基礎講座 突然の加速管交換 さあどうする? 近畿大学医学部附属病院松本賢治 1. 目的当院で経験した縦置き型加速管の交換事例について, 第 121 回放射線治療かたろう会にて報告した. 加速管の交換を行ったリニアックは,Varian 社製リニアック Clinac600C であった.2000 年に当院に新規導入されたリニアックで故障時の使用年数は 14 年であった. 口述の内容は以下の 3 項目に分けて発表を行った. リニアック加速管交換に伴い経験したこと 交換後のビームデータ合わせ込み ( 確認作業 ) 手順について 日々の QA 実施の有効性と QA データを解析する事の重要性について加速管の交換はどこの施設においても起こりえることである. 今後リニアックの加速管の交換作業が必要となった場合の知識として, 当院での経験が少しでも役に立てていただくことが, 今回の発表の主たる目的と考えている. 2. Clinac600C について Clinac600C は, 通常のベンディングマグネットを有する, いわゆる横置き型の加速管ではなく縦置き型の加速管を有するリニアックである (Fig. 1). 電子銃からターゲットまでが直線上に配置された構造となる. 縦置き型加速管の特徴として, 加速管とターゲットが一体型ユニットとして交換できるため比較的交換作業がスムーズに行える. また, 真空引きされた状態で納品されるため, 交換後にビームデータ等の確認作業への移行が短時間でできるなどの利点がある.X 線エネルギーは 4 MV-X,250 MU/min であり比較的安定した出力特性を持つ.BrainLab 社製の Classic Novalis は Clinac600C をベースとした装置で, 同様に縦置き型加速管を有する装置である. ベンディングマグネットを持たない一体型ユニットである故, ビーム中心軸や平坦度が変動する可能性は物理的に低いと考えられる. もし, それらの値が変動した場合には, 何らかのシステムの異常を疑う必要のある装置である. Fig. 1 Clinac600C の内部構造 Fig. 2 Varian 社製の部品交換後の QA 項目のチェック表
3. 加速管交換から復旧までの経緯 2014/4/21( 月 ) 16:00 頃に照射中に Yield interlock(il) が点灯し照射不能となる. この Yield interlock はターゲットの電子衝突時に流れる電流値をモニタリングしており,Yield サーボ機構で制御出来ない変化が発生した場合に,IL が作動する仕様となっている. 直ちにメーカーによる修理 調整を行い, 加速管の故障であることが判明する. 故障の原因は, 加速管の冷却水循環ホースからの水漏れであった. ターゲットが濡れていたため, モニタしている電流値の変動が生じ Yield IL が点灯したと考えられる. 米国本国に加速管の発注を行い, 治療患者に対して, リニアックの故障により 1 週間程度の治療延期が発生する旨を説明した. 4/22( 火 ) 加速管の到着までに, 過去の QA データおよび治療計画装置の入力データの測定ファイル等を準備 整理した. また, 加速管交換後に必要なメーカー推奨の QA 項目について確認を行った. バリアン社には, 部品の修理 交換を行った際の QA チェック項目の表 ( BEAM QUALLITY ASSURANCE GUIDELINE) が存在するので, スタッフ全員でそれらを参考にしつつ加速管交換後の諸々の確認作業をスムーズに行う為の準備を行った (Fig. 2). 4/23( 水 ) 10 時頃に加速管が到着し交換作業を行うが,6 MV 用の加速管であることが交換後に判明し返品,4 MV 用の新規発注を行う. この件によって, 一日治療の延長期間が延びる結果となった. 4/24( 木 ) 15 時頃に新しい加速管が到着し, 夜間帯に交換 調整作業を行う. 4/25( 金 ) 8 時から QA 作業を開始する.17 時に終了した.QA 作業項目を以下に示す. 1 光 X 線照射野一致試験 2 線量プロファイル (X, Y, Diagonal profile) の評価 3 深部量百分率の評価 4モニタ線量計の感度校正 5IMRT bench mark test の実施これらの1 5までの項目は, この順番に行うべき QA 項目である. 基本となる QA 項目の精度保障をせずに, 順序を入れ替えて作業効率を優先させる様な事は出来ないので注意が必要である. 4. 加速管交換後の QA 1 光 X 線照射野一致試験加速管を交換し, 正常にビームオンが可能になった後, はじめに光 X 線照射野の一致試験を行った. 当院では, 光 X 線の一致試験等の通常のフィルム等を利用して行われる QA 項目では,Imaging Plate(IP) を用いて実施している. 大角サイズの IP にあらかじめ 5 30 cm 2 の正方形照射野サイズのケガキ (IP 上に意図的に傷を付ける ) をカッターナイフで形成し, 光照射野とそのケガキの一致を目視で確認した後,1 2 Monitor unit(mu) の照射を行い光照射野と実照射野が一致しているかの評価を行う (Fig. 3). Fig. 3 IP を用いた光 X 線照射野の一致試験結果 ケガキをいれて作成した IP は QA 専用とし, 日常の実照射野サイズの評価に利用している. また,CR 画像は S 値 L 値の設定値により得られるコントラストが異なるため, 毎回の設定値を決めて運用しなければならない. 当院では S 値 :6,L 値 :1 を採用している. 2 線量プロファイル (X, Y, Diagonal profile) の評価光 X 線照射野の一致試験を行った後,3D 水ファントム (Blue phantom) を用いて Beam profile の評価を行った. 加速管交換後のビームプロファイルは, 治療計画装置の入力データと大きく異なる結果であった. 加速管の交換は初めてであったため, このプロファイルの形状の変化には非常に驚いた. メー
カー立ち会いのもとで,Mag i 値 ( マグネトロンの電流値 ) および Gun resister 値 ( 電子銃の電流値 ) の設定値を変更しビームプロファイルの合わせ込みを行った (Fig. 4). 加速管交換後の QA 時は必ず最後までメーカー立ち会いで行わなければならないと痛感した事例であった. これらの 2 つの設定値を変更することにより, プロファイルおよび出力が変動する. したがって, プロファイルのチェックよりも先に出力を調整することは二度手間になってしまう可能性があるため,QA 項目の優先順位をしっかり意識しなけ Fig. 4 Mag i および Gun resister 値 を変更後のビームプロファイル比較 Fig. 5 対角線プロファイルの比較および 40 40 cm 2 照射野とフラッ トニングフィルタの形状におけるプロファイルの不一致箇所 ればならない. 最終的に,X Y 軸のビームプロファイルは入力データに合わせこむことが出来たが, 対角線プロファイルだけは完全に一致させることは出来なかった (Fig. 5). 原因として考えられるのは, 新しく交換した加速管ユニットは交換前の revision 1.0 から 5.0 までのバージョンアップが確認されており, 加速管ユニットそのものの改良によるものではないかというのがメーカー側からの回答であった. 対角線プロファイル上の不一致箇所は, フラットニングフィルタ外の領域であるため, 臨床的に大きな影響は無いと考える. 3 深部量百分率の評価 X,Y,Diagonal profile を調整後に, 深部量百分率 (PDD) の測定を行った. PDD を測定し, 加速管交換後の線質の変化を調整前のデータと比較した. 線質の変化がある場合には, 調整を行うもしくは, 調整しきれない場合には RTPS の登録データの変更および線質変換係数 kq の変更を行わなければな Fig. 6 加速管交換前と交換後の PDD データの重ね合わせおよび 線質指標の比較結果 らないので注意が必要である.Fig. 6 に 10 10 cm 2 および 30 30 cm 2 の PDD 測定データの比較結果を示す. ピーク付近での正規化は, ピーク深の揺れの影響を受ける可能性があるため 10 cm 深で正規化を行い評価した. 線質指標である TPR20,10 を用いて線質評価を行うのが一般的であるが, 重ね合わせた PDD による視覚的評価も重要である. 今回の線質の差は交換前と比較し,10 10 cm 2 および 30 30 cm 2 の照射野ともに 0.6% 程度の変化であり,PDD 形状の乖離も確認されなかった. 4 モニタ線量計の感度校正 1 3の項目を確認後, 加速管交換後のリニアック出力の校正作業を標準水ファントムを用いて行った. 当院では, 月に一度の頻度で定期的にモニタ線量計の感度チェックを行っている. 前月の校正結果を基準として交換後の評価結果を Fig. 7 に示す. 加速管交換直後は, 約 5% の線量低下が確認された. 加速管交換後はやはり大きく出力が変化するため出力評価は絶対に必要である. また, モニタ線量
計の感度調整を行って一週間後に再測定すると1% 程度の線量増加となった. 変動傾向をみるため感度校正を行わずに次週に再測定を行うと, 前週と同様に 1% 程度の線量増加傾向であったため, 二度目の感度校正を実施した. 加速管の交換後は, リニアック出力が不安定である事があるので経時的な出力変動を確認する必要がある. 交換後 3 週目以降は, リニアックの出力は安定する結果となった. Fig. 7 加速管交換後のリニアック出力変動とモニタ線量計の感度校正の頻度 5 IMRT Benchmark test の実施当院では,MapCHECK(Sunnuclear 社製 ) を用いて IMRT の線量分布検証を行っている. その際, 事前に Benchmark test を行い出力系および測定系の不変性の評価を実施している. 今回, 加速管交換後にもこの Benchmark test を行い, 総合的なリニアック出力系が加速管交換前と同等であるかの評価を行った. 当院では, 頭頸部 IMRT の Dynamic MLC 照射パターンを Benchmark に採用しており,3 mm/3 % のγCriteria の評価で 97% 程度の Pass 率を目標としている. 今回, 交換後の pass 率は 96.7% であり問題無い pass 率が得られることを確認した. 5. 過去の QA データを再評価し加速管の故障が予測できたかを検討する. 当院では,TG142 を基に Annual Monthly Daily QA を定期的に実施している. 今回は Annual QA(30 30 cm 2 のプロファイルデータ ),Monthly QA(15 15 cm 2 のプロファイルデータ ),Daily QA (Morning check & Output) の各項目において, 事前に加速管の交換を事前に予測できるような傾向が現れていなかったかどうかについて, レトロスペクティブな解析を行った. Annual QA の測定は,3D 水ファントムを用いた測定である. この測定は年に 1 度の評価であるため, 1 年ごとの測定データを比較しても特に特徴的な傾向を確認することは出来なかった. Monthly QA のプロファイル測定では, 月に 1 度の測定であるため簡易的に QA を行うことを考えた結果, 当院では MapCHECK を用いたプロファイルの評価を行っている. 本来は, ユーザーインターフェースの優れる Profiler2(Sunnuclear 社製 ) の使用が理想的であり, 今後 Monthly QA の Profile 測定の簡略化を検討される施設には Profiler2 の導入を推奨する. 当院では,MapCHECK で測定した X Y 軸のプロファイルデータを,TG142 の計算式に基づいたベースライン評価と JASTRO ガイドラインの対称性の評価の二つの方法を用いて検討している.Fig. 8 に TG142 のベースラインおよび JASTRO ガイドラインの対称性による評価結果を示す.TG142 のベースライン評価では, 故障の数ヶ月前からのデータでは, トレランス値 1.0% を超える値は確認されなかった. しかし,JASTRO ガイドラインの対称性の評価では, 故障の二ヶ月前から Y 軸方向の対称性が急激に悪化していることがグラフより読み取れる. 過去の安定傾向から考えると, この変動は, トレランス値以内であったとしても何らかのアクションを取るべきであったと考える. また, 年に二度のメーカー定期点検がさらに二ヶ月前に終わっていたことも残念な結果であった. 交換後にメーカーにこれらのデータを確認してもらいこの対称性の変動は, 加速管からの水漏れ ( ごく少量の水分の漏出 ) が原因であることが考えられ
るとの回答であった. また, 縦置き型の加速管ということを踏まえると, システマティックな変化が起きてい るということに気づくべきであった. 加速管交換後には, それぞれ安定した値が得られる結果であった. Fig. 8 TG142 のベースラインからの評価および JASTRO ガイドラインの対称性の経時的 Daily QA では,Checkmate2 を使用して, リニアックの始業前点検項目として出力測定を行っている. Daily の出力測定結果と毎月のモニタ線量計校正結果を Fig.9 に示す. 今回, 加速管を交換した 600C は比較的安定した出力特性を持ち, 出力の変動傾向として数ヶ月単位で徐々に増加する傾向であったが, 加速管交換前の 4 ヶ月は減少する傾向がみられた. しかし, 大きな変動ではないため, これらから今回の加速管故障を予測する事は不可能であったと考える. 加速管の交換後 2 週間は値が不安定であったが, その後は安定した値が得られている. また, 始業前点検時の出力とモニタ線量計校正の結果は非常に良い相関を示す結果であった. 加速管交換直後の出力安定性の評価には Checkmate2 を用いた始業前点検は有効であると考えている. 日々の QA データの積み重ねは, 非常に重要な情報源であると共に, 常日頃からグラフ化して視覚的評価を怠らないことが重要である. 6. まとめ 考察今回, 加速管の交換を通して経験したこと学んだことをまとめ報告した. ほとんどの施設で, 加速管交換は数年に一度起きるか起こらないかの故障である. しかし, 故障してしまうと, 治療患者が待機した状態での交換確認作業となってしまうため, 時間との闘いであるといえる. 当院では, プロファイルデータの合わせ込み作業に時間がかかってしまったため, 確認作業には約 10 時間を要した. しかし, 比較的まとまった QA データを参考として合わせ込みを Fig. 9 始業前点検時の出力とモニタ線量計校正結果の経時的変化 行えたため, 作業および手順事態は効率的に行えたと考えている. 過去の QA データにおいて, 対称性における変動を見過ごしていた点が非常に悔やまれるが, この経験を生かし, トレランス以下の値であってもしっかりとデータの示す変化の意味を読み取る事を, 今後は実践したいと考えている.TG142 のベースラインを基本とした考え方は非常に簡便で良い手法であるが, 今回のケースでは加速管の故障のシグナルを事前に読みと取ることは出来なかった. プロファイルの評価において, 平坦度 対称性は非常に重要な factor である. 経時的にデータを簡潔にまとめることが非常に重要であると感じた. また, 定期的な QA を行う事には意味があること, データの解析方法によってその示す意味が変化することをしっかりと理解しなければならない.