Microsoft Word - 第14回定例会_金納様_final.doc

Similar documents
Microsoft Word - 第14回定例会_平田様_final .doc

ピルシカイニド塩酸塩カプセル 50mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにピルジカイニド塩酸塩水和物は Vaughan Williams らの分類のクラスⅠCに属し 心筋の Na チャンネル抑制作用により抗不整脈作用を示す また 消化管から速やかに

ICHシンポジウム2013 E14

3. 安全性本治験において治験薬が投与された 48 例中 1 例 (14 件 ) に有害事象が認められた いずれの有害事象も治験薬との関連性は あり と判定されたが いずれも軽度 で処置の必要はなく 追跡検査で回復を確認した また 死亡 その他の重篤な有害事象が認められなか ったことから 安全性に問

あった AUCtはで ± ng hr/ml で ± ng hr/ml であった 2. バイオアベイラビリティの比較およびの薬物動態パラメータにおける分散分析の結果を Table 4 に示した また 得られた AUCtおよび Cmaxについてとの対数値

スライド 1

シプロフロキサシン錠 100mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにシプロフロキサシン塩酸塩は グラム陽性菌 ( ブドウ球菌 レンサ球菌など ) や緑膿菌を含むグラム陰性菌 ( 大腸菌 肺炎球菌など ) に強い抗菌力を示すように広い抗菌スペクトルを

ロペラミド塩酸塩カプセル 1mg TCK の生物学的同等性試験 バイオアベイラビリティの比較 辰巳化学株式会社 はじめにロペラミド塩酸塩は 腸管に選択的に作用して 腸管蠕動運動を抑制し また腸管内の水分 電解質の分泌を抑制して吸収を促進することにより下痢症に効果を示す止瀉剤である ロペミン カプセル

ータについては Table 3 に示した 両製剤とも投与後血漿中ロスバスタチン濃度が上昇し 試験製剤で 4.7±.7 時間 標準製剤で 4.6±1. 時間に Tmaxに達した また Cmaxは試験製剤で 6.3±3.13 標準製剤で 6.8±2.49 であった AUCt は試験製剤で 62.24±2

第122号.indd

オクノベル錠 150 mg オクノベル錠 300 mg オクノベル内用懸濁液 6% 2.1 第 2 部目次 ノーベルファーマ株式会社

生殖発生毒性試験の実施時期について

テイカ製薬株式会社 社内資料

E14 Discussion Group の経緯 (ICH 福岡会合以前 ) (1) 2005 年 5 月 ICH Brussels にて E14 ガイドライン Step4 合意 - Q&A 対応のため Implementation Working Group (IWG) 設立

別添 問 1 E14 ガイドラインは分析感度 (assay sensitivity) の重要性を強調し 陽性対照の使用を奨励している QT/QTc 評価試験 (thorough QT/QTc study) が陰性であることを容認するためには 試験において QT 延長効果が知られている陽性対照を用いる

記載データ一覧 品目名 製造販売業者 BE 品質再評価 1 マグミット錠 250mg 協和化学工業 2 酸化マグネシウム錠 250mg TX みらいファーマ 3 酸化マグネシウム錠 250mg モチダ 持田製薬販売 # 4 酸化マグネシウム錠 250mg マイラン マイラン製薬 # 5 酸化マグネシ

H


1

タペンタ 錠 25mg タペンタ 錠 50mg タペンタ 錠 100mg に係る 販売名 タペンタ 錠 25mg タペンタ 錠 50mg 医薬品リスク管理計画書 (RMP) の概要 有効成分 タペンタ 錠 100mg 製造販売業者 ヤンセンファーマ株式会社 薬効分類 821 提出年月 平成 30 年

st 202nd 203rd 204th 205th 206th 207th 208th

<4D F736F F F696E74202D2097D58FB08E8E8CB1838F815B834E F197D58FB E96D8816A66696E616C CF68A4A2E >

解析センターを知っていただく キャンペーン

PR映画-1

- 2 -


II III I ~ 2 ~

中堅中小企業向け秘密保持マニュアル



1 (1) (2)

スライド 1

試験デザイン :n=152 試験開始前に第 VIII 因子製剤による出血時止血療法を受けていた患者群を 以下のい ずれかの群に 2:2:1 でランダム化 A 群 (n=36) (n=35) C 群 (n=18) ヘムライブラ 3 mg/kg を週 1 回 4 週間定期投与し その後 1.5 mg/k


一般薬理試験及び毒性試験 2. 毒性試験 (1) 単回投与毒性試験 ( マウス イヌ サル ) 33) 動物種 投与経路 投与量 (mg/kg) 概略の致死量 (mg/kg) マウス 経口 2000 雌雄 :>2000 腹腔内 300 雌雄 :300 経口 750 雌雄 :>750 腹腔内 500

資料4-4 木酢液の検討状況について

PowerPoint プレゼンテーション

PowerPoint プレゼンテーション

< F2D816995BD90AC E30398C8E303493FA88EA959489FC90B3>

グルコースは膵 β 細胞内に糖輸送担体を介して取り込まれて代謝され A T P が産生される その結果 A T P 感受性 K チャンネルの閉鎖 細胞膜の脱分極 電位依存性 Caチャンネルの開口 細胞内 Ca 2+ 濃度の上昇が起こり インスリンが分泌される これをインスリン分泌の惹起経路と呼ぶ イ

大学院博士課程共通科目ベーシックプログラム

スライド タイトルなし

2.6.1 緒言 目次 略語 略号一覧 非臨床試験の概要文及び概要表 緒言 名称及び化学構造式 カナグリフロジン水和物の薬理作用 予定する効能 効果 予定す

(3) 摂取する上での注意事項 ( 該当するものがあれば記載 ) 機能性関与成分と医薬品との相互作用に関する情報を国立健康 栄養研究所 健康食品 有効性 安全性データベース 城西大学食品 医薬品相互作用データベース CiNii Articles で検索しました その結果 検索した範囲内では 相互作用

微小粒子状物質曝露影響調査報告書

Microsoft Word - 01マニュアル・入稿原稿p1-112.doc

ン (LVFX) 耐性で シタフロキサシン (STFX) 耐性は1% 以下です また セフカペン (CFPN) およびセフジニル (CFDN) 耐性は 約 6% と耐性率は低い結果でした K. pneumoniae については 全ての薬剤に耐性はほとんどありませんが 腸球菌に対して 第 3 世代セフ

別添 治験副作用等症例の定期報告に関する質疑応答集 (Q&A) について < 半年ごとの定期報告の受け付け> Q1 平成 26 年 6 月 30 日までの間は 治験依頼者 ( 自ら治験を実施する者を除く ) が提出する副作用等症例の定期報告は なお従前の例によることができる とあるが 平成 26 年

日本標準商品分類番号 カリジノゲナーゼの血管新生抑制作用 カリジノゲナーゼは強力な血管拡張物質であるキニンを遊離することにより 高血圧や末梢循環障害の治療に広く用いられてきた 最近では 糖尿病モデルラットにおいて増加する眼内液中 VEGF 濃度を低下させることにより 血管透過性を抑制す

<4D F736F F F696E74202D204D C982E682E892B290AE82B582BD838A E8DB782CC904D978A8BE68AD482C98AD682B782E988EA8D6C8E402E >

これまでの検討経緯 2014 年 6 月 E17 EWG 設立 2014 年 11 月第 1 回対面会合 ( リスボン ) 2015 年 6 月第 2 回対面会合 ( 福岡 ) 2015 年 12 月第 3 回対面会合 ( ジャクソンビル ) 2016 年 5 月 -6 月 エクスパートによるサイン

3年次後期 専門科目群Ⅰ (必修科目) 2単位                  臨床薬理学          10回目


(別添様式)

スライド 1

2

症例報告書の記入における注意点 1 必須ではない項目 データ 斜線を引くこと 未取得 / 未測定の項目 2 血圧平均値 小数点以下は切り捨てとする 3 治験薬服薬状況 前回来院 今回来院までの服薬状況を記載する服薬無しの場合は 1 日投与量を 0 錠 とし 0 錠となった日付を特定すること < 演習

を評価し 治療効果を指標に用いる課題を明らかにした 次に第二部では 第一部で明らかにした知見を踏まえ 新規に開発した抗 HIV 治療薬の PK/PD を考慮し 臨床効果の同等性を評価するバイオマーカーとして血中濃度を選択し 臨床試験のデザイン及び適切な統計手法に基づく評価法を構築した 更に第三部では

<4D F736F F F696E74202D E48FE A92C789C192CA926D82C982C282A282C45F696E6F75652E >

Page 2 略語一覧表 略語 英語名 和名 ATP adenosine triphosphate アデノシン三リン酸 APD 50 action potential duration at 50% 50% 活動電位持続時間 repolarization APD 90 action potentia

Microsoft Word _2180AMY10104_K104_1.doc

PowerPoint プレゼンテーション

トピロリック錠 インタビューフォーム

2. 新ガイドラインの要点 ⑴ 新ガイドラインは 旧ガイドラインの内容を第 1 部とし 今般 ICH において合意された内容を第 2 部 ( 補遺 ) としたこと ⑵ 第 1 部については 現時点において標準的に使用される用語等を踏まえ 記載整備を行ったこと ⑶ 第 2 部については 動物実験の 3

Microsoft Word _前立腺がん統計解析資料.docx

抗菌薬の殺菌作用抗菌薬の殺菌作用には濃度依存性と時間依存性の 2 種類があり 抗菌薬の効果および用法 用量の設定に大きな影響を与えます 濃度依存性タイプでは 濃度を高めると濃度依存的に殺菌作用を示します 濃度依存性タイプの抗菌薬としては キノロン系薬やアミノ配糖体系薬が挙げられます 一方 時間依存性

Microsoft Word _肺がん統計解析資料.docx

本日の講演内容 1. PMDA コンパニオン診断薬 WG 2. 本邦におけるコンパニオン診断薬の規制 3. 遺伝子パネルを用いた NGS コンパニオン診断システム 1 2 規制上の取扱い 評価の考え方 2

.V...z.\

201604_建築総合_2_架橋ポリ-ポリブテン_cs6.indd

I II III 28 29

Medical3

2015 年 11 月 5 日 乳酸菌発酵果汁飲料の継続摂取がアトピー性皮膚炎症状を改善 株式会社ヤクルト本社 ( 社長根岸孝成 ) では アトピー性皮膚炎患者を対象に 乳酸菌 ラクトバチルスプランタルム YIT 0132 ( 以下 乳酸菌 LP0132) を含む発酵果汁飲料 ( 以下 乳酸菌発酵果

III 医療事故情報等分析作業の現況 (2) ガベキサートメシル酸塩の製品平成 21 年 12 月現在薬価収載品目は以下の通りである アガリット静注用 100mg アロデート注射用 100mg アロデート注射用 500mg 注射用エフオーワイ100 注射用エフオーワイ500 ソクシドン注 注射用パナ

Microsoft Word - 日本語要約_4000字_.docx

生活設計レジメ

Microsoft PowerPoint - R-stat-intro_12.ppt [互換モード]

日本内科学会雑誌第98巻第12号

44 4 I (1) ( ) (10 15 ) ( 17 ) ( 3 1 ) (2)

Microsoft PowerPoint - hiei_MasterThesis

九州大学病院の遺伝子治療臨床研究実施計画(慢性重症虚血肢(閉塞

D961H は AstraZeneca R&D Mӧlndal( スウェーデン ) において開発された オメプラゾールの一方の光学異性体 (S- 体 ) のみを含有するプロトンポンプ阻害剤である ネキシウム (D961H の日本における販売名 ) 錠 20 mg 及び 40 mg は を対象として

Autodesk Inventor Skill Builders Autodesk Inventor 2010 構造解析の精度改良 メッシュリファインメントによる収束計算 予想作業時間:15 分 対象のバージョン:Inventor 2010 もしくはそれ以降のバージョン シミュレーションを設定する際

後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン


岩手医科大学医学部及び附属病院における人を対象とする医学系研究に係るモニタリング及び監査の実施に関する標準業務手順書 岩手医科大学医学部及び附属病院における 人を対象とする医学系研究に係る モニタリング及び監査の実施に関する標準業務手順書 岩手医科大学 第 1.0 版平成 29 年 10 月 1 日

u u u 1 1

2.0 概要 治験情報 : 治験依頼者名 : 武田薬品工業株式会社 (TPC) 大阪市中央区道修町四丁目 1 番 1 号 治験課題名 : びらん性食道炎の患者を対象にした TAK-438 の 20 mg を 1 日 1 回経口投与したときの有効性及び安全性を 1 日 1 回経口投与

医療機器開発マネジメントにおけるチェック項目

日心TWS

EBNと疫学

表紙_02




野岩鉄道の旅

医薬品の基礎研究から承認審査 市販後までの主なプロセス 基礎研究 非臨床試験 動物試験等 品質の評価安全性の評価有効性の評価 候補物質の合成方法等を確立 最適な剤型の設計 一定の品質を確保するための規格及び試験方法などの確立 有効期間等の設定 ( 長期安定性試験など ) 医薬品候補物質のスクリーニン

<4D F736F F F696E74202D A975E82C982E682E992E188DD8E5F94ED8CB18ED282F096CD82B582BD97D58FB08E8E8CB18FF08C8F82CC8D5C927A2E707074>

骨粗しょう症調査

薬食審査発第 号平成 19 年 9 月 28 日 各都道府県衛生主管部 ( 局 ) 長殿 厚生労働省医薬食品局審査管理課長 国際共同治験に関する基本的考え方について 従来 我が国においては ICH-E5 ガイドラインに基づく 外国臨床データを受け入れる際に考慮すべき民族的要因について

Transcription:

クロスオーバー実験のデザインと解析 - テレメトリー法による QT/QTc 試験の実データを用いた検討 - I. テレメトリー法による QT/QTc 試験について 1) イヌを用いたテレメトリー QT/QTc 試験の実際 金納明宏 薬理統計グループ安全性薬理チーム 要約 : 医薬品開発の非臨床試験で, 安全性薬理試験の QT/QTc 延長を評価する in vivo テレメトリー試験は, ヒトでの不整脈発現を評価する上で非常に重要な試験である. 近年, 機器の性能向上によるデータ量の増大などもあり, 試験方法や解析の標準化が望まれている. 今回, イヌを用いたテレメトリー試験の試験デザイン及び解析方法について検討を行ったので, その概要を説明する. 試験デザインとして, 日本で汎用されている, ある処置の前後の処置にはすべて異なる処置が入るバランスのとれた Williams ラテン方格法および対照群から高用量群に漸増する用量漸増法に加え, 低用量から漸増するが, 部分的に対照群との 2 2 のクロスオーバーになるようデザインされた Peace 用量漸増法を取り上げた. 被験薬として, ヒトで QT/QTc 延長が報告され, 陽性対照薬となっているモキシフロキサシンを用い, 用量反応性と影響量を検討するため, 溶媒群と 3,10,30 mg/kg 投与群の 4 群を設定した. 動物は, 個体差を除くため, すべてのデザインについて同一のビーグル犬を各群に 1 頭使用した. 検討項目は, 体温, 血圧, 心拍数, 心電図で, それぞれ 1 分ごとの平均値で測定した. キーワード : 安全性薬理試験, テレメトリー試験,QT/QTc,Williams ラテン方格法,Peace 用量漸増法, 用量漸増法 目次 1. 試験の必要性 ----------------------------------------------------------- 3 2. 現在の代表的な試験の概要と試験デザイン ----------------------- 4 3. テレメトリー試験の現状と動向 ---------------------------------------- 5 4. 実験の目的 -------------------------------------------------------------- 7 5. 実験の概要 -------------------------------------------------------------- 8 6. 実験デザイン ------------------------------------------------------------ 9 1

イヌを用いたテレメトリー QT/QTc 試験の実際 薬理統計グループ安全性薬理チーム金納金納明宏明宏 医薬品開発における非臨床試験において, 安全性薬理試験は必須の試験の一つである. その中でも心血管系の QT/QTc 延長を評価する in vivo テレメトリー試験は, ヒトにおける不整脈死を回避するために非常に重要な試験である. 今回は, 非臨床安全性薬理試験で実施しているイヌを用いたテレメトリー QT/QTc 試験がどのように実施されているか紹介する. 第 14 回医薬安全性研究会定例会第 14 回医薬安全性研究会定例会 1 1 発表の構成 1. 試験の必要性 2. 現在の代表的な試験の概要と試験デザイン 3. テレメトリー試験の現状と動向 4. 実験の目的 5. 実験の概要 6. 実験デザイン (A) Williamsラテン方格法 (B) Peace 用量漸増法 (C) 用量漸増法 2 第 14 回医薬安全性研究会定例会 2 発表の構成は,1. 試験の必要性,2. 現在の代表的な試験の概要と試験デザイン,3. テレメトリー試験の現状と動向,4. 実験の目的,5. 実験の概要,6. 実験のデザイン, と現在我々が実施している代表的な実験の概要を説明する. 2

試験の必要性 ICH S7B ガイドラインヒト用医薬品の心室再分極遅延 (QT 間隔延長 ) の潜在的可能性に関する非臨床的評価 覚醒下あるいは麻酔下動物において心電図パラメータ (QT 間隔など心室再分極の指標 ) を測定 第 14 回医薬安全性研究会定例会 3 まず,QT 延長を評価する in vivo テレメトリー試験の位置づけは, 安全性薬理試験 ICH-S7B ガイドライン ヒト用医薬品の心室再分極遅延 (QT 間隔延長 ) の潜在的可能性に関する非臨床的評価 の中に記載されているように,in vitro I Kr 測定 (herg 試験 ) と並んで実施する In Vivo QT 測定 試験となる. 3

現在の代表的な実験の概要 被験物質 (0, L, M, H), 1W 間隔で投与 体温, 血圧, 心拍数, 心電図など 投与前 2 時間 ~ 投与後 24 時間計 26 時間データ取得 データ解析時点 : 投与前, 0.5, 1, 2, 4, 6, 24 時間 9:00 11:00 17:00 18:00 6:00 11:00-2 h 0 6 h 18 h 24 h 投与 給餌 消灯 点灯 第 14 回医薬安全性研究会定例会 4 現在, 日本で実施されている代表的な実験の概要を示す. 試験群は, 被験物質 0( 対照群 ),L ( 低用量 ),M( 中用量 ),H( 高用量 ) の 4 群で構成し,4 頭の動物に 1 週間間隔で繰り返し投与する実験である. 測定項目は, 体温, 血圧, 心拍数, 心電図などで, 測定時間は, 投与前 2 時間から投与後 24 時間の計 26 時間で連続して波形データを取得する. こうして得られた 26 時間の波形の中から, 解析時点を決め, その時点のデータとして数値化する. また, 測定中のイベントは図の通りで, 朝 9 時から測定を開始し, 投与を 11 時, 給餌は 6 時間の解析時点終了後,18 時には照明の消灯, 朝 6 時に照明の点灯, そのまま 24 時間で一回の投与, 測定が終了する. 4

代表的な試験デザイン 2 種類の試験デザイン ID Williams ラテン方格法 1st 2nd 3rd 4th ID 用量漸増法 1st 2nd 3rd 4th 1 0 L M H 2 L H 0 M 3 M 0 H L 4 H M L 0 1 0 L M H 2 0 L M H 3 0 L M H 4 0 L M H 第 14 回医薬安全性研究会定例会 5 テレメトリー試験には,2 種類の代表的な試験デザインがあり, 一つは Williams ラテン方格法であり, 実験の都度各群バラバラに実施していく方法で, 非常にバランスのとれた方法である. もう一つは用量漸増法で, 低用量から順に投与していく方法であり, 高用量の影響が強く出ることが予想される場合などに選択する方法である. テレメトリー試験の現状 ガイドラインはあるが, 詳細は規定されていない データ解析方法, 統計解析方法など各社各様 特にデータ解析は, テレメトリー機器の性能に依存 結果に影響する因子についての検討が不十分 常に同じ条件で同様の結果が得られることが前提 専門家による恣意的なデータの選択 解析 第 14 回医薬安全性研究会定例会 6 次に, テレメトリー試験の現状を示す. データ解析方法や統計解析方法などが各社各様で, 特にデータ解析は, テレメトリー機器の性能にも大きく依存している. また, 解析時点のデータの選択や解析方法は, 専門家の判断により実施している. さらに, 用量漸増法のように時期効果の影響が出る試験デザインが汎用されている. 5

近年のテレメトリー試験の動向 試験方法や解析の標準化 常に違う条件で違う結果が得られることを前提 専門家によるデータの選択 妥当性の確認 試験デザイン ( 用量漸増法 ) の見直し 混入する誤差を減らし, 効率よく解析でき, かつ実施が容易で 動物にも安全なデザイン テレメトリー機器の性能が向上したことにより, 連続的に大量データの入手でき, 自動解析が可能 超多時点の経時デ - タでの適切な代表値の作成, 欠測値への対処などの取り扱い方法 第 14 回医薬安全性研究会定例会 7 近年のテレメトリー試験では, テレメトリーの機器性能の向上により連続的に大量データが入手でき, あらかじめ設定したロジックに従って自動解析が可能になっている. この進歩によって, 従来考慮する必要がなかった超多時点の経時データでの適切な代表値の作成や新たな試験デザインや大量データの解析などが可能となってきたことから, 適切な試験デザインと解析方法などの検討が可能となった. 6

実験の目的 用量漸増法のように実施が容易で, 動物にも安全で,Williams ラテン方格法のように混入する誤差を減らす事ができ, 統計学的に優れる試験デザインは? 超多時点の経時デ - タ大量の最適な評価方法は? 同一個体を用いて 3 種類の異なるデザインで実験を行い, 大量デ - タのまとめ方とデザインを考慮した解析について, 比較検討 8 第 14 回医薬安全性研究会定例会 8 このような背景から, 統計学的に優れたデザインは何か, 超多時点の経時データの最適な評価法は何か, それに合った統計解析は何か, などの課題を検討するため, 同一個体で 3 種類の異なるデザインで実際に実験を実施した. 7

実験の概要 ビーグル犬 4 頭 Moxifloxacin(0, 3, 10, 30 mg/kg), p.o. 3 種の試験デザイン 体温, 血圧, 心拍数, 心電図 (PR, QRS, QTc) 投与前 2 時間 ~ 投与後 24 時間計 26 時間 全波形解析 (1 分毎の平均値 :1560 ポイント ) 9:00 11:00 17:00 18:00 6:00 11:00-2 h 0 6 h 18 h 24 h 投与 給餌 消灯 点灯 第 14 回医薬安全性研究会定例会 9 今回の実験の概要である. ビーグル犬 4 頭を用いて, 投与物質には先行論文を参考に QT/QTc 延長陽性薬のモキシフロキサシン 0,3,10 および 30 mg/kg の経口投与を選択した. 試験デザインは, 汎用されている Williams ラテン方格法および用量漸増法に加えて,Peace 用量漸増法の三法を選択した. 測定項目は, テレメトリー試験で一般的に測定される体温, 血圧, 心拍数, 心電図とした. データは, 投与前 2 時間から投与後 24 時間の取得した 26 時間分すべて (1 分間の平均値として解析, 全 1560 ポイント ) を解析した. 照明は 6 時 ~18 時の 12 時間を点灯時間とし, 給餌は投与後 6 時間の終了後に実施した. 8

実験デザイン 3 種類の試験デザイン ID Williams ラテン方格法 Peace 用量漸増法用量漸増法 1st 2nd 3rd 4th 1st 2nd 3rd 4th 1st 2nd 3rd 4th 1 0 3 10 30 0 3 10 30 0 3 10 30 2 3 30 0 10 3 0 10 30 0 3 10 30 3 10 0 30 3 3 10 0 30 0 3 10 30 4 30 10 3 0 3 10 30 0 0 3 10 30 第 14 回医薬安全性研究会定例会 10 次に試験デザインを示す.Williams ラテン方格法を最初に実施し, 次に Peace 用量漸増法, 最後に用量漸増法を実施した. それぞれの投与後の休薬期間は 3~4 日間とし, すべて同一動物で実施した. 9

(A)Williams ラテン方格法 ラテン方格クロスオーバーデザインのひとつ ある処置の後の処置はすべて異なる処置 ある処置の前の処置はすべて異なる処置 ID Williams ラテン方格法 1st 2nd 3rd 4th 1 0 3 10 30 2 3 30 0 10 3 10 0 30 3 11 第 14 回医薬安全性研究会定例会 4 30 10 3 0 それぞれの試験デザインの特徴を確認する. まず,Williams ラテン方格法である.Williams ラテン方格法は, ラテン方格クロスオーバーデザインの一つで, ある処置の前後の処置にはすべて異なる処置が入るバランスのとれたデザインである. その一方で, 毎回全濃度の調製と異なる用量の処置が必要で, 実験の途中で微妙な結果の解釈を判断しづらく ( 例数が増えないとわからない ), 追加実験の計画が立てづらく, 予想に反して高用量で強い作用が出たときに対処が難しいなど, 実際に利用するとなると問題点も多く, 実験者泣かせのデザインである. 10

(B)Peace 用量漸増法 低用量からの漸増法で, どこかにコントロールが入る 部分的にコントロールとの 2 2 クロスオーバーデザイン ID Peace 用量漸増法 1st 2nd 3rd 4th 1 0 3 10 30 2 3 0 10 30 3 3 10 0 30 12 第 14 回医薬安全性研究会定例会 4 3 10 30 0 次に Peace の用量漸増法である. 低用量からの漸増法で, どこかにコントロールが入るデザインで, 部分的にコントロールとの 2 2 のクロスオーバーデザインが入るデザインである. このデザインは, 臨床試験において, 高用量での不測の事態を回避するために利用されているが, 安全性薬理研究者の中ではほとんど知られていない. 実験者からすると,Williams ラテン方格法と比べて, 予想に反した影響があった場合などに対応しやすいデザインである. 単純な用量漸増法と比較して手間は増えるが,Williams ラテン方格法よりは現場で受け入れやすいと考えられる. 今後本方法が広く使われるようになった場合, どのような利点や限界があるか確認するため, 今回の検討に含めた. 11

(C) 用量漸増法 すべての動物で, コントロール 低用量 中用量 高用量と漸増していく 各時期の処置は同じなのである時期に異常なことが起こっても, すべてそのときの処置に起因したことになる ID 用量漸増法 1st 2nd 3rd 4th 1 0 3 10 30 2 0 3 10 30 3 0 3 10 30 13 第 14 回医薬安全性研究会定例会 4 0 3 10 30 最後に用量漸増法は, すべての動物で, コントロール, 低用量, 中用量, 高用量と漸増していくデザインである. 各時期に同一用量の処置を行うため, 異常が起こったときの解釈がすべてその時の処置に起因したことになる. その一方で,Williams ラテン方格法と違って,1 用量の調製と処置で済むうえ, 用量ごとの結果はすぐに判断できるため追加実験の計画が立てやすく, 予想に反した影響に対処しやすいなど, 安全性薬理研究者に長く親しまれているデザインである. 12

最後に 今回の実験で得られたデータの解析は, 引き続き板東さんお願いします. ご清聴ありがとうございました. 第 14 回医薬安全性研究会定例会 14 以上が今回実施した実験の概要である. 実際の実験データの詳細な解析等については, 以下の資料にまとめられている. クロスオーバー実験のデザインと解析 -テレメトリー法による QT/QTc 試験の実データを用いた検討 - 薬理統計グループ安全性薬理チーム I. テレメトリー法による QT/QTc 試験について 2) 超多時点経時データの統計解析板東正博 II. クロスオーバー実験の統計解析 3) クロスオーバー実験での群間比較の実際福島慎二 4) 有意差検定と信頼区間方式の解析の比較平田篤由 III. クロスオーバー実験で想定される問題点について 5) 試験デザインと統計解析法に関するシミュレーション検討橋本敏夫 13