求める ところでこの式は 実は簡単に得られる つまり HA H + +A - この平衡定数 K は定義より K=[H+][A-]/[[HA] ここで 両辺の -1x(log) をとってもイコールは不変 -logk= - log([h + ][A - ]/[[HA]) = - log[h + ]- log([a - ]/[[HA]) pk=-logk ph=-log[h+] なので pk= ph - log([a - ]/[[HA]) 移項して ph=pk+log([a - ]/[[HA]) ヘンダーソンハッセルバッハの式である D. 0.01M 酢酸,0.04M 酢酸イオンの溶液であればその ph はいくらか. C の応用問題 ヒント log 4 = log2 2 =2 log 2 ( 酢酸イオンの比が増えているので より水素イオン濃度は低い (ph が高い ) こと 4
が予想できる ) 問題 5 以下の文章の ( ) に適切な語を入れよ.(2 点 x2=4 点 ) アミノ酸であるグリシンはアミノ基とカルボキシル基を持つ. 酸性条件 ( 例えば ph 3) では, グリシンの ( ) 基は荷電しており, 一方,( ) 基は荷電していない. 前問同様 HA H + + A - を理解していればできる 水素イオン濃度が高くても (=ph 低い ) 平衡定数 K は不変なのだから この系 は [HA]>[A-] となってつりあっているはず だから [-COOH]>[-COO-] つ まりカルボキシル基は解離していない状態 アミノ基 (-NH 2 ) も カルボキシル基や酢酸などの酸と同様に考えてよい つま り -NH 2 が A-に -NH 3+ が AH に相当する その結果 アミノ基は荷電 (-NH 3+ ) していることになる アミノ酸のカルボキシル基の pk=5 程度 つまり ph5 では 1/2 が解離している ph4 では [-COOH]/[-COO-]=10 に ph3 では [-COOH]/[-COO-] =100 になっている 問題 6 以下の 6 種類のアミノ酸 ( ここではアミノ基とカルボキシル基はペプチド結 合している形で描かれている ) のうち,(1)-(4) の条件に合うものをそれぞれ ひとつあげよ. (3 点 x 4=12 点 ). (1) 極性アミノ酸 (2) 非極性アミノ酸 (3) アミノ酸ではなく本当はイミノ酸 (4) 塩基性アミノ酸グルタミン酸やアスパラギン酸のカルボキシル基とは異なり グルタミンやアスパラギンのアミド基 ( といいます アミノ基でもありません ) は極性を持ちますが 解離はしません 5
問題 7 大腸菌のゲノム DNA の大きさは 4.7 x 10 6 塩基対で約 4,800 個の遺伝子を有することが明らかになった. 以下の設問にえよ.(3 点 x 5 = 15 点 ) 1DNA は逆向きの2 重らせん構造をとる,2G-C, A-T の組合せを 塩基対 と呼ぶ, 33 塩基配列 ( コドン ) が1アミノ酸に対応する等の 遺伝情報の伝達 に関する基本中の基本が理解されているかどうかを問う問題. これらが分かれば, 式とえはヒントにより簡単に出せる. 計算だ! と思って思考が停止してはいけません. 工夫する や ちょっと考えてみる ことが大切です. 考えた人はほぼできていました. ( 分子量やモルを知っていることは長大歯学部生として当然かな?) a) 1モルのゲノム DNA の重量はいくらか.1 塩基対の平均分子量を 660 Da( ダルトン ) とし, 概数を計算せよ.( ヒント :NaCl の分子量は 58.44 Da で,NaCl 1 モルの重量は 58.44 g である ) 式 b) 大腸菌 1 個が持つゲノム DNA の重量はいくらか. アボガドロ数 ( ある物質 1モルの中に含まれる構成要素の総数 ) を 6.0 x 10 23 として計算せよ.( ヒント : ゲノム DNA 1 モルは 6.0 x 10 23 個の大腸菌から得られた DNA 量に相当する ) 式 6
c) 1 遺伝子の平均塩基対数はいくらか. 式 d) 1,200 塩基対からなる遺伝子は何残基のアミノ酸からなるタンパク質をコードするか. 式 e) DNA 配列 5 -GCTGCTCA-3 に対応する相補鎖の配列を方向が分かるように記せ. 問題 8 ( 計 16 点 ) 8A カッコ内に適当な語を補い,DNA 複製についての下記の文を完成せよ.(2 点 x 6 = 12 点 ) Essential 2 版 p201 第 2 段落参照. 穴埋め問題は用語を知らないとできないので, all or nothing の感がありますが, 以下の文章は DNA 複製についての まとめ に相当する重要箇所です. 授業や教科書中の 重要ポイントを見抜く力 も ( 短期決戦? には ) 必要です. 臨床でも要求されます. 複製装置の中心となる酵素は ( ) で, 元の鎖を鋳型として新しい DNA 鎖を合成する. この酵素は DNA 鎖の ( ) 末端にヌクレオチドの 5 -リン酸基が ( ) 結合でつながる反応を触媒し, DNA 鎖の末端に次々にヌクレオチドを付加していく. この酵素はエネルギーに富んだ ( ) を基質とし, 縮合反応で基質のリン酸結合が加水分解され ( ) が遊離する. この際のエネルギー放出を重合反応と共役させる.DNA 重合反応は事実上 ( ) 反応である. 章末問題 6-10(2 版 ) の応用問題, 図 6-9, 6-14, 6-17( 複製フォーク関係 ) 参照. 計算問題のようではありますが, 細胞で起こっている DNA 複製のダイナミズム が頭の中に浮かんでくる良い問題だと思います. 8B ゲノム DNA が 4 x 10 9 塩基対である細胞がある. この細胞では,DNA 複製フォ ークでの複製速度は, 毎秒約 100 ヌクレオチドである.DNA を 48 時間に 1 回複製 7
するためには, この細胞には最低何個の複製起点が必要か. (4 点 ) 式 問題 9 (2 点 x2=4 点 ) 9A 細胞内に A の分子 1000 個と B の分子 1000 個があるとする. 濃度は共に 10-9 M である. さて, A+B AB の反応が進み, 平衡状態になったとき,A 分子 250 個, B 分子 250 個になっていた. このとき AB 分子は細胞内に何個あるか.(M=mol/l) 1000 個ある状態で 10-9 (M) なのです 9B この反応の平衡定数はいくらか. A は 1000 個ある状態で 10-9 (M) なのです ですから 250 個ある状態であれば その濃度は (250/1000)x10-9 (M) K=[AB]/([A][B])={(750/1000)x10-9 )}/{(250/1000)x10-9 (M)} 2 あとは計算 ただし 1/(10-9 )=10 9 です 間違えないように ここでも桁の間違いは致命的なので部分点はなし ちなみに K の単位は (M -1 ) K=[AB]/([A][B]) なので必然的にそうなる つまり平衡定数の単位はそれぞれの 反応によって変る A B ( 無単位 ) A+B AB (M -1 ) 8
A+B+C ABC (M -2 ) 問題 10 酵素 E の基質 (S) の関係と反応速度 (v) を測定して以下の結果を得た. (2 点 x4=8 点 ) [S] mg ml -1 0.05 0.1 0.2 0.5 1 v mg ml -1 min -1 2.5 3.9 5.6 7.1 8.1 10A 酵素 E の基質濃度と反応速度の関係を示す図 1 を描け. 図 1 1. 反応速度 =v なので 図の y 軸の説明に両者を書いても意味はない どちら か一方と 反応速度単位を書くべき x 軸も同じ 2. 測定した各点を直線でつなぐより滑らかに書いたほうがよい 真の線は滑らか なはずだから 3. 測定してはいないが 基質濃度 0[(0,0)] まで線を伸ばすべきである [S]= 0 のとき v=0 のはずだから 4. 問題では敢えて要求してはいないが Km の y 軸切片に (1/2)Vmax を入れ るべきである 10B 1/v と 1/[S] の関係のグラフ ( 図 2), すなわち二重逆数プロットを描け. 1. 図 1とは違い ここでは (0,0) に線を伸ばすことはタブー もしそうしたなら 基質濃度無限大 (1/[S] 0) で反応速度無限大 (1/v 0) であるといっていることになる 2. -1/Km はマイナスの値になる そのことを考えて図を作成すべきである つまりx=0(y 軸 ) を左端でなく 真ん中付近に移動すべき 3. すべての点を書き入れたら すべてを考慮して 1 直線を引くこと ここで各点 1 個 1 個を結んだ折れ曲がりのある線では Vmax や Km は得られない 4. 3で述べたことと同じだが 二点の組み合わせだけで 連立二次方程式を解くのはタブー データは誤差を含むものであるから全体を考慮にいれて最良の値を得るべき 正確には最小自乗法を使う 9
10C 酵素 E の V max と K m はいくらか. 単位も必要 図 2 より算出 10D 図 1 に V max,k m を, 図 2 に -1/K m と 1/V max を適切な位置に書き入れよ. 図 2 の解例 直線の元となったポイントを明確に示す 以下は練習用のグラフ用紙 ( 略 ) 10