国際医療福祉大学学会誌第 23 1 ( 2018) 1,2 3 子育て中の女性看護師のバーンアウトの要因を明らかにし, 予防に向けた支援への示唆を得ることを目的に国内外の文献検討を行った. 子育て中の看護師のバーンアウトやストレスに焦点をあてた系統的な研究は, 国内外ともに少ないものの,3 歳未満児

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1,2 3 子育て中の女性看護師のバーンアウトの要因を明らかにし, 予防に向けた支援への示唆を得ることを目的に国内外の文献検討を行った. 子育て中の看護師のバーンアウトやストレスに焦点をあてた系統的な研究は, 国内外ともに少ないものの,3 歳未満児を持つ女性看護師と 未就学児を持つ女性看護師のバーンアウトに関連する要因については明らかにされていた. それらの要因のうち, 職場併設以外の保育施設の利用, 親としての不適格感, 育児への自信のなさ, 子どもの過ちに対して叩く養育態度, 週 4-6 時間以上の超過勤務, 職場の定時帰宅への配慮のなさ, 自分自身の時間の不足などは, 子育て期に特有の要因であると考えられた. 超過勤務時間の調整や削減, および, 子育てに関する精神面へのサポートなど, 心身両面へ適切に対応することでバーンアウトの低減に寄与する可能性が示唆された. 今後は, 子育て中の女性看護師の子育て時期や特性をふまえたバーンアウトやストレスの要因分析研究が蓄積され, 適切な支援を明確にしていくことが必要であると考える. : 看護師, 子育て, バーンアウト, ストレス Research trends related to burnout in female nurses during childcare Abstract TAKAYAMA Yuko and SUZUKI Eiko We performed a domestic and foreign literature-based investigation to elucidate the factors related to burnout in female nurses during childcare and to examine future support strategies that could help them to prevent burnout. Although both domestic and foreign systematic studies centered on burnout or stress among nurses during childcare were few, the factors related to burnout in female nurses with children under three years old and those with preschool-age children were elucidated. Among those factors, using a childcare facility outside the workplace, feeling ill-qualified as a parent, lacking confidence in childcare, responding to a childʼs misbehavior with spanking, working over 4 6 hours of overtime per week, lacking consideration of the workplace to arrive home at a designated hour, and lacking time to attend to their own affairs were suggested as factors unique to the period of childcare. Proper support for both physical and mental aspects such as reducing overtime work and mental support for childcare were likely to help prevent burnout. In the future, studies are necessary to investigate the factors related to burnout or stress experienced by female nurses during childcare and to clarify the proper support required. Keywords:nurses, childcare, burnout, stress 少子高齢化が加速する本邦では, 一億総活躍社会 を目指し, 子育て期の女性を特に重要な人材として, 子育て支援の充実や女性活躍推進法の制定など社会復 帰を促す数々の政策が考案されている. しかし, 本邦 女性の年齢階級別就業率の年次推移を概観すると, 子 受付日 :2016 年 11 月 21 日受理日 :2017 年 10 月 2 日 1 国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科保健医療学専攻看護学分野博士課程 Division of Nursing, Doctral Program in Health Sciences, Graduate School of Health and Welfare Sciences, International University of Health and Welfare yuko.takayama@iuhw.ac.jp 2 国際医療福祉大学成田看護学部看護学科 Department of Nursing, School of Nursing at Narita, International University of Health and Welfare 3 国際医療福祉大学大学院医療福祉学研究科保健医療学専攻看護学分野 Division of Nursing, Graduate School of Health and Welfare Sciences, International University of Health and Welfare 52

育て期に落ち込むM 字型曲線は未だ解消されてはいない 1). これは, 女性が大多数を占める看護職においても同様の状況である. 日本看護協会の 2012 年の報告によると, 現在就業していない看護職の離職理由は, 妊娠 出産 (24.2%) が最も多く, 子育て (10.3%) も上位に位置している 2). 看護師の多くが, 妊娠 出産 育児といったライフイベントによって子育て期に離職していることは, 労働力の多大な損失であり具体的支援の検討が喫緊の課題である. 一般に看護師は, 勤務時間の不規則さなどから, 就労と育児の両立を図るのは多様な職種の中でも特に難しく, ストレスを受けやすいとされている 3). また, ストレスを受けることで, 職業上のストレス症候群であるバーンアウトを発症しやすい状況になることも報告されている 4). バーンアウトとは,1970 年代に Freudenberger や Maslach により発見された概念である. 精神科医である Freudenberger は, 対人専門職に従事するスタッフが, 徐々にエネルギーが枯渇していくかのように仕事に対する意欲や関心を失っていく様子をバーンアウトと表現し 5),Maslach と Jackson は, Burnout is a syndrome of emotional exhaustion, depersonalization and reduced personal accomplishment that can occur among individuals who do ʻpeople-workʼ of some kind と定義した 6). 対人専門職のひとつである看護師は, このバーンアウトに特に陥りやすいと言われている. 北岡は, 我が国の労働者 6,737 名のデータより, バーンアウト状態にある労働者は, 看護師を含む対人専門職が 36%, 公務員 18%, 会社従業員 12% であり, 職と比較しても, 看護師はよりバーンアウトに陥りやすいことを示して タルヘルス上の重要課題であると考えられる. バーンアウト発症のプロセスについては,1988 年に Leiter と Maslach が, バーンアウト プロセスモデルを構築し明らかにした. 長期にわたり人に援助する過程において, 仕事の量的負荷, 対人葛藤, コーピング能力やソーシャルサポートの不足などが疲弊感を生じさせ, シニシズムとなり, やがてバーンアウトに陥っていくのである 10,11). 日本人看護師においても, このモデルがほぼあてはまることを北岡が検証しており 12), ストレスの多い環境で働き続けることで, まず疲弊感が生じ, それがバーンアウト発症プロセスの第 1 ステージであることを説明している 7). 看護師のなかでも特に子育て中の看護師は, 就業と子育ての両立による仕事の量的負荷に加え, 両立への葛藤や, 子育てに関する不安など, 子育て時期に特有のストレスを複数抱えていると考えられる. 心身への多様なストレスを抱え, 仕事の量的負荷がかかるこの時期は, バーンアウト発症プロセスの初期段階に該当する可能性が高く, よりバーンアウトに陥りやすい状況にあると推測される. 看護師のバーンアウトが社会問題とされて以来, その予防を意図した研究が国内外で実施され, バーンアウトに関連する数々の要因が明らかにされてきている. 子育て中の看護師のバーンアウトに対する支援をさらに具現化するためには, これらの先行研究の動向を概観し, 子育て時期に特有のバーンアウトの要因を明らかにすることが効果的であると考えた. そこで, 子育て中の看護師のバーンアウト予防に向けた支援への示唆を得ることを目的とし, 国内外の文献検討を行った. いる 7). 看護師がバーンアウトに陥ると, 離職 休職 や離職意図につながる 6,8), 患者へのケアの質が低下する 5), 医療事故を起こしやすくなる 9) など, さらなる問題に発展する可能性が報告されている. つまり, 看護師のバーンアウト状態は, 看護師自身の心身の健康問題であるだけではなく, 職場やケアを受ける患者にとっても深刻な問題につながる恐れがある. 看護師のバーンアウトを予防することは, 職場におけるメン 1. データ収集文献検索は,2017 年 3 月 10 日に, 国内文献は医学中央雑誌 ( 医中誌 Web 版 ), 海外文献は CINAHL, PsycINFO,MEDLINE を用いて実施した. バーンアウトは, 慢性的な仕事ストレスへの曝露結果による精神状態である 13) ことから, ストレスに関する文献につ 53

いても網羅できるよう意図し, キーワードは ' 看護師 (nurse)' 育児 / 子育て (child care/child rearing)' バーンアウト (burnout)' または ' ストレス (stress)' とした. 検索期間は, 検索可能な最古 ~ 検索日当日で, 海外文献は英文の文献のみを対象とした. タイトルに ' 看護師 ( nurse)' 育児 / 子育て (child care/child rearing)' バーンアウト (burnout)' または ' ストレス (stress)' の記載のあるすべての文献について, 可能な限り本論文もしくは抄録を収集したのち, 重複が認められた文献と解説 特集記事を除外した. 1. 文献数の年次推移キーワードによって検索された文献数の年次推移を, 国内外別に表 1-1, 表 1-2 に示した.' 看護師 '&' 育児 / 子育て '&' バーンアウト ' をキーワードとする国内文献は 9 件であったが, このうち特集記事 2 件を除外した 7 件を分析対象とした. 国内では 2012 年より研究が実施されていたが, 研究開始時期が遅く, 文献数も少ないため年次による増減の傾向はわからなかった. また, 対象文献 7 件中 6 件が同一著者らによるも のであった. 海外文献は 22 件であったが, 重複が認 2. データ分析子育て時期の看護師に特有のバーンアウトの要因やストレスを抽出するため, 次のような手順で分析を実施した. 1) 文献の全体像を把握するために, 発表年次によって分類した. 2) ' 看護師 '&' 育児 / 子育て '&' バーンアウト ' および ' 看護師 '&' 育児 / 子育て '&' ストレス ' でヒットした文献を研究対象別に分類した. 3) 研究対象別結果から, 子どものいる看護師を研究対象とした文献について, 研究テーマ別に分類した. 4) 子どものいる看護師のバーンアウトに関連する要因を, 要因分析研究より抽出した. 5) 子どものいる看護師のストレスに関連する要因を, 要因分析研究より抽出した. められた 4 件と特集記事 1 件を除いた 17 件を分析の対象とした. 海外では 1982 年より研究が実施されていたが, 年次ごとの文献収録数にはばらつきがあり, 増減の傾向は認められなかった. ' 看護師 '&' 育児 / 子育て '&' ストレス ' をキーワードとする国内文献は 80 件であった. そのうち, 重複している 4 件と特集記事 7 件を除き,69 件を分析の対象とした. 国内では 1999 年より研究が実施されており,2001 年以降文献数は増加しているものの, 顕著な増加傾向は認められなかった. 海外文献は 99 件であり, 重複している 4 件と特集記事 1 件を除いた 94 件を分析の対象とした. 海外では 1982 年より研究が実施されていたが, 年次ごとの文献数にはばらつきがあり, 明確な増減の傾向は認められなかった. ' 看護師 '&' 育児 / 子育て '&' バーンアウト ' をキーワードとする国内外の文献 24 件 ( 国内文献 7 件, 海 表 1-1 国内における本研究対象文献の年次推移 看護師 and ~ 1990 1991 ~ 1995 1996 ~ 2000 2001 ~ 2005 2006 ~ 2010 2011 ~ 2015 2016 ~ 合計 育児 / 子育て and バーンアウト 0 0 0 0 0 7 0 7 育児 / 子育て and ストレス 0 0 1 9 25 24 10 69 表 1-2 海外における本研究対象文献の年次推移 nurse and ~ 1990 1991 ~ 1995 1996 ~ 2000 2001 ~ 2005 2006 ~ 2010 2011 ~ 2015 2017.3.10 実施 2016 ~ 合計 child care / child rearing and burnout 2 1 0 3 3 4 4 17 child care / child rearing and stress 12 7 15 21 18 19 2 94 2017.3.10 実施 54

外文献 17 件 ) および,' 看護師 '&' 育児 / 子育て '&' ストレス ' をキーワードとする国内外の文献 163 件 ( 国内文献 69 件, 海外文献 94 件 ) の計 187 件を対象文献として, 以降の分析を実施した. 教育に関する研究であった. 子どものいる看護師を研究対象とした 28 件は,24 件が国内文献,4 件が海外文献であり,4 件が文献レビューであった. また,28 件中 20 件が, 女性看護師 を対象としており, 看護師の性別にはこだわらない, 2. 研究対象別分類 ' 看護師 '&' 育児 / 子育て '&' バーンアウト ' および ' 看護師 '&' 育児 / 子育て '&' ストレス ' でヒットした国内外文献の研究対象別分類を表 2 に示した. 対象文献は, 研究対象別に,1 子どものいる看護師,2 看護 もしくは性別について明示していない研究が 8 件であった. 子どもの年齢については,0 ~ 3 歳 3 件, 未就学児 9 件, 子どもの年齢にはこだわらない 16 件であった. さらに,28 件中 22 件が病院に勤務する看護師を研究対象としていた. 職全般 ( 保健師 助産師 養護教諭などを含む ),3 看護学生,4 患児 患児の母親や家族,5 一般の女性 母親 子ども 家族の 5 つに分類された. このうち, 子どものいる看護師を研究対象とした文献は 28 件であった. 対象文献のうち 159 件は, 看護師自身の子育てに関する研究ではなく, 子どもへのケアなど小児看護に関する研究, 一般女性や母親を対象とした健康教育などの母性看護 公衆衛生看護に関する研究, 看護 3. 研究テーマ別分類子どものいる看護師を対象とした国内外の文献 28 件の研究テーマ別分類を表 3, 文献レビュー 4 件を除いた 24 件の一覧を表 4 に示した. バーンアウトに関する国内外の研究は 10 件, ストレスに関する研究が 18 件であった. このうちバーンアウトに関する研究のテーマ別内訳は, 要因分析 5 件, そのの分析 1 表 2 対象文献の研究対象別分類 看護師 (nurse)and 子どものいる育児 / 子育て (child care/child rearing) 看護師 and バーンアウト (burnout) ストレス (stress) 看護職全般保健師 助産師 養護教諭など 看護学生 患児 患児の母親 家族 一般の女性 母親 子ども 家族 国内 ( 医学中央雑誌 ) 7 0 0 0 0 7 海外 (CINAHL / PsycINFO / MEDLINE) 合計 3 11 0 2 1 17 国内 ( 医学中央雑誌 ) 17 17 0 24 11 69 海外 (CINAHL / PsycINFO / MEDLINE) 1 26 5 36 26 94 文献数 28 54 5 62 38 187 表 3 子どものいる看護師のバーンアウトやストレスに関する文献の研究テーマ別分類 看護師 (nurse)and 育児 / 子育て (child care/ child rearing)and バーンアウト (burnout) ストレス (stress) 要因分析 実態調査 そのの分析 レビュー 国内 ( 医学中央雑誌 ) 3 0 0 4 7 海外 (CINAHL / PsycINFO / MEDLINE) 合計 2 0 1 0 3 国内 ( 医学中央雑誌 ) 6 1 10 0 17 海外 (CINAHL / PsycINFO / MEDLINE) 0 0 1 0 1 文献数 11 1 12 4 28 55

表 4 著者 ( 発表年 ) Takayama Y., et al. (2016) 14) 高橋裕子, (2016) 15) Maruyama A., et al. (2016) 16) 子どものいる看護師のバーンアウトやストレスに関する研究の一覧 目的 バーンアウトの関連要因の明確化 子育て中の看護師における職業性ストレスとレジリエンスの関係の明確化 バーンアウトの関連要因の明確化 村岡亜紀, バーンアウトの関連 (2015) 17) 要因の明確化 短時間正職員制度活用者, 非活用者の特徴の明確化 髙山裕子, バーンアウトの関連 (2015) 18) 要因の明確化 丸山昭子バーンアウトの関連 (2012) 19) 要因の明確化 田中郁代, (2012) 20) 尾崎千尋, (2011) 21) 弓削なぎさ, (2011) 22) 豊増功次, (2009) 23) Firmin M W., et al. (2008) 24) Redwood T. (2008) 25) 副看護師長のストレスと対処行動を, 子育て中か否か, 未婚 既婚により比較する 育児とキャリアアップを両立する上での困難の明確化 子育て中も継続して就労する看護師のメンタルヘルスの明確化 仕事ストレスの関連要因の明確化 モチベーションとストレスの明確化 母親になることによる看護実践の変化の明確化 対象 3 歳未満児を持つ女性看護師 158 人 データ収集方法 分析方法測定尺度結果 重回帰分析 日本版 MBI-HSS バーンアウトに関連する要因自分のことができない状況に対するイライラ, 超過勤務,3 歳未満児が第 1 子または第 2 子であること, 仕事に対するやりがい, 職場併設保育施設利用の有無, 給料満足, 親としての不適格感, 支援の充実感 全看護師 395 人 一元配置分散 分析 t 検定 未就学児を持つ女性看護師 2,151 人 未就学児を持つ女性看護師 317 人 子どものいる看護師 1,169 人 未就学児を持つ女性看護師 2,892 人 多重ロジスティック回帰分析 職業性ストレス簡易調査票ニ次元レジリエンス要因尺度 日本版 MBI-HSS レジリエンスが高いほど心理的ストレス反応は低い バーンアウトに関連する要因現職場の勤務年数, 仕事継続意思, アサーティブネス, 超過勤務, 子どもをたたく養育態度 重回帰分析 日本版 MBI-HSS バーンアウトに関連する要因仕事継続意思, 育児への自信, 自分の時間の有無, 上司の相談相手の有無, 定時帰宅への配慮の有無, 現勤務部署での勤務年数 短時間正職員制度活用の有無は, バーンアウトに関連しない 重回帰分析 日本版 MBI-HSS バーンアウトに関連する要因自分のことができない状況に対するイライラ, 親としての不適格感, 仕事に対するやりがい, 仕事継続意思, 通勤時間の長さ 多重ロジスティック回帰分析 副看護師長 448 人 Mann-Whitney 検定 t 検定 未就学児を持つ女性看護師 6 人 半構成的面接 内容分析カテゴリー化 女性看護師 763 人 Kruskal-Wallis 検定 重回帰分析 育児休業後の復職時健康診断を受診した看護師 30 人 管理者であり母親でもある正規職員看護師 13 人 雑誌や Web サイトで募集した助産師と看護師 22 名 深層面接 半構成的面接 平均得点の比較, 標準偏差, 百分率 主題分析現象学的質的研究 日本版 MBI-HSS 職業性ストレス簡易調査票コーピング尺度 看護師の職務満足度職業性ストレス簡易調査票 GHQ28 SOC スケール 職業性ストレス簡易調査票 バーンアウトに関連する要因超過勤務, 仕事継続意思, 育児への自信, コーピング方法 未婚者の方がストレスが多い. 子育て中でない方が, 身体愁訴や不安感が強い 両立を支えている思い : 看護師として, 人間として成長したい, 看護への魅力, 目指す看護の存在, 両立への意志, 自分にとっての資格取得の好機 両立する上での困難 : 周囲からの理解と協力の不十分さ, 家事 育児が両立に与える負担, 教育機関へ通うことでの負担, 時間に追われている 対処とサポート : 両立のための自分なりの工夫, 家族の支え, 励みとなる仲間の存在, 職場からの支援 現在の地位に満足していない 心理的な仕事の量的負担が大きい 高い不安感, 頭痛がする この世から消えてしまいたいと思うことが多い 両立を支える要因 : 家族の理解 支援 対象者が望む職場のサポート : 気軽に休める体制, 夜勤 / 役割の免除 仕事のコントロール度は低く, 疲労感や不安感が高い モチベーション : 賞賛, 収入, 専門職, やりがいストレス : 仕事と家庭の調和, 自己抑制, 独特な緊張状態 現象学的分析 専門職が母親になること : 管理実践と女性や患者へのケアに直接的に影響する. 看護実践の変化には肯定的 否定的の両面がある. 見方を変え, 専門職の実践に価値を与える. 出産後の復職 : ストレスフル 困難感として認識されている 56

表 4 つづき 橋詰実千代, (2008) 26) 大森ゆみ子, (2009) 27) 難波峰子, (2009) 28) 水町育代, (2008) 29) 眞壁久二子, (2007) 30) 三神由起子, (2006) 31) 斉藤理恵, (2005) 32) 片山久留美, (2003) 33) 矢田昭子, (2002) 34) 矢田昭子, (2002) 35) 中村知美, (2001) 36) 大西由希子 (1999) 37) 看護師の職務特殊性と育児不安の関連の明確化 仕事, 家庭, 育児の両立のための工夫, 利用した支援の明確化 育児困難感の関連要因の明確化 家庭と仕事の両立葛藤の明確化 就労を支えている思いの明確化 育児不安 / ストレスの明確化 育児環境の実態と意識, ニーズの明確化 仕事と子育ての両立におけるストレスの明確化 育児上の問題点とその対処に関する, 地方と都市部の比較検討 育児ストレスと対処行動の地域差の明確化 子育て観と, 対象の属性, 労働状況, 仕事の意識の関係及び子育て支援に関する検討 子育てと仕事ストレスの明確化 第 1 子が未就学児の女性看護師 120 名 出産 育児を経験した看護師 149 名 ナースのための子育て支援 研修参加者 64 人 未就学児を持ち 3 交代勤務をしている女性看護師 19 名 乳幼児期の子どもをもつ女性看護師 4 名 0 ~ 3 歳の母親看護師 166 名, 看護師以外の有職者 44 名, 専業主婦 143 名 未就学児をもつ女性看護職員 46 名 未就学児をもつ女性看護職員 42 名 子育て経験のある看護職者地方 525 名都市部 156 名 有子女性看護職者地方群 989 名都市部群 853 名 0 ~ 3 歳の子どもを持つ看護婦 92 名 有子既婚の女性看護職 100 人未婚女性看護職 100 人 ( 自由記述 ) 半構成的面接 要因間の相関係数の比較 内容分析 カイ二乗検定 Mann-Whitney U 検定 内容分析 χ 2 検定一元配置分散分析,Tukey の多重比較重回帰分析 看護師の職務満足度平等主義的性役割態度スケール短縮版育児不安尺度夫婦間コミュニケーション態度育児への精神的サポート 育児困難感尺度 (1 歳児版 ) ワーク ファミリー コンフリクト尺度 育児不安スクリーニング尺度 育児不安と 職業的な地位 に中程度の相関 夫の精神的育児支援 と 育児意欲の低下 に中程度の相関 夫婦間コミュニケーション と 育児意欲の低下 に顕著な相関 看護師としての職務に満足し, 伝統的性役割観を強く持たない母親ほど育児不安が低い 仕事と家庭生活や育児を両立していくための工夫や利用した支援について, 11 カテゴリーを抽出 育児困難感に影響する要因 : 配偶者の協力と情緒的なサポート 未就学児をもつ看護師は, 日勤, 準夜勤, 深夜勤の勤務帯に関係なく家庭と仕事の両立葛藤が高い 病棟看護師として働く母親の就労を支えている思いについて, 育児しやすい環境 母親と子どもに与える影響 折り合いをつける 仕事の充実感 仕事への復帰 継続意欲が高まる の 5 つのカテゴリーを抽出 育児不安に関連する要因 : 夫の協力 育児と仕事を両立させている看護職員は, 身体的 精神的ストレスが強く, 仕事への責任と子どもに対する役割において強い困難感を感じている 子育てに対する満足度が低い オリジナル 仕事と子育ての両立におけるストレス : 子どもが病気の時, 勤務をどうするか が最も強い ( 自由記述含む ) 一元配置分散分析 t 検定一元配置分散分析 t 検定ウィルコクソンの順位和検定内容分析 因子分析 t 検定 オリジナル 0 ~ 3 歳の乳幼児を持つ専業母親の子育て観尺度 ストレス尺度 対処行動は, 地方と都市部, 家族形態による差は見られない 育児ストレス : 都市部群より地方群の方が強い 育児ストレスの対処行動 : 問題に対して異なった解決策を導く のは, 地方群より都市部群のほうが多い 対象の属性や仕事の意識は, 子育て観の規定要因とはいえない 子育てと仕事を両立させるために希望する支援 : 子どもが病気のとき預かってくれる所, 保育時間の延長, 子どもを安心して預けられる所 仕事をする自分を生き生きと感じており, 子育てへのポジティブな感情と職業継続の意思を示している 仕事ストレスは高く, 特に三交代勤務者のストレスが高い 仕事の多忙さ, 慢性疲労, 職場の人間関係不良から消耗を感じている 対育児感情がネガティブである 夫との関係が不良な者は仕事ストレスも高い 件, 文献レビュー 4 件であり, そのの分析の枠組 みに分類したものは, モチベーションの明確化 24) で あった. また, ストレスに関する研究のテーマ別内訳 は, 要因分析 6 件, 実態調査 1 件, そのの分析 10 件, 文献レビュー 0 件であり, そのの分析の枠組み に分類したものは, レジリエンスや職業性ストレスへ 57

の対処行動に関する研究 15,20), 就労と育児 家庭生活 キャリアアップなどとの両立に関する研究 21,29,30,33), 就労と育児不安 育児ストレスとの関連についての研 究 26,34,35), 母親になることによる看護実践の変化 25) で あった. 5. 子育て中の看護師のストレスに関連する要因 子どものいる看護師を対象としたストレスの要因 分析研究は, 国内 6 件 22,23,28,31,36,37) であり, 海外では 見当たらなかった. アウトカムは, 職業性ストレス 3 件 22,23,37), 育児不安 育児ストレス 1 件 31), 育児困 難感 1 件 28), 子育て観 1 件 36) であり, 職業に関する 4. 子育て中の看護師のバーンアウトに関連する要因 子どものいる看護師を対象としたバーンアウトの要 因分析研究は, 国内 3 件 17-19), 海外 2 件 14,16) であり, 研究対象者の子どもの年齢によって,3 歳未満児を持 つ女性看護師 1 件, 未就学児を持つ女性看護師 3 件, 子どものいる看護師 ( 子どもの年齢にこだわらない ) 1 件に分類できた. 3 歳未満児を持つ女性看護師のバーンアウト発症を 促進する要因は, 自分のことができない状況に対する イライラ感が強い 14), 週 4-6 時間以上の超過勤務が ある 14),3 歳未満児が第 1 子または第 2 子である 14), 仕事に対してやりがいを感じていない 14), 利用して いる保育施設が職場併設ではない 14), 給料に満足し ていない 14), 自分は親として不適格であると感じて ストレスと育児 子育てに関するストレスの 2 つに分 類できた. 子育て中の看護師の職業性ストレスを促進する要因 としては, 定年までの就労継続意思が強い ( 仕事 子 育て 家事を せざるを得ない 生活背景である ) こ と 22), 三交代勤務 37), 慢性疲労 37), 職場の人間関係 不良 37), 夫との関係不良 37) が明らかにされていた. また, 職場に対して望んでいるサポートは, 気軽に休 める体制 23), 夜勤や役割の免除 23), 子どもが病気の とき預かってくれる場所や, 安心して預けられる場所 の提供 36), 保育時間の延長 36) であった. 育児 子育てに関するストレスの要因としては, 配 偶者の家事 育児への協力 28,31), 配偶者による情緒的 なサポート 28) が明らかにされていた. いる 14), 職場から十分な支援を受けていないと感じ ている 14) であった. 未就学児を持つ女性看護師については, 現職場の勤 務年数が 3 年未満である 16,17), 仕事を辞めたいと感じ ている 16,17,19), アサーティブネスが低い 16), 週 4-6 時 間以上の超過勤務がある 16,19), 子どもの過ちに対して 叩く養育態度である 16), 育児への自信がない 17,19), 自 分の時間がない 17), 上司の相談相手がいない 17), 現 職場には定時帰宅への配慮がないと感じている 17), コーピング方法 19) であった. さらに, 短時間正職員 制度活用の有無はバーンアウトに関連しない 17) こと が明らかにされていた. 子どものいる看護師全体では, 上記と重複するが, イライラ感が強い 18), 親として不適格だと感じてい る 18), 仕事に対してやりがいを感じていない 18), 仕 事を辞めたいと感じている 18), 通勤時間が長い 18) こ とが, バーンアウトの発症に関連する要因として報告 されていた. 1. 子育て中の看護師のバーンアウトやストレスに関する国内外の研究の動向子育て中の看護師に焦点をあてたバーンアウトやストレスに関する文献数の年次推移を概観すると, 国内では約 20 年前 ( バーンアウトについては 5 年前 ), 海外では約 35 年前から研究が実施されており, 国内においては,2007 年頃より研究数の増加が認められた. 増加の背景として,2007 年の ワーク ライフ バランス憲章 の制定や, 看護職確保定着推進事業 の勧奨により, 結婚 出産 育児といった個々のライフステージに対応した働き方への意識が, 看護職全般に高められた状況があると考える. しかしながら, バーンアウトやストレス要因に関する国内の研究は 9 件 ( うち 3 件が会議録 ) であり, 研究実績が充実しているとは言い難い. 我が国においては, 看護師の就労と子育ての両立の困難さや, 妊娠 出産 育児といった 58

ライフイベントによる離職の多さが危惧されており, 今後, 課題の明確化に向けた系統的な研究の増加が望まれる. 海外では, 国内より 15 年以上前から研究が実施されているものの, 文献数の増加は緩慢であった. バーンアウトやストレスの要因に関する研究は 2 件で,2 件とも日本の子育て中の女性看護師に関する研究であり, 実質的には海外では実施されていなかった. 海外における社会的背景や子育て環境などの違いが, 研究の動向に影響している可能性が考えられた. 養育態度である 16) などが報告されている. これらより, 育児経験や育児能力がバーンアウトに関連している可能性が考えられるが, 現時点では研究数が少なく, 比較検討ができない. また, 職場併設の保育施設を利用している看護師の方が, バーンアウトに陥りにくい 14) ことについても, 先行研究がなく比較検討はできない. しかし, 職場併設の保育施設は, その便利さと柔軟性から, 子育て中の看護師にとっては必要性が高く, バーンアウト予防に寄与する可能性があるのかもしれない. 今後, 研究がさらに進められることが 望まれる. 2. 子育て中の看護師のバーンアウト要因と支援への 示唆 看護師のバーンアウトに関する研究は, 国内外とも に文献数も多く, 年次ごとに増加傾向にある. これは, 看護師が, の職業と比較してより強いストレスを抱 えており 7,38), バーンアウトに陥りやすいとされてい ることによると考える. 看護師のバーンアウトに関連 する要因としては, これまでに, 年齢 39), アサーティ ブネス 39), 看護師としての経験年数 40-42), 職位 43), ワークライフバランス 44), 婚姻状況 43,45), 子どもの 有無 44,45), 超過勤務 16,46), 自身 / 子どもの健康問題 47), 通勤時間 47), 仕事のやりがい 41), 仕事継続意思 16,46,48), 対処行動 16,43) などが明らかにされている. これらの 要因によって, 看護師の疲弊感が発生 増強し, やが てはバーンアウト発症に陥っていくのである. つまり, これらの要因に対する対策を講じることが, バーンア ウト予防に寄与すると考えられる. 子育て中の看護師に関しても, 研究数は僅少ではあ るが, バーンアウトに関連する要因が一部の集団につ いて明らかにされている. それらの要因には, 上記の 一般の看護師のバーンアウトに関連する要因だけでは なく, 子育て時期に特有の子育てに関する要因や, 勤 務体制や多忙さに関する要因が複数認められる. この うち, 子育てに関する要因としては, 職場併設の保 育施設を利用していない 14), 第 1 子または第 2 子が 勤務体制や多忙さに関する要因としては, 週 4-6 時 間以上の超過勤務 14,16,19), 職場の定時帰宅への配慮の なさ 17), 自分自身の時間の不足 17) などが明らかにさ れている. 子育て中の看護師には, 就業後の育児や家 事などといった, 時間的な制約をより強く感じるよう な背景があることが考えられる.Demir は, 育児や家 事を困難に感じる看護師はバーンアウトのリスクが高 い 47) と報告している. また, 育児や家事は看護師の 疲労の要因のひとつでもあり 49), 身体的な疲弊感を 増強させる可能性もある. さらに, 子どもを育てなが ら働く看護師は, 仕事への責任と子どもに対する役割 との間で強い困難感を感じていることも報告されてお り 32), 精神面においても強いストレスを受けている 恐れがある. 超過勤務時間の調整や削減, および, 子 育てに関する精神面へのサポートなど, 心身両面への 支援が, 子育て中の看護師のバーンアウトの低減に寄 与する可能性が示唆された. 現在, 一億総活躍社会 を目指す我が国では, 子 育て期の女性の社会復帰に焦点をあて, 複数の支援策 が検討 実施されている. 子育て中の女性看護師に対 しても同様に, 今後, 研究が進められ, より充実した 支援体制の構築に活かしていくことが望まれる. 子育 ては限られた期間のことであり, 時期に合わせた適切 な支援の提供がバーンアウトの低減に寄与すると考え る. 3 歳未満児である 14), 親としての不適格感がある 14), 育児への自信がない 17,19), 子どもの過ちに対して叩く 59

子育て中の看護師のバーンアウト予防対策について 示唆を得るため, 国内外の文献を対象に検討を行った. 子育て中の看護師のバーンアウトやストレスに関する 研究は, 国内外ともに少ないものの, バーンアウト発 症に関連する要因の一部については明らかにされてい た. 特に, 職場併設以外の保育施設の利用, 親として の不適格感, 育児への自信のなさ, 子どもの過ちに対 して叩く養育態度, 週 4-6 時間以上の超過勤務, 職場 の定時帰宅への配慮のなさ, 自分自身の時間の不足な どは, 子育て期に特有の要因であり, 適切に対応する ことでバーンアウトの低減に寄与する可能性が示唆さ れた. 今後, 子育て中の看護師に焦点をあてたバーンアウ トやストレスの要因分析研究が蓄積され, 適切な支援 を明確にしていくことが必要であると考える. 本論文発表内容に関連して報告すべき利益相反はな い. 1) 総務省統計局.2016. 労働力調査ミニトピックス No.17.http://www.stat.go.jp/data/roudou/tsushin/pdf/no17. pdf 2016.10.5 2) 公益社団法人日本看護協会専門職支援 中央ナースセンター事業部. 平成 24 年度都道府県ナースセンターによる看護職の再就業実態調査報告書 2013: 18-19 3) 本間千代子, 中川禮子. 看護職における家庭と仕事の両立葛藤看護職と働く一般女性との比較. 日本赤十字武蔵野短期大学紀要 2002; 15: 31-37 4) 久保真人. バーンアウト ( 燃え尽き症候群 ) ヒューマンサービス職のストレス. 日本労働研究雑誌 2007: 54-64 5)Freudenberger HJ. Staff burn-out. J. Soc. Issues 1974; 30: 159-165 6)Maslach C, Jackson S. The measurement of experienced burnout. J. Occup. Behav. 1981; 2: 99-113 7)Kitaoka K, Masuda S. Academic report on burnout among Japanese nurses. Jpn. J. Nurs. Sci. 2013; 10: 273-279 8) 塚本尚子, 野村明美. 組織風土が看護職のストレッサー, バーンアウト, 離職意図に与える影響の分析. 日本看護研究学会雑誌 2007; 30: 55-64 9) 北岡 ( 東口 ) 和代. 精神科勤務の看護職のバーンアウトと医療事故の因果関係についての検討. 日本看護科学学会誌 2005; 25: 31-40 10)Leiter MP, Maslach C. The impact of interpersonal environment on burnout and organizational commitment. J. Organ. Behav. 1988; 9: 297-308 11)Leiter MP. Burnout as a developmental process: Consideration of models. In: Schaufeli WB, Maslach C, Marek T. (eds.). Professional burnout. Washington, DC: Taylor & Francis, 1993: 237-250 12)Kitaoka-Higashiguchi K. Burnout as a developmental process among Japanese nurses: Investigation of Leiterʼs model. Jpn. J. Nurs. Sci. 2005; 2: 9-16 13)Schaufeli WB, Enzmann D. The burnout companion to study and research: A critical analysis. London : Taylor & Francis, 1998: 19-99 14)Takayama Y, Suzuki E, Kobiyama A, et al. Factors related to the burnout of Japanese female nurses with children under 3 years old. Jpn. J. Nurs. Sci. 2016; 14: 240-254 15) 高橋裕子, 冨澤登志子, 北島麻衣子ら. 子育て中の看護師における職業性ストレスとレジリエンスとの関係. 第 36 回日本看護科学学会学術集会講演集 2016: 538 16)Maruyama A, Suzuki E, Takayama Y. Factors affecting burnout in female nurses who have preschool-age children. Jpn. J. Nurs. Sci. 2016; 13: 123-134 17) 村岡亜紀, 鈴木英子. 未就学児を育児中の看護師のバーンアウトの関連要因と短時間正職員制度活用者, 非活用者の特徴. 第 35 回日本看護科学学会学術集会講演集 2015: 671 18) 髙山裕子, 鈴木英子. 病院勤務看護職における子育て中のバーンアウトの関連要因. 国際医療福祉大学学会誌 2015; 20: 132 19) 丸山昭子. 未就学児の母親である看護師のバーンアウト関連要因. 日本看護科学学会誌 2012; 32: 44-53 20) 田中郁代, 内野かおり, 井上和代ら. 九州管内の副看護師長のストレスと対処行動の現状 子育て中か否か, 未婚 既婚と比較して. 第 42 回日本看護学会論文集看護管理 2012: 391-393 21) 尾崎千尋, 荒友里絵, 今野麻美ら. 女性看護師の育児とキャリアアップの両立をささえている思いと両立する上での困難と対処. 日本看護学会論文集 : 看護管理 2011; 41: 21-24 22) 弓削なぎさ, 小野久美子, 冨岡明子ら. 継続して就労する子育て中の看護師のメンタルヘルス職務満足度, 精神健康度,SOC の検討. 産業医科大学雑誌 2011; 33(1): 98 23) 豊増功次, 河原田康貴, 松本悠貴. 大学病院勤務看護師の子育て状況と仕事ストレスについて. 久留米大学健康 スポーツ科学センター研究紀要 2009; 17: 61-65 24)Firmin MW, Bailey M. When caretaking competes with care giving: a qualitative study of full-time working mothers who are nurse managers. J. Nurs. Manag. 2008; 16: 858-867 25)Redwood T. Exploring changes in practice: when midwives and nurses become mothers. Br. J. Midwifery 2008; 16(1): 34-38 26) 橋詰実千代, 谷口明子. 看護師として働く母親の育児不安夫婦間コミュニケーションに着目して. 長野県看護研究学会論文集 2008; 28: 34-36 27) 大森ゆみ子, 増田美登里, 河野由理. 看護師が仕事と家庭生活や育児を両立するための工夫と利用した支援. 日本看護学会論文集 : 看護管理 2009; 39: 123-125 28) 難波峰子, 冨田早苗, 二宮一枝ら. 子育て中の看護師の育児困難感に関する要因. 岡山県立大学保健福祉学部紀要 2009; 15: 45-53 29) 水町育代, 井手百合子, 遠藤みゆきら. 未就学児を持つ看護師の仕事と家庭の両立葛藤ワーク ファミリー コンフリクト尺度を用いた実態調査. 長崎県看護学会誌 2008; 5: 65-67 30) 眞壁久二子, 小川久貴子. 病棟看護師として働く母親の就労を支える思い. 日本ウーマンズヘルス学会 2007; 6: 75-86 60

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