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101003S インドネシア語基礎単科セット 入船ゆかり 水曜日 金曜日 インドネシア語基礎の講座を全て受講する場合は セットで申込みをしてください この講座で重視している項目使用言語 A 授業の内容この講座で重視している項目使用言語 インドネシア語初級西脇敦子金曜日初級 A 基礎 Aに

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更新 2019/8/ 年 9 月ウィークリー レッスンスケジュール 1 時間目 11:00-11:50 第 1 週目 9 月 2 日 ~ 9 月 8 日 9 月 2 日 MON 9 月 3 日 TUE 9 月 4 日 WED 9 月 5 日 THU 9 月 6 日 FRI 中級 Shu

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格変化 名詞や形容詞に 主格 属格 対格の区別があります 男子学生 ( 非限定 ) 男子学生 ( 限定 ) 女子学生 ( 非限定 ) 女子学生 ( 限定 ) 主格 u ا لط ال ب ة ط ال ب ة ا لط ال ب ط ال ب 属格 i ا لط ال ب ة ط ال ب ة ا

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習う ということで 教育を受ける側の 意味合いになると思います また 教育者とした場合 その構造は 義 ( 案 ) では この考え方に基づき 教える ことと学ぶことはダイナミックな相互作用 と捉えています 教育する 者 となると思います 看護学教育の定義を これに当てはめると 教授学習過程する者 と

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次は三段論法の例である.1 6 は妥当な推論であり,7, 8 は不妥当な推論である. [1] すべての犬は哺乳動物である. すべてのチワワは犬である. すべてのチワワは哺乳動物である. [3] いかなる喫煙者も声楽家ではない. ある喫煙者は女性である. ある女性は声楽家ではない. [5] ある学生は

063001C スペイン語中級コース 梅崎かほりアイトモレーノイサーク Ait Moreno,Isaac 火曜日 水曜日 金曜日 今期の中級コースでは 様々な過去の表現 直接法未来形 接続法現在形の導入部分ま でを学びます 指定教科書のほかに 各講師が用意する会話練習や講読教材などを利用しな がら

学校番号 2004 平成 29 年度外国語科 教科科目単位数指導学年教材名 副教材名 外国語英語表現基礎 2 第 1 学年 美誠社 ドリルで英文法 啓林館 Vision Quest 総合英語 基本例文集プリント補助教材等 1 担当者からのメッセージ ( 学習方法等 ) 積極的に英語でコミュニケーショ

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学習指導要領解説 P.12 2 内容 (1) 言語活動ア聞くこと ( オ ) まとまりのある英語を聞いて 概要や要点を適切に聞き取ること ( 略 ) ここでは内容的にまとまりのある複数の英文を聞き その全体の概要や内容の要点をとらえることができるようになることを述べている まとまりのある英語 とは

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Part 4 形容詞節

福祉科の指導法 単位数履修方法配当年次 4 R 2 年以上 科目コード EC3704 担当教員佐藤暢芳 ( 上 ) 赤塚俊治 ( 下 ) 2017 年 11 月 20 日までに履修登録し,2019 年 3 月までに単位修得してください 2014 年度までの入学者が履修登録可能です 科目の内容 福祉科

平成 30 年度入学生カリキュラム学科 専攻名国際英語学科 ( グローバルコース ) ミッション ( 育目標 ) 到達目標 到達目標に対応する授業科目 組織のミッション到達目標 ( 綱 ) 到達目標 2( 細 ) 科目区分 科目区分 2 科目区分 3 総合的英語実践 年次から 2 年次春にかけて養っ

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広東語母語話者の促音の知覚と生成 ― 広東語の「入声(にっしょう)」による影響を中心に

[ 基本 1] 次の英文の後ろに [ ] の語句を入れて be going to を使った未来形に転換し それを 和訳しなさい 1. He studies science. [tomorrow morning] 2. You learn judo in Japan. [next year] 3. I

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PowerPoint プレゼンテーション

第 2 問 A インターネット上に掲載された料理レシピやその写真から料理の特徴の読み取りや推測を通じて, 平易な英語で書かれた短い説明文の概要や要点を捉える力や, 情報を事実と意見に整理する力を問う 問 1 6 イラストを参考にしながら, ネット上のレシピを読んで, その料理がどのような場合に向いて

日本語教育学とは何か

自立語と付属語 文法的な面からもう少し詳しく解説します ひとつの文は複数の文節からなります 文 つなみ津波が文節 き来ます文節 そして 文節は自立語だけ あるいは自立語プラス付属語で構成されています つなみ津波 が 自 + 付 き来ます 自 自 自立語 付 付属語 自立語とはその語だけで意味を持ち

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本学級の生徒に, 英語科に関する興味 関心を問うアンケートを実施したところ, 以下のようになった (28 年 9 月実施 ) はいややあまりいいえ英語の授業が好きだ 65% 29% 0% 6% ペア活動に積極的に取り組んでいる 68% 32% 0% 0% グループ活動に積極的に取り組んでいる 70%

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日本語形容詞, 形容動詞との比較による な 付加される英語借用語の語彙範疇化について On the Lexicalization of na -Appended English Loanwords in Comparison with Japanese Adjectives and Adjectiv

Transcription:

45 日本人英語学習者のための教員養成における第二言語 外国語習得論的考察 大山健一 * キーワード : 英語科教育法, 教員養成, 英語学, 第二言語 外国語習得論, 英語教育学 1. 目的 本論文では, 外国語 ( 英語 ) の教員養成において如何にして英語学が必要であるのかを提唱することが目的である この英語学は教諭免許状取得において, 英語音声学, 英文法, 英語史 ( 国際共通語としての英語を含む ) の 3つに分類される しかしながら, ただ単に知識として学ぶだけでは英語科教育法との繋がりが希薄となってしまう よって, その懸け橋となるべきものとしては, 第二言語 外国語習得論が挙げられる 日本人が英語を学ぶ際に注目しなくてはならない点は何であるのか, 英語を教える際に気を付けなければならない点は何であるのか, この 2つの点で理論と実践が成り立てられることを提唱する 2. 英語音声学との関わり まず, 英語音声学との関わりとして, 文字と違って音声は目に見えない ということを認識する必要がある 特に, 内容語 (ContentW ords) と機能語 (FunctionWords) の 2つの概念を熟知するのが良い 前者は文の意味を示す品詞の総称で, 名詞, 動詞, 形容詞, 副詞, 疑問詞, 間投 2017 年 11 月 30 日受付 江戸川大学情報文化学科助教言語学, 外国語教育 詞, 否定詞などを指し, 後者は文の構造を示す品詞の総称で, 代名詞,be 動詞, 助動詞, 冠詞, 前置詞, 接続詞などを指す 前者は辞書通りの発音となるが, 後者はその通りにならないのが普通である つまり, 機能語が発音されないから, または聞き取れないからといって, 意味が分からなくなるということは少ないのである 内容語を明瞭に発音できるようにすることと, 内容語に注目して聞き取りが出来るようにすることが大切である このようなことが英語のリズムとイントネーションに結び付けられているためである 英語科教育法では, 聞き取りにおいては, 穴埋めをする際の機能語を埋めさせるような問題と, ディクテーションをする際の全文を書き取らせる問題は, 意味を成さないことに気付かなければならない 換言すれば, 内容語から文の意味を理解することが重要である 発音においては, 機能語を弱く発音することで, 内容語が際立つことを把握する必要がある 特に, 日本人においては, 母語である日本語に弱く発音するという概念が存在していないため, 理解していても実際に発音できないケースが多く見受けられる しかしながら, 機能語を弱く発音しないで, 内容語をより強く発音することは 経済性の理論 ( 発音のし易さ ) からは不適切である 機能語を強く発音してしまうことは, 強勢 の応用形( 対比強勢や誇張表現など ) に当てはめられ, ある種の特別な意味が

46 付与されてしまい, 文字を超えた情報 が含意されることに注意しなくてはならない よって, まずは, 機能語を弱く発音するという現象である 弱音化 (Weakening) から辞書通りの発音にならないようにするのが望ましいと考えられる 3. 英文法との関わり次に, 英文法との関わりとして, 前後の単語の関係 ということを認識する必要がある 英語学習の初期に学ぶ 文型 において, 日本語での主語 + 目的語 + 述語と違って, 英語では主語 + 述語 + 目的語になることはよく知られている このようなことは狭義的な概念であり, 広義的には, 形容詞は名詞を修飾する, 副詞は名詞以外を修飾する, などの品詞の修飾関係や, 単語は前から修飾する, 句は後ろから修飾する, などの語順の修飾関係などと文中の語配列にまで当てはまる 英語科教育法では, 文法という規則性に合わせるだけでは通じる英語にはならないことに気付く必要がある この文法はあくまでも 1つの文における守備範囲を指している しかしながら, 実生活では,1つの文だけでコミュニケーションは成り立っていることはなく, 複数の文による会話や手紙, 企画書などが常である 複数の文においては,1つの文と次の文との関係が重要視され, 類語 (Thesaurus) と連語 (Colocation) の概念が働き掛けられている 前者は ある語句を別の表現にした語句 のことで, 後者は ある語句による特定化した語句 のことである 類語においては,1つ目の文に Tom があれば, 次の文には Heとなるような呼応関係を指している 元々は 日本語では同じ内容は同じ表現にし, 別の内容は別の表現にする が, 英語では同じ内容は別の表現にし, 別の内容は同じ表現にする ためである 連語においては, する という日本語の意味において,part-timejob では do や work となり,speech では make となり,experiment では carryout になるような呼応関係を指している これら 2つの概念は, 文法的に正しいかどうかに関与されることではなく, 文法の上に存在 する概念 と把握するのが良いと考えられる 4. 英語史との関わり最後に, 英語史との関わりとして, ローマ字表記との関係 ということを認識する必要がある 英語をローマ字読みとしない点に繋がるが, 初期の英語学習において, 多くの壁となり得る事例である 例えば,have と make であれば, カタカナ表記とすると, 前者は ハヴ, 後者は メイク となる では, 何故前者が ハヴ であれば後者は マク にはならないのであろうか, 何故後者が メイク であれば前者は ヘイヴ にはならないのであろうか, という疑問が挙げられることは当然である これらは歴史的な理由であることを知らなくてはならない 古英語から始まり, 中英語, 近代英語, 現代英語へとの変遷において, 元々はローマ字読みをしていたが, 大母音推移 (GreatVowelShift) を代表とする歴史的音変化を通して, ローマ字読みをしない今現在の形に変わったということである そして, 世界の英語 (WorldEnglishes) を代表とする 4つの英語 ( イギリス英語, アメリカ英語, カナダ英語, オーストラリア英語 ) や, アジア英語やアフリカ英語などの 第二言語としての英語 (EnglishasaSecondLanguage) とヨーロッパ英語などの 外国語としての英語 (Englishasa ForeignLanguage) を理解するためにも, 欠くことの出来ない点である 英語科教育法では, 規則性のあるものから学ぶのが良いと考えられる 例えば, 語末の -e は 黙字 (SilentLeter) であることや, 語末の -y は イ と母音になること, などが挙げられる これらと同時に, 英語はローマ字読みをしない という鉄則を初期の学習段階から提示することで, 電子辞書やウェブに頼ることなく, 本来の読み方が可能になると考えられる フォニックス という読み方の規則を法則化したものが存在するが, 例外が多いとの理由から, 初等 中等教育下では教育現場では軽視され続けている しかしながら, 英語を教える上では知っておく必要性はあり, 時

47 にこのフォニックスにより解決できる学習の壁も存在する 換言すれば, フォニックス学習 指導を軸にして, 自分自身に合った学習方法と指導方法を見出すことが良いと思われる 5. 第二言語 外国語習得論の重要性以上, 英語音声学, 英文法, 英語史を英語科教育法から考慮したが, 第二言語 外国語習得論としての要となる理論を理解しておくことが重要である 第二言語 外国語習得論においては, 母語が習得に良い影響または良くない影響を与える 転移 (Transfer), 一般化 ルール化を全てに当てはめようとする 過剰般化 (Overgeneralization), 母語と対象言語の構造距離の相違が習得に影響するという 言語距離 (Language Distance), 習得が易しい普遍的な現象である 無標性 (Unmarkedness), 習得が難しい言語特有な現象である 有標性 (Markedness), などが挙げられる 特に, これら 3つの英語学との関わりにおいては, 言語距離 を把握するのが良い この概念は言語習得論 ( 特に音声 音韻習得論 ) において, その距離が近い ( より似ている ) と習得が容易であるという説 PerceptualAssimilationModel (PAM)(Best1995) がある 他方, その距離が遠い ( より似ていない ) と習得が容易であるという説 SpeechLearningModel(SLM)(Flege 1995) がある 具体的には, 日本人が英語の [l] よりも [r] の習得が困難であった場合, 日本語のラ行音は [l] よりも [r] の方が遠いという理由になる 同時に, この 言語距離 は 距離が近いから習得が容易である 距離が近いから習得が困難である 距離が遠いから習得が容易である 距離が遠いから習得が困難である という 4つの視点を与えてくれる 換言すれば, 1+1=2 という数学的な考え方ではなく, 学習 指導の内容や方法などによって, 全てが可変するということを示唆している ここに英語学と英語科教育法の懸け橋となる機能が存在していると考えられるの 6. 結論 以上のように,3つの英語学( 英語音声学, 英文法, 英語史 ) を英語科教育法との繋がりとして第二言語 外国語習得論の重要性を論じてきた 外国語 ( 英語 ) 教諭免許状取得において, 平成 30 年度以降, 本格的に始動する新学習指導要領に向けた文部科学省の コア科目 の 1つとして位置付けられていることからも, 上記の意義に気付き, 指導できるようにしなくてはならない PAM, SLM,MFH などの枠組みから, 教員養成における英語科教育法 ( 音声教育では大山 (2016) など ) で英語学の理論と実践を基にして, 今日の英語教育下で, 日本人が英語を学ぶ際に注目しなくてはならない点は何であるのか, 英語を教える際に気を付けなければならない点は何であるのかという今後の英語教育学への寄与に貢献できると考えられる 参考文献 ではないだろうか 1+1=2 という数学的な考え方ではない点は, 目に見えない音声 を知覚する際に必要不可欠である 連接 (Juncture) という音声現象を基にした音声 音韻習得論では, 有標素性仮説 (MarkednessandFeatureHypothesis: MFH)( 大山 2015) が導き出された この仮説は MarkednessDiferentialHypothesis(MDH) (Eckman 1977) と FeatureHypothesis(FH) (McA listeretal.2002) の合わせた理論的枠組みで,1つひとつの音声現象に注目する 横の習得構造 と複数音声現象に注目する 縦の習得構造 を考慮したものであり, 英語学と第二言語 外国語習得論とを繋ぐための 1つとなり得ると考えられる Best,C.T.(1995).ADirectRealisticViewofCross- Language Speech Perception.Strange,W. (ed.).speechperceptionandlinguisticexperience.timonium,md:yorkpress.171 204. Eckman,F.R.(1977). Markedness and the

48 contrastive analysis hypothesis. Language Learning,27,2,315 330. Flege,J.E.(1995).Second-languagespeechlearning.Strange,W.(ed.).SpeechPerceptionand LinguisticExperience. Timonium,MD:York Press.233 277. McA lister,r.,flege.j.e.andpiske,t.(2002).the influenceofl1ontheacquisitionofswedish quantitybynativespeakersofspanish,englishandestonian. JournalofPhonetics,30, 229 258. 大山健一.(2015). 連接 の三項目比較研究. 創設 30 周年記念フォーラム, 大東文化大学語学教育研究所,30,185 197. 大山健一.(2016). 英語音声学における音声教育の難易度. 英文学思潮, 青山学院大学英文学会,89, 1 8.

49 SignificanceofEnglishLinguisticswith MethodsinTeachingEnglish: SecondandForeignLanguageAcquisitionConsideration toteachertrainingforjapaneselearnersofenglish KenichiOhyama Abstract ThispaperproposeshowEnglishlinguisticsisnecessaryintermsofteachertraining.Accordingtothe trainingcurriculum injapan,thelinguisticshasbeentreatedasthreeaspects:phonetics,grammarand history.thesethreelinguisticfactors,however,arenotpreciselylinkinginmethodsinteachingenglish, focusingonlyonlearningtheknowledge.therelationshipbetweenthemisregardedassecondandforeign languageacquisition.whenjapanesepeoplestudyenglish,thetheorycanhelpthem whatkindsofpoints aresignificanttolearnandteach.theconsiderationcanbeasortofreferencestoteachertrainingforboth studentsandteachers. Keywords:MethodsinTeachingEnglish,TeacherTraining,EnglishLinguistics,SecondandForeignLanguageAcquisition,EnglishEducation