第 3 問題作成部会の見解 1 問題作成の方針問題作成に当たっては 現行の学習指導要領 ( 以下 学習指導要領 という ) に基づき 高等学校段階における基礎的な学習の達成度を判定することに第一の目標をおいた しかし 言うまでもなく 基礎的な学習を踏まえて 判断力や思考力 応用力 理解力を涵養することも同様に重要である そこで 問題作成に当たっては 受験者が有すべき基礎的知識を踏まえつつ 現代社会について主体的に考察する力の識別に資する作問にも意を用いた また という科目は ややもすると政治と経済の個別分野を機械的に併置するものだというイメージを与えかねないが 実際の社会においては 両分野は相互に密接に結び付いている そこで 両分野にまたがる あるいは両分野を融合する問題の作成にも力を入れた リード文については とりわけこの点について意識しながらそれぞれの基本的な方向性について検討した 実際の問題作成に当たっては 各設問がこうした観点を効果的に反映したものとなるよう工夫した もちろん 大学入試センター試験においては 各設問の内容が学習指導要領と整合的であるだけでなく 表現や図表等が簡潔明瞭で 問題が受験者の誤解を招くことなく解答に導くものとなっていなければならない したがって 個別の問題作成においてこの点を徹底的に追求したことは言うまでもない その上で 高等学校までの教育から導かれる知識水準に配慮しつつ 学問的正確性を満たす必要性についても常に注意を払った また リード文の内容や各設問が政治や経済の多様性を反映したものとなるよう 全体の構成に配慮した それを通じて 政治や経済の諸問題に対する受験者の意識や関心を喚起することも意図した さらに リード文の趣旨や問題提起を踏まえた上で 表やグラフなどの資料を読み解くことを求める問題 高等学校で習得した基本知識を応用して積極的に考察を深めていく力を求める問題の作成にも意を用いた こうした作業の結果は 63. 01という全体の平均点として現れている この数字は昨年度と比べれば約 3ポイント上昇しているが 大学入試センター試験の趣旨に照らすならば 望ましい範囲のものだと言える したがって 問題作成の基本方針は妥当であったと判断してよいであろう なお 高等学校の教員からは 出題は 全分野にわたる総合的な内容で 受験者に対し大学で学ぶ際の教養の定着を求めるとともに 最近の社会情勢や現代社会の諸課題について 基礎的な原理 原則を基に 多面的 多角的に考察する視点を獲得してほしいという出題者の意図が強く感じられた との評価をいただいており これは我々の方針と整合的である 2 各問題の出題意図と解答結果第 1 問リード文は 民法と私たちの生活の関わりを説明するとともに 日本の民法の制定過程やその後の変化について述べ 法律を理解するにはこうした角度から見ることも重要であることを伝えようとするものである 小問は 憲法や議会といった政治分野と 市場や経済主体といった経済分野との双方についての幅広い知識と思考力を問う総合的な問題となっている 問 1 リード文の趣旨の理解を問うことでリード文を読むことを促すとともに 法律の分類についての基本的な知識も問うている 問 2 市場についての基本的な知識や理解を問う 問 3 経済主体間の取引や経済循環に関する基本的な知識を問う 問 4 各国の政治に関する歴史的な知識を問い 更にそれを議場の特徴と結び付けることで教育効果も狙っている 137
問 5 日本国憲法の制定過程や基本原理に関する基本的な知識を問う 問 6 国会の活動や権限に関する基本的な知識を問う 問 7 経済の主要な出来事と絡めて 日本の国富の構成や推移を図から読み取る力を問う 問 8 企業についての基本的な知識を問う 問 9 消費者問題に関する基本的な知識を問う 問 10 日本の裁判官や裁判制度に関する基本的な知識を問う 第 2 問リード文は 大学の授業での教員と学生の発言という形式を通じて 発展途上国と先進国との関係の様々な側面を説明するとともに 両者の関係に関する異なる見解を示すものである 小問は 憲法 国際法 国際政治を含む法 政治分野と 環境問題 経済思想 経済格差 税を含む経済分野との双方について 幅広い知識と思考力を問う総合的な問題となっている 問 1 マルクスとフリードマンの経済思想についての基本的知識を問う問題 問 2 日本 アメリカ デンマーク ドイツについての基本的知識を問うとともに 表の正確な読み取りを行わせる問題 問 3 予算に関する国会と内閣とのそれぞれの権能 及び衆議院と参議院の関係についての基本的知識を問う問題 問 4 税についての基本的知識を問う問題 問 5 国際司法裁判所と国際刑事裁判所の仕組み 及びそれらの裁判所と日本の関わりに関する知識を問う問題 1 は時事問題 (2014 年南極海における捕鯨事件 ) 問 6 国際の平和 安全の維持に関する国連の仕組みに関する基本的知識を問う問題 問 7 違憲審査制及びそれに関する判例についての基本的知識を問う問題 問 8 京都議定書の内容についての基本的知識を問う問題 第 3 問民主制を採用する国が増加し 民主制に代わる政体はないとさえ言われるようになる一方 価値観が多様化し 新たな社会問題も頻発するようになる中で ( 間接 ) 民主制の限界についても指摘されるようになった こうした現状を踏まえた上で 政治の在り方 民主制の在り方について 改めて考えさせる内容のリード文とした 各設問では 民主主義に関連する 政治制度 政策 国内外の政治動向についての 基本概念や理論に関する正確な知識と論理的な思考力を問うものである 問 1 リード文をしっかりと読ませ その上で民主化の広まりに関する基本的な知識や最近の特徴的な動きを問うものである 問 2 利益集団についての基本的な知識を問うものである 問 3 日本における自由権の保障について基本的な知識を問うものである 問 4 民主政治の基盤である選挙の原則と選挙制度の特徴について基本的な知識を問うものである 問 5 直接民主制の手法が用いられる一例である日本の憲法改正について 憲法と国民投票法に関する基本的な知識を問うものである 問 6 選挙やデモに対する有効性感覚のデータを 日本政治上の事件等と関連付けて読み解く思考力 総合力を問うものである 問 7 社会問題に対処するための公的施策のうち日本の社会保障制度に関する基本的な知識を問うものである 問 8 日本の地方自治の制度に関する基本的な知識を問うものである じゃっき第 4 問日本の政府債務はインフレの懸念を惹起するまでに累積し また海外においても ギリシャの財政危機をめぐってユーロへの信認が動揺する事態となっている このように 通貨に 138
関心が高まっている中で 貨幣の在り方について考察することは 経済を学ぶ上で意義のある試みだと思われる リード文では 法定貨幣の登場からその動揺について記述している 各設問では 貨幣の在り方に関連して 貨幣の機能 金融 物価 財政 国際的な資本取引 欧州統合の経緯 市場取引 地域経済についての基本的知識の理解 論理に関する思考力を問うている 問 1 貨幣の機能や 制度 統計についての基本的な知識を問う 問 2 金融についての基本的な知識を問う 問 3 物価変動に関する事象や要因とその影響について基本的な知識の理解を問う 問 4 財政指標に関する基本的な知識を 実際に計算することを通じて その理解を問う 問 5 国際的な資本移動によって事態が深刻化した代表的な事例について基本的な知識の理解を問う 問 6 欧州の地域統合と共通通貨の導入についての経緯に関する知識を問う 問 7 市場メカニズムについての理解を問う 問 8 地域経済に関する今後の可能性について基本的な知識の理解を問う 3 出題に対する反響 意見についての見解第 1 問民法の制定と変遷をテーマにした政治分野と経済分野の融合問題である リード文は民法について歴史的観点も加味して多面的に掘り下げている 設問には基礎的な知識に加え 本文内容の理解が求められる空所完成形式の問題や資料問題なども含まれており 総合的な力が求められる 設問については 難易度はやや平易である との評価を受けた 問 1 法の分類と成り立ちを問う標準的な問題であり リード文を理解しその内容を把握した上での解答が求められており知識だけではなく思考力も問う良問であると評価された 問 2 市場の種類に関する難しい問題であり 正答肢の価格弾力性は教科書掲載頻度が低いものの 労働市場における需要と供給の関係を考える思考力が求められている選択肢もあると評価された 問 3 経済循環の基本構造に関するやや平易な問題であり 基礎的な知識を図を使って問う問題であると評価された 問 4 日英仏の本会議場の特徴や歴史を問う標準的な問題であり 各国の議会の知識や背景に対する理解を基礎とし資料から特徴を読み取り思考力も求められる良問であると評価された 問 5 日本国憲法の制定過程や基本原理などの基礎的な知識を問うやや平易な問題であると評価された 問 6 国会の仕組みに関する知識を問うやや平易な問題であると評価された 問 7 国富の推移に関して資料から読み取るやや平易な問題であり 1980 年代以降の日本経済の流れを把握した上で解答することが求められるが資料の読み取り自体は容易であると評価された 問 8 企業に関する知識を問う標準的な問題であると評価された 問 9 消費者問題に関する標準的な問題であると評価されたが 誤答の選択肢に含まれる事項にはより適切なものがあったのではないかとの指摘を受けた 問 10 裁判官や裁判制度に関する知識を問う標準的な問題であると評価を受けた 第 2 問環境問題をテーマにした政治分野と経済分野の融合問題で リード文は親しみやすい内容でありキャリア教育の視点からも意味あるものだが 模擬授業という設定をよりいかした見識も期待したいとの評価を受けた 139
問 1 経済思想に関して問う標準的な問題であるとの評価を受けた 問 2 各国の相対的貧困率について資料から読み解くやや平易な問題であるとの評価を受けた 問 3 予算に関する基礎的な知識を問う標準的な問題であるとの評価を受けた 問 4 租税に関する基礎的な知識を問う標準的な問題であるとの評価を受けた 問 5 国際裁判所に関する標準的な問題であるとの評価を受けた 問 6 国際連合の仕組みに関する知識を問う標準的な問題であるが 国連憲章の内容についてやや細かい知識まで求められているとの評価を受けた 問 7 違憲審査に関する知識を問う標準的な問題であり 統治行為論や付随的違憲審査制といった裁判に関する広範な知識が求められているとの評価を受けた 問 8 京都議定書に関する知識を問うやや難しい問題であるとの評価を受けた 第 3 問リード文について メッセージ性のある文章が望まれるとの評価を受けた 問 1 民主化を求める動きについての基本的な知識を問う標準的な問題であるとの評価を受けた 問 2 利益集団 ( 圧力団体 ) についての基本的な知識を問う標準的な問題であるとの評価を受けた 問 3 自由権の保障に関して問う標準的な問題との評価を受けた 自由権の内容と個人の権利の対立という観点から解答する問題と評価された 問 4 選挙制度について問う標準的な問題との評価を受けた 正答を導き出すためには 選挙の仕組みに関する知識だけでなく 具体例を当てはめながら考察する力も必要であると評価された 問 5 憲法改正手続についての基本的な知識を問う標準的な問題であるとの評価を受けた 一方 問題の訂正があったことは残念であるとの指摘を受けた 法律の附則を入念に確認するなど 今後の改善点としたい 問 6 選挙やデモの影響に関して資料から読み取る標準的な問題であるとの評価を受けた デモに関するデータを扱っており 戦後史の知識をもとに資料の読解が求められている良問であると評価された 問 7 社会保障制度に関して問う標準的な問題との評価を受けた 選択肢中にある特別区という表現で解答を悩んだ受験者がいたと思われるとの評価もあった 問 8 地方自治制度に関する知識を問う標準的な問題との評価を受けた やや細かな知識まで求められているとの評価もあった 第 4 問通貨制度の変化と影響をテーマとした経済的分野の問題である ユーロやビットコイン 地域通貨など各所に時事的な要素を交えており 受験者に対してメッセージ性の高い内容である 標準的な難易度の問題であると評価を受けた 問 1 貨幣や通貨制度に関する知識を問う標準的な問題であるとの評価であった より受験者の思考の深さを問う問題になるように今後検討していきたい 問 2 金融に関する標準的な問題であり 家計の金融資産に関する知識を持っている受験者は少ないと思われるが 他の選択肢を吟味していくことで解答できるとの評価であった 問 3 物価変動に関する知識を問うやや平易な問題であるとの評価であった 問 4 一般会計の推移の資料をもとに知識や思考力を問う標準的な問題であり プライマリーバランスの知識を基に考察させ 受験者の思考の深さが問われる良問であるとの評価であった 140
問 5 財政危機や金融危機に関して問うやや難しい問題であり 経済状況の変化による国債の利回りや通貨価値の変動も問われており 知識に加えて思考力も必要とされるとの評価であった 問 6 ヨーロッパの地域統合について問う標準的な問題であり ヨーロッパの地域統合の流れの理解を必要としており 思考力も問われているとの評価であった 問 7 市場機構について問う標準的な問題であり 図中に供給曲線を書くパターンが多かったが あえて均衡点だけを示しており より深い思考が求められているとの評価であった 問 8 地域経済の活性化について知識や思考力を問うやや平易な問題であるとの評価であった 4 今後の問題作成に当たっての留意点本年度の問題についての我々の基本的な見解は 以上のとおりである 高等学校教科担当教員からも 学習指導要領に沿って幅広い範囲から出題されており また 基礎的知識の理解に加えて文章や資料を読み取る力 与えられた材料から正答を導き出すという問題作成の基本方針を評価するとの判定をいただいている また の学習からどの程度の知識や思考力 判断力を身に付ければ大学生になる上でふさわしいといえるのかについて 十分なメッセージとなっているとの評価もいただいた ただ 個別には改善や検討を加えるべき課題もいくつか指摘いただいている 各方面からの意見を真摯に受け止めつつ 更に良質な問題を作るべく努力していく所存である 141