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32 臨床研究 高松赤十字病院紀要 Vol. 4:32-37,2016 汎用型ワークステーション ( 肝臓解析 ) を応用した TACE 塞栓領域予測と腫瘍栄養血管の自動抽出に関する検討 高松赤十字病院放射線科部 消化器内科 須和大輔, 坂東誠, 安部一成, 小川力, 出田雅子 要旨 肝細胞癌 (hepatocellular carcinoma: 以下 HCC) の治療の1つである肝動脈化学塞栓療法 (transcatheter arterial chemoembolization: 以下 TACE) を行う際, 血管撮影装置と CT 装置の複合システムであるインターベンショナルアンギオ CT システム ( 以下 IVR-CT) や血管撮影装置で断層像を得るコーンビーム CT( 以下 CB-CT) は効率的かつ精度の高い治療を実現する上で非常に有効なツールといえるが, 当院では導入されていない. 今回, 富士フイルムメディカル社製の3D ワークステーション ( 以下 3DWS)Synapse VINCENT( 以下 VINCENT) のアプリケーションの一つ 肝臓解析 を用いて,IVR-CT や CB-CT を有しない当院においても, 選択すべき栄養血管とその治療範囲を予測し, 最先端の機器を用いた治療に近づけることができないか, 過去の症例を用いての領域予測と実際の治療範囲との比較, 要した解析時間等について評価し, 実際の治療への有用性を検討した. 結果は, 短時間で実際の治療範囲と近い領域の予測が可能であり, 本法は術前の指標として有用であると考える. 具体的な1 症例も合わせて提示する. キーワード VINCENT, 肝臓解析, 塞栓領域予測,TACE, 肝細胞癌 1. はじめに現在, 肝細胞癌 (hepatocellular carcinoma: 以下 HCC) の治療において肝動脈化学塞栓療法 (transcatheter arterial chemoembolization: 以下 TACE) は有用な治療方法の1つとされている. いわゆる多血性肝細胞癌は動脈血で支配されているため, その栄養血管内に経カテーテル的に塞栓物質を注入し, 栄養動脈の塞栓をすることで腫瘍を壊死させるものである.1990 年代初期までは, 抗癌剤を動注後, 塞栓物質を注入する方法や塞栓物質と抗癌剤の混合液を注入する方法が行われていた. その後,Lipiodol( リピオドール R ) が腫瘍内に停滞することを利用し, 抗癌剤との混合液の注入後に塞栓物質を注入する Lip-TACE が施行されるようになってきた. 近年では,CT の多列化や3D ワークステーション ( 以下 3DWS) の進歩により, 様々な画像を参考にしながら治療を進めることができる. 当院の3DWS, 富士フイルムメディカル社製 Synapse VINCENT( 以下 VINCENT) には外科的肝臓手術支援用アプリケーションとして 肝臓解析 を搭載しており, 肝臓ダイナミック CT のデータより, 動脈 静脈 門脈, また肝臓実質 腫瘍を描出し, 切除範囲のシミュレーションを行うことが可能となっている. さらに血管ごとの領域分割や支配領域の抽出 体積計測が容易に行えることが特徴である. 当院では TACE を行う際,CT during arterial portography( 以下 CTAP) および CT during hepatic arteriography( 以下 CTHA) 撮影を行っているが, インターベンショナルアンギオ CT システム ( 以下 IVR-CT) やコーンビーム CT( 以下 CB-CT) を所有しておらず, カテーテル室と CT 室の往復移動を行っている. 各社より発売さ

臨床研究 33 れている最先端機器を含め IVR-CT や CB-CT を使用できる環境に対して, 頻回な CTHA 撮影での正確な栄養血管の同定が困難である. この点を補うため, 今回 VINCENT 肝臓解析 を用いることにより, 術者が血管をどこまで選択して, どこから治療を開始すれば, どの程度の領域が塞栓されるか予測することが可能ではないかと考え, TACE の際の塞栓領域のシミュレーションが行えるか検討を試みたので報告する. 2. 対象平成 27 年 1 月から平成 28 年 4 月に Lip-TACE を施行した 27 症例 男性 24 症例, 女性 3 症例 年齢 57-87 歳 ( 平均 71.3 歳 ) 3. 使用機器 血管撮影装置 Infinix Celeve-I INFX-8000F ( 東芝メディカルシステムズ社製 ) CT 装置 Aquilion64 ( 東芝メディカルシステムズ社製 ) Discovery750HD (GE ヘルスケアジャパン社製 ) ワークステーション SYNAPSE VINCENT ver4.4 ( 富士フイルムメディカル社製 ) 4-1.VINCENT 肝臓解析 でのシミュレーション方法 4-1- 1. 肝臓実質 腫瘍抽出 (Fig.(Fig. 門脈相, 平衡相データを用いて肝臓実質, 腫瘍を抽出する. アプリケーションの自動認識機能によってある程度は自動で抽出が可能であるが, 腎臓や腸管等を抽出してしまう場合や肝臓の濃染の悪い部分は抽出されない場合があるので, それらはマニュアルにて修正する. 4-1- 2. 肝動脈抽出 (Fig.3) 動脈相データを用いて肝動脈を抽出する. ポイントとして 肝臓解析 は門脈ツールもしくは静脈ツールのみが後述の領域分割や支配領域の抽出 体積計測が可能となるので, 便宜上門脈ツールまたは静脈ツール (Fig.4) 上で肝動脈の抽出を行う. 肝動脈が正確に抽出されていなければ支配領域予測の際の誤差が大きくなるため, ここでの作業が肝心となり末梢まで細かく描出することが必要である. 4. 方法 上記の対象症例にて 肝臓解析 を用いた塞栓領域予測のシミュレーションを retrospective に行った.CTHA データを用いて血管抽出と腫瘍抽出を行い, 実際に治療を開始した血管位置より支配される予測体積を算出した. また,TACE 後の単純 CT でリピオドールの集積体積を算出し, 肝臓解析 での予測体積との比較を行った. また当院では,CTHA 撮影後に血管 3D 画像を構築し治療の際の参照画像としているため, ある程度短時間で画像を作成することも求められている. 従って, 肝臓解析 でのシミュレーション作業に要する時間も測定し, 臨床での運用が可能か検討を行った. Fig.1 肝臓実質抽出 Fig.2 腫瘍抽出

34 Fig.5 経路の再構成 Fig.3 肝動脈抽出 Fig.4 門脈 静脈ツール Fig.6 完成画像 4-1- 3. 経路の再構成 (Fig.5) 上記 4-1- 2で描出した肝動脈をアプリケーション上で認識させるため, 血管の始点や連続性の修正を行う. マスク像より計算するため, 血管の径や造影剤の濃度によっては経路が誤って認識されている場合があり, この場合は正確にシミュレーションがなされないので注意が必要である. ここまでの過程を経て, 肝臓実質 腫瘍 肝動脈をすべて重ね合せ, シミュレーションに用いる 3D 画像の完成となる (Fig.6). 4-1- 4. 腫瘍の栄養血管自動抽出 (Fig.7) 肝臓解析 にて再構築された3D 画像を用いて腫瘍までの到達血管を自動抽出する機能がある. これにより腫瘍を栄養している血管の経路が自動解析できる. また任意の角度で表示できるので,C アームをどの角度にすれば目的の血管をより見やすくできるかをも示すことができる. なお実際はカラー表示のため, 術者にはより鮮明に表示できる. Fig.7 栄養血管自動抽出 4-1- 5. 塞栓領域予測 (Fig.8) 実際に治療を開始した時のカテーテルの位置を指定し, その血管が支配している領域をシミュレーションする. アプリケーションが自動で計算し, 支配している領域の体積と肝臓全体に対する割合を同時に表示される.

臨床研究 35 Fig.8 塞栓領域予測 4-2. 単純 CT でのリピオドール集積体積の測 定方法 肝臓の CT 値を 45~75Hounsfield Unit( 以下 HU) と仮定し,VINCENT のアプリケーショ ン上で閾値を 100HU 以上として集積したリピオドールのマスク体積を測定した. Fig.9 シミュレーション予測体積とリピオドール集積体積の比較 4-3. シミュレーション作業に要する時間測定 3DWS 上で 肝臓解析 を開始してから, 経路の再構成 ( 上記 4-1- 3) が完了するまでの所要時間を計測した. 臓器抽出や血管抽出の過程においては, アプリケーションの自動認識機能のみを頼ることはせず, 目視にての確認も行いながらの作業とした ( 作業は経験年数 8 年目の診療放射線技師 1 名が行った ). Fig.10 全肝体積に対する予測体積と集積体積の誤差 5. 結果 肝臓解析 でのシミュレーションにて得られた予測体積と単純 CT より得られたリピオドールの集積体積を比較したものを Fig.9, 肝臓全体の体積に対する予測体積と集積体積の誤差を Fig.10 に示す.Fig.9に示すように予測体積と集積体積には相関係数 R 2 = 0.8388 と強い相関性を認めた (P < 0.0. また Fig.10 に示すように全肝体積に対する両者の誤差はほぼ 10% 以内におさまった. また, シミュレーション所要時間の測定結果を Fig.11 に示す. シミュレーションに要する時間が 15 分以内の症例が 80% を占めた. 6. 考察過去の Lip-TACE 症例を用いてシミュレーションした結果, 予測体積と集積体積には強い相関性を認めたが, 両者の測定値がややずれた症例も確認した. それらの要因として,CTHA 時のハレーションまたは末梢血管の造影不良により血管描出が不正確であったこと, 実際の薬剤注入時は Fig.11 シミュレーション所要時間症例によってはバックフローも考慮した血管選択となるが VINCENT ではバックフローを考慮できないこと, リピオドールの集積体積の測定誤差などが考えられる. 今後はさらに正確な血管描出のために, 造影剤希釈率や注入条件の改良, 低管電圧法を用いるなどの CT 撮影条件の改良が必要であると考える. 一方, 全肝体積に対する両者の

36 誤差はほぼ 10% 以内におさまった. 薬剤の集積の予測に限らず, 治療後の残存肝の予測や正常肝を含めた肝臓への影響をイメージしやすいと考える. また, シミュレーションに要する時間は 15 分以内の症例が 80% を占めた. 当院での実際の検査の流れにおいて十分な速さとは言えないが, アンギオ施行医と相談しながら可能な限り行い, 治療に役立てていけるのではないかと考える. 今後は事前に4 相 Dynamic-CT などでシミュレーションを行い, 効率よく治療に役立てるように検討したいところである. 従来であればカテーテルを進めるたびに Digital Subtraction Angiography( 以下 DSA) 撮影をし, 腫瘍を栄養する血管でなければ選択し直し, 再度撮影を繰り返していた. 今回の試みは,1 回分の CTHA 撮影データがあれば複数個所からの治療のシミュレーションが可能なため検査時間, 造影剤量, 被ばく線量の低減が可能となり患者負担の軽減が期待できる. 治療前にこのようなシミュレーションが可能となればそのメリットは非常に大きいものであると考える. しかし, 操作者の技術 経験がシミュレーション精度や作業時間に影響するため, 操作トレーニングの実施や医師と連携を取りながらの業務が必須となる. 以下に, 当院で経験した具体的な1 症例を提示する. 対象 71 歳, 男性 臨床診断 S7 区域の肝細胞癌 既往歴 冠動脈バイパス術糖尿病肺炎脳梗塞 病歴経過 20XX 年 Y 月に検診で肝臓に5cm 程度の low density area を指摘され, 当院消化器内科を受診. 精査目的で Dynamic CT(Fig.1 および EOB-MRI(Fig.13) を検査され,S7に5cm 大の腫瘍を認めた.HCC と診断され外科的手術までの日数があったため治療による肝予備能の低下に注意しながら Lip-TACE を施行した. シミュレーション CTHA データを用い, 肝臓解析 でのシミュレーションを行った. 右肝動脈中枢より造影した DSA 画像と同ポイントでの塞栓領域予測を Fig.14 および Fig.15 に示す ( ポイント1とする ). 結果, 全肝体積の 26.9% を占める 236ml が塞栓 Fig.12 Dynamic CT( 後期動脈相 ) Fig.13 EOB-MRI( 肝細胞相 ) Fig.14 DSA 1 Fig.15 塞栓領域予測 1 236ml(26.9%)

臨床研究 37 Fig.16 DSA 2 されると予測された. さらにカテーテルを進めて超選択的に選んだ場合を同様に Fig.16 および Fig.17 に示す ( ポイント2とする ). 結果, 全肝体積の 14.4% を占める 121ml が塞栓されると予測され, 腫瘍を十分に含んでおりポイント2からの TACE を施行した. 後日の単純 CT(Fig.18) においてリピオドールの集積している体積を測定した結果, 約 105ml の領域に集積しており TACE 前のシミュレーションで得られた予測値 121ml(Fig.19) ときわめて近い値であることが確認された. 7. 結語 Fig.17 塞栓領域予測 2 121ml(14.4%) 我々は,3DWS である Synapse VINCENT を活用することで,IVR-CT や CB-CT を有しない当院においても, それらの機器を用いた治療と遜色ない手技が行えないか検討した. 過去の CTAP,CTHA データを用いて実際の治療を行った血管造影データと比較検討を行った結果, 撮影条件や造影剤濃度に関して若干の課題は残るものの, 十分に有用性のある方法であることが確認できた. また, 所要時間についても概ね許容範囲で対応できると判断された. VINCENT の 肝臓解析 を応用した TACE の塞栓領域予測は有用であると考える. Fig.18 術後単純 CT(105ml) 文献 一般社団法人日本肝臓学会, 肝癌診療ガイドライン,http://www.jsh.or.jp/medical/guidelines/ jsh_guidlines/examination_ jp [accessed 2016 年 10 月 23 日 ] 高島力, 佐々木康人, 他 :X 線検査総論. 標準放射線医学第 6 版 :13, 医学書院, 東京都,2003. Fig.19 塞栓領域予測 2(121ml)