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エンジンと Z ペラ推進器が船舶の騒音に及ぼす影響エンジンと Z ペラ推進器が船舶の騒音に及ぼす影響 * 及びその低減手法の評価に関する研究 * 及びその低減手法の評価に関する研究 ** ** 田代大和井桁正 ** 樹田代大和井桁正樹鹿窪 *** 勇太三浦信之鹿窪勇太三浦信之 Evaluation and Reduction Approach of Ship Noise from Engine and Z-peller シンポジウム *** ** By Yamato Tashiro, Masaju Igeta, Yuta Kakubo, Nobuyuki Miura Recently, the reduction of ship noise and underwater radiated noise has become animportant issue. Engines and Z-pellers (azimuth thrusters) are considered as major sources of noise, and a quantitative evaluation of each sound source is required. In this paper, the contributions of engine and Z-peller were evaluated by noise and vibration measurement results in a hybrid tug ship. In order to predict the structure-borne noise level from the engine, an excitation force measurement was performed for both rigid and rubber-mounted engines. Underwater radiated noise emitted from the Z-peller was evaluated from cavitation noise tests using a water tank. In these tests, two types of Zpeller configurations were proposed, and the noise reduction effect was confirmed. Theresults are presented in this paper. 1. はじめに 近年,IMO 船内騒音規制の策定や水中放射雑音のガイドライン化など, 船内騒音 水中音に関する静音化の要求は以前にも増して強くなっている. 船舶に搭載される様々な機器の中でもエンジンと推進器は主要な騒音源と考えられ, 静音化の実現には効果的な低騒音化対策が必要であり, そのためにはこれらの騒音源の定量的な評価が必要である. 本論文では, エンジン ( 主機関ならびに発電機関 ) とダクトつきアジマススラスタ ( 以下 Z ペラ推進器 ) の騒音源としての大小関係について, ハイブリッドタグボートでの計測試験から考察した. 次に, エンジンの騒音源としての起振力の定量的な評価と,Z ペラ推進器キャビテーション音低減に取り組んだので, その結果を報告する. また, 船舶の騒音評価に着目した場合, エンジンと Z ペラを独立に運転できることから各機器の騒音への影響度合いの評価が可能と考えられる. そこで, 実船にて振動騒音計測を実施し, 船内騒音を評価した. 表 1 に 翼 の主要目を, 図 1 に船内配置および振動騒音計測位置を示す. 船尾推進器室の Z ペラ推進器は主機直結または推進モータで駆動される. 推進モータの動力源は発電機関またはバッテリーであり, 主機関, 発電機関, バッテリーの出力は任意に調整可能である. 本試験では, 表 2 に示す条件で航行したときのエンジン,Z ペラ推進器, 船内各部の振動騒音データを計測し, 航行状態による船内騒音の違いと, 船内各部の振動計測データから, 騒音源としてのエンジン,Z ペラ推進器について評価した. 2. ハイブリッドタグボート計測試験 2.1 試験内容 ウィングマリタイムサービス殿のタグボート 翼 は, 当社 6L28HX 主機関,6NSD 発電機関,ZP-31 型 Z ペラ推進器と推進モータ, バッテリーを組み合わせて航行可能なハイブリッドタグボートであり, 省エネルギー性や静粛性が確認されている 1). * 原稿受付平成 26 年 12 月 15 日. ** 正会員新潟原動機株式会社 ( 太田市西新町 -1). *** 新潟原動機株式会社 ( 太田市西新町 -1). 表 1 ハイブリッドタグボート 翼 主要目 項目 要目 全長 37.20 m 船幅 9. m 主機関 ニイガタ 6L28HX 1324kW 2 発電機関 ニイガタ防振据付 0kW 2 推進モータ 発電機兼用 294kW 2 推進器 ニイカ タ ZP-31 型 Z ヘ ラ推進器 1618kW 2 Journal of the JIME Vol.00, No.00(5) -1- 日本マリンエンジニアリング学会誌第 00 巻第 00 号 (5) Journal of the JIME Vol., No. 2(2015) 29

165 航行モード 試験 No. モータ出力 [kw] 表 2 計測条件 主機関出力 [kw] フ ロヘ ラ軸出力 [kw] Zペラ推進器入力回転速度 [min -1 ] 発電機関作動台数 バッテリー A 停止 410 1 台 + B 2 停止 2 4 1 台 推進モータ C 2 停止 2 4 2 台 主機関 D 停止 410 1 台 E 停止 2 2 4 1 台 停泊 F 停止 停止 0-1 台 7Z ペラ台床 振動は1~8 各部で計測騒音は8 居室で計測 8 居室 と,~2Hz の範囲でバッテリー航行時の方が約 5dB 大きく,O.A. では 1dB 程度の差となる. 停泊時とバッテリー航行時は Z ペラ推進器の作動有無が主な違いであることから, この騒音の差は Z ペラ推進器の機械騒音や航行に伴う船体振動の影響と考えられる. 2.2.2 発電機関 ( 防振据付 ) の作動台数の違い Z ペラ推進器の出力が同じで, 発電機関が 1 台のみ作動している場合と,2 台作動している場合を比較すると,00Hz までの範囲で 1~2dB 程度しか変わらないことから, 適切に防振据付されたエンジンは騒音への影響が小さいことが確認された. ただし,Hz のみ, 発電機関が2 台作動している方が約 8dB 大きい. これは, 後述する振動計測結果と併せて検討した結果, 排気管系統の影響と考えられる. 騒音レベル [db(a)] 発電機関 4 防振台上 5 防振台下 6 排気サホ ート 主機関 1 据付部 2 据付部付近の船底 3 図排気サホ ート 1 船内一般配置図および計測位置 図 1 船内一般配置図および計測位置 2.2 航行状態による船内騒音評価図 2 に各計測条件での居室の騒音計測結果を示す. 55 45 35 30 25 20 1 2 0 0 0 0 0 12 10 0 20 31 00 図 2 居室騒音計測結果 2.2.1 動力源 ( 主機関とバッテリー ) の違い居室の騒音レベル (O.A.) は動力源がバッテリーの場合, 主機関と比べて約 10dB 小さいことが確認された. その周波数特性を比較すると,00Hz までの広い範囲でバッテリー航行時の方が 10~20dB 騒音レベルが小さく, 特に 2~0Hz において違いがみられる. 一方, バッテリー航行と停泊時暗騒音を比べる A B C D E F 47dB(A) 48dB(A) 49dB(A) db(a) 62dB(A) 46dB(A) 2.2.3 Z ペラ推進器の出力の違い動力源がバッテリーの場合において,Z ペラ推進器出力 kw と 2kW の船内騒音を比較すると, 高出力の方が ~Hz の範囲で 2~3dB 程度大きいが,O.A. 値は 1~2dB 程度しか変わらない. 一方で, 動力源が主機関の場合は同じ出力差であっても, 騒音の差が O.A. 値で 2~3dB と大きくなっている. 周波数特性を確認すると, 動力源が主機関の場合は出力上昇に伴い,2~20Hz の聴感特性の大きい周波数で騒音が増大していることがわかる. よって, 本船においては船内騒音に対しては推進器よりも主機関の影響が大きいと考えられる. 2.3 船内各部の振動計測データによる騒音評価船内騒音は, 船舶の各機器の振動が船体を伝播して居室に到達し, 壁から音として放射された結果である. そこで, 各機器の騒音源としての特徴を評価するため, 船内各部の振動速度計測を実施した. 振動速度計測結果を図 3 に示す. 2.3.1 エンジンの影響試験 Eの各部の振動速度と居室振動速度を比較した結果, 主機関の振動は船体を伝播して居室壁の振動の主要因となっていることがわかった. 特に, 試験 E の ~0Hz に注目すると, 機関本体および船底の振動速度が大きく, これが居室壁の振動速度に影響していると考えられる. また, 低周波 (Hz 以下 ) については, 主機関排気サポートの振動速度が大きく, 居室振動への影響が大きいと考えられる. 2.3.2 発電機関の作動台数の違い前項で, 発電機関の作動台数が 2 台になると, 居室 Journal of the JIME Vol.00, No.00(5) -2- 日本マリンエンジニアリング学会誌第 00 巻第 00 号 (5) Journal of the JIME Vol., No. 2(2015) 30

166 騒音の Hz 前後のみが約 8dB 程度大きくなることが確認された. また, 振動データからも, 発電機関排気サポート部および居室壁振動が Hz で増加していることが確認された. この発電機関排気サポートの振動が居室騒音の増加の原因と考えられ, その他の周波数においては暗騒音と同レベルであることから, 適切に防振据付された機関による居室騒音への影響は小さいと考えられる. 振動速度レベル [0dB=10 9m/s] 振動速度レベル (0dB=10 9m/s) 1 据付部 2 据付部付近の船底 3 排気サポート 4 防振台上 5 防振台下 6 排気サポート 7Z ペラ台床 8 居室 1 2 0 0 0 0 0 12 10 0 20 31 00 00 00 00 00 試験 B( バッテリー航行, 発電機関 1 台作動 ) 3. 低騒音化の取組 3.1 エンジン起振力の低減ハイブリッドタグボートの振動計測値から騒音源の特性を評価可能であることが確認された. しかし, 船体の振動自体は機器が持つ船体を振動させようとする力 ( 起振力 ) の大きさと, 船体側の剛性が複雑に関係した結果であるため, 低騒音対策として振動値から騒音源の大きさを単純に評価することはできない. そこで, 起振力の観点から機関の防振効果を確認した. 3.1.1 エンジン起振力の定量化 2) エンジンの起振力の計測方法は, 日本建築学会環境工学委員会音環境小委員会 がまとめた 第 42 回音シンポジウム設備機器の加振力計測法 から引用した弾性支持法と置換法を用いて行った. 弾性支持法は, 図 4 に示すようにエンジンを防振据付した状態で運転中の振動加速度 Ai とエンジン全体の質量 M との積で起振力を求める. 置換法は, 図 5 に示すようにエンジンを据付けた状態でハンマリング試験によりエンジン据付部を加振し, 周波数ごとにハンマーの加振力 Fi とエンジン据付部の振動応答速度 Vi1の比 Fi/Vi1を求める. 次にエンジン運転状態で据え付け部の振動応答速度 Vi2 を計測し, 先に求めた比 Fi/Vi1とエンジン運転中の振動応答速度 Vi2 から, エンジン運転中に作用している起振力を推定する. 本稿では, 弾性支持法と置換法のそれぞれの特徴を考慮し補正して, 機関の起振力を推定した. 対象機器 加速度センサー 1 2 0 0 0 0 0 12 10 0 20 31 00 00 00 00 00 振動加速度 :A i 振動速度レベル (0dB=10 9m/s) 試験 C( バッテリー航行, 発電機関 2 台作動 ) 機器停止時対象機器 機器質量 :M 図 4 弾性支持法による起振力の算出方法 加速度センサー 振動応答速度 :V i1 機器運転時対象機器ハンマーによる加振力 :F i 図 5 置換法による起振力の算出方法 振動応答速度 :V i2 1 2 0 0 0 0 0 12 10 0 20 31 00 00 00 00 00 試験 E( 主機関航行, 発電機関 1 台作動 ) 図 3 船内各部の振動速度計測結果 3.1.2 エンジン防振効果の評価本項では, 翼 と同型のエンジンについて, 防振支持の有無による起振力の違いの実測結果を示す. 2kW(410min -1 ) 時の直据付エンジンにおける起振力レベルと周波数の関係を図 6 に示す. 起振力レベル Journal of the JIME Vo00, No. 00(5) -3- 日本マリンエンジニアリング学会誌第 00 巻第 00 号 (5) Journal of the JIME Vol., No. 2(2015) 31

167 は,30~dB で変化し, エンジン回転の 3 倍,6 倍, 9 倍の周波数成分を含む周波数帯で起振力レベルが比較的大きくなる傾向が見られた.. 直据付と防振据付エンジンの各出力における起振力レベルの O.A. 値 (8~0Hz) を図 7 に示す. 直据付エンジンと防振据付エンジンの起振力レベルを比較したところ, 防振据付エンジンの方が 5~15dB 程度小さい値となった. 起振力レベル [db](0db=1n) 30 20 10 8 10 12.5 16 20 25 31.5 1 2 0 0 2kW(410min -1 ) 図 6 2kW 時の直据付エンジンの起振力レベルと周波数 起振力レベル [db](0db=1n) 直据付 6MG28HX 防振据付 6L28HX 0 0 0 10 出力 [kw] 図 7 直据付エンジンと防振据付エンジンの出力と起振力レ ベル O.A. 値 (8~0Hz) の違い 3. 2 Z ペラ推進器キャビテーション音低減ハイブリッドタグボートの計測結果より, 船内騒音に対してはエンジンの影響が大きく,Z ペラ推進器の影響は防振エンジンと比べて比較的小さいことが確認された. 水中音については第一にキャビテーション音が問題とされていることから,Z ペラ推進器のキャビテーション音について模型水槽試験を用いて評価し, 低騒音化を検討した. 3. 2.1 適切なプロペラ要目の選定 a) 試験方法キャビテーション音はキャビテーションのボリュームに比例することが知られており, 荷重度が小さいほ どキャビテーションは発生しにくくなる. しかし, 荷重度を小さくするために展開面積比 Ae( 以下 Ae) を広くすると, プロペラ表面積が増え粘性抵抗が増加し, プロペラ効率が低下する. 本試験では,Ae だけを変えた 3 種類のプロペラ要目でキャビテーション観察と水中音レベルの評価を行った. 表 3 に試験に使用したプロペラ要目, 図 8 に試験装置を示す. 表 3 プロペラ要目 想定するプロペラ径 [m] 模型プロペラ径 [mm] 展開面積比 (Ae) 0.5 2.2 2 0.65 0.8 翼数 4 サポート 図 8 試験装置 : キャビテーション水槽 b) 試験条件計測洞内に設置されたプロペラ動力計の先端に模型プロペラを配置し, プロペラ回転数, 水槽内流速及び水槽内圧力を調整することにより, プロペラスラスト係数 ( 以下,KT) とキャビテーション数 ( 以下,σN) を実機と模型で一致させて試験を行った. 各試験状態の KT と σn を表 4 に示す. なお水槽内に流速を発生させないボラード状態については, キャビテーション水槽内が閉水路であるため循環流の影響が大きく, 完全なボラード状態での計測が困難である. そのため水槽内で実現可能な最大の KT の状態を, ボラード相当状態として試験を実施した. 表 4 試験条件 試験状態 ボラード状態 9knt 状態 13knt 状態 K T 0.31 0.19 0.21 σ N0.7R 2.202 7.155 2.8 Journal of the JIME Vol.00, No.00(5) -4- 日本マリンエンジニアリング学会誌第 00 巻第 00 号 (5) Journal of the JIME Vol., No. 2(2015) 32

168 c) 試験結果キャビテーション観察結果を図 9 に示す. いずれの 条件でもキャビテーションが発生した場合, サポートの直後で不安定な崩壊を起こしていた. これは, 流れがサポートを通過すると, 周囲よりも低速で乱れるためと考えられる. また Ae の大きいプロペラほどキャビテーションが間欠的になりボリュームが減った一方で,KT が大きい状態ほど Propeller Hull Vortex Cavitation( 以下,PHVC) の発生頻度が増えた.PHVC は特に不安定な流場に発生するキャビテーションであり, 崩壊時の水中音が大きいことが知られている. 1 3 図 9 1: ギヤケース後方サポート部分でキャビテーション崩壊 (Ae=0.8) 2 :Ae=0.8 で発生した PHVC 3 :Ae=0.5 シート状のキャビテーション 2 PHVC 水中音レベル計測結果を図 10 に示す. ボラード状態の水中音レベル (10kHz 以上 ) は, Ae=0.5 のプロペラが, 他のプロペラと比べて 5dB ほど小さい結果となった.Ae=0.8 とすることでキャビ テーションボリュームが減った一方で,PHVC の発生頻度が多くなった為と考えられる. 13knt 状態の水中音レベル (10kHz 以上 ) は,Ae=0.8 のプロペラが,Ae=0.65 と比べて 10dB ほど小さいと いう結果が得られた. これはキャビテーションの発生が間欠的であったことに加え, ボラード状態に比べ PHVC の発生頻度が下がった結果と考えられる. なお, 9knt 状態ではいずれの Ae でもキャビテーションの発生がなかったことから, キャビテーションによる水中音は計測されなかった. 表 5 に本試験における Ae とキャビテーションの関係をまとめる. 表 5 展開面積比 (Ae) とキャビテーションの関係 キャビテーション PHVC Ae 小 定期的に発生する ボリュームが大きく振動騒音が大きい 発生しない Ae 大 発生しない または発生間欠的に発生する 発しても小規模で間欠的生した場合 大きな振である 振動騒音は小さ動騒音を生む い ギヤケースとダクトを締結しているサポート周発生りの流れの遅い領域をプロペラが通過する際に位置キャビテーションが不安定な崩壊をする 以上より,Ae の増加はキャビテーションの抑制に一定の効果があることを確認した. また, サポート後方の流れがキャビテーションの崩壊に影響していることがわかった. サポートの形状を変更し, サポート後方の流れを改善し, キャビテーションの不安定な崩壊を抑制すれば騒音低減に繋げられると考える. 水中音レベル [db] ボラード状態 1 155 1 145 1 135 130 Ae=0.5 Ae=0.65 115 Ae=0.8 0 00 000 水中音レベル [db] 1 155 1 145 1 135 130 115 13knt 状態 Ae=0.5 Ae=0.65 Ae=0.8 0 00 000 図 10 キャビテーション観察及び水中音レベル計測結果左側 Ae=0.5 ボラード状態, 右側 Ae=0.8 13knt 状態 3. 2.2 ギヤケース周りの流れの改善効果 a) 試験条件キャビテーション音を低減させるために, 図 11 に示す流入改善効果を狙ったギヤケースで試験を実施した. 二つのギヤケースは, サポートの凹凸をなくし, 滑らかにギヤケースと繋げていることは同じだが, フェアリング A は, ギヤケースに垂直につなげた形状に対し, フェアリング B は, プロペラを側面から見たときに投影されるプロペラの輪郭と一定の間隔を維持する後縁形状とした. プロペラ Ae=0.65 にて, 表 4 の試験条件で試験した. Journal of the JIME Vo00, No. 00(5) -5- 日本マリンエンジニアリング学会誌第 00 巻第 00 号 (5) Journal of the JIME Vol., No. 2(2015) 33

169 プロペラの輪郭 図 11 左 : フェアリング A 右 : フェアリング B b) 試験結果ボラード状態ではフェアリングの効果は見られず 9knt 状態においてはキャビテーションが発生しなかった. 図 12 に 13knt 状態のキャビテーション観察結果を示す. フェアリング B の方は, キャビテーションのボリューム及び不安定な崩壊の度合いが小さいことが確認された. 顕著である. Z ペラの船内騒音への影響は, 本船においては特定の周波数範囲 (~300Hz) において騒音値にして約 5dB 以下 (O.A. で最大 2dB 程度 ) であり, エンジンと比べると騒音への影響は小さいといえる. 適切に防振据付されたエンジンは船内騒音への影響は小さく, 推進器 (Z ペラ推進器 ) よりも船内騒音への影響が小さい. ただし, 排気系統からの低周波 (~ Hz) 振動に対して, 機関防振と別に対策する必要がある. 上記結論を踏まえ, 低騒音化対策の機関防振について起振力計測試験を実施し, 以下の結論を得た. 防振据付による固有振動数付近の低周波域では, 防振ゴムの選定やエンジンの回転速度などで起振力レベルの低減効果は変化する. 直据付エンジンと防振据付エンジンの起振力レベルを比較したところ, 防振据付エンジンの方が 10dB 程度低減した. 但し, 起振力の低減効果は防振ゴムの選定や運転条件により異なるため注意が必要である. 図 12 13knt 状態左 : フェアリング無, 中央 : フェアリング A, 右 : フェアリング B 図 13 に 13knt 状態の水中音レベルを示す.13knt 状態では, フェアリングを付けた場合, キャビテーション音の低減が確認された. 特にフェアリング B では不安定なキャビテーションの崩壊を抑制することができ, 水中音レベルは, フェアリング無と比べて 10dB 程度減少した. 水中音レベル [db] 144 フェアリング無し 142 フェアリング A 1 フェアリング B 138 136 134 132 130 128 126 124 0 00 000 図 13 13knt 状態フェアリング整流効果比較 4. まとめ ハイブリッドタグボートの振動騒音計測を実施し, エンジンと Z ペラの低騒音設計に重要な騒音源の定量 評価について以下の結論を得た. 直据付エンジンは船内の主要な騒音源であり, 騒音 の原因として機関本体の振動と排気系統からの振動が また, 模型水槽試験を実施し, ダクト付きアジマス スラスタのキャビテーション音について以下の結論を 得た. キャビテーション音低減の為に Ae を大きくすると, ボラード状態では, キャビテーションボリュームは小 さくできるが,PHVC の発生頻度が増え, キャビテー ション音が低減されない場合がある. 一方で, 一定以 上の船速では, キャビテーションボリュームを小さく することができるため,Ae の増加は航走状態で低騒音 を求められる船に有効な手段である. サポートにフェアリングを取り付けると, フェアリ ングの形状によってはキャビテーションの不安定な崩 壊の度合いを小さくし, キャビテーション音の低減が 図れる. プロペラの形状が変更できない場合等で, 有 効なキャビテーション音低減手法と考えられる. 謝辞本研究は株式会社ウィングマリタイムサービス様, 株式会社三井造船昭島研究所様の御協力により実施す ることができました. 厚く御礼申し上げます. 参考文献 1) IHI 技報 Vol.54 No.1 (2014) 環境配慮型曳船 ( ハ イブリッドタグボート ) システムの開発白石他 2) JIME Vol.44,No.2(9) 193-198 エンジン起 振力実測方法とその結果 三浦 Journal of the JIME Vol.00, No.00(5) -6- 日本マリンエンジニアリング学会誌第 00 巻第 00 号 (5) Journal of the JIME Vol., No. 2(2015) 34